心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その24)

前回(id:kokekokko:20060116)のつづき。
ひきつづき、連合審査会での質疑です。
【山井委員質疑】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(同)
○山本委員長 次に、山井和則君。
○山井委員 久しぶりにこの法案の審議となりました。
 先ほど水島議員からも御指摘がありましたように、通常国会での御答弁というのは非常に意味がわからなかった。そのことで今回修正案を出されてきたようでありますが、ぜひとも明快な答弁をお願いしたいと思います。
 本日、十二ページに及ぶ資料をお配りさせていただきました。主に坂口大臣にお伺いしたいと思います。塩崎議員、また森山大臣にもお聞きする面もあるかと思いますが、この資料を見て、またいろいろ御答弁をいただければと思っております。
 まず冒頭、通常国会での私の質問から入らせていただきます。
 通常国会での質問の中で、森山大臣からの答弁で、この法案は池田小学校事件の宅間容疑者を対象としない、そういう御答弁をいただきました。そして、そのことについて、小泉首相も恐らく御存じであろうということをおっしゃっておられました。というのは、この法案の議論は、そもそも池田小学校事件の際に、小泉首相が、こういう精神医療に不備があるのではないかということをおっしゃったことがきっかけになっているわけであります。
 そのとき森山大臣にお願いしましたのは、ぜひとももう一度、小泉首相が、この法案は池田小学校事件は対象にならないということを御存じなのか、そしてそのことに関してどういう感想、意見を持っていられるか聞いていただきたいということをお願いして、大臣から、そうしましょうという御答弁をいただいたわけですが、そのことについて、小泉首相の御意見、お伺いしたいと思います。
○森山国務大臣 先生からのお話がございましたことを小泉首相にもお伝えいたしました。
 前にも申しましたけれども、もともと総理は特定の事件を対象として発言されたのではございませんで、池田小学校の事件をきっかけに、一般論として、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因する不幸な事態を繰り返さないように、そのための対策が必要であるという趣旨を述べられたものでございますから、特段のコメントは改めてはございませんでした。
 なお、御指摘の事件につきましては、現在公判係属中でございまして、責任能力の点も含め、最終的には裁判所によって判断されることになるわけでございますので、その点は御理解をいただきたいと存じます。
○山井委員 二点、納得できない点があります。
 一つは、特定の事件に対して発言したんではないということですが、これは明らかに池田小学校事件に対するコメントを求められて、マスコミに対して発せられた発言であります。それを今になって特定の事件は関係ないと言うのは、余りにも無責任じゃないか。この法案の審議の一つのスタートなわけですから、そこは根本的におかしいと私は思います。
 もう一点は、特段のコメントはないと。総理の言葉がきっかけでこういう審議が始まって、通常国会で継続審議になって、今回仕切り直してもう一回やろうというのに、コメントがないというのはどういう意味ですか。もう一度お願いします。ないというのはどういう意味なんですか。
○森山国務大臣 先ほど修正案の提案者からも水島議員の御質問に対するお答えがございましたが、その中にありましたように、この種の問題は、大分前からいろいろなところで議論をされてき、さまざまな研究や調査が行われまして、何とかしなければならないという問題意識があったのでございます。
 もう大分前からそのような意識がありましたところへ、たまたま昨年池田小学校の事件が起きまして、特に注目を浴び、このような精神障害のために深刻な犯罪を犯すというようなことが起こった場合にはどうするんだろうかという問題意識が一般的に大きく広くなりまして、そのことについてこの際よく考えて対策を講ずるべきだということを総理がおっしゃったわけでございますので、それは……(山井委員「なぜコメントがないのかと聞いているんです」と呼ぶ)はい。そのようなわけでございますので、池田小学校の事件とこれは直接は具体的に関係はございませんし、先生の御意見、お話をお伝えいたしましたけれども、そういうことで今法案の審議の最中でございますということを申し上げて、ああそうですかということでございました。
○山井委員 ああそうですかじゃないでしょう、重要な法案なんですから。やる気があるならやる気があると、そして、そんなはずじゃなかったんならそんなはずじゃなかったと。首相のリーダーシップで、それがきっかけでこれは始まっている法案なんですからね。そこはしっかりしていただきたいと思います。
 今回、修正ということでありますが、塩崎議員にお伺いしたいと思います。
 今回、先ほどの水島議員に対する答弁を聞いておりますと、これは、四十二条の修正によって範囲は狭くなったということなんですけれども、範囲がより限定されたということですね。それでは、限定的になったならば、もともとの政府案では対象になっていたのにこの修正案では対象にならなかったケースというのはどんなケースか、具体的にお答えください。
○塩崎委員 さきの国会の審議の中で、あるいは私ども地元で精神医療に携わっているさまざまな方々と話をしたときにやはり問題になったのは、例の「再び対象行為を行うおそれ」ということでありました。
 先ほども申し上げたように、特定の具体的な犯罪行為の予測とかあるいは時期の予測などという不可能なことを想起させるようなことでもあったし、また、漠然とした危険性というか、もう何でもかんでも全部入れちゃおうみたいなことに感じ取られていたところもありましたし、先ほど水島議員からお話があったように、社会から隔離をするんじゃないだろうか、そういうような形のことなんではないだろうかという疑念がさまざまあった上に、さらに、こういうことで危険人物というレッテルを張ってしまうんじゃないかというような意図があるんじゃないかというような誤解もたくさんあったわけです。
 これを率直に我々は認めて、この表現を変えようということでございまして、今回、特に要件を医療の必要性という要件に限定をするということです。政府案でいきますと、医療が必要だということがもちろんあったわけでありますけれども、しかし、では医療が必要な人だったら全部そうなるのかというと、また、先ほどのようないろいろな問題を引き起こしてしまうだろうということで、この中で、特に、こういうような同じような行為を行うことなく社会に復帰できるような配慮をする者だけがそうなるんだ、この対象になるんだということにしているわけであって、いわば入院等の要件を明確化し、そして、本制度の目的に即した限定的なものにしようということであって、先ほどちょっと議論が出ましたけれども、医療の対象ではないという人までが入るかもわからないというようなことがないようにしていこうじゃないかということだろうと思っております。
○山井委員 純粋な医療の必要性ということなんですが、先ほどの水島議員の質問ともかぶるんですが、それでは裁判官はなぜ関与するのか。水島議員の質問に対しては人権上の配慮であるということなんですね。ということは、確認したいんですが、これは再び事件を起こすとか、そういうことの意見なり判断は裁判官はしないんですね。塩崎議員。
○塩崎委員 先ほど来申し上げているように、この制度では、高度な医療をもって障害を克服してもらって、早く社会に復帰してもらおう、こういうことが最大の目的で、その入り口でこの審判が行われるわけであります。
 そのときに、精神科のお医者さんである審判員とそれから裁判官が合議体で判断するわけでありますけれども、そのときの裁判官の判断というのは、先ほど申し上げましたように、この合議制の中で決まった場合には強制的に医療に当たってもらうということになるわけですから、人身の自由を奪うということになります。そして、その際に、当然、人権の配慮等が必要であることは先ほど申し上げたとおりでありますけれども、裁判官として、例えば、このままの場合で医療を本当に続けられるような環境にこの人がいるのかどうかとか、それから生活環境そのものがどうなんだというようなことについては、必ずしもこれは医師が判断する問題ではなくて、やはり司法の立場から、人権にも配慮し、また、医療に従事できるのかどうかといった環境とか、その人の置かれている状況とか、そういうものを判断するための、法律の言ってみればプロとしての知見をもって、ここで二人のうちの一人として判断をする、こういうことだろうと思います。
○山井委員 ちょっと私、納得できないんですけれども、そうしたら、生活環境で再び事件を起こすかどうか、危険な生活環境かどうかということを裁判官はやはりそこで判断するわけですか、今の話によると。
○塩崎委員 例えば、通院する場合の治療が継続できるような生活環境にあるのかどうかとか、そういうことを判断することであって、何か物事を起こすんじゃないかとか、そういう判断ではないと思っております。人権を奪う、あるいは自由を奪うというのは、強制的にこの法律に基づく医療に当てるわけでありますから、その自由を奪うという意味においてやはり司法の判断というのが必要であるということを申し上げているわけであります。
○山井委員 でも、措置入院でそういうことというのは医師がやっているわけですね。
 では改めて聞きますが、きょうの私の資料の三ページ目を見ていただいたら、措置入院が非常にばらつきがあるんですね。丸をしてある大阪では人口十万人当たり〇・七人、佐賀県では九・四人というふうに、同じ日本で十四倍もある。まさに、塩崎議員が御指摘された、これは基準がやはり余りにもあいまいで、人権上の問題があるんじゃないかという気がするわけですけれども、塩崎議員の論理からいくと、そうしたら、今後は措置入院にも裁判官がやはり判定を一緒にする、そういう方向性で措置入院の方も変えていくというふうな理屈になると思うんですけれども、塩崎議員、いかがですか。
○塩崎委員 今回、この法律に至るまでの自民党の中での議論に私も参加をしておりましたが、その際に、この制度をどこが責任を持ってやるのかというときに、今回のように国がやるということも一つの選択肢としてありましたし、それから都道府県がやるという選択肢もあったわけであります。
 先ほど山井議員がおっしゃいまして、措置の場合にはお医者さんが判断をしているということでありますけれども、実際の処分権としては、これは知事ないしは指定都市の市長がやっているはずなんですね。ですから、そこの行政が、もちろん人権にも配慮をするんでしょうが、判断をするか、それとも裁判官がするかという選択肢の中で、我々はやはり司法の中で判断をしてもらおうということを言ったわけであります。
 特に、今いみじくもおっしゃったように、全国で今ばらつきがあるというお話がありました。まさにこれは、我々が今後議論しなければいけない、言ってみれば措置入院制度の抱えている問題点の一つであって、我々もそうだと思っております。それは都道府県の知事に任されている形で運営されているわけでありますので、そういうばらつきが出てくるわけでありますけれども、今回この法案では、国、全国一本で考えようということであります。
○山井委員 理解できませんが、措置入院は裁判官がいなくても人権に配慮できて、今回のものは裁判官がかまないと人権に配慮できないという、その違いをもう一回言ってください。
○塩崎委員 知事も当然それは人権に配慮をしているだろうということを言っているわけで、つまり、措置というのは知事の判断で処分でありますから、そのときにしているはずだということを申し上げているわけであって、私どももいろいろな議論の中で、患者の皆様方もそうでありますけれども、障害者も裁判を受ける権利があるということも随分聞きました。そういう中で、人権が守られるはずである裁判の場でこのような処分が決められるということを我々は選択したということでございます。
○山井委員 その理屈だったら、今回の法案も、別に裁判官じゃなくて知事が決めたらいいんじゃないですか、都道府県が。
○塩崎委員 申し上げましたように、議論の途中でそういう意見もございました。しかし、今回は国が、全国どこでもやはりこのような高度な医療を施すことによって、法に触れてしまった精神障害者の皆様方がまた社会に早く復帰できるような形にしていこうというスキームにしたわけでございます。
○山井委員 答弁になっていないと思います。
 なぜ措置入院は裁判官がかまずに人権に配慮できて、今回のものは裁判官がかまないと人権に配慮できないのか、その説明をもう一回してください。
○塩崎委員 今回は裁判官が人権に基づく判断もしますということを申し上げているわけであって、措置の中では、その立場にあるのは、措置をする知事がしなければいけないはずだということを申し上げているわけでございます。
○山井委員 堂々議論になると思いますが、これは一つとにかく指摘しておきたいと思います。裁判官が関与する理由というのが非常に不明確であるということであります。
 その次に、塩崎議員に続いてお伺いしますが、この専用病棟、入院は大体どれぐらいになると修正案をつくられた立場から思っておられますか。
○塩崎委員 どのくらいにというのは、すぐれてこれは医療の問題であります。
 我々は、今回の修正は、いろいろな批判が先国会でもございましたし、全国からいろいろな意見が私どもにも寄せられてまいりました。つまりそれは、先ほどお話があったように、隔離をするんじゃないか、つまり入ったら出てこないんじゃないかということが皆さんの御懸念であったわけでありますから、長さという点においては、それは医療が必要な間は入っていただくかもわからないけれども、医療が必要じゃなくなったら、もう可及的速やかに出られるようにしたいということで、この制度の中でもごらんをいただいたとおり、今回特に修正をいたしましたのは、入院が決まった後でも三カ月間は本当は退院の申し立てができなかったものを、すぐに、翌日からでも申し立てはできる。つまりそれは、医学的に見て医療を施す必要がなくなったにもかかわらず入れられている人が、おかしいじゃないかといって申し立てをすることができるということでありますから、いつまでという、期間を特定するというのはなかなかこれは難しいと思います。
○山井委員 塩崎議員、地域の当事者の方々と話して、今回の法案は無期限に閉じ込めるんじゃないか、そういう心配があったということを先ほどおっしゃっておられましたが、今の答弁ではその心配は全く消えないんですね。個人的なイメージでもいいですけれども、一年ぐらいを考えておられるのか、三年ぐらいか、五年ぐらいか、十年ぐらいか、ちょっとお聞かせ願いたいと思います。
○塩崎委員 それは、それぞれの人の持っておられる障害の医学的に見た難易度によって、その治療ができるのかどうか、どのくらいの期間でできるかどうかにかかるわけであって、それが一年とか五年とか、そういうことは予測はできるわけはないし、私も医者ではありませんし。
 それと、一番大事なのは、むしろ今山井議員がお尋ねになっているのは、不必要に長くなるんじゃないかという御懸念からそういう質問をされているんだろうと思うんです。それは私たちも、長期の入院が今の一般の精神医療の中でもとても多いわけでありますから、最近は少し短いのもありますけれども、むしろ本当にいいのかなという短さもあるのかもわからないし、何でこんなに長いんだというのもたくさんあって、それが先ほどの社会的入院の答弁になっていると思うんです。ですから、山井議員と私たちの懸念は全く同じものを持っていて、その目をもって私たちは立法府としてこの法律を見ていかなければいけないし、その施行状況をウオッチしていかなければいけないんだろうというふうに思っております。
○山井委員 私は塩崎議員のようにそれほど楽天的ではないので、やはりある程度何年ぐらいかというものをイメージしないと、治療が終わったら出られるからということで法案を進めるというのは、やはりちょっと問題があるんじゃないかなと思っております。
 そうしたら、お医者さんでもあります坂口大臣、大体これは何年ぐらいと想定されているのか。それによって、一年なのか、五年なのか、十年なのかによって法案の意味が全然違ってまいりますので、坂口大臣、いかがでしょうか。
○坂口国務大臣 これは、前通常国会におきますときにも御答弁を申し上げたという記憶がございますが、厚生労働省の調査したものによりますと、平成十二年度におきまして、検察官通報による重大犯罪ケースで措置入院となりました患者さんにつきまして調べましたところ、半年で約五〇%が措置解除というふうになっております。半年で五〇%になっております。
 本制度におきましても、五年とか十年とか、今御指摘になりましたような長い間を想定いたしているわけではございません。原則として六カ月ごとに裁判所が入院継続の要否というものを確認することになっておりますし、また、その時点の病状等を考慮いたしまして入院継続の要否を判断することになっております。
 したがいまして、これらのことを総合的に勘案いたしましたときに、その調査をいたしましたことを我々は念頭に置いて考えていきたいというふうに思っている次第でございます。
○山井委員 今の坂口大臣の答弁からも、どれぐらいかというイメージが正直言ってわからないわけですね。
 言ったらなんですけれども、これはやってみないとわからない、人によってもさまざまだ、運が悪かったら十年、二十年になるかもしれない。そういうところが当事者の方が一番心配していることで、それだったら、きっちり起訴されて刑罰を受けた方がまだ、あと五年かとか、あと三年かとかいうことが言えるんじゃないかというふうな声が当事者の方からあるわけです。
 そこで、私の資料の一ページ目を見ていただきたいんですけれども、これは通常国会でもお示しした資料で、ドイツの場合は二年、四年、四年、イギリスの場合は、高度な病院から軽度な病院までいろいろありますから、十三・八カ月とか、三百五十日とか、各国によっていろいろありますが、坂口大臣、私は一番心配していることが三つぐらいあるんですね。
 一つは、今予算要求されていることで、専用病棟を建てて、最初は東京とか九州とか、全国に二、三カ所じゃないかと想定されるんですけれども、地域から離されてしまうわけですね。遠く遠くの地域に集められて、離されてしまうということ。
 それと二番目は、レッテルを張られる。あの患者さんは精神病院の中でも犯罪をされた大変なところから来られたらしいわよというようなレッテルを張られてしまうかもしれない。ただでさえ、私の知り合いも言っていましたけれども、精神障害者の方が精神病院から退院するときに、アパートを二十軒回っても全部断られる、病院から出てきた方はお断りですと。それが、こういう専用病棟からだったらますます難しくなるのではないか。
 それと、先ほども言いましたように、三番目は、当事者の方々もいつまでここに入っていたらいいのかわからない、もしかしたら、乱暴なことをやっていたら二十年、三十年いるのかもしれないと思ったらやはり、リハビリというか治療というか、そういうのにも身が入らないかもしれない。不安が募る。つけ加えるならば、そんな遠く行ってしまったら、なじみの友達にももう会いにくい、家族にも会いにくくなってしまうかもしれないんですね。
 例えば、イギリスのブロードモアという司法精神病棟でもこういう問題があって、思っていたより社会復帰が難しいということが、長期化しているという問題が出ていて、直接はもう地域が受け入れてくれないから、ほかの病院を転々として、ブロードモアにいたということを消さないと地域が受け入れてくれない、そんなことも起こっているわけです。
 次の二枚目、見てください。ドイツの例。これも、傍線が引いてありますように、「平均入院期間は約六年。九〇年ごろは四、五年だったが長期化している。これは全国に共通する傾向だ。」これは下のところですね、今の現状はどうかというと、「少なくとも保安の機能は果たしているが、治療となると難しさが伴うのが現実のようだ。」「施設収容には「無期限の自由刑」の側面があることは否めない」。
 坂口大臣もドイツのハンブルクの司法精神病棟を見学されて、そこを見てこられたと思うわけですけれども、私は心配しているのは、塩崎議員とか坂口大臣は、いや、もう治療したら早く帰すんですというつもりでこの法案をつくられた、ところが、いざふたをあけてみたらそんな簡単に帰せなかったということでは、これは大変なことになるわけですから。
 今言った、地域から切り離される、スティグマ、レッテルを張られる、そして無期限ということで本人の不安も大きい、こういうことで、かえって社会復帰が難しくなるんではないかということに関して、大臣、いかがですか。
○坂口国務大臣 今三つのことをお挙げになりましたが、まず、先ほどもお聞きになりました期限のことでございますけれども、今までのその統計的なものによれば、先ほど言いましたように、半年の人が五〇%ということであったということを先ほど申し上げたわけです。
 今回の修正案を出していただくことによりまして、この修正案によりましては、社会復帰が可能かどうかということが一つの大きな目安になるようになりました。今まではそうしたところが、私は政府案を提出した側でございますけれども、しかし、そこは今回ほど明確でなかった。今回の修正案の方が社会復帰ができる。これは、いわゆる病気として診た場合に社会復帰がもう可能だというふうに判断されるときには、それは社会復帰をしてもらうということになったわけでありますから、私は、ここはかなり明確になったというふうに思っているわけでございます。
 したがいまして、これは、お帰りをいただいたときに地域でどう受け入れるかという問題がその次に出てくるわけであります。レッテルを張られるというお話がございましたが、今回つくりますこの施設は、これは特別にそこだけの施設をつくるわけではございませんで、現在存在をいたします国立あるいは県立のような、そういう精神病院の、その中のどれかの病棟を改造させていただくなりいたしまして、そしてそこをこの施設にするということでございます。
 したがいまして、その病院ももともと精神病院じゃないか、精神病院から帰ってきたじゃないかというレッテルまでは取れないかもしれませんけれども、しかし、その中のどこに入っていたかということまでは問われないようにすることができ得るというふうに私は思っている次第でございます。
 もう一つの、遠隔のお話がございました。これは、最初の段階は若干お許しをいただかなければならないのではないかというふうに思いますが、できる限り、各地域、それぞれの地域にこれは建設をしていくというふうにしたいと思いますけれども、全体として九百床ぐらいのものでございますから、四十七都道府県全部につくるというわけにはまずいきますまい。そうしたことで、何々地方というようなことでは御辛抱をいただかなければならないというふうに思いますけれども、できる限りそれは分散をするように検討していきたいというふうに思っている次第でございます。
○山井委員 二つの簡単なことを大臣にお聞きしたいと思います。
 大臣もお医者さんなわけですから、治療というのは本人のためにあるということはもちろん一番御存じだと思いますし、その治療では今インフォームド・コンセントということが言われています。要は、こういう病院に入るかもしれないその精神障害の当事者の方々が、この法案、この専用病棟をどう思っていられるのかということは非常に重要だと思うんですね。嫌々入るのか、ある意味でいい病棟だったら喜んで入るのかということで。
 それで、大臣は、その当事者の方々の声というのを聞かれたことがあるでしょうかということをお聞きしたいと思います。
○坂口国務大臣 いわゆる精神病院に入っておみえになります、あるいはまた入っておみえにならなくても精神病と言われる病気を患っている皆さん方には、私は接したこともありますし、お声は聞いたことも何度もございますが……(山井委員「その病棟について聞かれたことありますか」と呼ぶ)今回のこの病棟はこれからできるわけでありますから、そうした皆さん方に私は接触するわけはありませんし、それはお聞きをしていないというふうにお答えする以外にないわけでございますが、一般の精神病院へ入っておみえになる患者さん、あるいはまたこれから入ろうとする人たちの御意見というのは、私は何度も聞いたことがございます。
○山井委員 そういう精神障害者の当事者の方から、何人かの話を聞くと、やはりこれはいつまで入れられるかわからないし、住みなれた地域から離れるというのは、もし自分がそういう事件を起こしたら、それだけはやめてほしいということで反対を表明していられるわけなんです。
 それともう一つ、大臣にお伺いしたいんですが、これは非常に失礼な質問になるかと思うんですが、自分の身として考えて、まあこれは私でもいいんですけれども、運悪く、精神障害を患って心神喪失状態でだれかにけがをさせてしまった、そのときに、大臣だったら、住みなれた地域の措置入院で、人手をそこに多くしてもらってそこでいいケアを受けたいか、それか、見ず知らずのところの専用病棟に入って、いつ出れるかわからないんですけれども、そこの方が新設ですからいいですよといって、そういう見ず知らずのところに行くのと、どちらがいいでしょうか。
○坂口国務大臣 私自身が精神病に罹患をいたしまして、そして心神喪失の状態になった、そして重大な過失を犯したということになりました場合、その重大な過失の内容にもよるというふうに私は思いますが、それは取り返しのつかないような重大な過失を私が犯したということになれば、私自身がどこどこの病院へ行きたいと言う、それはなかなか通りにくいことになるのであろう。まあ今私は健全でありますから、健全な立場で考えているのかもしれませんけれども、それは、自分でどこどこへ行きたいという判断はなかなか自分では言えないことになるんだろう。それ以上ちょっと申しようございません。
    〔山本委員長退席、坂井委員長着席〕
○山井委員 国連の人権憲章の中でも、精神障害者も地域に密着した医療を受けられる権利があるというふうに書かれているわけであります。
 そして、今の大臣の話を聞いていると、悪いことしたら自分の自己決定もできないで、何か刑務所みたいなイメージを私は持ってしまったんですけれども、治療というのはそこで治すためにあるわけですから、やはり自分は、住みなれた地域で、知り合いも家族もすぐに面会に来てもらえるようなところで治療を受けたいというふうに思いますから、そういう意味では、やはりこれは措置入院を、人手とかハード面もよくして底上げしていくということが本道ではないかと私は思います。
 坂口大臣、またお伺いしたいんですが、資料を見ていただいたら、これは社会的入院の問題ですね、ページ四、日本は世界の国に比べて平均在院日数が飛び抜けて長いわけですね。これはもう余りにも有名なグラフですけれども。それで、病床数においても、四ページですが、七〇年代以降、ベッドを欧米が減らし出してから、日本はベッドをふやした、こういう状況であります。
 次の五ページに移ります。
 二十年以上入院している人が五万人、そして、先ほど水島議員の質問にもありましたが、条件が整えば退院できる方が七万二千人というふうになっているわけであります。これは世界的に見て私は異常だと思います。これほど社会的入院がいる国というのは日本だけなわけですね。
 坂口大臣、先ほどの水島議員への答弁の中でも、反省すべき点は反省するということもおっしゃっておられましたけれども、そのことも関連するかと思いますが、十万人もの社会的入院の方が帰れない、そして、二十年以上、五万人の方も入っておられる。こういう現状をどう思われますか。
○坂口国務大臣 この表を拝見いたしまして、今御指摘をいただいたと同じようなことを私も思うわけでございます。
 先ほどもお答えを申し上げたわけでございますが、前回の調査では七万二千人ということになっておりますが、いわゆる社会的入院という人たちは、これよりもふえることはあっても減ることはないんだろうというふうに思っております。この人たちを早く地域にあるいはまた家庭に帰っていただくようにするためにはどうしたらいいのか考えなければならない点を先ほども申し上げたところでございますが、これは、幾つもの点を検討し、そして改革を行い、新しくつくるべきものはつくっていかないといけないというふうに思います。
 それは、一つは、一番大事なことは、やはりそれを受け入れるための人材だというふうに思います。その地域の人材がスクラムを組んで、そして受け入れなければならない。ただ単に一つの職種の人だけではなかなか無理だろう。例えばその地域に医師がいたとしましても医師だけでは無理でありますし、先ほどからの福祉士のお話も出ましたけれども、そうした皆さんにもお願いを申し上げなければならない。あるいは保健婦さんのような形で絶えず病気の御相談に乗る人も必要でございましょう。そうしたチームワークをどうつくっていくかということであろう。
 それからもう一つは、お住まいをどうするかということでございます。そうした意味で、これはいわゆるグループでお住まいいただくようなところをつくるのか、それとも一般のところでうまくそれができるのか、そうしたことも検討をしていかなければならないというふうに思っております。
 したがいまして、十年というふうに申し上げましたのは、それらのことをもろもろ考えると、これを全体に、各地域に戻すということをしようと思えばそのぐらいの年月がかかるのではないかということを想定して申し上げたわけでございますが、何も十年かかろうというふうに初めから思っているわけではございませんで、できる限り十年を縮めていくことができればというふうに、率直にそう思っている次第でございます。
○山井委員 これは十年かかると、七ページの新聞記事を見ていただいても、七万二千人のうち四〇%以上がもう六十歳以上の高齢化になっているんですね。
 それで、社会的入院ということは、これからすぐにでも退院できるかもしれないのに、基盤が整わないから退院できない。
 次のページ、お願いします、八ページ。
 これは、国立保健医療科学院、まさに国の方が研究されたことでは、要は、精神病院の長期入院の原因というのはスタッフの不足だと。スタッフが多いところは早く帰れるということがわかっているわけです。さらに、下の基盤整備のところでも、福祉ホームや福祉工場、通所授産施設、こういうのは計画に比べて計画どおり進んでいないわけですね。
 ハンセン病の問題であれだけ人権が大切だということで先頭を切ってリーダーシップをとられた坂口大臣だからお聞きしたいんですが、社会的入院とわかっている人が、こういうスタッフの不足とか基盤整備ができないからということで十年間もし病院に入れられるとしたら、それは第二のハンセン病の問題で、人権上問題があるんじゃないですか。そういうことは、坂口大臣、どう思われますか。
○坂口国務大臣 御病気になられた皆さん方のことを中心にして考えなければならないことはそのとおりというふうにして思います。しかし、体制も十分でなくて皆さん方をお迎えするということになれば、余計に皆さん方に御迷惑をかけることにもなるわけでありますから、やはり社会的入院が存在するということを解消するためには、その原因になっているところを取り除いていかなければならないというふうに思います。
 それは、先ほどから申しましたように、人の問題もあり、施設の問題もあり、それから、やはり地域の、それを受け入れる意識改革の問題も、率直に言って私はあるというふうに思います。ですから、そうしたことをやって、総トータルでどうやっていくかということを考えていかないといけないわけでございまして、それらのことを考えながら、これは前進をさせていく。
 確かに、ハンセン病の問題が起こりましたときに、この問題は必ず精神病の皆さん方の問題として議論をされるであろう、内部ではそういう話もしたわけでありまして、早くこの精神科の問題に厚生労働省としても手をつけると申しますか、早くこの問題を解決するように努力をしなければならないねということを当時の局長とも話したところでございます。
 ぜひそうした意味で進めていきたいというふうに決意をしているところでございます。
○山井委員 でも、七万二千人いて、そして退院に十年間かかってしまうということを認めるということは、これはもう国が立法不作為を認めているということになりますよ。六十歳の方が、あと十年かかったら七十歳。下手したら、今すぐだったら出れるかもしれないけれども、今出れなかったら一生もうその施設の中ということになってしまうかもしれない。その人の人生、どうなるんですか。
 それで、今の、そう簡単には地域の理解も進まないから一歩一歩帰していく、そう簡単に地域に復帰できないという、まさに坂口大臣のその答弁と、今回の専用病棟からは治療を行って速やかに地域に帰ってもらうというのが、私ははっきり言って矛盾があると思うんです。
 社会的入院でもう本当に帰れるという人が、いや、いろいろ受け皿がなくて、地域の理解もなくて、十年間かかりますと言って、犯罪で事件を起こして、そして手厚い医療が必要、そういう判定をされたような人がすっと地域に帰れる、退院できる。そこは、今回の専用病棟からは速やかに、先ほどおっしゃったように半年とか一年という数字も出ていましたけれども、それぐらいで帰れるというエビデンスというか根拠は何かあるんですか、坂口大臣。
○坂口国務大臣 これは今までのデータを信頼する以外にないわけでありまして、そういうデータが出ているということを申し上げているわけであります。それに基づいて、新しい施設をつくりました場合にも、恐らくそれに準じた形で行われるだろう。そういうことになれば、早く地域での体制をつくらないといけないわけでありますから、その地域の体制もつくり上げていきたい。そのことは、とりもなおさず一般の精神病の皆さん方を地域で受け入れる体制とも重なるわけでありますから、特段、特別な人たちだけを受け入れるというわけではなくて、地域でも受け入れる体制をつくっていくということになるわけだと思うんです。
 社会的入院というのは、御承知のとおり、そうした地域の問題もありますし、受け入れの問題もありますし、また医療側の問題もあるかもしれません。しかし、それだけではなくて、いわゆる御家庭の事情というものもあって、そして長くお見えになる方もあるわけであります。そうしたことを考えますと、例えばもう御家族が存在をしないといった場合に地域で受け入れるためにはどうしたらいいかというような問題も起こってまいります。そのときには、もう少し福祉的な施設をつくって、そうして地域で生活をしていただけるようにするというようなことも考えていかなければならないでしょう。
 そうしたことをやはりトータルで考えていかなければ前進しないということを申し上げたわけでございます。
○山井委員 いろいろなデータからそういうふうに恐らく推計するということなんですが、はっきり言ってこういう病棟はやってみたことがないんですよね。だからこれははっきり言ってわからないんですよ、実際やってみないと。長くなるかもしれないし短くなるかもしれない。私が言いたいのは、そういうふうにどこかでモデル事業もやっていないような病棟をつくって、早く帰れるはずだということで法律をつくってしまっていいのかということなんです。
 だから、私が提案したいのは、これは来年度予算要求で四十八億円ですか、専用病棟のこととか人材の養成が出ています。これは、法律というより、この法を施行するというよりは、モデル事業でやってみる。先週、国立病院の独立行政法人化の議論しました。そこの中で、国立病院は独立行政法人化して政策医療をやっていくんだというお話ありましたよね。まさにその政策医療のモデル事業としてこれをやっていく。それで何年で帰れるのか、もしかしたら今までの措置入院よりも長くなっちゃうかもしれない、短くなるかもしれない、その進捗状況を見てから、早く帰れる、効果があるとわかった時点で法律にするというのがやはり責任ある立場なんじゃないですか。
 恐らく短期で帰れるとか、先ほどの塩崎議員の、いや、わからないけれども治ったら帰れるとか、それではやはり法案の議論はできないんじゃないですか。大臣、私の意見に対していかがでしょうか。
○坂口国務大臣 おっしゃっている意味は私も理解しているつもりでございます。これからやる話でございますからやってみないとわからない面も率直に言ってそれはあると思うんです。しかし、現在までのさまざまなことを考えますと、そういうことにしてはいけないということも一方であるわけですね。長い間そこへ入れておくというようなことにしてはいけない。だから、そういう意味で私は今回この修正案を出されたんだろうと思う。
 今回出されたこの修正案は、いろいろ違った点はありますけれども、その中の一つは、社会復帰というものに非常に力点が置かれている。ですから、社会復帰をさせるためには治療を行わなければならないということをここで言っておみえになるわけでありますから、やはり社会復帰というものを中心にして考えていくということになれば、私は、今までの精神病院の中の状況といったものとは違った新しいものがそこから生まれてくるし、そのことは現在の一般の精神病院にも大きな影響を与えるだろうというふうに思います。
 したがいまして、こうしたこととあわせて、先ほどから御指摘になっておりますように、一般病院につきましても同様のことを車の両輪として行っていかなければならない、即刻これは手をつけていかなければならない問題だということを先ほども水島議員にも申し上げたところでございます。
○山井委員 もう時間が来ましたので一言だけ意見を言って終わりますが、今まさに車の両輪ということをおっしゃいました。そのとおりで、こういう司法精神の問題と地域に密着したケアをどうするのか、人手をどうするのかということは、車の両輪なんです。ところが、社会的入院が世界で唯一七万二千人もいるということ自体が、一般の精神医療の人手が足りない、そして地域ケアが足りないということの明らかな証拠なんです。つまり、車の両輪の片輪がパンクしちゃっているわけですよ、今の状況では。このままこういう病棟だけつくっても帰れないということになる危険性があるわけです。
 そういう意味では、やはりこれはちゃんと両輪が動き出す、つまり、一般医療の人手をふやして地域ケアと社会復帰の体制もきっちりつくったときにこの法案をセットで議論する、そのときまでこういう法案を議論するというのは時期尚早であるということを最後に申し上げて、私の質問を終わります。

【石原委員質疑】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(同)
○坂井委員長 次に、石原健太郎君。
○石原(健)委員 今議論されている制度によりますと、裁判所の決定があった対象者は指定医療機関に入院したりまた通院したりしなくてはならなくなると考えられますけれども、何年ぐらいでそうした病院は整備されていくおつもりなのか、お聞きいたしたいと思います。
○坂口国務大臣 地域において安心して生活をしていただけるようにするための整備というものは、先ほどからも議論をいたしておりますように、一つはやはり受け入れのチームをどうつくっていくか、人の問題でございます。それからもう一つは、この方々が地域にあるいは家庭に、家庭にお帰りになるときには住宅等は要らないわけでありますけれども、中には御両親のお見えにならない方もお見えでございますから、そうしたときには地域の受け入れの場所、住所というものを定めなければならない。
 それは、生活が十分に御自身でできる方もお見えになれば、そうではなくてある程度やはり手を差し伸べなければならない方もお見えになる場合には、その方々がお入りになる、福祉施設というと言葉は悪いですけれども、やはり生活をしていただく場を提供しなければならない、そうした問題がございます。さらにまた、急にまた病状が悪化しましたときに緊急に対応できるようにもしなければならないとか、もろもろのそうしたことを考えていかなければならないわけでございまして、住まいの場所でございますとかあるいはまたチームプレーといったものを考えましたときに、住まいの方は早くつくろうと思えばつくることができるわけでございますが、しかし人の養成というのはそうそうなかなか簡単にまいりませんしいたしますから、若干の時間は私はかかるというふうに思っております。
 私たちも、十年と言いましたときに、できれば五年というふうに言いたかったわけでございますけれども、人の問題もございますしいたしますと、なかなかそこまで、大きなことを言ってできなかったらどうするんだといっておしかりを受けることもありますので、そこまでは言えなかったわけでございますが、できる限り早く私たちもやりたいというふうに思っているわけでございます。
○石原(健)委員 次に、今度の法律による対象者は、今までと違って新たに特別につくる病棟に収容されるというふうにも聞いておりますけれども、その理由は何なんでしょうか。
○上田政府参考人 今回対象となります者につきましては、殺人、放火等の重大な他害行為を行い、検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち、精神障害のため心神喪失もしくは心神耗弱を認められた者、あるいは第一審裁判所で心神喪失を理由として無罪となった者、あるいは心神耗弱を理由として刑を減軽された者、こういう者が対象になるわけでございまして、私ども、一年間の対象者数につきましては最大四百人程度ではないかということを推計しているところでございます。
 そしてまた、具体的な期間についてはまだまだ把握できない面もありますけれども、先ほど大臣の方からお話し申し上げましたように、一年間で約半数が退院できるということを仮定して推計した場合に、法施行後十年後に約八百から九百床程度が必要になるというふうに考えているところでございます。
○石原(健)委員 私は全く素人ですから、あくまでもいろいろな人のお話によってのことなんですけれども、精神病の治療というのは何か隔離的にやったからどんどん早く治るとか、一般のところにいるから治療上まずいとか、そういうことはないというような話も聞きますけれども、そういうことは検討されたんでしょうか。
○上田政府参考人 今回の指定入院医療機関におきましては、厚生労働大臣が定める基準において、医療関係者の配置基準を手厚くすることなどによりまして、医療施設や設備が十分に整った病棟において、高度な技術を持つ多くのスタッフが頻繁な評価や治療を実施するものでございます。
 また、今回の修正案により、法案の附則第三条第一項に規定されていますが、本制度は、最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものとすることとしております。例えば、欧米諸国の司法精神医療機関で広く実施されております精神療法を導入するなど、高度かつ専門的な精神医療を行うものであります。
○石原(健)委員 そうすると、いろいろ比較検討して最終的にこういうふうな方法が一番というふうに、どういう方たちと御相談なさってこういう方法が考えられたんでしょうか。
○上田政府参考人 ただいま申し上げました医療のあり方などにつきましては、私ども、研究者等におきましての研究などの成果を踏まえながら、このように取り組んでいるところでございます。
○石原(健)委員 年に四百人ぐらいの予想される対象者があるということでしたが、医療スタッフの人数などはどのように配置されるお考えでしょうか。
○上田政府参考人 指定入院医療機関における具体的な配置基準につきましては、現在検討を行っているところでありますが、司法精神医学が確立し、手厚い医療を実施している諸外国の例も参考にしつつ、平成十五年度中には適切な配置基準を定めることとしたいというふうに考えております。
 なお、外国の例といたしまして、イギリスの地域保安病棟につきまして御紹介させていただきますと、この病棟におきましては、入院患者二十五名に対し、医師が四名、看護職員が日勤で八名、準夜勤では八名、深夜勤では六名、また、精神保健福祉士が二名、臨床心理技術者二名、作業療法士二名、このように配置されているというふうに聞いております。
 こういった状況も参考にさせていただきたいというふうに考えているところでございます。
○石原(健)委員 一般の精神病院と総合的な大病院なんかでも、医療スタッフの数がいろいろのようです。
 今までのお話をお聞きしますと、やはりスタッフが大勢そろっていることが治療に大きな効果を上げるというふうにも受け取れますけれども、先ほどの質問にもありましたが、そういうことであれば、一般の精神病院のスタッフなんかも、どんどん、もっとふやしていくという工夫も必要じゃないかと思うんですけれども、その辺はいかがでしょうか。
○上田政府参考人 ただいま委員の方からは、一般の精神病院の人員配置についての御指摘でございますが、私どもも、精神病床の人員配置については充実していく必要があるというふうに考えております。このため、平成十二年の医療法改正によりまして、病院単位の人員基準から病床単位の人員基準に改正されたことに伴いまして、従来の精神科特例を廃止して新たな基準を設けたところでございます。
 具体的には、精神病床を二つに分けておりまして、一つは大学附属病院及びいわゆる総合病院の精神病床と、その他の精神病床に分けまして、前者については、一般病床と同じ基準を平成十五年九月から適用することとしておりまして、また後者については、療養病床と類似の基準を平成十八年三月から適用することとなっているところでございます。
 その後の人員基準のあり方につきましては、今後、検討会を設けまして、さらに検討を進め、この二種類の人員配置基準について、適用すべき精神病床の範囲等について早急に結論を得ることとしたいというふうに考えているところでございます。
○石原(健)委員 先ほど大臣の方からも、地域精神医療の充実に一生懸命取り組みたいというお話もありましたし、また、精神病院の充実等についてのお話もありましたが、また私からさらにきちっと計画的にどんどん進めていかれることを要望させていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
 それから次に、今度の法案に基づいて入院の決定を受けた者が、必要以上に不当に長期にわたって入院することは防止されるべきであるというような考えが示されていますけれども、この法案ではこの点についてどのような配慮がなされているか、お聞かせください。
○上田政府参考人 本制度におきましては、裁判所による入院決定の後、原則として六カ月ごとに裁判所が入院継続の要否を確認することとしており、また、指定入院医療機関の管理者は、入院患者について、その時点の病状等を考慮して常に入院継続の要否を判断し、そして入院の必要があると認めることができなくなった場合には、直ちに裁判所に対し退院の許可の申し立てをしなければならないこととしております。あわせて、入院患者側からも裁判所に対し退院の許可の申し立てをすることができることとしていることから、入院期間が不当に長期にわたることはないというふうに考えております。
 このように、本制度は、対象者の人権保障にも十分に配慮した制度となっているというふうに考えているところでございます。
○石原(健)委員 今度の法律では、麻薬とかアルコールなどで一時的に責任能力をなくして重罪を犯した人の処遇についてはどのように考えておられるでのしょうか。今までと同様なら、今までと同様ということでいいんですけれども。
○樋渡政府参考人 急性薬物中毒や急性アルコール中毒等によります精神障害が一過性のものでありまして、本制度による処遇の要否等を決定する時点におきまして当該対象者が精神疾患を有していないと認められる場合には、本制度による処遇の対象となることはないと考えられます。
○石原(健)委員 今、アルコールで一過性にですか、責任能力なくして罪を犯しちゃった人がまた同じようなことを何回か繰り返すなんということもあるんじゃないかと危惧されるんですけれども、そういう人にはどういうふうに対処されているんでしょうか。
○樋渡政府参考人 繰り返しをされましても一過性である場合には同じことでございますが、ただ、診断名が急性薬物中毒や急性アルコール中毒のみのときでありましても、重い意識障害や譫妄が併発しており、現在でも、この現在といいますのは処遇の要否を決定する現在でございますが、現在でも精神疾患を有していると認められる場合には、本制度の対象となり得るものと考えます。
○石原(健)委員 今度の制度で、退院後の継続的な医療を確保することも重要であると考えられます。保護観察所がその役割の一端を担うと考えられますけれども、保護観察所は、どのようにして対象者の継続的な医療を確保していかれるのか、また、その社会的復帰の促進を図ろうとされているのか、お聞かせいただきたいと思います。
○横田政府参考人 お答えいたします。
 この対象者の社会復帰を図る一番の手だては、何と申しましても病状が改善することでございます。したがいまして、委員御指摘のように、退院後の継続的な医療の確保が重要であることは全くそのとおりであると思います。
 そこで、この法案におきましては、保護観察所が対象者の継続的な医療を確保するための処遇として、幾つかの手だてを考えております。
 まず、政府案の百六条に定めておりますけれども、精神保健観察というものを行うこととしております。これは、具体的には、保護観察所、また、政府案でいいますと精神保健観察官、与党修正案におきますと社会復帰調整官ということになりますが、そのような専門の官職の担当者が、医療機関、保健所等の関係機関と十分に連絡をとり合いながら、対象者の通院状況や生活状況を見守り、対象者本人や家族からの相談に応じ、そして通院や服薬を継続するように働きかけていくということを行います。
 それから、このような精神保健観察の過程で、継続的な医療を確保する上で必要と認める場合には、地方裁判所に対しまして、入院によらない医療を行う期間の延長や、場合によっては再入院を申し立てるということもございます。しかし、他方、本制度による処遇の必要がなくなったと認める場合には、処遇の終了を申し立てるということを規定しております。これは、五十四条あるいは五十九条に定めております。
 それから、さらにもう一つ、この新しい制度の大きな柱の一つでございますけれども、対象者の社会復帰の促進を図るためには、指定通院医療機関による医療や援助、そして都道府県や市町村による援助などが計画的かつ効果的に行われる必要がありますが、このような関係機関、関係者等の関係といいますか、それを調整していく、それによってそれぞれの持つ力を最大限有効に発揮して対象者の社会復帰を図るということが必要になります。
 この法案におきましては、保護観察所、あるいは先ほど申し上げました専門の官職の者が、いわば地域社会における処遇のコーディネーターという役割を担いまして、こういった自治体であるとか、あるいはその他、民間も含めまして、対象者の社会復帰のいろいろな援助をしている関係機関と協議をして、連絡をとり合いながら、より有効な方策を探っていくということを考えています。
 その一つとして、これは法案に規定しておりますけれども、こういう保護観察所都道府県知事及び市町村長と協議をして具体的な実施計画というものをつくりまして、そして、それに従って社会復帰を図っていくということを行うようにしております。
 このように、本法案におきましては、このような処遇策をいろいろ実施することによりまして、対象者の継続的な医療を図り、そして社会復帰の促進を図るということにしております。
 以上でございます。
○石原(健)委員 対象者が通院する場合、通院の費用とか、そこに行く交通費というのはだれがどのように負担するんでしょうか。
○上田政府参考人 本制度の医療は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者について、裁判所が、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため本制度による医療を受けさせる必要がある、このように認める場合に、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の防止を図り、その社会復帰を促進することを目的として行うものでありますので、一般の精神病とは異なり、国が公権的観点から行う公共性の高い医療であります。
 また、裁判所の決定に基づき、全国で公平一律に厳格に実施すべきものであるということから、国において一元的に行う医療として、全額国費によることとしております。
 また、本法案における通院医療につきましては、それぞれの対象者にとって社会復帰を図るにふさわしい居住地、環境において医療が行われることが適当であるというふうに考えております。このため、指定通院医療機関については、民間の診療所等も含めて幅広く確保することにより、居住地から容易に通院できるようにしたいというふうに考えております。
○石原(健)委員 日本全国すべてにわたって、すぐ近くに通院できる病院があるというわけにもいかないと思うんですよ。電車に乗ったり、バスに乗ったり、タクシーに乗らなくちゃならないときもあるかと思うんですけれども、一般的に、こういう対象になるような方は余り裕福でない方もいらっしゃるんじゃないかというような危惧も持たれるんですけれども、そういう方の交通費はどういうふうになるんでしょうか。
○上田政府参考人 ただいま申し上げましたように、指定の通院医療機関につきましては、やはり身近な環境において、あるいは居住地において医療が行われるということが適当というふうに考えておりますので、また、指定医療機関も民間の診療所等も含めて幅広く考えておりますので、そのように通院医療が身近に受けられるような体制を考えたいというふうに考えております。
○石原(健)委員 やはり交通費にも困るというような人も場合によってはいるかもしれませんので、今後、そういうことについてはどうするか検討していただけたらありがたいと思います。
 それから、またちょっと戻りますけれども、検察官が裁判所に申し立てをした場合、要否が決定されるまでの日数は大体どのくらいが予想されているかお伺いします。
○樋渡政府参考人 検察官による申し立てから裁判所の決定がなされるまでの日数につきましては、具体的な案件を前提とした実務の運用にかかわるものでありますから、現時点で予想することは困難であります。
 しかし、検察官による申し立てがなされた場合には、この法律により、医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合を除き、鑑定その他医療的観察のため、対象者を入院させ、裁判所の決定がなされるまでの間在院させる旨命ずることとなっておりますが、その入院期間は原則として二カ月を超えることができないとされております。
○石原(健)委員 医療が必要な場合、大体決まった、みんなホームドクターみたいなのがあると思うんですけれども、精神を患っている方にもそうしたお医者さんがおいでだと思うんですよ。その二カ月間、できればそういうお医者さんに治療を受けることがいいんじゃないかとも思われますけれども、この二カ月間、長い場合なんでしょうけれども、治療はどういうふうに確保されるんでしょうか。
○樋渡政府参考人 ただいま申し上げました二カ月間という鑑定入院中には、鑑定その他医療的観察という目的を踏まえつつ、投薬その他の必要な医療が行われるということになると考えております。
○石原(健)委員 では、次に、この要否の決定に不服があった場合は不服の申し立てをすると思うんですけれども、高等裁判所では裁判官だけの判断となるようですけれども、医学的な視点からの判断も必要ではないんでしょうか。
○樋渡政府参考人 抗告審は、みずから積極的に調査を行って対象者の処遇の内容を決定するものではございませんで、地方裁判所の決定を前提として、決定に影響を及ぼす法令違反の有無を判断することは当然といたしまして、事実認定や処分の当否については、原決定が著しく合理性、妥当性を欠くものではないかとの観点から判断し、原決定を維持できない場合には、これを取り消して、再度地方裁判所に差し戻し、または移送する役割を担うものでございますので、その判断内容は、裁判官による判断になじむものであると考えております。
○石原(健)委員 現在の制度のもとでも、鑑定を何度かやり直すというようなことがあったり、鑑定がいろいろひっくり返ったりするようなこともあると思うんですよ。今度の制度だと、地方裁判所の一度のお医者さんの判断で指定入院しなくちゃならないわけですね。何かちょっと、今までの制度に比べると、一人のお医者さんの判断でその人の将来の方向が決まっちゃうというような感じもするんですけれども、その辺はどういうふうに考えておられますか。
○樋渡政府参考人 この法律案によりますと、裁判官とお医者さんの審判員との合議体でその処遇を決めるということになっておりまして、その際には、最初の審判には当然、付添人もつくこととなっております。
 そういうように、対象者の方の人権に配慮しながら決定を下していくものでございまして、それに不服であれば、先ほどお尋ねにありました抗告をしていただきまして、その抗告審で裁判官が原決定がおかしいということになれば、もう一度その審判をやり直すというように、手厚くしているつもりでございます。
○石原(健)委員 質問を終わります。ありがとうございました。