心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その41)

前回(id:kokekokko:20060205)のつづき。
第156回国会が開会され、心神喪失者等医療観察法もひきつづき審議されることになりました。今国会では参議院から審議が始まっています。
【趣旨説明】

第156回参議院 法務委員会会議録第9号(平成15年5月6日)
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案を一括して議題といたします。
 まず、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案について、政府から趣旨説明を聴取いたします。森山法務大臣
国務大臣森山眞弓君) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 心神喪失又は心神耗弱の状態で殺人、放火等の重大な他害行為が行われることは、被害者に深刻な被害が生じるだけでなく、精神障害を有する者がその病状のために加害者となる点でも極めて不幸な事態です。このような者につきましては、必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることにより、その社会復帰を図ることが肝要であり、近時、そのための法整備を求める声も高まっています。
 そこで、本法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療の実施を確保するとともに、そのために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もって本人の社会復帰を促進しようとするものです。
 この法律案の要点は以下のとおりです。
 第一は、処遇の要否及び内容を決定する審判手続の整備についてです。
 心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行い、不起訴処分をされ、又は無罪等の裁判が確定した者につきましては、検察官が地方裁判所に対してその処遇の要否及び内容を決定することを申し立て、裁判所におきましては、一人の裁判官と一人の医師とから成る合議体が、必要に応じて精神障害者の保健及び福祉に関する専門家の意見も聞いた上で審判を行うこととしています。この審判におきましては、被申立人に弁護士である付添人を付することとした上、裁判所は、精神科医に対して被申立人の精神障害に関する鑑定を求め、この鑑定の結果を基礎とし、被申立人の生活環境等をも考慮して、処遇の要否及び内容を決定することとしています。
 第二は、指定入院医療機関における医療についてです。
 厚生労働大臣は、入院をさせる旨の決定を受けた者の医療を担当させるため、一定の基準に適合する国公立病院等を指定入院医療機関として指定し、これに委託して医療を実施することとしています。指定入院医療機関の管理者は、入院を継続させる必要性が認められなくなった場合には直ちに裁判所に退院の許可の申立てをしなければならず、他方、入院を継続させる必要性があると認める場合には、原則として六か月ごとに、裁判所に入院継続の必要性の確認の申立てをしなければならないこととし、併せて、入院患者側からも退院の許可等の申立てができることとしています。
 また、保護観察所の長は、入院患者の社会復帰の促進を図るため、退院後の生活環境の調整を行うこととしています。
 第三は、地域社会における処遇についてです。
 退院を許可する旨の決定を受けた者等は、厚生労働大臣が指定する指定通院医療機関において入院によらない医療を受けるとともに、これを確保するための精神保健観察に付されることとしています。
 また、保護観察所の長は、指定通院医療機関の管理者及び患者の居住地の都道府県知事等と協議して、その処遇に関する実施計画を定め、これらの関係機関の協力体制を整備し、この実施計画に関する関係機関相互間の緊密な連携の確保に努めるとともに、一定の場合には、裁判所に対し、入院等の申立てをすることとしています。
 以上がこの法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

衆議院修正部分趣旨説明】

第156回参議院 法務委員会会議録第9号(同)
○委員長(魚住裕一郎君) この際、本案の衆議院における修正部分について、修正案提出者衆議院議員塩崎恭久君から説明を聴取いたします。衆議院議員塩崎恭久君。
衆議院議員塩崎恭久君) ただいま議題となりました法律案に対する衆議院における修正部分について、提出者を代表して、その主な趣旨及び概要を御説明申し上げます。
 第一は、この法律の目的を規定する第一条に、この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の円滑な社会復帰に努めなければならないとの文言を加えることであります。
 第二は、精神保健観察官の名称を社会復帰調整官に変更することについてであります。
 第三は、裁判所が医療を受けさせるために入院の決定をする要件等についてであります。
 原案は、「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」としておりますところ、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」と変更するものであります。
 第四は、入・通院患者の申立ての期間制限に係る規定を削除するものであります。
 第五は、政府は、精神医療等の水準の向上を図るものとすること、及び政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、施行状況を国会に報告することとし、所要の措置を講ずるものとするとの旨の条項を附則に加えるものであります。
 以上が本法律案に対する衆議院における修正部分の趣旨及び概要であります。
 委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

民主党対案趣旨説明】

第156回参議院 法務委員会会議録第9号(同)
○委員長(魚住裕一郎君) 次に、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案について、発議者朝日俊弘君から趣旨説明を聴取いたします。朝日俊弘君。
○委員以外の議員(朝日俊弘君) ただいま議題となりました精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案並びに裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案の趣旨を説明いたします。
 二十一世紀の我が国における重要課題の一つは、「障害者と共に生きる街づくり」、すなわちノーマライゼーションの理念に基づく地域社会の実現であります。とりわけ、従来の取組が大きく遅れていた精神障害者の医療と福祉の分野については、こうした理念の重要性を特に強調しておきたいと思います。
 しかしながら、一昨年の大阪・池田小学校事件における不幸な事件を契機として、重大な他害行為を犯した精神障害者に対する新たな立法化の動きが一気に加速され、政府は関係する審議会の意見を聞くこともなく、昨年の通常国会心神喪失者等医療観察法案を提出いたしました。こうした政府・与党の一連の動きは、全国各地で地道に取り組まれてきている障害者支援の活動に水を差すものとなったばかりか、新たな差別感情をあおることにもつながり、結果として障害者の社会参加を促進する動きを逆流させるものと言わなければなりません。
 今回、私たちは、精神保健福祉施策全般の着実な改善計画の実施と併せて、従来、必ずしも適切ではなかった司法と精神医療の連携の改善を図ること等を目的として、現行の精神保健福祉法等の改正案を提出させていただきました。
 これに対して、政府が提出した法律案は、司法精神鑑定の在り方や、司法と精神医療の連携、あるいは措置入院制度の実態等々、現行法制度上の問題点には一切目を向けることなく、更に新たな強制医療法を制定しようとするものであり、到底認められるものではありません。
 また、衆議院における修正の内容についても、政府案の本質的な部分は何ら変更されておらず、むしろ概念規定のあいまいさゆえにかえって理解し難い内容となっており、賛同することはできません。
 以上に述べた理由から、私たちは、新たな立法によるのではなく、現行の法制度の一部改正とその運用の改善を図る観点から本法律案を提出させていただきました。
 以下、その内容について説明いたします。
 第一に、起訴前及び起訴後における精神鑑定の適正な実施を目的として、最高裁判所最高検察庁のそれぞれに司法精神鑑定支援センターを設置し、鑑定人の選定事務、精神鑑定に係る情報と資料の収集、調査分析等を行うこととします。
 このことにより、鑑定人の選定に関して裁判官や検察官の負担を軽減することができるとともに、鑑定に当たる精神科医を適切に選定し、鑑定結果の偏りやばらつきを防ぐことができます。また、情報の収集、分析を通じて、より精密な鑑定技能を開発していく道をも開くことが期待できます。
 第二に、現行の措置入院制度に係る判定委員会の設置であります。
 都道府県知事の下に新たに判定委員会を置くこととし、精神保健指定医のうちから知事が任命する二名の合議体を構成し、措置入院及び措置解除の判定を行うものとします。
 第三に、現行の措置鑑定が極めて限られた情報の下で行われている現状を改善するため、精神保健福祉調査員制度を設置し、措置鑑定の必要性を判断するための調査、判定委員会の求めに応じた調査等を行い、より厳密な措置鑑定が実施されるよう支援します。
 第四に、人員配置基準が低い現在の精神科病棟では十分な医療、看護の提供ができないことから、より密度の高い人員配置基準を満たす精神科集中治療センターを制度化します。
 この集中治療センターは、政府案のように重大な他害行為の有無を要件とするものではなく、あくまでも治療上の必要性からサービスを提供する、言わば精神科ICUであります。
 第五に、精神障害者の社会参加、とりわけ措置解除後の退院患者さんの社会復帰支援体制を強化するため、精神障害者の保健、福祉に関する業務を担う者の相互の連携、協力を図ることを義務付けることとします。
 以上が提案理由及びその概要の説明であります。
 なお、私たちは、本改正案の提出と併せて、精神保健福祉改善十か年戦略(仮称)を提案しており、新たに策定された新障害者基本計画及び新障害者プランの確実な実行と併せて、精神保健福祉全体のレベルアップを目指していること。そして、こうした精神保健福祉施策の大幅な改善こそが、たとえそれが遠回りではあっても、他害行為を犯した精神障害者のための対策ともなるということを強調しておきたいと思います。
 議員各位におかれましては、私どもの提案に是非とも御賛同をいただきますよう心からお願い申し上げまして、趣旨の説明とさせていただきます。
 ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) 以上で趣旨説明及び衆議院における修正部分の説明の聴取は終わりました。
 四案に対する質疑は後日に譲ることとし、本日はこれにて散会いたします。

法務委員会での質疑が始まりました。衆議院における質疑と同様に、対象行為の限定や再犯要件などについての質問が繰り返されました。
はじめは与党側委員からの質疑です。
【佐々木委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第10号(平成15年5月8日)
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 法務及び司法行政等に関する調査のため、来る十三日午前十時に、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の審査のため、同十三日午後一時に、それぞれ参考人の出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認めます。
 なお、その人選につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
○委員長(魚住裕一郎君) 政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の審査のため、本日の委員会に法務省刑事局長樋渡利秋君、法務省矯正局長横田尤孝君、法務省保護局長津田賛平君、厚生労働省健康局長高原亮治君及び厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長上田茂君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(魚住裕一郎君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
○委員長(魚住裕一郎君) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案を一括して議題といたします。
 四案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○佐々木知子君 おはようございます。自民党の佐々木知子です。
 私は、平成十三年六月に池田小学校の事件が起こった後、自民党の、その当時は触法精神障害者と言われておりましたが、プロジェクトチームに参加して、どういう処遇があるべき姿かということに関与してまいりました。今回、法案が提出されて見てみますと、なかなかに、その私ですら理解するのは難しいという法案になっているかなという感じがいたしました。
 逐条に従って順番に聞いていきたいというふうに思います。
 これまでも、心神喪失あるいは心神耗弱等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇につきましては、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、長いので以後、精神保健福祉法というふうに言わせていただきますが、が措置入院制度というのを定めておりまして、措置入院制度という、これは行政処分なんですけれども、それに基づいて処遇していたわけですが、今回これとは別に新たな処遇制度を創設したということは、この精神保健福祉法では足りないところがある、これでは十分ではないということだというふうに考えるわけですが、それについてはどのようにお考えでしょうか。厚生労働省にお伺いいたします。
○政府参考人(上田茂君) まず初めに、精神保健福祉法に基づく措置入院制度につきまして御説明申し上げたいと思います。
 この制度は、都道府県知事が警察機関等の通報により精神障害者について精神保健指定医の診察をさせ、その結果、二名以上の指定医が医療及び保護のために入院させなければ自傷他害のおそれがあると認めたときに都道府県知事はその者を措置入院させることができるものであります。措置入院者を入院させている精神病院等の管理者は、その病状等を定期的に都道府県知事に報告することが義務付けられております。また、指定医の診察の結果、措置入院者が入院を継続しなくても自傷他害のおそれがないと認められるに至ったときは、都道府県知事は直ちにその者を退院させなければならないこととなっております。
 これまで、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇につきましては、今申し上げましたこのような措置入院制度、措置入院などの形で一般の精神病院に入院するケースが多くありましたが、措置入院制度の枠組みを前提として処遇を行うことにつきましては、こういった者についての入退院の判断を事実上、医師にゆだねておりまして、その結果、医師に過剰な責任を負わせることになっているということ、あるいは都道府県を超えた連携を確保することができないこと、また退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みがないこと、このような問題があると考えられるところでございます。
 したがいまして、今回の法案は、このような問題に対応すべく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する処遇を医師と裁判官により構成された裁判所の合議体が決定する仕組みを整備した上で、国が責任を持って専門的な医療を行うとともに退院後の継続的な医療を確保することとしまして、これにより、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、本人の社会復帰を促進しようとするものでございます。
○佐々木知子君 それが第一条の「目的」ということで、第二条の「定義」の方に参りたいと思います。
 第二条一項の「保護者」につきましては、精神保健福祉法と同じということでございます。
 二項で「対象行為」というのを定めておりまして、各号を見ますと、一号は放火ですね。二号が強制わいせつないし強姦。三号が殺人。これについては自殺関与、同意殺人も入っております。それから、四号が傷害。それから、五号が強盗という形になっております。四号の傷害については元々未遂規定はございませんけれども、ほかは全部未遂を含むと。
 傷害致死や強盗致死については条文が上がっておりませんが、これはそういう結果加重犯も当然含まれるということだというふうに考えますが、この五つを対象行為とした理由を問いたいと思います。
 と申しますのは、傷害というのは元々罰金刑もあるような罪種でございまして、重いものから非常に軽いものまである。放火といきましても、一般に建造物等以外放火というのは割と軽い対応というものが多いですし、自殺関与、同意殺人というのも執行猶予が付いたりすることがほとんどでございますし、あるいは強制わいせつや強盗であっても個別に見れば非常に軽いという対応も随分ございます。それについてお伺いしたいと思います、法務省に。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 本法律案におきましては、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ及び傷害に当たる行為を対象行為としまして、心神喪失又は心神耗弱の状態でこれらの行為を行った者を本制度の対象としておりますことは委員御指摘のとおりでございます。
 このうち、殺人、放火及び傷害致死につきましては、いずれも個人の生命や財産に重大な被害を及ぼす行為であります上、これらの行為に及んだ者の中に心神喪失者等が占める割合が相当程度高くなっていることが認められます。
 また、強盗、強姦、強制わいせつ及び傷害につきましても、同様に個人の身体、財産等に重大な被害を及ぼす行為でありまして、しかも他の犯罪行為に比べて心神喪失者等により行われることが比較的多いことが認められております。
 確かに、建造物等以外放火、自殺関与、強制わいせつ等におきまして、個別の事案を見れば比較的軽微な被害にとどまる場合があり得ますが、建造物等以外放火につきましては犯罪成立要件として公共の危険を必要としていることなど、類型的に個人の生命、身体、財産等に重大な被害を及ぼす危険の強い行為であり、自殺関与、強制わいせつにつきましても、個人の生命や性的自由といった重大な法益を侵害することとなる行為でございます。
 しかも、対象行為といたしまして類型化した行為につきましては、心神喪失者等により行われることが比較的多いものであることにかんがみまして、心神喪失等の状態でこれらの行為を行った者については、特に継続的かつ適切な医療の確保を図ることが肝要と考えられますことから、これらの行為を対象行為としたものでございます。
 なお、傷害につきましては、法定刑に科料が定められていることからもお分かりいただけますように、傷害罪に当たる行為の中には個人の身体に重大な被害を及ぼすおそれのないものまで含まれていることにかんがみまして、傷害のみを行い、他の重大な他害行為を行わなかった対象者につきましては、本法律案第三十三条第三項におきまして、傷害が軽い場合に限り、当該対象者が行った行為の内容、当該対象者の病状、生活環境等を考慮して、当該対象者に対して本制度による処遇を行うまでの必要性がないと判断される場合には本制度の対象としないことができるとしているところでございます。
○佐々木知子君 三十三条三項については後で聞く予定だったんですけれども、今おっしゃったものですから、ついでにお聞きします。
 傷害が軽い場合というふうに規定がありますけれども、一般にこの傷害というのはどの程度のものであれば軽いと予測されておられるのか、お答えになれればお答えください。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 三十三条三項に規定する傷害が軽い場合か否かにつきましては、加療期間のほか、傷害の種類、内容等も考慮し、社会通念により決せられることとなると考えます。
 あくまでも目安としてではございますが、傷害が軽いか否かは必ずしも加療期間のみで決せられるものではないものも、例えば打撲傷や擦過傷の傷害を負わせた場合でありまして、その加療期間も一週間に満たないようなものであれば傷害が軽い場合に当たる場合が少なくないと考えられますが、あくまでも目安と、今考えられる目安として申し上げたものでございまして、これはまた個々の具体的な事件において検察官が判断することであると考えております。
○佐々木知子君 確かに、今、類型として挙げたということをおっしゃっておられまして、犯罪白書を例年見てまいりますと、例えば放火は精神障害者及びそのおそれのある者が占める割合というのが一〇%程度ということで一番高い犯罪類型であるというふうに私も理解しておりますし、殺人も恐らくそれに次いでぐらい高かっただろうというふうに思います。類型として挙げられたということはよく分かりました。
 次に、続いて二条の三項に参りまして、三項で対象者を定めております。これは、まずは対象行為を行ったことと、そして一つには心神喪失ないし心神耗弱によって不起訴処分になったこと、もう一つの対応としては、無罪ないし刑を減軽する確定裁判があったことというふうになっております。
 刑を減軽する確定裁判と申しますのは、一般的に心神耗弱であれば減軽をする、通例であれば懲役十年なんですけれども、懲役五年にするというような場合もあります。あるいは、執行猶予にするという場合もありますが、これに関しては執行猶予が付いた場合のみというふうになっているかと思いますが、減軽、いわゆるその懲役十年が五年になったような場合にはこれは適用されないというのはどういう理由によるものでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) そのような場合には、刑の執行が優先するものでございますから、刑の執行をして、刑の執行を受けていただくということになるものでございます。
○佐々木知子君 刑の執行が終わったときに、どうしても治療して社会復帰を促す必要があるというふうに考えた場合には、だれがどのような手続を取るのでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) その場合には、本制度によるものではなく、精神保健福祉法、先生、略称して言っていただきましたが、その法律に基づく通報をするか否かということが問題だろうかと思います。
○佐々木知子君 対象者ですけれども、これは通年、どのくらいの数いますでしょうか。法務省です。
○政府参考人(樋渡利秋君) 法務省の調査によりますれば、平成八年から同十二年までの五年間におきまして、殺人、放火等の重大な他害行為を行ったとして検察庁において受理した者のうち、刑事手続において心神喪失者若しくは心神耗弱者と認められ又はその疑いがあると認められました者の数は、合計二千三十七人でございます。
 したがいまして、本制度において検察官による申立ての対象となる者の数は年間四百人程度となることが考えられます。
○佐々木知子君 ちなみに、それは罪種別では分かりますか。分からなければ結構ですが。
○政府参考人(樋渡利秋君) 今ちょっと手元にないものでございますので、失礼いたします。
○佐々木知子君 では、心神喪失状態で器物損壊を犯した、で、不起訴処分にしたと、なお他害のおそれがあるというときは、検察官は従来の精神保健福祉法措置入院を要求するということはこの法律が施行されても何ら変わりがないということになろうかと思います。
 では、対象犯罪であれば、精神保健福祉法ではなく、この法律だけが適用になると、そういうことでよろしいわけですね。要するに、大なり小なりの関係になるということでよろしいんでしょうね。
○政府参考人(樋渡利秋君) 本法律案の附則におきまして、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正することとしておりますが、改正後の同法におきましては、検察官が本法律案第三十三条第一項に定める申立てを行った場合には、精神障害者又はその疑いのある被疑者又は被告人について不起訴処分をし、又は裁判が確定した場合における都道府県知事に対する通報を要しないこととしているところでございまして、本法律案の対象行為を行った者につきましては本法律案による処遇を決定するための審判が行われることとなります。
 ただし、本法律案による裁判所の決定により入院によらない医療を受けている者につきましては、精神保健福祉法の規定により入院が行われることを妨げないものとされておりまして、状況に応じ措置入院医療保護入院が行われることもあり得るということでございます。
○佐々木知子君 分かりました。
 では、続いて審判についてお伺いしたいと思います。
 具体例といたしまして、殺人を犯した被疑者がいる、簡易鑑定をしたところ精神分裂病であったと。日本精神医学会は統合失調症というふうに称しようということを言っておられますけれども、精神分裂病の診断で心神喪失だから不起訴処分にしたというふうに仮定いたします。そうした場合に、三十三条で、検察官は原則としては地裁に四十二条一項の決定、つまり入通院の申立てをしなければならないということで、これは三条によりますと処遇事件と呼ぶそうでありますが、その例外の場合としては、このように書かれております。法務省案では、継続的な医療を行わなくても心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれが明らかにない場合と。修正案では、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにない場合というふうになっております。
 このようにした理由を提案者にお伺いいたします。
衆議院議員塩崎恭久君) 当初の政府案におきましては、今お話がございましたように、継続的な──要件でございますね。
○佐々木知子君 そうです。
衆議院議員塩崎恭久君) 対象行為を行った際の精神障害を改善し、入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった障害により再び対象行為を行うおそれというのが政府案であったわけであります。しかし、その場合にはどうしてもいろいろな誤解を招くということで、この入院の要件というものを限定的にしようじゃないかと。
 衆議院の審議におきまして、入院等の決定を受けた者に対して、言わば危険人物としてレッテルを張るような結果となったり、あるいはかえって本人の円滑な社会復帰が妨げられるというようなことにならないか。あるいは、円滑な社会復帰を妨げることとなる現実かつ具体的なおそれがあると認められるもののみならず、漠然とした危険を感じさせるような、そういうような場合にまで本制度の対象になってしまうんじゃないか。あるいは、特定の具体的な犯罪行為やそれが行われる時期の予測といった不可能な予測を強いてしまうんじゃないかというようなことで、様々な御批判が院内外を問わず出てきたわけでありまして、そこで修正案においては、本人の精神障害を改善するための医療の必要性が中心的な要件であって、そしてそれを明確化するとともにこのような医療の必要性の内容を限定いたしまして、精神障害の改善に伴って、同様の行為を行うことなく社会に復帰ができるようにという配慮をすることが必要だというふうに認められるものだけをこの本制度の対象にしようじゃないかということで、入院の要件の明確化、そして本制度の目的に即して限定的なものにするということを明らかにするというのが今回の修正の一番の心であります。
○佐々木知子君 ありがとうございます。
 その三条の処遇事件というところを見てみますと、管轄は対象者の住所、居所若しくは現在地又は行為地を管轄する地裁というふうになっております。
 勾留中に、先ほどの例で殺人の不起訴処分をした場合、身柄はここに、そこにあるわけですから、その地裁に申立てをすればいいということになりますが、鑑定の結果、責任能力があるということで起訴をしたものの裁判所での正式鑑定の結果、心神喪失で無罪になったという場合に、そこで身柄は釈放されてしまいます。で、そうした場合には検察官はどこに、どのように申立てをするのか、これについて法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) 御質問の趣旨が管轄の問題でありますれば委員御指摘のとおりの法律案になっておりまして、検察官は被告人が釈放されている場合でありましても、この管轄の要件を満たす裁判所に審判の申立てを行うこととなろうというふうに思います。
○佐々木知子君 要するに、身柄は釈放されてしまいますし、対象者をもう拘束はできませんので、できるだけ早い時期に対象者に出てきてもらわないと審判も開けませんので、社会復帰を促すというこの処遇をするという形になるんだというふうに思いますが、地裁では処遇の要否、内容を一人の裁判官と一人の医師の合議体により決定するということにしております。これは十一条ですけれども、その理由をやはり法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) 本制度によります処遇は、継続的かつ適切な医療等を行うことにより本人の社会復帰を促進することを最終的な目的とするものであり、このような処遇の要否の判断に当たりましては医学的知見が極めて重要であることは当然でございますが、自由に対する制約や干渉を伴うものでありますので、医学的な立場からの判断の合理性、妥当性を吟味することに加え、対象者の生活環境にかんがみ、継続的な医療が確保されるか否か、同様の行為を行うことなく社会に復帰することができるような状況にあるか否かといった純粋な医療的判断を超える事柄をも考慮することが必要でございます。
 そこで、医師による医療的判断に併せて裁判官による法的判断が行われ、また両者のいずれの判断にも偏ることがないようにすることにより両者が共同して最も適切な処遇を決定することができる仕組みとするため、一人の裁判官と一人の医師の合議体により処遇の要否、内容を決定することとしたものでございます。
○佐々木知子君 御趣旨はよく分かるんですが、現実問題といたしまして、精神科医と、ある意味では司法精神医学には素人同然の裁判官がかかわった場合には、精神科医がこうだと言っているのに、裁判官はいやそうではありませんと言うほどの知識、識見があるというのは余り想定できませんので、私は裁判官、これからはそういう知識、その識見というのを付けるような特殊な教育なり研修というのを施していかなければ、実際問題としてはこれは合議体を設けたものの、精神科医が言うがままということになりかねないのでは、ちょっと危惧しておりますので、そこのところよろしくお願いしたいというふうに思います。
 で、先ほどの無罪判決があったという場合を想定した場合ですが、この裁判官というのは、その合議体の裁判官というのはその殺人事件無罪にしたという、に関与した裁判官のうちの一人であっても構わないのですか。もちろん判事補は駄目だということになっております。あと二人は恐らく裁判官でしょうから、それで構わないのでしょうか。法務省にお伺いします。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 本法律案では処遇事件の前提となる刑事裁判に裁判官として関与したことを除斥事由として規定しておらず、当該刑事裁判に関与した裁判官が処遇決定の審判の合議体に加わることは可能でございます。
○佐々木知子君 要するに、妨げる規定がありませんので恐らくそういう形になるというふうに思います。実際問題として、東京地裁や大阪地裁などの大きなところは別ですけれども、小さな地裁であれば刑事事件に携わっているというのは三人しかいないとか、で、判事補を除くとその人にもうおのずから限られるというようなケースが今ございますので、恐らくは妨げていれば実際問題できないという形になりかねないというふうに思いますので、法曹人口がかなり増えるであろうまでの間はそうじゃないと実際動かないんだろうというふうにも思うわけです。
 で、同じように医師についても、それまでに鑑定に携わった医師、あるいはこれまでもその対象者の実際の治療に携わった医師であることも妨げないというふうに解釈してよろしいわけですね。対法務省です。
○政府参考人(樋渡利秋君) 御指摘のとおりでございます。
○佐々木知子君 この合議体の医師は六条で精神保健審判員というふうに称されております。で、精神保健判定医から選ばれるということになっておりますけれども、その名簿はどういうふうな基準で作成するのでしょうか。加えて、精神保健福祉法に言う指定医とどういうふうな違いがあるのでしょうか。厚生労働省にお伺いいたします。
○政府参考人(上田茂君) 合議体に参加します精神保健審判員は、厚生労働大臣最高裁判所に送付する名簿に記載されました精神保健判定医の中から処遇事件ごとに裁判所が任命することとされております。
 この精神保健判定医の条件としましては、原則として精神保健指定医であるほか、精神保健指定医としての臨床経験が一定年数以上あって措置診察に一定件数以上従事したことがあること、また司法精神医学に関する研修を受講したこと等、こういったことを資格要件とすることを検討しているところでございます。
○佐々木知子君 ごめんなさい、私、聞き漏らしたかもしれません。今、指定医というのはどれぐらいいるんですかね。
○政府参考人(上田茂君) 約一万人でございます。
○佐々木知子君 精神保健判定医というのは指定医の中から選ばれるんではなくて、別でも構わないんですかね。それで、要するに各県にどれぐらいの数というのが予定されているんでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) 先ほど申し上げましたように、判定医の条件としましては、原則として精神保健指定医でございます。それに加えまして、先ほどの一定経験ですとか研修を受講というようなことを資格要件としているところでございます。
○佐々木知子君 ちょっとどれぐらい予定されているのか分からないんだけれども、まあいいわ、合議体の裁判官と精神保健判定医というのは具体的にはどのようにして処遇の要否や内容を判断することになるんでしょうか。これは十二条で、法務省に対しての質問です。それを十三条のように修正したのはなぜですかということは、提案者に対する質問です。
○政府参考人(樋渡利秋君) 本法案による処遇は、継続的かつ適切な医療等を行うことにより、本人の社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでございまして、その処遇の要否の判断に当たりましては医学的知見が極めて重要であることは当然でございますが、本制度による処遇は自由に対する何らかの制約や干渉を伴うものでありますので、医師による医療的な判断に併せて裁判官による法的判断が行われ、また両者のいずれの判断にも偏ることがないようにすることにより、両者が共同して最も適切な処遇を決定することができる仕組みとすることが重要であると考えられますことから、一人の裁判官と一人の医師により構成される合議体が処遇の要否、内容を決定することとしたものでございます。
 したがいまして、裁判官と精神保健審判員が本制度による処遇の要否、内容を判断するに当たりましては、裁判官は例えば医学的な立場からの判断の合理性、妥当性を吟味することに加え、対象者の生活環境にかんがみ、継続的な医療が確保されるか否か、同様の行為を行うことなく社会に復帰できるような状況にあるか否かといった点をも考慮し、また精神保健審判員は、例えば精神科医による鑑定結果の医学的合理性、妥当性を吟味するとともに自らも対象者の病状やその推移等を考慮しつつ、両者がその専門的知見を最大限に生かしつつ、かつ十分に協議することによりまして、保護の対象者に応じた最も適切な処遇が決定されることとなると考えております。
衆議院議員塩崎恭久君) 今回の修正でありますけれども、一言で言えば、お互い何を、この裁判官とお医者さんたる審判員が何をやるのかというのがはっきりしないじゃないかということで、それを明確にしたということで、先ほど申し上げたような点を考慮して、それぞれの知見に基づいて判断を合議体でもってするということを明確にしようじゃないかということであります。
○佐々木知子君 評決がなされるということが十四条に規定がありますが、十五条を見ますと、審判にはその他精神保健参与員がかかわって、特に必要がないと認められる場合を除いては意見を述べることになっております、これは三十六条ですが。この精神保健参与員というのは、どういう資格から選ばれて、どういう役割を期待されているのでしょうか。これは厚生労働省にお伺いいたします。
○政府参考人(上田茂君) 本制度においては、対象者の適切な処遇を決定するためには、個々の対象者の病状あるいは生活環境等を踏まえた上での対象者の処遇の要否、内容を決定することが適当と考えられるところでございます。
 このため、本制度におきましては、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的な知識及び技術を有する者を精神保健参与員として原則的に審判に関与させ、その専門的な知識、経験に基づき裁判所に対して意見を述べさせることとしているところでございます。
○佐々木知子君 理念的には結構なんですけれども、精神科医がこうだと言っているのに、精神保健参与員が、いえ、そうではなくて、私はこうだと思いますというのは、実際、本当に言えるんでしょうかね。
○政府参考人(上田茂君) 精神保健福祉士につきましては、専門的知識及び技術を持って精神医療の、医療ですとか、あるいは各種の社会復帰施設等におきましての社会復帰、社会復帰に関する相談、指導等を行っているいわゆる精神保健、社会福祉に関する専門家でございます。そういった立場から、先ほど申し上げました対象者の病状あるいは生活環境等、こういった点を踏まえながら意見を述べるというような役割を担うところでございます。
○佐々木知子君 これからそういう方が適正な意見を述べれるというふうに制度を発展させていかなければならないんだというふうに思っております。
 四十二条なんですけれども、これも修正が掛かっておりまして、三十三条とある意味では同じような趣旨ではないかというふうに思うんですが、本制度による入院等の要件を、入院をさせて医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合から、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合に修正になっておりますけれども、この答えは先ほど三十三条の修正のときにお述べになったことと同じだというふうに考えてよろしいでしょうか。提案者です。
衆議院議員塩崎恭久君) おっしゃるとおりであります。
○佐々木知子君 これは法務省にお伺いしたいんですけれども、本制度による処遇というのは、様々な批判などもありましたように自由の制約や干渉を必然的に伴うものであります。その要否を決する審判手続においては対象者の権利が十分に保障されていなければならないと考えられるわけですが、この点についてどのような手当てがなされているのでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 新たな処遇制度におきましては、対象者、その保護者、弁護士である付添人に対しまして、審判において意見を述べ、資料を提出する権利を認めるとともに、決定に不服がある場合には抗告する権利を認め、また最初の処遇の要否、内容を決定するための審判については、弁護士である付添人を必ず付することとし、さらに入院の決定を受けた者につきましては、その後も、原則として六か月ごとに裁判所が入院継続の必要性の有無を確認するとともに、入院患者の側にも裁判所に対する退院許可等の申立て権を与えておりますなど、対象者の適正な利益を保護するため様々な権利を保障しているところでございます。
○佐々木知子君 民主党は、いいんですね。対民主党にも出しているんだけれども。
○委員長(魚住裕一郎君) 質問通告は。
○佐々木知子君 質問通告。
 えっ、出してないの。あれ、ここに書いてあるのに。あれ、出してないの。じゃ、いいよ。
   〔江田五月君「あるいは僕が答弁してもいいんですけれども」と述ぶ〕
○佐々木知子君 そう。じゃ、いいですか。
 今さっき法務省がお答えになったんですけれども、民主党案においては、その処遇の決定手続において対象者の権利というのはどのように保障されているのですかと。
 これ出していたんだけれども、今いないなと思って。
 いい。じゃ、答えない。
○委員長(魚住裕一郎君) お答えできますか。
○佐々木知子君 じゃ、まあいいですけれども。
   〔江田五月君「次の機会に」と述ぶ〕
○佐々木知子君 じゃ、次の機会あるからいいですよ。
 じゃ、また法務省に聞きます。
 「対象者の鑑定」というのが三十七条にございます。「精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師に鑑定を命じなければならない。」というふうにありますが、これはどういう意味でしょうか。
 この鑑定というのは、いわゆる責任能力の鑑定というのとはどれほど観点が違うということを考えておられるのか、これについてもお答え願いたいと思います。
○政府参考人(樋渡利秋君) 新たな処遇制度における対象者の鑑定を行う医師は、原則として精神保健判定医の中から選任することが想定されておりますから、毎年、厚生労働大臣が作成し、最高裁判所を通じて各地方裁判所に送付された名簿に記載された精神保健判定医の中から、個別の案件に応じ、裁判所が選任することとなります。
 また、精神保健判定医の名簿には登載されていない者でありましても、例えば精神科医として長年にわたる臨床経験があり、かつ措置診察等に多数回にわたって従事した経験を有する医師につきましては、裁判所が精神保健判定医と同等以上の学識経験を有する医師として対象者の、対象者の鑑定を命ずることが可能となるわけでございます。
 そこで、刑事事件における責任能力の鑑定との相違でございますが、刑事事件における責任能力の鑑定は、行為者の刑事責任の有無及びその内容を判断するため、犯罪に当たる行為を行った当時において、行為者が責任能力、すなわち物事の善悪を判断し、かつその判断に従って行動する能力を有していたか否かに関する専門家の意見を聴取するものでございます。
 これに対し、新たな処遇制度における対象者の鑑定は、裁判所が対象者に対する新制度における処遇の要否及びその内容を判断するため鑑定を実施した時点におきまして、対象者が精神障害者であるか否か、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があるか否かに関する専門家の意見を聴取するものでございますから、責任能力の鑑定とは、鑑定の目的におきましても鑑定事項の点におきましても異なるものでございます。
○佐々木知子君 違うということはよく分かりましたけれども、司法精神医学に通じた精神科医というのは非常に日本では少ないというか、あるいはいないかもしれないと言われている状態でございますので、そこまで鑑定を、違うということが分かった上で診断ができる鑑定医を私はこれから育てていかなければいけないというふうに考えております。
 次、医療に参りたいと思いますけれども、これは厚生労働省にお伺いいたします。
 指定入院医療機関というふうにありますけれども、これはどのくらいの数というのが予定されているのでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) お答えいたします。
 本制度において必要となる指定入院医療機関の数あるいは病床の数につきましては、現時点では的確なことは、的確なことを述べることは困難ではございます。
 なお、殺人、放火等の重大な他害行為を行い、検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち精神障害のため心神喪失若しくは心神耗弱を認められた者、あるいは第一審裁判所で心神喪失を理由として無罪となった者、あるいは心神耗弱を理由として刑を減軽された者の、これらの総数が平成八年から平成十二年までの五年間で約二千名であること、あるいは通院患者の再入院も想定されることなどから、一年間の入院対象者数は最大四百人程度ではないかというふうに推計されているところでございます。このうち、実は、厚生労働省の調査によりますと、平成十二年度におきまして、検察官通報による重大犯罪ケースで措置入院となった患者は半年で約五〇%が措置解除になっております。
 そういうことも参考にいたしますと、一年間で約半数が退院できると、このように仮定して推計した場合、本制度施行後、約十年後に全国で約八百から九百床程度が必要になり、以後その水準で推移するものというふうに考えているところでございます。
○佐々木知子君 全く新しいものを作らないといけないということで、これから作るのは大変だというふうに思いますが、今までも措置入院で入ってきた精神障害のある人というのはいるわけで、その人たちに対する治療内容とこの本法律案に基づいた治療内容というのはどのように違うというようなことが想定されているのでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) 本制度におきましては、国の責任の下、指定医療機関で行う医療は、患者の精神障害の特性に応じ、その円滑な社会復帰を促進するために必要な医療であるということでございます。
 したがいまして、こういった指定入院医療機関におきましては、これは厚生労働大臣が定める基準に基づきまして、基づく医療関係者の配置を手厚くする、あるいは医療設備や、施設や設備の十分整った病棟において高度な技術を持つ多くのスタッフが頻繁な評価ですとか治療を行う、また医療費についても患者本人が負担することなく全額を国が負担すると、こういうような医療を行うこと、このように他の一般医療機関あるいは措置入院に比べまして手厚い精神医療を行うというような内容となっているところでございます。
○佐々木知子君 続きまして、地域社会における処遇について、法務省にお伺いしたいと思います。
 通院患者にとりまして退院後のアフターケアというのは非常に重要なことだと考えておりますが、政府案におきましてはどのようにして継続的な医療を確保していくこととしておられるのでしょうか。
○政府参考人(津田賛平君) お答え申し上げます。
 ただいま委員御指摘のとおり、退院後のアフターケアは本人の社会復帰を促進する上で極めて重要なことであると考えております。
 そこで、保護観察所におきましては、退院後の対象者に継続的な医療を確保するため、言わば地域社会におきます処遇のコーディネーターといたしまして、指定通院医療機関都道府県、市町村等の関係機関と協議をいたしまして地域社会における処遇の実施計画を定めます。その上で、この実施計画に基づきまして各機関が行います医療、援助等の処遇が適正かつ円滑に実施されますよう、関係機関相互の間で緊密な連携の確保に努めてまいりたい、このように考えております。それとともに、医療機関、保健所等の関係機関と十分に連絡を取り合いながら精神保健観察を実施することといたしております。
 具体的に申し上げますと、対象者の通院状況でございますとか生活状況を見守りつつ、御本人や家族からの相談に応じまして通院や服薬を継続するよう働き掛けていくこととしております。また、精神保健観察の過程におきまして、本制度による処遇の必要がなくなったと認める場合には、地方裁判所に対しまして処遇の終了を申し立てることとしておりますし、また必要に応じましては、通院期間の延長あるいは再入院を申し立てることもございます。
 以上申し上げましたとおり、保護観察所におきましては、このような処遇等を実施することを通じて対象者の継続的な医療を確保して、その社会復帰の促進に努めてまいることとしております。
○佐々木知子君 円滑な社会復帰には入院中に行われる生活環境の調整が重要というふうに考えられますが、具体的にはどのように調整していくおつもりでしょうか。
○政府参考人(津田賛平君) ただいま御指摘のとおり、対象者の円滑な社会復帰を図るためには、対象者が指定入院医療機関に入院しておられます間から、保護観察所が関係機関と連携いたしまして退院後の生活環境の調整を行うことが必要不可欠であると考えております。
 この生活環境調整の具体的なものがどのようなものであるかというお尋ねでございますが、個別の事案によって異なるとは思いますが、例えば保護観察所が指定入院医療機関の医師等と協議いたしまして、入院中の御本人やその家族の希望をも踏まえまして退院後の居住地の生活環境を調査することといたしております。そして、必要に応じまして家族等に対しまして引受けを促すなどいたしますほか、関係機関と連携協力いたしまして、対象者が退院後に必要となる医療でございますとか保健あるいは福祉の措置が受けられますよう、調整を図ることといたしております。
○佐々木知子君 保護観察所保護観察官というのは八百人、実働は六百人ぐらいじゃないかというふうに言われておりますけれども、今までの保護観察の仕事で手一杯じゃないかというふうに思うわけなんですけれども、新たな処遇を行う、そういう人数の問題もさることながら、その専門性や能力というものはあるというふうに考えてよろしいんでしょうか。
○政府参考人(津田賛平君) 本制度におきましては、保護観察所は、対象者の継続的な医療を確保いたしますために、医療機関はもとより、先ほど申し上げましたとおり、地域社会で精神障害者の援助業務を行いつつ、行っておられます保健所等の関係機関と連携いたしまして、通院患者の生活状況を見守ったり、その相談に応じたり、通院や服薬を働き掛けるなどの精神保健観察を行うことといたしております。
 このような今申し上げました処遇は、御指摘のとおり、精神保健でございますとか精神障害者福祉等に関する専門的な知識や経験に基づいて行われることが不可欠でございます。
 そこで、これらの処遇を担う者といたしまして、新たに相当数の社会復帰調整官を保護観察所に置くことといたしております。この社会復帰調整官につきましては、精神保健士の有資格者など、精神保健及び精神障害者福祉等に関する専門的な知識を有するとともに、精神障害者に対する相談、援助等の業務に従事した経験を有する方々の中から新たに採用することといたしまして、全国の保護観察所に、先ほど申しましたように相当数配置して、精神保健観察等の処遇に当たらせるということといたしております。
○佐々木知子君 社会復帰調整官というのは今回の修正案で修正された名称というふうに理解しておりますけれども、社会復帰を調整させるということが仕事だということで、これは大変なことなわけですけれども、地域社会内の処遇において、対象者の社会復帰のためには関係機関相互の連結が不可欠であると考えますが、保護観察所はどのように連携を確保していくおつもりでしょうか。
○政府参考人(津田賛平君) 委員ただいま御指摘のとおり、対象者の社会復帰を促進いたしますためには、地域社会において関係機関が連携いたしまして処遇に当たることが極めて重要でございます。
 そこで、保護観察所の長は、関係機関と協議いたしまして、具体的な医療、援助、精神保健観察の内容等を定めた処遇の実施計画を作成いたしまして、その円滑かつ適正な実施を図ることといたしております。このような関係機関相互の緊密な連携を確保いたしますため、保護観察所の長は、これら関係機関と対象者の病状でございますとか生活状況等の情報を交換いたしまして、あるいは随時、処遇会議を開くなどいたしまして情報の共有化を図りまして、実施計画に定められました処遇の実施状況を把握するとともに、必要に応じまして処遇の適切な実施を各機関に要請するほか、通院患者の病状等の変化に応じまして実施計画の見直しなどを各機関に諮る、このようにしたいと考えております。
 以上申し上げましたように、本制度におきましては、保護観察所が言わば地域社会におきます処遇のコーディネーターといたしまして、関係機関相互間の連携を確保いたしまして、対象者の必要な援助等が得られるよう調整することといたしております。
○佐々木知子君 ありがとうございます。
 私が再三、日本では司法精神医学というのが進んでいないということを言っておりまして、理解している限りでは大学に司法精神医学の講座があるところはないのじゃないかというふうに思っております。我が国における司法精神医学というのをやっぱり発達させていかなければ、これは絵にかいたもちになりかねないというところが私はあるというふうに危惧しているわけですが、我が国における司法精神医学の現状をどのように考えていて、それを踏まえた上で、本法案の施行に向けて、我が国における司法精神医学の充実にどのように取り組んでいくつもりなのか、厚生労働省にお伺いいたします。
○政府参考人(上田茂君) 司法精神医学につきましては、イギリスを始め専門治療施設を有する諸外国におきましては、重度の精神病等により問題行動を示す者に対する治療ですとか、あるいは社会復帰に貢献する形で取り組まれているところでございます。
 一方、我が国の司法精神医学につきましては、従来、責任能力の鑑定に主眼が置かれておりまして、今後は患者の治療あるいは社会復帰促進の観点から更に充実を図る必要があるというふうに考えているところでございます。
 したがいまして、厚生労働省におきましては、平成十四年度から厚生労働科学研究費補助金におきましてこういった研究を行っております。司法精神医学に関する研究を行っております。こういった研究への助成を行うとともに、また十四年度から、医師、看護師、精神保健福祉士を海外に派遣しまして司法精神医学の研修に従事させているところでございます。今後は、このような海外での研修を受けられた方あるいは専門家による国内の医療関係者に対し研修を行うこととしております。また、今年度から国立精神・神経センターに司法精神医学に関する研究部を設置いたしまして、そして臨床、疫学、社会学、心理学などを合わせた総合的な観点から司法精神医学に関する研究を進めていく、今年度から、いく予定でございます。
 こういった研修ですとか研究を今後とも積極的に取り組みながら、司法精神医学の充実、あるいはこういった医学が治療ですとか社会復帰促進への発展へつなげるように取り組んでいきたいというふうに考えております。
○佐々木知子君 是非そうしていただきたいと思っております。
 これは最後の質問ですけれども、法務省に。
 捜査段階の精神鑑定、特に簡易鑑定につきましては様々な批判がなされているところでございます。これらの批判をどのように受け止め、どのように改善していこうと考えておられるのかということについてお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 起訴前の簡易鑑定につきましては、これまで関係各方面から鑑定のための体制、鑑定を嘱託する側の検察官の対応、鑑定を行う精神科医側の対応等につきまして、様々な観点から問題があるのではないかとの御指摘を受けたところでございまして、その中には、地方の実情を踏まえた各地検の工夫を反映したものであったり、個々の事案の性質や鑑定の手法の違いによるのではないかと思われるものもございましたが、検察官と精神科医との意思疎通が十分かどうかなど、鑑定をより適正に実施する上で耳を傾けるべき御指摘も少なくなかったと考えております。
 法務当局といたしましては、簡易鑑定の在り方につきまして様々な御意見があることにかんがみ、更にその適正な運用が行われますよう専門家の意見等をも踏まえつつ、一つは、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し、精神科医等をも加えた研究会等においてこれを活用すること、二つとしましては、検察官に対しいわゆる司法精神医学に関する研修を充実させること、三番目に、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるような運用を検討することなどの方策を講ずることを検討したいと考えております。
○佐々木知子君 ありがとうございます。
 時間ですので、終わらせていただきます。