著作権法の検討・いわゆるCCCDと技術的保護手段の回避(4・完)

いわゆるCCCD、コピーコントロールCDといわれる技術群を避けてCDをコピーすることが、著作権法30条1項2号の「技術的保護手段の回避」にあたるか、という問題の検討です。先日(11/1711/2012/2)の続きです。基本的な用語なんかはスキップ。

今回は、この行為が「回避」に該当するかどうかを考えます。
とはいうものの前回までの検討で私は、これが技術的保護手段に該当しないという見解を明らかにしましたので、本来、回避の検討は不要なんです。たとえば人間以外の動物を殺しても刑法での殺人罪には該当しないのですが、そのことを考えるのに、動物が殺人罪における「人」に該当しないといえばそれで充分なのであって、その後にわざわざ、それを殺す行為が「殺す」に該当するかどうかを検討する必要がないわけです。
ですが、いちおう「回避」について検討してみます。

ZDねっとでは、いわゆるCCCDについて、「何もやっていないから回避ではない」とコメントしています。

田島正広弁護士(以下,田島氏):今回のケースでは,どうやらユーザーが購入したCD(コピーコントロール付きCD)をPCにいれて,やってみたら記録できたというケースが大変多いようですね。

 著作権法第30条第1項第2号は,著作物について技術的保護手段の回避行為を伴わない私的範囲の複製を許していますが,この場合は,コピーを行っても,「回避行為(技術的保護手段を回避したということ)が存在しているといは言えない」可能性が高いです。

 というのも,ユーザーは,技術的保護手段を回避しようとして,何かをやっているわけではないからです。例えば,Macintoshなどでは,搭載しているソフトが自動的に作成しているようですね。つまり,ユーザーが,回避行為を行おうとする以前に,リッピングやコピーができてしまっているわけです。

 専用ソフトウェアを使用するとか,特別なハードウェアを必要とするとかなら話はべつですが,今回のケースでは,そういったことはないようです。

 つまり,技術的な保護手段はかかっているといえるが,技術的保護手段としては,「不十分」だった。そのため,回避行為が行われてない,ということになる可能性が高いのです。

ここで条文をみてみます。法30条1項2号です。

2号 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第120条の2第1号及び第2号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

条文から読み取れる、回避の定義は、
  (1)技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変
  (2)記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く
の2点です。
このうち問題になるのは(1)のほうで*1、いわゆるCCCDの音楽データを読みこんでコピーすることは「信号の除去又は改変」に該当するかどうか、という点を検討することになります。

ここでは2通りのパターンを考えてみます。一つめは、一部のPC用CD−ROMで、メカがもともとTOCを直接読まず、また音楽信号のエラーを無視する仕様になっている場合。これは多数のオーディオ用CD−Rと同じ仕様です。そして二つめは、ドライブの側では再生できない仕様になっているのだけれど、不具合を解消するソフトウェアを使用して再生させる場合です。物理アドレスを直接指定してリッピングするソフトなどがこれに該当します。

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さて、一つめの場合ですと、文字どおりユーザー側は何もしていません。たとえプロテクトをはずすことを意図していたとしても、何もしていないと「回避」には該当しません。上述の田島氏も、「何もしていないから回避ではない」と言っています。
ではなぜ、何もやっていなければ回避に該当しないのでしょうか。

回避にあたらない典型例として「無反応機器の使用」があるので、なぜ無反応機器の使用が回避にあたらないのかを考えてみます。「反応しない」ことと「避ける」ことは全然違うのは当然じゃないか、と思うかもしれませんが、回避するということが、その言葉の意味から必然的に能動的な動作を要求する、というのは、使用する人間からみての話です。機械からみれば、複製禁止信号を読みとってからこれを無効化しているわけです。無反応機器も、およそ信号を全く認識しないわけではなく(その場合もありますが)、通常はかかる信号を読み取ってから、その意味を理解せずに複製を行うわけですから、回避装置と構造に大差はないのです。
「信号の除去又は改変」という条文の文言からみても、無反応機器を意図的に使用した場合を回避から明確に除外する、とは読めません。

なぜ無反応機器が対象外なのかについては、著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ報告書で触れられています。

なお,ある特定の規格の利用機器において識別,反応する信号により技術的保護手段が用いられている場合に,他の規格の利用機器では当該信号を識別,反応しないため,結果的に技術的保護手段が無効化されることも考えられる。このような場合についても規制の対象とすべきという意見もあるが,このような規制は特定の規格を利用機器において義務付けることと実態としては同じになると言え,今後の技術の進展等を考慮すると適当ではないと考えられる。なお,このことに関連し,利用機器の提供者はいかなる技術的保護手段にも対応するように設計する義務はない旨を法文上明記すべきとの意見があった。以上のことをふまえると,技術的保護手段の回避とは,故意に,技術的保護手段に用いられている特定の信号を除去,改変することにより,著作物等の利用機器における当該信号の識別,反応を誤らせ,もって技術的保護手段により制限されている利用を可能ならしめる行為であるといえる。

「今後の技術の進展等を考慮すると適当ではない」というようです。
無反応機器、たとえばある規格の制御信号の形式が開発され実装されるよりも以前から存在した機器を使用した場合に、これを規制してしまうと、ユーザーはその制御信号に対応していない機器を使用することができなくなります。また、メーカーやショップも、その信号に対応していない機器を製造販売できなくなり、結局その規格の実装が強制されることになります。アメリカのように、実装を強制しているところもありますが、日本では「今後の技術の進展等を考慮すると適当ではない」という理由で実装の強制はしていません。
「無反応機器」というのが法律上なんら定義されていないので検討は困難ですが、ピックアップレンズが届かないような領域に信号が書きこまれているような場合ならともかく、通常の無反応機器は、ともかく信号を認識してその意味を理解しないということです。それを故意に使用するユーザーは、回避(信号の除去又は改変)しているといわざるを得ません。

となると、無反応機器の使用が回避にならないのは、原理上「無反応」が「回避」にあたらないからではなく*2、無反応機器への規制にはデメリットが多いから、回避という扱いはしない、ということになります。

ですから、ユーザーの側で何もやっていない場合(とはいってもその機器を故意に使用しているわけですから、純粋に何もやっていないとは言えないのですが)、無反応機器に準じることになります。
この結論は、ネットでの多数意見と差異はありません。

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 それでは、二つめの、ドライブの側では再生できない仕様になっているのだけれど、不具合を解消するソフトウェアを使用して再生させる場合はどうでしょうか。

 さきほどの田島氏は、これについては微妙な立場を採っています。少々長いですが引用します。

田島氏:それは,個別の行為として見る必要があります。まず,リッピングに専用のソフトやハードウェアを使ったり,なにか“小細工”を必要とするケースが,法が制限しているところの回避行為といえます。

 ただし,あまりにも簡単にできてしまうと,それはどうかと思います。つまり,あたり前にできればできるだけ,回避行為にならなくなります。一概にパーセンテージだけでは割り切れないのです。結局,回避行為をどれだけ行っているかが問題となります。

ZDNet:というと音楽CDのようにもともと技術的保護手段を考慮していなかったものに技術を施した場合は,どう考えればよいのでしょう?

田島氏:今回のように技術的保護手段が施されたものをコピーする場合に複製権の侵害にあたるかどうかをみるためには,2つのステップあります。1つは,回避行為といえるかどうかで,次が,それを知りながらやっているかどうかです。

 従来やっていたようにして,コピーができてしまう場合は,回避行為とはいえないでしょう。今回のケースでは,コピーコントロールがあるとユーザーは認識してるが,特段信号の除去ないし改変を行っているとは言えないでしょうし,仮にドライブ内で何らかの改変行為が自動的に行われるとしてもユーザーがそれを意識しているとは思えません。というのも,今までどうりにやったらできたわけですから。

 ただし,ごく一部のケースでは,異なります。例えば,何度もいっているように専用のハードウェアが必要だったり,ソフトウェアが必要だったりするケースや“微調整”をおこなう必要があるときなどは,ユーザーが信号の除去ないし改変をそうと知ってやるということになります。

 これは,そうした手法を用いれば保護手段の信号を除去“できる”と知ってやるわけですから,複製権の侵害にあたることになるでしょう。

ZDNet:例えば,ドライブメーカーやソフトメーカーがユーザーのことを考え,少しでも読めないメディアを読めるように努力し,“勝手に複製できるようになって”しまった場合は,どうなるのでしょうか

田島氏:何らかの信号除去機能がついたドライブ付きのパソコンが公然と売り出され,それを利用すると勝手に保護手段の信号が除去されるということになると,客観的には保護手段の回避行為と評価されてしまう可能性が高いです。

 しかし,この場合でも,そのようなパソコンがごく普通に売られるようになると,ユーザーが回避行為と知らずに複製をしてしまう可能性が高く,その場合,複製権の侵害にならないわけです。もちろんユーザーが,こうすればドライブ側が対応できるということを知ってそれを利用すれば,複製権の侵害となります。

ZDNet:つまり,ドライブ側がこうすると技術的保護手段を回避できると知って対応するということは……

田島氏:今回のコピーコントロールCDは,レッドブック規格外のようですが,例え規格外とはいえ,それをリッピングできたりコピーできるように対応することは,技術的保護手段回避を行うことを専らその機能とする装置を公衆に譲渡したものとして著作権法第120条の2第1号による処罰の対象になる可能性が高いということになります。

ここでの結論としては、小細工をする場合は回避行為にあたるけれど、それが「あたりまえに」「普通に」行われれば、回避には該当しなくなる、ということです。さきほど、CCCDが読める仕様のドライブを使用することは、無反応機器の使用と同様に、回避には該当しない、としました。それは、無反応機器の使用を回避とすることに伴う不都合を考慮してのことですが、ここでの「あたりまえに」「普通に」行われる回避はこの考慮と同列に扱うことができます。

となると、回避該当性の判断のための基準の一つに、「どの程度の小細工をしているか、そしてその小細工がどれだけ一般的に行われているものか」という基準がありそうです。ここで考えると、私的利用のための複製は利用者の権利であり、回避行為規制は利用者のその権利を制限しているわけですから、それなりに強い根拠が必要になります。ほとんどの行為者が回避できるような技術、たとえば著しく普及率の低い規格や市販品で容易に複製できる技術は、これの回避を回避行為に該当させて規制してしまうと、結局、私的利用のための複製の権利を無に帰すことになってしまいます。ですから、「なんらかの保護を結果的に除去する」行為はそれだけでは法で定める技術的保護手段の回避に該当するとはいえないのですが、その基準は、程度の問題になるわけです。

その意味では、技術的保護手段に該当する信号を、一般にはあまりされていなくてなおかつ一般にはあまりできないような方法を使って、除去して複製する行為は、その方法の性質にかかわらず回避に該当するわけです。その点のみにおいて、私も田島氏に同意です。

CCCDや技術的保護手段の回避については、立法論もふくめていろいろ問題があります。
今回はここまでですが、また検討したいと思います。

*1:(2)については当面、「この典型例はアナログコピー」と考えればいいと思います。

*2:なので、netlawさまが「「回避」とは、技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変を行うことにより、当該技術的保護手段によって防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によって抑止される行為の結果に障害を生じさせないようにすることをいいます。例えば、信号を取り除くとか、「コピー1世代可」の信号を「コピー自由」の信号に変えるなどが該当します。したがって、技術的保護手段に用いられている信号に反応しないいわゆる無反応機器を用いることは、「回避」ではありません。」あるいは「いわゆる無反応機器も、そもそも無反応は技術的保護手段の回避(信号の除去又は改変)には該当しませんので、規制の対象にはなりません。」とするのはヘンなのです。