著作権法の検討・技術的保護手段の回避についての雑考

CCCDと技術的保護手段の回避については、12/10へ。
基本的な用語とかはスキップ。検索かけてください。

■ 改正案
文化庁文化審議会著作権分科会報告書(案)に関する意見募集がありました。技術的保護手段関係で気になる点はやはり、アクセスコントロールの保護です。

<技術的保護手段等の回避等に係る法的規制の対象を拡大する>
技術的保護手段の有用性を担保する観点から,接続管理(アクセスコントロール)回避行為への刑事罰創設,接続管理回避サービス(アクセスコントロール解除のノウハウ本出版,技術的保護を解除(回避)する特定情報(シリアルナンバー等)の公衆への提供など)の規制等について,将来の管理技術開発への影響等を踏まえつつ検討を行い,2004 年度以降必要に応じ所要の法案を国会に提出する。

アクセスコントロールが技術的保護手段に該当するとなると、CCCDやDeCSSなどが技術的保護手段になるんですよね。

CSS(コンテンツスクランブルシステム)についてここで簡単に検討してみます。
まず、(1)「使用不能型」の保護手段なので、法2条1項20号での「著作権等を侵害する行為」に該当しません。これはCCCDの場合と同様の理屈です。ワーキング・グループ報告書 には以下のように書かれています。

一方,既に技術的保護手段の実態の部分で述べたように,著作物等の使用や受信といった著作権等の支分権の対象外の行為を技術的に制限する手段もあるため,これらの取扱いをどう考えるかという問題がある。いわゆるアクセスコントロールの問題である。このことについては,使用や受信というような,従来著作物等の享受として捉え,著作権等の対象とされてこなかった行為について新たに著作権者等の権利を及ぼすべきか否かという問題に帰着し,単に技術的保護手段の回避のみに関わる問題ではなく,現行制度全体に影響を及ぼすことがらであること,流通に伴う対価の回収という面からは著作権者等のみでなく,流通関係者等にも関係する問題であり,更に幅広い観点から検討する必要があると考えられること,今後の著作物等の流通・活用形態の変化の動向を見極める必要もあること等の理由から,本ワーキング・グループとしては,現時点においては,現行の著作権者等の権利を前提とした技術的保護手段の回避に限定して規制の対象とすることが適当であると考えられる。
但し,使用を技術的に制限する手段の回避については,特に今後はコンピュータ・ネットワークを通じた著作物等の流通におけるアクセスコントロールを保護することが不可欠になることからすれば,規制の対象とすべきであるという意見があり,米国の立法でもアクセスコントロールに係る規制が盛り込まれていることから,これらの国際的な動向にも留意する必要がある。

従って,現段階で対象となる具体的な技術的保護手段としては,上述した技術的保護手段の実態に照らせば,著作物等の利用のうち複製を制限する,SCMS,CGMS,擬似シンクパルス方式が該当することになると考えられる。

また、(2)コンテンツ信号自体を暗号化するため、法2条1項20号での「信号を音若しくは影像とともに記録媒体に記録する方法」に該当しません。ここは微妙な点なのですが、他の保護手段ではコンテンツ信号とは別途に複製を停止させる信号を記録していますが、CSSでは、記録されているのは複製停止信号(機器が特定の反応をする信号)ではなく、暗号鍵です。

それと、今回の対象拡大でCSSが名指しされているということは、現行法上は技術的保護手段の対象とはなりえないことの有力な根拠でしょう。

なお,「アクセス権」の保護又は実質的保護の検討にあたり,本来アクセスコントロールとして施されているCSS がコピーコントロールとしても機能しているという実態を踏まえその回避の規制を求める問題提起があった。

国内においては,平成10 年12 月にとりまとめられた著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護手段・管理関係)報告書において,回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段について,現行の著作権者等の権利を前提とした技術的保護手段の回避に限定して規制の対象とすることが適当であるとされ,「知覚行為」をコントロールするための技術的保護手段の回避については,現行の著作権法では規制の対象とされていない。

CSSを規制対象にしようとすれば、「機器が特定の反応をする信号」ではなく「暗号」である点、および「複製制限」ではなく「アクセスコントロール」である点、の2点を解消する必要があるため、さきの意見募集では、

「暗号解除権」の創設,「知覚行為」をコントロールするための技術的手段の回避行為の禁止についても,アクセスコントロールの問題として,著作権制度全体に影響を及ぼす問題であるが,(以下略)

とされているわけです。

Optical Pathさまでも検討されていますが、アクセスコントロールであるCSSおよびいわゆるCCCDは、法でいうところの技術的保護手段とはいえないと考えられます。
なお、CCCDについては、さきの意見募集では

ウ)私的録音録画補償金制度
音楽CD 複製機能を備えたパソコンや,技術的保護手段を備えたCD など多様なデジタル録音・録画のための機器・媒体が商品化されている現状を踏まえ,関係者間で,より実態に応じた制度への見直しを目指し協議が進められているが,関係者間協議の結論を得て,2004 年度以降必要に応じ同制度の改正を行う。

とあるため、「視聴制限」である点をクリアすればすぐに規制対象になるようです。

でも、どうなのでしょうか。「複製制限」と「アクセスコントロール」は、よく似てはいるけど別物ですよね。「金を払っていない者は観るな」と言われているものを無償で見る行為は、確かに対処すべき問題ではありますが、法30条の問題とは別だと思います。

なお、CSSおよびDeCSSの詳細についてはDVD Frequently Asked Questions (and Answers)を参照してください。なぜかDeCSSの項だけ訳されていませんが*1


■ オーストラリア連邦裁判所大法廷
ネットではあまりフォローされていないようですが、オーストラリア連邦裁判所大法廷で、地域コードを技術的保護手段とする判決が出ました。
この判決が覆されたわけです。原文はこちら
ソニー・コンピュータ・エンタテインメント(SCE)のゲームのCD-ROMには、DVDビデオと同様、アクセスコードが組み込まれています。
これを解除する技術が、「technological protection measure」に該当するかという問題で、大法廷は、

In this respect, we respectfully disagree with his Honour's interpretation of the definition. We think it sufficient that Sony's device inhibits infringement by rendering the resulting unauthorised copies unusable.
For this reason Sony's appeal succeeds.

(私の訳)
この点において、his Honourによるこの定義の解釈とは異なる見解を、われわれはつつしんで持つ。
われわれが思うに、この認可されてない複製の結果を使用不能にすることによってソニーの装置が侵害行為を抑制することは、充分である。
この理由により、ソニーの上訴は、成功する。

としています。「結果(resulting)」というのは、アクセスコントロールの「結果」としての複製制御でしょう。
オーストラリア著作権法第10条では、日本と同じく、「著作権の侵害」を目的とする装置が対象にされており、ゆえに今回の第一審では、複製防止技術ではないから技術的保護手段に該当しない、とされていました。
この点は、年を越して改めて書きます。

*1:理由は訳者後書きに記述されています。