ゲームの目標(4)

ここで、「スーパーマリオ」に話を進めます。
スーパーマリオにおいて、目標はどのようなものなのでしょうか。解釈は2とおりあります。まず、スーパーマリオというゲームはサバイバル型であり、目標は死亡結果の回避、そしてゲーム終了条件は一定地点への到達である、という解釈です。そしてもう一つの解釈は、目標は一定地点への到達である、というもの(任務遂行型)です。ふつうはこっちの解釈を採りますよね。スーパーマリオの目標はピーチ姫の救出だ、と。
でも考えてみてください。ピーチ姫を救出するとゲームが終了します(次の面に移行します)。野球にとっての9イニング終了です。そして、野球にとって9イニングを終了することは目標ではありません。となると、スーパーマリオにとっても同様に、姫を助けることは目標ではない、と考えることもできるのです。
そう、私が言いたいのはこのことであり、そしてこのことによる帰結なのです。

そろそろ次の整理点に入ります。「ゲームの目標と面白さとの関係」です。
ゲームへの解釈、見方を変えれば、ゲームの目標も終了条件も、変化させることができるということがわかりました。では、どういう解釈が、よりゲームを面白くするのでしょうか。
ゲームにおいて、目標は意思決定に意味を持たせるものです。任意の行動が取れる時に、どの行動が適しているかを考える上での指標となるものが、ゲームでの目標です。そして、目標はゲームの終了と関連しています。
それらを併せて考えると、スーパーマリオの目標がピーチ姫の救出だと考えるとどうなるのでしょうか。プレイ中のさまざまな行動や意思決定が、ピーチ姫の救出のために向かうことになります。さて、初期のスーパーマリオは、画面がスクロールしました。右端にピーチ姫がいて、マリオは右へ右へと進みます。マリオを進ませないとスクロールしません。いっぽう左へはスクロールしません。また、時間制限が存在しました。一定時間内に特定の場所へ到達しないと、ゲームオーバーになります。プレイヤーは目標を達成するために、ひたすら右へ右へと進むことになります。そして目標地点へ到達するために、障害物を乗り越え、敵を倒します。
左へのスクロールは不要です。なぜかといえば、初期のスーパーマリオは、目標であるピーチ姫を「探す」ゲームではなく、右端にいるピーチ姫に「たどり着く」ゲームだからです。しかも、先に進むための鍵アイテムもないし、立てるべきフラグも存在しません。だから、何も考えずに右へ進めばいいのです。左へのスクロールができないことによって、プレイヤーは、右端にピーチ姫がいるという事実を容易に認識するのです。あるいはひょっとすると、「下りるべき土管を通りすぎたためにクリアできない」という事態が発生しうる意地悪なゲームである、と認識するかもしれませんが、その可能性は低そうです。いっぽう、左スクロールがもし存在すれば、プレイヤーは「左へ進むことの必要性が暗示されている」と感じてしまいます。そうなれば、何かを「探す」という要素がゲームに付加されてしまい、単純な一方通行ゲームが持つストレートな爽快さが失われることになります。

では、スーパーマリオのもう一つの解釈、つまり、このゲームはサバイバル型のゲームである、という解釈をとればどうなるでしょうか。目標は死亡結果の回避、そしてゲーム終了条件は一定地点への到達である、という解釈です。

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この解釈の帰結を考える前に、一つ考えておきたいことがあります。それは、サバイバル型ゲームでの終了条件についてです。
ゲーム終了の条件は、ある変数が一定の値になることです。この変数には3とおりあります。ひとつめは、プレイヤーが任意で変動させられない変数です。たとえば制限時間などです。ふたつめは、目標達成とは相反する変数です。たとえばアウトカウントです。そして3つめは、プレイヤーが任意で変動させられ、かつ、目標達成と矛盾しない変数です。たとえば、・・・何でしょう?あまりいい例が思いつきません。
ちょっと考えてみると、「プレイヤーが任意で変動でき、かつ、目標達成と矛盾しない変数」を終了条件とすると、プレイヤーは終了時点を任意に変えることができてしまうのです。サバイバル型ゲームがこれでは、生き残ることができたという達成感が味わえません。前回書きかけた、「サバイバル型ゲームにおいては、通常、持ち点となる条件は、時間経過など「プレイヤーが調節できない受動的なもの」なんです。」というのは、これを意味したのです。

というわけで、スーパーマリオに話を戻します。もしこれがサバイバル型のゲームならば、一定地点に到達するという、プレイヤーの任意で行われる能動的な終了条件をつけているゲームになります。それではいかにも面白くないので、一定地点への到達を容易にしないようにゲームは作られることになります。たとえば到達を妨げる障害物、あるいは最終地点を守る敵。
と、こうなってくると、もう一つの解釈である「目標は一定地点への到達である」というものと、結果が異ならないことになってしまいます。つまり、サバイバル型ゲームにおいて、終了条件を「プレイヤーが任意で変動させられる変数」にしてしまうと、プレイヤーはその変数を操作することになってしまって(でないとプレイヤーは終了条件を満たすことがないため、延々と生き延びなければならなくなる)、結局その変数の操作を目標としてしまう、というわけです。こういうタイプのものは、サバイバル型ゲームとはもはやいえないでしょう。
よって、スーパーマリオの目標は、一定地点への到達だと考えられます。プレイヤーによってはそこにさらに、短時間クリアとか、全てのクッパをファイヤボールで倒すとか、できるだけたくさんのコインを集めるとか、できるだけ高い点数でクリアするとか、さまざまな目標を設定するかもしれません。