ゲームの目標(6)

話が長くなってしまっているので、ここで簡単におさらいしてみます。
【目標】
ゲームの本質の一つは意思決定です。この意思決定に意味を持たせるのが、ゲームにとっての目標です。つまり、行動の選択を迫られた時、どのような行動を取ればいいかを提示する指標が、ゲームにおける目標です。たとえば、将棋の目標は、相手の王を取ること。野球の目標は、試合終了時点で相手よりも多い得点を取っていること。

【ゲームの終了時点と目標との関係 −サドンデス制と持ち点制−】
目標を達成した時点でゲームが終了する、というゲームが、「サドンデス制」です。たとえば、将棋は、目標を達成した時点で終了です。
なんらかの変数(持ち点)が一定数に達した時点でゲームが終了する、というゲームが、「持ち点制」です。たとえば、野球は、イニング数という変数が9に達した時点で終了です。またサッカーは、試合時間という変数が90分に達した時点で終了です。

【ゲームの終了形態 −目標達成と失敗−】
ゲームには、目標達成による終了と失敗による終了とがあります。達成か失敗かは相対的なものであり、制作者が決めた終了形態とプレイヤーが決めた終了形態とが食い違うこともありえます。たとえばシューティングゲームで、相手の弾にあたってゲームが終了することを「達成」と考えるか「失敗」と考えるかの差異は、そのゲームへの考え方や評価を左右します。

【終了形態によるゲームデザイン −任務遂行型とサバイバル型−】
ゲーム終了までに失敗しない、ということが目標であるゲームが、「サバイバル型」です。サバイバル型ゲームは、通常は「持ち点制」であり、その持ち点は目標と相反するかまたはプレイヤーの制御に服しない変数です。
失敗以外のプレイヤーのある行動(任務)によってゲームが終了する形態のゲームが、「任務遂行型」です。任務遂行型ゲームは、たいていは「サドンデス制」ですが、任務と目標とが一致しない場合もあるので、任務遂行型とサドンデス制とは完全には重なりません。

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ここで、またリンクを紹介しておきます。私の文章でも適宜引用しますが、一度は原典にあたることをすすめます。
クロフォードのゲームデザイン論(Shinoさまなど)・・・1982年に書かれた、コンピュータゲーム論の古典です。コンピュータゲームに関する本質が、非常に鮮やかにまとめあげられています。
Game/Essay(鳶嶋工房さま)・・・ゲームはなぜ面白いのかが、簡潔な文章でまとめられています。

では、話を進めます。
目標は、ルールや行動と関係があります。目標に沿ってルールや行動が決められますし、行動が目標を明確にすることもあります。高い得点を稼ぐことを目標とするゲームでは、どうやったら高い得点が入るのかが、プレイヤーの行動に影響を与えます。
鳶嶋工房さまの文章を引用してみます。

スコアとは何か
  良くできましたという印、それがスコアである。
  どういう行動が評価の対象になるかを定量化した数値、それがスコアである。
  つまり、スコアはゲームの持っている哲学を表現している数値である。
スコアがゲームの方向性を決める
  技能に対して支払われる対価がスコアである。
  つまり、ゲームの方向性を示しているものである。
  例えば、格闘ゲームで、通常技の点数が高く設定されているならば、暗に通常技中心に戦った方がいいと、制作者が教えているわけである。

ポーカーでは、確率論と役の高さとの背反で悩みますよね。もしポーカーが、どの役も等価値だったら、どんなゲームになっていましたでしょうか。もしプレイヤーの一人が、クラブのエースが入っていれば勝ちだと解釈していれば、そのゲームはどうなるでしょうか。一人あそびでも、同じようなことがいえます。ゲームは、制作者が設定した目標に向かってプレイしているときに最も楽しさがでるように、作られます。

ファミコンゲームでは、たいてい得点が計算されます。スーパーマリオでも、プレイ中に画面上部に得点が表示されますし、敵を倒した時には得点が表示されます。プレイヤーは、この得点の高さを目標にすることも可能です。このスタイルは、おそらく制作者の予想の範囲を大きく逸脱したものではないでしょう。制限時間と身の危険というマイナス要因をにらみながら、プレイヤーは、敵を多く倒すことによって得点を上げることを試すことになります。
スターソルジャーも、やはり、プレイ中に画面上部に得点が表示されますし、敵を倒した時には得点が表示されます。スターソルジャーでは、ある種の敵は、倒し方によって得られる得点が異なります。具体的にいえば、早く倒せば高得点をもらえる敵が存在します。そうなると、プレイヤーのプレイスタイルも規定されます。また、長くプレイすれば必然的にそれだけ得点は高くなりますから、死なないことを動機づけられます。

ですから、得点は、制作者のメッセージなのです。

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スーパーマリオは、右端にある目標地点にたどり着くことが目標でした。目標地点への到達は、面白さの一つになります。困難を乗り越えて、目標地点にたどり着くゲームは、たしかに面白いです。あるいは、危険な地形や強敵などを乗り越える楽しさもあるでしょう。あるいは、すべての面を走破するという、完全化(コンプリート)への楽しさもあると思います。それらの大半は、右端への到達が目標であるからこそ味わえる楽しさでしょう。
スターソルジャーにおいては、強敵を避けつつ新しい場面を訪れるという楽しさがあります。自機をパワーアップさせるという爽快感もあるかもしれません。隠しキャラを見つけるという探索の楽しさもあるでしょう。これは、一定時間をそこで過ごすことが目標であるから味わえる楽しさであると思います。

大戦略はどうでしょうか。大戦略は将棋と似ていますが、使うコマが戦車や戦闘機です。ここでの目標は、相手の「首都」という陣地を占領することです。ところで相手には「首都」以外に「都市」や「工場」など、さまざまな陣地があります。敵のコマもたくさんあります。ですが、首都以外の都市や工場をいくら占領しても目標とはなりませんし、敵のコマをいくら倒しても目標とはなりません。敵のコマをたくさん破壊することが楽しいという人は、ですから大戦略というゲームにおいては不利なのです。破壊した敵コマの数が数値化される場合がありますが、これは、スーパーマリオにおける「得点」になるでしょう。敵を破壊することが楽しみな人にとっては、相手首都の占領は「目標」ではなく「終了条件」になり、破壊した敵コマの数は単なる変数ではなく「目標」となります。
ところで、大戦略では、目標達成のための特殊な戦い方があります。たとえば、相手のコマを倒せば自分のコマが強くなるのですが、そのために、わざと戦闘を長期化させる戦術が存在します。あるいは、自分のコマの性質が変わる「進化」という現象がありますが、その進化が時として不利になるような場面が存在するために、わざと敵を倒さないという戦術が存在します。
さて、そうなると、敵を撃破することに爽快感を覚えていたプレイヤーは不満を感じます。さっき、相手首都の占領は「目標」ではなく「終了条件」になる、と書きました。この場合の終了条件は、それ自体は満足を与えてくれるものではありません。野球において、9イニング経過したという事実は、それ自体としてなんら評価を与えてくれるものではないのです。同様に、敵を撃破することに爽快感を覚えていたプレイヤーにとって、相手首都の占領は、単にゲームを終わらせるための条件としての事実に過ぎないのです。そして、破壊した敵コマの数は単なる変数ではなく「目標」となります、と書きました。破壊という目標にとって、相手首都の占領(制作者が考えた目標)がプラスにならないのなら、目標達成と終了条件とがかみ合わない状態、言いかえれば、それは終わらないゲームになる、ということになります。

というわけで、大戦略にとって、「相手首都の占領こそが目標なのだ」と考えられるプレイヤーが、相性のいいユーザーである、ということになります*1
同様のことが将棋にもあてはまります。大勢のユニットを従えて敵を圧倒することに価値を見出す者にとっては、将棋の目標である「相手の王を取る」ことは、自分にとっての目標にはなりません*2

こうして、ゲームにおける相性が発生します。それが発生するのは、主に、プレイヤーが求める目標と制作者が意図した目標とが一致しない場合です。
また、制作者が意図した目標に楽しさがない場合には、それは良くないゲームになるのです。

*1:そして私は、大戦略にとって相性のいいユーザーにはなれませんでした。

*2:そして私は、将棋にとって相性のいいユーザーにはなれませんでした。