ゲームの目標(7)

ここで、ドラクエについて検討してみます。ドラクエについては(2)で検討しましたが、さらにここで考えてみます。こんどは「目標」という観点からドラクエをなぞっていこうと思います*1
さて、再度書きますが、ドラクエの目標は、最終敵(ラスボス)を倒してゴールへ向かうことであり、一定の出来事の発生が目標であり終了条件であるサドンデス制です。

では、ドラクエは、その目標に従って設計されていますでしょうか。ちょっと見ていきます。
ドラクエには、「得点」という仕組みはありません。そのかわりに、リソースとしての所持金およびアイテム、そしてトークンのパラメータとしての能力値、レベル、経験値が存在します。ここでの所持金やレベルや経験値は、従来の「得点」とよく似た役割を持ちます。
つまりプレイヤーは、レベルアップを目標として、そして最終敵の打倒を終了条件としてゲームを楽しむこともできます。この場合には、野球における9イニングへの到達が、ドラクエにおける最終敵の打倒になります。そして最終敵を倒すかどうかは、プレイヤーの任意ですから、「持ち点制」のゲームになります。
でももう少し考えてみると、最終敵を倒すと通常そこでゲームは終了します。魔王を倒すと敵は出現しなくなります。となると、それ以上の経験値稼ぎやアイテム集めができなくなる、という意味で、最終敵の打破はプレイヤーにとって望ましくない事態、すなわち失敗、ということになります。そうなるとドラクエは、制限時間などの制限がない状態で延々と何かを増やす、というゲームになります。
そんなゲームが面白いのか、と思うかもしれませんが、一定の操作をして何かを増やす行為は、それだけで充分楽しい行為です。苦労して所持金を増やしたりレベルアップしたりアイテムを集める、というのはゲームの面白さの一つではあるでしょう。

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ところで、ゲームの楽しさの一つに「先を知りたい」という感覚があります。この感覚は読書や映画などの感覚と共通です。つまり、「先を知りたい」というワクワクする気持ちを強く感じさせるゲームは、「映画のようなゲーム」と思わせるゲームなのです。ただ、従来「映画のようなゲーム」といえば、グラフィックが綺麗だったり、ムービー(ゲームにおいてムービーとは「プレイヤーが操作できない動画」を指します)がたくさんはさまっていたりするゲームを指すことが多いので、これはあまり適切な比喩ではありませんね。ですから、「読書のようなゲーム」としておきます。

「読書のようなゲーム」といえば、サウンドノベルのタイプのゲームがそのままあてはなります。セリフやBGM流れるなか、文章やセリフを読んでいくタイプのゲームであり、「街」「トュルー・ラブストーリー」のような、プレイヤーの選択によって物語が進むタイプのゲームです。この場合、目標は、ハッピーエンドへの到達です。でも、ゲームの過程では、どうすれば最終場面に到達できるのかとプレイヤーに熟考させるというよりは、進行していくストーリーを楽しませるという要素が大きいです。「先を知る楽しさ」に重心を置いているわけです。

ゲームの場合は、この「先を知る楽しさ」を軸に置くと、一つの場所にとどまってひたすら何かを貯めたり調整したりする作業は、それほど楽しくなく、むしろ苦痛になります。では、なぜ初期のドラクエは、経験値かせぎをさせたのでしょうか。
一つには、当時のドラクエにおいては、先へ進む楽しさを提供することに限界があったからです。容量の問題があってたくさんのシナリオを詰めこめませんでしたし、性能の問題もあって綺麗な絵や効果的な音が出せなかったのです。もうひとつは、鍵的アイテムのかわりにキャラクタの成長を求めて、強くならないと先へ進めない、つまり、強くなることに鍵的アイテムの入手のような役目を与えたという面があります。さらには、プレイヤー自身が苦労して成長させたキャラクタには愛着がわき、感情移入が容易になる、という面もありました。

初期のドラクエ、とくに最初のドラクエであるドラクエ1では、その特徴は非常に明らかです。(以後の作品と比較すると)さほど広くないステージなので、もし何の障害もなくスイスイとゲームが進めるのなら、ゲームはすぐに終わってしまいます。
ドラクエ1では、その目標は「一定地点への到達」です。しかし、その目標地点に行くためにはいくつかのアイテムが必要になるので、探索するゲームになります。そしてもう一つの重要な要素はレベルアップです。レベルが上がらないとキャラクタが強くならず、遠いところへ進めません。スタート地点から離れれば離れるほど敵が強くなるので、遠くに行こうと思えばレベルアップに励む必要があります。単純でありますがそれなりに楽しい作業です。

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ドラクエ1でのアイテムは、装備品、消耗品、クリアアイテム(鍵的アイテム)に分類されます。装備品や消耗品はたいてい市販されてますが、クリアアイテムは探す必要があります。ただ、シナリオの指示、具体的には町の人などの言葉、に従ってストーリーを進めると、自然にアイテムが集まります。
最終地点への到達までのステップとして、ドラクエでは小目標がいくつか設定されています。クリアアイテムの入手は、その小目標の一つです。そして、ドラクエではレベルが鍵的アイテムの替わりになっているので、経験値を一定の値まで貯めることも、小目標の一つになっているのです。

*1:ドラクエ論とか、FFとの比較論、なんていうのは10年ほど前からあちこちでずっとされてきましたので、ここではいまさら「ドラクエがなぜ面白いのか」について分析するつもりはありません。