民法714条と精神保健福祉法

paranoimia’s diaryさんから返信をいただきました
ありがとうございました。

1999年改正(自傷他害防止監督義務の削除)以後、「家庭裁判所が選任した保護者に対する損害賠償請求」がされたケースはないと思いますが、どうでしょうか。

この点については、公刊物に掲載された裁判例という趣旨であれば、私の調べた限り確かにないと思いますが、現実に損害賠償請求されたケースがないかと言われれば、分からないと言わざるを得ません。

民法714条に基づく損害賠償の問題は注目されているところなので、訴訟になればどこかが採り上げると私は思ったのですが、現在のところこのケースは見当たらないようです。

判決は見当たらないし、この問題をとりあげた文献ですらもあまり多くはないようすです。一度ちゃんと調べて検討してみます。

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以下補足。
仙台高裁平成12年1月20日判決については、判決文の全文の記載はされていませんでしたが、全家連の「月刊ぜんかれん」2000年2月号に記事が掲載されています。ほかにもあるかどうか調べて、これも検討してみます。
また、ネットで検索したら、先日ちょっと触れた厚生省公衆衛生審議会精神保健福祉部会(1999年2月17日)議事録がアップされていました。
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9902/txt/s0217-2_9.txt

民法の無能力者の責任行為との関係につきましては、正確な答えが出せるわけではないんですけれども、これにつきましては、いわゆる保護者の義務と。精神保健福祉法で規定している保護者の義務をすべて受けて監督義務というものが課されているだろうということだと考えておりますので、そういう点では治療を受けさせる義務というものに違反した場合にはいわゆる民法上の責任がかかってくるのかなというふうに考えております。

ただこの考え方には批判が強く、「何のために自傷他害防止監督義務を削除したのだ」と言われているところです。
現に、別の委員の発言でも、

(略)今回の法改正の中でも触れられておりますけれども、成年後見制度を利用して、後見人、保佐人が保護者になるという余地を広げるという政策を今回とろうとしております。この成年後見制度は、さらに従来、親族から後見人が選ばれることが多かったのに対して、法人あるいはその他の機関、あるいは自然人が後見人あるいは保佐人になるという道をなるべく開こうと、社会的後見システムを開いていこうという方向性を打ち出してきているというふうに考えているわけですけれども、もし、その場合に余り重い自傷他害防止監督義務とか重い損害賠償責任が保護者にもあるんですよという前提になってしまうと、なかなか第三者成年後見人に立候補して保護者になってもいいですということにはなりにくくなってしまう。いわば成年後見制度の利用に対しても非常にマイナス効果を発生してしまうということになると思うんですね。
 そういう意味でも心理的負担という観点も同じかもしれませんけれども、“自傷他害防止”という明文の規定はやはり廃止した方がよろしかろうというふうに私は考えております。

とあるとおり、「自傷他害防止監督義務を削除したのは、保護者に過重な損害賠償責任を負わせないためである」というのが有力な説明であるかもしれません。

第一、「保護義務者(この事例では市町村長)は被保護義務者の起こした交通事故に関する示談等に関与する義務はない*1」といい、さらに「保護義務者の規定は公安上の要請のため*2」というのであれば、なぜ損害賠償責任が保護者に存在するのかについて、もっと詰めて考える必要があると思います。

*1:精神衛生法第二一条及び第二二条の解釈について」厚生省精神衛生課長回答、衛精34号1966年9月27日

*2:厚生省事務次官通達「精神衛生法の施行について」発衛118号1950年5月15日