精神医療に関する条文・審議(その13)

前回(id:kokekokko:20041203)のつづき。初回は10/28(id:kokekokko:20041028)。
東佐誉子事件の資料は、分量がかなり多いので後回しにします。
今日は、いままでで漏れていた資料を追加でアップします。精神衛生法制定当時の議論について、11/9付の最初にアップすべきだった会議録です。それぞれの規定について、細かな議論がされています。

厚生委員会会議録第25号(7参昭和25年4月5日)
○委員長(塚本重蔵君) これより会議を開きます。本日は日程の順序に従いまして精神衛生法案を議題に供します。先ず提案者の説明を求めます。

○委員外議員(中山寿彦君) 只今上程になりました精神衛生法案の提案理由を御説明申上げます。
 現在精神衛生に関する法律といたしましては、精神病者監護法と精神病院法の二つがございます。精神病者監護法は明治二十三年の制定にかかるものであり、又精神病院法は大正八年に作られたものであります。前者につきましては制定されましてから五十一年間、後者につきましては制定後三十三年間、その間未だ一回も改正をみずして今日に至つているのであります。当時の精神病者の推定数は十万乃至二十万人といわれておりましたが、今日においてはその数六十四万人に及び、尚、今回の法案で精神障害者として対象といたしました精神薄弱者及び精神病質者を加えますと実に三百三十四万人乃至四百万人の多きに及ぶことになるのであります。かく精神衛生の面における治療及び保護の対象が増加いたし、又精神医学もその間に急速の進歩をいたして来たにも拘わらず、これを規律する法律は未だに明治年間の衣を着たままであります。
 精神病者監護法は、専ら精神病者の不法監禁を防止することを主たる内容とするものでありまして、題目は監護法でありますが実質は精神病者の監置法ともいうべきものであります。即ち精神病者を監置できる者を保護義務者に限つたことがその狙いでありまして、いわゆる座敷牢の制度を特定の者について合法化したものともいえるのであります。然し座敷牢制度の制限だけでは精神病者は救われないことは明かであり、それから十七年後に制定された精神病院法は、精神病院を府県に設置し、犯罪傾向のある精神病者、身寄りのない精神病者を先ず収容することといたしたのであります。
 この二つの法律によつてまかなわれてきた精神衛生行政の現状を見まするに、現在全国における公立及びこれに代用される精神病院のベツド数は二万床を持つに過ぎません。欧米における施設は人口二百人乃至五百人に対して一つの率でベツドを整備いたしております。我国の現状は人口四千人に対して一つの率でありますから、これを国際水準に比ベますと未だその十分の一を満たすに過ぎないのであります。このベツド数の不足から、現在病院に収容することができず、座敷牢にある者の数は二千六百七十一人に達しておる実情であります。
 健全な社会の発展のためには、身体に対する衛生と並んで精神衛生が不可欠であることは申すまでもございません。それは車の両輪ともいうべきものでございます。
 ここに提案しようといたしまする精神衛生法案は、この立ち遅れ、取り残されてきた精神衛生行政の車を一刻も早く前進させまして、心身共に健康なバランスのとれた国民社会が達成されることを願つたものであります。
 法案の大要について申し上げますと、第一に、この法案は、苟しくも正常な社会生活を破壊する危険のある精神障害者全般をその対象としてつかむことといたしました、従来の狭義の精神病者だけでなく、精神薄弱者及び精神病質者をも加えたのであります。
 第二に、従来の座敷牢による私宅監置の制度を廃止して、長期に亘つて自由を拘束する必要のある精神障害者は、精神病院又は精神病室に収容することを原則といたしました。これがために精神病院の設置を都道府県の責任とし、又入院を要する者で経済的能力のない者については、都道府県において入院措置を講ずることとし、国家はこれらの費用の二分の一を補助することといたしました。
 第三に、医療及び保護の必要な精神障害者については、警察官、検察官、刑務所その他の矯正保護施設の長のように職務上精神障害者を取扱うことの多い者には通報義務を負わせる外、一般人は誰でも知事に医療保護の申請ができることにしまして、医療保護が必要であるに拘わらず与えられざる者なきよう、国民のすべてが協力する体制を作ることといたしたのであります。
 第四に、人権じゆうりんの措置を防止するため精神病院への収容に当つては、真の病気以外の理由が介在しないように注意いたしました。即ち精神衛生鑑定医の制度を新たに設け、その二人以上の鑑定の一致あることを病院収容の条件といたしたのであります。
 第五に、自宅において療養する精神障害者に対して巡廻指導の方法を講ずる外、精神衛生相談所を設けまして誤つた療養による弊害を防行すると共に、更に進んで精神衛生に関する知識の普及に一段の努力を払うことといたしました。
 第六に、精神衛生行政の推進と一層の改善を図るため精神衛生審議会を厚生省の付属機関として設置し、関係行政庁及び専門家の協力によつてこの法律の施行の万全を期することといたしました。
 以上が精神衛生法案に盛られた内容の大要でございます。どうか慎重審議御決定を願います。

○委員長(塚本重蔵君) 尚立法の内容につきましては、今少く詳しく中原法制局課長から説明を聴取したいと思います。

○法制局参事(中原武夫君) お手許にお配りしてあります参考資料の中にございます三十六頁の精神衛生法案に関する論議の諸点、それからその次にございます四十一頁の精神衛生法案と精神病者監護法及び精神病院法との主なる相異点、この二つの資料によりまして法案に関連させながら御説明を申上げます。
 先ず四十一頁の資料を御覧願います。四十一頁の資料は、精神衛生法案と精神病者監護法及び精神病院法との主なる相異点を十例挙しております。このうちで第一から第三が精神病者監護法と精神病院法との相異点でございます。四以下は全然新たに設けられた事項でございます。
 先ず第一は私宅監置制度を廃止したことでありますが、私宅監置制度は先程の御説明でございましたように、精神病者監護法によりまして特定の者について合法化されたものであります。私宅監置制度を廃止するということは、言い換えますと精神病者監護法を全面的に廃止するということになるのでございます。監護法によりますと、監護義務者は行政官庁の許可を受けまして、精神病者を私宅において監置する、いわゆる座敷牢にとじこめられることができるようになつておるのであります。この法案におきましては、長期拘束を必要とする精神障害者は、全部精神病院、精神病室、その他法律によつて認められておる収容施設にのみ収容することとし、私宅監置制度はいつさいこれを認めないということにいたしたのであります。
 第二は精神病院の設置を都道府県の義務としたことでございますが、この点は精神病院法との相異になります。精神病院法では主務大臣の命令によりまして、その命令を受けた都道府県は設置をする義務を負うということになつております。主務大臣は予算がとれなければ、設置命令は出さないことにしておるのであります。従いまして精神病院設置の義務は国にあるのか、都道府県にあるのかはつきりしなかつたのであります。この法案では、精神病院設置の義務を都道府県に課することを原則として、第一線の精神衛生行政機関は都道府県であるということを明らかにいたしました。これは法案の第四条でございます。第六条にそれに対する国庫の補助の規定がございます。
 第三は対象を精神障害者全部に拡げた点でございます。従来は狹義の精神病者だけを対象といたしまして、精神病者監護法及び精神病院法ができておりました。この法案ではその外に精神薄弱者及び精神病質者をも含めて、苟くも正常な社会生活をして行く上において支障があるものは、一応対象にしようということにいたしたのでございます。これによりまして対象が推定数三百三十万乃至四百万になることは先程の説明にありました通りでございます。これは法案の三条でございます。以上三点が現在の法律との相違点でございまして、以下は全く新らしく設けられた事項でございますが、その中の第一は精神衛生相談所を新らしく設置しまして、精神衛生に関する相談機関とし、且又一般への啓蒙機関たらしめることによつて、予防面にもできるだけの力を注いで行こうという態勢を作つたのでございます。この精神衛生相談所は、保健所が行なつております衛生行政と表裏一体をなして仕事を進めて行く予定でございます。これは法案の七条から十一条に亘る規定でございます。
 次は精神衛生審議会を設けまして、非常に遅れた精神衛生行政を推進するために、関係官庁と専門家の協力態勢を作ることにいたしたのでございます。法案の十三条から十六条に亘る規定がそれでございます。
 次は精神衛生鑑定医の制度を設けまして精神障害者が病気以外の動議によつて、身体の拘束を受けることを防止するということに力を注いだのでございます。この精神衛生鑑定医は、後に出て参ります知事による入院措置が行われるときの判定と、それから一般に自分の申出によつて入院しておる者に対しても、果して精神障害そのものが理由で入院しておつたかどうかということまでも判定をする仕事をいたします。関係条文は、八条から十九条に亘る精神衛生鑑定医設置に関する条項と、二十七条、二十九条二項、三十七条の精神衛生鑑定医が動く場合の条文でございます。
 次は医療保護の必要が緊迫しておる精神障害者を保護するための、国民全体の協力態勢を作つたことでございますが、法案の二十三条から二十六条に亘りまして規定がありまするように、先ず国民は誰でも医療及び保護の必要が緊迫しておる精神障害者を発見したときは、知事に対して医療保護の申請を求めることができるということを大きな網にいたしまして、その中で警察官、検察官刑務所等の矯正保護施設の長のように職務上精神障害者を扱うことが多いものに対しましては、通報義務を課したのでございます。このことによつて、医療保護の必要があるにも拘わらず、受け得ない精神障害者のないように措置することを考えたのでございます。
 次は精神障害の特殊性に鑑みまして、仮入院、仮退院の制度を設けたことでありますが、これは法案の三十四条と四十条の二項でございます。精神障害者を入院させるにつきましては、精神障害者自身の判断というものが非常に不正確でございますので、ともすれば人権蹂躪の措置が伴うことを虞れまして、相当に厳重な条件を附してございます。ところが他方において精神障害の治療には非常に長期間を要する上に、社会生活に復帰して適応性があるかどうかという判定をするには、社会生活の中に出して見て治療の状態を見る必要がございます。その場合に、出したり入れたりするのについて、一々厳重な手続を経ることは煩雑になりますから、仮に退院させる、それから仮に入院させる必要があるかどうかの判定をする制度を設けました。
 次は、医療保護に関しては、知事による病院への収容措置の外、自宅にある精神障害者の指導措置を取つたことでありまして、法案の二十九条と四十二条であります。精神障害者のうち、放つて置きますと、自分自身を傷つけたり、他人に害を及ぼす虞れのある強度の者につきましては、知事が都道府県の負担において、或る程度強制措置によつて入院をさせることにいたしてあります。これが二十九条の規定でございます。精神障害の程度がそれ程ひどくはないけれども、何らかの指導をしなければ、自宅療養だけでは危険であるという精神障害者に対しましては、都道府県の吏員或いは医師が巡回指導をすることにいたしました。これは法案の四十二条でございます。
 次は、遠隔の地にあつて直ちに病院へ収容することができない場合の臨時的措置として、知事の許可を条件とした保護拘束を認めたことでございまして、法案の四十三条から四十七条に亘る規定でございます。最初に自宅監置の制度を一切廃止するということを、この法案が建前にしておるということを御説明申上げましたが、精神病院が非常に離れた所にあるような場所、例えば八丈島のような所では直ちに病院へ収容する措置が取れません。そういう特殊なものに限つては、知事の許可を条件とした保護拘束という制度を認めます。これは自宅監置と違いまして、二ケ月の期間を限つてございます。その二ケ月の期間内に知事は必ず病院へ収容する措置をとるということを条件とした自宅における保護でございます。
 以上申上げました十項目が、現在ございます法律との相異点であり、又新たに設けられた条項に関する説明でございますが、この法案を作ります際に、いろいろ論議になつた諸点がございます。その点を三十六ページに資料に掲げて置きました。これにつきまして一応御説明を申上げます。
 第一に、一般的な事項といたしまして、精神衛生法が関連する他法律との関係でございます。その第一は、児童福祉法、十八才未満の精神障害者につきましては、児童福祉法が優先をいたします。
 第二は、医療法との関係でございますが、精神衛生法案の中には、精神病院、精神病室という医療施設に関する条項がございます。この医療施設につきましては、当然医療法の適用を受けまして、開設許可、最低基準、その他監督に関する条項は、すべて医療法の規定によつて賄われますので、この法律には規定が設けてございません。それから精神病者の中に、中毒性の精神病者を含むということが第三条に注意書がしてございます。この中毒性精神病者のうち、麻薬の中毒者につきましては、麻薬取締法との関係があります。その場合には、麻薬取締法の罰則が優先するように、五十条に規定を設けてあります。
 次に、人身保護法との関係でございますが、自由の拘束が不当な手続で行われた場合には、人身保護法により救済が行われることは当然なことでございますので、特に法案には関連を規定してございません。次は、刑法の中にございます不法監禁罪との関係でございます。この精神衛生法案の罰則には、不法に自由を拘束した場合の罰則規定が抜けております。これはすべて刑法の二百二十条の不法監禁罪として、三か月以上五年以下の懲役に処せられるという規定が当然働くものとして罰則規定を省いてあるのであります。
 第二に、施設に関する事項といたしまして、二つのことが書いてあります。一つは、精神障害者に対しては、その治療のみでなく、更に進んで社会生活能力を与える施設を設くべきであるという意見が非常に強力に主張せられました。アメリカでは、この参考資料の一番後に添付してございますが、精神病者を収容する州立病院、精神薄弱者を収容する施設、麻薬等の中毒者を収容する施設、アルコール中毒者を収容する施設、精神病質で色情狂のようなものを収容する施設がそれぞれ別個にあるのでございます。この法案立案に当つて、少くとも精神薄弱者については、精神病者と違つた取扱いをすべきである、又精神病者が或る程度治癒の過程に来たときは、治療を主としない社会生活能力を与えることを主とした施設を設くべきであるという意見がありました。これは今後の措置に委ねて、この法案の中には織込んでございません。ただそういう施設が医療施設の延長として行われることは、当然のことで別に拘束を受けないのであります。
 第二に都道府県が設置の義務を負わされた精神病院が現在ない県が二県ございます。和歌山県と宮崎県でございます。他の県におきましても、必ずしもその地方にある精神障害者のうち、入院措置を要するものを全部収容できるだけのベツトを持つておりません。そのために、都道府県立精神病院に代るべき施設としての指定病院という制度が五条の規定にございます。この指定病院については免税をしてくれという要求が強く主張せられました。その理由としては、大体精神病者生活保護法の適用を受けているものが多いから、そういうものを扱つているのだから、社会事業施設と同じように免税をして貰いたいのだという主張でございます。併しそれはここに書いてございますように、社会事業施設として活動する面についてだけ問題になる事項でございますので、この法律には規定をいたしませんで、それは一面、社会事業施設としての指定を受ければいいのではないかということにいたしたのでございます。
 第三に、精神衛生審議会に関する事項でございます。この法案の中には、精神衛生審議会は、中央の精神衛生審議会しか規定してありません。従来の各法律を見ますと、大体中央に置く場合には、地方にも置くことになつております。地方に精神衛生審議会を置くについては、少くとも審議会の性格を、単なる調査審議の機関、或いは精神衛生行政を促進するだけの機関でなく、もつと強い処分的な機能、この法律による処分に不服がある場合の不服申立を審査することができるように、強いものにして貰いたいという意見が相当にございました。これは予算の関係で、地方に置くことが、全然本年度は不可能なので、今後の改正の機会に譲ることといたしたのでございます。
 それから精神障害の原因、症状、治療、予防に関する根本的な調査をし、又、精神衛生に従事する職員の訓練を併わせて行うことを仕事とする国立精神衛生研究所の設置は、是非必要だということで、法案の最初のうちには入つておりましたが、予算措置がどうしてもできませんので、これも延期することにして、法案から削られております。
 第四に、医療及び保護に関する動的な面に関しまして、三つの事柄がございます。一つは、精神障害者を病院へ収容する場合の決定権は、長期に亘る身体の自由の拘束になるから、行政官庁に任せずに、家庭裁判所が関与すべきであるという意見が出ました。これはアメリカでは上級裁判所で全部取扱つております。我が国における家庭裁判所の現状及び機能から見て、そういうことは早過ぎるのではないかということで、知事の扱いということに規定してあります。次に私宅監置の廃止に伴う経過措置につきましてでございますが、私宅監置の制度を全部全面的に廃止することは先程御説明申上げましたが、現在二千六百七十一人の私宅監置者がございます。これを精神病院又は精神病室に収容するために一年の猶予期間が四十八条の二項に設けられております。十二月末現在における公立及び代用病院、――代用病院というのは今度指定病院に代るものでございますが――そのベツト数と入院患者数との差をとりました収容余力からみまして、今度相当な努力をしないというと、一年の間に収容できないのではないかということが予想されるのであります。この法案が成立しました後における実施について、主管省の格段の努力が要請されるということが強く主張せられました。
 第三に犯罪傾向を有する精神障害者の取扱いにつきましてでございますが、五十条の二項にございますように、刑務所や少年院等の矯正保護施設へ収容するという刑罰なり保護処分の執行は、この法律による措置に優先し、又その矯正施設の中に収容されている間はこの精神衛生法は動かない。そのものに対しては働きかけないということになつております。精神障害者の中で、一番注意を要する者、特に保護を要する者は、犯罪傾向を有する精神障害者であります。そういう収容施設に入つておる者については手を伸ばさないけれども、それが出た途端には直ちに精神衛生法が働き得るようにしておく必要がございます。そのために収容施設から出す場合には、予めその施設の長が知事に通報し、必要があれば精神衛生鑑定医が収容中の者については鑑定をすることだけはできるように五十条の二項で二つの条文だけが動くようにしてございます。そういう矯正保護施設を出て来て、而も引取人がないような精神障害者を優先的に都道府県知事が病院に収容する措置をとつて貰いたいという要請が特に法務府の矯正保護局からありました。
 第四に書いてございます「仮入院、仮退院の制度は精神障害者の医療にのみ特殊なものである。」これにつきましては先程御説明をいたしました通りでございます。以上。

○委員長(塚本重蔵君) 提案理由並びに法案内容の概略説明が終つたわけでございますが、本案は参議院厚生委員会の殆んど全員の発議に基くものでありますが、尚他の方から質問を受けた場合の答えを統一しておく必要のためのそういう意味合のためのここで質疑をして頂いても結構でございます。尚この法案が成立いたしました後における行政部の政府当局に対するいろいろな注意希望等がたくさん皆さんおありになると思いますから、その点について十分の御審議をお願いいたします。

○委員外議員(中山寿彦君) 精神衛生研究所というものは是非この法案に取入れたいという強い希望をもつておつたのでありますが、予算の関係で今回はこれを差控えたのであります。今日は政府当局もお見えになつておりますが、明年度におきましてはこの研究所の設置の費用を是非一つとつて頂きたいということを重ねてお願いいたします。

○政府委員(三木行治君) この精神衛生法案が成立いたしまして実施されますというと、精神病院が整備せられ、精神衛生相談所が活動し、又自宅監置の患者が一掃せられるというようなことに相成りますので、非常に画期的な進歩をするものと私共大変喜んでおるのでありますが、只今中山議員のお話のございました精神衛生研究所につきましては、この研究所ができまするならば、一層完璧を期することができると私共も存じておるのであります。従いまして二十六年度の予算におきましては、私共といたしましても是非所要の予算を獲得するために極力努力いたしたい所存であります。

○山下義信君 第一点は論議の諸点という参考資料に掲げてありますが、児童福祉法との関係なんであります。「十八才未満の精神障害者については児童福祉法が優先する。」こうあるのです。これはつまり十八才未満の精神障害者児童福祉法でやつて呉れ。こちらの方ではそうはし兼ねる。向うの方でやつて呉れ。こういう御趣旨と思うのですが、それは児童福祉法が特別法ですから尤もな次第でありますが、この児童福祉法でやつておる精神薄弱児の施設というものがないのです。極めて少い、今のところで全国で二十五個程しか施設がない。而もこの施設でやつておりまする子供の現在人員が約千二百人程しか辛うじて扱つていない。それで精神薄弱児施設のない府県が非常に多い。一例を挙げますというと、東北なんというものは殆んどない。然るに御承知でもありましようが、精神薄弱児童というものが非常に多いのであります。私は医学的知識がございませんから詳しい説明はよういたし兼ねますけれども、大体精薄児といつておる児童の数が非常に多い。それで宮城県だけで学校に行つておる児童を調査いたしましただけで、小学校の児童と新制中学校の生徒だけで約九千名、宮城県一県下で九千名精神薄弱児というものがいるのであります。ですから全国で累推しますというと非常な多数でありますが、右申しましたように、児童福祉法によるところの施設がない。
〔委員長退席、理事藤森眞治君委員長席に着く〕
 今の宮城県にもない、その後作りましたかどうか分りませんが、本員の得た資料の今の統計を調査いたしましたときにはないのであります。それで児童福祉法が優先する、児童福祉法の方でやつて呉れといつてもないのであります。そういうようなところでは精神衛生法でお扱い下さるかどうかということを一つ伺つて置きたい。何かこの方法で手助けなさいますか、十八才以下の子供は放つて置きますか、どういうふうになさいますか、その点一つ伺つて置きたいと思います。

○政府委員(三木行治君) この精神衛生法におきましては、第三条におきまして、『「精神障害者」とは、精神病者、精神薄弱者及び精神病質者という。』ということになつておりまして、御指摘になりました精神薄弱者もこの法律の中に含まれることは勿論であります。ただ一応何と申しましても、最初には精神病者というものに焦点を置いてやつて行くということになりまするというと、且つは児童という特殊性に鑑みまして、児童行政の一元化というような点等も児童局と話をいたしまして、これらの点につきましては児童局に置いてやる。従いまして児童局の所管の児童養育施設の拡充を必要なだけ徐々にやつて行くということで、やつたらどうであろうかというようなことで、かように進んで行きたいと考えておる次第であります。

○山下義信君 そういうことなら私は伺わんのです。頼むのです。児童福祉法で徐々にやつて行くというようなことを待つていられない。今申上げました一例を申してもさようなわけであります。殊に精神衛生法の特徴とするところは、非常に医療にも御尽力下されるし、諸般のお取扱いがなかなかこれは結構にできております。そして又私宅の監禁といいますか、そういうものも許さないで、いろいろそういうことが丁寧にできるようになつておる、これだけの至れり尽せりのことが児童福祉法にないのでございますから、ですから児童福祉法と関係のないようなものが、府県では又それが徐々に完備せられることを待つことのできませんような状態では、十八才であろうと、十五才であろうと、然るべくこの法を応用して、やはりこの法の何といいますか、恩恵というものの均霑に与らねば、私は折角これができましても画龍点晴を欠くと思います。これはこの児童福祉法関係とも御協議下さつて、そうしてこれは衛生関係ですから、もうどしどしおやりになると思う。我々も大いに御援助申上げたいのでありますから、もつて彼此相補ないまして、できるだけそういうことを言わないで、十八才未満の児童であろうと、特殊事情でなんというようなことを言わないで、これも福祉法なんで、十分一つ御利用をさせて貰わねばならん。殊に児童福祉法関係の精神薄弱施設は極めて不完全であります。尤も現在は二十五ある施設でも、見るも哀れな状態であります。成るべくこの法によるところの厳格な病院施設、或いはその他の施設の方でできるだけやつて貰うという方が私は望ましてのであります。当局にそういうふうなことに御尽力下さる意思があるかないかということを、こういう子供達のために私は伺つて置きたいと思います。

○政府委員(三木行治君) 私のお答えは話の筋を通り過ぎまして大変申訳なかつたと思いますが、現在でも彼此協力してやつておるのでございまして、本法施行に当りましても極力協力してやつて行く、そうして一面におきまして児童養育施設も伸ばして行く、そういうような方針でやつて行く次第であります。

○法制局参事(中原武夫君) 先程私の説明が少し悪かつたのではないかと思いますから、訂正をいたします。児童福祉法との関係で、優先すると、こういう表現が使つてございますが、これは只今三木局長が言われましたように、児童福祉法が働くならばそちらが先きに働く、併しその分野においては精神衛生法は完全に排除されるという意味ではございませんで、児童福祉法が来なければ、児童についても精神衛生法は働いて行くようにこの法案はなつております。その部分を排除するということにはなつておりませんので、私の説明が悪かつたと思いますので、その点訂正をいたします。

○山下義信君 この法律によりますと、この法律を十分運営をして行くということになりますと、精神衛生の専門の医師が相当にないというと、これはいろいろ不便を感ずるんじやないか思います。資料の中にありましたか、本員はちよつとまだ見ておりませんが、一体精神病について鑑定したり或いは治療したりいろいろできますような医師が大体今どのくらいありますか。又その分布状況もこの法の運営上不都合のないような状態にあるものでしようか、その辺は如何でしようか。

○専門員(草間弘司君) この第五頁にあります表にもございまするが、精神病に関しまする専任の医師が二百五十四人ございます。これはこの病院に勤めておるお医者さんでありまして、その外にまだ大学も相当ございまするので、そこに精神の専門のお医者さんがこれの外に相当数あるものと思います。只今のところでは十分とは申されないと思いまするけれども、大体において行き渡つておると思います。

○山下義信君 私は先程申したように専門家でないのですから分りませんが、二百数十名の医師でいいということでありますれば結構でありますが、私は素人で、いつも、この精神病院関係は、どうも今まで専門の医師などが当らない、譬えば精神病院の院長というようなものも、私はどういう法律でやつておるかよく分らんが、精神院専門の医師が院長でなくして、又医者でもないような純然たる素人として経営しておる。経営と又診察とは別であろうとは思うけれども、どうも我々そこに不満足なことを感ずる場合がある。いろいろこういう精神衛生相談所というものを開き、精神病関係の医師というものの存在が十分にないというと、いろいろな面でこの法を活かすということに十分でないと思う。これは施設や病院がよく加減なものであつてはいけないと同じように、やはり医師というものも専門家を法律は要求しておる。よい加減な医師がよい加減なことをすることはやはりいかんと思う。この点は当局も十分一つ御注意を願つておきたいと思う。とても医者が足らんと思う。この法律を運営したならば、専門の医者があちらからも引つぱりだこ、こつちからも引つぱりだこ、恐らく他の地方に出張して、その出張費までも払うようになつておるが、僅かこの少数の精神専門の医師を引つぱりだこにしなければ間に合わんように、私共素人で感ずるのです。そういうような欠陥に乗じて、他の専門でない医師がこういういろいろとまぜくるようなことがあつてはいけないと思う。この機会に当局に私はこの点の御注意を願つておきます。
 それからもう一つは、三十条の規定はどういう規定でございますか。これは「入院させた精神障害者の入院に要する費用」というのは、どういう範囲のものを申すんでございましようか。

○法制局参事(中原武夫君) 前条の規定によつて、都道府県が入院させた精神障害者でございまして、二十九条では入院させる、精神障害者は入院させませんと、自分を傷つけたり、他人に害を及ぼしたりする虞れのあるものだけでございます。

○山下義信君 どういう程度の費用を負担するか。費用の種類、一切の費用。

○法制局参事(中原武夫君) 一切の費用でございます。

○山下義信君 分かりました。それからあの四十五条ですね。四十五条はこの保護拘束の場所についての規定がしてあるのですが、この場所とか施設とかいうものについては、どういう制限を加えようという考ですか。どういう基準を示そうという考ですか。これは場合によつては、いわゆる廃止したという座敷牢に代るようなことにも関係がある。どういうことを要求しようとするんでしようか。この保護の場所等につきましての要件は。何かあるでしよう。

○専門員(草間弘司君) これは精神障害者が他人を傷つけたり、又は自分を障害しないような設備を施すものでありまして、併し一方かり余り心身を成るべく拘束しないような方法を採らなければいけませんので、監視が相当に行き渡るような方法にしなければいかんと思います。大体家の一部分を区画しまして、そこに収容するとか、或いは又その家の一部がない場合には特別にそういうものを建てて、或いは外の方法を講じまして、患者を、余り心身を束縛させないようにして、而も他人を傷つけたり、自分を障害しないような方法でやつて行きたいと思います。

○山下義信君 これらの事項は、都道府県知事が決めるのでございますか。この規則に反した者は二万円以下の罰金がありますが、これらの事項は都道府県知事が、その府県々々で準則というものを決めてやりますか。どういうふうなお考ですか。

○専門員(草間弘司君) これは患者によつては違います。一律には行きません。一つの大きな基準ができますけれども、細かいことまではできないと思います。併しこれは大体は都道府県知事が指定した医者をして適当に指導させまするので、これは知事において大体の基準を決定します。

○山下義信君 相当重い罰則もあるのですから、或る府県ではこういうふうな、或る府県ではと、まあ患者自身いろいろな、患者の異なることに、いろいろ指示の相違はありましようけれども、大体の大枠の基準というものは、何かないといけないのじやないかと思うのです。
 最後に論議の要点であつたようでありますが、従来指定病院、代用病院というものが、相当社会事業関係に深い関係がありまして、そうしてまあ社会的にもいろいろなそういう方面との関連もありましたのでありますが、私は今回この精神衛生法というものができるというと、つまり公的施設の性格がますます強くなつて来て、特殊で以てやるといつたようなソシヤール・サービス式の社会事業的な性格は段々と稀薄になつて来るのであると、又そういう方向に行かせるのであるといつたような、立法の趣旨であるように見えるのでありますが、そういう点はどういうふうなものでございましようか。

○法制局参事(中原武夫君) 只今おつしやつたような方向に指定病院を持つて行くということは考えずに立案してあります。といいますのは、飽くまでも公的な施設は、都道府県が作るものだけだと、こういう考え方であります。

○山下義信君 そうすると、やつぱしその社会事業的な性格の指定病院といいますか、この精神病院というような仕事も残して置こう、こういう考ですね。元来社会事業的な性格を持つてやるというような考えでありますというと、又いろいろな面に可なり変つた考え方も持つて行かなければならん面もある、これは今現にそういう精神病院を、例えば脳病院というようなものをやつている人達も、これらの点が明らかであろうと思うのですが、まあそれに大体公的な性格を持たせて行こうという考えではないのですね。行政当局は一体それはどう考えておりますか。今後の行政方針としまして、何かお考えがありますか。

○説明員(小川朝吉君) これを拝見しまして、私共運用いたしますときに、御質問の点につきましてはこういうふうに考えております。即ちここに書いてございます入院という字句は、飽くまでこれは強制入院という意味で、一般入院という問題につきましては全く従来の通りでございます。従いまして一般入院する社会事業の対象となるような保護者は当然従来の通りの形で入院して参りますので、そういう御懸念はないのじやないかと考えております。成るべく又広く社会事業的な性格でやるように指導したいと考えております。

○小林勝馬君 提案者が行政当局にお伺いしたいのですが、この精神薄弱者も私宅監置制度を廃止するのですか、これはどういうことになるのですか。

○法制局参事(中原武夫君) 私宅監置制度は全部廃止する予定でございます。

○小林勝馬君 そうすると今まで家庭で精神薄弱程度で何とかできたことも全部いけないということになるのですか。

○法制局参事(中原武夫君) 若し入院をさせなければ他人を傷つけたり、他人に害を及ぼすような虞れがある場合は、入院をさせなければなりません。そういう虞れのないものについては私宅監置をする必要もないと思います。

○小林勝馬君 精神病質者というのはどういうものですか。

○専門員(草間弘司君) これは精神、主として感情的或いは意思的素質に欠陷のある、精神の変質者といつておつたものであります。或いは非常に狂暴なもの、或いは色情的なもの、或いは放火とか、そういうような非常に精神的な感情の激変が烈しいものです。大体只今のところで、推定では〇・五%四十万人ぐらいそういう種類に属する者がある。

○小林勝馬君 そうすると酒癖が悪くていつでも飲んだら暴れ廻つてしようがないというような者も含むのですか。

○専門員(草間弘司君) そういう一過性の者は含んでおらないのでございます。

○小林勝馬君 そうすると私宅監置制度を廃止して、いろいろなそういうものがたくさんの数になりますと、国家でそれだけ費用を持ち切るのですか。

○専門員(草間弘司君) 精神病質者であるからそれはどうしても入院を全部させなければならぬということもないのです。それは非常に程度の重いもの、或いは社会的に、いろいろの社会的生活がうまく行かない、非常に困るものは、それは入院させるわけです。併し自分で入院するということは、これは別です。差支ない。これを病院で入院せしめるということになりますと、それはおのずから違います。

○小林勝馬君 今御説明の中でそういう病質者が四十万もやるという御説明ですけれども、四十万もおるのに対して仮に入院を希望するとかいうようなことになると、病院の病室が足らなくなるのじやないかと思いますけれども、これは一般の病院にも入れられない、いわゆる指定病院というのですか、それに入れなければならないということになると、困つた点が出て来はしないか、その点はどうですか。

○専門員(草間弘司君) この法律によつて入院せしめるということになりましても、只今二万床足らずの病床でありまするから、余程我が国といたしては病床の増加ということも今後考えて貰わなければならないと思います。アメリカあたりの状況を見ましても、非常に病床は多い。人口三百人に一人一つというような程度に病床があります。日本ではまだ人口四千人に一つというような程度であります。今後相当に多くの病床を必要とするのではないかと思います。

○小林勝馬君 次にこの法案で、予防する措置を講じなければならないとなつていますが、精神病の予防ということはどういうことをやるんですか。

○専門員(草間弘司君) 精神病の原因を考えまするというと、いろいろ内因性、或いは外因性とありまして、中には梅毒等によつて精神病になつた、そういうようなものにつきましては、原因を除去する、或いはアルコールの中毒、麻薬の中毒等によりまするものはそういつた方面の原因を除去する。こういうことも必要であります。又優生保護法においても或る程度の予防はできる。又いろいろ精神病になりまするには、環境的にその原因が非常に多い。家庭の不和とか、社会的な混乱、経済上の混乱、そういうような原因が多数集つて精神病を起すというようなこともありまするので、社会的の条件というようなことも精神病の予防には力を入れて行かなければならんと思います。内的の原因を除去すると共に、社会的環境的の原因を除去するということに努めて行かなければならんと思います。相当にこれは一方大きなことでもありまするし、又それははつきりしておらないように思うのですけれども、そういうようなものが集つて病気になる原因になります。ですから、その方に力を入れるということになります。

○小林勝馬君 行政当局にお願いして置きたいのですけれども、この法案が通過しまして実際面に行われるのみならず、現在でも先般から千葉の病院その他の問題が起つておりますが、山下さんがさつきから言われたように、大体精神病院では患者が気違いであるとか、馬鹿であるとか、だから非常に取扱いが粗雑になつておるように現在まで私共見受けます。こういう点が、今こういう制度でどの程度実際人権を尊重してやつておられるかということで非常に心配になるんです。家庭で監置制度があつた場合は、家庭で見て行くからいいけれども、全部家庭には置けない。全部がこういう病院に強制的に収容されるということになると、それで非常に心配される面があるんじやないかと思いますが、この点は特に御注意して頂きたいとお願いして置く次第であります。

○理事(藤森眞治君) 先程山下委員からも、只今小林委員からも御希望があつて、御質問じやないのですけれども、一応現在の精神病院の状態はどういうようになつておるかという政府の方から現在の様子を御説明願つたらよいと思います。

○山下義信君 政府の答えられる前に、私ちよつと補足して置くのですが、最前私がこの精神衛生法による施設に段々公的な性格を強まつて行き、段々そういう点に改善して行く方針があるかという意味で、社会事業的な性格で残す。まあそれも置いて置くというような考えか……ということも打割つていいますというと、現在の社会事業的な性格を持つてやつておる精神病院というものも、甚だしく我々でも不安に感ずるのでありまして、それでこちらの法律によつて、どの程度まで指定病院といいますか、代用病院といいますか、今の小林君の発言にもあつたように精神病院、脳病院といつたようなその施設というものが、どの程度まで安心し得られるものになつて行くかということを主に私は伺つたのでありますから、重ねて私の質問の意味を補足して置きますから、合せて御答弁をお願いして置きたいと思います。

【略】

○政府委員(三木行治君) ちよつと私からお答えいたしますが、卒直に申上げますというと、私自身一昨年予防課長を拝命いたしまして、直ちに起りました問題が大阪の脳病院の問題であります。それまでは戦後殆んど放置されておつた状態で、これは私共等しく責任を感じておる次第であります。そのときのいろいろと調査いたしました概況を申上げますというと、現状では大体精神病院の入院患者の三八%がおよそ公費で入院いたしております。それからその他自費社会保険、減免という公費に非ざるものが六二%になります。従いまして大部分は公費と減免で、実際自費で入つておるような方は極く僅かだと思います。ところがこれは御案内のように結核療養所でございますというと、患者自身の連合体等がありまして、非常に強い要望がございます。ところが精神病院自体が、自身も主張いたしませんで、或いは病人の親権者等におきましても、成るべく係り合いがないようにというような人情的な立場をとりますので、何らこれらに対して御要求がないということと、延いては病院当局者並びに私共行政当局においても、必ずしも十分に行届いていなかつたのじやないかと思います。その一つの現れといたしましては代用病院につきましては、大体府県知事と病院長の協約によりまして入院料を設定しておる。ところが一方一般の入院の場合には、大体社会保険単価によつて入院せしめておりますが、昨年の現状におきましても、代用精神病院に対して社会保険の単価の二百円の入院料を支払わんというような府県が相当あつた。私自身一昨年大阪脳病院事件以来あらゆる機会を捉まえまして、府県の方に強く申入れておる。これは延いては生活保護の患者と同じような入院料を精神病院のものについても払えということを指示いたしました。大体におきまして今年では大体二百円という適正入院料を支払うことになつたのであります。従来府県自体も適正入院料を代用病院に払つていないのであります。従つて取締自体も十分なことができないので、たまたま一方医療監視制度が非常に発展して参りまして、各県からの医療監視員が一般的に努力して廻る。と同時に従来非常に安く値切つて入れておりました精神病者に相当の予算を府県が支払わなければならんので、非常に監視員が強くなりまして、昨今におきましては非常によくなつて参りましたが、まだ先般の千葉の問題等が出るような有様で、この精神衛生法が出ました機会に、これを全面的に改革いたしまして、こうした所で御心配されるようなことのないように努力いたしております。
 先程の山下委員の御質問の趣旨につきましても私共全く同感でございまして、やはり精神病院の大部分は将来とも生活保護者が入る可能性があると考えておるのであります。ただ公的性格と申しますのは、強制入院を対象とする患者でありますが、これだけは当然鍵を掛けて、同じ病院の中でも更に監視をするというような恰好になると思いますが、病院自体の性格が公的になつて不親切になる、というような憾みはむしろなくて、更によくなるのではないかというふうに予想しております。同時に又そういうふうに努力しなければならんと考えております。

○小林勝馬君 今御説明の中にありましたように、普通の病院では本人自体もいろいろな苦情を言うし、いろいろなことを言うけれども、精神病院にはそういうあれがない。ないのではなくて、私共から言わせると、精神病院にしても食糧が足らんとか、あつちが痛い、こつちが変だということはあるのだろうけれども、なに、これは狂人の言うことだというので、取上げないのではないかというふうにも考えられますし、いろいろなそういう点から、片方が分らないということで、いろいろな悪い問題が起つて来ておるのではないか。だか私共から言わせると、これを機会に何とか……そういうようによくなつて行くと言われるが、もう一歩進めて、監視制度というか、監督制度というものを、それを厳重にやつて貰わなければ、やはり今後においても、例えば配給が順当に廻らなかつたりするということは当然あるのではないかというふうに考えます。その点を十分今後、現在もそうでしようけれども、今後の厳重に監視制度とか、監督制度を励行して頂く、そうでなくては安心して家族は病院に入れられないという結果になるのではないかと思います。念のため一つ申入れて置きます。

○中平常太郎君 今の問題ですが、先般私共豊中の委託精神病院に参りましたが、ああいうふうに実に現在の収容状態が極めてルーズであつて、それが脳病院でいえば、そこへ入れたものは脳病者と断定してしまつて、そうしてたまさか所管省の方から調査に厚生省の方から行かれましても、ただ事務長やなんかが受け答えをして、患者の方とは連絡もなし、患者がどんなふうに……脳病者のごときどうしてもあの監置の状態は極めて不完全極まつたものであるのですが、これは精神病院法でも同じであるからして、精神衛生法に変つたからといつて、それが殖えるものではないが、少くとも精神病院法を廃止して精神衛生法になつた以上は、もつと精神衛生という問題を監置ばかりの考えを持たずして、やはり及ぼす影響を一つ治療の方に私はやるべきだと思う。今の脳病院は監置が主となつておる。これは無論監置も必要でありますけれども、四十万も監置するところの施設は日本にはないのだから、して見れば大部分は治療の方面に向つて各医療施設との連絡の上にやつて行かなければならないと思うのですが、この精神衛生という方面を取上げられた以上は、監置を本位にするという政策は私は片寄つておりはせんかと思うのです。衛生方面と治療方面に重きを置くようにやり方に施設なりやるのか、その点を一つ。

○委員外議員(中山寿彦君) この今度の精神衛生法案の骨子は、先刻提案理由を説明いたしました際に申上げました通り、従来のようなやり方ではいかん、精神病患者というものは治療をすれば治る、又予防すれば罹らんようにすることができ得る、こういうようなすべてのことを考慮いたしまして、この提案をいたしたのでございまして、只今中平君の御質問のそういうことも今後ないようにいたしたいという意味から、この精神衛生法案を作つたのであります。さよう一つ御承知を願つて置きます。治療も予防も併行して行く、こういう意味合であります。

○中平常太郎君 その点は中山委員の御説明はよく分りますが、法案にはどういうところでそれが強く謳われておるか、大事な生命線はどこに、謳われているかということを指摘して貰いたい。

○法制局参事(中原武夫君) 組織の面におきましては、二章、三章、四章でございますが、それは後から申上げます。五章の医療及び保護というところが動的な規定でございますので、その点を先に申上げます。非常に重い者は入院させる措置をとつております。これが全部に関連いたすのでありますが、二十九条にあります知事による入院の措置であります。それから入院を必要とする段階にまで至らないけれども、面倒を見なければならない者に対する措置としては、四十二条の観察保護の規定がございます。又そういう者が置き忘れられておらないように、国民全体が協力をする規定が、二十三条から二十六条に至る規定であります。それから二章の精神衛生相談所、三章の精神衛生審議会は、今おつしやつたような精神衛生全般に亘る事項、或いは行政面に対する推進機関となり、或いはみずから相談に応ずる機関となるように考えられております。

○中平常太郎君 概括的にそうなつておることは分つておるのでありますが、どこにも強く謳われていないと思うからその点お尋ねしたのでありますが、次に第十四条の審議会でありますが、審議会の構成分子が「学識経験ある者及び関係行政機関の公務員のうちから、厚生大臣が任命する。」とありますが、民間人というはどういう比率でお採りになるつもりでございますか、十五人の比率ですね。

○法制局参事(中原武夫君) 比率はまだはつきりと決められてはおりませんが、治療面に当つておる民間の方、それから教育面に当つておられる民間の方、社会事業面に携つておられる方、司法保護の面に現つておられる方、そういう方々を「精神衛生に関し学識経験ある者」ということで包含しておるつもりであります。それらに対応する関係行政機関からも出る、おそらく半半になるのではないかと考えております。

○中平常太郎君 審議会は厚生省は大分整理しておるのですが、この間うちも大分整理したのですが整理しては拵える、整理しては拵えることになるのですが、拵えてはやめられるような、年に一回か二回か集会するようなお飾のただ法案に一つ形式を整えるだけのような審議会だつたら、とても精神病者などは治らんですよ。実質において本当にそういう神経病者の治るようなことを考えるならば、行政官庁などというものはどうせ臨席できるのでありますから、主として治療面の人を構成分子の大部分に入れて、本当に生きた治療方面の方とを考えて行くという審議会にしなければ、整理される度に、すぐに内閣は一遍きりにやめたといつて、厚生委員会のほうへ御相談なしにおやめになる、而もそれが束になつて十も二十も一緒に上げられる、そういうような審議会だつたら拵ないが宜しいぜ。

○委員外議員(中山寿彦君) この精神衛生審議会の設置ということは、今回初めて置かれることになりましたが、今中平君のお説の通り、現在審議会というものを廃したらどうかという声が盛んでありますので、私共はこの点は十分考慮いたしまして、審議会のメンバー等についても、いずれこれは政令で何か出ると思いますが、治療方面の人はこの審議会に非常に重点を置いておる、もう費用なんか要らないのだ、我我は献身的にこの方面に努力したいという誠意を被瀝されておりまして、私共この審議会については将来非常な希望を持つております。さよう御承知を願いたいと思います。

○姫井伊介君 第一条で「精神障害者の医療及び保護」とありますが、医療と保護だけでこと足りるか、いわゆる精神障害者でありますから、精神的の療養方面のことが何とか考慮されていなければならない。そういうことはどういうふうになつておりますか。

○法制局参事(中原武夫君) この医療という意味の中には精神的医療ということも無論入つておるのであります。

○姫井伊介君 例えば音楽とか、或いは自然の風物に接するいろんなそういうふうな施設などの必要がある、そういうことなんですね。そういうことは十分考慮されておりますか。

○専門員(草間弘司君) これは只今の病院を視察いたしましても、松沢当りで相当そういう方面も苦心して作つておりますし、又作業的な方面の軽作業のようなことからも医療をやつて行くという、いろいろの面から苦心しております。

○姫井伊介君 第二条に国及び地方の公共団体の責任が書いてありますが、これの教育施設とか、福祉施設とか、これを充実しなければならない。今度はそれとの連絡方法というものはどうか。これじやぽんと切れてしまつておりますが、この法において精神治療をやる場合におきまして、第二条におけるそうした教育や福祉施設との関連というものがどうなつているか。

○法制局参事(中原武夫君) この法律で規制をいたします方面は、行政措置を伴う方面を、どうしても強くそういう方面だけを取上げることになりますので、只今御指摘になりましたような自由に、病院へ入るということについては法律で関連をつけてございません。

○姫井伊介君 次に入院者の処遇ですが、先刻皆さんのお話がありましたように、自分の意思発表も十分にし得ないという人達は、これを親切に労つてやらなければならないといつたような、そういうふうな規定は必要がないかどうか。更にこの年若い青少年などを扱います場合に、ただ医師、看護婦のみならずして、寮母といつたようなものの設置の必要はないか、どうか。

○専門員(草間弘司君) この入院者の処遇につきましては、病院といたしましては非常によくやつておりますし、これもやはり一つの医療の部門だと思います。これを細かく規定に書き上げるということも考えられるのでありますが、これは治療上の非常に重要な部門でありまするからして、治療方面からしてもこの点は十分に考慮されておると思います。

○姫井伊介君 これは病院の施設に対する監督と共に、入院者に対する保護ということは重要なことで、やはり一項ぐらい、或いは一条ぐらいは、これくらいは拵らえなければならないというようなことがあつて欲しいと思うのですが。
 それからもう一つはこの児童相談所との関連であります。二十四条、五条、六条の関係はありますが、児童相談所ともう少し緊密に連絡をとる必要はないですか。

○法制局参事(中原武夫君) 児童相談所との関係は、先程お話しがありましたように、働くときは一応は児童福祉法の方に譲つて行こうと、こういう考え方でありましたので、特に児童相談所長との関連は考えませんでした。

○姫井伊介君 例えばこの児童福祉法によりますと、児童相談所でいろいろな勧告をする。そのときには児童相談所のいろいろな施設に送り込むというようなことがありますが、これは新しくできたこういうものですね、それと関連がないと縁が切れる。その関連性を満たす必要がないかどうか。

○法制局参事(中原武夫君) そういう意味の関連でございましたら、国民は誰でも知事に対して収容措置についての申請ができるという規定が三十三条にございます。その規定で児童相談所長も手続きが直ぐとれるわけであります。

○姫井伊介君 それならば今の二十四条、五条、六条といつたように、そういうはつきりしたものがあると、この関連によつて考えるつもりであるか。誰でもということでは、まあこの施設を、児童相談所を無視したような傾向になると思うのですけど。

○説明員(小川朝吉君) 児童相談所の問題でございましたら、この法律が施行になりますれば、この児童相談所と十分に協議いたしまして相互協力するような運用をいたしたいと考えております。

○姫井伊介君 尚民生委員が兼ねております児童委員との関連、これはどういうようになつておりますか。この規定は必要がないかどうか。やはりこれらも民生委員法自体でこういうふうな施設との関連は十分になつておると考えますか。

○法制局参事(中原武夫君) 民生委員に義務付けることも一応考えたのでありますが、そういう義務付けをいたしますと、民生委員は町を歩いておる精神障害者について厳に通報をいたしませんと、義務違反になるわけで、それでは大変だというので、一般国民と同じように二十三条の規定で必要があればできるだけに止めておこうと、こういうことにいたしたのでございます。

○姫井伊介君 この病院施設は今度の医療法の一部改正にあります医療法人で建てることになるわけですか。

○法制局参事(中原武夫君) 病院施設に関する条項は、当然医療法によりますから、只今おつしやつたような点もその通りだと思います。

○理事(藤森眞治君) 麻薬中毒患者の取扱いですね、麻薬中毒患者の取扱いについては、医療法の上から中毒患者という届出のありましたときにこれをどういうふうにこの法律で取扱うのですか。具体的に取扱い方法を伺いたい。

○法制局参事(中原武夫君) 只今御質問がありました医者との関連を初めの案には書いてあつたのであります。併しそれも二十三条の規定によつて知事との関連がつきますから、知事は二十七条以下によつて、精神衛生鑑定員の鑑定を経た後、必要があれば病院に収容する措置を当然とらなければならなくなります。

○理事(藤森眞治君) それは分りましたが、実際上の取扱いはどういうふうに処理するかということについて、それからあの今の法律にはそれでいいけども実際の問題は……

○法制局参事(中原武夫君) 届出がありました麻薬中毒患者について法律違反があれば、当然麻薬取締法によりまして処分する。精神障害者であると判定を受ければ当然この法律は適用される。こういうふうに考えております。

○理事(藤森眞治君) ところがまだ刑法上の犯罪は犯してないが、麻薬中毒患者で相当兇暴性があると認められるとき、すぐ何かの措置をしなければならん、危害を加える虞れがあるという、こういう場合に中毒患者をすぐ何とかできないかというそこの取扱い方ですが……

○説明員(里見卓郎君) 只今の麻薬取締法によりまする麻薬中毒患者の取扱でありまするが、これについて御説明申上げます。この麻薬取締法によりますると、第四十一条に麻薬施用者は麻薬に中毒していると診断した場合にはこれを厚生大臣に届け出なければならないことになつております。これについては罰則を適用されております。尚麻薬取締法の四条に「何人も、左に掲げる行為をしてはならない。」と禁止行為がありまして、その第四項に「麻薬中毒のため公安をみだし、又は麻薬中毒のため自制心を失うこと。」こういう項がありまして、若しも麻薬中毒者が発見されて、この公安を紊すようなことがあれば、この麻薬取締法によつて措置しなければならないことになるかと思います。で実際の場合といたしましては、これを犯罪者として扱うのには、それの当嵌るような証拠或いはこういうような条項に当嵌るような事態がなければ犯罪者として扱えませんから、そういう事態が起きたときに初めて麻薬取締法によつて処置することになると思います。

○理事(藤森眞治君) 他に御質疑ございませんか……それでは別に御発言もございませんようですから、質疑は終つたものと、認めて御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○山下義信君 本案の質疑を打切り、討論を省略し、直ちに採決に移らんことの動議を提出いたします。

○理事(藤森眞治君) 只今山下委員の動議に御異議ございませんか。
〔「賛成」と呼ぶ者あり〕

○理事(藤森眞治君) 御異議ないと認めます。それでは只今から精神衛生法案について採決いたします。原案通り可決することに御賛成の方は挙手を願います。
〔総員挙手〕

○理事(藤森眞治君) 満場御賛成と認めます。よつて本案は可決されることに決定いたしました。【略】