精神医療に関する条文・審議(その20)

前回(id:kokekokko:20050124)のつづき。初回は2004/10/28。
 
ライシャワー事件についての国会審議です。
アメリカ駐日大使が精神障害者の少年に刺されるという事件が発生し、精神障害者の隔離が不十分だったのではないかといった指摘がなさ れ、その結果、精神衛生法改正の議論が起こりました。
ちょうど、2001年に起こった大阪教育大学附属池田小学校事件の状況と似ていると思います。というよりは、こういう事態は何度も繰り返 すのだ、と私は思います。
何度かに分けてアップします。
従来は衆・参別、委員会別に掲載してきましたが、今回は日付順に掲載します。
【分量が多いので、一部をにわとりショコラに移転させました(2005/5/7)】

本会議会議録第16号(46衆昭和39年3月24日)
○議長(船田中君) 外務大臣から、ライシャワー大使の傷害事件に関し発言を求められております。これを許します。外務大臣大平正芳 君。
   〔国務大臣大平正芳君登壇〕

国務大臣大平正芳君) 本日、午後零時過ぎ、アメリカ大使館事務所の玄関において、外出されようとしたライシャワー駐日米国大使 が一暴漢に襲われ、右ももに負傷するというきわめて不幸な事件が発生いたしました。大使は直ちに虎ノ門病院において所要の処置を受け られておりますが、幸いにして、現在までのところ、経過は良好のように承っております。
 私は、政府を代表して、直ちに同大使を病院に見舞い、衷心より遺憾の意を表するとともに、武内駐米大使をして、米国政府に対し、深 甚な遺憾の意を表明するよう訓令いたしました。
 犯人は十九歳の一青年でありますが、直ちにその場で逮捕され、目下警察において取り調べ中であります。
 このような暴力行為は、日本国民の最も嫌悪するところであり、その絶滅を期するため、政府としては今後一段の注意と努力を傾ける所 存であります。
 私は、ここに、政府及び国民にかわり、ライシャワー大使の回復の一日も早からんことを祈念いたしますとともに、この不幸なできごと によって、日米両国の伝統的な友好関係がそこなわれないことを心から希求するものであります。
 右、御報告申し上げます。(拍手)

予算委員会会議録第18号(46参昭和39年3月24日)
二宮文造君 早川国家公安委員長にお伺いいたしますが、つい先ごろライシャー大使が危害を受けられたそうでございまして、私ども公 明会もたいへん遺憾の意を表明するものでございますが、大臣のもとに送られた報告、その状況についてまずお伺いいたしたいと思います 。

国務大臣早川崇君) ライシャワー大使の不慮の御遭難に対しまして、まことに遺憾に存じ、申しわけなく存じておる次第でございま す。
 本日発生いたしました襲撃事件のただいままでの概要をとりあえず御報告申し上げたいと思います。
 発生の日時は、三月二十四日十二時五分でございまして、発生場所は、米大使館邸の中の玄関入口でございます。加害者の被疑者は、静 岡県沼津市市場百六十九番地、無職、塩谷功和という昭和十九年生まれの少年でございまして、犯行の状況は、加害者は、刃渡り十三セン チ、刃幅二センチメートル、刀身に「職人用」との刻み込みのある飛び出しナイフを使用し、ライシャワー大使の左大腿部を刺したもので ございます。被害の状況は、ライシャワー大使は虎の門病院に収容され、傷は深く、出血多量で、手術中でございますが、生命には別状な い模様でございます。なお、犯人はホテル・オークラ側からへいを乗り越えて邸内に侵入した模様でございます。ただいままでの状況は以 上でございます。

二宮文造君 何かたいへんな不祥事件でございまして、お手元のほうでそういう不穏な空気というものを察知をされたような形勢はあり ましたですか。

国務大臣早川崇君) 現在まで調べておりまするが、特に不穏な状況はございませんでしたし、犯人は、われわれの手元にリストに載 っているような、いわゆる政治関係のリストには載っておらないのでございまして、目下この背後関係、動機等、調査中でございます。

二宮文造君 私どもは、在日公館の生命財産というものは、われわれの責任においてお守り申し上げるのが当然だと、また、これが国際 慣習でもありますし、こういうふうな手落ちがあってはならないと思うのでございますが、今後の方針をお伺いいたしたいと思います。

国務大臣早川崇君) まことに遺憾な事件でございまするが、今後在外公館の方々に対しましては、万全の警備措置をとりまして、か かる不祥事件の起こらないように、特に留意いたしたいと思っております。

○藤田進君 関連いたしまして、私、要望をかねてお伺いしておきます。
 事件発生直後のことでございますので、いまの時点で背後関係その他については少し困難かと思います。そこで、二宮委員の質疑があと 一時間半くらいかかると思います。十分その間に調査連絡をとられて、引き続き私は本問題で緊急的に御質問申し上げ、事態の究明並びに 今後の対策等についてお伺いいたしますが、事件の背後関係その他、早急にひとつ連絡をとり、刻々の状況が御答弁できるように取り計ら いをいただきたいと思います。

国務大臣早川崇君) 目下、警察も、総力をあげて静岡県警本部その他と連絡を取りまして調査をいたしましております。その後の事 情はそのつど報告いたします。

社会労働委員会会議録第24号(46衆昭和39年3月25日)
○田口委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出の麻薬取締法の一部を改正する法律案を議題とし、審議を進めます。
 質疑の申し出がありますので、これを許します。河野正君。

○河野(正)委員 麻薬取締法の一部改正に関しまする質疑を若干行なうわけでございますけれども、この麻薬中毒者あるいはまた麻薬事 犯者と強く関連があると考えられまする性格異常、あるいはまた変質的性格、こういう点がこの麻薬事犯とかなり関連を持ってまいります ので、私はその本題の前に、こういう変質者対策あるいはまた精神病対策、そういう面について若干政府の所信をただしてまいりたいと考 えております。
 特にこのことを取り上げてまいりましたのは、まことに不幸な事件でございますけれども、昨日、いわゆる精神病者あるいはまた変質者 ともいわれておりまする十九歳の少年によりましてアメリカのライシャワー大使が刺傷を受ける、こういう不幸な事件というものが発生を いたしました。ところが今日、国内におきましては、精神病患者というものが百二十数万存在するといわれておりますし、また変質者につ きましては三十万から四十万、なかなか的確な数字を把握することは困難でございますけれども、そういうたくさんの変質者というものが 実は野放しの状態に置かれておるわけでございます。特に今日まで、そういう精神病あるいはまた変質者対策というものが、十数年来強く 叫ばれてまいりました。ところが、そういう世論あるいはまた学界の要求にもかかわりませず、それらの対策というものが十分に行なわれ なかった。私は極端に申し上げますると、昨日のライシャワー大使をめぐりまする不祥事件というものは、そういう変質者あるいはまた精 神病対策というものが怠られてきた、十分行なわれなかった、そういう厚生行政の結果としてあのような不幸な事態というものが生じた、 こういう指摘をいたしましても、私は過言ではなかろうかと考えております。そういう意味で、この点は後ほどの法案の審議ともきわめて 重大な関連を持ってまいりますので、この点につきましてはひとつ厚生大臣のほうから所信のほどを御披露願いたい。

○小林国務大臣 お話のように、精神異常の対策というものが十分に行き届いておらぬということはもう御指摘のとおりでありまして、私 どもまことに残念に思っております。いまでも注意をしなければならぬ者が二十八万人か三十万人おる。しかし実際のベッドが十三万幾ら しかない、こういう状態でありまして、この面において非常に手薄であるということはいなみ得ないのでありますが、一本は従来結核対策 というものに非常な力を入れて、そして相当の経費なり病床をこれにさいておった、こういうことでありまして、最近に至りまして精神病 問題も時代とともに増加をいたす、これは相当な思い切った対策が必要であるということで、最近におきましては公立、私立を通じて病床 の増加ということに非常な努力をいたしておりまして、漸進的ではあるが相当な効果をあげております。国立療養所等も、もう御承知のよ うに結核の病床があくに従って精神柄にこれを転換していきたいというふうな方途も講じており、ある程度転換ができておりますが、何ぶ んにもこれらの病気がいまの社会情勢から相当ふえるということで、病床がこれに追いつかないということであります。数年前からも強制 措置というふうな方法も始めまして、国、公共団体の費用をもって措置入院させておる者も三万数千人おる、こういう状態でありますが、 これらは強制入院の関係上、一種の監禁とまではいきませんが、入れなければならぬ、自由もある程度奪う、こういうことで人の自由と強 制収容との関係等においても相当微妙な問題がありますので、これらについてもそうも一方的な措置もとれない、こういう状態で非常にむ ずかしい状態になっております。しかし、いずれにしましてもとにかく病床数をふやして、そうしてできるだけこれを収容していくという ことは絶対必要なことでありまして、その方面の努力をぜひ重ねたい、私どもも、ああいう事件が起きるについては非常にやはり
責任を感じておる。しかし、どの状態の者まで収容するかということは非常にめんどうな問題でありまして、昨日の者につきましても、多 少の前歴があってもさような措置までにはいかなかったもののようであります。これらは、法務省あるいは警察当局とも今後いろいろなこ とを考え合わせていかなければならぬ。すなわち、厚生省の担当になるものとそうでないものとの限界等につきましても、いろいろめんど うな問題があります、いずれにいたしましても、精神異常者というものに対する政府の対策というものは、さらに前進をさせなければなら ぬということを考えておるわけであります。

○河野(正)委員 精神病あるいはまた変質者に対しまする対策というものを前進的に努力しなければならぬ、そういう御説ではあります けれども、今日私どもが振り返ってまいりますると、昨年の統計によりましても、精神障害者が犯しました犯罪というものは四千四百十二 件の多きにのぼっておるわけであります。このように精神病、変質者というものを政府が野放しにしておる。なるほど、病床の増加その他 についても努力されると言いますけれども、いかんせん、現在入院が必要だといわれておりまする患者というものが三十万近くおる。しか るに実際に入院しておる者は十三、四万しかおらぬ、こういう実情でございます。私は、こういう実情ではたして政府が誠心誠意努力して きたかどうか、そういう努力につきましては、残念でございますけれども疑問を持たざるを得ないというのが、率直な私どもの感じでござ います。特に咋日の例を見てまいりましても、すでに放火容疑がございまするし、なおまた、支離滅裂な陳情書をライシャワー大使に持参 していく、こういう過去の前歴がございます。私は、この変質者という、一つの疾患と言えば少しオーバーになりますけれども、そういう 異常性格というものがなかなか判断しにくい、そういうことを私どもは否定するものではございません。そこで、やはりそういう変質者の 場合には、過去にかりに犯罪があるという事例がありますと、それを機会として隔離する、あるいはまた治療するという処置を講ずること がきわめて常識的な処置でございます。ところが今度の事件を見てまいりましても、実は過去にそういう前歴があるにもかかわりませず、 何ら行政上の措置というものが行なわれていない。大臣も限界が問題だとおっしゃいましたけれども、御承知のように自傷他害のおそれの ある者につきましては措置入院させなければならぬという義務があります。にもかかわらず、そういう処置が怠られてきた。そこで、漸進 的な処置が必要だということはお認めになっておりますけれども、きのうのライシャワー刺傷事件というものは具体的な一例でございます が、この一例を見てまいりましても、やはりいまの行政というものがほんとうに、実態に応じた処置をしているか、この点私どもの納得の できない点でございます。そういう点から、はたして政府が、いまお答えになりましたような御努力というものをほんとうに考え、また今 後実行されようとしておるのかどうか、いま申し上げましたような過去の経緯から見てまいりまして私どもは納得することができませんの で、あらためてひとつお答えをいただきたい。

○小林国務大臣 これはお話のように努力はしても結果があがっておらぬ、こういうことでありまして、結果論的に見まして、私どもも不 十分だということは自認せざるを得ません。しかし最近におきまして、特に精神病の病床増加ということには力を入れまして、三十九年度 等におきましても五万何千かの病床をふやそう、こういう努力をいたしておりますし、世論のあれを見ましても、これらの努力というもの は倍加をしなければならぬというふうに考えております。

○河野(正)委員 そこで、もう一点私が取り上げてみたいと思います点は、昨日の事件を通じて厚生省のほうでも談話を発表されておる わけでありますけれども、その談話の中でやや誤解を招く点がございます。どういう点かと申しますと、精神病患者に対しましては世間が ひとつあたたかい目で見守ってもらいたい、そういうことを望む、こういう談話が発表せられておるわけでございます。私ども、もちろん 精神病患者に対してあたたかく保護していくという意味味はわからぬわけではございませんけれども、そういう誤解を受けるような指導理 念というものが、やはり精神衛生相談所等におきまする指導体制の中で欠陥を生じている、そのために不測の事態というものが起こってく る。やはりどこかに欠陥があって起こってこなければ、昨年の統計だけでも精神障害者が犯した犯罪が四千四百十二件もあるということで ございますから、私はどこかにやはり指導上の欠陥があろうというふうに考える。これは明らかに、いまの犯罪の統計がよく示しておると 思うのです。私どもがもなる感じを申し上げておるのではない。具体的に、一年間に四千四百十二件も精神病患者の変質者というものが犯 罪を犯しておる、この事実が明らかに物語っておると思う。そこで私は、厚生省の談話を伺ってもどうも指導体制に欠陥があるのじゃない か、こういう感じを持つのであります。この点はひとつ明らかにしてもらわぬと、私どもも納得するわけにはまいりませんので、それに対 する率直な御所見を承りたい。

○若松政府委員 先生のいろいろのお話、一々ごもっともでございます。こういう対策が必ずしも十分でないことは、まことに残念でござ います。しかしこの方面は、先生が私よりさらに御専門でいらっしゃいますので、説教がましいことでまことに恐縮でございますけれども 、精神障害者の中で私ども一番困っておりますのは精神病質者でございます。精神病者は、どちらかといいますとまだ手当てが楽でござい まして、精神病院に入院する、あるいは監護室に入れる等のことによって、危険な患者等はある程度防護できます。しかし、精神病質者に つきましては、これは決して病気ではございませんので治療する方法とてない。しかも精神病質者は、本来知能には通常何ら障害がない。 知能も日常生活もほとんど障害がないが、非常にへんぱな片寄った性格がときどきあらわれる、またこれがきわめて衝動的にあらわれると いうような点で、社会に非常に大きな危険を及ぼす可能性を内蔵しておりますけれども、これが常に危険であるとは決して限らない。そう いうところに非常に問題がございまして、精神病質者を全部危険視扱いをして、これを隔離その他の方法によって自由の拘束をするという ことは、これまた非常に大きな人権侵害である。精神病質者といえども日常の生活をしておる人たちでありますので、これにあまり無理な ことはできない。したがって、その精神病質者の行動に伴って、明らかに日常生活において自傷他害のおそれがある場合に、これが初めて 精神衛生法の措置の対象になるわけであります。そういう意味で精神病質者をすべて行政的にマークして監視するというようなことは、こ れはその数からいいましても、本質からいいましても、とうていできるものではないし、またあまり広範にそのようなことをすべきもので もないと存じております。この辺のことは先生のほうが十分御承知のことでございます。
 なお、これらの問題に対して、われわれは一体将来どう処置していくかということでございますが、これは、いま申しましたように精神 病質者をすべて精神病院に入院させるということは適当じゃないのでございまして、治療の方法がない以上、いかにしてその精神病質者が 、自分の異常が社会的に弊害を及ぼさないように、みずからの精神あるいはみずからの生活をコントロールするかということが唯一の対策 であろうと思います。そのコントロールをさせるようにするには、ある程度の指標をすることも必要でありましょうし、そういう意味で私 どもといたしましても、このような精神衛生上の指導対策を強化するために、やはり両度の技術的なセンターを設けて適当な指導者を養成 する必要があるという意味で、御承知のように三十九年度からは技術的な高度な指導体制ができるような精神衛生センターというものをつ くり出していきたい、そのためにさしあたり三十九年度に三カ所予定しておりまして、これは順調にまいりますれば将来精神衛生センター というものを大いに拡充いたしまして、そういう精神衛生上の指導強化を行ない、専門的な職員の充足、訓練等を一行なっていきたいと存 じておるわけであります。

○河野(正)委員 私が申し上げておるのは、そういうことではない。いま申しされましたようなことは、私も十分承知しておるわけであ ります。私が指摘をいたしましたのは、昨年の統計を見ましても、精神障害者で犯罪を犯した人は四千四百十二件あるわけですよ。問題は ここなんです。それから、きのうの具体的なライシャワーの不祥事件を取り上げてまいりましても、過去に放火をやったという容疑、ある いは精神分裂的な陳情書を持ってきたという前歴があるわけなんですよ。ですから、病質者の限界というものが、判断というものがなかな かむずかしいということは、私ども十分に承知しておるわけです。ですから、こういう前歴がある場合こそ、すみやかに処置すべきではな いかという指摘を私はしておるわけです。それだから、病質者というものが精神病患者となかなかその限界というものがむずかしいんだと いうことを、私は十二分に承知しているわけです。そこで、そういう前歴があったような場合にはすみやかに処置すべきではなかったか。 これはもう学界の定説です。病質者で処置するとするならば、軽い犯罪を起こしたときに、それを機会に処置すべきだというのが常識なん です。そういう常識的処置をなさらなかったから、きのうの事件が起こったわけでしょう。しかも昨年の統計でも、四千四百十二件の犯罪 件数というものがあるわけです。それから、病質者を全部隔離せいなどというばかなことを、私は言いはしませんよ。そういう病質者の中 ですでに犯罪を犯したのがおるわけなんです。そういう人を処置しないから、きのうのような事件が起こってくるわけです。そういう処置 をなぜなさらなかったかと私は指摘しているわけです。この点どうでしょう。

○小林国務大臣 お話のような御意見もありますが、あの具体的な問題につきましては、たとえばいまの処置を要する病人があると認める ものは、家族または関係の医師から保健所に届けて処置するということになっておりますが、きのうの者はそこまではいかなかった。私は 警察をどうこう言うのじゃありませんが、ああいうふうな前歴がある者は、一応は保健所の所管というよりか、警察である程度要注意人物 になるんだ、こういうように思うのでありまして、家族に注意するとか所轄の警察にこれを監視してもらうとか、そういう処置をとるべき ではなかったか、こういうことで、私ども責任を云々するわけではありませんが、まだ保健所のほうが関与するまでの外部から措置がとら れなかった、したがって保健所も知らないでおったというふうなことのように考えております。むろんいまお話のように自傷あるいは他害 の疑いのある者は、当然関係の医療機関あるいは家族から保健所へ届けるということになるわけでありますが、いまの者はそこまではいか なかったので、あるいは多少の犯罪的要素もある者として、警察がもう少し監視をすべきではなかったかと私は考えております。その点は 、厚生省あるいは保健所がそこまで目が届かなかったということと同時に、それに関与させられる機会がなかった、こういうことを申し上 げられる、こういうように思います。

○河野(正)委員 私がこの点を指摘しておりますゆえんは、変質者というものが非常に多い。ところが、この変質者のすべてを隔離した り収容したりすることは、これは人権上の問題もございますからできません。そこで、やはりそういう前歴があり、そういう事故を起こし た場合にすみやかに処理する、こういうたてまえがとられておれば、私は今度の事件もあるいは防ぎ得たのではなかろうか。これは一例で ございます。ですけれども、犯罪統計から見ましても、一年間に四千四百十二件も犯罪があるわけですから、きのうの問題は一例でござい ますけれども、そういう案件というものがかなり多いであろう。そうするならば、やはりそういう風前の処置というものが行なわれれば、 そういう犯罪は防止できるわけです。また、そのためにとうとい人命がおかされるようなことになるといたしますならば、これはまことに 残念でございます。そういう意味で、いまいろいろ指摘しておりますような前歴のある場合にはやはりすみやかに処置する。たとえば私、 きょう新聞紙上でライシャワー大使に提出したといわれております陳情書の内容を拝見したのですけれども、これは専門家が見れば分裂症 です。日本に近視が多いのはアメリカのせいだ、これはもうあの文書を読んだだけでも分裂症です。この点、私先ほど指摘いたしましたよ うに、役所同士の指導体制というものがちぐはぐになっておる、歯車が合っておらぬ、そういうところにも問題があろうと思う。そういう 意味で、精神衛生相談所あたりの指導体制というものはやはり若干欠陥がある。その辺が充実し、強化されておれば、そういう案件があれ ば警察はすみやかに精神衛生相談所に連絡するという事態も起こっておろうし、いまさらここでいろいろ申し上げても始まりませんけれど も、やはり究極的には精神衛生相談所あたりの指導体制というものが強化され、そしていろいろなPRが行なわれるということになります と、いまのような事案というものが事前に防止できると私は確信するわけです。そういう意味で将来、精神衛生相談所あたりの指導体制と いうものをもっともっと強化する必要があるのではなかろうか、そういう面もございます。
 それから、先ほど具体的な例でございましたけれども、軽い事犯を起こした、そういう変質者に対してはすみやかに処置する、こういう ことは私は適切な方法であろうと思うのです。それから、もちろん精神病患者の犯罪というものも相当多いわけですから、したがって、そ ういう精神病患者を収容する施設を早く完備することも必要だと思います。いずれにいたしましても、いま百万に及びまする精神病患者あ るいは変質者、精薄もございますけれども、そういうものが野放しになっておる。やはり今度のライシャワー事件を契機として、禍をもっ て福となすということばがありますが、もうこの機会に日本の精神病、変質者対策というものも根本的にもっと検討する必要があるのでは なかろうか、具体的にこういうように感ずるわけです。そこでひとつ大臣から、今後野放しの精神病、変質者対策として、根本的に検討す る必要の有無、あるいはまた方針等についてお答えいただけばけっこうだと思うのです。

○小林国務大臣 これが一つのチャンスと申すわけではありませんが、これらの問題に対する政府の対策として不十分であった、手抜かり がある、こういうことはわれわれは認めざるを得ません。何といたしましても、先ほど申し上げましたように、われわれが一応入院を必要 と認めるような者が三十万人もあって、入院者は十四万人くらいしかない、こういうこと、でありまして、病床をふやすということが当面 の急務であるとともに、その三十万人のほかのいまの精神の異常者、あるいは軽度の障害者というものも相当な数、いまお話しのように百 万もおる、こういうことでありまして、この問題につきましてはわれわれもこれからいろいろ検討してみたいと思いますが、要するに、厚 生省というものは大体予防とか治療とか、こういう面を担当するところでありまするし、それから犯罪的性格を持つ者の監視というような ものは、これは警察の分野、あるいは法務省の保護処分、あるいは教護処分、こういうようないろいろの分野でもって担当しなければなら ぬということで、われわれが関知したものは警察に通告する、また警察からも連絡をとってもらう、厚生省、法務省警察と、この三者が体 となって緊密な連絡を持って、そして犯罪方面の予防、こういうことにつとめなければならぬと思うのでありまして、大事なことは、要す るに精神病患者をみな収容することは不可能でありますから、監視をどうするか、こういう問題に帰着する。監視については家族に依頼す るとか、あるいは民生委員に依頼するとか、あるいは保健所で担当するとか、これから精神衛生センターというようなものを拡充してやっ ていくとか、いろいろの方法があると思います。要するに、目の行きゆくように政府全体としてつとめなければならぬ、またそういう組織 なり制度なりをつくらなければならぬ、こういうふうに考えております。