精神医療に関する条文・審議(その25)

前回(id:kokekokko:20050422)のつづき。初回は2004/10/28。
精神衛生法改正の審議です。

社会労働委員会会議録第33号(48衆昭和40年5月17日)
○松澤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 内閣提出の精神衛生法の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本案審査のため、去る十五日、参考人出頭要求に関する件につきましてその人選を委員長に御一任願いましたが、本日、日本医師会副会長阿部哲男君、東京大学医学部教授秋元波留夫君、西日本新聞論説委員浅田猛君及び都立松沢病院長江副勉君の四名の方々に参考人として本委員会に御出席いただいております。
 参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多忙のところ御出席いただきまして、まことにありがとうございます。
 本案につきましては各方面に広く関心が持たれております。本委員会といたしましては、参考人各位の御意見をお伺いし、本案審査の参考にいたしたいと存じます。何とぞ忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
 なお、議事規則の定めるところによりまして、参考人の方々が発言なさいます際には、委員長の許可を得ていただくことになっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、以上あらかじめお含みおきを願いたいと存じます。
 なお、議事の整理上、御意見をお述べ願う時間はお一人十五分程度とし、参考人各位の御意見開陳のあとで委員の質問にお答え願いたいと存じます。
 よろしくお願いいたします。
 まず阿部参考人、次に秋元参考人、浅田参考人、江副参考人の順序でお願いいたします。まず、阿部参考人からお願いいたします。

○阿部参考人 ただいま御紹介いただきました日本医師会の阿部でございます。
 このたび精神衛生法の改正案というものを御審義いただくにあたりまして、私も精神衛生審議会の一員といたしましてこの審議に参画いたしたわけでございますが、なおこの問題につきまして非常に重要な項目がたくさん含まれておりまして、答申申し上げました点につきましても、お取り上げいただいた点もございますし、また審議継続中のものもございます。
 そこで、審議会といたしましては、本年の一月に御答申申し上げたのでございまするが、それは十六項からなっております。
 第一、「精神障害」の定義というものでございますが、この問題につきましては神経症の問題をはさんでございましたのですけれども、いろいろ問題点がございまして、神経症というものにつきましては、あらためて審議申し上げて表現を変えてからこれをある程度入れたい、こういうことでございます。
 それから、第二の地方精神衛生審議会の設置につきまして、中央にただいま申し上げました精神衛生審議会というのがございまして、これは厚生大臣の諮問機関でございまするが、地方におきましても、現在の精神衛生学の非常な進歩と非常に複雑化している面から見まして、行政の分野におきまして、地方精神衛生審議会があったほうがいいのではないか、こういう趣旨に基づいて御答申申し上げたのでございます。現行法におきましてこういう点はございませんで、改正案の中に精神衛生診査協議会、こういうものが出ておりますけれども、この精神衛生診査協議会は第十六条の二のところに出ておりますとおり、費用の負担について審査して知事の諮問に答える、こういうだけでございます。そこで、この地方精神衛生審議会というものにつきましていろいろ御疑問の点もおありだと思うのでございますが、この問題につきましては、いずれ専門家の方々も本日参考人としていらしておりますので、その方の御説明にまちたいと思うわけでございます。
 第三は、精神衛生鑑定医制度、こういうのがございます。これは地方におきまして精神衛生鑑定医をもちまして指貫入院等の決定をなす際に、あるいは保健所の決定にあたりまして非常にアドバイスとなるわけでございますが、これの問題点といたしまして、この精神衛生鑑定医というものがあまりに制度化するということについても疑問が残っております。と申しますのは、医師会の立場から申し上げますと、医療制度全般から見ても、精神科医だけ専門医制度に準ずるものがあるというふうに誤解されやすい、また医師の資格制限を規定するような方向にあまり走り過ぎますと、精神病院の管理者や病院の精神科の長を規制するということになりまして、非常に問題点が出てくると思うので、この点も御留意願っておきたいと思うわけでございます。
 第四の同意入院制度及び保護義務者の制度、それから五の精神障害者に関する申請通報制度、これにおきましては、警察官の通報制度並びに検察官の通報制度を改善いたしまして、もっと手早く通報することのできるようにここにうたってございますので、今後非常に前向きの姿勢で精神障害者の発見にさらに一歩前進するものと確信しております。そのほかに、保護観察所の長の通報制度等もございまして、同じような形においてとらえておるわけでございます。ただ、そこの医師の通報制度の取り扱いにつきましては、審議会といたしましていろいろ議論されたのでございまするが、現在におきまして医師の通報制度だけここに分離して載せるということになりますと、非常に問題が大きくなりますし、またそれによりまして早期発見の機会を失うということもございますので、現在はまだ決定しておりません。今後諸外国の資料等を十分勘案いたしまして引き続いて審議をしていきたい、こういうわけでございます。
 それから、措置中の精神障害者に関する都道府県知事の行なう措置解除という問題も大きく出ておりまするが、これも大体において解決し得るものと考えられる次第でございます。
 また同意入院患者が退院しようとするときの病院長の通報の義務というものも今度相当明らかにされたわけでございます。
 それから、緊急入院制度、さらに精神病院からの無断退去者に対する措置というものも問題点となったのでございまするが、結局、この緊急入院制度という問題は、やはり人権の擁護という意味からいきまして問題点がございますので、相当慎重にこれをやる、こういうことでございまして、最大十日間程度の入院手続というものを当該患者に認めることになったようでございます。
 こういう問題からして、精神病院に入院または仮入院している者の信書の制限、これは、信書の秘密は当然守るべきであるが、こういうことで人権を相当尊重すべきであるという方向にきたわけでございます。
 以上の問題点のほかに、いろいろございまするが、精神衛生の病院の設備、構造の問題とか、それから精神科の病院というのはございまするが、診療所というものについては現在認められておりません。しかし、われわれの考えからいたしますと、病院、診療所というのは病床数によって区別しているにすぎないのでありまして、これも医療制度全般の見方から申し上げまして、やはりこういう区別はすべきではないのじゃないか。まさに時代錯誤ではないか。こういうことで今後診療所の問題も引き続いて審議してまいりたい、こういうたてまえをとっておる次第でございます。
 また、その他の要望事項といたしましていろいろございますけれども、結局結論的にちょっと申し上げますと、医療制度全般から見て、やはり精神病院というものも検討してまいるべきが筋である、こういう結論になるわけでございますが、結局現行法と今度の改正法案を見ますと、非常な前進の姿が見られておりまして、公費負担の問題も外来患者にまでこれが拡大されるということも非常な前進でないかと思う次第でございます。
 結局、やはり精神衛生法の改正にあたりましては、特にただいま申し上げたような点を留意すべきであるという精神を持ちまして審議を尽くし、なお今後引き続いて御答申申し上げる、こういう筋道になっておるわけでございます。
 以上、簡単でございまするけれども、精神衛生法についての私の考え方を申し述べさしていただいた次第でございます。ありがとうございました。(拍手)

○松澤委員長 次に、秋元参考人にお願いいたします。

○秋元参考人 このたび精神衛生法一部改正がこの国会で審議されるにあたりまして、この法の改正にこれまで専門家の立場から終始深い関心を持っておりました日本精神神経学会の立場で、私が率直な御意見を申し上げることができますことをたいへん光栄と存じます。本店は非常に重要な会議でもございますので、歯に衣を着せず率直に私どもの考えておりますことを述べまして御参考に供したいと思います。
 日本の精神障害者に対しますこれまでの国の施策、これは申すまでもなく、非常に残念なことでございますけれども、欧米諸国に比べますと非常におくれておりまして、とうてい文化国家というような名に値するものではないのでございます。これは、たとえば近来毎日のように新聞に載っておりますああいう精神障害者によるいろいろな困った事件、こういうふうなものがあとを断たないというような一事だけでもわかるのではないかというふうに考えております。ああいうふうな事件は、非常に多くの精神障害者がおりますけれども、そういう精神障害者の数から申しますとごく一部のものでございますし、また、ああいう不測の事件が起こりますことにつきましては、単に精神障害があるということだけではなくて、そこにいろいろな社会的条件が加わっておるのでございますけれども、しかし、ああいう事件が起きますと、精神障害者は危険であるというような考え方が強くなります。また、これによりまして精神障害の方をかかえております家族にとりましては非常に肩身の狭い思いをするということが原因になりまして、そのためにできるだけ人に知らせないようにするといったような秘匿の傾向が出ております。こういうように精神障害者を危険視する、したがってまたこれを家族が秘匿するというような悪循環がございます。そしてああいうふうに事件があとを断たないわけでございます。こうした現在日本の精神障害者対策につきまとっております悪循環を断ちますためには、何としても国が責任を持って精神障害者に対する施策をつくるということが必要なわけでございます。このような見地から見ますと、現在の精神衛生法にはいろいろ不備な点がございます。そういうことで私どもはかねて、数年前からぜひこれを改正していただきたいということを機会あるごとに要望してまいったのでございますけれども、たまたま御承知のように昨年非常に不幸な事件が起こりました。あれがきっかけになりまして、ようやくこれが世論の注目するところとなりまして、今度政府提案の形で法改正をされるということになったわけであります。しかし今度、いろいろ当局の苦心がございましたけれども、出ました案というものを見ますと、一体このような案でいま私どもの当面しております精神障害者の問題をほんとうに解決できるかどうかということになりますと、私どもとしましてはこれに対して多くの危惧を持つのであります。そうした見地からぜひこの国会におきまして、精神衛生法の改正を十分に慎重審議されまして、これを、これからの精神衛生施策を国が責任を持って行ない、精神障害者対策をほんとうに推進するようなものにしていただきたいということを、学会に連なります者といたしまして心から切望しております。
 そこで、まず精神衛生法の改正にあたりまして、私どもが望みます根本の精神は、この法律がこれまでは障害者の入院治療、ことに自傷他害といったような公安上の危険があるもの、こういうものの隔離入院――措置入院といっておりますが、こうしたものの措置入院に重点が置かれた、そういう消極的な対策から脱皮いたしまして、ひとり精神障害者の問題だけではなくて、家庭であるとか学校であるとか職域であるとか、そういった広い精神衛生全般を含めました、国民全般の精神的健康を向上させるといったような施策に資する、そういうような答申であることを望んだわけでございます。また精神障害につきましては早期に発見し、これに適切な治療を加える、さらに退院したあとのアフターケアをいたしまして社会に復帰させる、そういった早期発見からリハビリテーションまで、そういう一貫性のある施策が行なわれること、そういうところに法律を拡大発展させるということを考えているわけでございます。すなわち、精神衛生法をこれまでの消極的な社会防衛的な、いわば精神病院法というような形のものから、積極的な進歩的な、文字どおりの精神衛生法に改正することがほんとうのねらいであるというように考えまして、これまでそういう見地からいろいろな意見を申し述べてまいったわけでございます。
 このような見地に立ちまして、今回の政府提出の法律案を見ますと、確かにその中にはこれまでの法律にはありませんでした在宅精神障害者、病院に入ります以前の家におります間の精神障害者のめんどうを見る、そういう訪問指導の体制であるとか、あるいはいま精神医学的な治療が進みまして、軽症な者は入院させませんでも自宅で治療できますが、そうした自宅治療に対してその治療費を国が負担する、公費負担するといったようなこと、その他、そうした種々の点で確かに前進しているということは言えるのであります。しかし、先ほど申しましたような進歩的な姿勢という観点から見ますと、種々の不満足な点がございます。すでにこれにつきましては、この法案のもとになりました精神衛生審議会におきましても、この審議会の答申が十分に尊重されなかったという点で、厚生大臣に対して不満の意を表明してありますし、また学会でもこれじゃ困るということを機会あるごとに述べてきたわけでございますが、それらの不十分な点を要約いたしますといろいろありますけれども、およそ三点に尽きるのではないかと私どもは考えております。私どもはこれを精神衛生法改正の三つの柱というふうに呼んでおりますが、この一つは精神障害者の定義であります。
 御承知のように、現在の精神衛生法の定義、精神障害者に対する定義は狭義の精神障害精神疾患、精神病、これと精神薄弱、それから精神病質者、これは性格異常でございますか、生まれつきの病気というよりは、むしろ先天性の病気によるところの性格、この三つに限られております。しかし、先ほど申しましたような精神から申しますと、精神衛生法はもっと広く、今日の精神医学が対象とするような、そういう広い軽いものも含めまして精神障害一般を含めるべきであるということが、この定義を改めるべきであるという主張の理由であります。すなわち、この三つに限らず、精神医学的なケアを必要とするような精神能力の障害あるいは異常行動を制限する、さまざまなものがございますが、たとえば神経症などと言われているものの中にもそういうふうなものがございまして、これを中期に処理することが、いろいろな社会的な問題を未然に防げる一つの大きな理由にもなる、方法にもなるわけでございますが、このような広い方法に拡大しなければならぬということでございます。
 それから第二は精神鑑定医制度でございますが、御承知のように現在は、この自傷他害というようなおそれがありますと、この者は国の負担によりまして、公費によって指定精神病院に入院させることがあります。その際に、この患者がそのような措置入院の条件に合致するかどうかを鑑定するのが精神鑑定医でございまして、これは厚生大臣が指定をするわけです。そして、その指定の条件としては、精神障害の治療について三年以上の経験を持った者といったようなばく然とした規定がありまして、それに該当するようなことであれば、そうしてまたこれは厚生大臣になっておりますが、実際には都道府県でいたしますが、都道府県でそういう鑑定業務をいたすのに必要であるという限度内においてこれを指定する。したがって、これは資格でも何でもないのでございますが、しかし措置入院といったような人権の制限、こういうふうなことをさせるというふうなことがありますために、特にそういった制度を設けております。ところが、この人権制限といったようなことは措置入院だけでなしに、一般に精神病院ではこれが医療上どうしても行なわれることになります。つまり、措置入院だけでなくても、医療上必要があれば患者の意思に反してその患者さんの行動を制限する、つまり本人が幾ら出たくても外へ出さないで、それを一定のところに託しておく、行動を制限する、つまり本人の意思を束縛するという、ほかの医者では行なわれない、そういう特別な人権に関する権限を精神科の病院の医者にやるわけです。ところが、このほうは全く何にも制限がありません。鑑定医というものがありますけれども、それといまの仕事とは無関係でありまして、措置入院と関係がなければ、そういう人権の制限はだれでも医者であればできる。つまり現行の医療法では、これは日本の非常に大きな欠陥でございますが、専門制度がありませんために、医師免許があればだれでも――きょうまでほかの臨床のことをやる、あるいは臨床を知らなくても基礎で何か勉強をして学位でもとる、あすからは直ちに精神病院の経営の管理者になれる、そうしてこのような人権制限ができるというたてまえになっておる。それが非常におかしいのでございまして、これは日本の精神病院の管理の上の大きな欠陥になっております。これを改めるためにはどうしても専門制度などに、そういう人権制限を行なうための一つの資格を認めなければならぬという立場から、これは審議会でも論議されまして、その結論として精神衛生医、これは仮称でございますけれども、そういうものを設けて、この精神衛生医はやはり一定の基準を厳格に課する。審議会の案では、五年以上のしかるべき精神医学の施設、診療施設で臨床経験を持った者について適切な審査をいたしまして、そうしてその資格を認める、こういうふうな資格を持った人が初めて精神病院の解釈なりそういう人権制限も行なえるわけです。そうして必要があればその人は措置入院の指定によりまして措置入院のほうの鑑定を受ける、そういうことはぜひ必要だ、こういうことを主張したのでありますが、今度の法律ではそれが認められておりません。依然として非常に不完全な精神衛生鑑定医の制度が存続しているわけです。
 第三点は地方精神衛生審議会の設置であります。御承知のように日本の精神衛生対策につきましては、中央に厚生大臣の諮問機関として精神衛生審議会がございます。そうしてここでわが国全体としての精神衛生に対する施策がいろいろ大臣の諮問によりまして討議され、それが大臣に答申されまして行政に反映されるというような仕組みになっているのであります。ところが肝心の地方におきましては何らそれがありません。したがいまして、地方の精神衛生行政は官庁の担当の係官あるいは民間のほうの精神衛生団体、そういった組織がてんでんばらばらでやっておる。すなわち、その地域性に即した自主的な精神衛生を促進する、そういう肝心のブレーントラストが全然ありません。つまり日本の精神衛生のそういった周知を集める機関というものは頭だけありまして、肝心の手足がない。これではとても推進ができないわけです。したがいまして、中央にそれがあるのでありますから、ぜひこれを一体となるような地方精神衛生審議会を設けるべきである。この三つともいずれも関連がありまして、これによって初めて精神衛生法が旧来の精神病院法でなくて、前進的な、進歩的な、世界のいずれの精神衛生法もこのような姿勢を持っておりますが、そのようなものにすべきであるということを言っておったのでありますが、この三点とも今度の改正になります法案では除かれておるというので、この点は非常に遺憾きわまりないということであります。ぜひこの点を御勘案いただきまして、このような方向に持っていっていただきたいということをお願いいたします。このようにいろいろ欠点はございましても、昨年来時間が足りませんで十分な質疑ができませんでしたが、精神衛生審議会でも審議を尽くし、また厚生当局も非常に熱意をもってこれに当たられましてこういう法案ができました。これにはいろいろな欠点もありますが、しかし先ほど申しましたような若干の点では確かに前進であります。ですから、学会としましてはこの案が通るということを望んでおりません。そういった修正ということがもしできますならばその上でぜひこれは通していただきたいということを考えておるわけでございます。
 最後に、私はいまから四十七年前に、日本の精神医学の父といっていい呉秀三先生、――先生の百年祭をことしいたしましたが、呉秀三先生が残されたことばがあります。それはこういうことばであります。一九一八年、ちょうど五十年ほど前でありますが、こういうことを言っております。先生は、「わが国何十万の精神病者は、実にこの病を受けたる不幸のほかに、この国に生まれたるの不平を重ぬるものというべし」、このように当時の精神障害対策がいかに貧困であったかということが、このことばでわかると思いますが、しかし、考えてみますと、この状態と今日とはあまり著しい変わりはないのじゃないかとさえ思われます。現在の日本におります精神障害の方々は、このような悲劇を繰り返さないためにも、ぜひ国会におきまして、この精神衛生法の改正について御尽力いただきたい。そうして一歩でも前進するようお願いいたしまして、私の公述を終わります。(拍手)

○松澤委員長 次に浅田参考人にお願いいたします。

○浅田参考人 精神衛生法の一部を改正する法律案につきまして、一、二の点につきまして私の見解を述べさせていただきたいと思います。
 まず、現行精神衛生法の改正の必要性があるのかないのかという点でございますが、これはどなたもその必要性を認められると存じます。むしろ、必要性というよりも緊急性があるといったほうがいいのではないかと存じます。ただ、精神障害者に対する施策ということになりますと、患者の人権問題と重要な関連を持ってまいりますし、一面また社会公安上の要請もございますので、慎重な考慮を必要とするのでございますが、私は、少なくとも現段階におきましては、施策の重点は医療保障の拡充強化によって適正医療が確保されることだと思います。適正医療が確保されますと、結局それが社会公安上にも好結果をもたらしますことは、何人も疑い得ないところだろうと存じます。その点、今度の改正案を見てまいりますと、公費負担のワクが広げられまして、通院医療につきましても公費負担措置がとられ、国及び都道府県が医療費の二分の一を負担することになっております。これは一歩進んだ措置と確信いたします。これがうまく運用されますならば、早期治療という点でもかなり期待が持てるのではないかと考えるものでございます。精神衛生審議会の答申を見ましても、外来患者の治療については、十割とはいかないまでも、少なくとも二分の一を下らない程度の公費負担が要望されております。したがって、今度の措置は、その限りでは答申の線に沿ったものと考えます。ただ、現在でも仮退院制度というものがございまして、これは措置患者についてではありますが、全額公費負担ということになっております。この点を考えますと、厚生当局もかねてから精神医学の発達によって通院医療の重要性がますます加わってきたとおっしゃっておるのでございますから、さらにこの半額、いわゆる二分の一を上回る公費負担が期待できないものかどうか。また公費負担は六カ月を限って行なわれることになっておりますが、せっかく通院医療で医療効果が上がっておりますときに、六カ月で打ち切られるということになりますと、やはり医療効果がそれによって中絶されるということになりまして、この点につきましても、できれば転帰まで半額を公費で負担していただくというふうにはまいらないものでしょうか。そこまでいかないといたしますならば、その運用にあたって弾力的な配慮をお願いしたい、こういうふうに考えるものでございます。
 ただ、ここで私申し上げたいと思いますのは、このように国民の税金によって医療費が負担されることになりますと、病院経営の側におきましても、良心的に健全に経営されなければならない、こう思うのでございます。ところが現在の医療法第七条によりますと、医者でなくても管理者に医者がおれば病院経営ができることになっております。もちろんその場合におきましては、利潤追求をしてはならないということがうたわれてはおりますが、実情は必ずしもそうではなくして、たとえばキャバレーを経営しておられる人が精神病院をも経営されておる。そしてとかく利潤に傾いた病院経営が行なわれておるというような事実も聞くのでございまして、この点につきまして公費負担のワクが広がってきました今日、何らかの反省が必要ではないかと、こういうふうに考えるものでございます。
 次に、同じく医療費補償についてでございますが、措置入院患者以外の入院患者の場合には、今度の改正法におきましては医療費補償措置がとられておらないのでございます。この点につきましては、私、率直に申し上げまして、了解に苦しむところでございます。審議会の答申によりますと、一般入院患者の医療費につきましても、その要する費用の相当部分を公費で負担する必要があるとされております。常識的に考えまして、入院を要する精神障害者の場合のほうが、むしろ経済的にも負担が大きいと考えられますし、通院医療につきまして公費負担措置がとられましても、地域社会によりましては適当な医療機関に恵まれないで、通院ができない場合もあると、こう考えるわけでございます。したがって、おそらく入院患者につきましての医療費補償措置が見送られましたのは、財政上の理由によることと存じますが、近い将来の課題といたしまして、ぜひ一般入院患者の医療費につきましても、公費である程度負担していただけるような措置をとっていただくようにお願いしたいと思います。
 いま一つの問題は、措置入院患者に関連する問題でございます。今度の法改正によりまして、新たに都道府県知事に措置解除権というものが付与されることになっております。このことは自傷他害のおそれがある精神障害者を、知事の職権によって強制入院させておりますから、措置症状が認められなくなった場合には、今度は知事が措置解除権を行使し得るということは、人権保障の立場からこれは理解し得るところでございます。ただ、入院措置の解除を都道府県知事が行ないます場合には、あらかじめ精神病院あるいは指定病院の管理者の意見を聞くことになっておりますが、病院側が措置解除について反対意見を表明することは十分予想されるところでございます。したがって、そういった場合にどう対処するかということにつきましては、審議会の答申に明らかにありますように、地方精神衛生審議会にはかって、その意見を求めた上で制度の円滑な運用を期すべきであると、こういうふうになっておるのでございます。この意味におきまして、地方精神衛生審議会の存在というものは、この一点を考えましても重要なものと考えるのでございますが、これがどうしたわけか今度の法改正におきましては見送られております。この点、地方精神衛生審議会が果たすべき今後の役割り、いわゆる精神衛生行政の体系化ということを考えますと、ぜひ地方精神衛生審議会の設置をもう一度お考えくださいますようにお願いしたい、こういうふうに思うものでございます。
 最後に、私は予算措置についてお願い申し上げたいのでございますが、これは四十年度の予算を見ますと、百六十四億円が計上されておりまして、三十九年度に比較いたしますと二二・八%の増加になっております。これは政府が努力されたことの結果だとは存じますが、予算の内容を見てみますと、社会復帰を促進するということが重要な課題になってきておるにもかかわらず、それに関係した予算というものも見当たりませんし、何となくやはりいま一そうの予算の裏づけということをお願いしないわけにはまいらないようでございます。この点、法の改正は何と申しましてもその裏づけとなる予算措置によってその目的が左右されるものでございますから、格段の御配慮をお願いいたしたい、こう存ずるものでございます。
 簡単でございますが、以上で終わります。(拍手)

○松澤委員長 次に、江副参考人にお願いいたします。

○江副参考人 本日、精神衛生法の一部を改正する法律案を当委員会が審査される機会に、松澤社労委員長から参考人として率直なる意見を述べよということでございますので、第一線に勤務いたします実際家の立場から若干の私見を述べたいと思います。
 御存じのように、現行の精神衛生法は昭和二十五年に制定されたものでございまして、その後十五年間の医学の進歩、特に精神病治療学の進歩を背景として、この現行法をながめてまいりますと、その内容においてすでに精神医学が指向する新しい事態に応じ切れなくなっております。
 そこで、私どもは数年前から新しい医学の進歩に見合った精神衛生行政を推進でき、また、わが国の精神障害者の福祉の一そうの増進を期待できるような、そういうふうな精神衛生法の改正を心から希望しておりました。ところが、先ほどのお話にもありましたように、昨年の不幸な事件がきっかけになりまして、ようやくといってもよいと思いますが、このたび精神衛生法改正の議が起こってまいりました。第一線に勤務する実際家として考える場合に、今日の時点で改正される新しい精神衛生法の基本的理念というものはどうあるべきか、それは私は次の三点であるべきだと考えます。
 第一は、今日の精神医学の進歩に見合った早期発見、早期治療からリハビリテーション、アフターケア、一貫した精神科医療体系を法の中で具体化する。第二は、精神科医療機関の整備と、先ほど浅田参考人の御発言にもございましたような病院もございますので、その質の向上並びに精神障害者の人権の保護、これが達成されるような法律でなければならないということ。第三には各地方地方で特殊な地方事情がございますから、きめのこまかい精神衛生行政が推進され得るような法でなければならぬ。
 以上の三点が基本的な理念であるべきであると思うのであります。以上のような三点が満足されるような新しい法律でございましたらば、欧米諸国に比してはなはだしく立ちおくれているといわれるわが国の精神衛生事業は大幅に発展し、精神障害者の福祉は向上し、精神障害者による社会不安は激減するとかたく信ずるものでございます。
 この観点から見ますと、精神衛生法改正に関して精神衛生審議会が昨年七月二十五日付、続けて本年一月十四日付で神田厚生大臣に提出しました答申書の内容、これは私どもにとって満足すべきものであると思うのであります。したがって、私はこの答申の線に沿って法案が作成されることを心から期待し、もちろん私以外の全国の同僚諸兄も答申に沿った法案の国会提出を大きな期待のもとに待ち望んでいることと存じます。
 ところで提案されました法律案を拝見いたしますと、確かに先ほどの御発言にもございましたように、現行法と比較してみれば前進した一面もございます。しかしながら、答申書が最も重点を償いた幾つかの面で、それは全く採用されていない。率直に申して私は日常接しておる患者とその家族のために、あるいはまたわが国の精神衛生事業のために不満の念を表明せざるを得ないのであります。
 以下その点を具体的に申し述べます。
 まず先ほど申し述べました第一点、つまり一貫した精神科医療体系の確立は慢性化しやすい精神病の効率的あるいは経済的な医療保護のために欠くべからざる医療の体系であります。諸外国においてはすでに軌道に乗った常識的なものであります。この点に関しまして精神衛生審議会は昨年七月二十五日付の答申書の中に、精神障害者の社会復帰の促進の項で、精神障害者の社会復帰を目的として精神病院と地域社会をつなぐ中間のいわば橋渡しの役目を果たす医療機関リハビリテーション医療施設の設置の必要性を強調しておりまして、これによって精神病院のベッドの回転能率を上げ、その数の絶対的不足をカバーして、あわせて病気の再発を予防することを期しておるのでありますが、このことがこのたびの法案ではゼロ回答になっておりまして、一貫した医療体系の最も重要な点において穴があいておるのであります。私ども実際家をいたく失望させました点はここでございます。私どもの経験からして、また諸外国の経験からも、いきなり病院から患者を実際の社会に出すよりも、緩衝地帯としてそのようなリハビリテーションのための医療施設を設けるほうが、はるかに患者の社会復帰を助け、その再発を防止できるものであることを重ねて申し上げて、精神科医療の一貫性の重要性について委員の皆様方の御理解を得たく存じます。これに関連いたしまして答申書に打ち出されておりました職親制度も採用されておりません。
 次に、一貫性のある医療の中で重要な役割りを果たすと期待される精神衛生センターについて申しますと、これが設置はこの法案では都道府県に義務づけられていないのであります。現行法の精神衛生相談所も、その設置は義務づけられておりません。そのために独立した施設として現在精神衛生相談所を持つ都道府県は、あたかも暁天の星のように、まことにりょうりょうたるものであります。この現状から見ましても、新しい精神衛生センターの設置は当然義務制にして、行政のきめをこまかくすべきではないでしょうか。
 次に、第二点の精神科医療機関の整備、質の向上、患者の人権の擁護の達成について申し上げます。
 ここでまず精神科医療機関の整備について申しますと、今日精神病床の絶対数の不足にからんで、精神障害者の野放し云々ということが広くマスコミの中で問題にされております。わが国の精神衛生行政立法としては、明治三十三年に精神病者監護法が制定されまして、続いて大正八年に精神病院法が制定され、この二つの法律は昭和二十五年の現行精神衛生法制定までその命脈を保っておったのであります。この大正八年の精神病院法によって、主務大臣は都道府県に公立精神病院の設置を命ずることができるようになり、かくして公立精神病院設立の道が開けたのであります。しかし、公立精神病院の設置は遅々として進まなかったのであります。大正十年、第四十四回帝国議会におきまして、精神病院設立に関する建議案が提出されて、公立精神病院の設立が強く要望されました。現行の精神衛生法では、都道府県の精神病院設置は義務規定に一応はなっておりますけれども、ただし書きがついておりまして、その設置を延期できることになっておりますので、今日でさえ単独の精神病院を持たない県が存在し、わが国の精神衛生行政上の隘路をなしておるのであります。したがって、新しい法律ではそのただし書きを削り、都道府県の公立精神病院設立義務を明確にして、積極的に精神衛生行政を進めようとする国の意思を明らかにすべきではないかと考える次第であります。
 次に、医療内容の質の向上、患者の人権の保護につきましては、精神衛生審議会は慎重審議の結果、これを達成するがために、新たに精神衛生医という資格を定め、精神病院の管理者はこの資格を持つ者がこれに当たるという答申を出しております。病院の良心的な運営、患者の人権にそごがないようにという配慮からでございます。この制度もこのたびの法案では全く問題にされないのでありまして、私どもが最も遺憾の意を表明しなければならない点でございます。
 次に、精神障害者に対する医療保障について申し上げます。
 この点につきましては、先ほど来の参考人のお話のとおり通院医療費の一部公費負担制度が新設されまして、一歩前進が見られます。しかし実情は、一昨年度の厚生省による全国精神衛生実態調査の結果からも見られますように、精神障害者の発病率は貧しい社会層に多いのであります。もっぱら経済的の理由から徹底した医療を加えられないままに入院治療を断念しなければならない例も数多く見られますことと、精神病の特殊性もあわせ考えて、答申にもございますように、入院医療費の一部の公費負担制度について格段の御配慮をお願いいたしたいわけでございます。
 次に、各地方でその特殊事情に応じた精神衛生行政の推進のために地方精神衛生審議会を設置すべきであるということでございますが、これはいままでの参考人もおっしゃいましたから省きます。私も全く同意見でございます。
 以上、私は精神衛生審議会の答申に盛られておりながらこの法案に採用されなかった事項のおもなものについて私見を申し述べましたが、ここに一点だけ精神科医として、法律にうたわれている字句について平素から釈然としない事項について意見を述べたいと思います。
 それは、現行法、同じく改正法案の第二十九条、すなわち知事による入院措置のところで、強制入院の条件としまして「精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたとき」という表現がございます。精神衛生鑑定医はこのようなおそれの有無を鑑定しなければならないことになっておりますが、これは精神医学的な症状ではなくて、症状による二次的な結果であり、しかも他の外部的環境、条件によって左右されるものであり、きわめて困難な課題を精神衛生鑑定医にしいているものであります。このような診察の結果による推測にとどまるような不確定な条件だけで強制入院という人権の制限を行なうことはきわめて重要な問題であります。外国の例を見ますと、たとえばイギリスの法規では本人の保護、他人の安全のためにとして強制入院の目的をうたってございます。このように強制入院の目的をうたったほうが合理的であり、実際的であるように思います。したがって、知事による入院措置の条件については今後検討の余地が残っておると考えます。
 先ほど私は精神障害者リハビリテーション医療施設のことについて申し上げました。精神病患者に対する医学的リハビリテーションとして、作業療法が精神病治療の一環として行なわれて、効果をあげておるのでございますけれども、この精神障害者作業療法に従事する専門技術者の資格制度なりあるいは組織的な養成訓練はこの際特に必要と考えます。いわゆるPT、OTの制度の立案に参画いたしました一人といたしまして、今回の国会に提案されております理学療法士及び作業療法士法をすみやかに御制定いただくことをあわせてお願いいたします。
 以上るる申し上げましたけれども、どうか私どもの意のあるところをおくみ取りいただいて、精神衛生審議会の答申の線に沿った新しい近代的な前向きの精神衛生法を御制定いただきたく重ねてお願いいたす次第であります。終わります。(拍手)

○松澤委員長 質疑の申し出がありますので、これを許します。竹内黎一君。

○竹内委員 参考人の方々には、非常に有益なる意見を伺わせていただきまして、まずもって感謝を申し上げます。そこで私、精神衛生には全くしろうとでございまして、あるいはとっぴもない質問をするかもしれませんが、その点はお許しをいただきまして、まず秋元参考人及び江副参考人にお尋ねしたいと思います。
 私ども少しく精神衛生の本を読みまして、特にその取り扱いがむずかしいと思うのは、いわゆる精神病質者の特に反社会性と申しますか、犯罪を犯したりあるいは犯しやすい、そういった方々の取り扱いが非常にむずかしいと考えるわけでございます。いわゆる精神衛生審議会の答申の中にも、特殊な病院を考えろ、こういうふうにも書いてありますが、社会保安的な見地からと人権保護的な見地からの両方の調和というものをどうやったらいいのか、こういう点について何かお聞かせ願えれば幸いだと思います。

○秋元参考人 いま竹内委員からたいへん重要な問題のお話がございましたが、これは精神衛生法についての審議会の審議でもたびたび問題になりました。結局、精神病質の取り扱いにつきましては、一方では犯罪を犯した者、そういう者につきましては、いま法務省を中心といたしまして刑法改正が審議されております。そこで、そうした者につきましては、保安処分といったような形で、ちょうど刑務所とそれから病院の中間のようなものでも結局刑務所では期間がきまっておりまして、その間刑務所で取り扱います。そして病的な徴候のあります者は、刑務所の中にあります特殊な医療刑務所でいたしますが、このほうでは刑期が済みますと出てしまう。これではいけないというので、不定期で、やはりそういう点では症状とにらみ合わせまして処置をいたしますが、その場合には、しかし普通の病院と異なりまして、やはり犯罪性の危険があるということで、その処遇は一般精神障害と区別して、かなり厳重な拘束をいたすというふうなことが必要になってまいりますので、そういったようなものはぜひ国として考えなければなりません。そういうことで、精神衛生審議会でも考えまして、これを特殊の施設として設けるべきであるというふうに答申いたしてございますけれども、現在のところでは、こういうふうな施設については、まだ刑法の改正がございませんために、これがその所管につきまして、法務省と厚生省と、このいずれに属するかというふうなことがなかなか問題になるらしいのでありまして、そういう問題と一緒に、この問題は今後処理されるということで、現在非常に重要な問題でありますにもかかわらず見送りになっております。ただし、犯罪性のない者につきましては、これは現存一般の病院で取り扱っております。問題は、そうした犯罪を犯す以前の精神病質をどうしてキャッチするかというところが非常に問題であります。これにつきましても、非常に狭いところで、地域的な保健所などが中心になって、そうしてその地域内の、まだ犯罪までいかないいろいろな問題を起こすケースについて、十分に指導するという体制ができることによって、少なくとも精神病質者によりますところのいろいろな犯罪行動はそれによって未然に防ぐ。学校におります時期とかあるいは職域におります−−たいてい精神病質者というのはそういうところで問題があるわけです。それがそのままになっているわけです。そういう場合に、そういう病院じゃない、もっと以前の、社会生活の状態において指導するという体制が必要だと思います。

○江副参考人 大体のところはいま秋元参考人のおっしゃったとおりでありますけれども、精神病質者、これは病気じゃございません。特に犯罪傾向の多いそういう精神病質者は、現在のところはわれわれのような病院に入院しておりますけれども、そのような者の大多数の者は、狭い意味の医学的な治療の対象になりません。精神病質者にもいろいろ種類がございまして、みずからが悩む者は狭い意味の医学の対象になりますけれども、他を悩ませるという犯罪傾向のある精神病質者は、ただ単に病院に置いておいて、医者と看護婦だけの力によってこれを治療していくというようなことはできない、そういうところで、医者、看護婦といった医療職員だけじゃなくて、もっと広般な職域の人と協力して、この方々を何とか更生させるべく努力をしなければいけないのじゃないか、そういうふうに考えます。

○竹内委員 引き続き江副参考人にお願いいたします。
 最近、いわゆる精神障害者の中でも特に脳器質性障害の者がふえてきたということを承るのですが、そういった実態及びこれに対する有効なる治療方法はあるのかないのかということについてお聞かせをいただきたいと思います。
  〔委員長退席、小沢(辰)委員長代理着席〕

○江副参考人 お答え申し上げます。
 脳器質的精神障害と申しますと、いままではおもに脳炎のあとの後遺症でありますとか、たとえば狂犬病予防ワクチンをやったあとの後遺症。しかし現在では国民の平均余命が非常に長くなっておりますから、老人の数がふえております。老人性の、たとえば脳動脈硬化症があって、そこに脳出血が起こるというふうなこともございます。それから交通災害、これによる脳損傷の結果起こってくる精神障害、こういうふうなものの数というものが非常にふえてきておる。私どもの病院でもまさにそのとおりであります。これに対する治療ということでございますけれども、何分老人性のものは、これはもう自然の成り行きでございまして、これに対しては積極的な治療と申しますよりは、医学的な看護というふうなほうに重きを置かれるのではないかと思います。それからまた交通災害の面に対しては若い人もおりますから、これについてはいろいろ積極的な治療の方法があるのではないか、そういうふうに考えます。

○竹内委員 次に秋元先生に。先ほどお話のありました精神障害者の定義でございますが、精神衛生審議会の答申は神経症を加えるべきであるというはっきりした書き方をしておるように私ども読むわけです。ところが、先生方のほうはそうではなくて、精神的の能力、行動の異常で、精神医学的の指導云々というふうなぐあいになっておる。精神衛生審議会もかなり権威ある機関だろうと思うのですが、やはり神経症というのじゃなくて、こういうぐあいな規定をどうしてもしなければならぬという必要があるのかどうかという第一点と、それからこういうぐあいに先生方の定義に従った場合には、いわゆる収容施設と申しますか、現在の法の規定しているところにいう精神障害者というものは、精神病医なり精神病棟でなければならぬ云々というような医療法の施行規則との関係も出てくるかと思うのですが、その辺あわせて先生のお考えを聞かしていただきたいと思います。

○秋元参考人 審議会ではいろいろ意見がありましたけれども、結論としてはやはり現存の精神衞生法が、ああいうふうに、病者とは必ずしもいえませんけれども、しかし精神病者、精神薄弱者、精神病質者など具体的な表現を使っております。ですから、それを変更するためには、やはり同じようにそういった具体的な表現を用いるべきであるということになりました。そこでいろいろ議論が出ましたけれども一番数の多い、また問題もあります神経症を取り上げました。しかし学会としましては現行法の三つ以外に加えるべきものとしては神経症以外にもあります。たとえば酒精嗜癖、これは別にお酒を飲みませんと精神的に何ともないのでありますけれども、お酒を切れない。そのために非常に本人も困る――ということはありませんが、とにかく家族は困る。飲酒習慣からどうしても自分が抜け切れない。そういうのはやはり適正医療で適切な措置を講じて、一種の強制を加えてそういう習慣から脱却させなければいけませんが、これは精神病ではないわけです。こういうものもありますし、それからてんかんで、精神障害はない。発作以外には全く普通で働き得る、そういうものの処置も必要である。いろいろそういうものがございます。また子供などでは精神障害というところまでいかない、いろいろな問題児童がありますが、そういったものもすべてやはりこの法が対象とすべきであるという見解を持っておりますから、そういう解釈のもとに神経症を意味するし、それらを全体的に包括する非常に広い表現を使おうということで、その他の精神能力の障害及び行動異常であって、精神医学的な治療保護を必要とする者というふうに定義しておるわけであります。
 竹内委員のお話しの問題で、第二の問題としては、そういうふうに精神障害だといたしますと、そうした範囲の者は医療法で規定されているように、みんな特定の精神病舎の中に押し込めなくちゃならぬじゃないかということがあるわけですね。これにつきましては、そういうふうな定義の拡大が行なわれますと、並行して、医療法あるいは精神衛生法を改正いたしまして、現在のように、精神障害者であればこれはもう特定のところへ入れなくちゃならぬという規定を改めることを条件として定義しておるわけであります。

○竹内委員 それから、これは江副さんのほうが適当かと思うのですが、御承知のように、今回の改正案によりまして、緊急措置入院という制度ができたわけでございます。これは時間を限って、四十八時間ということに原案ではなっております。ところが、精神衛生審議会の答申ではたしか十日間であったというように思うのであります。おそらく十日が四十八時間に縮まった理由というのは、むしろ人権保護的な考え方が強く働いたんじゃないか、これは私の想像ですが、しかし、何か諸外国の例を見ても――十日間程度云々というのが精神衛生審議会の書き方なわけでございまして、私どもは実際問題として土曜、日曜といった日にぶつかった場合に、四十八時間以内に処理し切れるかどうかというのは、私はいささか疑問を持つものですが、その点、実務をお扱いになってみてどういう感じをお持ちか、お聞かせ願いたいと思います。

○江副参考人 御意見のとおりだと思います。私も四十八時間では、祭日、土曜、日曜、ゴールデンウイークなどにかかりましたら、とても処理し切れないんじゃないかと思います。

○竹内委員 終わります。

○小沢(辰)委員長代理 滝井義高君。

○滝井委員 今度の精神衛生法の一部を改正する法律案を通読してみますと、医学的な医療立法というよりか、警察官職務執行法的な、公安立法的な色彩が非常に強いという感じがするわけです。これはあるいはライシャワー事件とか、名古屋の発砲事件等が契機となってこういう法律ができたから、そういう色めがねで私が見ておるかとも思うのですが、これは先生方がどういうお感じを持っているのか、ひとつ学者のほうの秋元先生と、日本医師会の阿部さんと、ジャーナリストの西日本新聞の浅田さん、三者にお聞かせ願いたいと思います。

○秋元参考人 私自身は、今度の改正案はそれほど強くそういった社会公安上の見地を打ち出しているとは思いません。確かに、たとえば通報制度を拡張したということ、そういうところではそのような見方も成り立ちます。しかしまた一面、そのようないろいろな法律に関連のある問題を起こした場合に、それが早い時期に医療のほうに引き寄せられる、連れてこられるという点では、何かそのような処置も必要であって、これは結局もっぱら運用にかかるところが非常に多いんじゃないかということで、運用についての配慮、これによってそういう点が防げるんじゃないか、そのように私自身は考えております。

○阿部参考人 ただいま滝井先生の御指摘になりましたとおり、公安の色彩が、ちょっと見ると相当強く出ております。精神衛生法本来の目的というのは、結局こういうところでなしに、国民の精神的健康の保持及び向上、こういうことが主体となっているのでありまして、やはり自傷他害という問題が出てまいりましたので、これに関連をして公安的な処置が出てまいったのでございまして、そういう感じもないわけではございませんということをお答え申し上げます。

○浅田参考人 私は社会保安上の要請があることは否定できないと思います。しかし、これを最小限度にとどめたいというのが私の考えでございまして、それでは今度の改正案ではどうかということになりますが、この程度はやむを得ないのではないかという気がいたします。それにつきましても、私は、精神障害者というものは社会的な弱者でございまして、この社会的な弱者である精神障害者の医療保護につとめるということがやはり先行しなくてはいけない、こういうふうに考えるわけでございまして、その意味からも、これだけの社会保安上の要請がこの精神衛生法の改正にあたって取り入れられました以上は、私、先ほど申し上げましたように、医療保障についてもなるべく早い機会にこれを拡充強化していただきたい、こういうふうに思うものでございます。

○滝井委員 私が公安的な立場ということは、すでに先生方が御指摘になったように、たとえば一般患者の公費負担の二分の一についても、これは義務規定でないわけですね。結核予防法におけると同じように、その特定の県の知事がこういう結核対策なり精神病対策に非常に熱意を持っている知事だと、二分の一の国が負担をしたものの二分の一だけは県は当然持たなければならぬことになるわけだから、持つことになる。ところが知事がそれをやらなければ、これは国は出さなくてもいいわけですから、したがって、知事が熱心であるところは精神衛生対策は進むけれども、そうでないところは進まないわけです。これはもう過去において結核予防法でいやというほど経験したわけです。いまも経験しているわけです。義務規定でないから。それから精神衛生センターなども御指摘のように義務設置ではないわけです。設置することができるというので、やろうとやるまいとその県の熱意次第である、こういうことになる。そうしますと、重要な治療の面も、二分の一が義務でなくて任意的なものであり、それも、しかも六カ月の短期のものである。精神衛生センターもない、そうして症状的にいうと、自傷他害というような、松沢病院の江副先生の言われるような精神病の症状でない、しかもそれも疑いがあるというようなことで、警察官職務執行法的なもので一挙に強制的に入院させていく、解除するときはだれの意見も聞かずに、知事がかってにやるのだ、こういうことになると、へまをするとわれわれのような者も、健康もまた一種の病気なり、――これは式場隆三郎先先が言ったのだけれども、これもさいぜんの御意見のようにノイローゼまで加えますと、いまのような騒音と悪臭とそうして消費ブームと過当な競争の中でやっていると、だれでも二、三日睡眠不足をして激しい社会に出ていくとノイローゼになりがちなんです。そうすると、それはやられる可能性も出てくる、非常に極端な言い方をすると。昔、治安維持法があるときには、酒をちょっと飲んでおっても全部泥酔だということでやられたわけです。こういう形ですでに千葉の病院でもあったように、家督相続をするときに、中山先生の弟子がちょっと診断書をやったというような問題さえ起こってきている。そこで非常に私はこの点は重大だと思うのです。初めはおまわりさんが戸別訪問をして、そして疑わしいものがあれば通報してもいいようなところまでいこうとしておったわけですわね。そういう点がありますものですから、非常にこの立法というのは精神病者という、いま御指摘のような弱者についての手厚いものがなくて、そうして自傷他害というような客観性のないようなもので、疑いだけでやる。それは明らかに疑いがあるとかなんとかというのがついておればいいけれども、明らかにとかなんとかついておる条文はたった一つしかないです。全部疑いですね。こういう点は、私たちの法案を審議するにあたって、もう少し諸先生方は大胆率直に指摘しておく必要があるのじゃないかという感じがするのです。へますると、逆に精神科の医者がそういう疑いを持たれる可能性さえ出るということなんです。いまはそういう世の中なんですよ。だから、これを読んでみて、こういう立法はもう少しシビアーなものにしておかぬといかぬのじゃないかという感じがするのです。非常に底抜けが多いですよ。まあ、いまずいぶん底抜けを指摘してもらいましたけれども、全く私同感なところが多いが、ただ、いまのような点についての強調が少し足らなかったような感じがするんじゃないか。先生方の考えが、私は率直に言って、むしろ甘いのではないかという感じがするのですよ。
 それから、浅田さんが御指摘になりました知事の措置解除権において、あらかじめその精神病院なり指定病院の管理者の意見を聞くという場合に、その管理者は自分のところに入院せしめておるのだから、これは反対するだろう。これは私は一つの盲点をついた点だと思うのです。その場合に地方衛生審議会というのはできていませんから、知事が措置入院をさした場合にも、当然料金は知事が払わなければならぬと思うのです。あるいは保護者なり患者が払う能力があればそれから取るでしょうが……。その場合に、地方衛生審議会がないのですから、この精神衛生診査協議会がかわりの役割りを演じたらどうだという考えを――この立法だけを読んで、何かかわり得るものをつくるとすれば、そういうもので代替する以外にないのじゃないかという感じがするのです。その点についての御意見はどうでしょう。

○浅田参考人 私は、精神衛生審議会についての構想というものは、単にそういうものにとどまるものではない、もっと大きな役割りがこれには期待されておると思います。といたしますと、やはりここで精神衛生審議会を地方にも設けるということをぜひやってほしい、そういうふうに思うのでございます。

○滝井委員 それではこれは修正をするよりほかにないようですから、よくわかりました。
 それで、他の秋元先生も、それから松沢病院の江副先生もそういうことでよろしゅうございましょうか。

○秋元参考人 先ほど御指摘になりました、つまりうっかり妙なことになって、あいつはおかしいというようなことで緊急入院させられては困るということですけれども、結局、この精神障害に対する対策というのは、医療というプリンシプルと、それから人権保護ということ、社会の危険を思うということ、この三つの要件がからみ合っているので、そこでその一つだけを満足させようとすると、あとのほうに波及するということじゃないかと思うのです。そこで、できるだけ早期発見ということを言えば、これはちょっと怪しいぞというようなことで見て、そしてそれを処置するということが必要なんです。だけれども、そうなると、その場合に本人が、いやわしは何ともないと言って、がんばっているのを見ようとすれば、そこである程度拘束が必要になるというふうなことになってくる。一体どっちがその本人のためかというようなこともあります。しかし、その場合に、やはり少なくともいま社会保安というものを除きまして、人権の問題と医療の問題とを考えた場合に、昔はそこに警察権などが入ってきまして、人権の名をかりて、そこに政治的なものが加わるとか、警察が関与するとかいうことがあったと思いますけれども、現在ではやはり純粋な医療的な見地からその問題を考えるようになりましたし、またそうでなければいけないと思います。そのために一番肝心なことは、やはり医者の目ですね。つまり医者の水準というものが高まらなければいけないわけです。いいかげんな診断でもってこの処置をするということであると、いま御指摘のような問題が起こります。そこで、きょうの参考人としての意見の中でも申しましたように、精神障害につきましては、これはほかの方とは違ったような考え方がございますわけで、その資格を規定する、そういう資格を持った者がそういう人権と医療との兼ね合いに対して判断を下すというようなことにいたしませんと、その人権は守れないというふうに考えます。
 それから地方衛生審議会につきましては、これはやはり審査会と全然別のものであって、地域別な精神衛生の推進センターとして、そういうエコノミカルなことだけでない、もっと大所からの施策を考える機関がぜひ必要だと考えております。

○滝井委員 あと二点ですが、一つは、精神鑑定医の資格の点です。現行法はさいぜんから御指摘になったように三年以上ということになっておるわけですが、答申等においては、行動の制限をやるし、制限する病院の管理者ともなる、こういう点で五年以上だ、こういうことです。これでは医療制度の根本に関連する専門医制度との関連もあるので、もう少し慎重にやってもらわなければならぬ。こういう点では、参考人日本医師会側の御意見と秋元先生の御意見等とは幾ぶんニュアンスを異にしておるわけですね。いまの意見にもありましたように、やはり健康もまた一種の病気なりで、精神病者でない人が精神病と間違えられるようなことがあっては困る。探偵小説にはそんなことがよくあるのですが、そのためには鑑定医というものがしつかりしておらなければならぬという点が非常に問題なわけなんです。そのことが同時に、人権と医療と社会秩序、この三つがうまく調和を得ることになる。この点に対する考え方、三年と五年という二年の違いがそれほど重大であるかどうかはなお問題があるところでございますけれども、基本的なものの考え方としては、やはり学会の意見というか、精神衛生審議会の意見と、日本医師会の現場を担当する医療の団体との間の意見の調整を必要とするところだと思うのです。われわれ国会としてもその点の調整をやはりしてもらわなければいかぬ。一体両者でこの点に対する突っ込んだ話し合いでもおやりになったことがあるのかどうか、それとも、話し合いをしたけれども、まとまらないままで、とりあえず現状のままでいってなおこれは検討しようということになるのか、この点、ひとつ率直な御意見を阿部先生なり秋元先生、両者からお聞かせを願いたいと思います。

○阿部参考人 最初に私からお答え申し上げますが、この鑑定医制度三年、それからこれを精神衛生医にした場合五年、こういうのも一応わかるのでございますが、その結果におきまして、やはり一つの資格ということになりますと問題点がまた大きくなると思います。なぜと申しますと、現在医療制度におきましては専門医制度というものはございません。そこでこういうものが精神科だけにおいて一足飛びに出るということになりますと、やはり少し独走するきらいがあるのじゃないか、したがいまして、医療制度全般から見まして納得し得るような線にいけばいいのでございますけれども、これも将来のことでございまして、現在におきましては専門医制度あるいは専門医制度に類するものはございませんことを、はっきり申し上げておきたいと思います。

○秋元参考人 私どもの意見は、先ほど申しましたように、精神衛生医は専門医とは違うという見地に立っております。これはたとえば専門医と申しますのは、一般的にその対象が規定されております。つまり精神科の専門医は精神障害一般を対象とするということになりますが、精神衛生医は、行動の制限を必要とするようなそういう精神障害について、それを取り扱う資格があるということでございます。したがって、行動の制限を必要としないような場合には、必ずしもそういう資格がなくてもできるというふうなことになるわけでございます。そういう意味で、それがちょうど優生保護法の指定医ですか、そういうものに近いものであるかと思います。
 それから、この問題については、正式に医師会側の御意見を伺ったことやお話ししたことは今日までございませんが、日医の阿部副会長が審議会の委員の一人としてお加わりになっておったので、そこで審議会としては、日本法師会の意見が阿部委員によって代表されているというふうに考えております。したがって、医師会がこれを専門医としてお考えになるというふうなことは、私どもは審議会としてはおそらくそういうふうに解釈していなかったのじゃないかというふうに思います。

○滝井委員 この鑑定医を専門医と見るか、それとも優生保護法の指定医的な軽いもの――軽くはないがそういう半専門医的なものと見るかということについて、幾ぶん意見の相違があるようです。これは私たちとしては、非常に重要な、今後の精神衛生行政を推進する上のいわばかなめに当たるところだと思うのです。これは早急に学会とそれから医師会、専門団体との間に意思の調整をしていただいて、そして、できれば早い機会にこの点をきちっとさしていただきたいと思うのです。これはまとまらぬうちにやってもトラブルを起こすばかりですからやっていただきたい。
 もう一つ、訪問指導の問題です。諮問指導をする場合に、現行法においては、医師とそれから学校教育法に基づく大学において社会福祉に関する科目を修めて卒業した者で、精神衛生に関する知識及び経験を有する者で政令で資格を定めた者が、訪問をすることができるわけです。現在保健婦その他が相当精神病者なり結核患者の家庭訪問を現実においてやっているわけです。この保健婦の立場というものを、現実にやられておるその訪問を、法的に一体どう見たらいいのかということです。
 それからもう一つ、立ったついでに、これで終わりますが、早期発見、早期治療ということはあるけれども、そういう精神薄弱や精神病者が先天的に生まれてくるという問題についても、昨年なり今年にかけての答申というものは、何か具体的にされていないですね。アルコール中毒から精神薄弱の者が生まれてくるとかというような、何かそういう予防的な側面に対する強調というものがどうして行なわれなかったのだろうか。それはもう母子保健か何かに譲って、精神衛生は関知するところでないという立場をとられておるのか。御存じのとおり、最近、たとえば炭鉱地帯において精神薄弱の子供が非常にふえている、特殊学級をつくらなければならぬという事態が起こっておるわけです。閉山のために人心荒廃、こういう社会的な環境の中に生まれてくる子供というのが、異常な精神の持ち主になっている、こういうことで、老人とか子供に対する特殊の施設をつくれということは、昨年のあの答申の中には、一つ出ているのですね。ところが、それらのものが起こってくる予防的なものについては、何も触れていないということは、もうこれはどこか他のもので触れることを申し合わせをしておるのかどうか、この二点について、どの先生でもけっこうですから、ひとつ……。

○秋元参考人 確かに予防という見地は、これは精神衛生法として非常に車祝すべき点でありますけれども、今度の改正法案にもその点が強調されていないことは、事実でございます。そういう見地から、精神衛生法の目的を表現しております第一条が、そういう点で予防を尊重していないということを学会としては指摘いたしまして、その表現を変えるようにということを言っておりましたけれども、これは審議会ではこれを審議する余裕がございませんで、目的はそのままになっております。しかし、目的だけで規定するのでは不十分であって、法の中にそれを取り込むべきでありますけれども、現在精神障害、特に先天的な障害の発生につきましての具体的な施策は、まだこのような発生条件の科学的な研究というふうなものが不十分でありますために、これを具体的な方法として表現する、少なくとも法律に盛るというふうなことは、まだ時期尚早ではないかと思いますので、学会としては、こういった予防についての問題は、国立の精神衛生研究所の研究面を充足すべきであるということを強く主張しております。このような研究面につきましては、私どもはかねてから地方の精神衛生センターでございますね、これを取り上げるべきである。たとえば、九州などにいま起こっております三池炭鉱その他の廃鉱になりましたところで、いろいろそういう問題が起こりますけれども、そういう地域的な問題は、やはり地域的な地方の精神衛生センターで取り扱わせるということでありまして、研究面の充足というものを学会で特にこの法案で盛るように言っておりますが、遺憾ながら、精神衛生研究所、精神衛生センターは、行政に直結するといったようなことが実際でありまして、その基本的な研究、方策については、どうも第二義的になっているという点がございます。これはやはり今後精神衛生法の中にこういう研究面の充足、これを取り上げるべきではないかという点を学会としては考えまして、こういう点非常に大事な問題でありますので、今後の改正においてこの問題を考えたいというふうに考えております。
 それから、現在そういう精神医学的なソシアルワークをやっている専門家が少ないのでございまして、おそらく当分は、やはり現在ほかの業務をやりながら、かたわら精神衛生の仕事をやっているような方々を、何らかの方法で急速に講習などをやりまして、そしてそういう方々をそういう任務に向けるようなことが必要ではないか。したがって、具体的にはそういう専門的ないまの社会福祉大学であるとか、あるいは東大にできました保健学科などで養成されます専門家ができますまでは、現在おります保健婦の方々に、そういう方面に興味を持つ方がきっとあると思いますから、そういう方々をこちらに向けるというふうなことになるのではないかと考えております。

○小沢(辰)委員長代理 本島百合子君。

○本島委員 時間がございませんので、たくさんのことをお聞きしたいと思っておりましたが、一つだけ松沢病院の院長さんにお尋ねいたします。
 私、都議会のときにあそこを視察させていただきまして、非常に経営のつらさというものを、身をもって体験したような気がいたしておりましたが、その後こういう種類の病院があまり建たない。町でやっていらっしゃる病院等におきましても、相当の苦労をされておるということはよくわかるのです。先ほどおっしゃった早期発見と治療と社会復帰、こう言われたのですが、今日東京都内を見ただけでも、かりにこの人は気候の変わり目等、あるいは何かの衝動を受けたときには危険であるとわかっていても、そのことの入院をお願いしてもできないわけなんです。そこで今回の改正では大きく期待を持たれたわけでありますが、先ほど言われるように、絶対数不足という状態の中では、この改正によってどの程度に人が救われていくかということは、非常に疑問だと思うのです。特に、全体数を忘れましたが、現在入院を必要とする者で入院することができない者の数五十七万人と言われておるのですね。病床が十五万床、こう言っておりますが、こういうことでこれは凶暴性とかあるいは危険性がある、他人に危害を加えるということが明らかになっておると思うのです。それですら五十七万人が放置されておる。こういう状態の中で、どうやれば――もちろん国の予算がないから、県に一カ所もない場所もあるという先ほど参考人のお話でございますが、民間にいたしましても、こういう人々を早く治療をするために入院措置をとってやるか、こういうことについての御見解を聞きたいと思うのです。民間であろうともどうにかしてあげれば、こういうものの病院はもっとでき上がっていくんじゃないか、あるいは公立の場合はもちろん、これは国立にしても県にしても当然のことですが、それだけでは現在凶暴性だといわれる五十七万が野放しになっておるというのですから、ちょっとやそっとじゃ数が間に合わないのです。ですから、そういう点についての何か御施策があるかどうか、こういう点を承らしていただいて、私この質問だけにいたしますので、ほかの先生方には今後ともこういう精神病の問題については、特段の御意見、あるいはまた御活動を願って、この絶対数不足についての御協力を私はお願いしたいと思いまして、このことだけを御質問いたします。

○江副参考人 御指摘のとおり、いま精神病床が非常に少ない。一昨年度の厚生省の精神衛生実態調査の結果によりますと、大体精神病院に入院させなければいけない患者さんというものは、はっきりした記憶ございませんが、二十七万じゃなかったかと思います。その他の施設でやっていただかなくちゃいけないのが幾ら幾ら。精神病院じゃなくてはいけないのが二十七万、現在は十五万足らずしか日本全国にございません。それで算術計算でいきますと、あと十二万足らないということになってまいります。しかし私考えますのには、この十二万もの病床数を用意するということは、国の負担においても、あるいはスタッフの点においてもたいへんなことだろうと思います。
 ところが一方イギリスとかあるいはアメリカ合衆国とかいうふうに、比較的早期発見からリハビリテーション、アフターケアまでの施設が整っておる州では、精神病院に入院している方々の数が徐々に減ってきておるわけであります。これは一体どうしてそう減るものか。それはやはりわが国のように精神障害者をお世話するのが精神病院だけであって、あとは何にも施設がない。これでは精神病院にどんどんと患者がたまる。ベッドの回転率も悪くなる。しかし、イギリスではそういうふうな一貫した体系ができて行政も非常にうまくいっておりますから、数年の経過を見て、人口一万当たり二十床くらいの割合でベッドを減らそうじゃないかという議も起こっておると聞いております。
 こういうふうに精神病院じゃなくて、そのほかのリハビリテーションのための施設でありますとか、それからアフターケアのシステムであるとか、それから職親制度であるとか、そういうものが整備されたならば、これは私見でございますが、
  〔小沢(辰)委員長代理退席、委員長着席〕
日本全体として二十万床もベッドがあれば何とかしのいでいけるのじゃないか。ただ現在のように精神病院だけつくって、あとは何もつくらないということでは、これは五十万あっても六十万あっても足りないのじゃないか、そういうふうに思っております。

○本島委員 どうもありがとうございました。

○松澤委員長 河野正君。

○河野(正)委員 すでに何人かの委員によりまして、このたびの改正法案に対しまする問題点が指摘をされました。できるだけ重複を避けて二、三の点についてお尋ねを申し上げ、率直な御意見を承ることによりまして、私どもも法案の改正に対しまして万全を期してまいりたい、かように考えておるのでございます。
 そこで第一にお尋ねを申し上げておきたいと思いまする点は、それはやはり精神衛生法の骨格というものは、第一条と第三条に実はあるわけでございます。そこで第一条では、この精神障害者等の医療保護、それから発生予防をはかって、そしてこの精神的健康の保持、増進につとめるということが法の目的でございます。ところが法の目的はそうでございますが、それならば一体だれが対象になるのか、それが実は第三条で受けられておるわけでございます。
 そこで、私どもも今日までいろいろ社会的に被害、たとえば昨年におきますライシャワー事件もそうでございますし、その他列車内の発砲未遂事件等いろいろございます。こういうような問題がいろいろ起こってまいりましたが、その際私どもが一番心配いたします点は、この精神障害者の中にどういう範囲のものが含まれておるのか。要するに精神障害者をつかむ際にどの範囲をつかむのか。そしてその範囲に対して第一条の目的が行使されるわけですから、そのつかみ方いかんによって、この法の目的を完全に達成するかどうかというふうな、きわめて重要なかぎがかかっておる、こういうふうに考えるわけでございます。そういう意味で、やはり第三条の定義の問題というものが非常に大きな意義を持ってまいる、私はこういうふうに考えるわけでございます。ところがこの点について学会では、それぞれ先ほどから意見が出ておりますような一つの方向というものが打ち出されてまいった。それに対しては、厚生省が非常に抵抗をいたした、こういう実情を私ども承っておるわけでございます。いずれにいたしましても、この第一条の目的を完全に達成するということが目的でございますので、その目的を達成するに際して、この対象物が欠ける点がある、そのために十二分に法の目的を達成することができぬということになるならば、何のために法を改正するのか、その改正の意義というものがなくなってくる、こういうように私は考える。そういう意味で、やはりこの精神障害者というものは一体どういうものだという点が非常に重要な意義を持ってまいると私は思いますが、これらに対して厚生省と学会あるいはまた審議会等において意見の相違があるというふうに承っておるのでございますが、この際、法改正にあたって重要な段階でもございますので、その間の関連性についてひとつ秋元参考人から率直な御意見を承りたい、かように考えます。

○秋元参考人 私はやはり精神衛生法が第一条の目的でいっておりますように、国民の精神的健康を維持向上するという機能を果たすためには、この法の対象が現行の精神衛生法で規定するような、そういう限定された三つのものであってはいけないというふうに考えます。これは学会全般の意見でもございますが、これを広げる、そして先ほど申しましたようなそういう広いものにしなければならぬというふうに考えてこれを主張してまいっておるものでございますが、この拡大によりますと、現存の法の中でいろいろなこまかい具体的な規定がございまして、たとえば先ほども問題になりましたが、そうすると精神病、精神障害、精神病質ということになると、それを収容するところは特定の場所に限られるというようなこともある。その他さまざまな具体的な条項に触れての、もっぱら技術的な観点からの反論が、この一部改正案がまとまるまでにかなりあったように聞いております。これはもっぱら技術的な問題でありまして、やはりそういう技術的な問題よりも、この法の精神を生かすという見地からこの改正案がつくられるべきであったのではないか、私自身はそう考えております。その点では、定義に関連した第三条の、この法の対象が旧態依然であるということは、はなはだ遺憾であるというふうに私は考えております。
【この日つづく】