[精神医療と法]精神医療に関する条文・審議(その27)

前回(id:kokekokko:20050428)のつづき。初回は2004/10/28。
精神衛生法改正の審議です。

社会労働委員会会議録第34号(48衆昭和40年5月18日)
【前回のつづき】
○竹内委員 ところで現行法第四条によれば、
 「都道府県は、精神病院を設置しなければならない。」と規定してありますが、現実には、まだ都道府県によっては設置していない県が何県かあると聞いておりますが、ここを明らかにしていただきたい。

○若松政府委員 遺憾ながら、現在八県なお県立の精神病院の未設置がございます。その中には、県が建てたいと思っていても、医療機関の分布の都合等でなかなか話のつかないところ等もございまして、すべて県が怠慢のために設置していないというわけではございません。

○竹内委員 ところで、次にいわゆる中間施設、アフターケアの施設の問題について、私は若干お尋ねいたしたいと思います。
 こういう中間施設の必要なことは、いまさら議論するまでもないところだと思うのでございますが、中間施設がなかなか日本でできないという一つの点として、医療体系の一つに現在組み入れられていない、こういうのが一つの大きな難点になっているような気がしますので、渥美さんから、ひとつ医務局のほうのこういう中間施設に対する考え方を聞かしていただきたいと思います。

○渥美説明員 現在のところ医療法では、医療施設としましては病院、診療所、助産所、三つの種類になっております。そのうちで病院に関しましては、その運営について、あるいは疾病構造の変化等に対応してこれをどういうふうに運営していくかという問題があることは事実でございます。それは、たとえばリハビリテーションの問題もそうでございますし、あるいは慢性疾患の患者に対する対策という問題も考えられなくちゃいかぬということになっております。しかしながら、こういった点につきましては、つまり病院の構造でありますとか運営の内容等につきましては、現在のところ、昭和三十八年の三月に出ました医療制度調査会の答申等もありまして、これらを検討しておる段階でございまして、同時にまた、この点につきましては医療費をどういうふうに見てくれるかという問題とも関連しておりますので、医療施設のことにつきましても、また支払いのほうにおきましても、両面におきましてそういった中間的な施設、病限であって第二種病院、あるいはナーシングホームと外国では呼んでおりますものもありますが、そういった点につきましては、そういったいろいろな観点から現在検討しておるということであります。

○竹内委員 ただいまの御答弁の中に医療費の関係もあるのだという答弁をいただいわけですが、そこで私は、今回のいわゆる中間施設について、特に精神障害者の治療対策として作業療法というものが非常に有効であるということはすでに定説になっております。ところが、残念なことに、作業療法というものは現存点数に入っておりません。現実に松沢病院とかその他の療養所などで作業療法を行なっておりますが、いわば療養者の奉仕という形で行なわれておるように聞いておりますが、そういう作業療法というものをなぜ点数化しないのか、どこに問題があるのか、その点を御説明願いたいと思います。

○松尾説明員 精神病の治療におきまして、療法というものが、ちょうど向精神薬の治療と相並びましてたいへん重要な問題であるということは、私も承知しております。御指摘のような点数化という問題になります場合には、どうしてもその基礎になりますものとして、作業療法の体系と申しますか、どういう人をどれくらい使ってどういうふうにやっていけばいいか、この問題は実は確立をしていただきませんと、私どものいわば点数設定になじめない、こういう問題がいままで一つございます。この点につきましては、かねがね公衆衛生局等とも打ち合わせまして、厚生科学研究室その他の専門家に御検討をわずらわしておる、こういうことでございます。いろいろ携わります身分の職種というものを確立してまいりますと、当然こういうことは積極的に考えなければいけない、こういう段階にきているわけでございます。その際の具体的な時期といたしましては、保険点数全般にわたるいろいろな合理化、適性化という時期に到達しておりまして、こういう機会に早急に取り上げて各方面から検討したい、こういうように考えております。

○竹内委員 なるべく早く結論を出すように希望申し上げて、次に、いわゆる日用品費の問題についてお尋ねしたいと思います。
 実は、私のところにある精神障害者の方から手紙がきまして、その中で、日用品費の問題で差別待遇を受けているという書面がまいりました。その書面によりますと、医療扶助による一般入院患者の場合は、六四年四月から月額千八百二十円になっておる。ところが、精神病院入院の者は月千二百七十円と、五百五十円減額支給されている、これは明らかな差別待遇ではないかという趣旨の書面がまいったわけですが、まずこの数字が事実であるかどうか、お尋ねいたします。

○若松政府委員 その数字は事実でございます。

○竹内委員 事実とすれば、なぜこれだけの五百五十円の差があるかということの理由を聞きたくなるわけです。この点はどうですか。

○若松政府委員 患者の病院内における生活態様等を考慮いたしまして、措置患者等におきましては、原則的にほとんど自由を拘束されたような状態になっておりまして、趣味、嗜好とか、あるいはタオルその他のものも事実上看護者がやってやるというような状態でございますので、日用品に若干差が出てくると思います。

○竹内委員 いまの点、もう少しお尋ねしたいのですが、時間がないので先に進むことにいたしまして、先ほど滝井委員の質問にもありましたいわゆる緊急措置入院の問題でありますが、昨日私ども参考人からお話を伺いましたところでは、四十八時間では実務家としてはできないというような実は御答弁をいただいたわけです。精神衛生審議会の答申では、たしか十日間程度というようなあれであったかと記憶するのですが、おそらく人権保護の観点から四十八時間ということにされたかと思いますが、たとえば土日とかゴールデンウィークとか年始年末といったような場合には、はたして四十八時間で実際に手続というものができるかどうか、その点はいかがですか。

○若松政府委員 この緊急入院の期間の問題につきましては、精神衛生審議会の段階におきましてもいろいろな議論が出てまいりました。実務家のほうはできるだけ長く、せめて二週間程度という御意見が出、また人権擁護のほうの法務省系統からは、少なくとも二十四時間、四十八時間以内にとどめろという意見が出まして、結局妥協的に五日間、十日間という答申が出たのでございますが、これも実務家の、ただいまの御指摘がありましたような実務上の点を考慮してのことでございます。しかし、人権保護の面から見ますと、職員がゴールデンウィークで休んでいるために患者を拘束しておくということはあり得べからざることである、したがってそのような問題については行政官庁が最大の努力をすることを期待して、その最大の努力をした場合になおかつ拘束しなければならない時間としては、四十八時間くらいが適当であろうという意見になっております。

○竹内委員 最後に一つ、例の施設外収容禁止についてお伺いしたいと思います。施設外収容禁止については、すでに精神医学会のほうからも改正要望が出ておることは局長御承知だと思いますので、くどくどお尋ねいたしませんが、学会のほうではあすこを改正しろと申しておりますが、その点については当局の意見はいかがですか。

○若松政府委員 施設外収容禁止の条項を、現在精神病院とあるものを普通にただ病院というふうに改めようという意見が出ておったわけでございます。この根拠といたしましては、精神障害者の定義を拡大する、したがって、神経症その他の患者も精神障害者も組み入れるという想定、前提のもとにそのような問題が出たわけでございまして、つまりノイローゼの患者が精神病院以外のところへ収容されてはならぬというようなことになりますとたいへんでございまして、ノイローゼの患者は一般病院でいいんだ、したがってノイローゼも含めるということになりますと、一般病院ということにならなければならぬわけでございますが、その精神障害者の範囲の拡大が見送られましたので、従来どおり精神病院のままに残したといういきさつであります。

○竹内委員 終わります。

○松澤委員長 次は本島百合子君。

○本島委員 時間もありませんし、かなり質問もあって、私、実はこの法律に従ってお聞きする予定でありましたが省略いたしまして、三点ばかり御質問します。
 一点は、今度の精神衛生診査協議会委員が非常勤となっておりますが、非常勤という形における勤務のしかたというのは非常に疑問があるということで、非常勤勤務ということはやめたほうがいいという意見がかなり強く出ておったわけです。今回も非常勤となっておるようですが、大体月給は幾らぐらいか、そしてどういう日にちでなさるのか、こういう点を明らかにしていただきたい。それから任期が二年となっておりますが、よほど簡単なことだけしか仕事をなさらないと思うのです。精神病院に関しては非常に患者数が少ない、また医師も少ない、こういうことになっておりますので、こういう点を明らかにしてほしいと思います。

○若松政府委員 診査協議会の委員は、月一回とか二回というような診査しかないと思われますので、都会地で非常に申請の多いところはあるいはもう少しひんぱんになるかもしれませんが、非常に回数が少ないわけでございますので、常勤である必要は全くなくて、午後あるいは午前の時間に出ていただいて、一月に何回という程度でございますので、当然非常勤でけっこうだと思います。
 その手当は、そういう形で一回出ていただけば二千円というような計算をしております。

○本島委員 それは仕事の内容で御説明になったのでしょうが、そもそもそういう形における人を置くということは、全体的な空気として反対であるわけです。ということは、いつでも非常勤という問題は問題になっている。責任があるような、ないような形になりがちですから、こういう点、やはりこういう新しいものをつくられるときには御検討願って、なるべく精魂を打ち込んでやっていただく機関をつくってほしい、こう思うわけです。
 二点は、二十四条の問題でありますが、申請、通報、こうなっております。ところが、この精神病は、先ほども言われたノイローゼは含まれない、こういわれますが、この申請、通報という場合に、他人が非常におそれをなして通報しますのか大体こういうものの傾向ですね。当事者の家庭では、これは反対する傾向が強いのです。ですから、ここのところは一体どういうふうな形でなさるのか、この点が一番問題であろうと思うのです。他人さまから見れば、非常におそれをなすような行為が行なわれておるが、しかし、家庭の者は、これはちょっとした間違いで腹を立てておるんだとか、あるいはまた異常な状態を呈しておるだけだからということで拒む傾向がある。この人たちはどこへ行っておるかと言うと、大体心理学的な相談所あるいは宗教団体にたよっておるわけなんです。ですから、他人の通報等は困るということで、いつでも断わられるのです。こういう点をどういうふうになさってきておるのか。

○若松政府委員 申請、通報は二十三条から二十六条まであるわけでございまして、一般人ももちろん通報はできますが、警察官、検察官あるいは行政施設の長といろいろございます。一般人の方が、自分の身の回り、隣近所に精神障害者がいるために身の危険を感ずるというような場合は、これは公安上の問題もございまして、自分自身の利益を守るためにも、やはり通報するということは当然許されることであろうと思います。その際、もちろん行政当局はそれらの通報に基づいて調査いたしまして、調査の結果、鑑定医を差し向けて診察をする必要があるかどうかを決定するわけでございまして、その段階で、行政当局としては患者の家族に御迷惑のかからないようにできるだけの配慮をいたすつもりでございます。

○本島委員 答弁のところではきちっと言っておりますが、実際問題としてはここが一番問題なんで、なかなかできないのです。そして、たとえば審査を受けると申しますが、たいていずらかっちゃうのです。それから何日かかる。そんな簡単なことにひっかかっては困るというので、そのほうに出向いていくこともだんだんおろそかになる。ところが、季節の変わり目とか何かの衝撃を受けた場合、はっとやるという事件が非常に多いのです。そこで憲法に抵触しないような形でひとつ何とか処置してほしいという御意向が非常に強いわけです。この法律を、さっと私、目を通して見ましたときにも、この点が一番心配されるんじゃないかと思ったわけです。ということは、たとえば三十九条でいきますと、警察官の職権乱用が起こるんじゃないかという危惧を一つ持つわけなんです。かりに第三者の申告の場合に、警察官はすぐそこへ行って事情をただしてということになる。これを一番みんながこわがる。ですから、たとえば、過日婦人議員たちが一生懸命努力いたしました、俗称トラ退治法といいますが、これの場合でもここが一番問題になっていたわけです。こういう点について、あなたのほうの立場として、そういう官権の乱用にはならないのだ、しかも第三者の協力を得てその患者に対する適切なる措置がとれるかれないか、こういう点をひとつお聞かせを願いたいと思います。

○若松政府委員 この法文の中に申請、通報ということがございまして、申請、通報に基づいて調査し、さらに鑑定医を派遣するという手順になりますが、その場合に、申請、通報を受けるのは都道府県知事、実態的には保健所でございまして、保健所が調査をし、そして鑑定医を差し向けるということでございまして、決してその間に警察官が入ることはございません。警察官は、職務執行法によりまして、従来は現実にあばれておるような者、精神錯乱しておる者を保護することができるという三条の規定がございましたが、通報についてはそれ以外ございませんので、したがって、相当危険な者を逮捕し、あるいは職務質問をいたしました場合でも、警察官としては何の手の打ちようもなかったわけです。そういう意味で、警察官が職務上明らかに傷害の危険のあるような者を発見した場合にも、保健所に通報し、保健所はそれに基づいて調査し、鑑定医を差し向けるということでございますので、警察官の職権乱用というようなおそれは万々ないと存じております。

○本島委員 そこで、いつでも問題になるわけですが、たとえば他人のうちを訪問した、そういう場合に、どうもおかしいと、こう思うわけなんですね。もうちょっとすれば狂暴性になるとわかっているわけなんです。そういうときに警察に言う。警察は、あばれていないものですから、これはしようがありませんと行っちゃうわけです。さて、その帰ったあとあばれられちゃうという事件が非常に多いです。あるいはまた、危険性があるという通報があった場合でも、警察官が行った場合にはやってないのです。だから、まあいいだろう、あと何とか家族でしておいてくださいというわけで、あとで殺人が起こったという事件が、私の地域でもあるわけなんです。ですから、そこのところでどういうふうに警察官は保健所に通報してくださるのか、一般の人は、保健所に通報するということはなかなかその場合わからないのです。こういう危険があったという事実からいたしまして、のんびりしたやり方ではとても危害を防ぐことができない。こういうことが一つ。
 それからもう一つは、性格異常者というものが、御承知のように非常に多いわけです。過日、医療少年院に参りましたが、その場合でも、性格異常者というものが非常に多いということを言われたわけなんです。また、現実に、今日の犯罪というものが性格異常者という形でなされておる。先ほどのノイローゼと同じような形で、この問題については触れないとおっしゃるかもしれませんが、こういう点についてはどうお考えになりますか。

○若松政府委員 性格異常者の中から犯罪者が多く出ることは確かに事実でございますが、しかし、性格異常者といいましても、これもピンからキリまであるものでございまして、どの程度からほんとうに具体的に危険性があるかどうかということは、一つの断面で把握することはきわめて困難でございます。性格異常者というものは、生活上の条件によって非常に行動、態度が変わるわけでございまますから、特殊な、非常に刺激する、あるいは反抗的な精神を高揚するような状態が起こればそのときには異常な行動をいたしますけれども、生活条件が安定している場合には普通の社会生活を営めるという者でございますから、そういう性格異常者については、やはり家族が、常にその人の介護をするにあたって刺激的なことの起こらないように、家族自体の間で、あるいは家庭のまわりの人、職場のまわりの人、それぞれが注意をしてあげなければならない。そういうようなことはしろうとにはなかなかむずかしいということから、精神衛生相談所あるいは保健所の相談員というようなものを貫きまして、そういうことの相談にも応じていきたいというふうに存じておるわけであります。

○本島委員 相談に応じたいと言われましたが、その相談をする前にこういう人々の措置をしなければならない。現行法上何らの措置も加えられていない。したがって、こういう人たちが野放しになっておるわけです。性格異常者といっても、相当精神異常者に近いような者もあるわけなんです。こういうような人々に対しては何らの法的措置がないから、どうすることもできないというのが現在の状況なんです。相談して適切な措置を講じられればよろしいですが、なかなかそれがやられないということで、今日の青少年の犯罪が多く行なわれておる。こういうことですから、私どもは、このセンターが、あまり期待できるかどうかわかりませんが、こういう点についての指導の方法、どういうふうにこの人たちの措置をとっていただけるか。たとえば家族の中で、何とか、どこかに何日か置いてもらってなおしてもらいたいという要望が非常にあるわけです。そういう場合、どこにも行くところがないのです。へたすれば精神病院に入れられるから、家庭のほうも困るということにもなってくるわけです。そういうものがないという危険性があるのですが、今回のこの精神衛生センターで、そういう何日か泊めて指導訓練をしてくれることができるのかできないのか、これはおそらくできないことだろうと思いますが、そういう点どうでありますか。

○若松政府委員 現在の精神衛生センターそのものには、そのような収容施設を持つことは考えておりません。将来の問題としては、中間施設あるいはそういうような相談施設みたいなものを考える必要があろうかと存じております。

○本島委員 将来に託される問題が非常に多いようですが、それではせっかく法律が通過しても、なかなかうまいこと精神病の人々に対する措置ができないと思うのです。先ほど滝井委員からも御質問があった措置入院の問題についても、これは基準があってなかなか強制的にはやっていただけないのです。現実問題としてそれだけの病床もないから、それは順序を待たなければならない。少々あばれるくらいは待ってください。これが現実の姿であります。
 そこで、病床を先ほど結核患者と照らし合わして御答弁になっておったようでありますが、そんなことでは精神病者の野放しになっておる問題の解決はできない。そこで来年度の予算として病床をどのくらいおふやしになるのか、その目算がおありになるだろうと思いますが、そういう点で究極どういう形をおとりになろうとしておるか、聞かしていただきたいと思います。

○若松政府委員 精神病床は、現在なお不足であることは間違いありませんので、できるだけ争い機会に整備をやりたい。現在、大体ここ数年間、毎年一万床程度ずつ増加いたしております。その一万床のうち、公的な病院につきましては国の助成がございますし、また、私的なものにつきましては医療金融公庫の融資等がございまして、そう意味で私的なものも合わせまして一万床程度でございますので、これはかなり順当な伸びであろうかと存じております。

○本島委員 これで最後にいたしますが要望しておきます。
 最近、人間の暮らしも非常に高度化してまいっておりますので、またいろいろ交通問題等、そういうことの障害から精神病者は非常に増加しておるといわれております。それから、現在の姿の上に立ってものを考えていられるように私は先ほどから答弁を聞いて感じたわけなんですが、これであってはならない。病床が余っていてもいいじゃないか、徹底的にそういう方々を収容して、治療してあげるということが最大目標でなければならぬ。それをどうも遠慮がちな答弁でいきますと、やはり野放しの数というものは依然として減らないだろう、こういうふうに思うわけなんです。また、予想もしなかったような場合も起こり得ることなんですから、そういう意味で、来年度の予算には相当大幅に獲得するという覚悟を持って、性格異常者並びにノイローゼ、こういう者たちに対する相談所、治療所、こういうものが必要だと私どもは感じるわけなんです。青少年の犯罪を防止するという立場に立ってものを考えたときにも、こういう施設がないばかりに現在のような不祥事が起こっておるということがいわれておりますので、この点腹を引き締めて、ひとつ来年度予算では確保していただきたい、こういうことを要望して、私の質問を終わりたいと存じます。

○松澤委員長 河野正君。

○河野(正)委員 きのうから精神衛生法の改正につきましての意見の交換が行なわれてまいったのでございますが、学会あるいはまた審議会等の意見を聞いてまいりましても、いろいろな問題点が実は提起されておるわけでございます。したがって、政府としては、当然それらの意見を尊重する形で、この法案の手直しというものを行なわれることが私はきわめて望ましかった、こういうように考えるわけでございます。しかるにもかかわらず、きのうからの論議を承ってまいりますと、なお問題点が非常に多い。この点については、私は、当然政府としても再検討せられる必要があると思うわけでございますが、この点について大臣の率直な御意見を承りたい、かように思います。

○神田国務大臣 ただいま河野委員のお尋ねでございますが、精神衛生審議会の答申等はできるだけ尊重いたしまして本法案をつくったわけでございますが、まだ十分じゃないというお尋ねはごもっともであると思います。御承知のように、この精神衛生審議会の答申も、私どもの判断によりましても、半分くらいしか尊重できなかったんじゃないか、これは私の率直な答弁でございます。まだ半分は、後年度に善処しなければならない問題である、こう考えております。そこで、十分なものではないのでございますが、精神衛生の置かれております現在の情勢下におきしては、少なくともこの程度のものは取り上げなければならぬ、こういうような意図をもちまして、そして御審議をお願いしておる、こういう段階でございます。

○河野(正)委員 いま大臣のお答えを承りますと、精神衛生審議会の答申については半分程度参考にしたんだ、こういうお話でございます。この精神衛生審議会という諮問機関の意見なり答申というものを尊重しなければならぬと同時に、政府としては、その他の、たとえば社会保障制度審議会というような審議会もございますが、これらの審議会の答申についてはいかが処置されましたか、お伺いをいたしたい。

○神田国務大臣 いまお話しの点でございますが、これはむろん答申を尊重するように努力いたしましたが、ことにその問題につきましては、精神衛生審議会の答申の中にも十分うたわれておりますので、それらも考えながら尊重してまいりたい、こういうことでございます。
 社会保障制度審議会のほうの問題も、できるだけ尊重してまいりたい。しかし、先ほど来お答え申し上げておるように、これはなかなか一ぺんにはいけなかった。いずれも半分くらいが目安で考えた。後年度にはこれをやはり拡充強化していって、りっぱなものにしなければならぬという問題が残っておる、こういうことでございます。

○河野(正)委員 それでは率直に聞きますけれども、社会保障制度審議会の答申なり意見というものについて、尊重せられましたかどうか。

○神田国務大臣 御承知のように、社会保障制度審議会の答申は、精神衛生審議会の答申を尊重してやれということが根幹になっておるようでございます。その精神をくんでやってまいった、こういうふうに御了解いただきたいと思います。

○河野(正)委員 その点は実は了解できぬのです。どういうことかと申しますと、社会保障制度審議会に諮問をされて、その審議が行なわれましたのは二月の十日でございます。ところが、私どもが審議の最中に、すでに厚生省は、精神衛生法の一部改正が成案としてでき上がったんだという新聞発表をなさっておるわけです。そこでわれわれは、いま大臣がおっしゃったように、いろいろ答申なり意見が出てまいりますが、そのうち政府の責任でどの程度法案改正の中に盛り込まれるかどうかということについては、いろいろ事情もあろうと思います、これは政府の責任でやられることでありますから。ところが。少なくとも精神御生法一部改正についての社会保障制度審議会の意見というものは、時間的にも物理的にも全く尊重されなかったという経緯があるわけであります。それをあえて尊重されたということでございますならば、私どもは承知することはできません。いかがですか。

○神田国務大臣 いまお尋ねのございました社会保障制度審議会の答申は十日に出ておりまして、そしてこれを尊重いたしまして閣議決定は十六日、こういうことになっております。ですから、答申をちょうだいいたしまして約一週間近く慎重審議いたしまして、答申を尊重しながら閣議決定をした、こういう手順でございます。

○河野(正)委員 大臣、事務当局からごまかした資料をもらって答弁されるからそういう結果になるのです。私は社会保障制度審議会に出ておりますから、また、具体的にその問題と関連がございますから、あえてここで指摘をいたしておるわけです。これは二月十日の社会保障制度審議会におかけになって審議をいたしました。ところが、審議の過程の中で新聞記者に厚生省は発表されているのです。ちゃんと夕刊に出ている。だから私は、その次の社会保障制度審議会で大内会長に対して注意したところが、大内会長も、全くけしからぬ、自分も審議会を終わってうちに帰ったら夕刊に発表されていた、こういうことで、大内会長も非常に遺憾の意を表しておったのです。ですから、尊重する尊重すると言っても、実際には、きのうの参考人の御意見にもありましたように、あるときは隠れみのとして、あるときは単に機械的に利用する機関として御利用になる、こういう経緯があると思うのです。だから、今日せっかく改正法が出てまいりましたけれども、いろいろ学会なりその他において議論のたねになっている、こういうことだと思うのです。この点、いま局長からどういうメモが渡されたかわかりませんけれども、そういう誤ったメモで答弁されることについても問題がございます。そういう認識では、幾らここで論議いたしましても、実際には大臣の判断としては適切な判断は出てこないと思うのです。ですから、たとえ局長がどのような報告をしても、いま申し上げまする事実がありますことは厳然たる事実ですから、そういう事実の認識に十分立っていただかなければ、私どもいろいろ申し上げても無意味に終わると思うのです。そういう意味で私はあえてこの問題を取り上げたわけでございますので、これは局長が何と言おうとうそなんです、社会保障制度審議会が全部認めているわけですから。ですから、こういういろんな問題の中で、しょっちゅう審議会の意見なり答申を尊重するかせぬかという問題が出てまいります。特に完全尊重という主張をいたしておりますゆえんというものは、実はそこにあるのです。そうしませんと、いま申し上げますように、尊重したのだ、尊重したのだというように単に機械的に取り扱われる、こういうきらい、弊害というものが非常にいままで強かった、こういう意味で取り上げてまいっておるのでございますから、この点は、特にこの精神衛生法についてはひとつ厚生省も大いに反省してもらいたい。その他の問題はございますけれども、これは具体的な一例でございますから、これを契機として大いに厚生省は反省をする、こういう態度をとっていただきたいと考えるわけでございます。その点について……。

○神田国務大臣 ただいま河野委員より、大臣の答弁であったが、審議会の答申を尊重すると言いながらなかなか尊重していないではないか、しかも社会保障制度審議会にかけているのにすでに案を発表したではないかというようなことでございます。河野さんはそのほうの非常な大家でございますから、この内容の問題について私は議論をいたしませんが、事務当局の話を聞いてお答えするという意味ではないわけでございますが、事実問題でございますからその点で少し触れますと、審議中にそういう発表をしたわけではない。しかし、それがどういう経路で漏れたか、そういうようなことがあって非常に遺憾であった、こう言われているわけです。ですから、河野さんの言われたことは事実なんです。あなたの言われたのは事実であるが、しかし、意欲的に発表したのではないということは、ひとつ御了解願いたいと思うのです。私にはそれがどういう経路から漏れたかわかりませんが……。

○河野(正)委員 それならやめた。

○神田国務大臣 それはちょっと、もう少しお聞き願いたいのですが、それから審議会の答申を尊重しろという問題は、これはごもっともだと思います。これは当然のことだと思います。しかも、これをやっていながらそういうものが漏れるということはけしからぬことでありますから、これは河野委員のお怒りになることはごもっともであります。ですから、そういうことのないように、私どもは今後責任を負って善処しなければならぬ、こう考えております。また、審議会の答申を尊重すると言いながら、先ほども率直にお答え申し上げたように五〇%だ、こういうことでございますから、御不満の点もよくわかります。私どもも十分じゃないと思っていることもまた御承知願いたい。相手のあることでございますし、また急いだ事情もございまして、これは次の機会にできるだけ早くこの答申を全部尊重して成案を得ていきたい、こういうことでございます。今後は、いま御指摘になったような点のないように十分監督いたしまして、われわれは断固前向きでやってまいりたい、こういうように考えておりますから、御了承を願いたいと思います。

○河野(正)委員 了解できないわけです。私は、やはり単に精神衛生法の一部改正にとどまらず、今後いろいろ法律の改正が行なわれると思うのです。その際、それぞれ各審議会の意見なり答申を尊重しなければならぬということが繰り返されて起こってくると思うのです。ところが、私がいま具体的な実例を示して反省を求めたにかかわらず、それを肯定なさらぬということでは、私はやはり今後の厚生省の施策についていろいろ疑問を持たざるを得ない。そういう意味で、私は自後の問題については留保いたします。

○若松政府委員 御指摘の点、私どもの公式の手続としては、先ほど大臣がお述べになりましたように、十日に御審議をいただき、十六日に閣議にかけて、その結果発表したものでございますが、私どもの事務の手落ちもございまして、ある新聞社にその記事が前もって載ったということは私ども事務の手落ちでございまして、今後このようなことの起こらないように十分注意いたしますので、御了承願いたいと思います。

○神田国務大臣 先ほど来問題になっておりました河野さんの御指摘の、政府がいろいろの審議会の答申を尊重すると言いながら、しておらぬじゃないかという問題、これはたびたび原則的には尊重すると言って、そういうような御指摘の点のあることは私もわからぬではないのでございまして、いままでの惰性があったと思いますが、この点は今後十分尊重するということを率直に申し上げまして、御了承をいただきたいと思います。同時に、ただいま具体的な問題になりました精神衛生法の審議にあたりまして、社会保障制度審議会というものに御審議をお願いして、そしてそれが政府の決定のごとく新聞等に出しているということは、これは厳に慎むべきことであり、取り締まるべきものだと私は考えております。河野さんのお述べになった点につきましては、私は、十分この点は厚生省としては反省して、今後そのようなことを再び繰り返さないことを期していきたい、かように考えております。この点につきましては、関係局長はじめその他にも十分ひとつ私は厳重に注意を促しまして、将来そういうことがないようにいたしたいと思いますから、御了承を得たいと思います。

○河野(正)委員 法案の適正を期するという意味におきましては、やはりそれぞれ各界、各方面の衆知というものを集めて、そして法案の完ぺきを期していかなければならない。そういう意味では、私はやはり、この審議会というものはそれぞれ権威者を集めて意見を聞くわけでございますので、過去の事例については十分反省をせられて、今後こういった社会保障の問題についていろいろな異論が出てこぬように、この点は十分御注意を願うべきだと思います。
 いろいろございましたけれども、大臣からも率直な御見解を承りましたので、ひとつぜひ将来はそういう方向で善処せられんことを望みます。
 特に私はきのうも申し上げたのでございますけれども、この精神衛生については、欧米先進国は非常に進歩いたしておるわけであります。しかるにかかわらず、一九六三年におきましては、ケネディ精神障害者及び精神薄弱者に関する教書というケネディ教書を議会に提案をして、そうしてもう減税は一応中止しても精神衛生対策に抜本的な方策というものを立てなければならぬ、こういうようなケネディ教書の問題もあったわけでございます。そういう点から考え合わせましても、このそれぞれの関係機関あるいはまた審議会、そういう方面の意見を一そう重視しなければならぬということは、欧米先進国の例を見てまいりましても考えなければならぬ問題だ、私はこういうように考えまするがゆえに、反省を求めたということを御理解をいただきたい、かように考えます。
 本論に若干入って、重要な点については、ひとつ明確にいたしておきたいと思います。
 その第一は、この精神衛生法の骨格というものは第一条と第三条にあると思うのです。そこで、この第一条の定義、これとこの対策というものが、やはり非常に関連をいたしてまいるというふうに私は理解をいたします。たとえば昨年のライシャワー刺傷事件、あるいはそのほかいろいろな社会的な事件が起こってまいりましたが、そういう問題を解決するにつきましては、やはりこの定義の問題を解決する必要がある。たとえば実際に精神病患者、あるいはまた極端な精神変質者、こういう患者については比較的保護もしやすいし、医療の対象になりやすい。そういうようにきちんと黒色という範囲は捕捉もしやすいし、保護なり民族というものもしやすいのですけれども、灰色の部分、学問的には異常心理という部分もございまして、これは東京工大の宮城教授等によりますと、異常心理についての日本の対策というものが欠けておる、それが今日のいろいろな社会的な事件となってあらわれているのだ、こういう識者の意見もあるわけです。そこで、どうしても中間層と申しますか、ボーダーライン層と申しますか、いわゆる灰色の部分を何とかしてきちんと捕捉せぬ限りは、チェックせぬ限りは、いまいろいろ世間を騒がしているような問題を解決することはなかなか困難だ、こういう理解に立ちます。そういう意味でいろいろ議論のあったところではございましょうが、やはりこの定義をどこに求めるかということがきわめて重大な問題になってくると思うのです。そういう意味で、厚生省がこの精神衛生審議会の意見を尊重されなかったということにつきましては、私どもも非常に遺憾に感ずるわけでございます。いま局長が人権問題と言っておりますけれども、これは人権問題でも考えようがあるわけです。本人の人権も必要ですけれども、社会の人権というものも非常に重大です。ですから、その間の調整をどうするかということが非常に大きな問題になってくると思うのです。患者の人権だ、人権だ、もちろん人権は侵してはいけない。いかぬけれども、その人権ばかりを唱えることによって、今度はまわりのほうが社会的に被害をこうむってくる。そうすると、一体社会のほうの人権というものはどうなってくるのだ、こういう問題があるわけですから、そういう意味で中間層と申しますか、異常心理の範囲と申しますか、いわゆる灰色の部分と申しますか、そういう点の解決というものが当然はかられなければならぬ、そういう意味で学会なり審議会の定義に対します意見というものは傾聴に値する、こういうふうに私は考えるわけでございますが、その点はいかがでありましょう。

○神田国務大臣 ただいま河野委員のお述べになりました事項につきましては、私も全くこれは同意見に思っております。特に第一条に規定しておる点を考えましても、いまお述べになりましたように、精神異常のはっきりした者については、これは議論がないと思います。しかし、灰色の問題をどうするか、これはなかなか微妙な問題だと思います。あまり前向き過ぎてしまっては相手の人権を侵すことになり、しかもまた一歩遠慮いたしますと、今度は逆に集団の人権を侵害することになる、こういう問題も起ころうかと思います。この辺の問題はデリケートだとは思いますが、しかし、これは今日の医学の進歩からいえば、私はむしろ集団の人権というものにウェートを置くべきものじゃなかろうか。何といっても、白か黒かということはそうはっきりわからぬ点がありますから、少なくとも灰色だというような事態が感づく以上は、やはり前向きにこれを施行していくということが必要じゃないか。厚生省の任務も、そういうところにウェートを置いて考えなければならぬじゃないか、こういうはっきりした考えを持っておるわけであります。

○河野(正)委員 そこで、時間もございませんからいろいろ議論は申しませんが、いろいろな意見があるとするならば、やはりこの際、学会なり審議会の意見を尊重するというたてまえをとられなければならぬと思うのです。意見がなければ別ですけれども、いろいろな意見があるわけですから、そうすれば、どっちをとるかということになれば、この際、ものさしになるのは学会なり審議会――これは厚生省か諮問されて、あなた方権威者ですからひとつ御検討願いたいと言っておるわけですから、そういうことから言っても、やはり学会なり審議会の意見というものを尊重するたてまえがとられなければならぬ。それは当然だと思うのです。ところが、それがとられてないから、先ほどからいろいろと、審議会の意見をどうするのですか、こういう取り上げ方をやったわけです。これはひとつ早急に善処を願いたい、こういうように考えます。
 それからいま一つは、精神障害者というものが拘束をされる、あるいは行動の自由というものが制限されるというようなことですから、少なくとも医療機関におきまするいまの精神鑑定医という問題については、私は非常に重要な使命というものが付与されておるというふうに考えるわけです。そこで、これはきのうの参考人の意見の中にも出ておったわけですけれども、やはり精神鑑定医の権限というものが強まる、あるいはまた人権を拘束する、行動の自由というものを拘束するということになれば、当然それらの患者の管理に当たる医師の地位というものは高められなければならぬ、これは筋だと思うのです。ただ、医師会方面の意見があった、それが資格制限だ、あるいは専門医制度に通ずるのだという意見もございます。ございますけれども、やはり患者の自由を拘束したり、あるいは人権を侵す可能性というものが出てまいるわけでございますから、そういう意味で、やはり医師の地位というものは高められなければならぬ、こういうように思うわけです。その際、いま申し上げまするような資格制限の問題であるとか、あるいは専門医制度に通ずるというような意見も出ておるわけですから、その間の調整をはからなければならぬということは、私どももそのとおりだと思うのです。ですけれども、いずれにいたしましても、鑑定医の問題については当然検討を加えられる必要があろうと思うのです。この点についていかがお考えでございまするか、率直な意見を承りたいと思います。

○神田国務大臣 ただいまお述べになりました河野委員の御指摘は、私も同感であります。やはりそういう方向で処置を進めていく、こういうことだろうと思います。

○河野(正)委員 これはやはりそれぞれ各界の強い意見もございますが、一方におきましては日本医師会の意見等もあるわけですから、早急に調整される必要がある。そしてこういう問題は、やはり一刻もすみやかに解決する方策というものがとらるべきだ、こういうふうに思いますので、ひとつぜひ再検討をしてほしい、こういうように思います。

○滝井委員 ちょっと関連をして……。
 今度の改正の中で十月一日から実施される部面というのは、三十二条から三十二条の四までの規定は、四月一日から実施ではなくて十月一日から実施なんですね。この部面が、いわば一番、今度の精神衛生法の一部を改正する法律の中における財政負担を伴う部分です。したがって、いわばこれは一番重要な部面なんです。この一番重要な、十月一日から実施される部分における特に重要なところは、一般患者に対する医療、すなわち三十二条なんです。この三十二条は、すでにわれわれが過去における結核予防法で苦い経験を持っておるように、都道府県が医療に要した費用について二分の一の負担をすることができるという、こういう任意的な規定にしますと、結核と違って精神病患者というのは少ないわけです。結核より少ないわけです。そうして同時に、社会的な世論形成というものも非常に弱い、結核患者に比べて弱い。それだけに、財政の苦しくなった都道府県が、今年度国の組んでおりますこの一般患者に対する医療というものは、人数が四万八千三百六十八人、額にして二億一千五百三十万七千円です。もちろん措置入院のほうは、百五十六億をこえる経費を組んでおります。結核の三百五、六十億の半分近くを組んでおりますが、これはもう何が何でも措置入院ですからうまくいくわけです。ところが、この一般患者に対する医療の二分の一負担というものは、すでにわれわれが結核で経験をしておるように、必ずしも当初から、これが全部都道府県の受け入れ態勢ができて消化するとは限らないわけです。そこで政府としては、精神衛生対策の重要性にかんがみて、ほんとうはこれは義務規定にしてもらって、何が何でも県に組んでもらうというのが一番いいのですが、地方自治のたてまえから言ってもそうもいかぬでしょうから、この際、行政指導によって、四万八千三百六十八人がそれぞれの各県における精神病患者の実態において配分をせられたならば、その配分が必ず各県において二分の一の予算措置がされるように強力な行政指導をやれるかどうかということです。これはまず大臣の所信をお伺いいたしたい。そして非常に性急な私ですけれども、半年がまんをして、そして来年の予算委員会ではその実績を見ます。いま私手帳にちゃんと書いてある。この二分の一の実績を見ると書いてある。もしそれが、半年分があいまいもこたる姿で十分消化をされていないとするならば、直ちにこれは義務規定にやってもらわなければならぬ。この、当面行政措置をして必ずやります、やらなければやむを得ずそれは二分の一の義務規定をやろう、こういう二点について大臣の所信を承っておきたい。

○神田国務大臣 ただいま滝井委員からお述べになりました三十二条の第一項の関係でございますが、いわゆる四万有余の一般患者の都道府県の二分の一負担の問題、要するにこれが厚生省の指導によって完全に治療をするような状態に置かれるかどうか、そういう自信がないとするならば、これは義務費にしてひとつ来年度以降考える気はないか、こういう御趣旨だと思います。私どもといたしましては、精神障害者の置かれている地位、また一般の社会の公益から考えまして、これはやはり早く治療を必要とするわけでございますから、早期治療をするというたてまえに立って都道府県が二分の一の費用を負担して積極的にひとつやる、こういう期待をし、またそれを目安として強力な指導をもってやっていくという決意でございます。もしこれが、そういう厚生省としていろいろ行政上の手を尽くしてもやれない、精神障害者の問題の解決がおくれるというようなことがありますならば、これはなかなか容易ならない問題だと考えます。そこで、そういう場合には、いまお述べもございましたが、われわれのほうから進んで都道府県が義務としてもやらなければならぬという方途に出る、これはやむを得ないことだと考えております。

○滝井委員 ぜひひとつそうしてもらいたいと思うのです。実は一方に、頭のところに措置入院があるわけです。しっぽのところに一般患者の入院があるわけです。そしてその胴のところに当たる部分に、これは措置入院でもないし、通院の患者でもない、普通の入院があるのです。これは何もされていないわけです。いま河野さんが質問しておったように、灰色の部分が、精神病患者とそれからそうでない者との移行形の中間部分が何もされていないじゃないかと言ったと同じように、入院も頭を押えて、実は今度はしっぽを押えてくれと言っておる。ウナギでも頭としっぽを押えると、これは動かぬようになるわけです。しっぽを押えていないで頭だけ握る、これではとてもウナギは握れぬ。頭としっぽをぎゅっと押えると、まん中がかっと出てくる。だから、私は、いまここで中間の灰色の部分の、入院をしておって措置入院でないものは言いません。これは頭としっぽをきちっとできれば、必然的にまん中は出てくるのですから、したがって、まん中のところはこの次言うことに残しておいて、ぜひしっぽをきちっと押えていただくことを要望して、私の関連質問を終わります。

○河野(正)委員 いまの滝井委員の要望に関連をして明らかにしておきたい点がございます。
 入院の場合は、措置か措置でないかという二つの区分になるわけですね。そして措置の場合には国が八割、府県が二割ということで全額国庫負担である。ところが、命令入所でない入院患者については、全くゼロ回答ということになる。ところが一方では、いま前向きで検討なさるとおっしゃった通院患者については二分の一ということになりますと、その間のアンバランスが出てくる。ですから、私はこの負担の多い入院患者、しかも命令入所以外の入院患者の問題についても早急に善処され、財政措置等も講ずる必要があろうと思う。そうしませんと、外来患者は半分やる、入院患者の場合、措置ならばいいけれども、措置でないものはゼロとなりますから、これはアンバランスだ。この点についてはぜひ前向きで、これもあわせて滝井委員の要望のとおりに御検討願いたい、こういうふうに考えます。

○神田国務大臣 ただいま河野委員のお述べになりましたことは、私も同感でございます。ごもっともだと思います。そういうような方針で本法の適用をしてまいりたい、善処いたしたいと考えます。

○河野(正)委員 いろいろお尋ねしますと、私の場合は際限がなく、二日でも三日でもかかる。ですけれども、議事に協力を申し上げる意味におきまして、ぜひこの際再確認しておきたいと思います点は、いずれにいたしましても、精神衛生審議会で十六項目に及びます意見が出てまいっておるわけです。しかもその中の大部分が軽視をされ、あるいは全然取り上げられなかったといういきさつがあるわけです。精神衛生に関していろいろな意見があることは事実です。いろいろな意見があるといたしましても、政府が責任を持って諮問をいたした以上は、やはり、審議会の意見というものを十二分に取り入れるということが、政府にとって非常に大きな責務であろうと考えるわけです。
 今度の法案に盛られました欠陥あるいは不備を一々取り上げますと際限がありません。もう少し時間を許してもらえれば、二日でも三日でも取り上げてもけっこうだと思いますけれども、それも不可能でありますので、いろいろ申し上げません。いずれにいたしましても、非常に多くの不備と欠陥があるわけですから、今後は審議会や学会の意見を十分お聞き取り願って、今後大いに前向きに、この法案の適正な運用なり改善なりについて努力を願う要があろうと考えます。特に学会や審議会の皆さん方の意見を聞いてまいりますと、一年有半の時間をかけて熱心に審議し、検討を加えた、だが、実際法案ができ上がってまいったのを見てまいりますと、ほんのちょっぴりしか取り上げておらぬということに対して、非常に大きな不満がございます。これでは私は将来に禍根を残すと思う。一生懸命に真摯な検討なり審議を重ねても、政府がそれを十二分に取り上げぬということになりますと、学者の皆さんなり審議会の皆さん方が、今後法案に取り組む意欲というものが減殺されると思うのです。そういう意味で、私は今度の法案に対します措置というものは必ずしも適切でなかったというふうに考えます。したがって、私は委員長の議事に協力する意味において多くは申し上げませんが、将来については、いま滝井委員の具体的な御指摘もございました、それらの点ももちろん重大な問題でございますが、先ほどから申し上げてまいりました審議会なり学会なり、そういう皆さん方の熱意あふれる意見というものを今後大いに行政の中に、あるいは将来の法律改正の中に盛り込まれることを強く要望いたしておきたいと存じますので、それに対して大臣のしっかりした決意なり姿勢というものをお示しいただきたい、かように考えます。

○神田国務大臣 ただいま河野委員のお述べになりましたこと、これは精神衛生法の問題だけでなく、学会、審議会その他等でいろいろ御審議願って答申をしていただく、こういう問題について十分な尊重をすることは当然のことでございまして、いままでその尊重が十分でなかった点につきましては、政府もこれを率直に反省すべき点は反省して、今後は十分ひとつ尊重をしてまいりたい。ということは、いまお話がございましたように、学会、審議会の各委員等は責任を持ってなお一そう御協力願えるように、こういうことは全く同感でございます。また国会で論議された点につきましてもこれを尊重することは当然でございまして、できるだけ前向きにまいりまして――何といっても社会保障は先進国よりだいぶおくれている、これでは恥ずかしいのじゃないかという気持ちを多分に持っております。そのいう点等も考えますと、いまお述べになりましたことはまこと適切な御要望でございまして、私ども十分反省しながら、しかも前向きで大いに元気を出してやっていく、こういう考えでございます。

○松澤委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

○松澤委員長 ただいま委員長の手元に、精神衛生法の一部を改正する法律案に対し、小沢辰男君、河野正君及び本島百合子君より修正案が提出されております。

○松澤委員長 修正案の趣旨説明を聴取いたします。小沢辰男君。

○小沢(辰)委員 私は、自由民主党日本社会党及び民主社会党の三派を代表し、精神衛生法の一部を改正する法律案に対する修正案の趣旨を御説明申し上げます。
 その内容は、精神衛生に関する事項を調査審議させるため、都道府県に地方精神衛生審議会を置くこととすることであります。
 何とぞ委員各員の御賛成をお願い申し上げます。

○松澤委員長 本修正案に対し御発言はありませんか。

○松澤委員長 御発言がなければ、原案並びに修正案を一括して討論に入るのでありますが、別に申し出もありませんので、これより採決いたします。
 まず精神衛生法の一部を改正する法律案に対する修正案について採決いたします。
 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕

○松澤委員長 起立多数。よって、本修正案は可決いたしました。
 次に、ただいまの修正部分を除く原案について採決いたします。
 これに賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕

○松澤委員長 起立多数。よって、精神衛生法の一部を改正する法律案は、小沢辰男君外二名提出の修正案のごとく修正議決すべきものと決しました。

○松澤委員長 この際、松山千惠子君、八木昇君及び本島百合子君より、精神衛生法の一部を改正する法律案に対し附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
 その趣旨の説明を求めます。松山千惠子君。

○松山委員 私は、自由民主党日本社会党及び民主社会党の三派を代表し、精神衛生法の一部を改正する法律案に対する附帯決議の趣旨を御説明申し上げます。
 
  精神衛生法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
  わが国の精神障害者対策が諸外国に比し、著しく遅れている現況にかんがみ、精神衛生審議会の答申を尊重し、今後早急にこれが改善をはかり、精神障害者の福祉の増進を期すべきである。
  政府は、とくに次の点については格段の努力をなすべきである。
  一、精神障害の定義については、更に検討すべき点があると思われるので、これにつき結論を出すこと。
  二、措置入院患者以外の入院患者及び外来患者に対しても、速やかに医療費保障の実現を図ること。
  三、精神障害者の社会復帰促進のための訓練、療法を施す施設を設置すること。
  四、精神衛生鑑定医制度については、速やかに意見の調整をはかり、所要の改善に努めること。
  五、通報制度の拡大については、その運用にあたり適切を欠くことなきよう一層の慎重を期すること。
 以上であります。
 何とぞ委員各位の御賛成をお願いいたします。(拍手)

○松澤委員長 本動議について採決いたします。
 本動議のごとく決するに賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕

○松澤委員長 起立多数。よって、本案については松山千惠子君外二名提出の動議のごとく附帯決議を付することに決しました。
 この際、神田厚生大臣より発言を求められております。これを許します。厚生大臣神田博君。

○神田国務大臣 精神衛生法の一部を改正する法律案並びに修正案につきまして慎重な御審議をいただきまして、ただいま御可決くださいましたことにつきまして厚く御礼を申し上げます。
 なお、政府といたしましては、今後とも精神衛生施策の前進に力を尽くしますとともに、ただいま同法案に対しまして付せられました附帯決議の御趣旨を十分尊重の上、慎重に検討を進めてまいりたい所存でございます。