精神医療に関する条文・審議(その63)

前回(id:kokekokko:20051007)のつづき。初回は2004/10/28。
平成5年改正の審議のつづきです。

第126回参議院 厚生委員会会議録第13号(平成5年6月10日)
【前回のつづき】
○勝木健司君 次に、精神病院の開放病棟の増加と診療報酬の改定についてお伺いをいたします。
 先ほどのお話でもありましたように、最近の精神病院の入院形態別の入院患者数の割合は、全体の約六割が任意入院となっておる、また今後とも増加の傾向にあるということであります。しかし御案内のように、精神病院における職員の人員配置基準は医療法上特例が設けられておるということで、一般の医療機関より職員の配置が少なくなっておるのが実態じゃないかというふうに思います。精神病院の開放病棟をふやしていくためには、当然のこととしてそれに必要な多くの職員の配置が必要になってくるんじゃないかというふうに思います。このためには、やはり人員配置に対応した診療報酬の大幅引き上げが重要になってくるんじゃないかというふうに考えるわけであります。
 精神病院の人員配置基準の見直し、そしてまたこれに応じた診療報酬改定についての厚生省の見解をお伺いしておきたいと思います。
○政府委員(寺松尚君) 前半の御質問の職員配置の問題につきましてちょっと御説明申し上げたいと思います。その後、診療報酬上の問題は保険局長の方からお答えをいただくことにいたしたいと思います。
 何度も御質問いただきましてお答えしておるのでございますが、精神病院の医師と看護婦等の配置基準につきましては、これは配置標準と言っておりますが、基準というふうな非常に厳しいのではなくて、一つの目標と申しますかそういうふうなことで標準という言葉を使っております。ここは、特定機能病院なんかで基準と使っておる場合と区別をいたしております。
 それはそれといたしまして、精神病のいわゆる特性と申しますか、あるいは精神病院での実態とか職員の配置の実態とかというようなものを考慮いたしまして、一般的には一般病院よりも緩和されていると言っていいのではないかと存じます。しかし、言うならば緩和されていることをもクリアできない施設もございます。
 先ほども申し上げましたが、医師の場合は、医療監視によりまして調べてみますと半分はそれを遵守できておりません。それから看護婦の場合は六割ぐらいしか遵守できていないというような実態でございます。そこで、今これもお答えしたことでございますが、基準看護につきましては特一とか特二というふうな看護の配置が濃いような基準を採用している施設もございまして、そういうようなことを見ますと大体四割はそういう医療法の標準よりも重い配置をしておるということでございます。そういう実態がございます。
 そこで、精神病院におきます人員配置の標準につきましてでございますが、これから私ども医療法の改正等もさらに続けなければならないと考えておりまして、その中で医療施設機能の体系化を図っていく所存でございます。そういう中で、大臣もちょっと申し上げられましたが、医療従事者間の役割分担のあり方、これはチーム医療というようなことでございますし、そういうふうな役割分担、それから看護婦等の需給の状況、こういうようなものも頭に入れながら、国連の原則の趣旨等もわきまえながらこれから引き続き検討して成案を得て見直してまいりたい、このように思っております。
○政府委員(古川貞二郎君) 精神病院の人員配置基準の見直しにつきましては、ただいま健康政策局長が御答弁申し上げましたわけですが、まず人員配置基準につきましての議論が十分行われていくということが必要であろうというふうに私ども考えておるわけであります。医療体制といいましょうか、医療システムというものと医療費の保障といいますものはいわば車の両輪である、こういうふうに私ども考えておるわけでございまして、診療報酬上の評価ということにつきましては、今後ともこの人員配置基準を勘案いたしまして中医協の御議論等も踏まえまして適切に対処してまいりたい、こういうふうに考えております。
○勝木健司君 時間が参りましたので、終わります。
西山登紀子君 前回の法改正に向けて公衆衛生審議会が出した意見書では、我が国の精神障害者対策は制度、事業面の立ちおくれについては否定できない現状であり、今や早急に是正を図るべき重要な社会的課題となっていると指摘しておりました。また、さらに一九八五年のWHOや国際法律家委員会と国際保健専門職委員会の調査団は、日本の精神医療制度の現状は精神障害者の人権及び治療という点において極めて不十分とみなされなければならないと、国際的にも厳しい評価を下しておりました。その後の経過を踏まえましても、なおことし三月の同審議会の意見は、前回改正で導入した各種制度はまだ試行錯誤を重ねているところである、社会復帰制度の整備は他の障害者の施設と比べて十分に促進されていないなどの指摘がされております。
 私も、今回この分野につきましていろいろ勉強をしてきましたけれども、率直に言いましてどの問題を取り上げましても施策のおくれは甚だしいと感じました。精神障害者を隔離あるいは放置するというような前近代的な状態がまだ十分払拭されていない、残されているという思いを強くしたわけでございます。
 そこでお聞きしたいのですけれども、大臣は、繰り返し質問がされておりますけれども、現時点での我が国の精神障害者対策はどの程度の水準にあるとお考えでしょうか。前回改正時以降五年を経た時点でどのように評価をなさいますか。まずお聞きしたいと思います。
国務大臣丹羽雄哉君) 前回の改正では、精神病院から社会復帰施設へという観点から、御案内のように任意入院制度の導入や精神医療審査会制度の設置など、こういった入院制度の見直しを行ったわけでございます。そして、それと同時に社会復帰施設の創設、こういうものを行いましてこの五年間人権に配慮した精神医療の確保を推し進めてきたところであり、私は開かれた医療現場に向けて一定の前進を図ることができたのではないか、このように考えております。
 今回の改正では、さらにこれを一歩進めまして、今度は社会復帰施設から地域社会へとこういうことを旗印にいたしまして、新しい流れをつくるために、社会復帰施設の運営費の設置者負担の解消、グループホームの法定化などの措置を講ずることにいたしておるわけでございます。
 先ほどから申し上げておるわけでございますが、社会復帰施設であるとか、まだまだ私どもが当初もくろんでいたよりもややもするとおくれている部分もあるわけでございますけれども、全体的な流れの中においては国民の皆さん方の理解と御協力を賜りながら着実に進んでおると、このように考えているような次第であります。
西山登紀子君 精神障害者の施策のおくれた現状をなくしていくためにも、施策の推進を図っていく上での姿勢といいますか、その点につきまして大臣に重ねてお伺いしたいと思うんです。
 九一年の十二月の国連総会で、「精神病者の保護および精神保健ケアの改善のための原則」が採択をされました。これは条約ではありませんから政府を拘束するものではないわけですけれども、しかしこの原則は、すべての人が最良で有益な精神ケアを利用する権利を有すること、精神障害による差別があってはならないし、精神障害者は搾取や虐待、品位を損なう取り扱いから保護される権利を有することなど極めて重要な内容を持っておりまして、私は国内の指針として尊重することが必要だろうと思っております。
 そこで、大臣にお伺いいたしますが、この原則をさらに広く関係者に周知徹底をしていただくように、そのように取り計らっていただきたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。
国務大臣丹羽雄哉君) 委員御指摘の国連原則は、精神保健対策に関する世界各国共通のガイドラインともいうべきものであり、我が国の精神保健のもろもろの制度についても、基本的にはこの原則に沿ったものとして運用していく必要があると考えております。当然のことながら、その趣旨を十分に周知徹底いたしまして、指針として尊重していく決意であります。
西山登紀子君 ぜひそのようにお願いしたいと思います。
 次に、精神障害者の救急医療につきまして三点質問をしたいと思います。
 日本精神神経学会の九一年の提言では、「精神障害者が安心して地域で生活を営んでいくためには、急激な病状変化に対応できる精神科救急医療体制の整備が必要である。」としております。いつでもどこでも必要なときに精神障害者が診療を受けることができる制度を整備することは、今回の法の理念にかなうものと考えております。実際、この救急医療に対する期待は大きいものがございます。
 私も調べてみましたけれども、京都市では精神障害者関係団体が九二年の八月にとったアンケートがございますが、緊急時に電話相談を受けてくれるところがないと答えたのが四四・九%。休日、夜間の救急受け入れ体制がない、これが四三・八%。デイケアをする医療機関が近くにないが四〇・四%で、精神保健センターで救急医療をしてほしいが六八・五%になっております。
 そこでお伺いしますけれども、精神疾患の救急体制は現在どのようになっているでしょうか。現行法では応急入院制度があるわけですけれども、この指定病院が全国で幾らあるのかその運営主体はどのようになっているのか教えてください。
○政府委員(谷修一君) 精神疾患の救急医療体制でございますが、精神疾患の場合にはやはり症状が短期間の間に発生あるいは悪化をするといったようなことがあるわけでございまして、その場合にはやはりまず指定医等の専門家による診断がなされる必要があるというふうに考えておりますが、今お触れになりましたように、精神医療におきます急性期の対応ということについては、前回の改正によりまして応急入院制度が設けられたわけでございます。
 この応急入院の指定病院の数でございますが、ことしの四月現在で指定病院の数は四十二施設、その設置主体別の内訳は、国立が六施設、都道府県立が十七、市立が二施設、医療法人が九施設、その他法人の設置するものが八施設というふうになっております。私どもは、この応急入院の指定病院によって対応していくということを基本的な考えとしておりますが、しかしながらまだこの指定がされていない県が幾つかございます。こういう県についての設置の促進ということを指導していきたいと思っております。
西山登紀子君 二十九都道府県、四十二施設ということですから、すべての県にあるわけではない。また、一つの県に一つしかないというところもあるわけで、これは大変おくれているというふうに思っております。この際、国立や都道府県立病院に救急入院施設を備えた精神科を設置するなど検討することが必要だと思いますけれども、いかがでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 国公立の病院の診療科につきましては、それぞれ地域の実情なり施設の位置づけによって変わっているわけでございまして、一律に精神科が設置をされているわけではございません。
 一方、精神科の救急医療体制を確保するということでやはり私たちがこれから検討していかなければいけないこととしては、いわゆる救急で入った後、急性の症状が終わった後にどういう医療体制に移していくかということだと考えておりまして、そういう意味において精神疾患の救急医療体制については、受け入れ先の病院とそれからその後の搬送の体制ということも含めて検討していきたいというふうに考えております。
西山登紀子君 実は、搬送は次にお聞きしたいと思っていたんですけれども、搬送方法についても非常に現場では困っておられまして、いざ緊急事態が発生して家族や周りの人が病院に運びたいと思ったときに一一九か一一〇かあるいは民間の、これは三万円か五万円ほどするそうですが、搬送会社に頼むのか大変悩むところだというふうなお声も伺いました。だから、一般救急と同じように救急車で運ぶことができないものかどうか。パトカーでは犯罪者と同じような扱いになるわけなんで、この点の検討をよろしくお願いしたいんですが、いかがでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 精神障害者の救急医療体制の中で、先ほど申しましたいわゆる受け入れ医療機関の整備ということとあわせて、今先生御指摘がありました搬送の問題というのが残されているわけでございます。
 措置入院におきます搬送というのは、原則として都道府県において、あるいはそれ以外の場合には家族または医療機関等によって行われているわけでございますが、緊急時の搬送につきましては、先ほど言いました精神科の救急医療システムを検討する中で、やはり精神科救急医療に関する検討あるいは研究の一環として搬送体制の問題も含めて検討をしていきたいと思っています。
西山登紀子君 次に、以上のハードの救急とは別に、いわゆるやわらかい救急についてお伺いしたいと思います。つまり、総合病院や一般病院での精神科の救急で、例えば往診、看護婦やケースワーカーなどによる電話相談、時間外の救急外来の受診などを十分に保障していくということなんですけれども、このやわらかい救急、ソフトな救急を十分評価する必要があると考えるわけですが、厚生省のお考えをお伺いしたい。
 この点で、時間と労力が非常にかかる精神科の往診が現在五十二点と非常に評価が低い問題だとか、お医者さんが電話で相談を受けカウンセリングをやった場合に四十五点ということなんですが、看護婦やケースワーカーが電話相談を受けた場合には診療報酬がないということなんで、このような問題点をぜひ解決していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○政府委員(古川貞二郎君) やわらかい救急とおっしゃられましたが、往診とか電話相談に対するお尋ねでございますけれども、私どもとしては、一般的に在宅医療の推進というのはこれは精神医療に限らず一般医療を通じまして大変重要な課題であるというふうに考えておりまして、これまでも往診料の引き上げなどその評価に努めてきているところであります。
 既に医療機関で受診している患者さんに対しましては、電話で患者御自身またはその看護に当たっている方から病状の変化に応じまして治療上必要とされる医学的な意見を求められ、これに対して適切な指示を行った場合には、再診療として評価できることとされているわけであります。さらに、時間外あるいは休日や深夜の場合は、それぞれ時間外、休日または深夜の加算が評価されるということでございます。
 現在、往診料については、昨年の四月に引き上げを図っておりまして、この往診料は従来四百点でございましたのを五百二十点というふうにいたしております。それから再診療でございますが、病院、診療所の中表については、病院の場合は七十一点を四十五点、それから八十一点を五十五点というふうに引き下げておるわけでございますが、これは事情がございまして、中表において再診療が引き下げられたのは、中表におきましてこれまで再診療に包括されておりました内科再診療、これの対象となる治療計画の策定などの治療サービスについて外来管理加算というふうなことで評価する、こういったことが可能となったということの調整の結果でございまして、いずれにしても評価しているわけであります。時間外加算につきましては、これは従来どおり時間外、休日加算については現在五十五点、百六十五点、それから深夜加算が三百八十点と、こういうふうになっているわけでございます。
 私ども、往診料等についての診療評価上の評価については、今後とも中医協の御議論を踏まえまして適切に対応してまいりたい、かように考えておるわけであります。
西山登紀子君 次に、社会復帰の問題についてお伺いをいたします。
 生活の場ではグループホームの推進が強調されているわけですけれども、実際問題として、私も精神科の先生にお聞きしましたが、病院から一挙にグループホームで障害者同士が一緒に生活できるかというと必ずしもそうではないと言われました。グループホームは大いにふやせばいいと思いますが、同時にグループホームですぐには一緒に生活できそうにないが、援助者がいて集団で助け合いながら生活することができるそのような施設である援護寮の意義は非常に大きいと考えます。
 そこで、この援護寮は現在どれくらいありますか。また、その設置主体はどこでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 精神障害者援護寮の数でございますが、現在四十九カ所というふうに承知しております。設置主体別では、都道府県立が五カ所、市町村が二カ所、医療法人が二十七カ所、社会福祉法人が十四カ所、社団法人が一カ所というふうに承知をしています。
西山登紀子君 厚生省は、グループホームは今年度百カ所を目標にすると言っておられるんですけれども、それに比べると現在法定施設の援護寮というのは四十九ということで余りにも少ないのではないかと思うんですね。援護寮からグループホームヘ行くと、あるいは自立の方向へ進んでいくと、しかし失敗したらまた援護寮に帰ってもこられる、そのようなフォローができるようにするためにももっとこの援護寮を充実する必要があると思うんですけれども、都道府県に義務設置にしまして国が目標を持って充実することが必要ではないでしょうか。この点お伺いいたします。
○政府委員(谷修一君) この援護寮に限らず社会復帰施設の充実をさせていくということは、今後の精神保健対策の中で重要な課題だということは認識をいたしております。
 ただ、社会復帰施設の整備につきましては、やはり地域の自主性なり自律性というものを尊重し、地域の実情に応じて適切に推進をしていくということが現時点における基本だというふうに考えておるわけでございまして、また他の障害者の福祉施設におきましても、基本的には施設設置の義務づけということを地方公共団体にはしておりませんので、私どもとしては、現在、この地方公共団体に援護寮も含めて社会福祉施設の設置を義務づけるということは考えていないところでございます。
西山登紀子君 援護寮がない県というのは、これは京都も含めて現在十八県に上っているわけですので、自治体任せというふうになっている現状ではなかなか進まないんじゃないかと思いますので、この義務設置の問題についてぜひ今後とも検討していただきたいと思います。
 次に、社会復帰の場合の就労の問題ですが、現在職親制度だとか職適制度というのがあるわけですけれども、なかなか職親を引き受けてくれる事業主がまだ少ないというふうに伺っております。そして、川崎市では実はジョブコーチという職業のリハビリの工夫がされているということをお聞きいたしまして、私は、これはなかなかいい制度というんですか、検討をしてみる値打ちのある制度じゃないかなというふうに思っています。
 どういう制度かといいますと、これは保護就労だとか援助つき就労というふうに言われているんですけれども、数人のグループで就労いたしまして、これに援助者が一緒に企業に就労するということなんですね。仲間が一緒だということもあって安心ができますし、何かあれば援助者を頼りにできるというふうなメリットもあるわけですが、こういうジョブコーチ制度につきまして厚生省としても大いに研究をしていただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。
 それから、さらにあと続けて二点お聞きしておきます。
 共同作業所の問題、先ほどからもいろいろ出ておりますけれども、全国で無認可の精神障害者の共同作業所が六百カ所、しかし、そのうち国庫補助を受けているのが三分の一だということ。しかもこの国庫補助は年間九十万円で三年を限度としている。東京都では年間一千万円以上補助されているわけですが、ぜひこの法改正を契機にいたしましてすべての作業所に補助枠の拡大と制限の廃止、そして補助金の増額を検討すべきではないかというのが次の質問です。
 さらにもう一点ですが、京都で聞いてまいりましたが、精神障害者の共同作業所がこの間二カ所廃所になっております。自治体からの補助がおりるまでの間が長いという問題、またそこに行き着くのが大変だという問題などありますけれども、補助を受けた後にもなかなか続けていくのが難しくて廃所になっているということなんですね。そして、この共同作業所の補助の承認と交付の業務というのも、都道府県あるいは政令市が窓口となって公の窓口で責任を持って指導をするようにしていただきたい。
 このような点で、三点につきましてお伺いをいたします。
○政府委員(谷修一君) 共同作業所いわゆる小規模作業所についての御質問でございますが、先ほど来御議論がございますように、この小規模作業所については非常に地域におけるニーズも多いということで、私どもとしては、この小規模作業所の育成といいますかそういうことには力を入れていかなければいけないというふうに思っております。
 現在、精神障害者小規模作業所については二百九十四カ所を平成五年度において補助対象としたわけでございますが、補助額につきましても、他の障害者との均衡というふうなことも勘案しながら従来から予算の獲得ということに努めてまいりました。また、平成五年度からは、都道府県が単独事業として行う小規模作業所への補助に対しまして交付税措置が講ぜられることになったところでございます。
 なお、先ほど先生のお話の中で期限が三年というようなことをおっしゃったかと思いますが、精神障害者小規模作業所につきましてはその期限は設けておりませんので、申し上げておきます。いずれにいたしましても、この小規模作業所の適正な運用が確保されるよう、今後とも必要な予算の獲得と必要な補助の充実ということには努めてまいりたいというふうに考えております。
 それから、ジョブコーチというお話があったかと思います。これはちょっと私どもの所管というよりは労働省の方かと思いますが、関連いたしましてやはり精神障害者の社会復帰の促進を図るということには、例としてもお話がございましたように社会的な自立を促進し、就労につなげていくための施策の充実ということが必要だと考えております。その一環として、厚生省におきましても授産施設の整備促進ですとか通院患者リハビリテーション事業というふうなことを実施してまいりましたし、また平成五年度におきましては福祉工場の整備というふうなことを新しいメニューに加えて、今後とも、精神障害者の社会的自立の促進あるいは就労につなぐためのトレーニングといいますか、そういうことの充実を図っていきたいと思っております。
西山登紀子君 そのジョブコーチですが、川崎市リハビリテーション医療センターや神奈川県精神障害者地域作業所連絡協議会、こういうようなところで行われているということですが、労働省ともよく連携を強めていただいて研究をぜひお願いしたいと思います。
 次に、先ほどもお話がございましたけれども、予算の問題について大臣にお伺いしたいと思います。
 精神保健関係の予算は、八八年度以降九三年度までの措置入院費が三百六十八億円から百六十九億円へと約二百億円減っております。国庫負担率は四分の三ですから、百五十億円の国庫負担が削減されたことになります。その一方で、同じ期間に社会復帰を進めるための予算であります通院医療費で三十億円、社会復帰対策予算で十八億円、精神保健センターなどの施設整備費で一億円、合計約五十億円の国庫負担しか増加しておりません。社会復帰関連で多少の増額はありましたけれども、相殺いたしますと百億円の国庫負担が削減されていることになるわけです。
 今回の法改正の趣旨からいいますと、この削減された国庫負担は社会復帰のための施策のためにすべて使われてしかるべきだと思います。救急医療の整備や診療報酬の改善、援護寮の大幅な拡充、共同作業所に対する補助の拡大などなど、これまでも指摘されてきておりますいろいろな施策の改善にこういう予算を十分充てる必要があると思うのです。それをせずに、措置入院に係る予算を削減して社会復帰予算を余りふやさないというのでは、明らかに施策の後退としか言いようがありません。その点で、社会復帰しようにもできない患者さんに対する政府の責任は重大だと思いますが、積極的な施策を進める上での大臣の御所見をお伺いいたします。
国務大臣丹羽雄哉君) 御指摘の予算の件でございますが、措置入院患者数が減ってきたことに伴います医療費の減少によるものでございます。これは、御案内のように人権の配慮という観点からも大変私は望ましいことではないか、このように考えております。
 社会復帰対策につきましては、精神保健対策における最重要課題の一つとして積極的にこれからも取り組んでいく決意でございますが、医療費の中でも委員が御指摘のように通院医療費は年々増加をいたしております。さらに、地域の精神障害者のニーズに応じた社会復帰施設の整備の推進や、先ほどから御指摘の適所型の援護寮であるとかあるいは福祉工場を新たに設けるなど、施設のメニューの拡大を図っております。
 いずれにいたしましても、今後とも社会復帰対策につきましては、これまでの精神病院から社会復帰施設へという流れに加えまして、社会復帰施設から地域社会へという新しい流れを形成する上においてもより一層充実した施策が必要だと考えておりますし、必要な予算につきましては全力で確保していきたい、このような考え方に立つものでございます。
西山登紀子君 精神障害については、社会の偏見はまだまだ根強うございますし、また患者家族の方々が社会に訴えることも難しいというような面もまだあるわけでございますので、それだけに今回の改正を機会に予算の裏づけのある先の見通しを持った施策を強く望みたいと思います。
 次に、本改正案に直接関係はありませんけれども、心配されます子供の心の問題について質問をいたします。
 私は、かつて京都市児童相談所とそれから情緒障害児短期治療施設、青葉寮という施設ですけれども、そこで心理判定員、セラピストの仕事をしていたことがあります。随分前の話ですけれども、今日改めて伺ってみますと、この青葉寮という施設に入所している子供の八割は登校拒否の子供になっております。登校拒否の子供、最近は不登校児とも言われているんですけれども、この子供たちは単にわがままだとかトレーニング不足という問題ではなくて、学校に行きたくても行けないという心の葛藤を持った子供でございます。
 そして、それが頭痛や嘔吐、発熱などの身体症状に出たり、あるいは心の悩みという形で深く傷を受ける、こういう苦しい状態にいる子供ですけれども、この問題は非常に重要だと思っております。子供たちの状態は、朝起きて学校に行かなければと思うけれども、どうしても体が動かない。理由もないのに何で休むんやと親に言われるけれども、自分でわかっていてもどうしてもだめなんだと、自殺がしたい気持ちになる、こういうふうに切実でございます。
 そこで、文部省にお伺いいたしますけれども、この登校拒否、不登校児の児童生徒の数、それからどのような対策をとっておられるかをお伺いします。文部省、よろしくお願いします。
○説明員(河上恭雄君) 私ども、毎年学校基本調査でそういった方の数字を把握しているわけでございますが、最新の数字で申しますと、平成三年度間に五十日以上学校を欠席した児童生徒数は小中合わせまして約五万三千人でございまして、近年増加する傾向にございます。平成三年度から新たに年間三十日以上欠席した児童生徒数を調べましたが、これが約六万七千人という数字になっております。
 御指摘のように、登校拒否児童生徒への対応というものは私ども大変大きな教育課題であるというふうに考えております。従来から、教師用の指導資料をつくりまして全国の学校に配付しますとか、教員研修を行ったりあるいは教育相談活動、それから最近適応指導教室というものが設置されておりますけれども、そういった事業、あるいはそういった登校拒否の子供さんを多く抱えております学校へ教員を加配するというようなことも行ってきたわけでありますが、平成五年度、本年度新規の予算で登校拒否研修講座、教員の指導力を高めるための研修講座を新たに実施することにしております。
 また、これは予防的な対策でございますが、子供たちの自然体験を豊かにするために、教員にそういった指導能力を高めるためのいわゆる自然体験活動担当教員講習会という新しい事業も考えております。それから、この登校拒否の問題につきましては、平成元年から三年間にわたりまして専門家によります調査研究をやってまいりまして、その結果が昨年まとまったのでございますが、それを踏まえまして、昨年九月に全国の教育委員会に対しまして「登校拒否問題への対応について」という通知を出しまして、学校や教育委員会の取り組みの充実のあり方とかあるいは関係の専門の機関等とよく連携するようにといったような趣旨の指導を行ったところでございます。
 今後とも、この面での施策の一層の充実に努めてまいりたいというふうに思っております。
西山登紀子君 最後に一点お聞きします。
 こういう子供たちに対しまして、厚生省が一体何ができるかまた何をしなければならないかという点でございます。私は、九一年七月に起きましたあの風の子学園の事件を忘れることができません。登校拒否をしていた子供が私的施設でコンテナの中に閉じ込められて熱射病で死亡する、殺される、こういう事件が起こったわけです。こういう事件を契機といたしまして私が思いますことは、児童福祉法十三条の五に情緒障害児の短期治療施設が位置づけられております。これも義務設置ではありませんので、厚生省にお聞きしますと、昨年末で全国で十二施設、本年度中に大阪府徳島県で設置予定があるとのことですけれども、それでも全国で十五施設しかありません。もちろん、登校拒否の子供たちに対する対策がこれだけでいいというものではないわけですけれども、この際厚生省としてこの普及が必要ではないか。
 この方針をお伺いいたしまして、質問を終わりたいと思います。
○政府委員(清水康之君) 情緒障害児の短期治療施設につきましては、今御指摘のように大変に大きな問題だということから、家庭や学校での人間関係の影響などによって不登校とかあるいは孤立、不安、そういう児童がだんだん多くなっておりますので、それを入所させ心理治療や生活指導を行う、また学校復帰を可能にしていくというふうなこととして御指摘のとおり法定施設としての児童福祉施設が設けられているわけでございます。今十二カ所という御指摘でしたが、正確には新しく平成四年度中に一カ所できまして十四カ所ありまして、平成五年度中に二カ所新たに設けられることになっておりますので、最終的には十六カ所、約七百六十名ほどの定員が確保される見込みでございます。
 先ほど文部省からお話がありましたとおり、登校拒否児というのは、五十日以上の方が五万数千人いるというふうな状態であり、かつ一般的に言うと増加傾向にあるというふうなことでございますので、私どもは、この情緒障害児短期治療施設の機能の充実が非常に望まれているというふうに考えまして、この施設整備を十分進めていくと同時に、実は平成三年度から引きこもり・不登校児童対策のためにいわゆる家族療法事業というものを新たに始めております。これは、施設に家族の方とその不登校児童とが一緒に短期間宿泊していろんなカウンセリングを行うというふうな事業でございまして、この事業についての要望といいますか需要が大変多うございますので、これらも充実していきたいというふうに考えているわけでございます。
 いずれにしましても、これからも文部省とも十分連絡をとりながら、不登校児童の動向あるいは各都道府県の要望、施設関係者の要望というふうなものを踏まえながら、必要な施設整備、対策の充実ということに努めてまいりたいと思います。
○粟森喬君 まず、最初にお尋ねをしたいと思います。前回のこの法改正によりまして、精神障害者の医療の現場というのは随分よくなったというふうに私は一般的に言えるんではないかと思います。そういう意味で評価をしているわけでございますが、現状について幾つかお尋ねを申し上げたいと思います。
 一つは、まず措置入院者数にかなりばらつきがあるのではないか。平成四年の数字、三年の数字、元年の数字、厚生省からいただいたんですが、いわゆる全体の措置入院者数を在院患者数で割った数値で言いますと、千人当たり五人という県と千人当たり五十九人とか六十人という県がある、あるいは七十人という県がある。最低と最高を比べますと十倍でございます。平成四年度で言いますと平均が二・四ですが、この程度のばらつきは法の運用に当たって問題点として意識されるようなことがおありなのかどうか、まずそこをお尋ねしたいと思います。
○政府委員(谷修一君) 措置入院の患者数あるいは措置率と申しますか、そういうものが今先生お話しございましたように県によってばらつきというか差があるということは御指摘のとおりでございます。そのこと自体がどういう意味を持っているのかということでお尋ねになっておられると思いますが、地域的な状況あるいは精神病院の設置状況、そういったようなことが関係をしているのかとも思いますが、私どもまだその点について具体的に分析を特にしているわけではございません。
○粟森喬君 私は、措置入院のあり方というのは、精神障害者にとって人権の問題でかなり重要視をされている一つの側面だと思っているんです。それから、医療保護入院数と特に任意の入院患者、私は、できるだけ任意でいくのが人権を守るという立場、医療の現場においても、そういう開放型に向かっていくとするならば、病院の数とかそれだけではないような気がいたします。
 例えば、指定医の二人以上ということで言いますと、そこの地域におけるお医者さんのグループなりあるいはそれぞれのいわゆる指定医の考え方にこれほど差異が出ることを放置しておくというのは、端的に言ったら同じ法律でありながら都道府県ごとに、何らかの客観的な意味、例えば大都市であるから多いのかとか少ないのかとか、あるいは東京へ単身で来ている人が地方へ行くから多いのかといういろいろ地域事情なども私なりに調べてみたんですが、どうもそこは違う。やっぱりその原因のところをきちんと整理しておかないと、特に私は措置入院のあり方というのは先ほどから再三申し上げているように問題ではないかと思うんで、その面をひとつ、いま一度改善するのかしないのか。
 それからもう一つは、これは措置であるのか任意であるのか医療保護であるのかというのは医療現場での差異はないけれども、支払われ方などでこういうことが出てきているのかどうか、そのことも含めて説明を求めたいというふうに思います。
○政府委員(谷修一君) 御承知のように、前回の改正の際に入院制度について大きな改正をしたわけでございます。その際に、措置入院の適正な実施を確保するために、厚生大臣が全国一律のいわゆる措置基準というものを定め、かつ精神保健指定医を指定いたしまして、また指定医に対する統一的な研修の実施ということを行ってきたわけでございます。
 そういう意味で、私どもとしては、先ほどもちょっと申しましたように、こういったような形での県による差異があるということについては若干分析をし切れていないわけでございますが、いずれにしても、指定医に対する研修の充実ということによって指定医の資質の向上ということを図る、それによってまた改めて措置入院制度の適正な運用というものを図らなければいけないというふうに思っております。
 また、今年度から、各県ごとの精神医療審査会につきまして全国的な連絡協議の場を設けるというようなことをいたしまして、そういうこととあわせて、判断基準というものに違いがないようにさらに指導をしてまいりたいというふうに考えております。そういうことによって、引き続き措置入院を含めました精神医療制度の適正化ということを図ってまいりたいと思っております。
○粟森喬君 私は、やっぱり今の状況を改善する方向で、少なくとも逐年ごとの数字を見る限り措置入院数が減っていることは間違いございませんが、どこか指導といいますか理念で統一されていない現状を早急に克服するための努力をお願いしたいと思います。
 次に、今申し上げたわけでございますが、重ねてここはお尋ねをしたいと思いますが、医療保護入院者数と任意入院者数、この相関関係の数字も全国的にばらばらでございます。これ三倍から違っています。任意が多くて医療保護が多いという、これはまた同じ法律でやっていて何でこんなに違うんだ。このことについて厚生省がきちんとした物差しを持っているのかどうかということですね。
 私は、これは各都道府県なりの単位で見たわけですが、余りにもその辺のところについて問題意識がないのではないかというような気がいたしますが、ここもお尋ねをしたいと思います。
○政府委員(谷修一君) 今お話がございましたように、医療全体としては、措置入院患者あるいは医療保護入院患者というのは減って、任意入院が増加をしてきているということはお話のあったとおりでございます。
 医療保護入院の数と任意入院の数との関係ということで、私どももデータはまとめてあるわけでございますが、これは措置入院とも関係があると思いますけれども、先ほど言いましたような全国一律の基準なり考え方を示して、それに基づいて指定医が判断をしてやっていただいている。それからまた、精神医療審査会においていろいろ各毎月審査をやっていただいているということでありますから、私どもとしては、考え方はこの五年の間に十分定着をしてきたというふうに思っております。
 この際、先ほど言いましたような精神医療審査会の各県ごとの連絡の場というものも設けることにいたしましたし、また今回の改正において改めて、先ほど来この委員会でもお話のありました開放処遇というものについての周知徹底というものも図っていかなければいけないと思っておりますので、それとあわせて、入院の考え方、措置入院あるいは医療保護入院、任意入院の考え方というものも改めて各県並びに関係者の方に周知をしてまいりたいと思っております。
○粟森喬君 あなた、今定着をしたと言ったけれども、一つの基準づくりは定着をしたが、全国都道府県の中でこのような差が出ている状況について、やっぱり私は格差というのはいいところ一・五倍とかそんなところではないかというふうに思うんです。特に、医療保護入院と任意入院について、これまたそれぞれこれだけの違いが出るというのはいかがかなという私は思いがありますので、ここは重ねてこれからの指導の中で生かしていただきたいと思います。
 そこで、大臣に、今までの議論を聞いておってぜひとも基本的なことで、今改めてそういうことをしていただけるということですが、私は、原則任意入院というか開放型の医療の現場という基本的な方向をきちんと確認をして、そういうふうにできるだけ持っていくような大臣としての指導指針をこの際明らかにしていただきたい。
 それから、実は任意入院の実態も一つ一つ見ますと、いろんな問題を私なんかも個別にお聞きをすることがございます。例えば医師と患者の関係も、今インフォームド・コンセントを入れるということでやっておられるようですが、私は、人権の立場で人権擁護のオンブズマンみたいな制度も入れていくとか、過渡的にいろんなことをやっていかないと、まだまだ医療の現場における患者と医師の関係、それから医療の実態、この差があると思いますので、まず前段のことに対しての基本的な姿勢と、この種のことについて検討いただけないか答弁願いたいと思います。
国務大臣丹羽雄哉君) 精神保健法におきましては、精神障害者を入院させる場合には原則として、当然のことながら人権を配慮する立場から、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない、こういうふうに規定されておるわけであります。
 これに基づきまして、今日、任意入院が精神病院への基本的な入院形態として浸透、定着してきておると考えております。また、精神病院の入院患者は、先ほど委員から御指摘の医療保護入院であるとか措置入院であるとか、入院の形態にかかわりなく都道府県知事に対しまして退院や処遇改善の請求ができることになっております。これらの請求については、すべて精神医療審査会において審査されることになっておりますから、御指摘のオンブズマンのような趣旨については、現行制度上におきましても既に織り込まれておる、このように考えておる次第でございます。
○粟森喬君 そこで次に、今回の法改正で、第四十八条の削除は患者の人権や医療の多様性という意味では前進だと思っています。しかし、こういうこととは別に、精神病院そのものの医療の現場の改善をきちんとしなきゃならない、放置されているのではないかという懸念も私はございます。
 先ほどから同僚議員が精神科の看護基準の問題を取り上げました。私は、この問題は非常に重要なやっぱり物差しだと思います。といいますのは、精神医療という現場は、薬というよりも医師とか看護婦さんとかそれぞれの人たちの中で信頼関係をつくりながら社会に復帰をしていくという、こういうことが前提でございます。今看護婦さんが足らないときに、一般並みに四人に一人というんですか、すぐにしろといっても私はかなり難しい問題だと思っているんですが、これはいわゆる基準の問題としてどこかで見直して何らかの方法をとらないと、なかなかこの問題はうまくいかないんではないか。
 例えば、今の診療の計算の仕方、いろいろ具体的な数字では、私も余りきちんとしていないところもあるのでございますが、精神科の病院がちょっと経営の問題でコストを上げようとするとまず何をやるかというと、医師の効率的な配置というのをやるわけです。効率的な配置というのは、一人一人の患者と接する時間が結果として短くなるということでございます。そして、看護婦の基準もこうなっていますからその他の配置職員を最低配置にする、できるだけ人を少なくする。そういう環境というのは、本当に精神科病棟というものの一つのあり方をめぐってここは変えていかないといけないんではないか。やっぱりいい環境というのは、医者がたくさんいて看護婦さんもいて、それで掃除のことだとかいろんなことも含めてそういう環境の中で、精神病の病棟といいますか精神医療というのは改善をされないといけない。
 そういう意味で言うと、こう言ってはなんでございますが、多少安上がり的に精神医療を考えているというふうに私は結果的に見てしまうわけでございますが、この私が述べたことについて答えていただきたいと思います。
○政府委員(古川貞二郎君) 私どもも、よい医療をということで、診療報酬の改定に当たりましてもそういった精神医療の専門性等で必要な措置を講じているつもりでございます。
 お尋ねはスタッフの評価ということについてでございますが、例えば看護職員につきましては、看護職員の配置に応じて看護料に第二類看護から基本看護までのような類別を設けまして診療報酬上の評価に努めているところでございます。また、ソーシャルワーカー等につきましても、精神科におけるチーム医療を担う一員として評価を行っているというようなことでございまして、例えば医師及び作業療法士、看護婦、精神科ソーシャルワーカー、また臨床心理技術者等の従事者がチームで個々の患者にふさわしいプログラムに沿いまして医療を在宅患者のグループに対しまして行った場合には、精神科デイケアを算定できるというふうなことの評価を行っているわけでございます。
 ちょっと具体的に申し上げますと、例えば看護についてでございますが、昨年の四月の診療報酬の改定では、精神符二類看護が従来一日当たり四百五十二点、つまり四千五百二十円であったわけでございますが、これを五百十八点、五千百八十円に引き上げる。あるいは精神基本一類看護、これが二百六十八点でございましたのを三百十点に引き上げる、三千百円に引き上げる。
 こういうこととか、あるいは精神科デイケアの話を申し上げましたが、これには小規模と大規模がございますが、小規模については、つまり小規模のやり方でございますが、従来診療所だけでございましたのを病院にもそういったことができるようにする。そして、金額につきましても従来は四百点、四千円でございましたのを五千円、五百点というふうに引き上げる。また、大規模のものにつきましては四百五十点でございましたのを六百点に引き上げる。こういったことでいわゆる社会機能の回復を目的とした精神科デイケアの充実に努めている、こういった努力をしているところでございます。
 なお、繰り返して申し上げておりますけれども、私ども今後におきましても、精神医療の専門性の評価とかあるいは医療経営の安定、そういったものの確保というふうな観点から、現在六月実施中でございますけれども医療経済実態調査の結果とかあるいは中医協の御議論を踏まえて対応してまいりたい、かように考えているところでございます。
○粟森喬君 今のお話を聞きまして私の意見を申し上げますと、確かに改善をされたんですが、多少何人かの精神科の先生にお尋ねをすると、これだけの改善で本当に現場が改善できるかというと、まず特二類を実施しようとしたら、精神科というだけで来ていただくだけでも大変な看護婦さんの配置で苦労する。コストでいって、今言ったようにデイケアであるとかほかのいろんなところ、点数では上がったけれども果たしてこれで望むべき精神医療をよくできるのかというと、やっぱりこれは不足だと言うんです。これはもう率直な意見でございます。
 したがって、改善への努力を私もそれなりに多としながらも、大臣、ここはぜひともお願いをしたいのは、今でもこれは医療の現場も患者も社会もあるんだろうと思うんですが、精神科に入院しているとか通院しているというだけで社会的にある種の差別が存在をした。偏見が存在をするという中で、ここは法律の枠組みからだけでなく、かなり具体的に配慮すべき改善点をこれからぜひとも前向きに考えていただきたいというふうに思いますが、厚生大臣の見解をいただきたいと思います。
国務大臣丹羽雄哉君) 御指摘の精神医療に対する偏見の問題でございますけれども、私も大変根強いものがあって、これが社会復帰施設であるとかそういうものがなかなか思うように進まない大きな要因になっているのではないかと思っております。
 さきの公衆衛生審議会の意見書におきましても、入院患者及び通院患者のクオリティー・オブ・ライフを高め国民の精神医療に対するイメージを一新する、このことの必要性というものが指摘されておるわけでございますが、私どもといたしましてはこれを踏まえて今後とも開放的処遇の一層の推進を図る。さらに、チーム医療の確立を通じてよりよい環境において質の高い医療が提供されるように努力していく、こういうことを通じていわゆる国民の間にありますこういう精神科への入院、通院、さらにこういう患者さんに対する社会的偏見、差別、こういうものを解消していかなければならないと考えているような次第であります。
○粟森喬君 先ほど同僚議員からも取り上げられましたが、医療ソーシャルワーカーのことについてお尋ねをしたいと思います。
 一つは、今回の改定で社会復帰施設というものができて、そこをどうつなぐかというときの問題なんですが、私はあえて医療の現場という意味で言うなら、医師の指示に基づく医療ソーシャルワーカーというものを、これはもう医療の現場ですからそこできちんとまず位置づけることを先行すべきではないか。社会福祉全体のソーシャルワーカーという意味は、多少もう一つ別の分野といいますか専門的な問題になると思うんです。先ほどから関係者の同意をなかなか得られないということが理由になっていますが、医療の現場というものの中で関係者というのは医療の現場をどう見ているかという問題もあるんです。
 今、人材確保や、看護婦さんだけではやり切れない、やれない問題が幾つか医療の現場に出てきておると思いますので、この部分を全部トータルで解決するつもりなのか、医療のソーシャルワーカーは先んずることはできないのかどうか、ここをお尋ねしたいと思います。
○政府委員(寺松尚君) きょう、いろいろと医療ソーシャルワーカーにつきまして御議論をいただきました。その中で、いろいろ関係団体からの意見が違うということも申し上げました。そのようなことを踏まえまして、今先生がおっしゃっておりますように、ある特定の範囲を限りまして、もしもそれでいいというふうな合意ができるならばまたひとつ考えてみたい、このように考えております。
○粟森喬君 次に、公的病院の役割についてお尋ねをしたいと思います。
 いずれにせよ、今精神障害の医療というのは、これからの課題が幾つかあるし、ある種の道筋ははっきりしてきたと思いますが、実はそのモデル的な公的病院というのが、私は石川県だから石川県の高松病院というところを見て言っているわけではないのですが、やっぱり公的な病院の姿勢によって、例えば先ほど問題にした措置入院の問題とかそういうオピニオンリーダーとしての役割を結構持ちながら、そういう格好になっているところとそうでないところとかなり差があると思うんです。
 私は、大きな病院をつくれという意味ではなく、そういう公的な病院がモデル的に、実践的にそういうことをしていきながらやっていくということが非常に大事なことではないか。こういう意味で、このことについてこれからどう考えていくか、これをお答え願いたいと思います。
○政府委員(谷修一君) 精神医療につきましては、先ほど大臣からも御答弁がありましたように、やはり精神病院のイメージというものを一新していく必要があるということが審議会の意見でも言われております。そういう意味では、精神医療に果たす公的な機関の役割というのは非常に大きいものがあるというふうに思っておりますが、そういったようなモデル的と申しますか、そういう医療をやっていく上では必ずしも公的病院に限る必要はないのではないかというふうにも思います。今、具体的に例として挙げられた高松病院のような非常に先駆的な、あるいはまた中心的な役割を果たしている医療機関もあるわけで、これはまた民間にも同じような医療機関があるわけでございます。
 ただ、いずれにしても、私どもが今後の精神医療を考えていく上で、精神医療機関としてのモデルとなるような先駆的な取り組みをしている病院、こういうような事例についてはひとつ広く関係者の間に知らせて、それで周知を図っていく一つのモデルとしての役割といいますか、そういうものをぜひ関係者の間に周知をしていくということは必要なのではないかというふうに思っております。
○粟森喬君 私は、前回の医療法の改定で医療情報の提供についてかなりできるようになったから、そういうこともぜひとも活用してやってもらいたい。
 この際、もう一つお尋ねをしておきたいのですが、大都市の特例について、かなり週日の実施になっているはずですね。たしか平成八年だったかと思います。今の状況の中で、大都市が適切なのか中小都市が適切なのかというのもあるんですが、なぜこれは実施時期がおくれて、いわゆる先駆的な役割というのは、ある意味では措置権などをゆだねていくという一つのあり方だろうと思うんです。なぜこの部分にこれほど時間をかけるのか。特定の大都市のはずでございますが、その理由についてお聞かせ願いたいと思います。
○政府委員(谷修一君) 今回の指定都市への事務の移譲につきましては、法案を作成する前に各指定都市にアンケートといいますか事情を聞きまして、いわゆる移行の準備期間というものがどの程度あればいいかということについて調査をいたしました。その結果、平成八年度なら大体そろうというような判断をいたして平成八年の四月からということにしたわけでございます。いずれにしても、この準備期間の間にそれぞれの市においては体制の整備というようなこともやらなければいけませんので、やはり混乱がないようにということから平成八年とさせていただいたわけでございます。
 なお、最近の例としては、精神薄弱者の福祉に関する事務について大都市特例を導入したわけでございますが、この場合にもおおむね二年半の準備期間を置いているといったようなことも参考にさせていただきました。
○粟森喬君 私は、先ほど、前向きにいっているということとスピードが非常に遅いということをかなり懸念をしております。今回の法改正はやむを得ないかと思いますが、やっぱりできるだけ今の医療の現場をよくする意味でこれからもいろいろやっていただきたい。
 次に、さっきからの質問にもよく出ているわけでございますが、社会復帰支援施設が一つもない県、私の県もそうでございますが、ここの分野の領域に対するきちんとした位置づけを今回法定するということは非常に意味のあることだし、これ以降このような現状を打破し、どうやっていくかということをこれまたいろんな意味で考えていかないと、例えば老人の問題ともかなりかかわってきます。お年寄りの世代になりますと、どっちの保険で見るのか、どの施設で見るのか、そういう問題もかなりこれから整理をしていかなければならない段階でございます。
 今回、この問題を具体的にするために、前にも出ているかと思いますが、やっぱり年度計画の策定というのはもう絶対に必要だろうと。そうでなかったら、ここはかなり改善されていかないと、よりよきものをつくらないと、その医療の現場から二割、三割という人が退院できる状態といっても、ここの受け皿の早急な確立なしには現状の問題点というのは解決できない。そうすると、やっぱり年度計画は絶対に必要だと思いますが、これはいかがでございますか。
○政府委員(谷修一君) 社会復帰施設の整備につきましては、先ほど来いろいろ御議論をいただいているわけでございます。地域におきます社会復帰施設の整備については、これまで都道府県が作成しますいわゆる地域保健医療計画の中に二次医療圏ごとに作成されるわけでございます。この二次医療圏ごとに作成する地域保健医療計画の策定に当たっての指針の中に、社会復帰対策の充実ということで、具体的に精神障害者の援護寮ですとか、授産施設の整備、あるいは通院患者リハビリテーション事業、社会復帰相談の拡充といったようなことを計画に盛り込むように指導をしてきたところでございます。社会復帰施設の整備については、やはり地方公共団体がそれぞれの地域の実情に応じて考えていくべきだということが私どもの現在考えている基本的な考え方でございます。
 ただ、先ほど大臣からもお答えがございましたように、今後の課題として、都道府県など地方公共団体の対応ぶりあるいは意見なども幅広く伺いながら今後の検討課題とさせていただきたいと思います。
○粟森喬君 最後に、厚生大臣、ここは要望と意見を申し上げたいんですが、ここで法改正をするというのは、やっぱり年度計画の始まりがきちんとしていかないと、結局その法律を変えるというにはそれだけの意味がなければいけない。努力目標というのはどうあっても何となく私どもの立場から見ると納得できる範囲ではない。同僚議員も申し上げているように、ぜひとも年度計画として取り上げるように、厚生大臣としてきょうの段階で言えることについてお答えいただいて、私の質問を終わりたいと思います。
国務大臣丹羽雄哉君) 先ほどから御答弁を申し上げておるわけでございますが、社会復帰施設につきましては、残念ながら大変お寒い限りでありまして、率直に申し上げてまだまだ年度計画を立てられる以前の話であります。
 いずれにいたしましても、ただいま局長からもお話がございましたように、都道府県など地方公共団体の自主性というものも尊重しなければならないわけでございます。要は社会復帰施設というものを設置していくことでございますので、強力な指導のもとにひとつ社会復帰施設の整備というものを図っていきたいと思います。ただ、年度計画につきましては十分な御提案として承っておきます。
○委員長(細谷昭雄君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。
 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。――別に御発言もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 精神保健法等の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
○委員長(細谷昭雄君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、木暮君から発言を求められておりますので、これを許します。木暮君。
○木暮山人君 私は、ただいま可決されました精神保健法等の一部を改正する法律案に対し、自由民主党日本社会党・護憲民主連合、公明党国民会議民社党・スポーツ・国民連合、日本共産党民主改革連合各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 以下、案文を朗読いたします。
 
 精神保健法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
  政府は、精神障害者ノーマライゼーションを推進する見地から、次の事項につき、適切な措置を講ずるべきである。
  一 精神障害者の定義については、国際的な疾病分類に準拠したものであることを周知徹底するとともに引き続き検討を行うこと。
  二 精神障害者を抱える保護者に対する支援体制を充実するとともに、今後とも公的後見人を含めて保護者制度の在り方について検討すること。
  三 精神障害者の社会復帰を推進するため、社会復帰施設、地域生活援助事業、小規模作業所等に対する支援の充実を図るとともに、精神障害者に関する各種資格制限及び利用制限の緩和について今後とも引き続き検討すること。
  四 精神保健におけるチーム医療を確立するため、精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討するとともに、精神保健を担う職員の確保に努めること。
  五 大都市特例については、円滑な実施を図るため必要な配慮を行うこと。
  六 精神医療におけるインフォームド・コンセントの在り方について検討すること。
  七 社会保険診療報酬の改定に当たっては、精神障害者の社会復帰を促進するという観点や精神病院等の経営実態等を踏まえ、必要に応じ、所要の措置を講じ、その経営の安定等が図られるよう努めること。
  右決議する。
 
 以上であります。
○委員長(細谷昭雄君) ただいま木暮君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
○委員長(細谷昭雄君) 全会一致と認めます。よって、木暮君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
 ただいまの決議に対し、丹羽厚生大臣から発言を求められておりますので、これを許します。丹羽厚生大臣
国務大臣丹羽雄哉君) ただいま御決議になられました附帯決議につきましては、その趣旨を十分尊重いたしまして努力いたす所存でございます。
○委員長(細谷昭雄君) なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(細谷昭雄君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。