心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その2)
前回(id:kokekokko:20051224)のつづき。
第三章 医療
第一節 医療の実施
(医療の実施)
第八十一条 厚生労働大臣は、第四十二条第一項第一号若しくは第二号、第五十一条第一項第二号又は第六十一条第一項第一号の決定を受けた者に対し、必要な医療を行わなければならない。
2 前項に規定する医療の範囲は、次のとおりとする。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 医学的処置及びその他の治療
四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五 病院への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
六 移送
3 第一項に規定する医療は、指定医療機関に委託して行うものとする。
(指定医療機関の義務)
第八十二条 指定医療機関は、厚生労働大臣の定めるところにより、前条第一項に規定する医療を担当しなければならない。
2 指定医療機関は、前条第一項に規定する医療を行うについて、厚生労働大臣の行う指導に従わなければならない。
(診療方針及び診療報酬)
第八十三条 指定医療機関の診療方針及び診療報酬は、健康保険の診療方針及び診療報酬の例による。
2 前項に規定する診療方針及び診療報酬の例によることができないとき、又はこれによることを適当としないときの診療方針及び診療報酬は、厚生労働大臣の定めるところによる。
(診療報酬の審査及び支払)
第八十四条 厚生労働大臣は、指定医療機関の診療内容及び診療報酬の請求を随時審査し、かつ、指定医療機関が前条の規定により請求することができる診療報酬の額を決定することができる。
2 指定医療機関は、厚生労働大臣が行う前項の規定による診療報酬の額の決定に従わなければならない。
3 厚生労働大臣は、第一項の規定による診療報酬の額の決定に当たっては、社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)第十四条第一項に規定する審査委員会、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)第八十七条に規定する国民健康保険診療報酬審査委員会その他政令で定める医療に関する審査機関の意見を聴かなければならない。
4 国は、指定医療機関に対する診療報酬の支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険団体連合会その他厚生労働省令で定める者に委託することができる。
5 第一項の規定による診療報酬の額の決定については、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)による不服申立てをすることができない。
(報告の請求及び検査)
第八十五条 厚生労働大臣は、前条第一項の規定による審査のため必要があるときは、指定医療機関の管理者に対して必要な報告を求め、又は当該職員に、指定医療機関についてその管理者の同意を得て、実地に診療録その他の帳簿書類を検査させることができる。
2 指定医療機関の管理者が、正当な理由がなく前項の規定による報告の求めに応ぜず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の同意を拒んだときは、厚生労働大臣は、当該指定医療機関に対する診療報酬の支払を一時差し止めることができる。
第二節 精神保健指定医の必置等
(精神保健指定医の必置)
第八十六条 指定医療機関(病院又は診療所に限る。次条において同じ。)の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、その指定医療機関に常時勤務する精神保健指定医を置かなければならない。
(精神保健指定医の職務)
第八十七条 指定医療機関に勤務する精神保健指定医は、第四十九条第一項又は第二項の規定により入院を継続して医療を行う必要があるかどうかの判定、第九十二条第三項に規定する行動の制限を行う必要があるかどうかの判定、第百条第一項第一号の規定により外出させて経過を見ることが適当かどうかの判定、同条第二項第一号の規定により外泊させて経過を見ることが適当かどうかの判定、第百十条第一項第一号の規定により継続的な医療を行う必要があるかどうかの判定、同項第二号の規定により入院をさせて医療を行う必要があるかどうかの判定及び同条第二項の規定により入院によらない医療を行う期間を延長して継続的な医療を行う必要があるかどうかの判定の職務を行う。
2 精神保健指定医は、前項に規定する職務のほか、公務員として、第九十六条第四項の規定による診察並びに第九十七条第一項の規定による立入検査、質問及び診察を行う。
(診療録の記載義務)
第八十八条 精神保健指定医は、前条第一項に規定する職務を行ったときは、遅滞なく、当該精神保健指定医の氏名その他厚生労働省令で定める事項を診療録に記載しなければならない。
第三節 指定医療機関の管理者の講ずる措置
(指定医療機関への入院等)
第八十九条 指定入院医療機関の管理者は、病床(病院の一部について第十六条第一項の指定を受けている指定入院医療機関にあっては、その指定に係る病床)に既に第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定を受けた者が入院しているため余裕がない場合のほかは、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定を受けた者を入院させなければならない。
2 指定通院医療機関の管理者は、正当な事由がなければ、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者に対する入院によらない医療の提供を拒んではならない。
(資料提供の求め)
第九十条 指定医療機関の管理者は、適切な医療を行うため必要があると認めるときは、その必要な限度において、裁判所に対し、第三十七条第一項に規定する鑑定の経過及び結果を記載した書面その他の必要な資料の提供を求めることができる。
2 指定医療機関の管理者は、適切な医療を行うため必要があると認めるときは、その必要な限度において、他の医療施設に対し、対象者の診療又は調剤に関する情報その他の必要な資料の提供を求めることができる。
(相談、援助等)
第九十一条 指定医療機関の管理者は、第四十二条第一項第一号若しくは第二号、第五十一条第一項第二号又は第六十一条第一項第一号の決定により当該指定医療機関において医療を受ける者の社会復帰の促進を図るため、その者の相談に応じ、その者に必要な援助を行い、並びにその保護者及び精神障害者の医療、保健又は福祉に関する機関との連絡調整を行うように努めなければならない。この場合において、指定医療機関の管理者は、保護観察所の長と連携を図らなければならない。
第四節 入院者に関する措置
(行動制限等)
第九十二条 指定入院医療機関の管理者は、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により入院している者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
2 前項の規定にかかわらず、指定入院医療機関の管理者は、信書の発受の制限、弁護士及び行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であって、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。
3 第一項の規定による行動の制限のうち、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動の制限は、当該指定入院医療機関に勤務する精神保健指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。
第九十三条 前条に定めるもののほか、厚生労働大臣は、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により指定入院医療機関に入院している者の処遇について必要な基準を定めることができる。
2 前項の基準が定められたときは、指定入院医療機関の管理者は、その基準を遵守しなければならない。
3 厚生労働大臣は、第一項の基準を定めようとするときは、あらかじめ、社会保障審議会の意見を聴かなければならない。
(精神保健指定医の指定入院医療機関の管理者への報告)
第九十四条 精神保健指定医は、その勤務する指定入院医療機関に第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により入院している者の処遇が第九十二条の規定に違反していると思料するとき、前条第一項の基準に適合していないと認めるときその他当該入院している者の処遇が著しく適当でないと認めるときは、当該指定入院医療機関の管理者にその旨を報告することにより、当該管理者において当該入院している者の処遇の改善のために必要な措置が採られるよう努めなければならない。
(処遇改善の請求)
第九十五条 第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により指定入院医療機関に入院している者又はその保護者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に対し、指定入院医療機関の管理者に対して当該入院している者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命ずることを求めることができる。
(処遇改善の請求による審査)
第九十六条 厚生労働大臣は、前条の規定による請求を受けたときは、当該請求の内容を社会保障審議会に通知し、当該請求に係る入院中の者について、その処遇が適当であるかどうかに関し審査を求めなければならない。
2 社会保障審議会は、前項の規定により審査を求められたときは、当該審査に係る入院中の者について、その処遇が適当であるかどうかに関し審査を行い、その結果を厚生労働大臣に通知しなければならない。
3 社会保障審議会は、前項の審査をするに当たっては、当該審査に係る前条の規定による請求をした者及び当該審査に係る入院中の者が入院している指定入院医療機関の管理者の意見を聴かなければならない。ただし、社会保障審議会がこれらの者の意見を聴く必要がないと特に認めたときは、この限りでない。
4 社会保障審議会は、前項に定めるもののほか、第二項の審査をするに当たって必要があると認めるときは、当該審査に係る入院中の者の同意を得て、社会保障審議会が指名する精神保健指定医に診察させ、又はその者が入院している指定入院医療機関の管理者その他関係者に対して報告を求め、診療録その他の帳簿書類の提出を命じ、若しくは出頭を命じて審問することができる。
5 厚生労働大臣は、第二項の規定により通知された社会保障審議会の審査の結果に基づき、必要があると認めるときは、当該指定入院医療機関の管理者に対し、その者の処遇の改善のための措置を採ることを命じなければならない。
6 厚生労働大臣は、前条の規定による請求をした者に対し、当該請求に係る社会保障審議会の審査の結果及びこれに基づき採った措置を通知しなければならない。
(報告徴収等)
第九十七条 厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、指定入院医療機関の管理者に対し、第四十二条第一項第一号若しくは第六十一条第一項第一号の決定により当該指定入院医療機関に入院している者の症状若しくは処遇に関し、報告を求め、若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、当該職員若しくはその指定する精神保健指定医に、指定入院医療機関に立ち入り、これらの事項に関し、診療録その他の帳簿書類を検査させ、若しくは第四十二条第一項第一号若しくは第六十一条第一項第一号の決定により当該指定入院医療機関に入院している者その他の関係者に質問させ、又はその指定する精神保健指定医に、指定入院医療機関に立ち入り、第四十二条第一項第一号若しくは第六十一条第一項第一号の決定により当該指定入院医療機関に入院している者を診察させることができる。
2 前項の規定により立入検査、質問又は診察を行う精神保健指定医及び当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項に規定する立入検査又は質問の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(改善命令)
第九十八条 厚生労働大臣は、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により指定入院医療機関に入院している者の処遇が第九十二条の規定に違反していると認めるとき、第九十三条第一項の基準に適合していないと認めるときその他第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により指定入院医療機関に入院している者の処遇が著しく適当でないと認めるときは、当該指定入院医療機関の管理者に対し、措置を講ずべき事項及び期限を示して、処遇を確保するための改善計画の提出を求め、若しくは提出された改善計画の変更を命じ、又はその処遇の改善のために必要な措置を採ることを命ずることができる。
(無断退去者に対する措置)
第九十九条 第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により指定入院医療機関に入院している者が無断で退去した場合(第百条第一項又は第二項の規定により外出又は外泊している者が同条第一項に規定する医学的管理の下から無断で離れた場合を含む。)には、当該指定入院医療機関の職員は、これを連れ戻すことができる。
2 前項の場合において、当該指定入院医療機関の職員による連戻しが困難であるときは、当該指定入院医療機関の管理者は、警察官に対し、連戻しについて必要な援助を求めることができる。
3 第一項の場合において、当該無断で退去し、又は離れた者の行方が不明になったときは、当該指定入院医療機関の管理者は、所轄の警察署長に対し、次の事項を通知してその所在の調査を求めなければならない。
一 退去者の住所、氏名、性別及び生年月日
二 退去の年月日及び時刻
三 症状の概要
四 退去者を発見するために参考となるべき人相、服装その他の事項
五 入院年月日
六 退去者が行った対象行為の内容
七 保護者又はこれに準ずる者の住所及び氏名
4 警察官は、前項の所在の調査を求められた者を発見したときは、直ちに、その旨を当該指定入院医療機関の管理者に通知しなければならない。この場合において、警察官は、当該指定入院医療機関の管理者がその者を引き取るまでの間、二十四時間を限り、その者を、警察署、病院、救護施設その他の精神障害者を保護するのに適当な場所に、保護することができる。
5 指定入院医療機関の職員は、第一項に規定する者が無断で退去した時(第百条第一項又は第二項の規定により外出又は外泊している者が同条第一項に規定する医学的管理の下から無断で離れた場合においては、当該無断で離れた時)から四十八時間を経過した後は、裁判官のあらかじめ発する連戻状によらなければ、第一項に規定する連戻しに着手することができない。
6 前項の連戻状は、指定入院医療機関の管理者の請求により、当該指定入院医療機関の所在地を管轄する地方裁判所の裁判官が発する。
7 第二十八条第四項から第六項まで及び第三十四条第六項の規定は、第五項の連戻状について準用する。この場合において、第二十八条第四項中「指定された裁判所その他の場所」とあるのは、「指定入院医療機関」と読み替えるものとする。
8 前三項に規定するもののほか、連戻状について必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
(外出等)
第百条 指定入院医療機関の管理者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により当該指定入院医療機関に入院している者を、当該指定入院医療機関に勤務する医師又は看護師による付添いその他の方法による医学的管理の下に、当該指定入院医療機関の敷地外に外出させることができる。
一 指定入院医療機関の管理者が、当該指定入院医療機関に勤務する精神保健指定医による診察の結果、その者の症状に照らし当該指定入院医療機関の敷地外に外出させて経過を見ることが適当であると認める場合
二 その者が精神障害の医療以外の医療を受けるために他の医療施設に通院する必要がある場合
三 前二号に掲げる場合のほか、政令で定める場合において、指定入院医療機関の管理者が必要と認めるとき。
2 指定入院医療機関の管理者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により当該指定入院医療機関に入院している者を、前項に規定する医学的管理の下に、一週間を超えない期間を限り、当該指定入院医療機関の敷地外に外泊させることができる。
一 指定入院医療機関の管理者が、当該指定入院医療機関に勤務する精神保健指定医による診察の結果、その者の症状に照らし当該指定入院医療機関の敷地外に外泊させて経過を見ることが適当であると認める場合
二 前号に掲げる場合のほか、政令で定める場合において、指定入院医療機関の管理者が必要と認めるとき。
3 指定入院医療機関の管理者は、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定により当該指定入院医療機関に入院している者が精神障害の医療以外の医療を受けるために他の医療施設に入院する必要がある場合には、その者を他の医療施設に入院させることができる。この場合において、厚生労働大臣は、第八十一条第一項の規定にかかわらず、当該入院に係る医療が開始された日の翌日から当該入院に係る医療が終了した日の前日までの間に限り、その者に対する同項に規定する医療を行わないことができる。
4 前項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
(生活環境の調整)
第百一条 保護観察所の長は、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定があったときは、当該決定を受けた者の社会復帰の促進を図るため、当該決定を受けた者及びその家族等の相談に応じ、当該決定を受けた者が、指定入院医療機関の管理者による第九十一条の規定に基づく援助並びに都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)による精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第四十七条、第四十九条その他の精神障害者の保健又は福祉に関する法令の規定に基づく援助を受けることができるようあっせんする等の方法により、退院後の生活環境の調整を行わなければならない。
2 保護観察所の長は、前項の援助が円滑かつ効果的に行われるよう、当該指定入院医療機関の管理者並びに当該決定を受けた者の居住地を管轄する都道府県知事及び市町村長に対し、必要な協力を求めることができる。
第五節 雑則
(国の負担)
第百二条 国は、指定入院医療機関の設置者に対し、政令で定めるところにより、指定入院医療機関の設置及び運営に要する費用を負担する。
(権限の委任)
第百三条 この法律に規定する厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、地方厚生局長に委任することができる。
2 前項の規定により地方厚生局長に委任された権限は、厚生労働省令で定めるところにより、地方厚生支局長に委任することができる。
第四章 地域社会における処遇
第一節 処遇の実施計画
(処遇の実施計画)
第百四条 保護観察所の長は、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定があったときは、当該決定を受けた者に対して入院によらない医療を行う指定通院医療機関の管理者並びに当該決定を受けた者の居住地を管轄する都道府県知事及び市町村長と協議の上、その処遇に関する実施計画を定めなければならない。
2 前項の実施計画には、政令で定めるところにより、指定通院医療機関の管理者による医療、精神保健観察官が実施する精神保健観察並びに指定通院医療機関の管理者による第九十一条の規定に基づく援助、都道府県及び市町村による精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律第四十七条、第四十九条その他の精神障害者の保健又は福祉に関する法令の規定に基づく援助その他当該決定を受けた者に対してなされる援助について、その内容及び方法を記載するものとする。
3 保護観察所の長は、当該決定を受けた者の処遇の状況等に応じ、当該決定を受けた者に対して入院によらない医療を行う指定通院医療機関の管理者並びに当該決定を受けた者の居住地を管轄する都道府県知事及び市町村長と協議の上、第一項の実施計画について必要な見直しを行わなければならない。
(処遇の実施)
第百五条 前条第一項に掲げる決定があった場合における医療、精神保健観察及び援助は、同項に規定する実施計画に基づいて行われなければならない。
第二節 精神保健観察
(精神保健観察)
第百六条 第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者は、当該決定による入院によらない医療を行う期間中、精神保健観察に付する。
2 精神保健観察は、次に掲げる方法によって実施する。
一 精神保健観察に付されている者と適当な接触を保ち、指定通院医療機関の管理者並びに都道府県知事及び市町村長から報告を求めるなどして、当該決定を受けた者が必要な医療を受けているか否か及びその生活の状況を見守ること。
二 継続的な医療を受けさせるために必要な指導その他の措置を講ずること。
(守るべき事項)
第百七条 精神保健観察に付された者は、速やかに、その居住地を管轄する保護観察所の長に当該居住地を届け出るほか、次に掲げる事項を守らなければならない。
一 一定の住居に居住すること。
二 住居を移転し、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長に届け出ること。
三 保護観察所の長から出頭又は面接を求められたときは、これに応ずること。
第三節 連携等
(関係機関相互間の連携の確保)
第百八条 保護観察所の長は、医療、精神保健観察、第九十一条の規定に基づく援助及び精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律第四十七条、第四十九条その他の精神障害者の保健又は福祉に関する法令の規定に基づく援助が、第百四条の規定により定められた実施計画に基づいて適正かつ円滑に実施されるよう、あらかじめ指定通院医療機関の管理者並びに都道府県知事及び市町村長との間において必要な情報交換を行うなどして協力体制を整備するとともに、処遇の実施状況を常に把握し、当該実施計画に関する関係機関相互間の緊密な連携の確保に努めなければならない。
2 保護観察所の長は、実施計画に基づく適正かつ円滑な処遇を確保するため必要があると認めるときは、指定通院医療機関の管理者並びに都道府県知事及び市町村長に対し、必要な協力を求めることができる。
(民間団体等との連携協力)
第百九条 保護観察所の長は、個人又は民間の団体が第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者の処遇の円滑な実施のため自発的に行う活動を促進するとともに、これらの個人又は民間の団体との連携協力の下、当該決定を受けた者の円滑な社会復帰に対する地域住民等の理解と協力を得るよう努めなければならない。
第四節 報告等
(保護観察所の長に対する通知等)
第百十条 指定通院医療機関の管理者は、当該指定通院医療機関に勤務する精神保健指定医による診察の結果、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者について、第三十七条第二項に規定する事項を考慮し、次の各号のいずれかに該当すると認める場合は、直ちに、保護観察所の長に対し、その旨を通知しなければならない。
一 継続的な医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認めることができなくなったとき。
二 入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認めるに至ったとき。
2 指定通院医療機関の管理者は、当該指定通院医療機関に勤務する精神保健指定医による診察の結果、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者について、第三十七条第二項に規定する事項を考慮し、当該決定による入院によらない医療を行う期間を延長して継続的な医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合は、保護観察所の長に対し、その旨を通知しなければならない。
第百十一条 指定通院医療機関の管理者並びに都道府県知事及び市町村長は、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者について、第四十三条第二項(第五十一条第三項において準用する場合を含む。)の規定に違反する事実又は第百七条各号に掲げる事項を守らない事実があると認めるときは、速やかに、保護観察所の長に通報しなければならない。
第五節 雑則
(保護観察所の長による緊急の保護)
第百十二条 保護観察所の長は、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者が、親族又は公共の衛生福祉その他の施設から必要な保護を受けることができないため、現に、その生活の維持に著しい支障を生じている場合には、当該決定を受けた者に対し、金品を給与し、又は貸与する等の緊急の保護を行うことができる。
2 保護観察所の長は、前項の規定により支払った費用を、期限を指定して、当該決定を受けた者又はその扶養義務者から徴収しなければならない。ただし、当該決定を受けた者及びその扶養義務者が、その費用を負担することができないと認めるときは、この限りでない。
(人材の確保等)
第百十三条 国は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し専門的知識に基づくより適切な処遇を行うことができるようにするため、保護観察所等関係機関の職員に専門的知識を有する人材を確保し、その資質を向上させるように努めなければならない。
第五章 雑則
(刑事事件に関する手続等との関係)
第百十四条 この法律の規定は、対象者について、刑事事件若しくは少年の保護事件の処理に関する法令の規定による手続を行い、又は刑若しくは保護処分の執行のため刑務所、少年刑務所、拘置所若しくは少年院に収容することを妨げない。
2 第四十三条第一項(第六十一条第四項において準用する場合を含む。)及び第二項(第五十一条第三項において準用する場合を含む。)並びに第八十一条第一項の規定は、同項に規定する者が、刑事事件又は少年の保護事件に関する法令の規定によりその身体を拘束されている間は、適用しない。
(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律との関係)
第百十五条 この法律の規定は、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定により入院によらない医療を受けている者について、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により入院が行われることを妨げない。
第百十六条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。
第六章 罰則
第百十七条 次の各号のいずれかに掲げる者が、この法律の規定に基づく職務の執行に関して知り得た人の秘密を正当な理由がなく漏らしたときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 精神保健審判員若しくは精神保健参与員又はこれらの職にあった者
二 指定医療機関の管理者若しくは社会保障審議会の委員又はこれらの職にあった者
三 第三十七条第一項、第五十二条、第五十七条又は第六十二条第一項の規定により鑑定を命ぜられた医師
2 精神保健指定医又は精神保健指定医であった者が、第八十七条に規定する職務の執行に関して知り得た人の秘密を正当な理由がなく漏らしたときも、前項と同様とする。
3 指定医療機関の職員又はその職にあった者が、この法律の規定に基づく指定医療機関の管理者の職務の執行を補助するに際して知り得た人の秘密を正当な理由がなく漏らしたときも、第一項と同様とする。
第百十八条 精神保健審判員若しくは精神保健参与員又はこれらの職にあった者が、正当な理由がなく評議の経過又は裁判官、精神保健審判員若しくは精神保健参与員の意見を漏らしたときは、三十万円以下の罰金に処する。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第九十六条第四項の規定による報告若しくは提出をせず、若しくは虚偽の報告をし、同項の規定による診察を妨げ、又は同項の規定による出頭をせず、若しくは同項の規定による審問に対して、正当な理由がなく答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者
二 第九十七条第一項の規定による報告若しくは提出若しくは提示をせず、若しくは虚偽の報告をし、同項の規定による検査若しくは診察を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して、正当な理由がなく答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者
第百二十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても同条の刑を科する。
第百二十一条 第八十八条の規定に違反した者は、十万円以下の過料に処する。
附則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第六条、第七条及び第十五条の規定は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過規定)
第二条 この法律は、この法律の施行前に対象行為を行った者であって、この法律の施行後になされた公訴を提起しない処分において当該対象行為を行ったこと及び心神喪失者若しくは心神耗弱者であることが認められた者又はこの法律の施行後に刑法第三十九条第一項の規定による無罪の裁判若しくは同条第二項の規定による刑を減軽をする旨の裁判が確定した者についても、適用する。
(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正)
第三条 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を次のように改正する。
第二十五条を次のように改める。
(検察官の通報)
第二十五条 検察官は、精神障害者又はその疑いのある被疑者又は被告人について、不起訴処分をしたとき、又は裁判(懲役、禁 錮又は拘留の刑を言い渡し執行猶予の言渡しをしない裁判を除く。)が確定したときは、速やかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。ただし、当該不起訴処分をされ、又は裁判を受けた者について、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十四年法律第▼▼▼号)第三十三条第一項の申立てをしたときは、この限りでない。
2 検察官は、前項本文に規定する場合のほか、精神障害者若しくはその疑いのある被疑者若しくは被告人又は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の対象者(同法第二条第三項に規定する対象者をいう。第二十六条の三及び第四十四条第一項において同じ。)について、特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。
第二十六条の二の次に次の一条を加える。
(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行つた者に係る通報)
第二十六条の三 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第二条第六項に規定する指定通院医療機関の管理者及び保護観察所の長は、同法の対象者であつて同条第五項に規定する指定入院医療機関に入院していないものがその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。
第三十二条第六項中「できる者」の下に「及び心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の規定によつて医療を受ける者」を加える。
第四十四条を次のように改める。
(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行つた者に係る手続等との関係)
第四十四条 この章の規定は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の対象者について、同法又は同法に基づく命令の規定による手続又は処分をすることを妨げるものではない。
2 この章第二節から前節までの規定は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第三十四条第一項前段若しくは第六十条第一項前段の命令若しくは第三十七条第五項前段若しくは第六十二条第二項前段の決定により入院している者又は同法第四十二条第一項第一号若しくは第六十一条第一項第一号の決定により指定入院医療機関に入院している者については、適用しない。
(社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
第四条 社会保険診療報酬支払基金法の一部を次のように改正する。
第十三条第二項中「又は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第四十条第五項」を「、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第四十条第五項又は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十四年法律第▼▼▼号)第八十四条第三項」に、「又は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第四十条第六項」を「、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第四十条第六項又は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第八十四条第四項」に改める。
(法務省設置法の一部改正)
第五条 法務省設置法(平成十一年法律第九十三号)の一部を次のように改正する。
第四条第十八号の次に次の一号を加える。
十八の二 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十四年法律第▼▼▼号)の規定による精神保健観察その他の同法の対象者に対する地域社会における処遇並びに生活環境の調査及び調整に関すること(厚生労働省の所掌に属するものを除く。)。
第二十四条第一項中「犯罪者予防更生法第十八条各号」の下に「及び心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第十九条各号」を加える。
(厚生労働省設置法の一部改正)
第六条 厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)の一部を次のように改正する。
第七条第一項第四号中「(昭和二十五年法律第百二十三号)」の下に「、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十四年法律第▼▼▼号)」を加える。