心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その6)

前回(id:kokekokko:20051228)のつづき。
ひきつづき、6月7日の法務委員会での国会審議をみてみます。

第154回衆議院 法務委員会会議録第17号(同)
【前回のつづき】
○福島委員 そうした救急体制の整備がさまざまな不幸な事故の発生というものを予防することにも資するものと私は思っております。
 次に、本法案に規定されております指定医療機関のことについてお尋ねをしたいと思っております。
 処遇の困難な患者に対しましては、密度の高い医療というものが提供されなければいけない、これは当然のことでございます。
 昨年、さまざまな議論をする中で、私は、群馬県立精神医療センターを訪れさせていただきました。
 この病院では、自傷他害のおそれが強い患者さんのための閉鎖病棟を有しておりまして、五十一床の病床に対して、医師三名、そして看護婦二十三名が配置をされておりました。それでもなかなか大変なんですよというお話を担当のドクターからお聞きいたしましたけれども、指定医療機関、どういうものをつくるのかということが大変大切だろうというふうに思っております。
 法案の中では、国、都道府県が開設する病院であって厚生労働省令で定める基準に適合するものの全部または一部について、その開設者の同意を得て、厚生労働大臣が行うというふうになっておりますけれども、この厚生労働省令というものがどういうふうに定められていくんだろうか。
 具体的なことはこの場でなかなか答えにくいと思いますけれども、これを定めるに当たってどういう考え方で行うのかという基本的なことについてお尋ねをしたいと思います。
○高原政府参考人 指定入院医療機関におきましては、医師、看護師等の手厚い配置ということがまず前提になろうかと思います。
 この基準につきましては、現在のところ、確実にこうだという成案を得ているわけではございませんが、我が国におきますさまざまな病棟における意見を聞いたり、それから、国際的な動向とかそういったものを勘案して、医師及び臨床心理技術者等によります、例えば司法精神医学的治療の一つの大きなポイントでございます怒りのマネジメントや、被害者に共感する心を養うなどの精神療法を十分行ってまいり、そういうふうなマンパワーを準備するということでございます。
 また、往々にいたしまして、病状とか長期に入院したことがあるというふうなことによりまして、作業ないしは就労がなかなか難しくなっている、ないしは、家庭生活というか、自立した生活がなかなか難しい、こういうことにつきましては、作業療法などを通じまして、社会復帰に向けた訓練を綿密に行う。
 それから、患者の行動観察、そういう行動パターンを入念に行いまして、再びそういった行為が起きるのではないかというふうなものにつきまして、きちんとした評価を行ってまいる。
 一般的に申し上げまして、手厚い専門的な医療を行うということを、人員基準もしくは診療内容としては想定しております。
 また、もう一つ重要なことは、施設整備でございますが、入院患者に対しまして十分なスペースを確保いたしませんと、こういうふうな患者さんはかなりデリケートでございます。十分なスペースを確保することによりまして、患者本人及び医療従事者及び一緒に入院している患者さん、それから近隣の安全、そういったものについて配慮できるというふうなことを考えてまいりたいと考えております。
 指定通院医療機関につきましては、これはできるだけアクセスのいいところということで、精神保健指定医を必置とし、必要かつ適切な医療を行うことができるところを指定してまいりたいと考えております。
○福島委員 私が訪れました群馬県立精神医療センターの院長の武井先生は、こんなことを言っております。
 政府案では、十分なスタッフと公費で運営される専門病院が重大な事件を起こした患者の治療を行うことになる、この構想が実現すれば、そこで治療を受け快方に向かった患者を受け入れ、社会復帰のための診療や生活支援に私たちは力を注ぐことができると期待していると。また、京都学園大学の川本教授は、牽引車としての役割を果たす十分な設備と人材を備えた専門病院の開設を先行させることが現実的ではないかというような評価もいただいているわけでございます。
 すばらしい施設をきちっと整備するということが、ある意味でこの法案に対しての国民の理解というものを深める大変大切なかぎになるのではないかというふうに私も思います。ぜひともよろしくお願いをいたします。
 次に、若干質問時間が迫ってまいりましたので、幾つか質問を省略させていただきます。
 先ほどの、精神医療のあり方ということで、診療報酬のあり方というものも大変大きな影響を与えているんだということを申し上げました。医療資源の配分の見直しというものが必要ではないか。従来より、精神医療について診療報酬の評価は低いというふうに一般的に言われてきたわけでございます。十四年の改正でいろいろと見直しが行われたとも伺っておりますけれども、その概要と、そしてまた今後どのように考えていくのかということについて、御見解をお聞きしたいと思います。
○中村政府参考人 診療報酬についてお答え申し上げます。
 この四月に診療報酬の改定をさせていただきました。経済状況が非常に厳しい中、また医療保険財政が厳しい中で、診療報酬改定も史上初めていわゆる技術料につきましてもマイナス一・三%の引き下げが行われたところでございますが、小児医療あるいは精神医療など非常に資源の配分が必要なところについては、そういう状況の中でも配慮をさせていただいたという状況でございます。
 今回、精神医療関係では、主なもの四点の改善を行いました。
 第一点は、精神科救急入院料というものを新設いたしました。従来から救急入院料はあったわけでございますけれども、特に精神医療については急性期の医療が大事だ、一層の充実を図る、こういうことが必要でございますので、重症の精神救急患者さんを多く受け入れる基幹的な医療機関の評価を充実するということで、精神保健指定医、看護婦さん、精神保健福祉士等の配置が十分であること、それから、従来から措置入院等の実績、要件を満たす病棟について、精神科救急入院料というものを新設して多くの点数を配分することといたしております。
 二つ目は、児童・思春期の精神医療も大事でございまして、成人の精神医療に比べてより手厚い医療体制が必要であるということで、これも、看護配置、精神保健指定医の配置、精神保健福祉士の配置のほかに臨床心理技術者の配置なども求め、また、院内に学習室などを設置するという病棟についての要件を満たすところにつきまして、児童・思春期精神科入院医療管理加算というものを新設いたしました。
 また、外来につきましても重視いたしておりまして、特に精神医療の外来につきましては、初診時と再診時とではその診療密度が相当異なると言われております。そこで、精神保健指定医が行われました初診の精神療法につきましては、ほかの点数が厳しい中で、引き下げを行っている中で、引き上げをさせていただいたところでございます。
 また、児童・思春期の精神療法患者に対する通院精神療法につきましても、加算を設けるなど配慮いたしております。
 今後も、精神医療の重要性を考えまして、専門家の御意見を伺いながら、精神医療に対します診療報酬上の適切な評価というものに努めてまいりたいと考えております。
○福島委員 どうもありがとうございます。
 次に、先ほども司法精神医学についてのお尋ねがございましたけれども、この新しいシステムというものが十分機能していくためには、専門家の養成ということが大変大切な課題でございます。本法案の第十五条にはまた精神保健参与員というような規定が設けられておりまして、医師のみでなく、精神保健福祉士などの専門職についても司法精神医学の素養を有する人材の養成が必要であろうというふうに思っております。
 こうした多岐にわたる人材の養成について、厚生労働省としてどのように取り組まれるお考えなのか、お聞きをいたしたいと思います。
○高原政府参考人 精神科に従事する医師の数ないしは医療施設に従事する医師に占める割合については、先ほどお答えいたしましたように着実に増加して、平成十二年末には五・一%となっております。
 卒業後教育につきましては、すべての医師が患者を全人的に診ることのできる基本的診療能力を習得することを主眼といたしまして、医師臨床研修を平成十六年度から必修化することとしております。研修プログラムの具体的な内容等について、現在、精神科領域の問題も含め、検討を行っているところでございます。
 精神保健福祉士につきましては、平成九年の資格制度創設以来、資格取得者は順調にこれも増加いたしておりまして、平成十四年四月末現在で一万一千八百二十五名が登録されております。これらの方々は、精神病院、社会福祉施設自治体等において勤務されておると承知しております。
 委員御指摘のとおり、精神科医療にかかわる関係職種の確保と資質の向上は極めて重要な課題でございますので、積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
○福島委員 このシステムを十分機能させるためにも、万全の取り組みをお願いいたしたいというふうに思います。この点については、文部科学省に対しましても同じく御要請をしたいと思います。
 医師の教育は、卒後教育、そしてまた卒前教育という二つに分かれるわけでございまして、卒前教育も極めて大切であると思っております。司法精神医学ということに必ずしも関係するわけではございませんけれども、現在の大学における精神医学の教育のあり方、こういったものが随分かつてと変わってきているのではないか。よく試験管を振る、余り最近は人間がするわけでもありませんが、そういう研究ばかりしている人が大学の教授になっていくのではないか。むしろ、例えば精神療法のようなものを専門にする方はなかなか大学の教授にはなりにくい、そういう状況にもあるのではないか、こんな指摘もございます。
 こうした点も含め、卒前教育のあり方についてどのようにお考えなのか、文部科学省にお聞きをしたいと思います。
○清水政府参考人 お答え申し上げます。
 先生御指摘のように、学部卒前卒後を通じまして、精神医学のまさに養成をどう図っていくかというのは重要な課題であるというふうに考えております。
 御案内のように、現在、国公私大学の医学部あるいは附属病院におきましてはすべて精神神経科の講座、診療科が置かれておるわけでございますけれども、精神神経科のみならず、卒前の教育をどのように充実していくかというのは、私どもが今最も重点として取り組んでいる課題でございます。
 具体的に申し上げますと、医学教育のモデル・コア・カリキュラムというようなものを提示しまして、分野の縦割りを排して統合型で、そしてその到達の目標というものを明確にして、それぞれの課題探求、問題解決能力をどう育成していくか、このような観点でございまして、例えばその中におきます精神医学に関連しますと、精神と行動の障害に対して、全人的な立場から、病態生理、診断、治療を理解し、良好な患者と医師の信頼関係に基づいた全人的医療を学ぶというようなものを一般的な目標といたしまして、各診断、検査の基本、症候、あるいは疾患、障害等に関して具体の到達目標を掲げ、そして、それとあわせて教員の教育業績評価というようなものを、ガイドラインを設けまして、この十四年度から本格的な実施に移っている、こんな状況でございます。
 また、国立の医学部長に対し、御指摘の社会精神医学、あるいは児童精神医学及びPTSD等、社会的課題に対応する教育研究の一層の充実を図るよう要請を昨年いたしました。そして、それに応じました教育研究組織の整備、あるいは社会的精神医学実習を学外で行うということに対する経費の措置というようなものを行ってきているというふうな状況でございます。
 また、医師以外の精神科領域のスタッフである精神保健福祉士の養成については、十三年度現在、五十一国公私立大学、入学定員七千二百四十七人というところで精神保健福祉士の資格取得のための教育が実施されているというふうな状況でございます。
 私どもとしては、今後とも各大学のこのような取り組みを支援してまいりたいというふうに考えております。
○福島委員 今後ともよろしくお願いをいたします。
 次に、もう時間もございませんので、最後に一問だけお聞きをいたしたいと思います。法務省にお尋ねをしたいと思います。
 新たなシステムにおきまして、指定医療機関で密度の高い治療をするということになるわけでございますが、その退院後の地域における継続的な治療の保障というものが同時に大変大切であるというふうに思っております。本法案では、第百六条で精神保健観察というものが規定されておりまして、百十三条では人材の確保、百八条では関係機関相互の連携の確保というものがうたわれております。
 退院した患者さんにとって、適切な生活環境と人間関係が保たれるということは大変大切なことでございます。そしてまた、そのためには関係者の方々の多大な努力が必要だろうというふうに私は思っております。専門的な知識も必要でございましょう。こうした取り組みを着実に進めなければいけませんし、そしてまた、その取り組みがどこまで進んでいるのかということについて適切にフォローアップをしなければならないだろうというふうに思っております。
 法務省としてどのようにこれに取り組んでいかれるのか、お考えをお聞きしたいと思います。
○横田政府参考人 お答えいたします。
 この社会内における処遇につきましては、ただいま委員御指摘のとおり、この法案におきましては、百六条その他の条文におきまして万全を期しているところでございます。百六条にもございますように、この新たな処遇制度につきましては、通院患者は、厚生労働大臣が指定するいわゆる指定通院医療機関において入院によらない医療を受けるとともに、その期間中、精神保健観察に付する、このようにされております。
 この精神保健観察でございますが、これは、医療機関はもとより、地域社会で精神障害者に対する援助業務を担っております保健所等の関係機関とも連携しつつ、当該通院患者の生活状況を見守り、またその相談に乗り、そしてまた、そういったことを通じまして通院や服薬を間違いなく行うように指導していく、働きかけていくといったようなことを継続的に行います。これによって地域社会内における継続的な医療の確保をするということでございます。
 それからもう一つ、保護観察所の長は、指定通院医療機関の管理者、それから当該患者の居住地の都道府県知事などと協議しまして、処遇に関する実施計画というものを策定いたします。そして、その実施計画に基づきまして、関係機関相互が緊密な連絡をとり合いながら継続的な医療を確保するということでございまして、この保護観察所におきましては、そういった関係機関との連携の確保、ネットワークづくりといったものをこれから推進していくということになります。
 そして、そういうようなものを続けまして、継続的な医療を確保することに努力いたしまして、その上でまた必要があると認める場合には、裁判所に対しまして、入院によらない医療を行う期間を延長する、さらには再入院の申し立てをするといったようなことで、医療の継続の確保を徹底させてまいるということでございます。
 このように、政府案におきましては、通院患者が社会内におきまして必要な医療を継続して受けられるということをするための新たな方策を盛り込んでおりまして、これによりまして通院患者の社会復帰の促進を図っていくということでございます。
○福島委員 以上で終わります。どうもありがとうございました。

【漆原委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会会議録第17号(同)
○園田委員長 漆原良夫君。
○漆原委員 公明党の漆原でございます。
 きょうは、政府案のほかに民主党案も出ているわけでございますが、政府案を中心にお聞きしたいと思います。提案者平岡先生には申しわけありません。また別の機会にゆっくりとお尋ねをさせていただきますので、よろしくお願いします。
 本法案は、心神喪失等の状況で重大な他害行為を行った者の処遇について、新たな処遇制度を創設するものであります。特に、今までなかった、裁判所だとかあるいは保護観察所を関与させるという、ある意味では大きな枠組みの変化、処遇制度の変化があるわけでございますが、この裁判所あるいは保護観察所を関与させる意義と効果についてお尋ねしたいと思います。特に、従来の精神保健福祉法による措置入院制度ではどのような不都合があったのか、それが今回の法案によってどのように改善されるのか、どんな効果が期待されるのか、その辺を説明願いたいと思いますが、これは、法務省厚生労働省、両省にお尋ねしたいと思います。
○森山国務大臣 精神保健福祉法によります措置入院というのがございますが、この制度では精神障害者一般を対象としておりまして、本制度の対象者につきましても、この法律による一般の精神医療の対象としてきたところでございます。
 しかし、このような心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、特に国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えられまして、精神保健福祉法における措置入院制度等とは異なりまして、裁判官と医師が共同して入院治療の要否、退院の可否等を判断する仕組みや、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であると考えたところでございます。
 特に、本法律案の新たな制度による処遇は自由に対する制約や干渉を伴うものでございまして、それが適切な医療を継続的に確保する必要から強度になることもあり得ると考えられますので、このような処遇を行うか否かの判断は、対象者の防御権が適切に保障された手段によりまして、十分な資料に基づいて中立公正になされることが必要であると考えられますことから、一般に、行政機関における手続よりも、厳格性、慎重さなどを有する裁判所における手続によりこれを行うということが適当ではないかと考えたわけでございます。
 また、本制度による処遇につきましては、既に申しましたとおり、国の機関が中心となってこれを行うことが適当であると考えられること、地域社会におきまして通院患者の観察及び指導を行い、必要に応じて入院や処遇終了等の申し立てを行う本制度の枠組みは保護観察の枠組みと類似しているということ、さらに、関係機関との連携確保につきましても、保護観察所が保護観察を実施する上で培ってきたノウハウをこの制度にも生かすことができるというふうに考えられますこと、また、保護観察所は各都道府県に少なくとも一カ所は置かれておりまして、その全国的なネットワークによって、生活環境の調整、精神保健観察等の事務を円滑に実施することができるということなどを総合的に考えまして、この制度に保護観察所を関与させることとしたわけでございます。
 これらによりまして、継続的かつ適切な医療の確保が図られまして、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図ることができ、対象者の社会復帰を促進することができると考えたところでございます。
○宮路副大臣 ただいま森山大臣から御答弁があったところでありますが、これまで、心神喪失等の状態で他人に重大な他害行為を行った者につきましても、現在の精神保健福祉法のもとでは、措置入院等の方法によって一般の精神病院で治療が施されている、そういうことでありますが、となりますと、一般の精神病院でありますから、施設もそれからスタッフも特別ということではなくて、一般のレベルのものでありますから、したがって、専門的なスタッフもとりわけ配置されているというわけでもないわけでありますし、また、ほかの一般の入院しておられる方にある面では悪い影響もいろいろ出てきておる、そういう側面も否定できないわけであります。そしてまた、その入退院の決定が、都道府県知事が形の上ではやることになっておるわけでありますが、実質的にはこれはお医者さんにゆだねられておるということでありますので、そのお医者さんの負担といいますものも大変重たいものがあるというのが率直なこれまでの実情であります。また、退院後の医療にいたしましても、しっかりとしたものが確保されている、そういうことではないわけでありますし、また、都道府県知事の入退院の決定ということでありますので、都道府県の枠を超えたといいましょうか、都道府県の範囲を超えた連携というものも必ずしも十分でないといったような幾つかの問題点が指摘をされておるわけであります。
 今回のこの法案によりまして、その処遇を、先ほど来御議論ありますように、裁判官とそれから医師が一体となった合議体、裁判所の合議体ということで決定をさせていただく、また、これは国が責任を持って、厚生労働大臣が責任を持って国公立の指定医療機関にそうした方に入院していただいて、ちゃんとした専門的な医療を施していく、また、退院後の医療につきましても、これはちゃんと手だてを講ずる、こういうことでありますので、その病状の改善を従来に増してしっかりとやることが可能となり、そして、そうした他害行為の再発防止、ひいてはその人の社会復帰に大いにこれは貢献するということになるんではないかな、このように思っておるところであります。
○漆原委員 最近における心神喪失者等による他害行為の動向はどうなっているのか、また、そういう心神喪失者等による重大な他害行為の事案としては最近どういう事案があったのか、御説明いただきたいと思います。
○古田政府参考人 平成八年から平成十二年までの五年間について御説明申し上げますと、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、これらは未遂も含んでいる数でございますが、これに加えて、傷害、傷害致死に当たる行為、こういう行為を行ったと認められる心神喪失者などの数は、大体年間三百数十人から四百人程度で推移しておりまして、その数には大きな変動は認められないという状況でございます。この五年間におきまして検察庁で受理した人員の中で心神喪失者等の割合は全体としては約〇・二%でございますが、殺人については約七・八%、放火については約八・八%、傷害致死においては約三・四%、強盗におきましては約〇・七%、強姦、強制わいせつにつきましては約〇・四%、傷害では約〇・三%となっております。
 ところで、心神喪失あるいは心神耗弱と認められた者あるいはその疑いがある人による重大な他害行為事案でございますが、これは罪種にもよりますけれども、例えば殺人でいえば親族に対するものが大変多いという実情でございます。それ以外で申し上げれば、例えば平成十年の一月のことでございますけれども、大阪府堺市内で、偶然通りかかった幼稚園児を包丁で突き刺すなどして一人を殺害し、二人に重傷を負わせるといったような事件。それから、やはり同じ年の九月、これは奈良県でございますけれども、かねてから自分に嫌がらせをするというふうな邪推をしていて、その邪推から頭をバットで殴り一人を殺害し、一人に重傷を負わせた事件。平成十一年の八月、これも大阪でございますけれども、通りがかりの書店の店内で、その店主を持っていたペティナイフで突き刺した殺人事件、こういうふうな事件が幾つかございます。
○漆原委員 ありがとうございました。
 一般的には、精神障害者が重大な他害行為を繰り返すということは、一般人と比べて特に高いというわけではないというふうに言われておりますが、この点についてどのような認識をされているのか。また、そうであったとしても新たな処遇制度が必要と考えられるのはなぜなのか、理由を説明いただきたいと思います。
○古田政府参考人 殺人、放火等の重大な他害行為を行った者を含めまして、心神喪失者等のいわゆる再犯率につきましては、これは率直に申し上げまして、再犯率というのをどういうふうな基準で計算するか、あるいは、これを考える上では、例えば全くすべての人が治療を受けていない状態に一たんは仮定して、それでやるのか、あるいは、例えば入院している間は非常に再犯は当然少なくなるとか、いろいろな問題がございまして、その辺の成り行き調査というのが十分できないとこれは不可能なわけでございます。
 そういう意味で、正確なデータというのは大変把握しにくい状態でございますが、過去十年以内で、重大な他害行為を行った心神喪失者等のうち前科前歴を有している、こういう割合で見てみますと、平成八年から平成十二年までの五年間の平均で約二七・九%でございます。一方、これらの罪で起訴あるいは不起訴となった、要するにかつてそういうことで事件処理が行われた者、これの総数で罰金以上の前科を有する者がどうなっているかといいますと、四二・九%ということになっております。ただ、これは、先ほど申し上げましたような、計算の基準といいますか、それが必ずしも一致するものではないものでございます。
 ただ、そうは申しましても、被害者が親族以外の事件、放火については、対象が自宅という事件、こういうものを除いた重大な他害行為を行った心神喪失者等につきましては、過去十年以内に前科前歴を持っている者の割合が約三九・五%ということになっております。
 このような心神喪失の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、いずれにせよ、被害者に大変深刻な被害が生ずるということだけではなくて、やはり精神障害を有する人についても、病気のために加害者となってしまう、そういうことで本当に不幸な事態ということであることは間違いないと考えているわけです。
 実際に、当省で調査いたしましたところ、精神障害により心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った人で不起訴あるいは無罪の裁判を受けた人の数は、先ほども申し上げましたとおり、年間約三百数十人から四百人程度に上っている。この人たちに対する治療も、犯行当時必ずしも十分には行われていなかったというケースもしばしばあるように見受けられているわけで、やはりそういうことを考えますと、本当に不幸なことですけれども、こういう事態に至った場合に、そういうことが二度と起こらないようなきっちりした医療の継続が確保されるような処遇システムということは必要ではないかと考えているところです。
○漆原委員 この処遇の判断についてでございますが、現行では都道府県知事による判断でございますが、本法においては地方裁判所の判断に係らしめることにした。これはどのような効果を期待されているのか、御説明願いたいと思います。
○古田政府参考人 いわゆる裁判所の裁判によるということにした理由にはさまざまなものがあるわけで、先ほども若干申し上げましたけれども、被害者あるいはその遺族の方々が、適切な処遇をきちっと決定する慎重な手続は少なくとも必要とお考えになっていると思われるということが一点ございます。
 さらに、本人の権利保障、こういうような点でもやはり裁判システムの中で考えるということが適当な面が多い。御案内のとおり、この法律案におきます処遇は、何と申しましても、医療をきっちり確保するということの必要から、自由に対する制約や干渉というのもいわば密度が高くなる場合もあり得るわけでございまして、そういう点から見ても、やはりその対象となる人のいろいろな権利保障が的確に行われる、そういう手続が必要であるということが重要なポイントになろうかと思っております。
 また、効果という意味で申し上げますと、現在の措置入院制度の都道府県知事が行う場合と比較いたしまして、もしくは今申し上げましたような手続的保障、あるいは被害者、遺族に対する配慮、こういう点も相当異なってまいりますし、さらに申し上げれば、都道府県の運用、これはどうしても地域的な差異が生ずるというのはやむを得ない面があると考えられるわけですが、そういうような面も回避できるということがあると考えております。
○漆原委員 この処遇の判断に裁判所による司法的判断を反映させるということ、これは諸外国の法制はどのようになっているのか、概略で結構ですので、御説明いただきたいと思います。
○古田政府参考人 世界全体について必ずしも把握をしているわけでございませんが、基本的には、フランスを除きまして、多くの先進国といいますか、ヨーロッパ諸国あるいは米国、こういうところでは、重大な他害行為を行ったような精神障害者、犯罪行為といいますか、これにつきましては、裁判所がその処遇を決定するという手続がむしろ一般的であるというふうに承知しております。
○漆原委員 この処遇の判断を裁判所にゆだねるということは、そういうふうな制度を新設するわけなんですが、本制度は社会防衛を目的とした保安処分ではないのかというふうな批判がなされております。保安処分については後で詳しく聞きますが、新たな処遇制度の目的、一体どこに目的を置いているのか、そこをきっちりとお答えいただきたいと思います。
○古田政府参考人 この法案は、第一条の「目的」に掲げておりますとおり、心神喪失または心神耗弱の状態で殺人、放火等の重大な犯罪行為を行った者に対して、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることによりまして、継続的に適切な医療を確保し、あるいはその医療の確保のために必要な観察と指導を行う。そういう方法によりまして、まず病状の改善、当然、病状の改善があればこれに伴って同様の行為の再発の防止、こういうことも十分図られるわけでございます。そういうことを通じまして本人の社会復帰を促進する、これが目的ということでございます。
 この法律案におきまして、先ほども申し上げましたけれども、十分な医療を確保するという要請から、おのずと自由に対する制約や干渉を伴う、これはどうしても出てくるということは事実でございます。そういうことから、先ほども申し上げましたような、さまざまな権利保障という手続も定め、一方で、十分な資料に基づいて判断ができる、またその資料が十分吟味できるような裁判体、合議体という構成を考える、こういうふうな考えによってできているものでございますので、いわゆる社会防衛を直接の目的とするというふうなものではなくて、あくまで適切な医療の確保、それの継続の確保、これを通じまして、その効果としてのもちろんいろいろな問題行動の防止ということはございますが、その目的は社会復帰を図るということにあるものでございます。
○漆原委員 本制度によって、この処遇の内容は、確かに今おっしゃったように身柄の拘束も含む重大な影響を及ぼすわけでございますので、我が党としても、どんな観点から処遇するのかという点について非常な議論を積み重ねました。
 社会防衛という観点からの処遇であってはならないということを強く申し入れをして、我が党としての見解をこのようにまとめさせていただいた経緯があります。申し上げますと、より確実な治療効果、病状の判断のもとで入退院や通院の要否が決定されるべきであるという視点から精神科治療を受けさせる処遇を科す、これがこの対象者を処遇する観点だということを、昨年十一月一日に、我が党の触法精神障害者の判定・処遇に関するプロジェクトチームが取りまとめて報告をさせていただいておりますが、この政府案においてこの考え方がどのように反映されているのか、配慮されているのか、お尋ねをしたいと思います。
○古田政府参考人 この問題につきましては、与党の各党におかれましてもそれぞれ非常に慎重な議論をなされ、その見解をまとめられており、もちろんただいま御指摘の御意見も十分承知しているわけでございますが、この法案におきましては、そのような御意見も踏まえまして、制度的に申し上げますと、まず、鑑定入院制度を設けまして、鑑定のために十分な期間と資料の収集をして正確な鑑定ができるようにするということにしております。それによって、入院あるいは入院によらない治療、あるいは、そもそも処遇が要らないか、こういうことをその鑑定を十分参考にしながら決めるというシステムをまずつくっております。
 それから、判断する方も、医療的な判断が十分反映されるように精神科の医師をその構成員とする合議体ということにし、さらに、これは必要に応じてでございますけれども、精神障害者の保健及び福祉に関する専門家の意見も聞きながらやるという仕組みにしております。
 その一方で、対象者につきましては、必ず付添人、弁護士ということになろうかと思いますけれども、これをつけまして、いろいろな角度からの御意見あるいは検討も可能にする。もちろん、その審判の資料にはできるだけ豊富な資料を用意できるようにする。そういうふうなさまざまな面から、ただいま御指摘のような適切な判断が確保される仕組みを考えているわけです。
 退院につきましても、やはりこれも指定入院医療施設の医師による判断を経た上、精神科医をもその構成員とする合議体によって判断するということに今しているわけで、この場合にも、必要があると認めればほかの医師に鑑定を求めるというようなことで、その判断について十分適切な判断が確保されるよう仕組みを考えているということでございます。
○漆原委員 昭和四十九年の刑法改正草案では保安処分という条文があるわけでございますが、今回の法案で新しく創設された処遇制度と四十九年度の保安処分の違いについて説明をしていただきたいと思います。
○古田政府参考人 改正刑法草案におきます保安処分は、刑事手続で、刑事裁判として、刑事訴訟法の手続によりまして決める、そういうものでございました。その処分を受けた者は法務省が所管する保安施設に収容するということとされておりました。
 これに対しまして、この法律案による処遇制度は、刑事裁判を審理する裁判所とは別の、つまり刑事手続とは切り離された別な手続によるもので、先ほども申し上げましたとおり、精神科医をもその構成員とする新しい裁判の仕組みをつくりまして、それによって、法的側面と医療的側面が十分反映することができるような仕組みにしているわけで、刑事処分とは違うものでございます。
 また、その後の治療につきましても、例えば入院が必要だと判断された人につきましては、厚生労働大臣の御所管の病院、国公立というお話でございましたけれども、そこに入院等をして治療を受けるということになっているわけでございます。
 そういうことで、手続あるいはその後の治療の施設、これにつきましても、改正刑法草案のいわゆる保安処分とは今申し上げた点で非常に大きく違っております。
 なおもう一点申し上げますと、刑法にこういう処分を規定する場合には、刑法という性格からいたしまして、やはり一部に社会防衛ということは直接の目的とすることとなるわけでございますけれども、今回の法案は、先ほど申し上げましたように、要するに、適切な医療を確保して、これが継続されるようにし、それによって本人の社会復帰を促進するということが目的でございまして、そういう社会防衛というのは直接の目的とはしていないわけでございます。
○漆原委員 ありがとうございました。
 ちょうど区切りがよくて、総論部分の質問で終わらせていただきます。次回は条文に沿って各論部分の質問をさせていただきます。本日はこれで終わります。ありがとうございました。
○園田委員長 お諮りいたします。
 法務委員会、厚生労働委員会連合審査会において最高裁判所から出席説明の要求がありました場合には、これを承認することとし、その取り扱いにつきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○園田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。