心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その5)

前回(id:kokekokko:20051227)のつづき。
ひきつづき、心神喪失者等医療観察法制定についての国会審議をみてみます。
6月7日の法務委員会において、与党側委員から質疑がなされました。塩崎委員からは、審判方法などについて質問が出されました。この時点での法務大臣厚生労働大臣の立場は明確であり、それゆえに答弁も同じ主張の繰り返しのような状態になっています。
【塩崎委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会会議録第17号(平成14年6月7日)
○園田委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。塩崎恭久君。
○塩崎委員 自民党塩崎恭久でございます。
 昨年の六月に池田小学校であのような悲惨な事件があったわけであります。あのときのマスコミなどの反応を見てみますと、言ってみれば今回ここでみんなで議論をする問題の歴史の長さ、そして問題の深さというものを端的にあらわすような、社会の根底にある精神障害者に対する見方あるいは対応の仕方というものが凝縮されていたような感じがするわけでありまして、あのとき私ども自民党でもすぐに会合を開いたわけでありますが、マスコミはもちろんでありますが、やはり一部国会議員の中にも今までの流れの中から出てくる発言というものがあったわけであります。例えば、何で精神障害者を野放しにしていたんだというような発言とか、それから、全国の学校にモニターテレビをどんどんつけろというような対応であるとか、非常に象徴的な対応ぶりが見られて、言ってみれば社会の中で隔離をするという、これまでややそういった批判が多かったわけでありますが、そういうことが端的にあらわれる対応があったわけであります。
 その際、小泉総理は、法的な不備を直し、そしてまた医療の充実を図れ、こういうことで、それまでにもう既に、平成十二年だったでしょうか、精神保健福祉法の改正などのときの附帯決議でも、この問題については、心神喪失等の状態で重大な犯罪行為を犯した場合の障害者の扱いについてやれということで、保岡法務大臣もこの問題について明確にお話をされておったわけであります。
 私ども自民党の中でもチームができ、佐藤理事が中心となって我々も議論に参加し、与党でも議論して、そして今回の法律で政府が出してきた、こういうことで、我々の議論の積み上げの結果だと思うわけであります。
 私どもの地元でもいろいろと反応があって、昔からの一緒に勉強している精神障害者のお世話をしている仲間とか、そういう人たちからもいろいろ聞きますけれども、一様に言われていることは、やはり精神障害者の方が自分の生まれ育った地域で当たり前に生き生きとした生活が実現できるように、言ってみれば社会を変えよう、そして医療を変えよう、地域を変えよう、こういうことが一貫して、いろいろな人からメールが来ていますが、あったわけであって、こういった基本を我々は忘れてはならない。
 よく議論のときに、二段ロケットみたいなものであって、今回のように法的な不備そして医療それから社会での受け入れ体制を直すということを、初めてこれはきちっとした議論をするわけでありますから、それを第一段目のロケットとすれば、第二段目は、やはり医療、福祉、社会の受け入れ体制、こういったものをどうきちっと手当てしていくのかということで、第一段目のロケットだけ上がって第二段目に点火しないというのじゃ困るわけであって、これは、我々の中での議論、今回民主党さんも対案を出してこられているわけでありますから、大いにここは議論をして、問題が今まで膠着状態だったのをぜひ前向いて進めたい、そんな気持ちでございますので、きょうは第一回目という初めてのことで、私、質問に立たせていただいて大変ありがたく思っております。
 特に今回、政府案については、私も地元でもいろいろ聞いてみると、やはりかなり批判もあるわけです。しかしその批判が誤解に基づいているものもたくさんあるので、ぜひこの議論を通じて、何が問題で、そして本来政府案として何をやろうとしているのか、あるいは民主党さんが御指摘になりたいことは何なのかということを明らかにすることがこの国会の役目だ、こう思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。
 まず法務大臣にお尋ねをしたいわけでありますけれども、この法律ができてどのくらいの人を一体対象にすると考えているのか、そして、そもそもこの法律の最大の目的は何なんだということからまずお聞かせをいただきたいと思います。
○森山国務大臣 この法律の最大の目的と申しますのは、この法律の第一条にも「目的」としてはっきり書いてございますけれども、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人について……(塩崎委員「その中のどれかということ」と呼ぶ)最終的には、そういう方々に医療を確保いたしまして、病状を改善して社会復帰を促進するということが目的でございます。
○塩崎委員 何人が対象になるのかというのはまたお聞かせをいただきたいと思いますけれども、何といっても今批判があるのは、今度この指定入院医療機関から出てこられなくなるんじゃないか、要するに隔離されるんじゃないか、そういうためにあるんじゃないかということを、再犯のおそれ、再犯という言葉は出てこないんですけれども、そういうふうに俗に言われていることなどの批判があるわけであって、今の最後の、社会復帰を促進することを目的とするということが最大の目的だということを確認したかったのですが、それでよろしいですか。
○森山国務大臣 おっしゃるとおりでございます。
○塩崎委員 それと、何人ぐらいを大体想定しているのかということですが。
○古田政府参考人 具体的な数値の話でございますので、私から答弁させていただきます。
 この法案で対象としております殺人等の重大他害行為、こういう事件を起こしまして、心神喪失あるいは心神耗弱、心神耗弱については疑いがある者も含むわけですが、そう認められて不起訴あるいは裁判で無罪等になった者、こういう方たちの数が年間大体四百前後でございます。したがいまして、その全員がそうなるというわけでは必ずしもありませんけれども、四百というのが一つの数字としての目安になろうかと思います。
○塩崎委員 そこで、今回、いろいろ我々の自民党の中での議論も大分ありましたが、最終的には、入院をするか通院にとどめるかというような判断を合議体による裁判で決める。それも、「裁判官及び精神保健審判員の意見の一致したところによる。」と第十四条に書いてあるわけでありますが、裁判というのは一体何だ、これは本当に裁判なのかという疑問が当然起きるわけです。つまり、精神保健審判員というのは精神科のお医者さんになる可能性が高いわけであって、こういう方が絡んだものを裁判と呼ぶのか。
 実は、精神科のお医者さんの方がこれに関与することによってどういう役割、どういう責任を負うことになるんだろうかということで、新しいものですから大変不安に思っていらっしゃる先生方も多いようなんです。
 法令用語辞典というのを見ると、裁判所または裁判官が具体的な事件について下す判断を言うと。判断をさせて裁判、こう言っているようでありますが、今回のこの評決をする行為というのは一体何なのか、そしてどういう責任があるのか、どういう役割分担になっているのかということを簡潔にお願いします。
○古田政府参考人 この法案で定めております仕組みは、これはまさに裁判所として行うものでございますので、そういう意味では裁判でございます。その中で、医師である精神保健審判員の役割、これは、医師としての専門的な知識、経験、これを裁判をする上での判断の中で十分活用していただいて、もともとの裁判官である裁判官と十分議論をした上で、医学的、医療的にも、あるいは法律的にも最も適切と考えられる判断をする、そういうことになるわけでございます。
 これはあくまで裁判所としての決定でございますので、個々の責任というのが具体的にどうなるかというようなことではございませんで、あくまで裁判所の決定として、それに参加しているという意味で、適正な判断を下すという意味における責任がある、そういうことで御理解をいただきたいと思います。
○塩崎委員 ということは、審判員と裁判官は同等な立場で合議によって結論を導く、こういうことであるわけですね。
○古田政府参考人 御指摘のとおりです。
○塩崎委員 それで、意見の不一致があったときにどうするんだということが当然問題になると思うんです。それについていろいろな方々から心配が寄せられておりまして、具体的に、簡単に言うと、どういうふうに意見の不一致の場合には結論を出すんだということを御説明いただきたいと思います。
○古田政府参考人 通常は、ほとんどの場合、十分議論して意見が一致するということになろうかと思いますけれども、それでも裁判所を構成する者の間で意見の一致を見なかったときには、これは裁判所としてどういう決定をするかというルールを定めておかなければならないわけでございます。そこで、この法律案におきましては、どうしても最後まで意見が一致しなかった場合には、その一致した範囲のところで裁判をするというルールにしております。
 具体的に申しますと、例えば、いずれか一人が入院までの必要はない、そういう意見を持つ、他の一人はやはり入院の必要がある、こういうような事態というのがあり得るだろうと思うんですけれども、そういうときには、少なくとも継続的な医療の確保が必要だという限度では意見が一致しているわけでございますので、そういう場合、入院させない医療を命ずる、そういう決定になるということでございます。
○塩崎委員 ですから、軽い方の判断で統一される、こういうことですね。そういう理解で間違いなければ、発言は結構でございます。
 そこで、今回のこの政府案に対して民主党からも案が出てきておりますが、いろいろな問題点があるんでしょうけれども、どこが両案で違うかというと、退院をした後の体制について、今までの措置入院後のさまざまな問題点について、政府案では精神保健観察官という新しい仕事をつくって、そこがオーガナイザーとなって、地域で生活する入院を終えた人、あるいは初めから通院だけのこともありますが、その人たちのお世話をするし、連携をするということだろうと思うんです。
 通院の観察制度というものが機能するかどうかということが、入院のままで隔離されてしまうのかどうかということの非常に大きな決め手になるし、それから、地域の中で本当に暮らしていけるのかどうかという問題にもかかわってくるわけでありますから、この通院の観察制度というものが非常に大事だと思うんですね。
 私も地元でお医者さんなんかと勉強会なんかをやっていると、今の措置で、一たん退院して例えば二週間に一遍とか一カ月に一遍来なさいねと言っても、結局来なくなって、次に来るときはまた問題を起こしたときに来るということが余りにも多いんだということを先生から聞いているわけです。
 ここについては、実は、その一方で保護司の皆さんが非常に心配していて、自分たちがそれをやらされるのかというようなことがありまして、それは誤解だろうとだんだんわかってくれると思うんですけれども、どうやってこの精神保健観察官というのを人材を確保して、養成して、いつからそういう活動が始まるのか。それから、関係者間の連携ということになっていますが、これもどういうふうにやろうとしているのか。これをぜひ、きちっと説明していただきたいと思います。
○古田政府参考人 御指摘のとおり、病院の中での治療ということだけではなく、病院外でのいろいろなケア、医療の確保というのは非常に重要な問題でございまして、この点につきましては、この法案では、今、全国に五十カ所保護観察所がございますが、その地域的な言ってみればネットワークを生かしまして、保護観察所を中心に、病院でありますとか、保健所でありますとか、そういう精神医療関係の方々と十分協力できるネットワークを構築いたしまして、そのことによって、院外で治療を受けている方々、そういう人たちのいろいろな生活面での援助あるいは指導等の観察をきめ細かに実現していく、それによって、今御指摘のような問題をできるだけ少なくしていきたい、そういう考えでこの法案は仕組みをつくっているところでございます。
    〔委員長退席、佐藤(剛)委員長代理着席〕
○塩崎委員 大体、何人ぐらいを想定しておられるのかということと、いつからそれを本当にスタートするのか。これは、施行は公布後二年以内ですよね。そうすると、いつからどのくらいを目標に確保していこうとしているのかというのをちょっと説明してください。
○横田政府参考人 お答えいたします。
 まず、人数の点でございますけれども、先ほど委員の御質問の中にございましたように、この精神保健観察にかかわる仕事につきましては、保護司さんの直接関与ということは前提としておりませんで、精神保健観察官が直接実施をする、こういう建前の制度でございます。
 したがいまして、保護観察所が担うそういったいろいろな業務がございますけれども、それを適切に円滑に実施しまして、地域社会内における処遇を実効あるものとするためには、全国に五十カ所保護観察所がございますが、そこのすべてに精神保健観察官を配置するという考えでおります。(塩崎委員「何人」と呼ぶ)保護観察所のすべてにということで、その中でまた相当な数を配置するということになっております。
○塩崎委員 五十カ所あって、それぞれに相当な数というのは、大体何人のことを言っているんですかね、イメージとしては。
○横田政府参考人 お答えいたします。
 具体的な数字というのは、まだなお若干詰めの問題がございますけれども、いずれにいたしましても、必要な数の確保に努めてまいりたいということでやっております。
○塩崎委員 必要な数というのを聞いているんですけれども、余り時間をとられるのもばかばかしいので、後で後藤田さんあたりにちょっとまた聞いてもらおうかなと思いますが、もう少しそこのところはきちっとイメージを出してもらわないと、地域の人たちがみんな心配しているので、そこのところはよく心してやってもらいたいと思います。
 ここばかり言っていてもしようがないので、先ほど申し上げたように、一段目のロケットはこれでいくとして、問題は二段目の、精神障害者全体に対する医療、福祉の充実強化の底上げというのが大事で、特に、医療それから福祉的な地域での底上げというのが大事だと思うんです。
 その中で一番は、ノーマライゼーションの議論のときによく出ますが、やはり偏見というのが、特に、障害者に対する全般的な偏見もありますが、精神障害に対する偏見というのが物すごく強いんだろうと思うんですね。
 実はきょうも、きのうもニュースでありましたが、新聞を見ていたら、文科省が、学校の危機管理指針、マニュアルをつくる、こういうことで、さっきも申し上げたテレビを全国につけるとかなんとか、そういうたぐいの話で、危機管理は危機管理として結構なんですが、問題は、単なる防衛だけで済まそうとしているとするならばこれは教育として非常に問題だと私は思っていて、やはり障害者に対する、とりわけ精神障害者に対する理解を深めるための教育というのを、ではどうしていくのか。
 私はアメリカに留学しているときに、子供が幼稚園に行っているときに、ブラインドウイークというのがありまして、一週間、一週間といっても五日ですが、目の見えない方と一緒に幼稚園児が幼稚園で生活をともにする。その中で、何に困っておられるのかということを実際に体験して、何を助けたらいいのかというのも覚える。それを幼稚園からやっているんですね。ですから、日本は、文科省にきょう来てもらっていますが、三つの障害、とりわけこの精神障害についてどういう理解教育をやろうとしているのか。例えば、精神障害者との交流を持つような機会というのをやっているのかどうか、その辺をちょっと教えてもらいたいと思います。
 それがなければ、ただ危機管理だけで、要するにそういう人たちが来るのを防ぐというだけだったらば、これは子供のためには何のプラスにもならないわけであって、それは今までの考え方の延長線上にあるだけの話であって、幼児あるいは小中学校での教育というのはとても大事だと思うので、そこのところをちょっと簡潔に御説明してもらいたいと思います。
○玉井政府参考人 お答え申し上げます。
 学校における安全管理と同時に開かれた学校を推進していくわけでございますけれども、あわせて、子供たちに福祉の重要性について理解させ、思いやりの心や奉仕の精神を育てる、さらに、だれに対しても公正、公平にし、差別や偏見のない社会の実現に努める態度をはぐくむということが、教育上大変重要だという認識を持っております。
 そのために、既に学習指導要領等におきまして、ボランティア活動など社会奉仕体験活動や、あるいは障害者等との交流などを積極的に行うということとしておりまして、そうした体験を通して、子供たちが障害のある人を正しく理解し、福祉の心や助け合いの心を深めることも私どもは重要だと認識をしております。
 そして、もちろん、具体的などういう活動を個々具体に行うか、これはやはりそれぞれの地域の実情や学校の実態によって各学校が工夫を図ることでございますけれども、先ほどおっしゃった精神障害者の関係につきまして、例えば実際に、小学校の児童が精神障害者授産施設に通所する人々と農作業やゲーム等の交流を行って、子供たちが施設の人々と自然に触れ合うようになったという事例も見受けられるところでございます。
 私どもとしては、先ほど申し上げたとおり、子供たちが同じ社会に生きる人間としてともに助け合い、支え合っていくことができるよう、そういう体験を通して障害のある人々との、いわば正しい理解、そして福祉の心、助け合いの心を育てていきたい、かように私どもは思っております。
○塩崎委員 それぞれの地域、学校が決めるということでありますけれども、今、授産施設との交流とかそういうのも見受けられるとおっしゃった。見受けられるというのは、大体ぱらぱらとあるから何かそういうのもあるなというぐらいのことだというふうに聞こえるんですよね。そんなものでいいのかということと、文科省としての何か強い方針というか意思というのは、今の御答弁だと感じられないんです。大事だということはわかりますけれども、では、どうやって具体的に実行せしめるんだ、そこが大事で、あとはそれぞれの学校が決めることだといってほったらかしておいたら、散見される程度で終わっちゃうんじゃないの。
○玉井政府参考人 お答え申し上げます。
 今、体験活動というのが大変重視されておりまして、これはそれぞれの発達段階に応じて行っておりまして、その促進を私どもは図っております。そういう中で、御指摘の趣旨も踏まえながら、今後とも努力させていただきたいと思っております。
○塩崎委員 極めて具体性に欠くので不満足でございます。
 時間がないので次に行きます。
 精神医療の質的な向上の問題でありまして、やはり日本は圧倒的に病床が多いということと、それから入院が長期だということが最大の問題だと言われております。
 もう時間がないので全部言っちゃいますと、私は、やはり病床は削減をしないといかぬと。七万人と呼ばれている社会的入院、これは認めていただけるかどうか認識を聞きたいということと、精神科のお医者さんは十万人に対して八人ということで、アメリカは十・五人でフランスは二十人。若干やはり少ない上に、こういうふうにベッドが多ければ手薄な医療しかできない。お医者さんも一生懸命やるけれども、そうなっちゃう、こういうことでありますから、ここもどうだろうかという問題があります。
 これは当然病床を削減して、あと、きちっと配置基準も改善させて、そして恐らく今まで手薄だった、精神科特例と広い意味で呼ばれてきたこういう制度的な、言ってみればウエートのかけ方の少なさというものを、例えば診療報酬の問題を含めて直していかなければいけないんだろうと思います。
 一遍に全部言っちゃうと申しわけないんですが、例えば、これからは地域で精神障害者の方々も生き生きと暮らしていただこう、こういう方向でいこうとするわけですから、当然病気になっちゃったときには家庭で、在宅で、こういう方向になると思います。そうすると、訪問看護、今これは実は若干精神科の加算はされているんですが、訪問診療の方には加算をされていないというようなこともある。
 そういうことで、医療全般の底上げについてどうお考えになっているのかということをお聞きしたいと思います。
○高原政府参考人 委員御指摘のとおり、条件が整えば退院可能な者は約七万人と考えております。
 それから、人員基準についてでございますが、現在、精神病床は、大学附属病院いわゆる総合病院の精神病床とその他の精神病床に分けております。その他の精神病床については、御案内のとおり、療養病床と類似になっておりますが、実態といたしましては、診療報酬制度におきまして精神病院の約七割が、看護職員でいいますと四対一以上というふうな形で進捗しております。
 現在、社会保障審議会障害者部会精神障害分会におきまして、精神保健、医療、福祉の総合的な計画を検討しております。この一環として精神病床の機能分化を行いまして、その結果を踏まえて、精神病床の人員配置基準につきましても見直してまいりたいというふうに考えております。
 ことしの夏に総合計画を策定しまして、明年度を初年度といたします新しい障害者計画の中に盛り込んでまいりたい、そういうふうに考えております。
○塩崎委員 訪問診療を促進するという話はどうなんですか。
○高原政府参考人 訪問診療、いわゆる往診と訪問看護サービスでございますが、これらは、先ほどもお話がございましたとおり、ややもすれば通院が中断しやすい精神障害の患者さんにとって非常に貴重な資源であると考えております。この点につきましても、そういうふうな点をしっかり踏まえまして、充実強化を図ってまいりたいと考えております。
○塩崎委員 よく車の両輪と呼ばれている保健、医療、福祉のレベルアップというか、これが本当に体制が整うかどうかによって、入院あるいは通院になる、今回の制度によって障害者の皆さんが社会にもう一回帰って、そして生き生きと暮らしていけるかどうかの決め手になるわけであります。
 今まで、実は、私も地元での、例えば今回、池田小学校の事件が起きて行ったお医者さんたちとの勉強会で、精神科の先生方のお話を聞く機会というのは、ほとんどほかの先生方はないということを発見いたしました。三時間ぐらい勉強会をやってみて、他科の先生方は、きょうの勉強会は非常に役立ったと。それは、要するに、精神科の医療のことについて他科の先生方は触れることもないし、余り理解がなかったということを反省する先生もおられました。
 そういう意味で、やや光の当たり方が少なかったこの分野で、医療も福祉も保健も、あらゆることについて、改めて、今回のさまざまな議論を通じて問題の認識というのを深めて、先ほどの、文科省も口で言うだけではなくて、どういう実効性のあるプランをもって津々浦々まで真のノーマライゼーションを心の中から図っていくのかということが大事なんでありますから、そういう哲学論はみんな大体同じようなことを言うわけであって、実効性のある施策をどうやるかということが大事なんで、危機管理も結構でありますが、心の中の改革というものをやっていただかなければならないというふうに思います。
 時間でありますので、これで質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

【後藤田委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会会議録第17号(同)
○佐藤(剛)委員長代理 次に、後藤田正純君。
○後藤田委員 まず基本的な質問なんですが、先ほど塩崎議員からも本法案の提出の目的という質問がございましたけれども、先ほど大臣からの御答弁、聞かせていただきました。目的と背景というのは違いがあると思うんですが、私は、重ねて本法案の提出に至る背景について、いま一度、基本的なことでございますので教えていただきたいと思います。
 なぜなら、今回の法案の論点といいますか、ポイントというのは、精神医療と刑事司法、このはざまをどうやって埋めていくのかというのが今回の法案の難しさであり、今までのいろいろな背景の中で日本が、行政がしてこなかったことを改めて体制を整備しますよということだと思うんですね。
 先ほど目的ということで、大臣はいわゆる精神障害者の方々の社会復帰ということをおっしゃっておりましたが、もう一つ、刑事司法という部分の被害者だとかその家族だとか、そちらの方を何か遠慮して言わないような、そんなところがあるんですよ。そこは明確にやはり言うべきじゃないかな。背景ということでの質問で、その言葉が今から聞けるかどうかわかりませんが、精神医療の向上というのはもちろん必要なわけであって、野党の案にもそのことが書かれている。でも、それと司法精神医療とは別個に考えていかないとこの問題というのは前に進まないし、日本が世界においておくれている部分、ここをやはり明確にすべきだと私は思っておりますので、そのことも踏まえて、この法案提出の背景、目的は先ほど聞きましたが、それに関連した背景についてもう一度ちょっと教えていただきたいと思います。
○森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生ずるばかりではなくて、精神障害を有する人もその病状ゆえに加害者となってしまうという点で極めて不幸な事態であるというふうに思います。
 現に、法務省の調査によりますと、精神障害によって心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者であって、不起訴処分となって、または無罪の裁判を受けたというようなものの数が、先ほども出ておりましたが、年間約三百数十人見られるということでありまして、これらの者の多くがその行為当時治療を受けていない、あるいは通院による治療も受けていないなどのようなことがわかっているわけでございます。
 このような人に対しては、必要な医療を確保して、不幸な事態が繰り返されないようにするということが大変大事であり、そして、その社会復帰を図るということが目的、理想であると思いますので、このような者の処遇につきましては、精神医療界を含め、国民各層から適切な対策が必要であるという意見がかねてあったところでございます。
 そこで、先ほどの御質問のときにも出ておりましたけれども、保岡大臣のころからその必要性を委員会で申し上げておりまして、一年以上前、昨年のお正月ごろから専門家の検討会を始めておりました。何とか早くその体制を整えたいと考えておりましたところ、昨年の六月でしたか、池田小学校の事件もありまして、社会的な関心も大変高まったということが背景にあるわけでございますが、かねての研究を促進いたしまして、このたび御提案申し上げているような法案となったわけでございます。
○後藤田委員 これは担当の部局の方で結構でございますが、今大臣おっしゃられたように、背景としていわゆる重大な他害行為が増加傾向にあるということでございますが、私が法案の参考資料でいただいた中で、これはどういう比較をしていいのかわからないですが、前科がある方の事件発生数が、十年前ぐらいと比べると、パーセンテージとしては何か減っているんですよね。当初三〇%台だったのが最近二〇%台ぐらいになっている状況。
 ここの数字はどう見たらいいのかなということで、これは事前にちょっとお話ししていなかったですが、資料の中にあったものですから、そのことをもしおわかりであればお答えいただきたい。それがそのまますぐ、いわゆる俗に言う再犯、そこに当たるのかどうかというのも私わからないんですが、その数字の意味合いをちょっと御説明をもしいただければ、教えていただきたいと思います。
○古田政府参考人 確かに、精神障害の影響のもとで行われたと考えられる事件数は、長期的に見ると減少傾向にあるようには思っております。この原因がどこにあるかということになりますと、これはいろいろ仮説として考えられることはありますが、なかなか確定的なことは申し上げられない。
 ただ、一つの仮説として、精神医療が徐々に向上してきて、それによってそういう事件が減っていっているということはあるのではないかというふうに思うわけでございます。それともう一つは、その治療技術の発達と多分裏腹のことではないかと思いますが、昔に比べると、責任能力に影響があるような、そこまでの重大な事態には精神障害という面から見ても至らないケースもふえてきたのではないか、これはあくまで仮説でございますが、そういうふうに思っております。
○後藤田委員 今、一方で、率としては減少傾向であるということを刑事局長はおっしゃったんですが、それは精神医療技術の発展ということだと。私もそう思いたいんですよ。
 ということになりますと、今回法案が二つ出ていますが、私は、政府の案で、いわゆる精神医療については厚生労働省さん初め、そこら辺はある程度充実してやってきた。先ほど私が冒頭申し上げたように、今回の問題というのは、精神医療と刑事司法、二つ分けて、そして一方で、日本が司法精神医療という新しい分野にどう対応していくか、ここが私は一番の問題であるというふうに思っているわけですね。これは、後で厚生労働省さんにその点の現状だとか対策を聞きます。
 もう一つ、今回、何度も言うようですが、この精神医療と刑事司法という問題のその複雑さ、困難さというのがあるんですが、そんな中で、このたびの内容でいいますと、裁判所で裁判官と精神科医が合議制で行う。一方で、精神科医二人、そのままでいこうという野党の案があるようでございます。これについて、私は、やはり裁判官が加わるというのが、まさに先ほど大臣がおっしゃられたような新しい、もしくは今までの事件の背景だとか法案の背景だとか、そういったものに対して対応が今までできなかったからこそ裁判官を入れて司法的側面を加えるということだと思いますが、その点について御意見があればちょっといただきたいと思っておりますが、そのとおりでよろしいでしょうか。刑事局長。
    〔佐藤(剛)委員長代理退席、委員長着席〕
○古田政府参考人 先ほど大臣から申し上げましたことに若干補足して、今のお尋ねにお答えしたいと思います。
 第一点の問題といたしまして、重大な他害行為を行った、そういう不幸な事態に至った、こういう場合には、被害者の方もいらっしゃる、あるいは本当に不幸に遺族になられた方もおられる。そういう点から申し上げますと、できるだけしっかりした手続で、そういうようなことをするに至った人についてきちっとした処遇を決めてもらいたいという思いは少なくともあるのではなかろうか。しかも、その手続ができるだけ被害者や遺族の方にも目に見えるものにしてほしい、こういうお気持ちも恐らくあると思うわけでございます。
 そういうようなことも踏まえまして、そういう事態になった場合には、現在の法制度の中で最も慎重、あるいはしっかりした手続と言うと語弊があるかもしれませんけれども、そういう仕組みになっていると考えられる裁判制度の中でこの問題を決めるというのが適当ではないか、そういうことでございます。ただ、これは非常に医療的な問題を含むものでございますから、そういういろいろな、先ほど申し上げましたような御要請と医療的な判断が十分反映できる、そういう仕組みをつくることが適当ではないかということからこの法案を御提案するに至ったということでございます。
○後藤田委員 今のお話のとおり、もちろん、精神障害者の人権だとか社会復帰、これは本当に重要なテーマなんですけれども、やはり被害者の家族のことも考えなくてはいけないのは本当に当然だと思っております。
 そんな中で、今回は、いわゆる他害行為のおそれということで、その対応なわけでございますが、初犯の防止策というか、何も今まで犯罪行為をしていない方でもその可能性だとかというものに、行政としても、もし被害者が出たらという予防的な側面として、これからというか今までというか、今どういう考え方を持たれているのかというのがまず一点でございます。
 もう一つは、もちろん、健常者の方が犯罪を犯したら当然司法で裁かれるということでございますが、ちょうどその間に入るような方、例えばストーカーだとか、もう一つは、非常に残念なあれでございますが、躁うつが激しい方なんかで、しかしそこは精神障害とは判定できないような場合、その方々がもし重大な犯罪を犯した場合はどうするのかということで、その被害も最近散見されるに至っているわけでございますが、その防止策についてはどのように考えられているか、ちょっと教えていただきたいと思います。刑事局長。
○古田政府参考人 過去にいろいろな犯罪に当たるような行為がなくて精神障害の影響で犯罪行為をするに至った、こういうケースをどう防止するかということは、端的に申し上げれば、やはり精神医療全体を改善していただいて、ボトムアップしていただいて、それによって、精神障害の影響による重大な問題行動、こういうのができるだけ少なくなるようにしていただくということになろうかと思うわけでございます。
 それから、ただいまストーカー的なお話もございましたが、精神障害の重大な影響があるという場合でなければ責任無能力とかあるいは責任が軽くなるということはもちろんないわけで、当然、重大な犯罪行為をすればこれは刑事処罰の対象になっていくわけでございます。
 ただ、多分、ただいまのお尋ねの中には、精神障害とまでは言えないけれども、いろいろな意味で問題を起こしやすい人にどういう対応をすべきか、こういうお尋ねも含んでいるのではないかと思います。これは、確かに外国でもいろいろな実験と試み等もございますが、やはりさまざまな形で、例えば刑務所で服役するということになりますれば、その刑の執行中に、そういう問題も十分把握した上で、それに対していろいろな働きかけを行っていくというふうな努力を積み重ねていくということで対応することとなろうかと思っております。
○後藤田委員 わかりました。
 次は、厚生労働省さんにお願いしたいんですが、現在の日本のいわゆる司法精神医療の現状につきまして、今把握している中での御見解をいただきたいと思います。あわせて、海外、アメリカ、イギリスそしてオランダなんかも発達しているというふうに聞いておりますが、その現状と国際比較について教えていただきたいと思っています。
○高原政府参考人 私どもの把握しておる限りにおきまして、我が国において、司法精神医学、これは学会誌であるとかそれから教科書というふうなものにつきましては余り十分発達していないんではないか。それから、専門家の先生方も他の精神医学の領域に比べて少ないんではないか。具体的に言いますと、多く見ても二十人、三十人という程度の方がそれを専攻されている。
 国際的に申しますと、アメリカ、カナダ、イギリス、オランダ、ドイツ、それから北欧、ニュージーランド、オーストラリア、そういったところについては、いわゆる専門医制度というふうな形で確立しておりまして、一般の精神医学を研修した後、こういった病棟で勤務をし、場合によれば論文を書く、場合によれば口頭試験を受ける、そういうふうな形で専門性を明確にしてきておる、そういうふうに承知しております。
○後藤田委員 そういう意味では、日本の司法精神医療というのは、今までは何か避けてきたようなそういうイメージがあります。地域医療、医療で何とか解決できるじゃないかというようなことで今まで来たのが、新たな領域として諸外国ではもう既に整っていたにもかかわらず、それをしてこなかった。このたび政府としては、それを根本的に、抜本的に、前向きにやっていこうというお考えでよろしいですね。
○高原政府参考人 厚生労働省といたしましては、医療の一環としての司法精神医療の充実強化に努めてまいりたいと考えております。
○後藤田委員 そういう意見に対して、また反論する方がいると思うんですよ。その前にまず地域医療だとか専門医療をもっとしっかりしろというようなことをおっしゃる方もいる。
 海外がなぜ司法精神医療が発達したのかなといったところの背景について、もしおわかりになれば教えていただきたいと思います。私が考えるのは、先ほど出た先進諸国も、いわゆる地域医療ということの充実も当然図った上で、そこでやはり刑事司法と精神医療の間に司法精神医療というものが必要だ、そういう結論に達したんではないかなというふうに思うんですね。でも、日本の場合はそのプロセスを踏んだ上での司法精神医療なのかどうなのか、その海外との違いをちょっと聞かせていただければと思っております。
 そのプロセスなしに、海外でやっているからいいねということで司法精神医療をやろうというのか、それとも、日本も同じように、地域医療を充実した上でなおかつ必要なんだという背景でそういう考え方、司法精神医療が生まれたのか、どっちなのかな。そこら辺をちょっと、重要な問題だと思いますので国民の皆さんに発表していただきたいと思います。
○高原政府参考人 ただいまからお話にも出ておりますとおり、地域医療とそれから専門的な司法精神医療ないしはその他の専門的な精神医療の領域というふうなものは車の両輪でございまして、どちらが欠けてもうまくはいかない、そういうふうに考えておるところでございまして、一般的な医療の能力につきましても、医師制度、研修制度の改善であるとか、それからさらに精神科領域につきましては、講習会を行ってある程度の専門性を担保しておるとか、さらにその上に、今後必要になってくる司法精神医療の専門家も養成していく、そういうふうなことでございまして、委員御指摘のとおりでございます。
○後藤田委員 ということは、しつこいようでございますけれども、いわゆる地域医療としての精神医療の密度だとか医療の充実をして、完全に、極端に言うと一対一対応ぐらいでそういった医療を行っても何がしかの自傷他害の行為の可能性というのがありますねという御判断をされているということでしょうか。
○高原政府参考人 一般的にはそういうことが言えると思います。他の医学領域、医療領域におきましても、専門家の度合いというものは近年とみに増してきておるわけでございまして、司法精神医療というふうな領域につきましても、その固有の専門性、技術性、そういったものについてもさまざまな発表ないしは報告が見られるところでございます。これは医師だけではなくて、例えば看護師等につきましても同様のことが言えるわけでございまして、こういうふうな専門的、高度な医療が可能であるにもかかわらず我が国においてそれがなされていないというふうなことにつきましては残念なことであると考えます。
 それから、委員御指摘の、その成立経過について、単に物まねしているのかどうかということでございますが、これは確かに、特にイギリス等につきましては制度が割と古くから、前世紀からあって、それに従事する医療関係者がその専門性を高めていった、制度と相携えて進んでいったという面ももちろんありますが、特に一九八〇年から九〇年、二〇〇〇年というふうなところに向けまして、かなりのブレークスルーというふうなのがいわゆる薬についても行動療法といった精神療法についても見られたわけでございまして、こういうふうなものは迅速に我が国に取り入れて普及する必要があるというふうに考えております。
○後藤田委員 これは最後の質問になってしまうのかもわかりませんが、司法精神医療の充実発展のために具体的にどういう環境整備もしくは専門教育をしようということを考えているのか、教えていただきたいと思います。
○高原政府参考人 これは、人材養成というふうなものは時間もかかるわけでございまして、すそ野を広げるということ、それから、先ほども申し上げましたように、一般の地域医療を強化するんだ、その一般の地域医療の中で精神医療を強化するんだ、その精神医療のある部分として司法精神医療を強化するんだ、こういうふうなシナリオになって、それはそれぞれのパートで進めていくわけであります。
 司法精神医療につきましては、例えば、我が国でその指導医となって、後進もしくはこれから研究していただく、臨床に従事していただくための先生というふうな方につきましては、我が国で相当の経験を、措置制度ということで自傷他害のおそれのある患者さんの診療に従事したドクターも多数いらっしゃいますので、そういった方の中で御希望の方ないしはお願いしたい方を留学していただきまして、例えばイギリスで申しますと一年制のディプロメートというコースがございますが、そういうふうな国際的な、まあ国際的なレベルといいますと、そのディプロマを持ってから専門医療に従事して論文を書いたり、教職についたり、治療したりということで指導的な位置になるんですが、そこまで一気にできませんので、しかしながらスタートさせなければなりませんので、この法が公布された後二年間の準備期間またはこれからの間に最大限の人的な整備をやってまいりたいと思います。これは、看護職それからケースワーカー、それにつきましても同様の研修を行ってまいりたい、そういうふうに考えております。
○後藤田委員 ありがとうございます。
 今回の問題は、精神医療と刑事司法という二つの大きなはざまをどうやって埋めていくかということでありまして、どちらかをどうする、そういう古い発想ではなくて、今御質問を重ねました新しい分野、司法精神医療を、私は、本当にこれは諸外国におくれをとらないように、またキャッチアップできるようにぜひ充実をしていただいて、本法案を前向きにお進めをいただきたいというふうに思っております。
 以上、質問を終わらせていただきたいと思います。

【福島委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会会議録第17号(同)
○園田委員長 福島豊君。
○福島委員 大臣、大変御苦労さまでございます。
 私の持ち時間の三十分は、専ら精神医療の話について聞かせていただきます。
 本日の朝日新聞の社説では、「精神医療 質の向上を急げ」という論説が掲載をされておりました。本法案の質疑ということを踏まえて書かれているんだというふうに思いますが、結論として、「精神医療の底上げこそ、不幸な事件を減らしてほしいという願いにこたえるための本道である。」このように書かれているわけでございます。
 本法案に盛り込まれておりますところの新しい処遇システムの御提案、これはこれで、私は、我が国においては必要なことだというふうに思っておりますし、先ほど後藤田委員からもお話ございましたように、司法精神医療の確立とともに、着実にそれは実施していかなきゃいかぬ。また一方では、この社説にありますように、精神医療、そしてまた福祉の充実ということ、このことは、車の両輪として進めていかなければならないのであろうというふうに思っております。そもそも、本法案の名前も、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案ということで、その両方の領域というものが掲げられているわけでございます。
 一方、日本の精神医療、そしてまた福祉の実態はどうなんだということを振り返りますと、精神医療のあり方を問う声というのは今までもずっとあったわけでございますけれども、その改革というのは、やはり非常に遅い、遅々としてしか進んでいないんじゃないかという指摘があるわけでございます。
 思い起こされますのは、アメリカでは、一九六三年に、精神病、精神薄弱に関する大統領教書というものが出されまして、改革が進められました。このことは、当時のケネディ大統領がみずからの親戚を見舞ったときに、その環境が劣悪であるということに大変驚いて、そして大統領のリーダーシップのもとに改革が進められた。日本でもさまざまな事件が起こったわけでございますけれども、ケネディのような役割を果たす指導者がいなかったのではないかというような指摘もあります。
 この法案の提出に当たって、さまざまな議論がなされてきたわけでございます。また、諸団体からの要請もいろいろとありました。例えば、自治体病院協議会では、精神保健・医療・福祉施策を一層推進するための新たな計画というものの策定が必要であるということを提言いたしております。具体的には、新たな精神科地域医療計画の策定、精神科救急医療体制の整備、精神科入院医療改善計画、精神障害者のための地域支援長期計画、偏見と差別を解消する長期計画、こういった五つの内容の計画をつくるべきである、こういった提言もあるわけでございます。こうしたものを踏まえてお尋ねをさせていただきたいと思っております。
 まず初めに、精神医療の充実ということでございます。これは、先ほど申し上げました社説におきましても、こんな書き方がされております。「日本は入院患者数が減らず、三十万人強で横ばいが続いている。この中には、治療の必要がないのに入院している人が七万人以上いると厚労省は見ている。入院が減らない一因は、精神科は一般病院より医師や看護職員が少なくて構わないとする政策にある。」というような、政策によってこうした精神医療の貧困というものが起因しているのではないかという指摘があります。
 私は精神科医ではありませんので、精神科の実情というものを身をもってよくわかっているわけではありませんが、精神科医和田秀樹先生が、昨年、さまざまな議論がなされていた中で雑誌に投稿されておりますのが、「精神医療の貧困を憂う」というような原稿がございます。その中でも、さまざまな指摘がなされております。
 若干御紹介しますと、平成十二年の第四次医療法の改正で精神科特例というものが廃止をされたけれども、実態としては、精神科の医師一人で五十人の患者を診るという実態は解消されていないという指摘もあります。そしてまた、社会復帰をさせるためには大変なエネルギー、またマンパワーが必要であるけれども、それを支えるのに十分な体制とはなっていない、裏返せば、社会復帰がされないということが長期の入院に結びついている、こういう御指摘だろうと思います。そしてまた、どうしてこういうことになるのかといえば、精神科における診療報酬の評価の低さ、こういうものがマンパワーの投入を不可能にして、悪循環を引き起こしている、こういう指摘も和田先生はいたしております。
 こうしたいろいろな御指摘があるわけでございます。昨今は、医療費が増嵩して、何とか抑制をしなきゃいけないという議論ばかり起こるわけでございますけれども、まだまだ十分な資源配分がなされていない領域があるということも我々はよく理解をしなければいけないんだろうというふうに思っております。
 そしてまた、先ほど来の政府からの御説明の中でも、薬物療法が非常に進歩したと。このことは事実であろうというふうに思います。しかしながら、薬物療法だけで治療ができない、そういう患者もふえているということも事実でございます。具体的には、例えばPTSDでありますとか人格障害の患者さんでありますとか、そしてまた神経性の無食欲症の方であるとか、こういった人手をかけなければいけない患者さんもふえているわけですから、こういうことも踏まえなきゃいけないと思います。
 昨年の議論の中で、私どもは、二十一世紀の精神医療ビジョンというようなものをつくるべきであるということを提案させていただきました。現在、厚生労働省社会保障審議会において、精神障害者の医療福祉計画づくりが進められているというふうに伺っておりますけれども、こうしたさまざまな指摘を踏まえて、どのように新しい精神医療の体制というものをつくっていくのか、厚生労働省の御見解をお聞きしたいと思います。
○高原政府参考人 現在の我が国の精神医療に関しまして、私どもの認識を御説明申し上げたいと考えます。
 まず、委員御指摘のとおり、現在精神病床に入院中の方々の中には、受け入れ条件が整えば退院可能になるとされている方々が約七万人程度いらっしゃいます。こうした方々は、社会復帰対策を充実させることによりまして退院が可能になるものと考えられます。
 当面、七万床の病床につきましては計画的に削減が可能であるのじゃなかろうかというふうなことでございまして、このための社会復帰対策をどうやって充実させたらいいか、ただいま御指摘のとおり、現在、社会保障審議会障害者部会において御検討いただいておるところでございます。
 しかしながら、七万床が削減されたといたしましても、対人口比では、先進諸外国に比べて多い状態が続くことはまた事実であり、これはさらなる対策が必要なんだろう、そういうふうな認識を持っております。
 それから、マンパワーにつきましては、これをどういうふうに評価するかは別といたしまして、ここ十年程度、臨床に従事する医師の中で精神科を専攻する医師の比率は徐々に向上しておりまして、今五%ちょっとのところまで来ておるわけでございます。それで、この我が国の医師のうちの五%というのは、対人口比にしてみますと、必ずしも少ないものではない。しかし、同じように対人口比にしてみますと、病床数の方はかなり多い。そのために薄く広くて、ただいま委員御指摘のように、人手がかかるような専門的医療が必ずしも十分ではないというような点もあるのではなかろうか。そして、そういうふうな点については改善していかなければならないのではなかろうかということを考えております。
 したがいまして、医療制度と社会復帰制度、そして社会復帰後の在宅福祉サービス、そういったものにつきまして総合的に議論していただきまして、この夏をめどに精神医療領域におきます総合的な計画を策定いたしまして、それを明年度を初年度といたします障害者基本法に基づきます障害者計画、そして、それに基づきます前期プラン、これは今年度いっぱいぐらいかかるのかなと思っておりますが、私どもじゃございません、内閣府の方で全体調整がなされる予定でございますが、その中に、私どもの取りまとめた精神保健、医療、福祉の総合計画といったものを反映させていただきたい。その中身は、病床であるとかマンパワーであるとか、そういったものが中心になろうかと思っております。
 以上でございます。
○福島委員 総合計画の中で、精神医療のあり方についても今までになく踏み込んだ見直しというものを提案していただける、そのように思っております。ぜひしっかりと取り組んでいただきたいと思います。
 次に、精神医療の領域で、今までも指摘されておりますけれども、精神科救急の体制というものがやはり不十分であるという指摘がございます。
 先ほど御紹介いたしました自治体病院協議会の提言におきましては、こんなふうに述べられております。「急性の精神症状に際して、どこに電話したらいいのかわからない。電話相談窓口があっても、所定の時間になれば閉まってしまう。警察を経由しなければ受け付けてくれない。精神疾患だけでは救急車も来てくれない。現状では、こうした自治体が少なくないのである」ということが言われております。
 そしてまた、こうした実態というものを踏まえて、協議会では幾つか提言をしております。例えば、精神科救急医療圏を定め、二十四時間対応できる精神科救急情報センターを配備する、地域の基幹的精神病院、または救急救命センターと精神病棟を有する中核的一般病院を精神科救急指定病院に指定をする、また、精神科救急指定病院と他の精神科医療機関との連携システムを構築する、こうした具体的な提案をしておられます。
 精神科救急の問題については、近年、いろいろと取り組みがなされているということは承っておりますし、御努力もいただいているということは評価もいたしたいと思っておりますが、今後さらにこの体制の充実というものに向けてどのように取り組まれるのか、お考えをお聞きしたいと思います。
○高原政府参考人 精神科救急の問題で、非常に自治体からも要望が多かった、休日や夜間にも速やかに入院等のできる医療システム、こういうようなものにつきましては、平成七年度から準備いたしまして、現在、四十六の都道府県で動いております。しかしながら、今御指摘のとおり、休日、夜間等に当事者等からの救急相談に適切に対応できる電話医療相談体制、そういったようなものにつきましてはまだ必ずしも十分ではございません。
 私どもといたしましては、平成十四年度より、精神科救急医療システム整備事業を強化いたしまして、精神科救急情報センターにおきます二十四時間医療相談体制の整備を開始しております。
 今後とも、精神科救急医療システムの充実を進めまして、国民や、特に精神障害者の方々が二十四時間安心して適切な医療が受けられるような精神医療体制の整備に努めてまいりたいと考えております。
【次回へつづく】