心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その8)

前回(id:kokekokko:20051230)のつづき。
ひきつづき、6月28日の法務委員会での国会審議をみてみます。
【平岡委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会会議録第18号(同)
○園田委員長 平岡秀夫君。
○平岡委員 民主党平岡秀夫でございます。
【略】
○平岡委員 それでは、法案の審議に入らせていただきます。
 この法案については、現在の精神医療についていろいろな課題があるということだろうと思います。民主党も今回、精神保健福祉法についての改正案も提出させていただきました。検察庁法、それから裁判所法の改正も出していますけれども、これは精神保健福祉との関係ではちょっと薄い関係でございますけれども、お互いに、現在の精神医療の分野においてさまざまな課題があるという認識は多分一緒だろうというふうには思っているんですけれども、我々は、今回の政府の提案というのが本当の精神医療の改善につながっていくのか、場合によっては、こういう仕組みをつくることが日本の精神医療をおくらせてしまうのではないか、そういう危惧も持っているわけでございます。
 そういう意味において、政府案については賛成できない、反対するという態度は明確にしているわけでありますけれども、他方、我々民主党が提案いたしました三法案、裁判所法、検察庁法の一部改正、そして精神保健福祉法の一部改正、これについて両大臣がどのように評価しておられるかということをまず最初にお伺いしたいと思います。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
○森山国務大臣 民主党案につきましては、政府案と異なりまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に焦点を当てたものではなくて、このような者の適切な処遇を確保すべきであるという国民の声にどのようにこたえるか、退院後の治療継続の確保を具体的にどのように実現するか等の問題があるのではないかと思われます。
 また、司法精神医学に関する研究機関を裁判所や検察庁に置くことにつきましても、司法精神医学の向上を図ること自体は重要でございますけれども、本来、そのような研究や専門家の養成は、それを行うにふさわしい専門性や中立性を備えた組織において行われるべきものであり、裁判所等において行うことが適当であるか疑問を感じるわけでございます。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、継続的で適切な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにすることによりまして、その社会復帰を図ることが肝要であると考えております。また、精神医療界を含め国民各界各層からも、このような者の処遇に関する適切な施策が必要であるとの意見が述べられております。政府案は、このような者の適切な処遇を確保するとの観点から立案したものでありまして、どうぞ御理解を賜りたいというふうに思います。
○坂口国務大臣 民主党案につきまして私も拝見をさせていただいておりますが、先ほどから議論をいたしておりましても、この民主党案では、犯罪行為を行っていながら心神喪失等を理由に無罪または不起訴になった者に対する処遇は必ずしもすべてカバーされていない。従来から問題として指摘されております、措置入院から漏れ落ちて社会にそのまま戻るようなケースは残ってしまうということが一つ。
 それから、処遇の実質的な決定者が、先ほどから議論をいたしておりますように、医師のみである点で措置入院とこれは変わっておりませんし、医師に過重な負担が負わされてきたという指摘に対しまして少しこたえることができないのではないか。大きい点はその二つではないかというふうに思っております。
○平岡委員 かなり誤解があるんじゃないかなというふうに思いますけれども、今、坂口大臣の方から、犯罪行為を行っていながらこれらの者に対して云々というくだりがございましたけれども、それでは、ちょっと聞くんですけれども、この法律の目的は何なのかという点です。
 これは、実は法務大臣が本会議でもお答えになっておりますし、この委員会でも与党の人たちの質問に対してもお答えになっておりますけれども、ここでもう一度、この法律の目的は一体何なのか、これを明確に述べていただきたいと思います。
○森山国務大臣 本会議及びこの委員会の冒頭でも申し上げましたけれども、この法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療の実施を確保するとともに、そのために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、対象者の社会復帰を促進しようとするものでございます。
○平岡委員 端的に答えていただきたいと思いますけれども、この法律の目的は、精神障害者の方々に対する医療なんですか、それとも刑事罰の代替なんですか、それとも社会の保安維持なんですか、一体どれなんでしょう。
○森山国務大臣 今も申し上げましたように、病状の改善とそれに伴う同様の行為の再発の防止、そして対象者の社会復帰という、幾つかの目的を持っております。
○平岡委員 ということは、この法律は、社会の治安維持といいますか、保安の維持ということも目的の中にあるということでよろしいですね。
○森山国務大臣 主役は、そのような罪を犯すことになってしまった人々の改善更生、さらに社会復帰ということが一番重要な目的でございます。
○平岡委員 一番重要な目的というんじゃなくて、私は、社会の保安維持、これもこの法律の目的ですねということを確認しているんです。
○森山国務大臣 そのような現象によって大変心配あるいは不安を感じる国民一般についてももちろん考えなければなりません。このような人々が症状が改善して社会復帰をされるということによって国民の安心も確保できるという意味では、おっしゃるような目的も間接的にはあると思います。
○平岡委員 それでは、この法律によって処遇される人たちというのは、これは入院に限って言いますけれども、指定入院医療機関に入院されたときに、どのような処遇を受けることになるんですか。
○高原政府参考人 基本的には、アセスメントといいますか評価、一般の病気でいいますと診断ということでございます。
 それに基づきまして、さまざまな行動パターンとか心理状況とか、それから、もし家庭とかそういうふうなものが幾らかなりとも寄与しているのであれば、そういったものの改善を外側からやる、心理療法、精神療法、作業療法、そういったものがコアになりまして、さらには症状を抑えるための薬物等ももちろん併用されるわけであります。それから、社会復帰に向けて、社会環境、生活環境の調整、そういったものがなされるというふうに考えております。
○平岡委員 当然、入院に入ればその間身体が拘束されるという状態に入るんだろうと思うんですけれども、この身体の拘束は何のために行われるんですか。
○高原政府参考人 身体拘束ということの趣旨についてでございますが、いわゆる拘束、狭義にいいます、例えば老人の領域で拘束ゼロというふうな形の、抑制帯を使うとかいったようなことは、いわゆる司法精神医学の世界におきましては、遠いといいましても数十年昔のことでございまして、今そういうふうなことを行っている国はございませんし、私どももそういうことについては考えておりません。極めて興奮で抑えがたいときに制限的にあるということはあります。
 もしその拘束というものが、一定の入院、病室もしくは病棟にいるということを強制されるというふうな意味でありますと、それはそのとおりでございます。したがいまして、ある程度の自由の制限を伴うわけでございまして、医師のみではなくて、医師の診断をもととしながら、裁判所の判断によってこれを行うというふうな形をとっておるわけでございます。
 しかしながら、拘束というのが、一定の病棟もしくは一定の病室というふうなことで理解いたしますと、もちろん、症状が改善いたしまして、外出させた方が社会復帰効果がいいんだ、ないしは外泊させることも必要なんだというふうな判断がございますと、これはできるようなシステムになっているわけでございます。
 したがいまして、その拘束という言葉の意味によりまして、非常に狭義の、物理的な拘束というのはまれにしか行われないだろう、しかし、病室もしくは病棟の中から外に出ないというふうな意味での拘束はあり得る話ですし、それがある意味では入院の目的にもなるわけですので、広くこれは行われるだろう、しかしながら、医療上の必要に応じて外出、外泊というふうな制度も取り入れている、そういうことでございます。
○平岡委員 拘束という言葉が適切でなかったかもしれませんけれども、今、病室とか病棟に強制的に入らなければいけないというのは、何のためにそうなるのですかということを聞いたんです。これはむしろ、厚生労働省に聞くんじゃなくて、法務省の方で答えてもらわなければいけない話だと思いますけれども、何のために入院をしなければいけないのか、何のために入院をするという形で身体を閉じ込めなければいけないのかという点です。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
○古田政府参考人 これは、まず、入院をさせて治療を行わなければならない、問題行動を起こすおそれがあるということがポイントでございますので、入院をさせるということには、当然二つの意味があるわけで、一つには、治療を確保する、そして、その治療の確保のためのそういう入院という措置をとらないと事故を起こすことを防止するのが困難である、この二つの面があろうかと思います。
 この問題につきましては、現在の措置入院における、入院させなければ、自傷のことは格別として、他人を害するおそれがあるということと同じ構造の問題と考えております。
○平岡委員 先ほども水島委員の方から、措置入院と今回の新処遇制度の違いというところで、どういう点が違うのかというのがありましたけれども、端的に言って、どうも政府の人たちは、これはあくまでも精神障害者の人たちのための強制的な医療を提供する仕組みなんだというようなことを言っておって、本当にそう考えてこの法案を提出しているのか。私は、先ほど来から大臣にもお聞きしていますけれども、社会の保安維持とかいったようなことをこの法案の中で考えておるということは事実だろうと思うんですね。それをあえて、そういうことではなくて、医療が中心なんだ、医療が中心なんだというような言い方をしているところに、今回の政府の提出している法案のまやかしがあるんだろうというふうに思うんですね。この点については、民主党の案についてのいろいろな御批判があったのでちょっと入っていきましたけれども、ちょっと視点を変えまして、大臣にもお聞きしたいと思います。
 先ほど、池田小学校事件の問題が提起されまして、この池田小学校事件とそしてこの法案との関係はどういう関係かというお話がありました。
 先日、法務大臣が、白鴎大学の講演で、大臣に就任してから三つの大きな決断をしたというふうに言っておられます。ほかのものはともかくとして、その一つの中に、池田小学校児童殺傷事件の犯罪を未然に防げなかったのかというところから始まる法整備の問題を挙げられたというふうに報道をされているわけでありますけれども、そういう問題意識を持っておられるとして、今回のこの心神喪失者等医療観察法案というのは、その大臣の問題意識にちゃんとこたえている法案になっているというふうに思っておられますでしょうか。いかがでしょう。
○森山国務大臣 昨年の十二月に白鴎大学におきまして講演を確かにいたしました。このときには、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件をきっかけにいたしまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する処遇について国民の関心や議論が高まったことを踏まえまして、法整備を検討しておりますということを申したものでございます。
 もっとも、法務省厚生労働省におきましては、これより少し前から、このような者に対して適切な医療を確保するための方策やその処遇のあり方等について検討を行ってまいったわけでございまして、この事件をきっかけにして、精神医療界を含む国民各層から、適切な施策が必要であるとの御意見が高まりましたことや、与党プロジェクトチームでの調整や検討結果等も踏まえまして、このような法律案を提出したわけでございます。
 十二月の時点で私が申しましたのは、問題意識といいましょうか、何かしなければいけないのではないかという私自身の気持ちを話したわけでございますが、その後でこのような案としてまとまってまいったわけでございまして、この法律案によりまして、このような者の病状の改善とか、これに伴う同様の行為の再発の防止ということが図られて、その社会復帰が促進されるものというふうに考えるわけでございます。
○平岡委員 私の質問の仕方をちょっと変えると、池田小学校事件を未然に防げなかったのかという問題意識を大臣が持っておられるということだったですね。今回の法案はこの池田小学校事件が未然に防げるような仕組みになっていますか。
○森山国務大臣 この法律案は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為が行われた場合に、これを行った者に対して継続的に適切な医療を行い、また、医療を確保するために必要な観察と指導を行うということによりまして、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、本人の社会復帰を促進するということを目的にしているわけでございまして、そのために必要な施策をいろいろとこの中に織り込んでおります。
 したがいまして、絶対に二度と起こらないということを、将来のことについて私がここで断言するということは難しいわけでございますが、今考え得るさまざまな方策をできるだけこの中に仕組みとして取り入れまして、最善を尽くしていきたいというふうに思うわけでございます。
○平岡委員 いや、全く答えになっていない。私は、この法案で池田小学校事件のような犯罪を、ようなと言うと、いろいろ定義はあるかもしれませんけれども、池田小学校事件の犯罪を未然に防げた、防げるようになるというふうに大臣は判断しておられるかということを聞いているんです。
○森山国務大臣 申し上げましたように、このような仕組みをきちんと法律上新しく設けるということによりまして事態が改善されるというふうに思います。
○平岡委員 思うだけで、何の関連性もなくて、何の論理的な説明もなくて、思いますだけじゃ全く説明にならないというふうに思うんですけれども、そこは水かけ論になってしまっても時間のむだですから、ちょっと視点を変えて聞いてみたいと思います。
 今回の新制度の立法については、なぜ立法してきたのかということは先ほど来からいろいろと説明がございました。精神福祉法の平成十一年の改正、あるいは平成十三年からの法務省厚生労働省との検討というようなことがございましたけれども、実は、私の手元に、これは平成十二年に法務省の刑事局が出したメモで、こういうふうに書いてあります。
 「精神障害者の犯罪は、最近、特に増加しているわけではない。 精神障害者を危険な存在(犯罪予備軍)と見ることは社会情勢から見て困難であると考えられる。むしろ、精神障害者は、その者が抱える精神障害に対し適切な医療措置を施されるべき存在であるととらえることが必要である。」そして、この注として、「法務省において、犯罪を犯した精神障害者とそれ以外の者との再犯率を比較検討しているが、精神障害を持たない者と比較して精神障害者再犯率が高いとの調査結果は得られていない。」そして、「その中心的要素である「危険性の予測」について誰が、どのようにして行うのか、また、どの程度の確実性をもって可能なのか等これまで指摘されていた理論的・実際的に困難な課題がある。」ということを法務省としての見解として、刑事局の見解として示されているわけでありますけれども、こういう見解を持っておきながら、なぜ今回このような法案が提出されることになったのか、そのことを説明していただきたいというふうに思います。
○古田政府参考人 今回法案を提出するに至ったのは、先ほど来御説明している経過でございますが、最大のポイントを申し上げますと、殺人でありますとか放火でありますとか、こういう重大な犯罪行為に該当する他害行為に至った方たち、こういう人たちのその後のその状態に応じた処遇をどういう手続で決めるのが最も適当なのか、こういう問題が一つあるわけでございまして、これを措置入院の改善ということで可能なものかどうか、それとも何らかの新しい仕組みをつくる必要があるのか、この辺が非常に重要な問題であったわけでございます。
 これについてさまざまな検討を加えた結果、そういう重大な犯罪行為に該当する行動に不幸にして至った、こういう場合には、その状況に応じた取り扱いといいますか処遇を決めるには、それにふさわしい、やはり裁判所が関与する手続ということが必要であろう、そういう結論に達したということでございます。それがポイントでございます。
○平岡委員 今刑事局長に経緯をちょっと説明してもらいましたけれども、大臣、先ほど私が読み上げた法務省の刑事局の資料、これでは明確に、今回のような措置は適当ではない、むしろ精神医療の問題としてきちっとやっていくべきだ、そういう見解を法務省は持っておきながら、今回こういった法案を提出してきたことについて、大臣としてどうお考えになりますか。
○森山国務大臣 先ほど先生がお読みくださいました文書、法務省の方で、ある一定の時点でそのような考えを持っていた。今も基本的には変わらない面も多いと思いますが、でありますからこそ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案というものでございまして、その皆さん方の医療とか観察とかいうことに関する手続を決めたものでございますので、そのような問題意識を受けた上でつくられたものというふうに私は解釈しております。
○平岡委員 今、精神障害者の方々の医療と観察、一応、重大な他害行為を行った人たちということの限定でしょうけれども、そういう医療と観察のための法案であるというふうに言いましたけれども、最初に申し上げたように、どうもそこにまやかしがある。そういうふうに言っておきながら、実は社会の保安を維持するためのものであるという先ほど来からの議論があるわけですよね。
 それで、せんだって、ここで同僚議員の方から、かつての保安処分と今回の新処遇制度というのはどこがどう違うのかというような質問がありまして、何か知らぬけど、法律に書いてあることをたらたらと述べて、全く子供の議論みたいなことが行われておりましたけれども、そもそも、保安処分というものの基本的な性格というものに照らして、今回の新処遇制度というものは保安処分に該当しないというふうに言えるんですか。いかがでしょう。
○森山国務大臣 先生がおっしゃいました保安処分というのは、多分、昭和四十九年の改正刑法草案及び昭和五十六年の刑事局の案における保安処分ということをおっしゃっているのではないかと思いますが、刑事手続の一環といたしまして、刑事事件の審理を行った裁判所が刑事訴訟手続によって刑事処分としてその要否や内容を決定することとされておりまして、また改正刑法草案におきましては、処分を受けた者は法務省が所管する保安施設へ収容する、そういうことを想定したものでございました。
 これに対しまして、この法律案による新たな処遇制度におきましては、刑事事件を審理する裁判所とは別の、精神科医をもその構成員とする裁判所の合議体が、刑事手続とは別個の審判手続によりまして、法的判断と医療的判断をあわせて行うことによって処遇の要否や内容を決定するものでございまして、刑事処分とは異なるものでございます。また、処遇を受けることとなった者は、厚生労働大臣が所管する病院へ入院または通院するということにしております。
 さらに、制度の目的という点から申し上げましても、改正刑法草案等における保安処分は刑法に規定することとしていましたので、刑法という法律の性格からして、社会防衛ということが直接の目的とされていた部分もございますが、この制度による処遇は、対象者に対して継続的に適切な医療を行うということ等によりまして、その社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでございますので、本法律案による新たな処遇制度と保安処分とは全く異なるものと思います。
○平岡委員 かつての保安処分であろうが治療処分であろうが、適切な医療を提供するという考え方においては、別にそれを否定していたわけでもないわけでありますよ。保安処分というのは、学問的にはいろいろな説があるかもしれませんけれども、基本的な性格として言えば、まず犯罪行為の存在を前提条件として、そして裁判所による言い渡しというものを条件とし、そして危険性を除去するために自由を剥奪または制限する、そして先ほど言いましたように強制的な治療を行うというようなことが基本的な保安処分の性格であるわけです。
 その基本的な性格に照らして、先ほどちょっとこの新制度を説明されましたけれども、結局は、いろいろなところでちょこちょこっと何か言っておられましたけれども、精神科医が一緒になって判断するからこれは裁判所による判断ではないんだというような言い方もされていましたけれども、実際はこれは裁判所で言い渡すわけですね。裁判所で判断をし、そしてそれに不服があれば高等裁判所そして最高裁へも上告していくことができる、そういう仕組みをとっているわけですね。ということは、もう本質的にはこれは保安処分そのものでしかあり得ない。
 先ほど来から、直接的な目的として社会防衛を刑法のときは挙げていたけれども、ここは直接的でないから違うんだと。では、間接的な目的としてはあるというふうにさっきからおっしゃっているわけでありますから、まさにこれは保安処分であるということを前提としてきちっと議論しなければいけない、そう思うんですけれども、いかがでしょうか、大臣。
○古田政府参考人 ただいま委員御指摘のとおり、保安処分という言葉の定義については、これは非常に広い、さまざまな考えがございます。ただいま委員が御指摘になった、裁判所による処分というふうに限定されておっしゃいましたけれども、保安処分という概念はそれに限らないという理解もまた一方でございまして、かつていろいろなことが議論された中で、例えば現在の措置入院制度もそういう意味では保安処分の一種であるという理解もあったわけでございます。
 したがいまして、保安処分というものをどういうふうに考えるのか、それによっては委員御指摘のようなことにもなろうかという面はあろうかとは思いますけれども、私どもが申し上げておりますのは、かつて問題になりました改正刑法草案等で導入が検討されたその制度とこの制度とは違うということを申し上げている。そこを御理解いただきたいと存じます。
○平岡委員 今刑事局長が、いみじくも、保安処分というのはいろいろあるんだというようなお話をされました。確かに、これが保安処分であるということできっちりとしたものがあるというふうに私も思いませんけれども、であればこそ、かつて、保安処分、治療処分、こういったものが検討されてきたときには、法制審議会刑事法特別部会といったようなところで、ちゃんと法制審の審議を経た上でこういう案を提示してきているわけですよね。昭和四十四年の保安処分、治療処分に関する要綱案、あるいは、昭和四十七年改正刑法における治療処分についてのものについては、いずれも法制審でちゃんと議論して、行われている。
 これは先ほど言いましたように、保安処分というのは必ずしもこれだというものがあるわけじゃなくて、我々の目から見たらこれはまさに保安処分そのものだというふうに思われるようなこの法律案を、全くそうした法制審の審議を経ずして出してくるというのは、いかにもこれは拙速であるし、国民全体の意見を踏まえていないというふうに私は言わざるを得ないんです。
 大臣、どうですか。この法案については、ちゃんと法制審議会の審議を経て持ってくるべきじゃないですか。どうでしょう。
○森山国務大臣 法制審議会は、法務大臣の諮問に応じて、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議することということになっております。
 一方、この法律案による新たな処遇制度は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者につきまして、刑事手続が終了した後にその適切な処遇を決定するための手続等を定めることによりまして、継続的に適切な医療を行い、また、医療を確保するために必要な観察と指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もって本人の社会復帰を促進することを目的にするものでございまして、民事法、刑事法その他の法務に関する基本的な事項と最初に申し上げましたが、法制審議会の仕事に関するものではないというふうに判断いたしまして、法制審議会による審議を経ることはしなかったものでございます。
○平岡委員 そういう、何か形式的に、前の保安処分とちょっとここが違っているからこれは保安処分じゃないんだ、刑法に書いていないからこれは法制審にかけなくていいんだといったような形式的な議論をしてもらっちゃ困るんですよ。やはり、この法案というのは国民にとって非常に重要な法案なんですよね。今までの日本の刑事法の世界の中で責任というものをどう考えるかといったようなことにもかかわってくる重大な法案なんですよね。それを、今言ったように形式的に、ここがちょっと違っていますから、ここは刑法の中に入っていませんから、こんなことで法制審議会なんか経なくていいというのは、私はとても認めがたいというふうに思うんですね。
 では、これからはどういうふうにやるんですか。刑法の中で改正しない限りにおいては、刑事法の問題についても別に審議しなくてもいいということになるんですか。
○森山国務大臣 法制審議会の仕事というのは先ほど申し上げたようなものでございますので、基本的に、刑法とか民法とか、そのような基本的な法律についての問題について審議をしていただくわけでございますが、もちろんそのほかにも、あるいは事態、内容によって必要な場合もあり得るかもしれませんが、基本的には、先ほど申し上げたようなことをやっていただく場所でございます。
○平岡委員 先ほど、この制度をつくるに当たって、これは坂口厚生労働大臣の答弁だったんですけれども、過ちを繰り返さないための制度を検討するんだというようなくだりがございました。
 そして、この法案の中には、「再び対象行為を行うおそれ」というふうに書いてありますけれども、再犯のおそれという言葉でいきますけれども、処遇の理由として端的に再犯のおそれということを挙げているわけであります。
 先ほどちょっと注意を受けましたけれども、再犯のおそれというのは、何も精神障害の方々だけの問題ではなくて、それは通常の健常者だって再犯のおそれのある方は多分いるんじゃないかなと。そういう抽象的な言葉で言えばですよ。ただ、それを判断するというのは、この人はそういう再犯のおそれのある人だというふうに決めつけるということはなかなかまた難しい問題があろうというふうに思うわけです。
 ただ、ここで皆さんが、再犯のおそれがあるということをもってして、社会的な秩序を守っていく、保安を維持していくというために拘束をしてもいいということになれば、これはいずれまた、精神障害者の方々以外の問題にも波及していくというふうに思っているわけですけれども、再犯のおそれによって身体を拘束していく、先ほど、身体拘束というとまたちょっといろいろ議論ありましたから、病院に閉じ込めておくというようなことを認めるその根拠、健常者に比べて精神障害者の方々をこういう形で処遇することについての根拠、一体どういう事実関係があり、例えば、健常者に比べて精神障害者の方々が再犯率が高いとか、再犯のおそれが非常に高いとか、そういう何か根拠があるんですか。
○古田政府参考人 先ほど来申し上げておりますように、この法案は、精神の障害によって心神喪失あるいは心神耗弱の状態で犯罪行為をするに至った場合に、これに対する治療を確保して、その社会復帰を図るということが最も中核的な目的であるわけでございます。
 そこで、再び対象行為をするおそれということを要件としておりますのは、再犯率が高いとか低いとかいうことよりも、そのような強制治療を施すために、どういう場合にそういう強制治療が許されるのか、そういう危険がない場合に強制治療というのはこれは許されるべきではない、そういう考えに基づいて、強制治療を施す範囲を限定するために設けているものでございます。したがいまして、再犯率というようなことと直接かかわりのある問題ではございません。
 ただ、念のため申し上げますと、精神の障害があって、それで犯罪行為に至った方々、こういう人たちのその後の再犯率というのは、厳密な意味での調査は大変困難でございますが、例えば、同じ方が何回刑事手続にのることになったかというような面から申し上げますと、全体としては二七%程度と理解しております。ただ、第三者に対していろいろな問題行動があった場合の方については、四〇%弱という数字が一応出ている。
 しかし、これは、いずれにいたしましても、すべての方についての成り行き調査をするわけにはまいりませんので、そういう一応の数字であるということだけ御理解いただきたいと思います。
○平岡委員 処遇の理由として再犯のおそれを挙げているということでありまして、そういうことで処遇が決まってしまうということであると、これは何か精神障害者の人たちだけの問題じゃなくて、もっともっと広がってしまうというような懸念もあるということでありますけれども、この再犯のおそれだけをちょっと取り出して考えてみても、果たしてこのおそれというのは判断できるのか、判定できるのかということが随分多くの人たちから疑問を呈されているわけであります。
 そこで、実は本会議のときに厚生労働大臣は、再び対象行為を行うおそれを判断可能であるというふうに答弁をされているわけでありますけれども、その根拠として、二〇〇〇年版オックスフォード精神医学教科書を挙げておられました。
 実は、私、どの部分を見て厚生労働大臣はそういう答弁を了承されたのか教えてほしいということを聞きました。そうしたらこれをいただきました。ニューオックスフォードテキストブックオブ、その次は読めないんですけれども、これをいただきました。それで、私にこれを見て判断してくれと言われました。私は、何だ、厚生労働大臣はこれを見てその答弁を判断されたんですねと。
 厚生労働大臣、ちょっと、これを読んで、どこの箇所で厚生労働大臣がそういう答弁をされたのか、御教示いただきたいと思います。
○坂口国務大臣 本会議におきまして私がそういうふうに申し上げたことは事実でございますし、また一例として申し上げたわけでございます。
 昨年、私もドイツに参りまして、多くのこういう精神科の先生にお会いをして、実際可能かどうかということの問題につきまして議論をさせていただき、多くの先生方から、それは可能だ、我々はそれをやっているというお話を伺ったわけでございます。
 しかし、本会議におきましては、そのオックスフォード精神医学教科書につきましてお答えをしたところでございます。このオックスフォード精神医学教科書を引用いたしましたのは、精神障害者が暴力に及ぶリスクについて精神科医が予測することは国際的に当然のことというふうにされていたからでございます。
 具体的にどういう記述があるかということでございますが、患者が他人に害を及ぼさないように振る舞う見込みを評価することは正当な臨床活動である。これは二千六十六ページでございます。右の段でございます。
 それから、リスクアセスメントとリスクマネジメントは際立って現在の精神保健の中心的な業務となってきている。これは二千六十七ページでございます。これも右の段でございます。
 それから、治療において患者の暴力の可能性を的確に評価する能力を持つことは、精神科医臨床心理士、さらにはその他の精神保健の専門家に対しても期待されているものである。それは二千六十八ページでございます。
 それから、我々は精神保健の専門家として将来の確率の評価に従って行動しなければならない。我々はリスクアセスメントとリスクマネジメントの方法を可能な限り効果的なものにする努力をしなければならない。これは二千七十六ページの右の段でございます。
 以上のようなところを踏まえまして、お答えをさせていただいたところでございます。
○平岡委員 今大臣が御答弁されたその箇所を日本文として我々にお示しすることはできますでしょうか。
○坂口国務大臣 それは可能だと思います。
○平岡委員 それで、今、厚生労働大臣がずっと読み上げられました。いろいろなくだりがあろうと思います。
 実は、これは厚生労働省からいただいたんではなくて、別な方からいただいたんで、これが正しい訳なのかどうなのか私もよくわかりませんけれども、この中にもいろいろなことが書いてあります。リスクという言葉もおそれと訳すのか確率と訳すのか、やはり英語の本来の使い方というのはいろいろあるわけでありまして、リスクマネジメントというのも、やはり確率的なもので、どのように確率を少なくしていくかというようなことになるわけですね。例えばこういうくだりがあります。
 「重症の精神障害者によって犯される殺人はきわめて稀なので、殺人をおかす患者を事前に予測しようとすれば、必然的に多くの患者を誤って危険であると判断することになる。」「あらゆる患者が将来に暴力行為を犯すすべての可能性を摘みとろうとすることは、広範囲に強制力を行使することにつながり、精神医療従事者をますます監督的かつ管理的な役割へと追い込むことになるであろう。」「リスクに対する保険数理的方法を確立しようとする研究が現れた。」こう書いてあります。リスクについても保険数理的方法、これもよくわからないかもしれません、私もわからない部分がありますけれども、今私が読み上げただけでも、これはおそれを予測することについては非常に大きなリスクがあるということも述べているわけですよね。それにもかかわらず、あえて自分の都合のいいところだけ引っ張り出してきて、これを根拠にして、おそれを予測することは可能であると言うのは、私は、いかにも短絡的といいますか自己中心的というか我田引水的というか、いっぱい言葉はあるわけですけれども、と思うんですね。
 大臣いかがですか。これ、本当にちゃんと全部読んで、自分としてそういう理解をされた上であの答弁されたんですか。
○坂口国務大臣 正直に申し上げますが、率直に申し上げまして、全部読んだわけではございません。しかし、そこに書かれておりますこと、それから私がドイツ等で勉強しましたこと等を踏まえまして、諸外国におきましては予測ということはやはり行われている、この予測というものは可能であるという立場に多くの学者が立っているということは事実でございます。
 それは当然、そのいろいろのデータをもとにでございますから、そしてあくまでも予測でございますから、すべてがそれではその予測どおりにいくかということになれば、それはいかないことは医学の世界のことでございますからあり得るというふうに思いますが、しかし、そこはかなり研究されている、この分野における研究がかなり積み重ねられているということは事実でございます。その研究が積み重ねられた上で、その人たちもいろいろの行動をしているわけでございます。
 これは、諸外国でのそうした今までの多くの経験を踏まえた上での判断でありまして、私は、日本におきましてもこれからこの分野の方面は研究されるのであろうというふうに思いますし、その研究の結果その予測が次第に可能になる、そういう研究結果が積み重ねられていくのではないかというふうに思っている次第でございます。
○平岡委員 今大臣は非常に重要なことを言われました。これから研究が進んでいけば次第にそういうおそれを予測することができるようになるであろうと。
 つまり、今はできていないということですよね。今できていないのに、この制度を持ち込んだら一体どんなことが起こるんですか。疑陽性といいますか、もしかしたら起こるかもしれない、本当は神様の目から見たらこの人は起こらないんだけれども、人間が判断することですから、もしかしたら起こるかもしれないというような状況に置かれた人たちが、やはりこの制度の中で強制的におそれがあるということで閉じ込められてしまう、そういうことになってしまうわけですね。
 それは、確かに、これから医療が進めば、精神医学が進んでいけば、予測をますます確率が高いものとしてできてくるかもしれませんけれども、今いみじくも大臣が言われたように、これから研究が進めば予測が可能になるかもしれませんという答弁だったですね。そんな状態の中でこんな制度を持ち込んでいいんですか。大臣、もう一度答弁してください。
○坂口国務大臣 もう少し丁寧にお答えをさせていただきたいというふうに思いますが、不幸にして、日本の中ではそういう研究というのは今まで進んでこなかった。しかし、欧米を中心にいたしまして、諸外国におきましては研究が進んできているわけであります。私は、その一つとして、ドイツ・ベルリンにおきます病院、そして携わっておみえになります先生方のいろいろのお話も聞いたりもしてきたわけであります。
 そういう診断の、まあ診断の中の一つに入るというふうに思いますけれども、そういう診断をするという技術あるいは仕方といったようなものにつきましての今までの諸外国における積み重ねがありますから、日本においてこれを導入いたしますときには、一遍にたくさんつくるわけではなくて、一カ所か二カ所つくっていくというようなことになるんだろうというふうに思いますけれども、そこの精神科の先生方は、そうした問題につきまして詳しい方も日本の中にもおみえだというふうに思いますけれども、諸外国のそうしたこともよく御勉強をいただかなければならないだろうというふうに思っている次第でございます。
 現在も、日本の中におきましても、多くはありませんけれども、この道につきまして、かなり御勉強をされている先生方もおみえになることも事実でございます。ただ、一般的にこれが広がっていないということを先ほど申し上げたわけでありますから、その先生方を中心にしまして、さらに研さんを積んでいただくということが大事ではないかということを申し上げたわけでございます。
○平岡委員 丁寧に説明していただきましたけれども、最初にありましたように、日本ではまだ進んでいないんだというお答えも今の中にもございました。そういう状況の中でこんな制度を持ち込むということは、かなり私は短絡的といいますかいいかげんな対応ではないかというふうに思うことを指摘させていただきたいと思います。
 そこで、実はこの点に関して、六月七日のこの委員会で刑事局長が、処遇の判断について裁判所が関与しているケースがむしろ一般である、そういうくだりがございました。つまり、触法の精神障害の方に対して処遇を決めるときに裁判所の関与しているケースが一般的だという答えがありました。そして、今、厚生労働大臣の方からも、諸外国においてはいろいろな予測みたいなことが行われているんだというようなことがございました。
 そこで、ちょっと一つだけ、私もよくわからなかったので確認していきたいと思うんですけれども、そうした裁判所が関与して処遇が決定されたという場合のその処遇先ですね。入院に限定して言えば、入院の処遇先となる病院というものは、これはそういう裁判所が判断した人たちだけが入る病院であって、一般の精神障害の方々がこういう裁判所の判断ではなくて入ってくるというものと全く別につくられているんですか。この点をちょっと、私もよく知らないので確認をしていきたいと思います。
 ただ、私がいろいろな勉強会で聞いたときには、非常にイギリスの制度というのが参考になるのではないかというようなことを説明された際にも、イギリスのこの入院される先の病院というのは、必ずしも裁判で処遇が決定された人たちだけが入る病院ではなくて、一般の人たちも入る可能性のあるというか入る病院である、そこで処遇がされるんだというふうに説明を聞いていますので、そこをまずちょっと確認させていただきたいというふうに思います。
○古田政府参考人 いろいろな国のすべてを必ずしも把握しているわけではございませんけれども、ただ、今御指摘のありましたイギリスにつきましては、私どもの理解しております限りでは、犯罪行為を行い、裁判所によって入院を命ぜられた者の中で、裁判所が危険性があると認めて退院制限命令をかけるという制度がございますが、この退院制限命令を受けた患者は、通常、マキシマムセキュリティーホスピタルあるいはリージョナルセキュアユニットというふうな、保安病棟あるいは保安病院に収容されているというふうに承知しております。
 ドイツを例にとりますと、ドイツの場合は、州立病院に収容されますが、その中でいわゆる司法患者用という病棟を用意しているのが普通で、そこに収容される場合が通常であるというふうに理解しております。ただ、常にそういう病棟に最後までいるということではなくて、ほかの病棟に移すことが適当な程度に病状が回復すれば、ほかの病棟に移すということも行われていると承知しております。
○平岡委員 この新処遇制度では、例えば、ある程度症状が改善したからこの処遇のもとではなくて通常の精神医療の処遇に持っていこうというようなことは、今ドイツの例をちょっと言われましたけれども、そういうことは可能なんですか。
○高原政府参考人 この指定入院医療機関で入院治療を受けることが必要でなくなった場合には、直ちにその他の、つまりその指定入院医療機関以外のところで治療を受ける。治療というか、入院を要しないという形になるわけでございまして、その段階におきましては、一般の医療機関で入院するとか、それから通院で治療を受けるとか、最低限、通院の命令といいますか決定は出ると思いますが、通院というふうな形で地域内処遇を基本とする。
 その中で、例えば自傷行為が問題になる、そういうふうな場合には、入院すれば、精神保健福祉法に基づきそういう処遇がなされるでありましょうし、御本人の方がもう少し入院していたいということで、入院が適切というふうに認められれば、一般の精神病院に入院する、そういうことはできる、そういうふうな構成となっております。
○平岡委員 この法律の一つの大きな問題点というのは、短くするために触法精神障害という言葉を使わせてもらいますけれども、その人たちとそうでない人たちを完全に分離してしまって、本当の意味での治療目的ではないということなんですね。
 ですから、高度な治療を要する人たちに対しては、多分考えられておられる指定病院、何かえらい高度な病院らしいですけれども、そういうところで処遇を受けて、もうそこで処遇する必要はなくて、実は入院は必要だけれども一般の措置入院のような形で処遇していくことでもう十分に対応できるというようなときに、こっちに移っていくというような仕組みとか、そういうものが全くないわけですね。本当に隔絶されてしまっている。
 こんな医療の仕組みというのをつくるということに非常に私は疑問に思うんですよね。医療ということを皆さんが強調されるならされるほど、やはり、いろいろな精神医療に対する仕組みというものがお互いにつながり合い、連絡し合いという仕組みがなければいけないというふうに思うんですけれども、大臣、どうですか。こんな仕組みをつくって、全く通常の医療と隔絶した仕組みをつくり、そしてまた別のところには一般の精神医療が行われている、そういう仕組みをこの日本の社会につくっていいんですか。どうでしょう。
○坂口国務大臣 先ほどから議論されておりますように、この場合には再犯を予防するということが大前提としてあるわけであります。いわゆる重大な犯罪を繰り返さないという大前提があって、その人たちに対してどうするかという問題でございます。
 一般の精神病棟でおみえになる皆さん方の中にその皆さん方もお入りいただくことができるようになれば、それは行くということもあり得るんだろうというふうに思いますし、それから、もう入院している必要がないということになればお帰りをいただいて、そして、そのかわりに、その皆さん方を温かく見守る人たちをつくっていくということにするわけでありますから、決して社会から隔離を常にし続けるということではありませんで、早く治療をし、そして社会復帰をしていただくならば、そこで多くの皆さん方が温かく見守っていくというようなシステムをここに導入しているわけでありますから、決して隔離された問題ではないと思っております。
○平岡委員 今、坂口大臣が重要なことを言われました。この法案は再犯を予防するということが大前提である、こういうふうに言われました。
 法務大臣、いかがですか。先ほど来からの説明の中では、まずこの法律の一番の目的は何ですか、この前も塩崎さん、聞かれましたよね、本会議でも聞かれましたよね、そのときに、大臣は何と答えられたか。多分覚えておられると思いますけれども、社会復帰を促すことがこの法律の主な目的なんです、主たる目的なんですというふうに言われました。今、坂口大臣は、再犯を予防することが大前提であると。この二つの省庁でもお互いに何か責任を押しつけ合っている。法務大臣は何か厚生省所管のような話を言い、厚生大臣法務省所管のような話を言い、一体どうなっているんだ、そんなことでこの法律がちゃんと機能するのか。法務大臣、どうですか。
○坂口国務大臣 私が再犯の予防を前提にしているというふうに申しましたのは、それは一度重大な犯罪を犯した人を対象にまずしているということを申し上げたわけでありまして、その人たちを一日も早く社会復帰させるということがこのシステムの中の大事な部分であることは先ほど申し上げたわけであります。
 しかし、そこへ入る人たちは、どういう人たちもみんな入れるのかといえばそうではない。それは、一度重大な犯罪を犯しそれが繰り返される可能性があるということを認めたときに、その人たちに対して一日も早い復帰、それは医学的な面での復帰もありますし、医学だけの問題ではなくて法的な意味での復帰ということもあるだろうというふうに思いますが、そうした趣旨を申し上げたわけであります。
○平岡委員 坂口大臣は、いろいろ勉強されておられるんだろうと思うんですけれども、一度犯罪を犯した人を対象とする制度であるということを表面的には言われました。
 ただ、本会議でこういうことも言っておられるんですね。現代の精神医学においては重大な他害行為を行うおそれがあることを判断することは可能であると。言われたのは、これは必ずしも一度犯罪を犯した人について言っているわけではなくて、精神医学の中では精神障害になっている人についてはそういう判断をすることは可能であるという仕組みというものとして大臣は答弁をされておられるんですよね。
 なぜ一度犯罪を犯した人だけを対象とする制度をつくるんですか。先ほど言ったように、精神医学では、大臣の答弁のとおりに言えば、現代の精神医学においては重大な他害行為を行うおそれがあることを判断することは可能なんだと言っているにもかかわらず、なぜ一度犯罪行為を犯した人だけを対象にする制度をつくるんですか。
○坂口国務大臣 よく理解をした上で御発言になっているというふうに思いますが、そこまで広げていくことになりますとさまざまな問題が起こってくると私は思います。したがいまして、非常にこの法律は限定的になっているわけであります。
 先ほどから議論がありますように、必ずしも犯罪を犯す人は繰り返しているわけではなくて、初犯の人もこれは多いわけであります。中には、初犯の方が多いんだからその人たちも全部含めればいいではないかという御議論も実はこの過程であったことも事実でございます。しかし、そこまで広げていきますとさまざまな問題に突き当たる。
 したがって、非常に限定的に、一度犯した人の中で今後もこれを繰り返す可能性がある、例えば、同じ環境でそして同じ病気の重さで同じ病状にその人が置かれたときに、その人が再び同じことを犯す可能性としては私は出てくると思うわけで、そうしたことに限定をしてやはりこれはいくべきだということでこの法律ができたというふうに私は理解をいたしております。
○平岡委員 最初に、この法律のまやかし、建前と本音が違うというような話をさせていただきましたけれども、まさにそういうまやかしがあるんですね。
 つまり、どういうことかというと、やはり一度対象行為といいますか犯罪行為に該当する行為を行った者に対して何らかの罰を加えよう、責任を問おうというような、そういう内容になっているから今のようなお話につながってくるわけですね。一度犯した者についてこういうことをしようと。
 逆に言うと、今回、もう一つの欺瞞、まやかしとして、立派な医療設備を持った、スペースが広くて立派な医療環境があるところに入ってもらうのでそこで高度な医療を行うんです、だからこの仕組みを認めてほしい、こういうような説明も行われているわけでありますけれども、もしそういう説明が正しいのであれば、先ほど私が言いましたように、いろいろと大変な精神障害にかかっている人たちもこの設備が利用できるようなものにしなければ論理的な整合性はないというふうに思っているわけです。
 こうした立派な設備がなぜ一般の精神障害の人たちが利用できる施設としてつくられないのか、この点を厚生労働大臣にお伺いしたいと思います。
○坂口国務大臣 まだ何にもできていない段階のことでございますから、これからどうするかという問題になるわけでございますけれども、先ほどから議論がございますように、特別な病院をそこにつくって、そして、この人たちだけの病院をつくるということではなくて、国立病院の中の一つの病棟なら病棟を改造なら改造させていただいて、そしてこの病棟に充てさせていただくといったようなことになるのではないかというふうに思っている次第でございます。
 したがいまして、病院としましては、一般の精神病患者の皆さん方も入院をしておみえになる、しかし隣同士の部屋ということではなくて、特別な病棟においてそれは行うといったことになるのではないかと思っている次第でございまして、すべてのほかの病院はこのままにしておいて、そしてそこだけをよくするというような考え方はもちろんございませんが、これから順次、精神医療の現場のあり方というものにつきまして、今検討もいたしておりますけれども、この秋ごろには一つの結論が得られますので、早くさらに充実したものにしていきたいというふうに思っている次第でございます。
○平岡委員 いろいろな人たちが指摘する中に、やはり、今の精神医療の現状というものが余りにも問題が多いんだということを言われる方が多いんですね。特に、私もこの前八王子の医療刑務所へ行きましたときにいろいろつくづく感じたんですけれども、刑務所の中の精神医療そのものがどういう水準にあるかというのはいろいろな評価があるかもしれませんけれども、一たん医療刑務所から出るときにどういうふうな受け入れがあるかといったようなことを考えたときには、本当に皆さんが苦労されているような状況にある。つまり、一般の精神医療の状況というのが、余りにもずさんな、余りにもいいかげんなものになってしまっているというところにやはり基本的な問題があるんだろう。
 ですから、この法案とは切り離した問題として、私もぜひ厚生労働大臣にお願いしたいんですけれども、一般の精神医療のそうした仕組みなり、あるいは制度なり運用なりということに対して、もっと真剣に厚生労働省として対応していく努力をしてほしいということをこの場でお願いしておきたいというふうに思います。
 それで、ちょっと時間がなくなってしまったのですが、あと、大きなテーマとしては、今回の処遇法について言うと、憲法上のさまざまな手続保障規定というのがございます。直接的には刑事事件を対象としたような内容でございますけれども、先ほど申し上げましたように、この法律の仕組みというのは、一つは、先ほどから議論していますように、一度そういう触法行為を行った精神障害者の方々に対しても罰を加えよう、責任を問おうというようなこと、あるいは保安処分的な要素、身柄を拘禁していく、こういった要素が十分に含まれた法案になっているにもかかわらず、この手続的な保障がほとんど憲法の規定に違反しているといったような状況になっているというふうに私は見ております。
 例えば、二十四条に「事実の取調べ」というようなことがございますけれども、この事実の取り調べにおいても、自白法則あるいは伝聞証拠排除原則などがほとんど守られていないという状況であります。こうした憲法三十一条以下の適正手続に違反しているというような規定を置いているということについて、これは大いに問題だと思いますけれども、法務大臣の見解をいただきたいと思います。
○森山国務大臣 この法律案によります処遇の制度は刑罰にかわるというものではございませんで、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者であって、不起訴処分となり、または無罪等の裁判が確定した者に対して継続的かつ適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行うということによって、その者の社会復帰を促進するというための制度でございます。これは先ほど来たびたび申し上げたとおりでございます。
 また本制度による処遇は、その者が対象行為を行ったからといって当然に行われることとなるものではなくて、広く医療が必要な者の中からこの制度による医療を行うこととする者を限定するため、一定の行為を行った者であることをその要件としたものでございます。裁判所は検察官の認定に疑問を抱いた場合に、本制度の対象者であることを確認するために、これに必要な限りで事実の取り調べを行い、関係証拠によって対象行為の存否を確認することを想定しております。
 したがって、このような本制度の目的や対象行為を行ったことの要件の趣旨等にかんがみますと、対象行為を行ったか否かの確認手続を含め、この制度による処遇の要否、内容の決定手続は刑事訴訟手続と同様のものでなければならない理由はありませんで、裁判所が適切な処遇を迅速に決定し、医療が必要と判断される者に対しては、できる限り速やかに本制度による医療を行うことが重要であるということにかんがみまして、刑事訴訟手続より柔軟で十分な資料に基づいて適切な処遇を決定することができる審判手続によることが最も適当であると考えます。
 このため、本制度においては対象行為の存否の確認を含め、裁判所による審判手続により対象者の処遇の要否、内容を決定することとしたものでございまして、このような仕組みが憲法第三十一条以下の趣旨に反するものとは考えられないと思います。
 なお、この法律案による制度と同様に、非訟手続で非行事実の認定を行うことにしている少年審判についても憲法の趣旨に反するとは考えられません。
○平岡委員 今長々と言われましたけれども、この法律というのはやはり何かコウモリみたいな感じで、あるところを攻められると、いや、これは医療を提供するものですから、あるところを攻めますと、いや、これは裁判手続できちっとやっています。こういうような何か二面性を持ったところがあるいいかげんな法律だというふうに、私は非常に欺瞞に満ちた、まやかしのある法律だというふうに思っております。ぜひ真剣な議論をこれからもしていただいて、ぜひよりよい制度をつくっていくということを政府と一緒に、あるいは与党の方々も一緒になって考えていきたいと思います。
 時間が参りましたので、これで終わります。
○園田委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

【次回へつづく】