心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その9)

前回(id:kokekokko:20051231)のつづき。
ひきつづき、6月28日の法務委員会での国会審議です。野党側質疑として、植田議員が質問します。
【植田委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会会議録第18号(同)
○園田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。植田至紀君。
○植田委員 社会民主党市民連合の植田至紀です。
 きょうは、初めてのこの法案にかかわる我が党の質問でございますので、おおむね立法の背景に横たわる問題について、幾つかの点にわたって、主には法務、厚生労働大臣にお伺いをしたいわけです。
 まず、冒頭、これは午前中の質疑でもお話があった問題だろうと思いますけれども、いわゆる昨年六月の池田小事件、池田小学校で起きた児童大量殺傷事件の加害者が過去精神病院への入院歴がある、いわゆる触法精神障害者の問題としてとらえられたがために、与党においてまず先行的に検討が行われていた。そして、それにいわば誘引される形で本法案が政府から提出されたというふうに私はまず入り口として認識しておりますが、そういう理解でよろしいわけでしょうか。これは、法務大臣厚生労働大臣お二方両方から、午前中のお話とダブるかもしれませんが、お話しいただければと思います。
○森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇のあり方につきましては、例えば、平成十一年の精神保健福祉法の一部改正法律案の審議の際に、国会におきまして、その検討を早急に進めることとの附帯決議が行われておりますように、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件が起こる前から適切な施策が求められていたものでございまして、法務省厚生労働省におきましても、昨年の一月から合同検討会を開催するなど調査検討を進めてきたところでございます。
 そのような中で大阪・池田小学校の事件が発生いたしまして、これをきっかけといたしまして、精神医療界を含む国民各層から適切な施策を求める声がさらに高まったものと考えております。このような国民各層からの御意見をも踏まえまして、この法律案により新たな処遇制度を創設するということにしたものでございます。
○坂口国務大臣 午前中にも御答弁を申し上げたとおりでございますし、今また法務大臣からも御答弁のあったとおりでございますが、平成十三年の一月から法務省厚生労働省の間で合同検討会を続けておりまして、事務レベルではございますけれども、かなり頻回にこの会談を重ねておりまして、問題点を煮詰めてきたところでございます。
 これは、先ほども法務大臣からお話ございましたように、精神保健福祉法の改正のときの附帯決議におきまして促進するようにということでございまして、それらを受けてやっていたわけでございます。
 先ほど委員が御指摘になりましたように、池田小事件が起こりまして、そうした問題がさらにこの論議を加速させたことは間違いないというふうに思っております。さらに、与党内におきましても議論が重ねられまして、この法律の提案に結びついた次第でございます。
○植田委員 両大臣のお話はわかりますが、今回、例えば、既に附帯決議があることも承知しておりますし、池田小事件というものがそうした論議を加速させる一つの契機になっただろうという御認識ですけれども、かかる重大な問題が起こり、そしてそれを受けて、やはりこうした問題について議論をしていきましょう、また、新たな制度的枠組みが必要だろうという議論をするに当たって、これは次回聞こうとは思っているのですが、少なくとも二つの問題が出てくるだろうと思います。
 一つは、そもそも今回政府が出された法案が、例えばこうした池田小の事件を防止する、そうした事件を未然に防ぐという意味で、本当にそうした問題意識と合致しているのかどうなのかという点が一つあるかと思います。
 それともう一点、池田小事件でもそうですけれども、特に心神障害を持っておられる方々が犯罪を起こした場合、そういう意味では精神障害者全般にかかる差別と偏見というものがそういうときに高揚してしまう局面があるかと思います。新たな制度的枠組みを仮に検討するに当たって、新たな差別や偏見を起こすようなものであっては決してならないということも一つやはり考えていかなければならないと思います。
 ですから、国民各層の意見というものの前提に、そうした意識を規定づける前提に、後でいろいろとお伺いしますけれども、差別や偏見を引き起こしてしまうような精神医療の現状であるとか、また刑事手続における問題等々というもの、また措置入院の結果の問題等々あるのではないかと私は思っております。
 その点につきまして、きょうは民主党案全体にわたって質問をする予定はしておりませんが、次回以降お伺いをするに当たって、まず入り口のところで基本的な民主党の提案者の御認識をお伺いしたいわけですが、いわゆる立法事実、現状認識において、政府案とは当然違う中身を出されていることは承知しておりますが、現状認識としては、政府案をつくるに至った政府の作業といわば認識においては共通するところがあるのかどうか。
 例えば、今回の民主党さんが出されたところでも、池田小事件のようなものを繰り返さないためにということで冒頭にペーパーをいただきましたけれども、政府案もそういうことは言っていることは言っているわけでございます。
 ですから、少なくとも今置かれているこうした現状認識、立法事実において共通するのかどうかという点。する面もあって、しない面もあるということであれば、そういうことでも結構なわけですけれども、いずれにいたしましても、民主党さんとしては政府案には反対の立場ですからこういう法案を出されたんだけれども、その点については重なり合う部分があるのかないのか。また、固有の問題意識は那辺にあるのか、もしあるとするならば。その点について、これは今後民主党さんに御質問させていただくに当たっての予備知識として、まず、どういう問題意識で出されたのかということをお教えいただけますか。
○平岡議員 お答えいたします。
 立法事実についての認識は政府案と共通の点があるのかないのかというような点でございましたけれども、我々としては、現在の精神医療の状況というのがやはり多くの課題を抱えている、そういう認識、多分政府もお持ちになっているんだろうと思います。それが今回の法案につながったという面もあろうと思います。我々も、そういう面では同じ認識に立っていると思います。
 ただ、今回政府が提案した中身を見てみますと、先ほどの議論にありましたけれども、どうも、精神障害の方が犯罪行為に当たる行為をしたことに対して何か刑事罰にかわるような処罰をしようとか、あるいは、社会の治安を維持するような形での保安処分的なことをしようといったようなことがやはり随所に感じられているというふうに私は思っております。その点、民主党案は、責任を問うことのできない精神障害を理由にしてそういう行為に至ったことについては、やはり医療制度をきちっとつくっていくということが必要であるという認識に立って、精神保健福祉法の改正をしているということでございます。
 それからもう一つ、精神鑑定の問題がございまして、これも政府は、現在の起訴前の精神鑑定についてはほとんど問題がないんだ、ただ、いろいろあるかもしらぬから、改善のための努力をしようというようなことも先ほどの答弁でありましたけれども、基本的には、精神鑑定の制度には問題がないという認識に立っています。我々民主党の方は、やはり検察官段階における精神鑑定が特に問題が多い、場合によっては裁判所における精神鑑定についてももっと充実させる必要があるというような観点に立って、今回の民主党案を提出しているということでございます。
 それから、先ほど冒頭申し上げましたけれども、政府案は、今回の法案を出すことによって、部分的には何かどこか特殊なところで精神医療が進歩をしていくというような説明もありましたけれども、我々は、精神医療全体の水準を引き上げることが必要であるというような視点に立って、精神保健福祉法の改正を提案しているということでございます。
○植田委員 感想だけ申し上げておきますと、民主党の案、我が党でも説明を受けたわけですけれども、民主党さんが目指す精神医療の現状をどう改善していくかという問題意識と全体の構図は、我々も首肯でき得べき点、たくさんあるかと思いますし、できればあれをひとつ素材にしながら議論していく必要はあるかなと思うんです。
 ただ、我々が考えておるそもそもの前提として、受け皿としての精神医療の現状をどう改善していくかというところは、法案ではなくて民主党さんの十カ年戦略という政策文書になっているわけなんですね。ですから、今回の法案でいくと、いわば措置入院のところをどう充実させるかということなんですが、そこを充実させたときに、では今度実際の医療の現場がどう改善するのかというところが、今回民主党さんが出された法案では担保されていないなという気がいたします。
 きょうはそこは議論いたしません。全体として民主党さんの問題意識なりその方向性なりは非常に評価しつつも、実際の精神医療の問題の改善は法律ではなくて党が出しておられる政策文書である限りにおいて、ややそこは、今回の法案だけ限定して議論した場合、やはりちょっときついところあるな、そういう問題意識を持っておるということだけあらかじめ御承知いただければと思いますが、それについてはまた別途伺いますので。
 非常によくまとめられて、うちもあれぐらいのものがまとめられればというふうには思っておったんですが、そこは力量不足でございました。
 さて、精神医療の問題についてここでまずお伺いしたいんです。というのは、きょうは特にその背景に横たわる問題ということでお伺いしたいわけですが、ここでは特に厚生労働大臣が主になるかと思いますが、要するに現状がどうなのかということで、精神病院の医師、看護職の数の問題からまず聞きます。
 一九五八年の厚生省の通知で、他の科よりも医師、看護職を三分の一ないし三分の二で構わないということで、実際、それすら下回っているという実態が長らく続いてきたわけです。お話を伺いますと、看護職の格差は減ぜられているようですけれども、医師についてはまだ十分改善が見られていないように思います。とりわけ、この五八年の通達以降、六〇年代、いわば劣悪な精神病院がたくさん生まれたんではないか。これはかつての宇都宮病院における職員による患者撲殺事件等々でも明らかだろうと思います。ただ、こうした問題が、マスコミや世論、また国際世論が騒ぎ始めるまで、指摘するまで、実際のところ、厚生省や司法当局というのが調査に動いていなかったというのが実態ではなかったかと思うわけです。
 そんな中で、例えば一般医療ですと、医師が十六人に一人、看護婦が三人に一人、薬剤師が七十人に一人ということですが、精神医療については、医師が患者四十八人につき一人、看護婦が六人につき一人、薬剤師が百五十人につき一人ということが基準となっているわけですけれども、こうした問題をまず改善することが先決なんではないでしょうか。少なくとも、精神医療の実態が決してよろしくない、それを改善していかなければならないということが共通の土俵であるとするのであれば、この問題をまず改善するというのが必要なんじゃないのかなと。
 私は精神科の専門家でもお医者さんでもないので、実際にその程度の基準でできるんだということであればそういう御見解でも述べていただければいいんですが、こうした基準を見直す必要はないんでしょうか。もしないとするならば、一般医療よりも低い水準で構わないという理由、根拠というのがどの辺にあるのか。これは厚生労働大臣にお伺いいたします。
○坂口国務大臣 精神医療の内容もだんだんと変わってきたというふうに思っております。したがいまして、これからの精神医療のあり方というものにつきまして、現在も検討会でいろいろ検討をしていただいているところでございますが、そうした専門家の皆さん方の御意見も伺いながら、ひとつさらに精神医療の面における前進をさせていきたいというふうに思っております。
 もちろん、その中には人的な配置の問題もあるというふうに思っております。現在の看護婦さんの数にいたしましても、六対一ということでございますから、これは最近まではもっと悪かったわけでございますけれども、よくいたしましたけれども、現在そういうことになっている。果たしてこういう状況でいいのかどうかといったこともあるわけでございまして、現状に即して、医療の進歩に即してその内容を改善していかなければならないというふうに思っております。
 ことしの秋ごろには、検討していただいております結果も出るようでございますので、そうしたことも踏まえまして、一層、精神病院のあり方といったものにつきましても前進をさせたいと思っているところでございます。
○植田委員 今お伺いした点、要するに、そもそも現行の基準にかかわっても当然検討の対象であるという認識をしてよろしゅうございますでしょうか。
○坂口国務大臣 まさしくそこが論点でございまして、現状と、そして今後進んでいくであろう精神医療の中身とを見まして、そして適切であるかどうかの判断になるだろうというふうに思っております。
○植田委員 今のが基準の話でございますわね。基準について見直していかなければならないというのが論点だということですが、現状においてその基準を下回っている施設がやはりかなり相当数あるということが指摘されているわけです。
 まず、そこで伺いますが、医師、看護婦、薬剤師、それぞれ精神医療についての基準があるわけですけれども、基準を下回っているような施設が大体それぞれどれぐらいのパーセンテージなのか。これは参考人の方でも結構ですけれども、お答えいただけますか。
○高原政府参考人 平成十二年度におきます、医療法第二十五条に基づく立入検査について各都道府県等が実施した千二百の精神病院のうち、医療法におきます人員配置基準を満たしていたものが、医師数については七八・六%、九百四十三病院、看護師については九七・二%、千百六十六病院、薬剤師については八三・五%、千二病院であったと承知しております。
○植田委員 私も、質問の中でその看護の部分にかかわってはかなり改善が見られるということは申し上げたかと思いますが、改善をしているといっても、医師が七八・六パーということは二割以上がその基準すら下回っているということでございますよね。とすれば、少なくとも、そもそもこの基準自体が論点となって今議論をなさっておられるわけですわね。だから、この基準を下回るような基準が出てくることは恐らくないだろうと思うわけですが、現に今あるその基準すら下回っているそれぞれの施設にかかわって、今立入検査とおっしゃいましたけれども、それぞれ具体的にどんな指導を行っておられるんでしょうか。
○高原政府参考人 人員配置基準の遵守は、良質かつ適正な医療の提供のために重要な事項であると考えております。このため、都道府県等において、原則として毎年すべての病院に対し医療法に基づき立入検査を実施します。その際に人員配置基準の充足状況についても調査を行い、基準に達していない場合はその改善を指導してきたところであります。また、厚生労働省におきましても、都道府県に対する事務指導監査の際に、精神保健福祉法の指定基準を遵守していない病院については指定の更新を行わないようにするなど、指導の徹底を図っているところであります。
 人員配置基準自身の問題につきましては、ただいま大臣が御答弁申し上げたとおりでございます。
○植田委員 いずれにいたしましても、まず基準そのものが見直されなければならない一つの論議の対象になっており、そしてまた、その基準を満たしていないところがこれぐらいのパーセンテージだったら、毎年指導を行っているということでございますから、その意味で、まず精神医療の現場において満たされていないところがありますよということだろうと思います。満たされていないというところが大切だと私は思うんです。
 そこで、私、この辺、特に医療のところは門外漢なので、ここは専門の大臣の方にもお伺いしたいわけですが、調べましたら、精神障害者の入院患者のベッド数が大体三十五万人分あるそうですね。そして、そのうち半数以上の十七万八千人分が二十四時間隔離病棟、それで、ここは出入りも施錠されておりますし、閉鎖されておる。そこに約十五万の人が五年以上にわたって隔離されておるというようなことも聞くわけです。
 今度は、治療のあり方、医療のあり方ですけれども、まず、当然ながら患者一人につきの医師なり看護や薬剤の数は、それはそれなりに基準を満たした上で、なおかつもう一回検討を加えていかなければならないけれども、こういう言い方をするとどぎついですけれども、強制隔離政策を低劣な医療によって維持をしていくということは、決して現在の日本の精神医療において正しいあり方であるとは思いません。その意味で、低劣な医療、これを今回は医師の頭数だけで象徴させましたが、じゃ、こうした隔離病棟、強制隔離政策、そうしたものについては今後どういうふうにお考えなんでしょうか。
○坂口国務大臣 これもこれからの精神医療の進捗状況によるというふうに思いますが、まず最初に、現在治療を受けなければならない人というのはどのぐらいになっているのか、これは、年々歳々、最近ふえてきているというふうに言われております。
 そして、その中で本当に入院をしなければならない人がどれぐらいな割合で、外来の通院治療をお受けになる方がどれぐらいでいいのかということの見定め、そして、現在おみえになります精神科の先生の数、あるいは看護婦さんの場合には他の科も共通でいきますけれども、先生の場合には、なかなかほかの科の先生にこちらにコンバートしてもらうというわけにはいきません。したがいまして、医師等の数の問題等も考えていかなければならない。
 今後の問題として、この精神科の先生が非常に少ないということであれば、やはり精神科の先生がもう少しふえていくような対策を講じなければならないし、まず、基本的な問題としてはその辺のところも考えていかなければならない。
 そして、精神科の薬剤等におきましても非常に優秀な薬剤が出てまいりまして、今までとは違った内容になってきております。したがって、今までならば入院をしあるいは隔離をしというようなことが必要であった皆さん方の中にも通院で可能といったような方も出てまいりますし、そうした医療の進み方等もあわせながら検討をして、今後のこの対策と申しますか、計画というものを立てていかなければならないというふうに思っている次第でございます。
○植田委員 だから、私が申し上げている課題については当然課題の一つとして否定なさらないわけですが、幾つもそうして検討しなければならない課題を設定され、御答弁をされればされるほど、そうしたものの整備がまだ途上にある中で何でこういう政府案が出てくるんだろうという疑問がますますますます深まっていくわけなんですよね。要するに、精神医療の実態の改善こそがまず先決であるにもかかわらずかかる法案が出てくることへの疑問は、今のお話を伺いながら、むしろ私は非常に深く受けとめるわけです。
 といいますのは、厚生労働大臣、実際治療を受けながら、精神障害が原因でもしくは精神障害を持った方で犯罪行為をするという人がいらっしゃったとしましょう。そうなれば、やはりこれは医療環境に何か問題があったのではないか、まずそこが問題だったというふうに考えるのがごく自然だろうと思うんですよね。その点、別に間違ってませんよね。どうでしょう。
○坂口国務大臣 これは病状とそして診療というものとのかかわりでございますが、先生が御指摘のように、一般的に申し上げれば、精神科医療の全般的なレベルアップというのは、これは当然のことながら必要だというふうに私は思っております。
 さはさりながら、そういうレベルアップをいたします中で不幸にして重大な犯罪を犯すような人が出てまいりましたときに、そしてその人が繰り返す可能性があるというふうに思われましたときに、その皆さん方をどのような形で一日も早く健全に、そして社会に帰っていただけるようにするかといったことを考えていかなければならない。それは、その患者さんの問題でありますと同時に、社会全体に及ぼす影響もあるわけでございますから、そこをやはり我々としては考えていかなければならないというふうに思っております。
 最初に御指摘になりましたように、もし仮にその皆さん方を放置、放置という言葉はよくありませんけれども、特別にその皆さん方に手を差し伸べるということをしなかった場合、そういうことになってもし仮に重大な犯罪が繰り返されるということになりますと、これは精神患者の皆さん方全体にも大変な御迷惑をかけることになるわけでございますし、そうしたこともやはり考えていかなければならないと思っている次第でございます。
○植田委員 大臣、おっしゃる話は、もちろん、一般論としてそういう問題意識をお持ちであるということについては私は決して反論するつもりもありませんし、それはそのとおりだろうと思うわけです。しかし、そもそもかかる問題が議論される背景には、一般論の話じゃないわけですよね。個々の事例が、特に、例えば社会的に深刻な不安を呼び起こすようなそうした事例、事件が起こるときに必ずこうした世論が沸き上がるわけです。
 要するに、少なくとも私が申し上げたいのは、一般論として頑張らなきゃならないということはよくわかる、それは何も精神医療に限ったことではありませんから、医療全体そうですから。ただ、この種、個別の事案にかかわってそうしたことに対処できるような精神医療というものを確立していかなければならないということ、それについての努力が積み重ねられてきたのかどうなのかという点について、私は若干疑問を持つわけです。
 例えば、かつて佐賀でのバスジャックの事件の少年がいましたけれども、そこの入院していた病院ではほんまにどうやったんやという議論がいろいろ内からも外からもあったと聞いています。でも、そういうケースというのは意外と寡聞にして聞かないケースが、私が物を知らないだけかもしれませんが、例えば事件を起こしたとされる通院者であるとか退院者を治療しておった病院における治療の内容、処遇体制というものは、やはりそうした機会をとらえて見直していかなければならないと私は思います。実はそういうことを余り聞かないんですよね。
 だから、今最初に聞いた、精神障害が原因で犯罪行為を犯すという人がいるということであれば、やはり医療環境に何らかの問題があったんではないかと普通考える、それは否定なさらないと思うんです。ならば、そうした個別の事件が起こったときに、そうした人々が通院しておった、入院しておった病院等、その施設の医師数、看護婦数、治療内容、これは年に一回立入検査をやっているわけですから調べられるわけですけれども、問題点等をちゃんと緻密に精査したことはあるんでしょうか。やはりそれは一般的な調査では済まない場合も出てくるかもしれませんね。それで、治療内容に問題はなかったというふうに判断されるケースもあるかもしれませんが、そもそもそうした問題点というものを実際にお調べになったことはあるでしょうか。
○坂口国務大臣 私の知る限りにおきましては、いわゆる病院の先生方の治療方針というものに立ち至って、そしてそれが適切であったかどうかということを調べたというケースはないというふうに思っております。
 したがいまして、これは医療全体の問題にもまた立ち至るわけでございますが、今、厚生労働省といたしましては、それぞれの病気についてのいわゆる基本的な考え方といったものを整理して、そしてさまざまな病気に対する治療のあり方の基本的な考え方というものを一つ一つまとめているわけでございます。大変な作業でございますが。
 しかし、現在のところ、それぞれの、例えば大学なら大学において、あるいは国立なら国立の病院、一般の病院なら一般の病院におきまして、先生方がおやりになっております治療方針、治療方法といったものについて、国の方が、それはこうすべきああすべきといったことを言ってはおりませんし、なかなかそこは言うべき範囲ではないというふうに思っている次第であります。むしろ、新しい世界の研究の成果でありますとか、あるいは流れといったようなものを御紹介申し上げていくといったことをやはり我々としてはやっていかないといけないのではないかというふうに思っております。
 例えば、病院によりましては、いわゆる開放治療を非常に進めておみえになるところがございます。開放治療は開放治療で非常にそれで効果をまた上げていただいているわけでございますが、しかし、開放治療におきましても、それでは問題点がないかといえば、一般社会の中におけるその人たちの存在の問題をどうするかといったことをあわせて検討をしていかなきゃならない、そういう問題点もあるのではないかというふうに思っております。
 少し話が長くなりましたけれども、結論的に申しますならば、病院の中の治療方針について、我々がそこにこうすべきだといったことを指摘したことはございません。
○植田委員 治療の方針なり内容、それはそれぞれお医者さんが判断して、これが適切だと思われる治療をされるわけでしょうから、それについてくちばしを入れるというのもおかしな話ですわね。それはおっしゃるとおりですわね。
 しかし、果たしてそれが治療と言えるのかどうかという疑念を抱くようなケースはないのかどうか。果たしてそれが治療と言えるのかどうか。そうでなければ、そこで入院なりなさっていた方々が出てきてからいろいろな訴えをされることもないでしょうし、また、そこで患者が不審な死を遂げてそのことが問題になるということもないだろうと思うんです。むしろ、そういうことをまた未然に防いでいかなければならないと思うんですけれどもね。
 だから、治療の中身、こういう治療をしていますよということは、それは私だって、行ったって、一度や二度見たって専門家じゃないからわかりませんが、果たしてそうした治療としての水準を超えたものをやっているのかどうなのかというのは、やはり何らかの問題が起こったときにきちんと精査すべきなんじゃないでしょうか。後で問題が起こって、冒頭申し上げましたね、宇都宮病院の話もしましたよね、ああいうのも治療ですから治療内容については立ち至って我々は申し上げられませんというふうに言い切れるんでしょうか。
 だから、私が申し上げているのはそういうところなんですけれども、その辺教えていただけますか。
○坂口国務大臣 先ほどバスジャックのお話を挙げられましたが、あの事件が起こりました後、恐らくその病院も含めてであるというふうに思いますが、精神科の先生方が集まられまして、そして今後の治療のあり方についていろいろと御検討になっているという話を聞いているところでございます。
 したがいまして、そうした問題が起こりましたときに、行政がそこに立ち入ってどうしろこうしろというようなことを言うのではなくて、やはり専門の先生方がいろいろと御検討をいただいて、そしてこういった問題を未然に防ぐためにはどういうふうなことが大事かというようなことをお話し合いをしていただくということが私は非常に大事ではないかというふうに思っております。
 そこには、行政の関与すべきものと、そして行政が関与してはならないやはり一線がある、やはり専門の先生方は専門の先生方として、その辺のところをいろいろ学会等で御議論をいただくというのが本来の筋ではないかというふうに思っている次第でございます。
○植田委員 それは本来の筋でしょう。そういうことで学問、医学というのは進歩するんでしょうけれども、そのことは私は別に否定も何もしているわけではないんです。
 ただ、今申し上げた私の趣旨は御理解いただいていると思うわけです。要するに、医療の話ではない、医療と言えないような実態が実際訴えられている、そのことについての事実関係を把握する必要があるでしょうということを私は申し上げているんですよね。
 だから、今のその専門的な医学の話ではなくて、精神医療の話ではなくて、果たしてそれが医療と呼べるものなのかどうなのかということを検証しなければならないケースが余りに多過ぎたんじゃないですかということを申し上げたんです。そこはあえてしつこく繰り返しませんけれども。
 いずれにいたしましても、いわゆる精神に障害を持っておられる方のそもそもの犯罪の発生率は低いわけですよね。再犯率も決して一般の健常者と比べて高いとは言えません。このことも一応法務省の方に確認しようと思ったんですが、ちょっと時間がありませんのでもう質問はいたしませんが、少なくとも再犯率も犯罪発生率も精神障害を持った方々の発生率は低いというのははっきりしているわけでございます。少なくとも高いとは言えない。低い、だからほうっておいたらいいのかというふうにおっしゃるだろうと思うわけですが。
 これは厚生労働大臣の御見解を伺いますが、そうした精神に障害をお持ちの方が間々何らかの犯罪を犯すケースは、これは事実として存在するわけです。それを未然に防止するための大前提というものは、そもそも適切な医療が施されることであり、またそれが施される体制の整備が確立されること、その不断の努力がまずそもそもの大前提としてあるよということは確認できますね。
○坂口国務大臣 そこは御指摘のとおりと私も思います。
 そして、入院をしておみえになります場合には、病院の管理下にありますから、かなり皆さん方の診療というものは順調に進むだろうというふうに思っておりますが、退院をされました後、そして、御家族があればいいですけれども、お一人でお住まいになるというようなケースもあるわけでございますから、退院をなさいました後、その患者さんが十分に、例えば薬をお飲みになっているかとか、あるいはまたスポーツあるいはまたお仕事等に対してどのように対応しておみえになるかといったようなことについて御相談に乗る、その皆さん方のパートナーになるような人が私は必要だというふうに思っております。
 それが地域の保健婦さんなのか、それとももっと違った形の人であるのか、それはいろいろあるだろうというふうに思いますが、そうした体制もつくり上げていかないといけない。病院内の、いわゆる病院の問題とそして地域社会における手の差し伸べ方、そうしたこともあわせて充実をさせていかなければならないと思っているところでございます。
○植田委員 非常にいい話なんですよ。地域医療の充実ということも非常に大切なことですよね。実際に、社会に復帰をする、それをフォローしていく、またケアをしていく、そうした体制づくりも大切だ、やっていかなければならないと厚生労働大臣おっしゃるわけです。
 やっていかなければならないといみじくもおっしゃった。要するに、今私聞きましたですよね。こうした精神に障害を持った方々のそうした犯罪というものを仮に未然に防止するとするならば、医療の面での適切な医療の確保、またそうした体制の整備が大前提ですよねと私が聞いたら、それは否定なさらない。むしろ、積極的にさまざまな課題設定をされて、例えば地域医療の問題もそうですし、入院における治療もそうですし、そして社会復帰してからの治療も大切ですよと、いみじくもそうおっしゃっているんですよね。そうおっしゃるということは、現段階において、少なくとも、それらがまだ課題として設定されなければならない精神医療の現状があるということを厚生労働大臣はお認めになるわけですね。
○坂口国務大臣 もちろん、先ほど申しましたように、この精神科領域の医療の進歩というものも非常に目覚ましいものがあるわけでありますし、それに対応いたしまして、やはり整備というものも進めていかなければなりません。しかし、それはなかなか一朝一夕でできることじゃありませんので、マンパワーも整えていかなければなりませんしいたしますから、そういうことを目指して努力をするという傍ら、その一方におきまして、今御審議をいただいておりますような問題も行っていかなければならないというふうに私は申し上げているわけであります。
 基礎的な問題は、これはやらなきゃならないとおっしゃる、そのとおり私もやらなきゃならないというふうに思いますが、そこを徐々に進歩させていけばすべてが解決するかといえば、そうでもない。そうしたところを埋め合わせていかなければならないわけでありますので、この法案の御審議をいただいているわけでございます。
○植田委員 そこが違うんですけれどもね。
 それで、ちなみに、これは医療の話にはならないかもしれませんが、別に質問通告しておりませんが、今いろいろと厚生労働大臣がお話しなので、お伺いするわけです。
 実際、地域医療、例えば、地域社会でそうした人を受け入れて、社会生活を営む中で、復帰をしていただくケアをする、そういうフォローアップをする、その大前提になる啓発活動というものは必ずしもないわけです。むしろ戦前の方がそうしたことが行われていたようなケースを私は耳にします。
 しかし、この間、戦後五十有余年、いわば精神医療の実態そのものが、その現状自体が、まさに精神障害者に対する差別や偏見を助長するような意味内容を持っていたのではないかどうかということは、私は、これは検証しなければならないと思うのです。私も、読んだわけではございませんが、人から教えていただいて、そうした論文なんかを指摘されたこともありますけれども、そうした問題についてまず解決しなければならないんじゃないでしょうか。
 例えば、体制づくりは今おっしゃったようなところはあるけれども、今度は、その体制をつくっていくためのまた大前提というものをどういうふうにお考えでしょうか。
○坂口国務大臣 非常に大きな問題で、日本の社会全体のあり方のお話に触れておみえになるというふうに思います。
 戦前の体制がよかったかといえば、これはこれでまた問題もあったわけでございますけれども、いわゆる向こう三軒両隣、一つの組織をつくって、そしてお互いに助け合っていくというようなことは行われていたわけでありますから、そうした中で、例えば、それがいかなる病気であれ、病気があればお互いに助け合っていくというようなよき慣習と申しますか、そうしたものがあったことは事実でありまして、そうしたところは、現代社会におきましては、隣は何をする人ぞというような感じになってきているということは、それは御指摘のとおりだろうというふうに思っております。それだけに、やはり全体で病気の皆さん方に対して手を差し伸べていく新しい組織が必要になってきているということを先ほどから申し上げているわけでございます。
 そうしたことも我々念頭に置きながら、ただ単に病院の中の問題だけではなくて、あるいは診療所の問題ではなくて、そうした患者さんが社会で生活をしていただくためにどうするか、仕事の問題をどうするか。精神障害者の皆さん方にも雇用の場を提供しようということで、一歩、今前進をさせているところでございますが、これはそうした問題とも結びついてくるわけでございますから、これを徐々に底上げをしていかなければならないというのは、御指摘のとおりと私も思っております。
○植田委員 精神障害者問題に係る人権教育・啓発にかかわっての厚生労働省の取り組み等については、きょうは用意していませんから、また別途、次回お伺いしようと思っていたのですが、少なくとも、そんなに充実したことはされていないはずです。ここでは、そこの論争は避けます。
 ただ、用意した質問をほとんどできないで、法務大臣には本当に申しわけないのですが、今全部途上にあるとおっしゃるわけです。もちろん終着ではないでしょう、常に進歩していくものでしょうから。ただ、一方でそういう精神医療の改善というものを大前提としながら、それもやりますけれども、並行して、今回政府案を出してこれを審議していただいているんですと坂口さんはきれいにまとめておっしゃるんですが、今のお話を伺っていると、要するに、私自身の指摘については何一つ否定されないわけですよ、それも課題です、それもおっしゃるとおり課題ですと。むしろ、私が申し上げると、それについて、より専門家として詳しいお話の御披露があるわけですよね。
 ただ、それらが途上にある、まだ満たされていない、課題として設定はされているがこれからの議論でありますよというようなことであれば、例えば、今の精神医療の現状が差別意識や偏見を助長している側面はもちろん否定はされないわけですよね。否定はされない。それはできないでしょう。そんなことはありませんとは言えない実態があるわけです。そして、医療の、治療内容については私も専門家じゃありませんからわからない部分もありますが、治療と呼べるような対応が、さまざまなそうした精神病院、施設で行われているんだろうか。
 私は、先日、法務委員会の視察で武蔵病院に行ってきましたけれども、あれは全国的に見ても水準の高いところだろうと思いますから、あれが大体押しなべて日本の精神医療の水準ですというふうには私は到底思えないわけです。思えないような事実があるわけです。
 とすると、こういうことになってしまいませんか。今回出てきた法案の立法事実の前提には、現状の精神医療の貧困がある。そこをまず改善すれば、かかる法案を提出する立法事実なんというものは失われてしまうんじゃないでしょうか。そうは思わない。その辺、では教えていただけますか。
○坂口国務大臣 これは限りなく前進をしていかなければならないわけでありますから、どこまで行ったらそれでいいというわけのものではありません。
 したがって、精神医療全体としての前進は進めてまいりますけれども、しかし一方において重大な犯罪を犯すような人たちが出てくるという事実も、これは消しがたいわけであります。この事実をこのままにしておきますと、そのことがまた全体として精神障害者の皆さん方の問題としてはね返ってくるということもあり得る。
 ですから、一度そうした重大な犯罪を犯したような皆さん方に対しましては、その人たちが、再びそういうことが起こらないようにきちんと治療も行い、そして社会的にも社会復帰ができるようにしていかなければならない。そうした犯罪の問題と治療の問題と両側面あるわけでございますから、そうしたこともあわせて、それを治療すると申しますか、その皆さん方を指導していくような場所というものが必要になってくる。そこを整備することがまた全体としての精神医療を大きく前進させる一歩になるというふうに私は思っている次第でございます。
○植田委員 それは無限に結論、終着点がないわけですから、精神医療はこれからどんどん進展をしていくから、一方ではかかる政府案をやるということとは何ら矛盾しないとおっしゃるわけですが、僕がよくわからへんのは、坂口大臣がおっしゃる話でいけば、かなり、最初の大前提としての精神医療というものをこれからどう改善し、また改革していくのかというところの問題意識は持っておられるし、具体的な獲得目標も設定されている。とするならば、そういう問題意識に立ったときに、この今回の政府案をそこで必然化する条件は何一つ話されていないわけです。これでなくてもいいんじゃないのと。
 例えば、今の問題意識でいけば、きょうは横にお座りですけれども、民主党の案のように、措置入院をどういうふうに改善するか、充実させるかという具体的な手法があってもいいんじゃないかという意見も当然出てくるかと思うんですね。私は、民主党の案に賛成するとか反対するとかということじゃなくて、坂口厚生労働大臣のお持ちの問題意識から民主党が出されている案が出てきても余り不思議じゃないなと。民主党の提案者が、いや、そんなことはないとおっしゃるかもしれませんが、むしろ民主党の案の方が整合性持てるんと違うかなんてお思いにならないんですか。
○坂口国務大臣 措置入院だけではうまくいかない。現在、措置入院をし、そして入院した皆さん方が間もなくまた社会にお帰りになる。それを今繰り返しているわけですね。その中で重大な問題等が出てくる可能性がありますから、そこを我々は指摘をしているわけでありまして、そこが委員と私の考え方の違うところといえば違うのかなというふうに思いながら先ほどから聞いていた次第でございます。
○植田委員 時間が終わりましたので、実は、法務大臣に刑事司法の問題等々伺いたかったんですが、これは次回に回します。
 最後に、午前中の、たしか水島議員の質疑の中でも厚労省の部長がおっしゃっていましたけれども、そこまでおっしゃるんであれば、自傷他害のおそれと再犯のおそれというのの、他害と再犯のおそれの定義、どうなっているのか。重なるところもございますと、さっきもちょっと笑っていたんですが、まるで武力攻撃事態と周辺事態とどう定義づけ分けするんだというような議論とよく似た議論で何かごまかしておられたような気がしますけれども、では、今回の法案で網がかかる人たちの治療の方法がまた変わってくるんですか。変わらないでしょう。何か特別な治療方法があるんですか。ないでしょう。だから、そこはやはり、いわゆる医療の側からの認識として、定義づけはそれ以上はよう定義しはらへんのでしょう。あれだけでも今回の政府案を出す意味というか、立法事実がないということを、むしろ部長みずから論証されたと私は思いながら水島委員とのやりとりを聞いておったわけですよ。ここは、恐らく厚生労働大臣もそのやりとりを聞いておられましたでしょうが、少なくとも医療という切り口から今回の問題を考えておられるお立場として、矛盾は全然感じておられないんでしょうか。
○坂口国務大臣 一般の患者さんの場合と違いますのは、既に、それは一回か二回かはわかりませんけれども、重大な事故を起こしたということが前提にしてあって、そして、それを繰り返させないために、やはりその人たちを本当に社会復帰をさせるためにどうするかというのが今回のねらいでありまして、それから、大前提になりますところが違うといえば大きな、実は最大の違いだというふうに思います。
 ですから、入院をされてからの治療方法につきましては、それはそんなに違わないんでしょう。しかし、それは医療の面からだけではなくて、いわゆる犯罪を犯したという側面からの、また、強制治療というものがやはり存在をする。ただ単に医療だけの話ではない、そこが違うということをやはり理解をいただかないと、これ全体に御理解をいただけないのではないかと私は思っております。
○植田委員 時間が参りましたので終わりますが、今の答弁を引き取って、ここから先の話は、今度は法務省に聞いた方がいい話の方が多いだろうと思いますので、実はきょうもそれ聞くつもりだったんですが、それはちょっと時間の都合で、申しわけございませんでした。
 以上で終わります。

続いて、西村議員の質問です。

○園田委員長 西村眞悟君。
○西村委員 本日は全般的なことをお聞きいたしますが、民主党が案を出されておりますので、まず民主党の案について、若干の御答弁をいただきたいと存じます。
 民主党の案の趣旨説明、配られた資料ですが、「今回の池田小学校事件の犯人が、過去に軽微な犯罪行為を繰り返していたときに、きちんとした精神鑑定を受けていたならば、その時点で何らかの刑事処分がなされることによって、今回のような重大な犯罪は防ぎ得たでしょう。」というふうな趣旨説明の中の文章がございます。
 私もそういうふうな思いを持って、痛恨な思いを持ってあの事件を眺めている者の一人ですけれども、民主党は、本案を提出した以上、現状を放置してはだめなのだ、現状は早急に改善すべきである、このような前提でこの法務委員会に臨まれているということは、まず最初に確認してよろしいですか。
○平岡議員 お答えします。
 今の御質問の趣旨が現状のどの部分を指しておられるのかということが明白ではなかったわけですけれども、先ほど引用されていた部分というのは鑑定の話でありましたけれども、我々としては、鑑定、特に起訴前の鑑定の部分……(西村委員「鑑定の話は聞いていない」と呼ぶ)いや、先ほど読まれたところに、「きちんとした精神鑑定を受けていたならば、」というところがちょっと引用されたので、鑑定の部分について言えば問題もあると思いますし……
○西村委員 ちょっと済みません、私の質問の順序が悪かったようで。
 まず、対案を出された以上、この対案は、現状を放置してはいけないから出されたんだ、これは当然のことだと思って私は聞いたわけですね。
 次に、その対案が出される問題意識として、現行のいわゆる精神障害者の福祉に関する法律のどの時点で何らかの刑事処分がなされることによって今回の重大な犯罪は防ぎ得たのだろうかというのが私の疑問なんです。どういう刑事処分をしたらこの犯罪が防ぎ得ただろうと考えておられるのか、これを御答弁ください。
○平岡議員 今の問題のとらえ方なんですけれども、どういう刑事処分が行われていたらどうなったであろうということを言っているのではなくて、我々としては、この池田小学校事件の被告人となっている人について言うと、過去に事件を起こした際にいろいろと精神鑑定ということで簡易の鑑定も行われているようでありますけれども、その結果として彼は不起訴になっているというふうなことがあって、それを通じて、彼は多分、自分は精神障害者ということで偽っていれば処罰をされないというような意識を持ったのではないか。そういうような点をきちっと精神鑑定をして、そして、彼が犯した犯罪に対応した刑事的な処分がされているならば、彼は、やはりこういうことをすればこういうことで処罰されるんだ、そういう遵法意識というものを呼び起こして、そして彼も犯罪に至ることはなかったのではないかということで、我々はこういう説明をさせていただいているということであります。
○西村委員 彼は、不起訴になって措置入院されておるわけですね。今の答弁では、不起訴にせずに刑事処分を受けさせれば、重大な、今回の小学生を殺傷する、殺すということは防ぎ得たのであろうという前提ですか。
○平岡議員 きちんとした精神鑑定が行われていればどうなったかということでいくと、これが本当に心神喪失者であるということであるならば、措置入院という形で本来的な医療行為が行われていたであろうし、きちっとした精神鑑定の中でこれが詐病であるということがわかったならば、それに対応する刑事的な手続が進められて、それにふさわしい刑事処分が行われていたであろう、そういうきちっとした流れの中でこの問題が処理されていたならばこうした事件には至らなかったであろうという考え方です。
○西村委員 その刑事処分という意味はそういう意味であるのはよくわかりましたけれども、民主党は、今の御答弁の中でもあるように、治療では限界があるというふうな思いがされているんじゃないですか。
 治療は、急性症状は、例えばこの宅間も、寝れないとか、それから十日分の薬を一日で一遍に飲んだとか、いろいろなことを言っているわけですね。仮に夜間救急精神センターに来て彼が入院に至ったとしても、眠れないとかいう急性症状がおさまったときに、ちょっと待て、まだおれというふうに拘束はできないのが医療なんですな。
 彼は、親族と同居もしていなくて、そういう状況にあって犯行に至っていくわけですが、こうすれば防止できたという議論は、ある意味では、起こった犯罪を前にすれば、水かけ論になりがちなんですね。今も私は反論しなかったでしょう。なぜか。反論できない。お互いに反論できないことを言い合っていても仕方がない。防止するにはこうすればいいというふうなことは言われたけれども、既に起こったものにどう対処すればいいのかという問題は、防止するにはという以上に重大な問題で、我が国では既に起こっているわけですな。それで、私としては、期せずして、趣旨説明の中における「刑事処分がなされることによって、」云々の説明の仕方によって、民主党さんも措置入院だけではうまくいかないぞと。
 私が夜眠れない、十日眠れないんだと言ってくる、そして入院する同じ病院で、例えば、これは架空の前提ですが、八人の児童を理由なく殺した者と同様に治療として扱うのでうまくいくのか、社会はそれで納得できるのかというふうな重大な問題にいよいよ我々は突き当たってきたんだ、こういうふうに思うんですが、民主党さんは、全く純然たる治療の領域で、司法と医療の重なる領域にある本深刻な問題に対処し得ると真実思われているんですか。
○水島議員 お答え申し上げたいと思いますけれども、そもそも、その人にどのような対処をするかということを考える上では、医学的に正確な診断、そして犯行時点での責任能力、そのあたりに対しての厳正なる鑑定が必要であると思っております。
 医療と刑事処分というものは、必ずしも、医療にさらに刑事処分を追加するとよいというような、そういう位置関係にあるものではなくて、純然たる、厳正たる診断に基づいて犯行時点において心神喪失状態にあったとされている人に対しては、これはきちんとした医療しか解決手段にはならないわけでありまして、医療にさらに刑事処分を追加するということがプラスの要素になるものではございません。
 私たちが申したいのは、司法と精神医療の連携の部分に問題があるのではないかということでございまして、本来は司法の世界で、刑法の世界で裁かれていくべき人が、そこの連携がきちんととれていないために、いいかげんな鑑定などによりまして医療の世界に紛れ込んできてしまっていることが問題なのではないかということを提起させていただいているわけでありまして、医療と刑事処分を合わせると相乗効果が得られるとか、そのようなことを申し上げたいわけでは全くございません。
○西村委員 そういうことを聞いておるのでは全くないのです。それならこういうことを聞きましょうか。
 民主党は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の現行制度の改善という観点から、今突きつけられている深刻な問題に対処するんだ、一般法で対処するということですね。対象は、精神障害及びその疑いのある者一般となる。政府案は、触法行為を行った者と対象を限定しておるわけですね。
 この民主党の一般法の改正と、触法行為を行った者、まさに司法と医療の重なる分野で犯行に及んで、それが精神の障害に基づく心身喪失状態において起こったと。この二つの法案はどういう関係にあるんだろうか。一般法と特別法の関係にあるんだろうか。そうとするならば、民主党の案が仮にそのとおりだと、私もそのとおりだと思う部分は多い、通りましても、政府案を排斥するものではないだろう、両者は並立が可能である、こういう構造ではないかと私は思うんですが、そうではないんですか。民主党案が通ったら政府案は排斥されて亡きものにならなければ論理上成り立たないのですか。これを聞きます。
○平岡議員 お答えいたします。
 論理的な面でいくと、今回の、政府が提出している新しい処遇法とそれから精神保健福祉法、両立しているということがまず現実としてあるわけですけれども、我々の案も、措置入院制度を改善するという意味においては、決して論理的に併存しない、併存たり得ないというものではないとは思いますけれども、ただ、我々は、こうした新しい制度の形でやる精神医療のあり方そのものが大きな問題があるというふうに考えておりますし、こうした政府の案ができることがいろいろこれからの精神医療のあり方に問題を起こすという意味において、新制度は成立すべきではないという考え方に立って今回の対案を提案しているということでございます。
○西村委員 論理的に並立はできる、しかし現実、政治判断は並立させてはならぬのだということですな。
 そうするならば、民主党案の前提たる精神保健、精神障害者福祉に関する法律の要点、かなめである自傷他害のおそれは精神医学において認定可能だという前提に立っておられるわけですね。当然のことですが、確認のためお聞きします。
○水島議員 我々の法案は、自傷他害のおそれの概念について改正をするものではございませんので、自傷他害のおそれの判断については従来どおりであると承知しております。
○西村委員 次に政府案に行きますが、民主党案も大分理解できました。どういうふうに位置づけたらいいのかと私も迷っておりましたので。
 それで、政府案ですけれども、今話題になりました、長い法律で、精神保健福祉法と略しますが、精神保健福祉法を充実して、施設の充実、マンパワーの充実、さらに現行措置入院制度の充実強化、これでは不完全なのか。政府案を出された以上、不完全だという前提に立っておられる。
 そこで、触法心神喪失者の処遇に関して、現行精神保健福祉法をもっては、もしくはその改正では対処し切れないんだと、独自に本案を出さねばならないと思い至った理由は何かと法務大臣にお尋ねいたします。
○森山国務大臣 精神保健福祉法による措置入院制度は、精神障害者一般を対象としております。この制度の対象者につきましても、同法による一般の精神医療の対象としてきたところでございます。
 しかし、このような心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、都道府県知事の判断にゆだねることなく、特に国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えられますし、精神保健福祉法における措置入院制度とは異なって、裁判官と医師が共同して入院治療の要否、退院の可否等を判断する仕組みや、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であるというふうに考えられますことから、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する新たな処遇制度の整備が不可欠なものと考えまして、今回この法案を提案することにいたしたものでございます。
 もとより、精神保健・医療・福祉対策の一般の充実を図るということは極めて重要でございまして、この法律案に基づく制度を効果的に運用する上でも必要であるというふうに思います。
 また、このような施策は、精神障害者が孤立して、援助も受けられず不幸な事態に陥ることを未然に防止することにつながるものでもあると考えておりますが、この点について、この法律案と別に、その施策については厚生労働省において総合計画の策定を進められていると伺っております。
○西村委員 今、法務大臣がもちろんということで御説明いただいた精神障害者一般に対する施策は、このために厚生労働大臣に御足労いただいているわけですが、やはり先ほどからのいわゆる問答の中でも、この増加する精神障害者に対する対処、ケア、その人員、設備は十分なのか否かということが重大な社会的問題になっておるわけで、要求される純然たる医療の現場での充実をいかに図られるか、これについて大臣の御答弁をお願いいたします。
○坂口国務大臣 御指摘いただきましたように、この精神疾患による治療を受ける方の数というのはかなりふえてきておりまして、平成十一年度だけを見ましても、全国で二百四万人というふうに言われております。特に最近、また、中高年における躁うつ病等がふえてきているというようなこともあるというふうに聞いております。
 このような状況に対しまして、質の高い精神医療というものをどう維持していくかということは大きな課題でございまして、このレベルアップというものはもちろんやっていかなければならないというふうに思っております。
 先ほど西村先生御指摘になりましたように、マンパワーの充実も含めまして、これはやっていかなければならないというふうに思っておりますが、これを一方でやりながら、しかし、これをやっているからといって、この触法分野における犯罪がなくなるかといえば、そうではない。そこのところもやはり押さえておくということが大事ではないか、そんなふうに考えている次第でございます。
○西村委員 すべての制度には、本来の趣旨、そして、社会状況の中でそれが機能する限界がございます。その限界を見きわめて、その限界の果てに大きな社会的問題として立法の不作為が生じているならば、それを埋めねばならないのが我々の任務であります。
 それで、今厚生労働大臣が言われたように、治療だけの、いわゆる従来の精神保健福祉法での限界の果てに、医療と司法と重なり合う領域があるわけですね。そこで重なり合う領域がございますから、ここで医学において共通の前提があるわけですね、両者を機能させるためには。
 先ほども民主党の先生方にお聞きしましたけれども、一般法としての精神保健福祉法は、措置入院の要件に自傷他害のおそれを規定しております。このおそれというのはどういうことかといえば、蓋然性、起こるべき蓋然性の予測なんだろうと思います。もちろん、この精神医学において特有なことではなくて、あらゆる医学において、この生活状況を続ければ数年の後に肝硬変が発症する確率は何%だとかいうことがあるわけですから、それと同様に、私は単純にそう思っているわけです。
 問題になっておりますのは、私がちょっと理解できないのは、自傷他害のおそれは、今の民主党の先生の御答弁でも、医学でできるんだと言いながら、この限定した例ですね、重大な犯罪行為を犯した精神に障害のある方が再び行うおそれ。つまり、蓋然性があるのかないのかの判定に関して、精神医学は同じようにできるんだと私は思い込んでおりますが、どうもできないんだと。この部分だけはできないんだというふうな声も私らの耳に入ります。そして、議論は堂々めぐりですね。
 したがって、ここで有権的な御答弁を厚生労働大臣法務大臣にいただきたいんですが、これが概念のポイントです。これがあやふやなら、この法案は本当に用をなさない。一度重大な他害行為を犯した精神障害の方が再びそれを犯す蓋然性がある、おそれがある、これは精神医学で認定できるんですか、御答弁を。
○坂口国務大臣 一度重大な問題を引き起こしました患者が再び起こす可能性があるかどうかということは、これはなかなか一概に言えないことだというふうには思いますけれども、しかし、その人が同じような環境に置かれ、同じ病気の程度になり、そして同じような治療状況の場に置かれましたときに、その人が再び起こる可能性というものは予測でき得るものと私は思っております。
 そうした意味で、一度重大な犯罪を犯しました人たちに対します問題というのは、特別な対応の仕方というのをひとつ考えていかなければならない。今先生が御指摘になりましたように、それがすべていわゆる精神医学的なもので起こっているものなのか、それとも、それだけではなくて、その人の本来持っている、あるいは生まれてからのそこで養われてきた性格的なものでありますとか内心的なものでありますとか、そうしたものとそこが重なり合って起こっているものであるかどうかといったようなことも議論の的になるんだろうというふうに思っておりますが、そこが重大な問題を起こした人たちの問題の非常に難しい点だというふうに私は理解をいたしております。
○西村委員 実に難しい問題だと私も思います。
 しかしながら、バスジャック事件とかいろいろな事件を見ていますと、先ほど民主党の趣旨説明にもあったように、あの時点で何かをすれば防げたんだという曲がり角があるわけですね。ただ、これが精神障害の方だけを差別することであってはならない。健常な、患者でない人も、大臣さっき言われた、あの人の持っている癖、あの人のいろいろな生活環境から来て、ああいうしぐさをすればあの物をとるぞ、これは予測可能なんですね。
 私は司法修習生のときに、警察官と一緒にすりの現行犯逮捕をやってやろうと思って、あれはとるぞと言えば、必ずとりましたですな。そういうことで、人間というのは案外予測可能かもわかりません。ただ、私は精神科医ではありませんからそれ以上のことは言えませんが、これがこの法律の極めて重大な部分であるし、本当に注意して運用しなければならない部分であるということは十分わかって、これから聞いていきます。
 精神保健福祉法との関係について、ずっと本法案について聞いていきますけれども、精神保健福祉法二十九条の知事の措置入院、これは効力がありますね、措置入院をさせると。それから、本法案四十二条の裁判所の入院させる旨の決定、これは法的効力においてどうなんだろうか。同じか。脱出防止に異なる体制で臨むのか。本法案における入院させる旨の決定の入院病棟というものは、精神保健福祉法による措置入院もしくは一般の入院患者の病棟と異なるものにするのかということですね。これはどうなんでしょうか。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
○古田政府参考人 この法律案に基づきます入院も、それから精神保健福祉法二十九条の規定に基づく措置入院も、処分を受けた者の意思に反して入院をさせることができ、無断で病院から退去することを許さない、そういう意味では、これは法的効果としては共通といいますか、同じでございます。
 ただ、この法律案に基づく制度の場合には、措置入院制度では認められていない無断退去者に対する連れ戻しが規定されている、その点が法的効果としては違う点がございます。
 実際に入院中の者の無断退去を防止するための措置ということは、この制度のもとで治療を行う必要性が高い、そういう対象者の特性にかんがみて、入院を担当する医療機関におきまして、継続的な入院医療を確保するという観点からそれにふさわしい体制をとられるものと考えておりますけれども、これは病院内での処遇の問題ですので、厚生当局の方から御説明をと考えております。
○高原政府参考人 ただいま御提案申し上げております法案におきまして、病棟の構造、設備、それから広さ、どういう人員を配置するのか、どういう基準で医療を行うのか、これらは今後詰めていき、厚生労働大臣の告示として明らかにする予定でございますが、諸外国の動向並びに実績、そういったものを見据えて、効果があると言われているものを取り入れて積極的に推進してまいりたい、そのように考えております。
○西村委員 先ほどの民主党との私のやりとりの中でも、宅間に関しては措置入院の中で鑑定等々をやればよかったと、悔やまれることがあるわけですね、あのバスジャック事件の少年もそうですが。
 今回の、本法四十二条に言う入院させる旨の決定では、退院させるかどうかは裁判所が関与しておりますから、措置入院よりも社会防衛的な観点、再犯防止の観点が重視され、その観点からの退院の抑制というものは措置入院よりも強く出てくるわけでしょうか。
○古田政府参考人 まず、前提の問題として、個々の対象になる人は、これは重大な犯罪行為をした人ということになるわけでございます。したがいまして、その処遇につきましては、社会の関心も高い場合が非常に多く、それにふさわしい慎重な手続で決定するということが必要であると考えているわけでございます。したがいまして、退院の判断もやはりそういう慎重な処遇の決定の手続の中で行うことが適切ということで、御提案しているような仕組みにしたわけでございまして、基本は、こういう方たちにとって必要な医療の継続、これを確保するということが大前提、基本でございまして、そのことがもちろんながら病気によって起こる再度の問題行動の防止にも当然役立つということは事実でございますので、そういう意味で、間接的に当然社会の安全にも資するということになるわけでございます。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
○西村委員 重大な他害行為が現にあったというふうなことから、司法が関与せざるを得ないわけですね。
 こういう問題の初動がどこから始まっていくかといえば、警察が駆けつけて犯人を逮捕する、そして、警察の拘置所に入れる、そこで言動がおかしいということから、これはどういう精神状態かというふうな司法のプロセスがずっと進んでいく中で医療が介入してくるというふうなことですね、現実的には。今の、いわゆる入院させる旨の決定、そしてこれによって入院するというのは、結局は裁判所の事実の認定、重大な他害行為という事実の認定に基づいた社会防衛措置である。しかし、この社会防衛措置の中身は、治療そのものである。あたかも、重大な他害行為が心神喪失でない者によって行われれば自由刑が言い渡される、しかしその自由刑の中身は、いわゆる特別予防、一般予防、つまり被告人、受刑者の改善更生そのものであるというのとパラレルに考えて、私はそう解釈をしておるんです。
 再び言いますが、事実の認定に基づいてなされる入院させる旨の裁判所の決定は社会防衛措置であるが、その中身は患者の治療そのものである、こういうふうに解釈してよろしいんでしょうかな。ちょっと、その点、私も確認させてください。
○古田政府参考人 この法案の考え方は、先ほども申し上げましたように、重大な犯罪行為をした者で心神喪失あるいは心神耗弱の状態で不起訴または無罪になった者、こういう人たちにつきまして、その特性に応じた処遇を、やはり社会的関心にもこたえる面から慎重かつきちっとした手続ですることが必要であるということでございます。
 それで、このことは直ちに社会防衛ということであるわけではなくて、そういうふうに社会的に重大な関心を呼ぶような、あるいは持たざるを得ないようなことがしばしば起こる行為に出た方たちをどのようにしてその処遇を決めるのが一番世の中として納得ができるかという問題が中心にあるということでございます。
 それで、その場合に、心神喪失あるいは心神耗弱になったその原因である精神障害、これが引き続きあって、これにやはりきちっとした治療を継続的に確保しないと同様の問題行動を起こす可能性がある、そういう蓋然性があるという場合に国が治療を確保してそういうことが起きないようにする、そのことによって本人の社会復帰を促進するということでございまして、その治療はいわば刑にかわるものとかそういうものではございません。要するに、対象者の特性に応じて必要な措置をきちっととるということが眼目でございます。
○西村委員 そうですね。私も精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第一条の目的と本法案第一条の目的を読み比べてみましたが、やはり治療による再発防止という目的を達成することによって社会を防衛する、つまり、不安をなくすということがこの法案の目的であろうと私は解釈しております。
 次に、少々細かいんですが、一般法の精神保健福祉法措置入院の要件には、自傷のおそれがある。この法案には、自傷のおそれだけでは入院させる旨の決定は下せない、したがって、四十二条に言うこの法律における医療を行わない旨の決定があるんだと思いますね。これがこの法案における判断である。
 しかし、一般法がある。一般法は、ほっておけば彼はどっかで飛び込んで死ぬかもわからないというふうな自傷のおそれがある者に対しては、措置入院の要件で彼みずからを保護しようとしている、彼及び彼女を保護しようとしているということなのであります。
 四十二条におけるこの法律における医療を行わない旨の決定があったときも、知事に措置入院を通報することは本法であり得るのか。これは先ほども、冒頭聞きましたように、本法と一般法は並立し、お互いに助け合う関係にあるのかということを示していることかもわかりませんので、確認のためお伺いいたします。
○古田政府参考人 この法案におきましては、この法案による制度のもとでの処遇の対象となりますものは、やはり一定の重大な問題行動に出るおそれが認められるという場合に限っておりますので、それ以外の場合、つまり、自傷のみのおそれ、あるいはこの法律で予定しておりますような重大な問題行動以外の問題行動、他人を害する行為、そういうおそれしか認められないという場合が仮にあるとすれば、それは、御指摘のとおり、精神保健福祉法措置入院制度によって対応をすることを予定しております。
○西村委員 やはりこういう分野では一般法と特別法の関係にあるんだということなんだと思います。
 次に、事実認定のことをお聞きしますが、この事実認定は司法と医療の領域における司法の重要な任務だと私は思うんですね。
 法務省厚生労働省合同検討会議録の中にも、一人の患者さんが、そもそも精神障害者と一般の人を区別するのはおかしいんだ、精神障害者の場合は不起訴にして多くは裁判を行わないと。「裁判を行わない限り事実関係が一切合財やみの中に葬られてきてしまいます。それが今までの日本における精神障害者の起こした事件の大半です。そういうことがあるがゆえに、逆に精神障害者に対する誤解や偏見というものが増長されてきたと私は考えております。」池田小学校の例も挙げられて、「精神障害者を一般国民と区別するという考え方は基本的には私は間違いだと思います」というふうに言われるわけですね。
 私もこの方と同感なんです。やはり事実関係は、重大な犯罪、触法行為があった以上、明確にしなければならない。
 例えば、人間社会一般というのは、事実関係がわからず八人もの子供たちが亡くなったということについて一番恐れるわけですね。交通事故で毎年我々の社会では一万人以上死んでいるんです。後世の人間から見たらいかに残酷な社会であるかと判断されるかもわかりません。我々は交通事故一件一件で驚愕してうろうろはしておりません。事実関係がわかっているからですね。そしてそれは社会の許された危険として受け入れざるを得ないというふうなことなんですね。
 本件でも事実を明確にするということは非常に大切なことで、この点について精神障害者と一般人を区別してはならないという精神障害者の方の声が現実に合同検討会で上がっているという前提を踏まえて、本法における事実の認定はいかに確保されているのか、概略についてお伺いしたいと思います。
 その中で、三十一条で、審判期日の審判を非公開としている。そして、刑事訴訟法が準用される事実の取り調べにおいて、処遇事件の性質に反しない限り刑事訴訟法は準用されると規定されておりますが、反対から読めば、準用されない場合はどういうことかということはお聞きしておきたい。
 それからさらに、事実の取り調べにおいて検察官、付添人が当事者として争う構造になっておるのかということについて御答弁を概略いただきますようにお願いします。
○古田政府参考人 この制度の審判はその目的が適切な処遇を決定するということにあるもので、事実の認定そのものを直接の目的とするものではございません。しかしながら、対象者であるということについてはこれは当然明確にならなければならないわけでございまして、その意味でどのような犯罪行為があったのかということは明らかにされるわけでございます。
 なおかつ、その場合に、申し立てを受けた方から、事実が違うというふうな例えば申し出等がございますれば、裁判所としてはそれについて必要な範囲で事実の確認をしなければならないということになるわけでございまして、そういう意味で、審判の対象者であるということを確定するという意味合いからではございますけれども、事実いかなる行為があったのかということを明らかにする仕組みになっているわけでございます。
 その中でどういうふうにしてそれを明らかにしていくかということになりますと、これは検察官の方が申し立てるわけでございますので、検察官から資料などの提出というのを義務づけておりますし、また一方、審判を申し立てられた側からは、これは付添人が必ずつく仕組みにしていて、それによってそういう問題についてのいわば権利保護、こういうものが可能になるようにしているとともに、資料の提出、これは例えば証拠調べの申し出みたいなものも当然含むわけですけれども、そういうようなことは一般的に可能にして、それによって裁判所において適切な事実の確認ができるような仕組みを考えているわけでございます。
 それで、次に、この審判を非公開としているという理由でございますけれども、これは、特に精神の障害に関する審判を行うわけでございますので、場合によっては、遺伝的負因の問題でありますとか、非常に多くの家族の方のプライバシー、そういうようなものにも影響をする場合が当然予想されるわけでございます。そういう点から、無差別に一般的に公開するというのはやはり非常に問題があるであろうと考えた次第でございます。
 ただ、被害者の方あるいはその遺族の方、こういう方々からすれば、やはりできるだけ透明な手続で判断してもらいたいという御要望もあることも十分理解できますので、そういう方々については、審判の傍聴、これも一定限度でしていただけるようにしているわけでございます。
 それから最後に、事実の確認の手続を当事者主義的にするのかどうかということですが、これは、審判の目的が処遇の決定ということで、しかも医療を確保するということですから、迅速かつ柔軟に行わなければならない。そういう意味で、当事者主義的な構造をとることは審判の目的からして大きな支障を生ずるという問題が起きますので、裁判所の職権で事実確認の手続を進めていくということにしておりますが、検察官あるいは申し立てを受けた者側からの資料の提出その他の必要な措置は十分行われるようにしてあるものでございます。
○西村委員 ありがとうございます。
 次に、本法は医療と司法の重なり合う領域で、医療の分野は、犯罪が成立するのか、それとも触法なのかという重大な司法の判断に不可欠に影響を及ぼす、こういうことですね。
 そこで、私の経験に基づいてお聞きするわけですが、医療と司法の領域である以上、緊急の治療の必要がある場合に、すべての司法手続に治療が優先して保障されているということが条文上保障されておるのか、それともそれは運用に任すのかということであります。
 これは、例えば心臓病の非常に激しい被告人であった、直ちに治療をしなければならない、一般の刑事訴訟にも起こることでありますけれども、それは万人がわかるのですね。これはほっといたら死ぬというのが血を流しておったらわかるわけですが、私は、幼稚園のお子さんと乳飲み子を二人とも刺し殺してしまった若いお母さんの弁護を緊急に引き受けたことがありますが、例によって、逮捕して警察の拘置所にいるわけですね。そして、私にわかるのは一日後です。見にいけば、素人の私でも、体が揺れておって、目がうつろである、これをこういう施設に入れておけばどうなるかということで、検察官に通報して、彼が直ちに反応してくれたので、治療という方向に行きました。
 こういう、まさに重なる領域においては、それが制度的にできるような体制、つまり法条文上配慮がなされておってしかるべきだなと思うのですが、この点について本法案はいかに配慮しているか。運用で配慮するのか、条文上こうなっていますと配慮するのかということをお聞きします。
 裁判官による鑑定入院命令とか、今、処遇の決定としての鑑定を延々と二カ月も三カ月も続けておって、肝心の治療というものがそこで切断されておる。そして、決定を出して治療しますといっても既に手おくれというふうな患者を対象にする本法ですから、その点については特にどういう配慮がなされているか、御答弁をいただきます。
○古田政府参考人 ただいまのお尋ねにお答えする前に、先ほどの御質問に一点お答えをし忘れた点がございました。
 事実の取り調べにおきまして、「処遇事件の性質に反しない限り、」ということで、例えばどういう条文が適用されないことになるのか。最も典型的には鑑定留置、これは鑑定のために入院させているわけでございますので、こういうようなものは当然排斥される。典型的にはそういうものがございます。
 それから、ただいまのお尋ねでございますけれども、まず、鑑定のために入院ということでございますから、鑑定に必要なために治療が必要な場合というのは当然あるわけでございまして、その範囲の治療を行うということは当然のこととなると思います。
 それに加えまして、例えば、非常に緊急に治療が必要な状態にある、これは通常治療を加えないと恐らく鑑定もできないことになるとは思いますが、そういうときに、通常の精神医療で許された限度で、つまり本人の同意なしでできるという意味で許された限度で、必要な治療はできると考えております。
 また、もちろん本人が同意しているときとか保護者が同意しているときは、それに基づく治療は可能である、そういうふうに考えております。
○西村委員 現実的には、こういう事件が認知されるのは、先ほど言いました、警察が行って現場を見て現行犯逮捕する、身柄は拘束されている状態で起こりますから、これも治療の一般法との共同関係がここでも生じるのかなという感じが私もいたしておりますが、運用でいえば、こういうことは本法においてはいつも起こり得ることだということで、特別の配慮をなされるべきであろう、このように思います。
 時間が来ましたので終わります。ありがとうございました。