心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その10)

前回(id:kokekokko:20060101)のつづき。
ひきつづき、6月28日の法務委員会での国会審議です。木島議員の質問です。
【木島委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会会議録第18号
○園田委員長 木島日出夫君。
○木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 本日は、最初の質問でありますので、政府提出法案、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案について、制度の枝葉の部分ではなくて、制度の根幹にかかわる部分についてお聞きをしたいと思いますので、原則として法務大臣厚生労働大臣から答弁をいただきたいと思います。民主党提案の法案については、きょうは質問いたしませんので、お下がりいただいて結構でございます。
 他害行為を行ったが、心神喪失あるいは心神耗弱により刑法第三十九条の責任能力を認めることができなかった者の処遇につきましては、法務省はかつて、一九七四年、昭和四十九年、法制審議会において決定されました刑法改正草案において、保安処分として治療処分、禁絶処分また療養看護等の創設を画そうとしたことがありました。しかし、それに対しては、国民各界各層の皆さんから、これは精神障害者に対する差別、人権侵害ではないかとの厳しい批判が上がりまして、法務省もこれを断念したという歴史があるわけであります。
 今回政府は、装いを新たにいたしまして、今回の法案を提出してきたものでありますが、まず、法務省はかつてのこの経験をどのように総括しているのか、御答弁を願います。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
○森山国務大臣 先生御指摘の、法案を一、二度出しましたということは、私も承知しておりますが、かなり前のことで、私自身では全く詳しいことは承知しておりません。しかし、おっしゃいますような問題点、あるいはそのような懸念があって結果的には断念をしたという話も聞いております。
 それらの経験を踏まえまして、このたびは、特に、そのような該当者が早く回復し社会復帰をするという最終的な目的を明らかにいたしまして、そして、そのためにどのような措置が必要であるかということがわかりやすくなりますようにというふうに考えまして、今回の法案を御提案させていただいているわけでございます。
 平成十一年でしたか、精神保健福祉法でございますか、その審議がございましたときに、改めて今後さらに検討をするようにという附帯決議をいただいておりますし、厚生労働省法務省が協力して検討を具体化しつつありましたところでございましたので、このたびは、そのような問題で無用な誤解を招いたり、必要以上の心配をおかけすることがないようにということを十分心がけてつくったものでございます。
○木島委員 一九七四年当時、私は弁護士をしておりましたが、大臣は法務大臣ではありませんので、次の質問は法務省の刑事局長で結構であります。
 今回の法案と、かつて一九七四年に刑法改正草案の中に盛り込まれたいわゆる保安処分とはどこがどう違うのか、基本的な点について明らかにしてください。
○古田政府参考人 ただいまお尋ねの刑法改正の過程でのいわゆる保安処分制度との大きな違いを申し上げますと、いわゆる保安処分制度におきましては、刑事手続の一環として、刑事事件の審理を行った裁判所が刑事訴訟手続によりまして刑事処分として決めるという仕組みになっていたものでございます。要するに、過去のいわゆる保安処分はあくまで刑事裁判の一つの類型ということでございます。
 次に、当時の保安処分制度といたしましては、収容施設をどうするかということが一つの大きな問題でございまして、これにつきましては、法務省において設置する施設に収容するということで検討がされていたものでございます。
 以上が当時の保安処分でございますけれども、今回の御提案は、この処遇の決定を刑事手続と切り離しまして、刑事手続が終わった後に、あくまでその対象者の精神障害の状況等に応じてどういう処遇をするのが最も適切かという観点から、別な裁判所が判断をする。
 その裁判所も、裁判官だけによる裁判体ではなくて、医療関係、医療の観点からのいろいろな見方も十分反映できるように精神科の医者との合議体にし、さらに、必要に応じて精神保健福祉士などの方の御意見も聞くようにする。医療関係の観点も十分反映できる仕組みによって判定することとしている。そういう意味で、同じ裁判所の判断にいたしましても、裁判体の手続が全く異なっている。
 それからさらに、先ほど申し上げました入院につきましては、これは、厚生労働大臣が所管するあるいは指定する病院へ入院をするということで、法務省で設置するものではない。
 この辺が基本的に仕組みの上で大きな違いとなっております。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
○木島委員 自傷他害のおそれのある精神障害者に対しては、現行精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、略してこれから私は精神保健法と言いますが、この中に措置入院の仕組みがあります。
 今回、新たな法律をつくり、処遇の要否の決定及び内容について新しい制度を創設しようとするものは、この現行措置制度の一部分について特別の制度のもとに置こうというものであります。現行の精神保健法の普遍的、一般的な措置入院の枠組みから、重大な犯罪に該当する行為を行った者についてのみ特別な枠組みを創設する理由、目的はどこにあるのか。これは、厚生労働大臣法務大臣、両者からお聞きをしたいと思います。
○森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、国の責任において必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにして、その社会復帰を図ることが重要でございます。
 そして、そのためには、精神保健福祉法による措置入院制度とは異なりまして、十分な資料に基づいて、対象者の権利保障にも配慮しつつ、裁判官と医師とが共同して入院の要否、退院の可否等を判断いたしまして、必要な者には手厚い専門的な医療を行い、さらに退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であると考えられましたことから、この法律案を御提案したものでございます。
○坂口国務大臣 法務大臣のお述べになったとおりでございますが、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行いました者につきまして、必要な医療を確保し、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図る、本人の社会復帰を図る、このことが重要であると考えております。
 このため、今回の法案におきましては、広く精神障害者一般をその対象とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象としております。
 人身の自由の制約や干渉を伴うことから、医師と裁判官によりまして構成される裁判所の合議体が決定する仕組みを整備した上で、国が責任を持って専門的な医療を行いますとともに、退院後の医療の中断が起きないように、継続的な医療を確保するための保護観察所によりますところの観察、指導の制度を整備することとしておるものでございます。
○木島委員 答弁がありました。
 今回、措置入院の制度の枠組みの中から、その一部について特別の仕組みを創設しようとした主な目的、キーワードで言いますと、国の責任、あるいは十分な治療、あるいは手厚い専門的な医療、あるいは医療の継続性の確保などが答弁の中にあったかと思います。
 言葉をかえますと、大変失礼ながら、これは現行措置入院の仕組みが一定程度機能していないということを政府みずからが認めたものだと私は受けとめます。現状もそうだと私も思います。攻撃、批判するという意味ではありません。現状、そうだ。本来、手厚い専門的な医療は、すべての自傷他害のおそれのある精神障害者のために必要なものではないのでしょうか。現在の精神医療の現状ではそれができていない。
 厚生労働大臣は、現行精神医療制度のどこにどのような問題があると認識しているのか、お聞きをしたい。大きく二つあるのです。措置入院における精神医療制度と、措置入院に関係なく、一般、もっと広い日本の精神医療制度全体の問題もあるわけです。二つの側面があるということを念頭に置いて、どこにどのような問題があるのか、厚生労働大臣の基本的な認識をお聞きしたいと思うんです。
○坂口国務大臣 特に、現行の措置入院制度につきましては、都道府県ごとの制度の運用方法でありますとか精神保健指定医によります措置入院の要否の判断にばらつきが見られますこと、それから措置入院者を受け入れる指定病院の中に人員、体制等が不十分な病院がありますこと、退院後のフォローアップにつきまして、医療機関による受診指導、保健所による訪問指導等のみでは対応困難なケースがありますこと等が現在問題になっております大きな問題点だというふうに思っております。率直に十分でないということを認めなければならないというふうに思っております。
 このため、今回の制度の創設と並行いたしまして、措置入院制度全般につきましても現在調査を進めているところでございまして、その結果を踏まえまして、必要な改善策を講じていきたいというふうに思っております。
 それからもう一つ、全般的な問題につきましてのお話もあったわけでございますが、我が国の精神保健それから医療、これは福祉にも広がりを持つというふうに思いますが、精神病のベッド数が諸外国に比べて多いのは多いんですが、特に長期入院者の占める割合が高いといった問題点がございます。それから、精神病床の機能分化が十分に進んでいないという点もございます。入院患者の社会復帰でありますとか、地域におきます生活を支援するための施設やサービスがまだ十分に整っていないという点もございます。これは先ほどの措置入院のところと同じでございますが、それに、国民の精神疾患精神障害者に対する正しい理解がまだ十分とは言えない、こうした問題点があろうかというふうに思っているところでございます。
○木島委員 二つの側面について御答弁をいただきました。特に後者の、措置入院ではなくて一般的な我が国の精神医療制度の問題点、厚生労働大臣、かなりえぐり出した答弁だと思います。
 確かに、専門家筋から私も聞いております。入院が多過ぎる。資料によりますと、現在三十四万九千床のベッドがある。特に問題なのは、我が国の場合に、入院患者の平均在院日数が長過ぎるという問題だと指摘されております。先日厚生労働省からいただいた資料を見ますと、入院期間別在院患者割合、細かい数字ははしょりますが、五年ないし十年が一四・三%、十年から二十年が一四・四%、二十年以上が一五・二%。五年以上を足しますと四五%という驚くべき長期入院になっているわけであります。これが、本当に必要な医療が人権にも配慮してきちっとなされていれば問題はないんでしょうが、そうはなっていない。したがって、この長期入院がいわゆる監獄にほうり込まれたと同じような状況になっているとすれば、それは人権上問題だという点も指摘されておるわけです。
 特に、私はその指摘に加えて、今入院患者の中心が精神分裂症であります。精神分裂症の基本的な特徴が、人間関係がうまくつくれない、社会関係がうまくつくれない、そこにある。そうしますと、これの本当の意味での治療をやって、人間関係、社会関係をつくるためには、こんな十年も二十年も病院に閉じ込めたんでは社会復帰ができるはずがない。それで、今、全世界の精神医療の大きな趨勢は、病院に閉じ込めるんではなくて、いわゆる地域に出して、地域の皆さんと一緒になって、本当に大変な作業でありますが、人間関係、社会関係ができるような医療こそが志向されているんじゃないんでしょうか。そこに日本の精神医療の根本問題があると多くの皆さんから指摘されているわけで、私もそうだと思うんですが、厚生労働大臣にはそういう認識はございますでしょうか。
○坂口国務大臣 大筋におきまして、今御主張になりましたことに私も反対はいたしません、賛成でございます。
○木島委員 そこで、実はおくれている我が国の精神医療、保健、福祉を抜本的に拡充することが今我が国においても緊急に必要だ。そのような立場、観点から、私ども日本共産党は去る五月三十日に見解と提案を発表いたしました。
 「重大な罪を犯した精神障害者の処遇の問題で、国民が納得できる道理ある制度を」と題する文書であります。委員の皆さんには委員長のお許しをいただきまして配付させていただきました。その「日本共産党の具体的提案」の5、「遅れているわが国の精神保健・医療・福祉を抜本的に拡充する」という欄にこんな文章をしたためておきました。
 「精神障害人格障害を起因とする犯罪行為を抑止するためにも、先進諸国にくらべてきわめて遅れているわが国の精神医療・保健・福祉の全体の改善・充実策がもとめられます。このことは、「再犯」の防止にとっても意義あることです。この面の対策は、今回の、罪を犯してしまった精神障害者の処遇制度創設とは相対的に別の問題であり、一定の期間・予算が必要となりますが、以下の施策を並行してすすめる必要があります。」
 こう述べまして、重要な施策として、保健所や市区町村の保健センターの充実、地域精神医療のネットワークの確立、精神障害者に対する在宅福祉サービス、グループホームホームヘルプサービスなど、これを抜本的に拡充する。夜間、休日の精神科当番医制度や、電話相談対応システムなど、二十四時間対応可能な精神科救急医療体制の整備を進める。そして、非常に根本的な政治の問題であります、今健康保険法で診療報酬の問題が提起されておりますが、精神科診療報酬を改善し、人員配置基準がほかの医療、一般医療に比べて非常に低い、悪いですから、人員配置基準を引き上げることなど、精神科医療体制の充実を図る。こんなことを挙げたんですが、簡潔で結構でございますが、厚生労働大臣の、この提案に対する受けとめをお聞かせ願いたいと思うのです。
○坂口国務大臣 今配付されましたのをさっと拝見しているところでございまして、全体として、具体的にどのように書かれているのかというところまで熟読をいたしておりませんが、しかし先ほどからお挙げになりました項目はいずれも大事な項目をお挙げになっているというふうに理解をいたしております。
○木島委員 ありがとうございました。
 そこで次に、政府提出の法案に基づく新たな制度の創設の問題であります。この新たな制度が差別や人権侵害にならずに、法務大臣が答弁しましたように、この制度が手厚い医療を行うことになるんだ、そして我が国の非常におくれている精神医療全体の水準を引き上げるその第一歩になるのか、呼び水になるのか。それともそうはならずに、かつての保安処分の再来にすぎないのか。この法案をどう見るか、政府が提出してきたこの仕組みをどう見るか。法律そのものから、それから現状の体制、実態からやはり判断しなきゃいかぬ、見きわめなきゃいかぬと私は思っているんです。
 それで、その判断分岐は何か、制度の具体的な設計の理念、内容の問題が当然中心です。そして、それを支える体制が本当につくれるのかどうなのか、政府がつくる気があるのかどうなのか、予算をつける気があるのかどうなのかも含みますが、それにかかっていると思います。
 それで、我が党の先ほどの見解と提案というのは、政府の考えているのと同じじゃ全然ありません。しかし、そういう新制度をつくることは必要だろう。新制度をつくるんであれば、それは、断じてかつての保安処分の再来になってはならぬ、我が国の精神医療全体の水準を引き上げるための呼び水になる、第一歩になる、そういう方向が必要だ。そんな思い、そんな観点から全体がつくられているということを御理解いただきたい。
 簡単で結構ですが、総枠としての我が党の見解について、法務大臣と厚労大臣の御所見を賜りたい。
○森山国務大臣 私も、拝見させていただきまして、大変貴重な御意見と受けとめております。ありがとうございました。
○木島委員 それでは、基本的な問題でありますが、今回我々の目の前に提起されております政府の法案が、かつての保安処分の再来なのかあるいは精神医療引き上げの第一歩になるのか、具体的な中身について、先ほど言いましたように、枝葉の問題じゃなくて、きょうは制度の根幹にかかわる問題に絞って、幾つか、時間の許す限り質問をしていきたいと思います。
 先ほど答弁にもありましたが、この新制度、仕組みは大きく二つの側面を持っております。一つは処遇決定の手続の問題です。もう一つは、入院と通院でありますが、処遇の内容、あり方の問題であります。
 そこで、まず第一に、処遇決定手続の問題についてお聞きをいたします。今回の法案は、現行の措置制度による二人の医師の判断、措置決定から、いわゆる裁判所、これは一人の裁判官と一人の医師の合議体でありますから二人が賛成して初めて処分ができると思うんですが、この裁判所の合議体による決定に変えるという問題であります。根本的な制度の改変であります。確かに判断主体は変わります。
 それでお聞きしたいんです。それでは、判断主体を現行措置制度から皆さんがつくろうとする審判制度に切りかえることによって判断基準や観点が変わるのか、あるいは判断するための材料、どんな事実関係を調査するのかというその材料が変わるのか、それをお聞きしたいんです。もうちょっと法的に言いますと、精神保健法二十九条の自傷他害のおそれの判断がこれまでの制度です。しかし、今回の法案の第四十二条、再犯のおそれが今回の審判の認定の対象であります。どう違うんでしょうか。
 一番制度の根幹にかかわる問題ですから、詳しく答弁願います。
○坂口国務大臣 では、私の方から先に答弁をさせていただきますが、本法案におきましては、対象者に対しまして継続的な医療を行わなければ心神喪失または心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無について、医師の鑑定を基礎として裁判所が判定することとされております。この再び対象行為を行うおそれというのは、仮に継続的な医療を行わなければ心神喪失または心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び重大な他害行為を行うことが予測されることを指すものでございます。
 これに対しまして、措置入院におきます自傷他害のおそれといいますのは、仮にその者を入院させて医療及び保護を行わなければ現時点の精神障害に起因する症状により自傷または他害行為を引き起こす可能性があることを指すものでございます。予測する行為の範囲は、本法案で言いますところの一定の重大な他害行為に限られず、また、実務上その予測を比較的近い将来のものとして行われるものととっているところでございます。
○森山国務大臣 厚生労働大臣から御説明があったとおりでございますが、精神保健福祉法が規定する自傷他害のおそれも、この法律案が規定する再び対象行為を行うおそれも、いずれも強制的な入院を認めるために必要とされる要件でありまして、また、精神障害を原因として生ずる病状から一定の問題行動が引き起こされる可能性の有無を判断するものであり、両者は基本的には同様のものでございます。
 ただし、他害行為とは、精神保健福祉法第二十八条の二第一項に基づく厚生労働大臣の告示にも示されておりますように、殺人、放火等の重大な他害行為のみならず、窃盗等の比較的軽微なものも含むものとされておりまして、自傷他害のおそれは、再び対象行為を行うおそれに比べまして、より広範な行為を引き起こすおそれがある場合にも認められることになるといった違いがございます。
 また、このようなおそれの有無を判断する際の資料につきましても、自傷他害のおそれの判断に際しましては、実務上短時間の措置診察により判断されていること等から、判断資料には一定の限界がありますが、再び対象行為を行うおそれの判断に際しましては、対象者を一定期間病院に入院させて鑑定や医療的観察を行うこととしていることに加え、検察官や対象者、付添人に資料提出や意見陳述の権利を認めるなど、より広範な資料が収集できるようにしておりますので、より的確にこのようなおそれの有無を判断することができるような仕組みとしております。
 また、再び対象行為を行うおそれの有無の判断に際しましては、その者の生活環境等をも考慮することとしておりまして、このような生活環境等に照らし、入院によらなくても治療の継続が確保されるか否か、問題行動を起こしやすい状況にあるか否かといった、純粋な医療的判断とは異なる判断をも行うことを法文上明記しておりますが、自傷他害のおそれの有無の判断に際しても、明文の規定はないものの、このような判断を行うことが排除されているわけではないというふうに考えられます。
○木島委員 非常に大事な、核心に触れる部分なんですが、非常に難しい問題です。
 それで、厚生労働大臣の答弁の中に、現行措置制度は、現時点のその対象者の状況、それを把握するんだ、そして、今回の政府案の審判は、より継続的な、長期的な視点でその対象者を見るんだ、そういうことを言わんとしたんでしょうか。あるいはこう聞いていいんですか。
 今、森山法務大臣からは、現行措置制度の判断の対象は、必ずしも純粋精神医学的観点だけではない、それ以外のいろいろな問題、社会的な背景やらそういう問題も含むという答弁が出ましたね。私、そうだと思うんですよ。
 それで、そうすると、坂口厚労大臣の答弁というのは非常に大事な観点になってくると思うんですね。現行措置制度は非常に瞬間的な判断なんだ、今回の政府法案はもっとより長期的な判断なんだ。そうすると、判断の視点も違ってきますし、判断材料も違ってきますし、対象である重大な犯罪行為を犯した障害者で不起訴になった者の対処、物の見方も違ってくるんじゃないかと感じられますので、私のそういう理解でいいんでしょうか。確認しておきたいと思うんです。
○坂口国務大臣 大略そういうことを申し上げたつもりでおります。
 この再び対象行為を行うおそれの方は、今御指摘のように、将来、精神障害のために心神喪失または心神耗弱の状態になるおそれがある、そしてそこで再び犯罪を起こすことが予測されるかどうかということの判断である。
 ですから、現在ではなくて将来、その時間は将来でいいと思うんですが、将来に精神障害というものが再び起こって、そして、以前に問題が起こったときのような心神耗弱あるいはまた心神喪失というような状態になるおそれがあるかどうかということの判断であるということを申し上げたわけでございます。
○木島委員 私、精神保健法措置入院の判定手続については余り勉強していないんですが、現在の措置入院の二人の医師の判断も、確かに目の前にある障害者を診るんですが、この障害者が現在、近い将来、そしてまた先の将来、本当に他人を害するおそれがないのかということが判断の対象になっているんじゃないんでしょうかね。現行法は余り先のことは判断対象になっていないんですか。措置入院の二人の医師の判定の中身の問題です。
○坂口国務大臣 それは近い将来の、少し先のことも含まれているかもしれませんけれども、措置入院の場合には、現時点におけるおそれの方がやはり重きが置かれているというふうに私は理解をいたしております。
○木島委員 きょうは最初の質問で基本問題だけですから、時間を余りこれで使いたくないので、また後ほど細かくやりたいと思います。
 我が国の刑事法学者の意見にこういうのがあるんです。措置入院の判断と今度の政府案の仕組みでどこが変わるのか。こういう言葉があるんですけれども、法務大臣聞いてください。今回の政府案では、精神科医地方裁判所の裁判官との合意という形式を採用しているとはいえ、実質的には、司法的判断の医療的判断に対する優越を意味することになる、だから反対なんだというんですよ。そういう見方を日本の刑事法学者が声明で出しているんです。
 裁判官と医者とが合議でやるけれども、実質、司法判断が優越してしまって、医師の医療判断が劣後する、だから、司法判断が前面に出てきて保安処分的になるという考えでしょうかな。しかし、これは日本の刑事法学者の基本的な声明なんですよ。こういう側面というのはあるんでしょうか、法務大臣
○森山国務大臣 処遇事件を取り扱う合議体は、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認められるか否かを判断し、これに従って処遇の要否、内容を決定するものでございます。
 このような決定をするに当たりましては、医師による医療的判断にあわせて裁判官による法的判断が行われることが重要であり、また、両者のいずれの判断にも偏ることがないようにすることによりまして、両者が共同して最も適切な処遇を決定することができる仕組みとすることが重要であると考えられましたことから、一人の裁判官と一人の医師により合議体を構成することにしたものでございまして、二人の人が相談をして合議をしていただくということで、どちらが優越であるというようなことが決まっているわけではございませんし、さらにつけ加えて申し上げますと、日本共産党の御提案では、このほかに精神保健福祉士等の精神障害者福祉の専門家を加えた三人の合議にするべきであるという御提案のように拝見いたしました。
 確かに、精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術を有する専門家の意見は、処遇の要否、内容の決定に当たって有益であるとは考えられますので、政府案におきましてもそのような専門家に精神保健参与員として参加していただくということを考えておりまして、裁判所は処遇の要否、内容の決定に当たって、原則としてそのような専門家の意見をお聞きするということにしております。
 しかし、そのような専門家の意見は、精神保健審判員及び裁判官による医療的、法的判断と並んで、これらとは別の見地から処遇の要否、内容について判断を行うものというよりも、みずからの知識経験に基づいてこれらの判断に有益な意見を提供していただく、そしてこれを補助するという性格のものであるというふうに理解いたしておりますので、この方に評決権は与えられていないわけでございますが、しかし、十分その御意見を拝聴して、二人で相談をしていただくというふうに決めているところでございます。
○木島委員 これは医師である坂口厚労大臣から率直な意見を聞きたいと思うんですね。
 今の措置入院は、二人の医師ですよね、それが判断をする。今回の仕組みは、一人の医師と一人の裁判官。医療は素人だと思うんですね。私も法律家ですから、医療は素人ですよ。その医療に素人の裁判官が関与することによって、一人の医師の判断が劣後してしまうというか、そんな状況というのは、危惧はないですか。
 今、二人の医師ですよね。今度、裁判官が入る、一人の医師になるということで、医療的判断、精神神経の専門医としての判断が後景に退かれてしまう、そんな心配は、医師としての立場もおありになるので、坂口厚労大臣、ないでしょうか。
○坂口国務大臣 措置入院の場合には、一般病院で、非常に多くの医師がこれにかかわるわけであります。多くの医師というのは多くの病院においてこれが行われるということを言っているわけでございますが、今回の場合には、非常に限定をされました病院で、そして非常にこの道に対しての配慮のあると申しますか、知識のある人たちがそれに当たることになると思います。これが都道府県に一つなのか二つになるかわかりませんけれども、そういう場所で、非常に卓越した人たちがその判断に加わるということでありますから、私は、そこは今の措置入院とは少し違うのではないかというふうに思っております。
 私、この前ドイツにお邪魔しましたときにも、その辺のところを、司法の立場の皆さん、そして医師の立場の皆さん、双方で最後どう決めるんですかということを随分突っ込んで、いろいろドイツの例も聞いたわけです。率直に言えば、司法の立場の皆さん方の御意見と医師の立場の意見が違うこともある、だけれども、とことんそこを議論して、そして最後に決めているということを言っておみえになりました。なるほど、それはそれぞれの立場が違うわけでありますから、いろいろの意見が出てなかなか一致しにくい点も率直に言ってあるんだろうというふうに私は思いますけれども、そこはしかし合議制でございますから、いろいろの角度から議論をしていただいて決定をしていただくということ以外にないのではないかと思っております。
○木島委員 きょうはこの問題はこのぐらいに切り上げて、次の問題に移ります。
 処遇の具体的な内容についてです。
 まず、入院治療の問題です。
 先ほど来同僚委員からも質問がありましたが、法案の指定医療機関による入院治療は、現行の措置入院による治療とどこがどう変わるんでしょうか。外形的なことは私もわかります。現在の措置入院は、医療機関は、民間であれ公立であれ国立であれ構いません。今回の法案は、国立、公立医療機関だけですね。そんな外形的なことはわかるんですが、今回、制度をつくることによって、医療の面で、入院治療の面ではどこがどう変わるんですか。わかりやすく答弁ください。
○高原政府参考人 本制度で、指定入院医療機関における医療につきましては、まず第一に、精神療法と申しますか、心理療法と申しますか、行動療法と申しますか、こういったタイプの患者さんにふさわしい療法を医師及び精神心理技術者によって頻回に行う。毎日とまではいかないかもしれませんが、週に三回、四回というふうなセッションがあるんだろうと思います。集団でやる、あるいは個人でやるということでございます。
 それから、社会復帰を前提にしておりますので、作業療法などを通じて訓練を綿密に行う。例えば、一人で暮らしていくわけでございます。ないしは、仲間とグループホームで暮らしていただくわけでございます。ないしは、福祉ホームでアパートのような形でお暮らしになる。さまざまなチョイスはあるかと思いますが、やはり身辺自立といいますか、そういうふうなことに向けましてきちんとした作業療法を行っていく、そういうふうな治療プログラムになろうかと思います。
 それから、患者の行動観察を入念に行いまして、おそれがあるのかないのか。おそれがなくなってくれば、これはもうできるだけ、かつ直ちに退院の手続をとるということでございますので、患者の行動観察を入念に行いまして、おそれの評価を行うなど、一般の精神病院で行う医療に比べて手厚いということ、専門的であるということ、かつ高度である、そういうふうな医療を行うこととしております。
○木島委員 より重厚な医療をやる、社会復帰を前提とした治療をやる、そういう治療プログラムを考えている、私は結構なことだと思うんです。しかし、それが本当にやれるのか。まだ目の前にないんですね、我々の目の前に提示されていない。やりたいというだけであって、法律だけつくっちゃって手抜きをされたら、国会がだまされたことになるわけですね。
 ですから、本気になってやるんなら、予算も人も必要でしょう。案を提示してもらいたいと思うんですよ。現行の措置入院制度における精神医療ではできてない、こういうことをやるんだということを出していただいて、予算措置も間違いなくつくんだということを示していただかないと、私は、委員会審議がやはり不十分なものになるということを指摘して、ぜひ出してもらいたいと思います。
 最後に、時間が迫っておりますから、次に通院治療についてお伺いいたします。
 率直に言って、この部分は現行措置入院制度には基本的にないですね。全く異なっております。かつての保安処分制度の療養観察制度に非常に近いんじゃないかと思えてなりません。人権侵害のおそれが色濃く出てきてしまうのではないかと危惧されるのがこの法案の通院治療の問題であります。このやり方では、私は、通院治療効果も逆になってしまうんではないかと危惧します。
 私は、日本共産党の提言にもありますように、通院治療にも、むしろ入院治療以上に医療、福祉の観点が求められているんじゃないか、精神障害者、医療関係者を中心に組織された医療、福祉の地域でのチームワークによってこそ通院治療体制は組まれるべきではないかと考えるんです。犯罪者の更生を主目的とする保護観察所を処遇機関としていることは、私は根本的な間違いだと思います。せっかく入院の方はこれだけ手厚い重厚な治療をやろうと言っているのに、なぜ通院の方は保護観察所が乗り出さなきゃならぬのですか。法務大臣、答弁ください。
○森山国務大臣 このような方々が必要な医療を確保しまして、不幸な事態を繰り返さないようにするということは大変大事なことでありまして、それが社会復帰を図る重要なポイントだと思います。このような者の処遇につきましては、精神医療界を初め国民の各層から、適切な施策が必要であるというところをいろいろと御意見をちょうだいしております。
 そこで、法務省におきましては、厚生労働省と共同いたしまして、このような者の適切な処遇を確保するために新たな処遇制度を整備することにいたしたものでございまして、具体的には、現在の保護観察所にはそのような専門家がおりませんので、対象者の処遇に必要となる精神保健や精神障害者福祉に関する専門的な知識経験を持つ職員を何とか配置いたしたいと考えまして、いろいろ工夫いたしました結果、全国の保護観察所に精神保健観察官、そういう方々を相当数確保いたしまして、その体制整備を図りたいというふうに考えております。
 精神保健観察はこの精神保健観察官が中心になってやっていただくということでございますが、心神喪失の状態で重大な他害行為を行った者について継続的に、かつ適切な医療を確保するということは、やはり通院の際のそのような観察が不可欠であるというふうに思うからでございまして、その改善更生を促すことにも大変重要な方法だと思います。
 たまたま全国に五十カ所ほど保護観察所がございまして、そのネットワークを使うということが、今このような御時世、行政改革の御時世におきまして適当ではないかということでございまして、この者が行います仕事は、ほかの保護司あるいは保護観察官の仕事とは全く違うものでございます。
○木島委員 もう時間のようですので終わりますが、現行の保護観察所にはそんな能力はもう全くないんです。ゼロですよ。私は、継続的な通院治療の確保のために保護観察所を使うなんというのはとんでもない間違いだ、まさに、継続的な通院治療の確保には、医療、福祉の観点からこそその確保のために努力することがその対象者の治癒につながっていくんじゃないかと思えてなりません。
 法務省の当事者がつくっている全法務省労働組合の意見書によりますと、そんな体制は全然ない、現在保護観察官は六百人程度しかいない、そしてどんなに忙しいか。犯罪者の更生のために物すごい仕事をしているんですよ。保護観察件数は約六万八千件、環境調整事件数が約三万件、更生緊急保護受理件数が一万七千件。物すごい仕事を、大変な仕事を担っているんですよ、保護観察所の皆さんは。医療と関係ないところで物すごい仕事。こんなところに精神障害者の通院治療確保のために任務を与えたって、そんなことできやしない。そうすると、結局、保安処分的な発想から要するに縄をつけるような発想になってしまうんではないか。私は、ここはもう根本的に政府案が間違っているところだと重ねて指摘をいたしまして、終わります。
○園田委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。