心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その11)

前回(id:kokekokko:20060102)のつづき。
法務委員会と厚生労働委員会による連合審査会が開かれました。これには法務大臣厚生労働大臣、そして法務省参考人が出席して、議員の質問に答えています。
はじめは、与党側の後藤田議員による質問です。
【後藤田委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(平成14年7月5日)
○園田委員長 これより法務委員会厚生労働委員会連合審査会を開会いたします。
 先例によりまして、私が委員長の職務を行います。
 内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案を議題といたします。
 各案の趣旨の説明につきましては、これを省略し、お手元に配付してあります資料により御了承願います。
 これより質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。後藤田正純君。
○後藤田委員 自由民主党の後藤田でございます。
 まず、今回の新たな処遇制度の趣旨及び目的等についてお尋ねいたします。
 今まで、再三、長時間にわたりましての審議が続いておりましたけれども、そろそろ各論、また論点について浮き彫りにされてきたかと思います。そういう意味では、政府案、そしてまた反対案等々、結局パラレルな部分もあると思っておりますが、しかしながら、これはこれとして、私は、例の大阪の池田小学校の事件を初め、いろいろな大きな社会的な影響があった問題だと思っておりますので、これは早急に法整備をすべき問題だと思っております。
 そういう中で、改めてお伺いしますが、今回の政府案に基づく新たな処遇制度につきまして、何を目的とするものであり、また、なぜ今回この制度を創設することとしたか、これにつきまして改めて法務大臣の御見解をお聞かせいただきたいと思います。
○森山国務大臣 この法律案の目的は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることによりまして、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによりまして、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進するということでございます。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇のあり方につきましては、法務省及び厚生労働省におきまして、昨年一月から合同検討会を開催するなど調査検討を進めていたところでございますが、そのような中で大阪・池田小学校の事件が発生いたしまして、これをきっかけといたしまして、精神医療界を含む国民各層から適切な施策を求める声がさらに高まったものと考えておりまして、このような意見の高まりや、与党プロジェクトチームにおける調査検討の結果等も踏まえまして、このような者に対する適切な処遇を確保するため、この法律案により新たな処遇制度を創設することといたしたものでございます。
○後藤田委員 今の御説明のとおりだと私自身もその背景について思いますけれども、本法案においていろいろと議論が今までにされてきましたが、その中の論点の一つとして、これは刑罰とどう違ってくるのかというような議論がございますが、今回の処遇制度につきまして、対象者に対します継続的で適切な医療を確保するものである、刑罰とは性格が異なるものであるという御見解を政府はされておりますけれども、そのような認識でよろしいんでしょうか。また、その根拠、理由を御説明いただきたいと思います。担当局長にお願いします。
○古田政府参考人 ただいま委員御指摘のとおり、この制度はあくまで必要な医療を確保するというための制度でございまして、刑罰ではございません。
 刑罰は、御案内のとおり、違法行為をした場合の責任がある者に対するその責任に対する非難ということでございますが、この法律案で想定しております医療の確保は、そういうふうな非難という意味は全くございませんので、刑罰とは全く違うものでございます。
○後藤田委員 それでは、もう一点。
 今回の新たな処遇制度でございますけれども、一方で、もう一つは昭和四十九年の改正刑法草案におきます保安処分と似たようなものではないかという御批判、御非難もあるようでございますが、本制度と改正刑法草案の保安処分との違い、これにつきまして法務当局に、わかりやすく、また明確に御説明をいただきたいと思います。
○古田政府参考人 ただいま御指摘の改正刑法草案におきます保安処分におきましては、これは、あくまで刑事手続の一環として、刑事事件の審理を行った裁判所が、刑事訴訟の手続により刑事処分としてその要否や内容を決めるというものでございます。また、その言い渡しを受けた者は、法務省が所管をする保安施設へ収容するということが想定されていたものでございます。
 これに対しまして、本法律案による新たな処遇制度におきましては、対象者に対して継続的かつ適正な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行うことによって本人の社会復帰を促進するという目的のもとに、刑事手続とは別個のものとして、刑事事件を審理する裁判所とは別の、精神科医もその構成員とする裁判所の合議体が、刑事処分ではなくて、先ほど申し上げましたように医療を確保するという観点から、その処遇の要否、内容を決定するものでございます。また、その処遇を受けることとなった者は、厚生労働大臣の所管する病院に入院、あるいは入院しないで治療を受けるということとしているわけでございます。
 また、制度の目的という点から申し上げますと、改正刑法草案におきます保安処分は、いわゆる予防拘禁というものとは違うものではありましたが、刑法に規定するということから、社会防衛というのをその直接の目的の一部としていたものでございました。
 しかし、この制度によります処遇は、対象者に対して継続的に適切な医療を行う、そういうことによって病状の改善、それに伴う同様の行為の再発の防止を図る、そのことによって社会復帰を促進するということでございまして、社会防衛をその直接の目的としているものではございません。
 ただいま申し上げたような点から、改正刑法草案におきます保安処分とは異なるというものでございます。
○後藤田委員 今の御説明に関連してですけれども、今の点について、野党案との、余りこれは言葉を使うのは変ですが、保安処分というものに対しての意見の相違というのはどの点にあるとお考えか。御感想だけでも刑事局長に聞かせていただきたいと思っております。
○古田政府参考人 必ずしも質問の御趣旨を的確に把握できたかどうかわかりませんけれども、基本的な考え方といたしまして、政府案は、重大な他害行為を行った、不幸にしてそういうことをするに至った、そういう方について、やはりその処遇を適切に決定する仕組み、こういうものが必要である、それに引き続きましてやはり適切な医療の確保というのをしっかり行う仕組みが必要である、そういう考えに基づいてできているわけでございます。
 ただいま御指摘のありました議員提案で提案されておられますものにつきましては、そういうふうな重大な他害行為ということに着目してその適切な処遇を決定するというふうな仕組みではないというふうに理解しております。
○後藤田委員 それでは、厚生労働省にお伺いします。
 もう一つの論点としては、再犯のおそれを予想したり証明することは大変難しいという議論が日本の精神科医の先生方から発言があるようでございますけれども、それは同時に、この日本において、司法精神医療、この不備を、まさに精神科医の方々が日本にはそういった司法精神医療がございませんと言っているようなものだと私は思っておりまして、各国の状況を見ますと司法精神医療というのは大変進んでいる、日本の精神科の分野において司法に絡んだそういった医療の整備が全くなされていなかった、不備であったというふうに感じざるを得ないんですけれども、その点につきまして、今の日本の司法精神医療についての現状と、不備であるのであれば、これを今後発展させるためにどのように取り組んでいくかを厚生労働省にお尋ねしたいと思います。
○坂口国務大臣 おはようございます。
 我が国におきましては、これまで精神保健福祉法におきまして、精神保健指定医自傷他害のおそれが認められるか否かを診断いたしまして、そして、これが認められる者に対しましては必要な医療を行ってきたところでございます。一方、諸外国におきましては、いわゆるリスクアセスメントあるいはリスクマネジメントに関する専門的な知識経験等を有する司法精神医学の専門家が多数存在しているというふうに承知をいたしております。このような諸外国と比べますと、我が国におきましては、この分野の専門家の数が必ずしも多くないことは事実だというふうに思っております。
 そこで、厚生労働省におきましては、このような専門家の質と量をさらに向上させますために、昨年度から、厚生科学研究におきまして、司法精神医学に関する研究に新たに着手したところでございます。また本年度からは、研究者や臨床医等を海外に派遣をいたしまして司法精神医学の研究、研修に従事していただいているところでございます。
 今後さらに、このような取り組みを継続いたしますとともに、国内におきましても、海外から帰国をされました方あるいはまた我が国の専門家を中心といたしまして、医療関係者に対する研修等を開始したいと思いますし、司法精神医学についての専門的な調査研究を国の機関で行う体制をつくるなど、そうした各般の取り組みをこれから行いたいと考えております。
○後藤田委員 ネガティブな議論が横行する中で、ぜひとも、日本が本当に欠けている司法精神医療という問題に目を背けずにそれに着目して、ポジティブにその制度を育成していただきたい。それがひいては精神障害者の方々のこれからのことにつながると私は思っておりますので、ぜひそれはお願いしたいと思います。
 次に、これは厚生労働省、そして最高裁、法務、お三方にお伺いしたいんですが、今回の新しい制度が成立した場合に、そのときに裁判を構成する三者の方々、新しい取り組みなわけでありますから、それに準備をしているのが当然であって、これは成立後にどういう準備をされるのかという点について、各三関係者からそれぞれ、裁判に臨む方々が新しい処遇制度においてどういった訓練または教育、そしてまた倫理観を持ってやられるのか、それについてどういう形で三方の方々が制度を設けているのか、その点につきましてお伺いしたいと思います。
○大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
 これまでも、裁判官に対しましては、司法研修所等における研修あるいは各種裁判所における鑑定研究会、それから執務資料の配付等を通じまして精神医学に関する知見の向上に努めてきたところであります。
 そして、この法律案につきましても、全国の裁判官に知らせ、周知を図ってきたところでありますが、法案が成立した後におきましては、さらに研修や協議会を実施し、この法律の趣旨、内容を裁判官に十分理解してもらうとともに、精神医学に関する理解を一層深めてもらうことによりまして、法の趣旨に沿った中立公正な判断、適正な運用に努めてまいりたいというふうに考えております。
○後藤田委員 ちょっと今のじゃ非常に抽象的なので、具体的に、どういう制度なりどういう教育体制を整えるというふうに考えていらっしゃいますか。
○大野最高裁判所長官代理者 この法案成立後につきましては、一つは、司法研修所におきましてこの法案に関する趣旨、内容等についての研修、それから精神医学に関しての研修といったものを考えておりますし、それから、裁判官の協議会を通じまして、今と同様のことについて各裁判官でいろいろこの法律の理解についての協議を行うというようなことを含めますし、それから、鑑定研究会等におきましても精神科医の方々と裁判官とがお互いにその立場から相互理解が深められるように、そういった議論の場を設けて今後の実施に向けて努力してまいりたいというふうに考えております。
○後藤田委員 では、あと関係二省庁。
○古田政府参考人 この法律案が成立した場合には、検察官につきましても、より精神医療に関する知識、これを十分備えさせるということが必要であるということは私どもも認識しておりまして、では、そのために具体的にどういうことをするかということになりますと、細かなスケジュール等までまだ考えているわけではございませんが、一つには、まずこの法律の内容、趣旨、これを検察官に十分理解させる、その趣旨を徹底させる、そのためのさまざまな説明会あるいは、検察官の場合に研修が何年か置きにございますけれども、そういうもののカリキュラムの一つとして取り入れる、そういうふうなことを考えているわけでございます。
 さらにまた、この問題につきましては、やはり精神医療に従事しておられる方々との相互理解がさらに深まるということがどうしても必要でございまして、これまで必ずしもその相互理解が十分ではなかったのではないかと思われる面も多々ございますので、そういう精神医療に従事する方々との間のさまざまな研究会あるいは意見の交換の機会を多く設けていく、そういうふうな措置をとることが必要であると考えております。
○高原政府参考人 精神保健審判員は、精神保健判定医の中から選任することとされているところでございます。
 精神保健判定医の資格要件につきましては、具体的には、精神保健指定医を取得いたしまして、その精神保健指定医としての臨床経験年数が一定年数以上であって、かつ自傷他害のおそれを判断する措置診察に一定件数以上従事したことがあること、司法精神医学に関する研修を受講した者であること等とすることを検討しておりまして、司法精神医学に関します研修は、いわゆる司法精神医学の理論、実践、法学、供述心理学、精神鑑定の技法等々を現在のところ考えております。
○後藤田委員 今それぞれお伺いしましたけれども、結局、これは、いかに本処遇制度について心配をされている方に安心をさせるかということになりますと、その裁判に臨む方々がきちんとした人間である、そういう人間を選ぶということが一番重要な点だと思っております。
 幾らいい法律や制度をつくっても、結局は人の行いであります。人の行いすべてでいい制度もいい法律も変わってしまうわけでありまして、そういう意味では、例えば各省庁にもさまざまなチェック、監査機構があります。例えば警察などはチェック機能に対するチェック機能があるぐらいです。つまり、警察があって、国家公安委があって、また一方で警察刷新会議というものがつい昨年、一昨年ですか、催されまして、チェック機能をチェックしなきゃいけないような、今、日本はそんな世の中になっているわけでありまして、今回、今お話をいただいたわけでありますが、いわゆる第三者機関としてその人選を考えるというような、各省の推薦並びに各省が、各関係当局が選んだ人間がそういう裁判に臨むわけでありますが、第三者機関として何かチェックをする、二年、三年置きに、また五年、十年置きに、そういうお考えというのはあるんでしょうか。
 お医者さんも、認定医制度の問題なんかこれからどんどん議論されなきゃいけませんが、二十年、三十年たった医者が、本当に初年度の、一番脂の乗ったころの医療ができるかといったら、これはできないわけですよ。いわゆる車でいうとペーパードライバーですね。そういった問題も、今医療について、医師界について私は問題意識を持っているわけですけれども、今回の件も、やはり反対されている方、また御心配されている方に安心をしていただくように、そういった第三者機関として人選をするというお考えはそれぞれございますでしょうか。その点、教えていただきたいと思います。
○大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
 これまで裁判官が担ってまいりました職責はいずれも中立公正な判断が要求されるものでありまして、その職責を適正に遂行してきたものというふうに考えております。この法律案により担うこととなる新たな職責につきましても、同様に適切に職務を遂行することは可能であるというふうに考えておりまして、公平性等を担保するために第三者機関の設置等が必要であるというふうには思っておりません。
 なお、裁判の是正につきましては抗告といった制度もございますので、制度の中でそういったものとして保障されているというふうに考えております。
○古田政府参考人 実際の審判に出席する検察官あるいは申し立てをする検察官、これを、今御指摘のような第三者機関によって選任するということはなかなか難しい問題があろうかと思いますけれども、若干、検察庁における事務処理の実情を申し上げますと、検察官の場合には基本的にその判断等につきまして必ず上司の了解を得るというシステムになっております。そういう中で、判断のばらつき、あるいは不当な判断が入らないようにチェックしていく、そういう機能というのを検察庁の中で、言ってみれば非常に重要な仕事でございますので、十分ふだんから備えるように気をつけて、現実にそういうふうに運用しているわけでございまして、この制度におきましてもやはり同様のことになると考えております。
○高原政府参考人 精神保健審判員の選任の母体であります精神保健判定医には、先ほど御説明申し上げましたように、司法精神医学に関します研修を十分に受講していただくことを義務づけるとともに、さらには、更新制を取り入れて、最新の国際的水準の司法精神医学の知見を身につけていただくことを考えております。
○後藤田委員 それでは、もう一つの論点であります。これは法務省にお伺いします。
 今回の処遇制度の中で、裁判所が対象行為の存否を確認するための手続でございますけれども、その件につきまして、刑事訴訟とは異なって、審判手続で行われるというふうになっております。しかしながら、一方で、それに対しておかしいという意見も一部あります。対象行為はまさに犯罪に当たる行為である、これを認定する手続は刑事訴訟手続と同じ手続でなければいけないんじゃないかというような批判も一方であるようでございますが、この点についての御見解を法務当局にお願いしたいと思います。
○古田政府参考人 委員御案内のとおり、刑事訴訟手続は、刑罰という非難を加えるという観点からどういう制度が合理的かということで考えられているものでございますが、この制度は、先ほど申し上げましたとおり、そういうふうな非難を加えるという手続、言いかえれば制裁を科する手続というものではございませんで、あくまで、不起訴処分となりあるいは無罪等の裁判が確定した者につきまして、その後その人をどういうふうに処遇するかという観点から、継続的かつ適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行う、そしてその社会復帰を促進する、そういう制度でございます。
 したがいまして、本制度によります処遇は、一方でその者が対象行為を行ったということから直ちにすべてこの制度によって処遇の対象になるということではなくて、医療が必要な人の中から本制度による医療を行うこととする人を限定するために、一定の行為を行った人であるということをその前提要件としたものでございます。
 不起訴処分の場合でございますけれども、検察官認定に疑問が生じた場合に、裁判所としては本制度の対象者として考えていいのかどうかということ、これを明らかにする必要はあるわけでございまして、それに必要な限りで事実の取り調べを行って、関係証拠によって対象行為の存否を確認する、そういうものとして構成しているわけでございます。
 このような本制度の目的や、対象行為を行ったことが要件とされている趣旨等から考えますと、本制度による処遇の要否、内容の決定手続は刑事訴訟手続と同じようなものでなければならない理由というのはないわけでございます。むしろ、適切な処遇を迅速に決定するということが重要でありまして、裁判所が医療が必要と判断されるのに対し、できる限り速やかに本制度による医療を確保するということが大事であるということからいたしまして、刑事訴訟手続、非難を加えることを目的とするようなそういうものより、柔軟でかつさまざまな資料に基づいて処遇を決定するということが制度の趣旨に合致するものと考えているわけでございます。
 そういう観点から、審判手続によることが適当であると判断したものでございまして、犯罪行為に該当するものがあるということだけで直ちに刑事訴訟手続と同じようなものでなければならないということにはならないと考えております。
○後藤田委員 次に、厚生労働省にお伺いします。
 次の論点としましては、本法案において定義されている医療でございますが、すべてこれは新しい、先ほど来申し上げます司法精神医療に伴う、諸外国に日本も追いつき、それを整備するという背景の中でつくられている法案だと私は認識しておりますが、その中の医療という定義が、今までの一般的な精神医療とどのような点が異なるのか、具体的な特徴につきまして御指摘をいただきたいと思います。
○高原政府参考人 指定入院医療機関におきます医療でございますが、医師及び心理技術者による精神療法を頻繁に行う、そして作業療法などを通じて社会復帰に向けた訓練を綿密に行う、また患者の行動観察を入念に行い、おそれの評価を行うなど、一般の精神病院で行う医療とは異なり、手厚い専門的な医療を行うこととしております。
○後藤田委員 今お答えいただいたように、一般の精神医療とは違う、手厚い医療ということでございますが、じゃ、その手厚い医療をするために、果たして、十分な診療報酬、この財源の確保はどのようにされるつもりでしょうか。いわゆる、今ある限られた財源の中でどこかを削ってふやすという、そういうお手盛りのことであれば、全くこの法案の趣旨に反するわけでありますので、診療報酬体系の改革も含めて教えていただきたいと思います。
○高原政府参考人 本制度におきます医療は、国におきまして一元的に行う医療としております。費用は全額国費によることとしておりまして、議員御指摘のとおり、本制度における手厚い専門的な医療を確実に実施していくためには医療費の確保が必要不可欠であると考えております。
 今後、本制度において行う医療の内容や人員配置基準等について、最も効果的なものとなるよう検討を進めていくとともに、必要な経費について財務当局の理解を得ながら確保し、本制度の着実な実施を図ってまいりたいと考えております。
○後藤田委員 今お伺いしたとおり、一般精神医療とはまた違って手厚い医療をするんだということでございますけれども、一方で、一般の精神医療においても重症または急性期、薬物乱用など治療が難しいケースもございまして、一般の精神医療と比べて今回の医療に手厚くするということで格差が出てしまう、そういった問題点も社会全般のことを考えると出てくると思うのですね。
 こうした患者さんに対しても、いわゆる一般の精神医療においての重症な患者さんにおいても、今後手厚い医療が同様に必要だと私は思いますけれども、その点についてはいかがでございますか。
○坂口国務大臣 精神病床におきまして、現在その中に入院をしておみえになります皆さんには、急性期の患者さんから既に積極的な入院治療の必要性が減少している患者さんまで、さまざまな方が入所しておみえになるというふうに思います。
 このような中で、患者の病態に応じて適切な処遇を行いますためには、精神病床のいわゆる機能分化を図るということがこれから非常に大事になるというふうに思っております。
 御指摘のように、重症あるいは急性期、薬物乱用など、手厚く専門的な医療が必要となる患者さんにつきましては、それにふさわしい治療体制を確保していく必要がございます。難治性の精神疾患などの特に対応が困難な精神疾患患者に対しましては、国立病院でありますとか療養所が、精神疾患政策医療ネットワークを活用いたしまして中心的な役割を果たしているところでございますが、今後とも、その機能の充実を図る必要がございます。
 現在、社会保障審議会の障害者部会におきまして、精神保健、医療、福祉の総合計画の策定に向けた検討を行っているところでございますが、この中で、精神病床の機能分化のあり方につきましても議論を行っているところでございます。この議論を踏まえまして、そして一般の精神病棟に入っておみえになります皆さん方に対します問題点も充実をしていきたいというふうに考えているところでございます。
○後藤田委員 それでは、最後の論点でございますけれども、これは法務省にお伺いします。
 諸外国の例をよく引き合いに出して、本制度のもとでの問題点が指摘されるわけでございます。どういった問題点かといいますと、治療の必要がないのに入院が長期化をして退院できなくなるというような、そんな問題が海外でも起こっている。いわゆる悪い意味での保安処分的な、そういった現状が見受けられるという意見もございます。
 これについて、我が国の本制度のもとでそういう事態が起きないように、またそれを防ぐためにどのような仕組みを設けているのか。これにつきまして、法務当局にお伺いしたいと思います。
○古田政府参考人 外国の状況について詳細を申し上げる立場でもございませんが、この制度におきましては、まず前提といたしまして、裁判所におきまして、医療を受けさせるために入院をさせる、こういうふうな決定をするためには、入院をさせて医療を行わなければ心神喪失あるいは心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合に限られているわけでございまして、治療の必要がない者がこの法律案による入院の対象となることは、要件上あり得ないということになるわけでございます。
 また、入院が一たん決まった者につきましても、指定入院医療機関の管理者は、入院を継続して医療を行わなければやはり先ほど申し上げたような精神障害のために再び対象行為を行うおそれがある、そういうことを認めることができない状態になったときには直ちに裁判所に対しまして退院の許可の申し立てをしなければならないということを義務づけているわけでございます。
 それに加えまして、入院を継続して医療を行わなければやはり精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合につきましても、少なくとも六カ月ごとに地方裁判所に対して、そういう状態であるので入院継続が必要であるということについての確認の申し立てを指定医療機関の長はしなければならないわけでございまして、六カ月ごとに必ずチェックが入るシステムにしてあるわけでございます。
 さらに、それに加えまして、この法律案におきましては、対象者、保護者または付添人からも退院等の許可の申し立てをすることができるようにしておりまして、その判断に不服があればさらに上級の裁判所の判断も求められるようになっておりまして、さまざまな形で、おっしゃるような、治療の必要がないにもかかわらず入院が不当に長期化するというようなことが起こらない仕組みとするため、さまざまな配慮をしているところでございます。
○後藤田委員 以上で質問を終わります。ありがとうございました。

続いて、与党側の漆原議員の質問です。
【漆原委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(同)
○園田委員長 漆原良夫君。
○漆原委員 公明党の漆原でございます。
 まず最初に、再び対象行為を行うおそれという概念についてお尋ねします。
 政府案では、再び対象行為を行うおそれというのを本制度による処遇を行うための要件としておりますが、これについては社会防衛を図るためではないかとの批判もあるところでございますが、そもそも、このようなおそれというものをこの法律の要件とした理由をお尋ねしたいと思います。
○古田政府参考人 この制度によります処遇は、先ほども申し上げましたとおり、社会復帰を促進するためでございまして、危険性から社会を防衛するというようなことを直接の目的とする予防拘禁とは違うわけでございます。しかしながら、この制度におきます処遇も、例えば入院でありますとか、その後の精神保健観察でございますとか、人身の自由の制約や自由に対する干渉を伴うものでございます。
 精神医療におきまして、仮にある者に医療を行うことが必要であるという場合でありましても、その意思に反して強制的に医療を受けさせるということが常に許されるということは考えにくいわけでございまして、先ほども申し上げましたように、本制度におきましては、医療を強制する仕組みで、そのことによって医療を確保していくということではございますが、自由に対する制約等がどうしてもこれは不可避的に生ずることでございますので、このような制約が認められるためには、やはり医療が必要な状態にあるということに加えまして、その者の精神障害のために問題行動に及ぶおそれ、こういうものが認められるということが必要であるというふうに考えているわけでございます。
 そういうことから、再び対象行為を行うおそれということを要件としているものでございまして、これは人身の自由に対する干渉、制約の限度を考慮して、そういうことが積極的に認められる場合に限って強制医療の対象とするという趣旨で、限定するために設けているものでございます。
○漆原委員 一部の精神科医の方から、再び対象行為を行うおそれの予測は不可能だというふうな批判がなされております。しかし、考えてみますと、現行法の措置入院制度においても自傷他害のおそれの判断がなされているところでございますが、こちらの判断については予測不可能だという批判は全く聞こえてきません。
 この自傷他害のおそれの判断と、再び対象行為を行うおそれの判断とは、私は基本的に同じものだというふうに考えておるわけでございますが、法務大臣の見解を尋ねたいと思います。
○森山国務大臣 精神保健福祉法におきます自傷他害のおそれも、この法案におきます再び対象行為を行うおそれも、いずれも、その者の意思に反してでも精神医療を行うために必要とされる要件であるという点では同じでございます。
 また、いずれも、その者の現時点の精神障害の有無、内容を診断した上で、このような精神障害を原因として現に生じている病状または今後生じ得る病状を診断いたし、今後、そのような病状により一定の問題行動が引き起こされる可能性があるかどうかを判断するものでございまして、その判断過程や判断方法も同じでございます。
 このように、自傷他害のおそれの判断と、再び対象行為を行うおそれの判断は、その基本的な部分に違いはございません。
○漆原委員 この自傷他害のおそれの判断は短期的な予測である、これに対して、再び対象行為を行うおそれの判断は長期的な予測であって、両者の予測期間が異なるというふうな意見がありますが、そのような違いがあるのかないのか、法務省に尋ねたいと思います。
○古田政府参考人 精神保健福祉法におきましても、いわゆる自傷他害のおそれ、特に他害のおそれということが問題になるわけでございますが、その有無について判断する必要はございますが、これは、特に一定の期間を定めてその間の予測をするというふうなものではございません。そのことは、この法律案におきます再び対象行為を行うおそれにつきましても同じことでございまして、特にある特定の期間を定めてその期間の予測をするというものではございません。
 したがいまして、一たん裁判所により、ただいま申し上げたようなおそれがあると認定されて入院の決定がなされましても、その後、指定入院医療機関の管理者は、そのようなおそれの有無というのを常々判断し、それがあると認めることができなくなった場合には、これは直ちに退院の許可の申し立てをしなければならないこととしているところでございまして、仮に一たんおそれがあるという判断がされたとしても、そのような判断が一定期間の拘束力を持つとかそういうものではございません。
 そういう意味で、短期的あるいは長期的ということにつきましては、そういうふうな期間との関係で判断するものではないということでございます。
○漆原委員 この自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれの関係について、厚生労働省においても今の法務省の答弁と同じように考えていいのかどうか。
 特に、六月二十八日の当委員会におきまして、厚生労働省の方からは、自傷他害のおそれは短期的な予測であるのに対し、再び対象行為を行うおそれは長期的な予測であるという意味の答弁がなされたというふうに記憶をしておりますが、今の法務省の答弁と若干違うのかなという気がしているところでございますが、厚生労働大臣にお尋ねしたいと思います。
○坂口国務大臣 自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれというのは、その判断過程でありますとか判断方法の基本的な部分は異ならないというふうに思っております。いずれも一定の期間を想定して予測を行うものではなくて、法務省とその点では同様の考え方でございます。
 御指摘の答弁は、精神保健福祉法におきます自傷他害のおそれの判断に関しまして、特に最初に行われます措置入院の要否の判断は、主として短時間の措置診察に基づいて行われていることなどから、判断資料は限られたものとなっておりますし、その結果として、主として措置診察の時点における症状に基づいて予測が行われている面がある、こういう実務の一般的な運用状況に関する認識を示したものでございます。
 これに対しまして、本法律案におきましては、より広範な資料が収集できる仕組みを設けておりますし、慎重な医療的観察、及びこれまでの病状の推移や生活環境等に関する十分な資料に基づき判断をすることとしております。
 先日、長期的な見通しというふうに述べましたのは、本制度におきましては、単に目の前の症状だけでおそれの有無を判断するものではないという意見を述べたものでございまして、数カ月とかあるいは数年といった長い期間を想定して予測を行うといった意味では決してございません。
○漆原委員 法務省にお尋ねしたいと思います。
 この再び対象行為を行うおそれの判断が不可能であるとする意見の中には、このような判断は、医者に対して対象者がいつどのような行為に及ぶかを予言することを求めているものであって、到底不可能なことを求めているという批判がなされております。本制度においては、おそれの有無を鑑定する医師に対してはどのような判断が求められているのか、お尋ねしたいと思います。
○古田政府参考人 この制度におきまして鑑定医に求められておりますことは、対象者が精神障害者であるか否か、そして、継続的な医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあるかどうかということについての意見でございます。
 ところで、この再び対象行為を行うおそれの有無に関する意見、鑑定と申しますのは、対象者が継続的な治療を受けなければどのような症状が続くか、あるいは再現するか、そのような症状がある場合に、症状の内容、問題となっている重大な他害行為の内容、過去の問題行動歴の有無、内容に加えて、多くの症例から経験的に共有されている専門的な知識に照らしまして、人の生命、身体等に危険を生じさせる行動を含む問題行動に出るおそれがあり得ると判断されるかどうかということについての専門家としての御意見でございます。
 したがいまして、ある特定の罪名をピンポイント的に求めるとか、あるいはその時期がいつかというようなことの意見を求めているというものではございません。
○漆原委員 続いて、民主党案と政府案の若干の比較をしながら質問をさせていただきたいと思っております。
 まず第一点は、入院の要否の判断資料の収集方法に関してでございますが、より確実な治療の効果あるいは病状の判断のもとで処遇の要否、内容を決定するためには、ある程度時間をかけて対象者の検査や診察等を行う必要があると思います。現行の措置入院制度では、二名以上の精神科医による診察が要件とされておりますが、実務上は短時間の問診によっているというふうに聞いております。
 まず、民主党案ではこの点について特段の措置がとられているのかどうか、とられているとしたら、内容について御説明を願いたいと思います。続いて、政府案ではどうなっているのか、政府の方に意見を求めます。
○水島議員 お答え申し上げます。
 現行の措置入院制度においては、入院の要否の判定においてまだまだ改善すべき点が多いという御認識は全くこちらも同様でございまして、そのような基本認識に基づきまして民主党案を考えさせていただいております。
 具体的には、判定委員会を設置しまして、判定委員会が都道府県知事から判定を求められた場合に、精神保健指定医二名による合議体において、その合議体を構成する各委員が対象者を診察した上で、その自傷他害のおそれの有無並びに高度の医療及び保護の要否について合議により判定をすることといたしております。
 さらに、都道府県に精神保健福祉の専門家である精神保健福祉調査員を設置しまして、そして、都道府県知事が判定委員会に判定を求める際に調査を行わせることとしているほか、判定委員会が判定を行うに当たって必要があると認めるときには、対象者の過去の病歴、現在の病状、治療状況、過去の自傷他害行為の有無及び内容、現在の生活環境等、判定のために必要な事項について調査を行わせることができることとしております。
 以上のような措置入院の決定の手続の見直しにより、より適切なものになると考えております。
○古田政府参考人 この適切な処遇を決定するための資料を多く、これは十分医療的な問題も含めて収集する、それに基づいて判断するということが必要でございまして、そのため政府案におきましては、対象者につきまして、特に最初の処遇の決定の申し立ての場合には、必ず一定期間病院に入院させて、鑑定や医療的観察を十分慎重に行うための期間を確保する、これを原則としているわけでございます。
 これに加えまして、申立人である検察官からは、その処遇の決定のために必要な資料につきまして提出義務を課して、そういう資料が十分集まることとするとともに、申し立てを受けた側あるいはその付添人、こちらからも資料の提出や意見陳述の機会を確保して、正確かつさまざまな観点からの資料に基づいて判断が可能なようにしている、また、それだけで足りないような場合も、裁判所で必要と認めるいろいろな事実調べができるというふうにしているわけでございます。
 そのほかにまた、生活環境等についての調査というのも非常に重要なこともございますので、保護観察所に裁判所から生活環境の調査を求めるというふうなことも可能にしておりまして、できるだけ正確なたくさんの資料によって判断ができる仕組みを考えているわけでございます。
○漆原委員 時間の関係上、最後の質問になると思いますが、退院後の継続的な治療を確保するための方法について聞きたいと思います。
 特に心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については、退院後も継続的で適切な医療を確保することが極めて重要であると考えます。現行の措置入院制度のもとでは実効性のある具体的な方策が定められていないというふうに私は認識しておりますが、この点について、民主党案ではどのような特段の措置を考えておられるのか、考えておられたらその内容を聞きたい。政府案ではどうなっているのか、お尋ねしたいと思います。
○水島議員 私たちといたしましても、精神障害者の方が地域で適切な医療を継続的に受けていくということ、これは極めて重要なことであると認識をしております。
 現行の精神保健福祉法におきましても、保健所を中心として行われる精神保健福祉相談員を初めとする専門職による相談指導、精神障害者社会復帰施設の設置等、精神障害者の方の社会復帰の支援について規定はされておりますけれども、これを十分に機能させるためには、精神保健福祉に関する業務を行う各職種間のチームワークが大変重要であると考えております。
 そこで、民主党案におきましては、退院後の継続的な通院医療の確保を含めた全体的な社会復帰支援体制の強化を図るために、医師、精神保健福祉士保健師、看護師、作業療法士その他精神障害者の保健及び福祉に関する業務を行う者の相互の連携が図られるよう、職種間の協力体制を整備すべき義務を都道府県等に努力義務として課しているところでございます。
○横田政府参考人 お答えいたします。
 委員御指摘のように、特に心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、退院後も継続的で適切な治療が必要であることは全くそのとおりであります。
 そこで、政府案におきましては、通院患者は、厚生労働大臣が指定する指定通院医療機関において入院によらない医療を受けるとともに、保護観察所に新たに置かれる精神保健観察官による精神保健観察を行うこととしております。
 精神保健観察におきましては、このような医療機関はもとより、地域社会で精神障害者に対する援助業務等を行っている保健所等の関係機関とも連携しつつ、当該通院患者の生活状況を見守り、そしてその相談に応じまして、通院とか服薬とかそのようなものをきちんと行うように働きかけていくということをいたします。そのようなことによりまして、地域社会において継続的な医療を確保するということにしております。
 また、保護観察所の長は、指定通院医療機関の管理者及び通院患者の居住地の都道府県知事と協議しまして、その処遇に関する具体的な実施計画というものを定めます。
 そしてまた、今申し上げました保健所あるいは精神保健福祉センター社会福祉事務所あるいは社会復帰施設等の関係機関の協力体制というものを、これは保護観察所あるいは精神保健観察官が中心となって、いわばコーディネーターとしてそういった協力体制を整備いたしまして、実施計画に関する関係機関相互の密接な連携の確保に努めます。
 さらに、継続的な医療を確保する必要があると認める場合には、地方裁判所に対して、入院によらない医療を行う期間の延長あるいは再入院の申し立てを行うこととしております。
 このように、政府案におきましては、通院患者が社会内において必要な医療を継続して受けられるようにするための新たな方策を盛り込んでおります。これによりまして、通院患者の社会復帰が十全に図られる、促進されるものと考えております。
 以上です。
○漆原委員 以上で終わります。ありがとうございました。