心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その27)

前回(id:kokekokko:20060119)のつづき。
ひきつづき、法務委員会と厚生労働委員会による連合審査会の第2号です。与党・野党から、参考人に対しての質疑が行われました。
【平岡委員質疑】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○坂井委員長 次に、平岡秀夫君。
○平岡委員 民主党平岡秀夫でございます。
 きょうは、参考人の皆さん方、どうも御苦労さまでございます。
 最初に、今回の法律案、新法は、本当に目指すべき方向に向かっている法律案なのかということについて、参考人の一部の方々にお伺いいたしたいというふうに思います。
 先ほど南参考人から、地域医療、地域全体でこういった精神医療の問題について取り組んでいく必要があるんだというお言葉もありました。そして、長野参考人の方からも、今回の法案は、ただ単に差別を助長し、そして精神障害者の方々を拘禁する、拘束していく法律であるといったような評価がありました。
 実は、せんだって我々も、イタリアのトリエステで一九七八年に制定されたバザーリア法の関係についての勉強をいたしました。世界の精神医療の趨勢というのは、こうした隔離をしてやっていく、必ずしもそういうものではなくて、やはり地域全体として取り組んでいく、開放医療的なそうした方向に進んでいるというふうに私は理解したわけでありますけれども、今回の法案というのは、むしろそれに逆行する方向の法案になっているというふうに私は思っているんです。
 この点について、松下参考人と富田参考人にそれぞれ御意見をお伺いしたいと思います。
○松下参考人 この法案が、現在の世界的な、トリエステが世界的かどうかわかりませんが、地域精神医療を中心としたそういう方向に逆行しているかどうかということですが、私は、現場からいって、先ほどちょっと言いましたが、そういう対象行為を行った対象者が、やはりもうほぼ無期限に近く閉鎖的に処遇せざるを得ない状況に今あって、そのために、その人たちをいかに精神医療をきちっとやって社会復帰させるか、そのための努力を我々はしているけれども、それが非常に今ネックがあってやれない。この法案ができると、その辺がかなりよくなるからということで、これは、隔離とか何かではなくて、法案がなくても現在の時点で隔離は絶対しているわけですから、この法案ができることによって、むしろその隔離的なものがもっと開放的になる方向に向かうんではないかというふうに私は理解をしております。
○富田参考人 よくイギリスの例が出されますが、イギリスは今現在、精神保健法改正の動きがあります。これはどういうものかといいますと、精神病質という言葉は最近なくなったようですが、世の中で、あの人はおかしい、危ないというふうに、だれでもがだれも告発できます。そして、それによって、ある三段階の審査を経て、強制的な収容ないし地域管理をするということができるようなシステムになりました。これは、いわゆるリスク管理が徹底するとそうなるんですね。そういう形で、精神科医療に刑事政策的なものを医療的にやれというのが今イギリスで起こっている非常にすさまじい状況なんです。
 日本の今のこの法案はこうなります。この法案は、いろいろおっしゃいますが、必ず再犯予測が不可欠なんです。それを抜きにこの法案はできるわけがないんです。そういうふうになります。そして、その再犯予測というものが、先ほど修正案の議論の中で、この法案によって立派なものをつくって、そこで何かいろいろなことができたことを一般の精神科医の水準の向上に充てるという趣旨のものがありましたが、これは全く逆であります。
 ちょっと皆さん、考えてくださいよ。いいですか。これは、再犯させないための法律です。そして、だれかが外に出ます。つまり、フォールスネガティブの問題ですが、出て再犯を起こします。例えば殺人が起こったとします。殺人によって殺された人、被害者は訴えることが可能ですよね。訴えます。そうしたら、この法案によっては、これは再犯を防ぐための法律でしょう、ところが出したでしょう、出した判断はだれがしたんですかということになります。そうしたら、この法の目的に沿って裁判が行われます。これは明らかにミスだということになります。つまり、閉じ込める方向に必ず、一〇〇%なると私は思っております。そうしたら、判定をした医師、裁判官、いろいろな方々がそれに関与しています、だれが責任を負うんですか。だれが訴えられる当事者なんですか。漠然としています。そして、精神科医療全体がイギリスのようにリスク管理のようになって、重大な犯罪を犯さないのであっても、精神障害者が何かすれば問題、先ほど長野さんが言ったそういうものが起こります。
 だから、この法案が通れば、ますます精神障害者に対してリスク管理という観点、それから再犯をさせないためにどうするか。一般の人は、再犯させないために監視する体制がこの国にありますか。ないですね。精神障害者に関してはつくっていく、なっていく。そして、精神科医療にそれを負わせていくということに必ずなります。
 それからもう一つ。皆さん御存じかどうか、最近道路交通法が改正されました。道路交通法はどういうことかといいますと、欠格条項を、絶対的な欠格条項から相対的な欠格条項にする。つまり、精神障害分裂病とか統合失調症とか、そういう者に関しては運転免許を与えないという今までのものを変えたんですね。よくなったかに思いました。
 ところが、内容はこうなっていますよ。我々、本委員会でも非常に議論して、精神神経学会理事会でも厳しく批判してきましたが、精神科医にこの人は運転しても大丈夫だという診断書を書かせるんですよ。書かせた上で運転免許を与えることを可能にするんです。何で精神科医がこの人は運転できるかどうかなんて鑑定しなきゃいけないんですか。そういうふうに、何か資格を持った人が診断して大丈夫だということを言わせて、訴訟されたらどうなりますか。これは議論になりました。大丈夫だと診断書を書いたからあれしたんだ、こういうふうになっていきますよ。
 我々精神科医は非常に危機感を持っています。さっき松下先生はいろいろおっしゃっていましたけれども、私は、松沢病院とか、いろいろ大変なところはあるということはよく知っていますし、そういうところの医師からとにかく大変なんだよという話を聞きます。大変なのは、この法案がないからでは全くありません。今の現状を大変にしているのは今の精神医療政策なんです。今の精神医療政策が大変にしているんですよ。それをちゃんと、何が問題なのかを明らかにしてきちっとしていくということが本来の我々がやるべきことです。この法案をつくっていいことなんか一切何もありません。
○平岡委員 富田参考人のお話は非常によくわかりましたけれども、さらに話を再犯予測の方に移らせていただきたいと思います。
 先ほど松下参考人は、今回の修正案は医療の必要性あるいは社会復帰の必要性が明確になっているので評価したい、そういうお話がありました。
 ただ、入院決定の要件について見ますと、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる、その判断をしなければいけない。そのときに、今回の法案を見ますと、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる」、こう書いてあるんですね。
 松下参考人は医師でもあろうと思うんですけれども、この規定で、どういう人を入院させるという判断ができるんでしょうか。入院をさせて医療を受けさせるための判断基準として、今の文章の中で、何を基準にして判断をされるんでしょうか、それができますでしょうか。
○松下参考人 御質問の趣旨を十分理解できなかったんですが、要するに、基本的な考えは、疾患名はともかくとして精神症状が出た、そしてそのために対象行為を起こした、恐らくそれは因果関係があるだろう、だから対象者の精神症状をよくなせば対象行為がなくなるのではないかという大前提があって、そのために対象者のその精神症状を治療しなければいけないというのが大原則ですよね。それ抜きには全然精神医療というのはあり得ませんから、そういう観点からやるということが一つ。
 それからもう一つは、現在それでもやっている、でも、やっていて、では現在どうしてそれがうまくいかないのかといったときに、それは、先ほど私が言いましたように、特にこういう重大な他害行為をした人に関しては、医療だけでやっているとどうしても限界があってどうにもできないという事態が生じて、結局それが長期入院みたいな形になってしまう。だから、これは少し司法がきちっと関与していただいた方がむしろ対象者にとっても幸せになるのではないかという発想があるわけです。そういう大前提がある。そういうことで精神医療というものを考えていかなければいけないというふうに私は考えております。
○平岡委員 多分、今言っておられることは、「入院をさせてこの法律による医療を受けさせる」、その医療じゃなくて、医療プラス何か別のものということですよね。となると、医療行為そのものを見てみたら、この法律で特別な医療が行われるということではなくて、この法律は医療プラス何かがあるからということだと私は思うんですよね。そうであるならば、多分、精神保健福祉法の中での医療をきっちりとやり、そして社会復帰をするための体制をきっちりととっていく、この二つが組み合わされれば、松下先生が言われているようなことはでき上がるんじゃないでしょうか。どうでしょう。
○松下参考人 措置入院云々で今の医療の中でやるとできないというのも再三繰り返しているんですが、つまり、現在の、例えば松沢病院の中で、専門的な病棟、特に病気で集めた病棟というのはアルコール病棟とか痴呆病棟があるわけです。ではどうしてアルコール病棟だけつくるのかという疑問が当然出てくるわけですね。それはなぜかというと、やはり、アルコールの依存症に対する一種の治療プログラムというのがある。それは痴呆病棟に関してもそうです。痴呆病棟に関する治療プログラムがある。
 私は、今回の法案にそういうことはうたわれていないけれども、恐らく、今回の法案の対象となる施設ができたときには、そういう司法精神医学の治療プログラムというのはやはりちゃんとつくらないとだめだと思うんですね。それをつくった上で、例えば精神療法も含め、薬物療法も含め、あるいは生活指導とか、いろいろ社会復帰にかかわるようなことも含めたそういうプログラムの中でやらなければいけない。だから、そういうことで先ほど言った精神医療が必要だということです。
○平岡委員 入院についても、どういう要件をもってして入院を決定するのかということがこの法案では全く明確になっていないという点について私はまず指摘したいと思うんですけれども、先ほどの松下参考人の説明の中に、今の措置入院制度であると、医師がいろいろ判断に苦しんで入院が長引いてしまう、あるいは退院をさせることを避ける傾向が、ヘジテートするというようなことを言われましたけれども、これは、裁判官が入ってきたらもっと退院がしにくくなるんじゃないでしょうか。
 裁判官というのは、再犯のおそれみたいなものを判断するわけですね。病気に基づく症状じゃなくて、それ以外のものとして、病気で入院したけれども、病気が治って退院が可能であるというふうに精神科医が判断しても、裁判官はだめだという判断をした、それだったら退院はできない。精神科医がこれは退院してもいいと判断したときに、裁判官がそれをとめる。精神科医が退院はだめだと言ったときに、裁判官がこれは退院させてもいいという判断をするはずがないわけですよね。
 松下参考人が言っておられることはむしろ逆じゃないですか。裁判官をかますことによってさらに退院をおくらせ、そして退院させることを、社会全体として、制度全体がヘジテートするということになりはしないでしょうか、どうでしょう。
○松下参考人 現状では、確かに精神科の医者だけの判断に任されているんです。具体的に言いますと、例えば殺人事件があった。特定の殺人ですと、よくなったときに、その人が退院をしても、特定の人に対する殺人というのはあり得ないから、恐らくそういう行為はほとんど予測できない。ところが、不特定多数の殺人というもの、通り魔みたいな殺人があったときに、非常に病気がよくなった、医者としてはやはりこれは退院をさせたい、でも、実際退院させて何かあったときには医者がすべて責任を負わざるを得ないという状況です、今は。
 今回は、それの退院の判断に関しては、医者の意見とともにやはり司法の意見も聞いて、そして司法がそれは退院してもいいでしょうということになれば、それは今の状況とは全然違って、もう少し早く社会復帰ができる。実際そういう予測はできませんから、別に犯罪を犯さないかもしれないしということが実際生ずるわけで、そうすると、要するに、長引いた入院も退院できるということになろうというふうに私は思っておりますけれども。
○平岡委員 時間がないのでこれでやめますけれども、今のお話を総合すると、退院の判断はやはり医者がする、そして退院をした後のフォローというものを、社会全体として、社会復帰をするその仕組みの中できちっとやっていくことで、そういう形で対応するべきであって、退院をするときの判断を精神科医と裁判官がやることによって、後はもうほっておけばいいんだということでは多分ないはずなんですね。
 だから、退院をした後のケアをどうしていくかが本質的な問題であって、裁判官を退院をするときの判断にかまさせるということが本質ではないということを私として申し上げまして、質問を終わらせていただきます。
を終わらせていただきます。

【福島委員質疑】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○坂井委員長 次に、福島豊君。
○福島委員 本日は、参考人の皆様方には、大変お忙しい中貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございます。
 私も連立与党の中でこの検討に加わった一人でございますが、ただいまの参考人の御発言を聞いておりますと、大変複雑な心境でございます。松下参考人のおっしゃることを聞いているとなるほどなと思い、また、富田参考人、大塚参考人、長野参考人のお話を聞いていると、またなるほどなと、なかなか収れんしないわけでございます。
 そもそもの根っこのところには、日本の精神医療というものは大変問題がある、これは非常に共通した認識なんだと思うんですね。先般、野田正彰先生の本を読みましたが、なかなか日本の精神医療を内部的に変えるのが難しいということで、WHOにわざわざ来てもらって、見てもらって意見書を書いてもらったというような歴史的なことが書いてありましたけれども、まず、松下参考人にお尋ねしたいんですが、なぜ日本の精神医療というのは、二十一世紀に入りましても、さまざまな批判が出るような状態にあるんだろうかとお聞きしたいと思います。
○松下参考人 なかなか難しい質問で、なぜかというのを、例えば一言とかあるいは一つか二つの理由で説明はできないんですが、今の精神医療の中で、特に松沢病院はこれから生まれ変わろうとしているんですが、社会的入院と俗に言われている患者さんをいかに退院させるか、それが非常に問題だ、現在の時点では大きな問題だと思っているんですが、では、なぜそういうような社会的入院患者を生ずるようになったかということをむしろ考えたときに、やはり日本の精神医療のあり方が一つわかると思うのですね。
 実は、私は昭和三十七年に卒業して医者になったんですが、そのころは、精神科の病床が十三万床ぐらいですね。人口は一億ちょっと切ったぐらいですよ。今は、一億三千万の人口で三十三万。それだけふえたということは、要するに病院がふえたんですね。病床がふえちゃったんです。そうすると、病床がふえると入院患者さんを入れざるを得ないということで入院患者がふえた、そういう側面がかなりあって、そういう経済的な理由がかなり日本の精神医療をレベルダウンさせたということは、私は基本的にあると思うんですね。
 だから、その辺をきちっとやはり修正をして、先ほどから話題が出ているように、将来的には精神医療というのは入院中心ではなくて地域医療中心だと私も思っていますから、そういう方向に向かっていかなければいけないというふうに私は思っています。
○福島委員 富田参考人にも同じ御質問をいたしたいと思います。
○富田参考人 日本の精神科医療の、特に戦後のことをお話ししますと、戦後の精神科医療は、まず一九五〇年に精神衛生法ができました。一九五八年に、先ほど私が言いました医療法特例ができました。一九六〇年代は高度経済成長ですね。そういう枠組みの中で、精神科医療の中にいろいろな要素を全部入れ込んだんです。
 まず貧困の問題があります。日本の精神病院が三十三万床ありますが、この三十三万床の偏在構造というのがあります。どの地域に万対でどのぐらいというのがあります。例えば東京とか、いわゆる太平洋ベルト地帯、比較的経済的に豊かな、それから工業とか仕事がある地域は万対病床数は基本的に少ないんです。二十とかそのぐらいなんです。ところが、東北とか、特に西南日本、特に九州全体ですね、それから四国の土佐とか、そういうところは万対五十とかそのぐらいの水準なんです。東京でいえば、区部は病床数がほとんどないんです。東京の東、多摩とか奥の方に病床数があるんです。
 そういう形で、精神病床は、経済的な、あるいは貧困の問題とかそういう問題の枠組みの中で林立したんです。筑豊地帯とか常磐地帯とか、炭鉱が崩壊していく過程で貧困が集積したところに精神病院がどんどん建ったんです。そういう形で精神病院は今のような姿をつくったんです。つまり、医療プロパー、精神障害プロパーの問題では全くない形で精神病院はつくられたんです。貧困と、簡単に言えば治安の問題がベースにあって精神病院ができたんです。それが今の現実なんですね。ですから、今度の法案は、治安の問題、刑事政策の問題が精神科医療にもっと強く流されようとしているというふうに私は考えているんです。
 医療は医療というふうにもっとしたいんです。精神保健福祉法には、医療及び保護という言葉がありますね。それから、社会復帰と社会参加というのが最近加わりましたが、もともと医療及び保護なんです。この保護の中に、今言った貧困の問題とか治安の問題とかが含み込まれているんです。私は、保護を今外せというふうに言っているんではありません。そういう形で今のができ上がっていると。
 それからもう一つ。そういう形ででき上がった民間精神病院が九〇%近くですね。私も民間精神病院の院長ですが、民間精神病院は収容していかなければ成り立たないんです。民間精神病院は収容主義でなければ自分たちは成り立たないんですというふうに今なっているんですよ。これは、何といってもなっているんです。それは、皆さん方、我々がつくってきたんですよ。公的にもっといろいろやればいいものをやらないで、そういう資本の流れの中に任せたんです。だからこうなったんですよ。
 これを変えていかなきゃいけないんです。変えていかなきゃいけません。変える視点がなくて、一般的に社会復帰という言葉を述べても、何にもならないんです。そういうことを皆さん、よく御認識いただきたいと思います。
○福島委員 この国会でも、参考人がおっしゃられるような指摘が多々ありまして、塩崎先生を初めとする方々の修正案というのは、そこのところを十分に配慮して、そうした精神医療をどうしていくのかという視点を十分盛り込みたいという考えで出されたとは私は理解しております。
 どういうふうに底上げしていくのかということでございますが、地域における支援体制が大切だと思います。
 南参考人にお尋ねをしたいわけでございますけれども、地域における医療的な支援、福祉的な支援、いろいろありますが、その中で看護師の果たす役割というのも大変大きいだろうと思いますけれども、その点についてどのようなお考えかをお聞かせいただきたいと思います。
○南参考人 地域におきまして今まで看護職が取り組んできました精神保健に関しましては、保健所を中心とした保健師が精神衛生相談員の資格を持って患者さんの再入院、再発を食いとめるというようなことで運動をしてきたんですが、何せ人が足りませんでした。
 アメリカ等でされています調査によりますと、外来と訪問看護とを組み合わせて行った場合と外来治療だけを行った場合とでは再発率がどう違うかというのを見ますと、外来と訪問看護を組み合わせた方が再発率は低いということがはっきりしております。
 精神障害者の課題というのは、対人関係が非常に大きな課題です。人と人とのつき合い、人と人との関係性、社会とのつき合いというところにいろいろな措置が必要だというふうに私たちは思います。それにもかかわらず、対人関係を主体としないといけないそういう分野に対して、医療関係者または専門家が非常に少ないということが大きなこの領域の課題だというふうに思います。
 したがって、今後、私たちが強く希望しておりますのは、入院期間中の、医師も含めてですが、医師も非常に重要ですが、医師と看護職等医療関係者の数がふえていくこと、それによって十分な手当てを病院の中で行うことによって早く退院できる仕組みがつくれること、そして受け皿をつくること。受け皿をつくるというのは、PSWだとか保健師だとか、看護職のいろいろな訪問看護体制を、今のところ医療でしかできないんですが、福祉の分野でも日常生活の中で薬を飲みながら退院していく人たちに支援できていくような、そういう体制が必要だというふうに私は思います。
 もう一つ重要なのは、住宅施策が非常に重要です。看護職といたしましても、共同住居だとかいろいろなことでプロジェクト的に頑張ってきているところは多々ございますけれども、今後ともその方向が重要だというふうに考えております。
○福島委員 また、大塚参考人にお尋ねをしたいわけですが、社会復帰調整官ということで、さまざまな役割を精神保健福祉士の方には担っていただくということが修正案の中には盛り込まれているわけでございます。社会復帰調整官というのは、なかなかに医療現場におきます通常の業務にプラスアルファされる部分というのは当然出てくると思いますし、そしてまた、どれだけマンパワーを整えてもらうことができるのかとか、さまざまな御心配があろうかと思うんですけれども、その点について再度御発言がありましたら。
○大塚参考人 社会復帰調整官を精神保健福祉士が担うということですが、今現在、また、近く国家試験を迎えようとしていますが、約一万三千ぐらいの資格者が生まれています。また、ことしも二万近くになるかと思うんですけれども、今の医療の中にすら雇っていただける基盤がありません。なぜならば、診療報酬制度で裏打ちがないからです。
 こういう現状の中で、限られたマンパワーで今は退院促進をしているというのが実情でありまして、私は今私の勤めている病院の外来専従担当をしておりますが、九百名ほどが対象です。もちろん、すべてがソーシャルワークが必要な方ではありませんが、こなせるはずがありません。病棟担当の者も、大体一名が六十から百は持っているというのが恐らく平均的な数字だと思います。お医者さんもかなり過激な勤務状態ではありますが、面接室の中で、また病棟で、大体は病院の建物の中で動かれる職種でありますが、私どもは外に出ます。
 社会復帰支援というのがどういうことなのかを皆さんきっと御存じないかと思いますが、今、南さんの方からも対人関係が大変な方々という話がありました。加えて、社会生活をするための力というのが長期の入院によって著しく損なわれております。
 私は、現在の精神障害者の、特に長期入院の患者さんたちの生活障害というのは病院がつくったと言っても過言ではないというふうに思っております。なぜならば、人間が変化する、成長する、社会の中で暮らすということは、体験する機会が与えられなければこれはどうにもできないことであります。皆さん、浦島太郎の状態になっているんですね。私どもでも日々目まぐるしく変わる今の社会になかなかついていけません。何十年も病院という限られた空間の中で暮らしていて、とてもとても不安が強い方たちを外に連れ出し、一緒に同行し、一つ一つの体験をともにする中でその不安を解消していく、彼らに安心感を持ってもらう、こういうことにどれだけの労力がかかるか、御存じでしょうか。これをする人員が配置されていないのが今の精神医療の状況なんです。
 これをまた、地域に暮らすようになった方々の地域生活支援までをもなぜ医療機関の限られたマンパワーでやらなければならないのでしょうか。今、地域の精神保健福祉のマンパワーも圧倒的に足りません。こういう中にあって、なぜ新たな法案では、現行の精神保健福祉領域の機関の中にマンパワーを充足することをしないで、いきなり保護観察所といったようなところに名前だけを変えた社会復帰調整官を置こうとしているのか。社会復帰調整というのは言葉を唱えればできるものではありません。
○福島委員 以上で、時間がなくなりましたので終わりますが、大変貴重な御意見、ありがとうございました。
 いずれにしましても、しっかりお金をかけて、きちっとした医療をやらなきゃいけない、福祉をやらなきゃいけないということだろうと思います。ありがとうございました。

【佐藤委員質疑】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○坂井委員長 次に、佐藤公治君。
○佐藤(公)委員 自由党佐藤公治でございます。きょうは、お忙しい中、このような時間をいただきましたことを心より感謝申し上げたいと思います。
 合同審査でこうやって参考人の皆さん方にいらっしゃっていただくのは、私にとってみれば二回目なんですけれども、前回の参考人の皆さん方から聞いたことときょうお話を聞いたこと、やはり全く同じ思いを持ったということでございます。
 最初に、南参考人にお聞きしたいと思いますけれども、ここにも書いてありますね。リハビリテーション及びノーマリゼーションの理念の実現。私はこういったことを議論する場合に、断片的ではなくて、全体を見た、やはり国のあるべき姿ということを考えるべきだと思う。まさに、社会復帰、地域状況、いろいろなことが相互に関係し合いながら、この一つの問題というのは解決の方向に向かう。断片的に論じて解決できることではないということが今までの議論でもよくわかったつもりでございます。
 そういう中で、多分南さんはお持ちになられていると思います。社会保障、福祉、言葉だけは大変にきれいな言葉が飛び交うのですけれども、果たして、小泉総理、今の内閣、政府にその基本的な理念やこの国のあるべき姿というのはあるとお思いになられますでしょうか。
○南参考人 私はそのことに回答する立場にはないと思います。
○佐藤(公)委員 ちょっと場所が場所なのでおっしゃれないのかなという気がいたしますけれども、これはすごく大事なことだと僕は思うのです。
 先ほども長野さんがおっしゃったように、やはり一番大事なことは、社会全体の差別ということをなくしていく。人道や人権、ノーマリゼーション、言葉ばかり世の中、マスコミ、メディアが伝えるけれども、実態はどうかといったら、かなりかけ離れているように思える。そういうことからすれば、この国のあるべき姿ということを本当に小泉総理がお持ちになられているのか、政府・与党の方々がそれを持ってやられているのか、非常に疑問に思うんですね。
 そこで、同じ質問なんですけれども、松下さん、非常に難しい質問かもしれませんけれども、あるならあるで結構です、ないならないで結構です、率直にお答え願えればありがたいと思います。感じられないんだったら感じられない、見えないんだったら見えない。今の政府・与党、小泉内閣に、国の社会保障、こういうことも含めて、すべてのこういったものの理念や基本的な青写真があるのかないのか、どうお思いになられるのか。
○松下参考人 南さんと同じように、答える立場に余りなくて、よくわかりません。
○佐藤(公)委員 よくわからないというのが正直な気持ちだと思います。僕らもわからないんですもの、何をやろうとしているのか。だからこういうことになってしまうのかなという気がいたします。そこの部分ということを考えていかなければいけないというふうに思いますけれども、やはり断片的な話ばかりだとどうしても、おのおののお立場の皆さん方からお話を聞くと、全くそのとおりだというふうに思う部分というのがあるのです。しかし、全体を、やはり社会をどうしていくかということが非常に大事なのかなという気がいたします。
 そういう中で、富田先生にお聞きしたいと思いますけれども、富田先生の現場での話、考え方、非常に説得力のあるものがあると思います。そういう話を聞く中、私が思うことは、全体を見たときに、まさに被害に遭った方、また被害に遭われた家族の方々、こういう方々に対しての配慮、考え方というものを富田さんはどうお感じになられているのか、簡単にお話を願えればありがたいと思います。
○富田参考人 被害に遭われた方々は、こんな無念な思いはないと思います。私がやられたら、やり返す、そういう思いに駆られると思います。当然のことですね。だから、もし法がなければ、やり返しに、復讐に行くでしょう。しかし、この国には、残念ながらというか、法があるんですね、司法というものがあります。被害者の人権もそうだし、加害者の人権も重んじる、普遍的な人間的な価値として重んじるというのがこの国の憲法とかこの国の司法の中に一応あるはずです。復讐はしたいが、復讐はできません。
 ですから、被害者の思いは、復讐して何倍にも返したいと思うでしょう。しかし、加害者の普遍的な人間的な尊厳ということもきちっと考えなければ法というものは成り立ちません。皆さん国会議員なんだから、私にこんなことを言わせる必要はないと思います。
 被害者感情によって、報復感情で物事を考えるのは全く間違いと思います。次元が違う。次元の違うことを同一の水準で論じることは全く間違っていると思います。被害者救済はきちっとやるべきでしょう。しかし、報復という形で、私的な報復という形、私がやり返してやりたいと言うような、その報復という形で司法は動くべきではないと思います。
○佐藤(公)委員 大塚参考人にお尋ねします。
 今の話、被害者ということをお思いになられたときに、どういうことを感じられるか、思われるか。いかがでしょうか。
○大塚参考人 一般的に、被害者の感情を考えれば、加害者が精神障害を持っていなくても、相当な感情的にはとめられない思いがあると思いますが、私が今、実際に現場で感じていますのは、特に、精神障害者の中で病状に起因して重大な犯罪行為をして被害者、加害者関係になってしまう方々の多くは、同じ家族もしくはとても身近なところにその両方が位置しているということなんですね。これは本当にはかり知れない苦しみです。被害者の方も加害者の方も同じ親族、身内の中にいらっしゃることが多いのです。それは、とても近くにいるから、病状がひどくなったときにそこに身を置いているからそういうことになってしまうんですね。
 これは、双方を支援しなければいけない。双方を支援することを考えたときに、今回の法案は少しも解決にはなっていないと思います。これは言葉ではもう語れないというか、とてもとても苦しい実際の中で物すごい時間をかけてやりとりをしなければいけませんし、とてもクリアできる感情ではないまま実際に離れてしまう、それぞれが離れてしまうということがあるわけですね。
 被害者になってしまった家族に加害者になってしまった障害者の支援をしてほしいと思っても、それはとても要求するのに難しい事態です。しかし、実際にそのことを頑張ってやれる場合もありますし、やれないことが多いわけですね。そのときに、両方の苦しみをどういうふうに考えて寄り添っていくかということは、どちらからも信頼されないとできないことです。どちらからも信頼されるということはこの上ない難しい援助だというふうに考えております。
 答えになっていないかもしれません。申しわけないです。
○佐藤(公)委員 修正案を提出された方が、先般の委員会でも答弁でおっしゃられていたのですが、党内議論したときも、そして今でも、これが社会防衛を目的としたものでは決してないということで、特に今回は、医療に当たっていただくことによって社会復帰が早くできるようにということが最大の目的だというようなことをおっしゃられました。
 これは言葉としては非常にきれいなんです。言葉として非常にきれいなんですが、やはり私も、通常国会からこの法案を見ていくに際して、本当に、片や国民の生命と財産を守る上で一人も何かあってはいけない、また片方も間違いがあってはいけない、そんな思いの中で、どうこの法律、法案をつくっていくかということの非常に板挟みの中での法案審議なのかなというふうに私が思うことがございます。
 これはもしかしたら、富田先生に言わせると、それを同一次元の中で論じたりするのではなく、別の次元で話し合いをしながら全体社会をつくり上げていくという方式なのかもしれません。しかし、そういう話をしていくと、やはりこの国のあるべき姿がどうなのかというところに行き着くんですね。そこがきちんとしないことには、片方だけやっても片方が落ちる、こっち側をやるとこっち側が落ちる、全体をどうとっていくかということなんですけれども、それが全く政治として機能していないのかなと私は思います。
 こういう中で、実際、この法律の中にはやはり社会防衛というのが、先ほど参考人の方々のお言葉の中にも入っていたんですね。これは、全く社会防衛というのを無視したことじゃなくて、社会防衛ということもやはり考えて法律としてはつくられていると思う。そこをうまくごまかして、何とか通しちゃおうなんというのが何か見え隠れするような気がする。つまり、こういう部分をごまかすことが、政治においてやはり国民の皆さんに信頼を得られないところなのかなという気がいたしますけれども、そういうことを受けて、もう余り時間もございませんけれども、松下さんにお尋ねをしたいと思います。
 修正案を提出された方でも、本当は修正案を出された方に聞かなきゃいけないかもしれないんですけれども、これはとりあえず一歩前進だと。何が前進だか私はよくわからない部分がある。一歩前進と言っているんですけれども、政府の方も、または修正を出されている方、こういう方々が一歩前進と言われているのは、何が一歩前進だと思われているんでしょうか。先ほどは医療という部分でお話をされていた部分もあると思うんですけれども、全体を見て、ひとつお答えを願えればありがたいと思います。
○松下参考人 私は、現場から、やはり精神医療の立場からしか答えようがないんですが、精神医療という立場からいうと、この法案で言う対象者の精神医療は今よりははるかに進歩してくる、そういう意味ではすごくメリットがあるというふうに考えております。
 それと、社会防衛という話が出ましたが、私は、全くそういうことはないだろうと考えています。
○佐藤(公)委員 松下参考人に引き続き聞かせていただければありがたいんですけれども、きょう、こちらの方の意見書を読ませていただいて、ここのdという部分というのは、社会復帰に向けての活動がほとんど行えない状況にあると。私はもう、ここの一点、この一点というのが非常に松下さんも、この部分を訴えているところというのが強くあるのかなという気がいたします。
 実際、皆さん方の意見を聞く限り、この社会復帰ということに関しては、かなり現状が食い違っている。それはやはり、病院側、医療側、地域、国民全体の意識というものがそれを受け入れる体制にもなっていない、こういう部分に感じられるんですけれども、松下さんの方から、こんなにひどい状況なら、こういうものをなぜ今まで放置してきてしまったのか、または早く変えなきゃいけなかったのか。どん詰まりに来てから、この法案ができ上がって、通る、通らないから、やはりもっとここを訴えるべきところだったと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○松下参考人 先ほどからほかの参考人の方もおっしゃっていますが、やはりそういう社会復帰活動が、もうほとんどと言うと語弊があるかもしれませんが、大変不十分な状況にあることは事実です。私どもの現場からいっても、その病棟から退院させるときに、先ほどから言うように、受け皿の問題だとか、あるいはもうPSWの数なんかはほとんど少ないですからね。そういうマンパワーだとか、そういうことが全くできていないことで、やはりこういうふうに社会復帰に向けての活動がほとんどできていない状況にある。だから、それはもう一般的に、その病棟だけではなくて、松沢病院全体の、社会復帰、病棟を含めてすべてのことに当てはまるので、確かに、一般の精神医療をすごくレベルアップしていかなければいけないことはもう言うをまたないと私は思っております。
 でも、そちらを先にやるか、ではこちらを先にやるか、そういう二者択一の問題でもなく、あるいは先後の問題でもなく、とにかくやることはもうやってほしい、とにかくいい方向にやってほしいというのが現場からの願いですね。
○佐藤(公)委員 もう最後になりました。
 やはり、今の小泉内閣の政治というものが、基本が見えないからこういうふうになっているのかなと私は思いますけれども、これは天から降ってきたものじゃなくて、やはり、政治家がこういう政治をするからこうなっちゃった結果だと思います。そこのところを私たち議員ももう一度考え直して、今後とも審議を続けたいと思いますので、よろしくお願いします。
 ありがとうございました。

【木島委員質疑】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○坂井委員長 次に、木島日出夫君。
○木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 五人の参考人の皆さん、大変貴重な御意見、また現場からの御意見、本当にありがとうございました。
 私は、今提出されているこの法案を審議するに当たりまして、いろいろ日本の精神医療を勉強してみたんですが、最大の問題は、欧米で今進んできている地域での医療、病院に閉じ込めるんじゃなくて、精神障害者の皆さんを地域で、そこで生活し、医療ができ、本当の意味で社会復帰できる、そういう体制がどんどん後退をしてきている。そしてそれが、松下参考人がおっしゃったように、病棟の数、病床の数がむしろふえる、三十三万人の体制がいまだに残っている、七万人の社会的入院が全く解消できない、こういう状況にある。やはり、最も大事な地域医療・福祉体制をどう充実するかという、そこが一番おくれている、だから、いい入院治療をやっても地域に戻せない。その土台がないからじゃないかというふうに思わざるを得ません。
 今度の法案をよく吟味しているんですが、入院は確かに重厚になると私は思うんです。お金と人をかければ重厚になると思うんです。しかし、地域で障害者を支えるその手当てがほとんど皆無と言っていい法案の形になっているんじゃないかと思わざるを得ないんです。
 そこで、松下参考人にお聞きしたいと思うんです。
 こういう陳述がありました。対象者の精神医療が治療によって軽快し、軽くなり、退院させようとする際、対象行為の重大性をかんがみ、退院の可否の判断に苦しむことが多い、それはなぜか、地域に帰したときに、それを支える状況がないからだということをおっしゃいました。私は、まさにここが根本問題だと思うんです。そこを、そうおっしゃったんだけれども、松下参考人は、純粋な医学的判断だけでは無理であって、特に司法的な判断が必要である、そういう論理になるんですが、私は、必要なのは、司法的判断じゃなくて、地域での医療だけじゃなくて、これを支える福祉社会ではないかと思うんですが、いかがでしょうか。
○松下参考人 地域の受け皿の、受け皿という表現は悪いんですが、要するに、地域の精神医療の、あるいは福祉の、保健のレベルアップは当然必要ですね。まさに、もう皆さんが言うとおりです。恐らく将来は、そういう地域精神医療を中心として精神医療が動いていくから、なおさらのことです。もちろん、この対象者の退院に関しましても、そういう受け皿がきちっと必要だということは当然です。
 でも、先ほど私が言ったのは、その一歩手前で、病院から社会へ出すというところで現在非常にネックになっているのは、全部それは医療の責任に任せられている、それが我々にとっては大変耐えられない。やはり、そこはきちっと司法も関与してもらわないといけないというのが私どもの立場ですね。
 もう一つは、この法案は通院医療をきちっとうたっていますね。その辺は僕は大変いいことだと思って、現在松沢病院でも盛んに、単に抱え込んでいるだけではなくて、大勢の対象者の退院を抱えています、退院者がいます。そして通院医療に持っていきます。数カ月は通院します。でも、だんだん通院しなくなってきた後に、その人たちは一体どこに行っているのか、一体どういうことをやっているのか、あるいはどういうふうに幸せなことをやっているのか、不幸せなのかということは全くわからない。その辺のことも含めたフォローアップをきちっとやらなきゃいけないんだけれども、今回の法案は、その意味では一つの進歩、前進じゃないかというふうに私は理解をしております。
○木島委員 地域で精神障害者を支える医療、福祉、保健、これを充実することが大事だと。今、松下先生は、それに司法も関与すべきだというんですが、司法は地域での精神医療充実のためにどういう関与が必要だ、司法は何をすべきだと考えているんですか。
○松下参考人 ちょっと言葉足らずで恐縮ですが、申しわけございませんが、地域医療に司法が絡むと言ったわけじゃなくて、退院をするという、そこの行為に関して、医療の行為に関しまして、医療だけに今任せられている、それはちょっとできないというのが現場の意見。そういうことで、地域医療に司法を絡めたことは毛頭考えていません。
○木島委員 私が政府案に対して基本的な反対を唱えたのは、何で法務省所管の保護観察所が地域医療の通院治療を監視しなきゃならぬのか。まさにその分野こそ厚生労働省の保健、医療、福祉の分野ではないかと考えていたわけですが、今松下さんも、地域医療にまでは司法が関与するとは言っていないとおっしゃられましたので、それはそれとして受けとめておきたいと思うんです。
 南参考人からもうちょっと詳しくお聞きしますが、南参考人は地域ケアが一番大事だとおっしゃられました。幾つか具体的なお話も述べられました。もうちょっと詳しく、今の日本の現状のどこが問題か、どこをどう直すべきか、端的なお話を聞かせていただきたいと思うんです。
○南参考人 地域で精神保健、医療、福祉がなかなか進んでいかない根底にはさまざまな理由があると考えます。
 一つは、一般国民の人たちの精神障害についての理解がなかなかできていない。かつての伝染病に誤解があったように、精神障害者に対する誤解は地域にあると思います。このことを変えていかないといけない。このことを国民がもっと深く理解できるような施策というのは必要だというふうに思います。
 しかし、具体的になりますと、私は、これはこの法案の対象の患者さんだけではなくて、一般的に、入院から退院、また地域に向かってということは一連のものだと思います。両方とも必要だというふうに思います。入院している患者さんが外来通院を始める。外来通院をすると、患者さんたちが生活しているところからお越しいただいた外来通院のところの相談機能を充実するというのは非常に重要で、今後とも私は看護職がかかわっていっていいことだと思います。
 私は長年、臨床保健師という名称で病院の中に保健師を置いて、まだPSWができない時代からそういう相談機能のことについて支援をしてまいりました。そういう意味で、まずは外来からということと、それから、病院から訪問看護していく訪問看護制度というのが今はございます。それをもっと拡充しないといけないということがあると思います。
 また、訪問看護ステーションの仕組みですと、今の段階では、精神障害者の方に福祉のサイドで行けるのはホームヘルプの場合だけで、介護の人だけですね。精神障害のある人で、病気を抱えて、かつ薬を飲んでいて、身体的な合併症を起こしている人たちもいますが、そういう人たちに対して看護ケアが在宅でできていく、そういう仕組みは今のところございません。
 そういう意味では、私は、この法案に関して一つ気がかりになっているのは、入院治療とそれから通院治療を大事にしているというところは非常に評価できることですが、問題は、精神保健福祉法との関係で、いわゆる社会復帰病棟に転棟したり、または社会復帰のいろいろな機関を活用することが、この人たちができるかどうかということがいま一つあいまいであることが気になっています。地域の中に多様なサービスを提供することができて初めて、私は患者さんの本当の退院はあると思います。
 私は、一九六〇年代にアメリカにいまして、ちょうど地域医療、精神医療に大波が打たれたときにアメリカにいました。そのときに、受け皿のサイドが精神衛生センターだけで、クライシスインターベンションだけでやっていても再発予防にはならなかったということを私は見ています。実際に、きめ細やかな、日常生活におつき合いしていく専門家が、地域精神医療を推進していくのには非常に重要だというふうに思います。そのためには、国民の理解を深めていく施策も重要だというふうに考えています。
 以上でございます。
○木島委員 ありがとうございました。
 富田参考人にお伺いをいたしますが、日本でなぜ入院の病床数を減らすことができなかったのか。先ほど経済的な要因も挙げられました。診療報酬制度の問題、定員の問題、そしてまた地域医療の体制がなかった問題、いろいろあろうかと思います。その中で、野田正彰先生が、精神病院の方にも問題があるといいますか、精神科のお医者さんたちが、本当に目の前にある患者の皆さんを地域に帰して、そして社会生活ができるように本気になって取り組むエネルギーが見受けられない、そうおっしゃられて野田先生は精神科のお医者さんをやめてしまうということまで書かれていますね。
 なぜ日本でそこがおくれてしまったのか。いろいろな方面から指摘していただきたいと思うんですが、富田参考人、よろしくお願いします。
○富田参考人 野田さんの本は私も読みましたし、野田さんと私は同年ぐらいの精神科医です。野田さんは、私のことも名前ぐらいは知っているでしょう。私も野田さんの名前ぐらいは知っている。名前だけじゃない、いろいろ知っている。
 あの本の中で非常に大事な指摘が一つあります。先ほど質問の中にもあった、日本の精神科医は何をやっているのかということですね。日本の精神科医はちゃんと臨床をやっているのかということですね。そのことに関して言えば、日本の精神科医は十分に臨床をやっているということは到底言えないと私は思います。だからこんな法案が出てくるということも、精神科医として思います。
 では、日本の精神科医はみんなどうしようもないやつばかりなのか。日本の精神科医はどこに勤めているのか。精神病院に勤めている。そうですね。最近、クリニックというものが特に大都市圏では雨後のタケノコのごとくというか非常にいっぱい出てきました。このクリニックが受け皿になって精神病床数が減るのかという幻想はちょっとあった。ところが、クリニックがふえても精神病床数は全く減っていませんね。
 なぜか。医者がだめなんでしょうか。日本の精神科医は、一人一人話してごらんなさい、いい人もいっぱいいますよ。松下先生も大変いい人です。いい人ですというか、御存じかどうか、松下先生と私は同じところに大分いて、いろいろ議論した仲です。ところが、やはり構造が問題ですよ。多く閉じ込めておかなければ病院は成り立たないから閉じ込めておく。これは現実問題ですよ。
 例えば、私の病院のことを挙げましょう。二十年、三十年入院している人を退院させます。先ほどから出ているように、退院させるのに非常に力と意思と志が必要なんです。志がないとだめですよ、これは。そして、退院させます。ベッドがあきますね。長期在院者を十人退院させました。そのベッドをどうしますか。十人あけたら十人分収入がなくなるんですよ。これはなかなか大変なことなんです。そんなことをするよりも、無理に退院させないで、黙って置いておいた方がいいようにでき上がっているんです。でき上がっている。
 だから、特例が外せない、特例を外さない。例えば言いましょうか、日本精神科病院協会は、特例の撤廃に一貫して反対してきましたね、そうですよね。二〇〇〇年の医療法改正のときに、ハンセン病とか結核は特例が廃止になりましたよ。ところが、日本の精神科病院の特例は残しました。しかも、その中で、特例を廃止しないで、十六対一にするために七十年、八十年かかるなどという議論がなされているじゃないですか。一九五八年に特例をつくったときに、あれは一過性の措置だったはずですよ。当面の間だけだったんですよ。ところが、五十年たっているじゃないですか。そして、二〇〇〇年の医療法改正のときの議論は、十六対一にするためにあと七十年、八十年かかると言っているんですよ。何ですか、これは。
 日本の精神科医はだめですよ。だめだが、だめにしている構造をつくっているのは、そういう構造じゃないですか。そういうことです。
○木島委員 ありがとうございました。
 残念ながら、時間が切れてしまいました。ほかの皆さんへの質問は割愛させていただきます。
 終わります。

【中川委員質疑】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○坂井委員長 次に、中川智子君。
○中川(智)委員 社会民主党市民連合中川智子です。
 本日は、お忙しい中、本当に貴重な御意見をありがとうございました。
 私は、今回のこの法案は、日本に新たな差別法を生み出す、さまざまな御意見の中で廃案にという言葉がございました、絶対にこれは廃案にすべきものだと思い、そのような立場から質問をさせていただきます。
 まず、長野参考人に伺います。
 長野参考人は、入退院を繰り返されたということを先ほどの陳述の中でおっしゃいました。きょうも本当はそのような隔離された精神病棟で行うべきだ、そして現実をもっとしっかり見てほしいということを御意見の中でお述べになりました。
 長野参考人が入院されていたときの経験とか、精神病院というもののイメージを、ちょっと私どもに教えていただきたいと思います。
○長野参考人 まず、病院一般として、まあ国会議員の皆さんは、政治家というのは、健康じゃないと務まらないお仕事でしょうが、ほかの科である内科であれ、外科であれ、入院体験のおありの方もいらっしゃるかと思います。あるいは、御家族が入院なさった御経験のある方もいると思います。
 入院しますと、これは病気の治療の場でございますから、例えば六人部屋に入院します、そうすると、治療のためということで、ほかの科であろうと、いろいろな規則がありますね。朝は六時に検温に来るとか、採血に来るとか、あるいは九時になったら暗くして寝てくださいとか。十時に見たいテレビがあるから起きていると言っても、困りますと言われます。そういった治療の場としてのさまざまな制限は、どの科の病院でもございます。
 例えば六人部屋で、いろいろな社会体験をした、いろいろな生活体験をした者が顔を突き合わせて生活しなければいけないわけです。結構、入院生活というのは、ほかの科でもストレスになりますね。あら、嫌だ、あの人、気に入らないわとかいう人とも、本当にベッドを連ねて生活しなければなりません。
 ところが、精神病院の場合、治療の場ですから、二、三週間、一カ月ぐらいだったらまあ我慢できるにしても、これが年単位なんですね。生活の場になってしまっているんですね。
 どういう生活かというのは、一般の病院と同じように一つは考えられると思います。すべてがお仕着せの生活です。自分で何かを選べるというようなことは一切ありませんね。朝何時に起きなさい、夜は何時に寝ましょう。割と一生懸命、良心的になさっている病院であっても、できるだけ単調な生活に彩りをつけたいということで、週に一回はレクリエーションをしましょうとか、あるいは作業療法をしましょうとか、いろいろあるわけですが、それは全部お仕着せなんですね。
 私は非常にバレエが好きだ、きょう外国から有名なバレエ団が来るから、私はあそこに行ってそのバレエ公演を見たいと思っても、まずできません。もっと単純に、先ほど申したように、きょうは十一時から懐かしの映画をやるから、あの青春時代に、昔々ここに入れられる前に見た映画をぜひ見たいと思っても、とてもそんなことは許されません。それから、きょうお昼にはラーメンが食べたいなとか、あるいは、きょうはさっぱりざるそばにしたいなとか、そういうふうに思っても、給食は一カ月分の献立のとおりに、大体冷めて届きます。そういうように、本当に普通の人間の生活ができない。
 例えば、純粋に物理的な環境としても、ベッドがある、少々自分の私物が置ける、かぎがあるロッカーがあるようなところはまだましですが、大抵、普通の、床頭台と言われますそういうものがある程度だったり。そして、大抵の精神病院にはほかの科と違って、ベッドの周りにカーテンがありません。私も昔は花恥じらう乙女でしたが、それでも着がえるときに身を隠すところがないんです。今の一般科の病院はかなりアメニティーが向上したといいますし、精神病棟もかなり改善はされていますけれども、カーテンがないようなところ、いまだに畳部屋の病院もあります。そういうところで顔を突き合わせて、一年、二年、三年、四年と、いたずらに日を過ごしていかなければいけません。
 そこでは、勉強したいとか、いろいろな人とつき合いたい、先ほど大塚さんがおっしゃいました、人は社会の中でいろいろな人とつき合うことで成長することができますが、そういうこともできません。好きな本を買いに行くこともできません。映画も見られません。ひどい病院では、新聞を見ることを禁止している病院もあります。
 あるいは、新聞の中に挟まれているチラシを見ることを禁じている病院があります。なぜかというと、自由に買い物に行かせずに病院が経営している売店から物を買わせるには、物価水準を知られてはまずいからです。あ、いつも買っている洗剤がこのスーパーだと半分で買えるじゃない、そういうことを知られては困るんです。でも、実際、社会復帰しようと思ったら、生活保護の乏しい家計の中から安い買い物が上手にできる能力は必須です。そういう能力をどんどん毎日奪っているのが今の精神病院です。これが一応今の精神病院の水準ですね。
 そして、「「ポチ」と呼ばれた患者」という記事の中で、温和な患者さんはというふうに書いてあります。この一行は私は本当に胸が詰まります。記者は温和と表現しなければならなかったんですね。彼は、この処遇に怒りを持てなかったんです、怒りを表現できないんです。なぜかといえば、徹底して毎日を管理された生活の中で、そこに順応しなければ生き延びられないからなんです。そこで順応しなければ生きられない。殺されるかもしれない、何をされるかもわからないんです、精神病院は。だから、この記者さんは温和という表現をせざるを得なかったんですね。
 本当に、入院した途端から、あるいは発病した途端から、本来社会復帰のために治療やいろいろな支援が組まれていかなければならないけれども、今の、たくさんの参考人の方の御意見のように、とてもとてもそんな条件が今ないんですね。こういうことを、皆さん、申しわけありませんが、口が過ぎるかもしれませんが、放置していらっしゃいます。そのことを認識していただきたいと思います。
○中川(智)委員 ありがとうございました。
 続きまして、富田参考人に伺いたいと思いますが、私は、この法律ができることによって、だれが一体喜ぶんだろうという思いがございます。この法律ができることによって生み出されるものがどのようなものなのかということが一点と、富田参考人がおっしゃいます、今回の法案の提出に当たって、いわゆる司法精神医学に対する認識の誤りというのが非常に大きい、そこの部分で、少し司法精神医学に対する御見解を伺いたい。この二点を富田参考人にお願いします。
○富田参考人 一点目です。この法案ができて、だれが喜ぶか。つくりたい人は喜ぶでしょうね。それから、失礼ですが、今大変だと思っている、患者さんを抱えている、松下先生を前に失礼ですが、松沢病院の先生は喜ぶかどうか私はわかりません、それで少しは救われると思っていらっしゃる方が多いと思います。そういう方々はほっとするかもしれません。
 だけれども、まず間違いなく、つくってよかったなと思うのは忘れ去られるでしょう。つまり、何もいいことにはならないから。次に何をするかということに間違いなくなるでしょうから。だから、今喜んでおられる方も、あすは忘れるでしょう。そして、次にどういう治安的な対策を精神科医に押しつけようかというふうになるでしょうねというふうに思います。
 二番目、司法精神医学とは何か、これは実は非常に難しいと思います。難しいというのは、司法と精神医学の両方にまたがるということですよね。この法案ができるまでは、日本の司法精神医学は、簡単に言うと、司法精神鑑定をやるというそのことが非常に大きな問題だったというふうに思います。今度、この法案ができると、日本の司法精神医学は二つの課題を新たに背負うことになるだろうと思います。
 つまり、欧米であるように、再犯予測をどういうふうに精密に仕上げなければいけないかということが一つ。つまり、司法精神医学は、再犯予測をどうするかということを欧米に倣ってやらなければいけない。我々の委員会の報告のように、欧米の再犯予測は進んでいるなどといっても、この程度のものだし、また、必然的にその程度のものでしかないというふうに我々は考えていますが、日本は日本の状況の中で再犯予測をしなければいけないということになります。
 もう一つ。先ほどから問題になっているように、特別保安病棟、これができるということは、特別保安病棟の中で再犯を犯させないためにどのようにするかということが、司法精神医学の中に治療というものが持ち込まれる。
 今までは、日本の司法精神医学は、治療というものはほとんど持ち込まれたというふうには言えませんよね。もちろんこれは問題があります。例えば、矯正施設による精神医学、精神医学だけじゃありませんが、この問題をどう考えるかというのは非常に重要な問題です。問題ですが、今度の法案は、刑務所における精神医学とは全く異なっていると思います。犯罪傾向をどう矯正するかということが、新しく司法精神医学の大きな課題になるでしょう。果たしてこれは司法精神医学というべきでしょうか。矯正学ではありませんか。
 だから、私は、司法精神医学というのは、日本精神神経学会が、司法と医療の協同関係をつくるということを第三項の中に言っていますが、この協同関係というのは、司法は司法でやるべきことをやってくださいねということです。そして、医療は医療でやるべきことをやりましょうねと。この協同をどうするかというのが司法精神医学の大きな課題であるべきですが、この法案によって、先ほど言った二つの要素を日本の司法精神医学に持ってきて、しかも、この修正案の趣旨説明の中で、司法精神医学のような考え方で日本の精神科医療を向上させようという考え方が出てくると、これはとんでもない間違いになるというふうに思います。
○中川(智)委員 時間になりました。きょうの御意見を伺って、この法案は成立させてはならないという思いを強くいたしました。
 ありがとうございました。
○坂井委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。
 次回は、明四日水曜日午前十時三十分から連合審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。