心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その35)

前回(id:kokekokko:20060127)のつづき。
きのうにひきつづき、法務委員会における質疑です。
【山井委員質問】

第155回衆議院 法務委員会会議録第15号(同)
○山本委員長 次に、山井和則君。
○山井委員 今の金田議員に対する答弁を聞いておりましても、余りにもシミュレーションやデータがなさ過ぎる。そういう中でこんなに安易に、強制的に患者さんを隔離する法案を提出して、またそれを通そうとする、その無責任さというものに私は本当にあきれております。
 そもそも、なぜ日本が欧米と大きくかけ離れて三十三万人もの精神障害者の方々が精神病院に入院をされ、長期間隔離をされてしまっているのか。それはまさにライシャワー事件をきっかけとする隔離で何とかなるんじゃないかという安易な発想だった。しかし、一たんその列車は走り出したらとまらなくて、それから数十年たっても、一たん隔離した方々というのはなかなか社会に復帰できない。
 私は、今回の法案が、そのライシャワー事件と池田小学校が重なって思えてならないんです。森山法務大臣も認められましたように、池田小学校の宅間容疑者はこの法案の対象にはなりません。精神障害による犯行ではないということであります。にもかかわらず、そういう直接関係ない事件によって、また新たな隔離の法律を安易につくってしまう、そのことに私は非常に恐れを感じております。
 そこで、これからの四十五分間、それが安易でないというんであれば、きっちりとした明快な答弁、どれぐらいで社会復帰ができるのか、どのような方々が入院するのか、そして、一般医療、地域ケアシステム、人員配置の向上、そういうことをどういうふうにやっていくのか、そういう明白な答弁をお願いしたいと思います。
 まず、資料を配らせていただきました。これは、きのう、刑事局の方と厚生労働省の方に本当に遅くまでかかってつくっていただきました。
 まず、この一枚目、政府案の方を見ていただきたいと思います。要は、この心神喪失者、心神耗弱者が四百十七人おられる、平成十二年の時点ではこれだけおられた。それで、自傷他害のおそれがある。そして、措置入院をされている方がこの真ん中の方で、その中で、かつ、政府案の場合は、再犯のおそれがある方ということだったわけですね。
 それで、この裏に、塩崎議員を初めとする方々の修正案があって、この二ページ目、手持ちの資料を見ていただきますと、それはちょっと小さくなっているわけであります。
 塩崎議員、改めてお伺いしますが、この心神喪失心神耗弱者で、かつ自傷他害のある者、この方々というのは大体何人ぐらいと年間想定されますでしょうか。もちろん、大体で結構です。
○塩崎委員 ここの一枚目のチャートにあるように、心神喪失者、心神耗弱者は四百十七名であったという数字があるわけでありますが、今回の法律による対象者が一体何人になるのかというのは、正確にはよくわからないというところが正直なところであって、ここで概念図でお示しをしたわけでありますから、要件を満たす者がこの中に入るということで、特に数字を今明示せいといっても、なかなかそれは個別のケースだろうということだろうと思いますので、特に数字を挙げることは難しいと思っています。
○山井委員 それから、坂口大臣にお伺いします。
 前回も答弁していただいているんですけれども、そのうち、措置入院されている方、心神喪失心神耗弱、その方々のパーセンテージを考えると、この心神喪失者、心神耗弱者のうち、政府案の対象となる方は大体何人ぐらいだったんでしょうか、もともとの再犯のおそれというものは。
○坂口国務大臣 措置入院をされる方の数、それ以内におさまるということだというふうに思います。
○山井委員 そうしたら、塩崎議員、改めてお伺いしますが、この四百十七人のうち、措置入院を現在されている方というのは大体どれぐらいですか。
○塩崎委員 これは、先ほど金田議員の質疑の中で出てまいりましたけれども、四百十七名のうち、措置入院をされた方々が二百七十名おられたということだと思います。
○山井委員 そうしたら、この長い丸、卵形のところが大体二百七十名ぐらいということが今明らかになってきたわけですけれども、その中で、問題は、この二百七十の中の、要は、政府案では非常にあいまいだったということをおっしゃっておられましたよね。それで、この点線になっております。それが修正案で丸になった。要は、問題はここなんですね。今までの心神喪失心神耗弱の中で措置入院をされていた、その中で、かつ今回の政府案の対象になるのが大体どれぐらいの割合なのか。そのことを、塩崎議員、御答弁願います。
○塩崎委員 先ほど来答弁にもありましたけれども、これまでの措置入院の際の鑑定等での見方と、今回の法律に基づく手厚い医療を受けるかどうかの判断をするというのは、少し判断基準が変わってくるわけでありますから、具体的な数字を今どのくらいかと言われると、なかなか私どもも難しいな、腰だめの数字もちょっと申し上げにくいなという感じがいたします。
○山井委員 そうしたら、聞き方を変えますが、自傷他害のある者という中で、この修正案の、この今回の法案の対象にならない人というのはどういう方ですか。そういう聞き方をします。
○塩崎委員 今回修正案を出してからのさまざまな議論の中で、だんだんに、どういう方々が対象になるのかということを何度か御説明しながら明らかにしているつもりでございますが、先ほど金田議員からは余り御評価をいただけなかったので大変残念でありますけれども、ここに、山井議員の御指示でつくったもので、山井議員とも議論させていただいて、今回の修正で一体この対象は広がるのか狭まるのかということで、山井議員は広くなるんじゃないか、こういう御懸念を持っていたと思うわけであります。
 繰り返し私たちが答弁してきたのは、そうじゃない、むしろ今回、一ページ目のこのポンチ絵と二枚目のポンチ絵の違いは、政府案のところを、実線であったものを点線に変えているわけであります。この意味合いは、何度も言っているように、ただ漠然とした危険性がある人まで同様の行為を行うのではないかというおそれを判断されて取り込まれてしまうかもわからないということであったり、あるいは特に治療の必要性がないのにその対象になってしまったりとか、あるいはレッテル張りになってしまうような形になるということで、この範囲がはっきりしないじゃないかという御批判を明示する意味でこれを点線にさせていただいたわけであります。今回、私たちの修正案というのは、その中だ、つまり、御心配の、広がるんじゃないかというのと違って、いや、むしろ政府案よりは対象が縮まるというつもりで書いたわけであります。
 では、この薄皮の中は何だということになると、先ほど来御答弁申し上げているように、例えば、対象者の精神障害に治療可能性がなくて医療の必要性がない場合とか、あるいはこの法律による手厚い専門的な医療までは特に必要がないという場合、あるいはこの対象者の精神障害について、先ほど来申し上げているように、単に漠然とした危険性のようなものだけを感じる、そんな場合にも、今までは入っていたけれどもそうじゃないということであります。
 また、政府案では再び対象行為を行うおそれがあるとして入院が決定されると考えられる場合でも、対象者に十分な看護者がいるとか、あるいはその生活環境が、精神障害者にとって社会復帰にふさわしいサポートがいるというような、そういうことを考えると、社会復帰の妨げにはならない環境の中で生活できるというような場合には、この法律に定める手厚い医療の対象にはならないということがあり得るという意味で、今までの政府案の対象と少し中が小さくなるということでございます。
○山井委員 そこが定量的にはさっぱりわからない。要は、医療の必要と認めるものだけでは、本当にこれは広がってしまう危険性があるわけですね。だから、そこが私は非常に納得できない。
 かつ、その次の質問に移りますが、改めて坂口大臣にお伺いしたいんですが、平均入院はどれぐらいをめどかということに対して、前回、同様の患者の方は、措置入院では半数が半年ぐらいで退院ということをおっしゃっておられます。このことに関して、政策目標ですね、五年後に見直しをするということですけれども、平均何年になるのかわからないという答弁でした。でも、一つの目安、方向性としたら、大体どれぐらいこの専用病棟の入院を考えておられますか。坂口大臣、お願いします。
○坂口国務大臣 これは、現在の段階でそれを何年ということを言うのはなかなか難しいというふうに思いますので、前回にも申し上げたとおり、過去で参考になるデータを申し上げたわけでございます。したがいまして、その過去のデータからいきますならば、そんなに長くならないのではないかというふうに私は思っております。
 問題は、急性期と申しますか、早く治療を行えば、私はうんと短くなる。しかし、精神障害というものを長く放置するということになりますと、これは治療が非常に長くなってしまいますから、そこは医療の範囲の中の話であって、私は、よくそこは検討しなければならないというふうに思います。
 ですから、問題は、先生も御指摘になっておりますように、精神医療というものを、今回のこの法律だけの範囲ではなくて、やはり全体に高めていくということは大事なことでありまして、そして、初期の段階でできる限り治療をしていくということがそもそも一番基礎的な問題として大事なんだろうというふうに思いますけれども、犯罪を犯した人たち、この人たちにおきましても、そうした病状というものによってこれは違うわけでありますから、それを今、平均値でどれだけ出せということを言われましても、そこは出しにくい。
 先ほどからの議論にもありましたけれども、この他害行為を行った人が、みずからの行為についての認識を高めるということが大事でありますし、また、みずからを制御することを促すということが大事でありまして、それは普通の精神科におきます治療とは異なっているところだというふうに思います。
 先ほども金田議員の方からもお話がございましたが、ではどういう人を選ぶのかということ。それは、具体的には、その判断基準というものをやはりつくっていかなければならないというふうに思います。措置入院につきましてもそれはつくられているわけでありますから、そうしたものをつくっていかなければならないというふうに思いますが、突き詰めていけば、やはり、みずから行った行為についての認識というものができてきているかどうか、そしてまた、みずからを制御する能力が生まれてきているかどうかといったことが、その治療の、治療と申しますか、入院の一つの判断になるだろうというふうに私は思っております。
○山井委員 今おっしゃった答弁ですけれども、要は、そういうふうなモデルの病棟もつくってみたことがないわけですから、それが何年で退院できるかというのも、要はまだ、やってみないとわからないということですよね。そういう形でこの法案を通すこと自体が、私は非常に無責任だと思っております。
 措置入院で同様のケースでは、半年で半分が措置解除されているということですけれども、そういう答弁を前回もいただきましたが、その後、医療保護入院や任意入院になっている方も当然多いわけですね。措置を解除されたということは退院にはならないわけですから、そうしたら、いわゆる社会復帰、措置を解除されるのは半年で半分の方というのはわかりましたけれども、社会復帰されるまでにどれぐらい同様の患者の方はなっていたのか。坂口大臣、いかがですか。
○坂口国務大臣 それは、現在の一般の精神病を患っている皆さん方のお話でしょうか。
○山井委員 いえいえ、今回の法案の対象になるような同様の方が、前回の答弁で、半年で半分ぐらい措置解除になっているということだったんですけれども、措置を解除されてからも、まだ医療保護入院や任意入院で入院されている方が多いですよね。だから、そこも含めて、病院から退院されて社会復帰されたのはどれぐらいかということです。
○坂口国務大臣 一つの指定病院に、できたと仮定しますと、そこに入っておみえになった皆さん方がその病院から違う病院に移られるというのは、いわゆる社会復帰をされたということとは私は違うと思うんですね。ですから、それはもう入れる必要はありません。それから、社会復帰をされてから後の問題というのは、これはもう、一般の患者さんと同じではないか。
 ただ、この法案の中にも書いてありますように、指定病院に入院をされた皆さん方につきましては、退院をされて、そして社会復帰されました後につきましても、いろいろと御相談に乗る、そういうことをしっかりやっていかないといけないというふうに思っております。
 ただ、この問題は、それでは一般の患者さんの場合には要らないのかというと、それはやはり同じように要るわけですよ。要るわけですが、特に他害行為等を行った皆さん方につきましては、その点を十分に御相談に乗っていかないといけないというふうに思っています。
○山井委員 今聞きましたのは、措置解除された後も、任意入院や医療保護入院で長期間入院して、退院できていないのではないかということをお聞きしたわけですが、そうしたら、ほかの聞き方で聞きますと、この専用病棟から退院をされた後、通院措置になる方と、また新たな病院に医療保護入院や任意入院で入院される方もおられると思うんですよね。要は、今回の専用病棟を退院しても、ほかの病院に入院していたら、社会復帰にはなりませんよね。ということは、トータル、次の病院も含めた社会復帰というのは、それこそ何年ぐらいと考えておられるんですか、目標というか。
○坂口国務大臣 そこはなかなか、ここで何年ということは言えないというふうに思いますが、一般の病院に入院されるということについても、現在、社会的入院ということが問題になっているわけでありますから、できる限りそれは地域で受け取るようにしないといけないというふうに思います。そのために、ひとつ全体のレベルアップを図っていこうというふうに申し上げているわけであります。
 今御指摘になりましたように、指定病院に入院をなすっていて、そこから出られて一度社会復帰をされて、また少し悪くなられたからほかの病院に入られるというケースは、それは私は起こり得るだろうと思うんです。一時的に入って、早目に入って、そしてコントロールをされるというふうなことはあり得るだろうというふうに思っておりますが、病気の内容にもよりますけれども、そういうことは当然起こり得ることだ。そのことも含めて、しかし、早くまた地域に帰られるように、病院にも努力をしてもらうということだろうと思うんです。
 だから、それを含めてどれだけということを今おっしゃったわけですけれども、そこはなかなか、それぞれの状況によって違いますから、申し上げることはできない。
○山井委員 だから、通常国会からずっとこの議論をさせてもらっておりますが、今の答弁を聞いても、要は、この法案の対象者が専用病棟に入って、その後またほかの病院に行って、それで社会復帰をする、その社会復帰がまさにこの法案の目的ですよね。ところが、それが何年ぐらい先かはわかりませんという答弁なんですよ。やはり社会復帰を目的とする法案を出す以上は、目標というのが多少あると思うんです、五年後にこれを見直すわけですから。
 そこで、この専用病棟に入られた方が、結局、四、五年たってもやはり病院から出られなくて社会復帰できていなくてもオーケーだと考えるのか、いや、それはこの法案の趣旨じゃないと考えるのか。例えばどうですか、坂口大臣、社会復帰までに五年ぐらいだったら、長いんですか、短いと考えておられるんですか。大臣、いかがですか。
○坂口国務大臣 現在の精神病院の状況からいきますと、もっと長い人がたくさんあるわけですから、それは平均値から見てどうかということを、私は平均値をしっかり把握いたしておりませんからなかなか言うことは困難ですけれども、措置入院をされた皆さん方の過去のデータ、先日も申し上げたとおりでございます。それは大きな目安になるというふうに思っております。したがって、そんなに長くここにとどめるべきではない。手厚い、そして高度な精神医療を施すということでありますから、手厚く高度な医療を施すということは、社会復帰が早くなるというふうに私は思います。(山井委員「その次の病院のことを言っているわけです。専用病棟から出た後の次の病院のことを言っているわけです」と呼ぶ)
 そのときに、そこからすぐ社会へといいますか、地域へお帰りになる方も、率直に言って私はあると思うんですね。そこから次の病院へ行かれるという方も中にはあるのかもしれませんけれども、しかし、やはりその指定病院からお出しをする以上は、普通の病院へというのではなくて、その地域へと申しますか、社会へ帰っていただくようにしないといけないというふうに私は思います。
 だから、その指定病院をある程度で卒業させて、そして、それを一般の精神病院の方へ移すんだという考え方ではないんではないか。中にはそういう人もお見えかもしれませんけれども、私は、すぐにこれは家庭にと申しますか、地域にと申しますか、帰る方もお見えになるというふうに理解をいたしております。
○山井委員 そこは非常に重要なところなんですが、ということは、坂口大臣の認識としては、専用病棟を出られた方の多数はやはり通院の方になる、ほかの病院に入院するんじゃなくて、今の答弁だったら、多数は通院の方になるというふうに認識されているということでよろしいでしょうか。
○坂口国務大臣 私は、そう認識をいたしております。
○山井委員 多数が通院になる。ということは、多数の人が通院ではなくて、またほかの病院に入院していたら、これはこの法案の趣旨ではないということですよね。それでかつ、次の病院で長期間入院していて、結局社会復帰できてなかったら、この法案の趣旨ではないということに当然なると思いますが、坂口大臣、それはよろしいでしょうか。
 というのは、社会復帰というのは、専用病棟から出て次の病院も退院して、初めて社会復帰ですから、幾ら専用病棟から早く出られたとしても、次の病院でまた長居をしてしまったら、社会復帰にならないわけですから、それができなかったら、この法案の趣旨には合致していないということでいいですね。
○坂口国務大臣 この法案の趣旨というのは、他害行為を行った人たちに手厚い医療を受けていただいて、そして早く通院治療に切りかえていただくということだろうというふうに思っております。したがって、通院治療をお受けになった皆さんがまた時として一般の病院へお入りになるということは、それは考え得ることだということを私は申し上げているわけでありまして、私は、そのことは別次元の話といいますか、それは一般の病状に関する問題だというふうに思っています。ですから、それはひとつ別でお考えをいただかないといけないのではないかというふうに思います。
○山井委員 私が申し上げているのは、要は、専用病棟で幾ら手厚い医療を受けても、また一般の病院にいてそこで手薄い医療になって、結局は、症状がまた悪化して出られなくなったら、社会復帰の目的を果たしていないということであります。
 それで、次に移りますが、とにかく今の答弁を聞いていましても、これでは何年ぐらい入院するのかわからないという不安があるわけです。
 それで、三ページ、これは前回も添付した資料ですけれども、スタッフが少ない病院ほど長期入院になっている。それで、一たん長期入院になると、それによって社会適応能力が低下して、また長期入院になってしまうという悪循環になっているということが提起されています。また、この社会復帰施策も非常におくれているということであります。
 次の四ページ、お願いします。読売新聞のこの記事によりますと、措置入院の指定病院のうち三割が、看護体制が望ましい四対一のレベルに達していないということなんですけれども、措置入院というのは強制的に入院させるわけですけれども、強制的に入院させるところが厚生労働省が言う望ましい四対一を満たしていないということは大問題だと思うんですが、坂口大臣、やはりこういう望ましい体制を満たしていないこの三割の病院は措置入院の受け入れの対象から当然外すべきだと考えるんですが、大臣、いかがですか。
○坂口国務大臣 現在のところ、精神保健福祉法の指定病院というのがございまして、これにつきましては、いわゆる二次医療圏を単位とした一定の地域に指定基準に適合する病院が複数存在する場合に限りまして、特例として基準に満たない病院の指定を行うことになっているということでございます。各地域に二つ以上の精神病院が、ちゃんときちっとしたのがあるところはいいわけですけれども、ないところについては満ちていないところも指定をしているというのが現状だそうでございます。私も今回初めて知ったわけでございますが。
 これは、今後一番急いでやらなきゃならない問題で、医師の問題、看護婦の問題を初めといたしまして、医療スタッフの人たちをどう整えていくかということが一番大事なことで、住まい等でありましたら、これは予算をつけて物を建てればそれはできるわけでございますが、人を養成するというのは年限のかかる話でございます。特に医師を充当しようということを思いますと、やはり精神科を選んでいただく人たちをふやしていかなければならない。そのための手だてをどうするかということをやらないといけない。現在、これは山井委員からも御指摘いただいて、小児科の方なんかは小児科医師をどうしてふやすかということを今やっているわけでございますが、同じことを精神科医につきましてもやらないと充足をしていかないのではないかというふうに思います。もちろん、看護婦さんにつきましても考えていかなければならない。
 ただ、全体のそうした数をふやすということではなくて、やはりこの精神科医療というものがいかに大事かということ、そして、精神科医療を行うということについてそれなりの喜びを感じていただけるような環境にしないといけないというふうに私は思っております。
 そうした意味で、スタッフと申しますか、人材の養成というものを特に早く、そしてどのようにこれを充足させていくかということに全力を挙げることが、とりもなおさず、今後精神医療全体のレベルアップを図るということについて最も大事なことだというふうに思っている次第でございます。
○山井委員 この法案では、社会復帰を図る図ると言いながら、片や、こういう措置入院の現状一つすぐに変えると答弁できない。それで、かつ、今の医師や看護師さんの不足の問題も、今に始まった問題じゃなくて、十年、二十年も前から言われている問題なのに、まだそういう問題がずっと放置されている。やはりそこが大きな問題点であります。
 先日、坂口大臣は、十年で社会的入院七万二千人を減らすと答弁をされましたが、年次計画を示してほしいと思います。十年で七万二千人というと余りにも大まかなので、毎年どれぐらいやっていくか、そうしないと、結局は、おくれおくれて、気がついたら達成できなかったということにもなるわけですけれども、毎年何人ずつ減らすか、そこをやはりもう一歩踏み込んで明確に答弁してください。
○坂口国務大臣 そこは進めていきたいというふうに思っておりますし、十年というふうに申しましたけれども、できるだけ早くやりたいというふうに思っております。
 先日もこれは申しましたけれども、対策本部を厚生省の中につくりまして、そしてそこで、ひとつ、各局それぞれ担当者を集めていかにしてここを進めていくかということをやらないといけないというふうに思っております。
 もちろん、計画を立てるわけでありますから、これは今後どういうふうに進めていくか、そういう段取りと申しますか、年次計画というものは当然つくらなければいけないというふうに思っております。来年度予算はほとんど決定してしまっておりますから、来年の予算にこれをさせるというのは少し間に合わない状況でございますが、十六年の予算からは、その中に反映ができるような体制をどうつくるかということだろうというふうに思います。
 年次計画といえば、年次計画を立てて、そして十年ということになると大体七年計画、七年間ぐらいでやらないと十年以内におさまらないことになるというふうに私は思いますから、少なくとも七年計画ぐらいは立てまして、計画的に進めていきたいというふうに思っております。
○山井委員 ということは、その推進本部の中で年次計画を立てる、それでこの七万二千人も最初の七年ぐらいで解消するつもりでやるということですか。そのことを確認したい。
 もう一つが、これは五ページ、ちょっと見にくい図なんですけれども、私が心配していますのが、社会的入院の方が、退院可能な方が御高齢の方が多いんですね。ここの五ページにありますように、実は、上と下のグラフで見てもらったらわかりますように、六十歳以上が四五%、約半数がもう六十歳以上なんです。要は、これから十年待っていたら亡くなってしまわれる方も多いわけですよね。そういう意味では、退院が可能なのに、退院できずに社会的入院でそのまま人生を、社会復帰できずに亡くなるというのはあんまりではないか。この入院患者の方が亡くなられたからといって、社会的復帰というか、社会的入院が減ったということにならないと思うんですね。
 そこで、改めてお約束願いたいんですが、今度の推進本部でされるのは、精神病院の社会的入院を十年でゼロにすると理解していいわけですね。というのは、今の七万二千人が社会的入院でなくなっても、新しい社会的入院が三万人ふえましたでは意味がないわけですから、これは確認なんですけれども、もう十年後には社会的入院というのはゼロであると。ですから、要望としては、この推進本部で精神病院社会的入院ゼロ作戦十カ年プランをつくるということでいいですね、大臣。
○坂口国務大臣 社会的入院を減らしていかなければならないことは御指摘のとおりでありまして、そのような気持ちでやりたいというふうに思っておりますが、一方において、今御指摘になりましたように、新しくふえてくる可能性もあるわけですね。だから、そこも抑えないといけない。そこを抑えていかないと、不良債権ではございませんけれども、一方で減らしたら一方でふえてくるということになるわけでございますから、そこは車の両輪、両方やっていかないといけない。
 社会的入院と一口に言っておりますけれども、その中身はさまざまなんだろうというふうに思います。もちろん、高齢者の人もあって、そして御両親とか御親戚とかというのがなくて帰るに帰れない人もお見えなんだろうと思います。そうした人たちに対しましては、やはり福祉施設と申しますか、医療と福祉、両方を兼ね備えたような施設の中でお引き取りをする以外にないんだろうと思っています。だから、そういうものをつくり上げていくということが今後大事になってくるというふうに思います。そうしたことをこれからその中で計画的に進めていくということにしたいと思っております。
 だから、目指す方向はゼロになるような方向で示したいというふうに思いますけれども、それは標語としてはゼロ作戦で結構でございますけれども、医療のことでございますからそううまくいくかどうかはわかりません。しかし、気持ちとしてはそのつもりでいきたいというふうに思っております。
○山井委員 非常にそこが重要なところで、大臣はやはり決意を示さないとだめなわけですから、今から十年後、社会的入院がゼロになるかどうかわからない、そんなことじゃ話にならないじゃないですか。やはりそれは、十年かけてやるんですから、私はもともとこれは五年だと言っているわけですから、改めて、十年後には社会的入院は精神病院からゼロにする、そのための推進本部を立ち上げるんだ、そう大臣が言わないと、やってみたらゼロにならないかもしれないとか、新しいところがふえるかもしれない、そんなことじゃ進まないでしょう。
 大臣、やはりそこは明確に、こういう法案と車の両輪でやるとおっしゃっているわけですから、十年後には社会的入院はゼロにする、そのことをここで宣言してください。それぐらいの決意を示してください。
○坂口国務大臣 病気はいろいろ、さまざまなことがあることを知っているものですから私は正直に申し上げているわけで、気持ちとしましては、おっしゃるとおり、それはゼロ作戦ということでやっていかないといけないと思うんです。
 だけれども、ゼロ作戦というふうにしてやってはいくが、やはりそこからこぼれてくる人たちがいるという問題をどうしていくかという問題も生じてくるということを私は申し上げているわけで、今おっしゃるように、気持ちとしてはゼロ作戦ということでそれは当然やっていく。やっていくというその決意を私は表明しているわけで、そこはそうなんですけれども、病気のことですから、新しくまた生まれてくるということも中にあり得ますから、そこをどうしていくかという問題もやっていかないといけないという率直な気持ちを私は言っているわけで、お気持ちは十分に私は理解をして言っているつもりでございます。
○山井委員 大臣に改めて確認しますが、精神病院の社会的入院というのはどういうことかというと、本当に十年、二十年、長期社会的入院させられてしまっている人もいるわけです。大臣は、それも前回の答弁で、最初の治療が十分じゃなかったから以前に入院された方はどうしても長期になってしまって、長期になってしまったら逆に退院が難しくなっちゃったということを認めておられるわけですよね。そういう方を二度と生んでは、これはもう人権上大問題なわけです。
 だから、本当に一つだけこの場で約束してください。今回の推進本部では、十年間で精神病院社会的入院ゼロ作戦という形でやると、それぐらい約束してください。
○坂口国務大臣 社会的入院という定義をどういうふうに位置づけるかということにこれはかかわってくるわけでございますが、私は、いわゆる現在言われているところの社会的入院についてはゼロにしていくという決意でやっていきたいと思っております。
○山井委員 十年後の新聞ではこういうふうに、受け入れ条件が整えば退院可能な人は二一・七%というデータが、もう出ない、ゼロとなるように。欧米ではないわけですからね、社会的入院は。
 次の質問に移りますが、五年後の見直しとなっていますが、毎年国会報告をやるべきではないかと思います。この法案に関して、審判件数、入院件数、通院状況、それに関連して、精神保健福祉法上の通報件数と対応状況、また簡易鑑定の状況、措置入院等の入院者の状況、この法案に関係することを当然毎年国会報告でやらねばならないと思います。
 五年後の見直しといったら、言ったらなんですが、政治家のメンバーもかわっているかもしれない、法務省厚生労働省の方のメンバーもかわっているかもしれない。気がついたら、この法案で長期入院の人がどんどんふえて社会復帰できなかったと。そのときに今のメンバーがいないでは責任とれないわけですから、そういう意味では、毎年、今言ったようなことをやはり国会報告すべきだと思いますが、坂口大臣、いかがですか。
○森山国務大臣 今回の法案は、さまざまな議論をいただきました中で新しい制度を設けるものでございますから、施行状況を踏まえまして、必要があればこの法律の改正を含め所要の措置を講じて改善することができるように、施行後五年で政府に施行状況について国会報告を求めて検討を加えるとともに、必要な場合には法制の整備その他所要の措置を講ずるということを義務づけたものでございます。
 この見直しの時期を施行後五年とされておりますのは、本制度による処遇の各段階すべてについて一定数の事例が集積されるということが必要であるというような観点からであろうかと思いますが、申し立ての件数とか入院等の決定がなされた件数など、今おっしゃいましたいろいろな項目につきまして、この法律の施行状況につきまして御指示があれば御報告いたしたいと考えております。
○山井委員 御指示があればということですが、毎年国会に報告してもらうということをお願いしたいと思います。大臣、もう一度答弁をお願いします。
○森山国務大臣 御指示があれば御報告させていただきます。
○山井委員 先ほど坂口大臣と社会的入院の話をさせてもらいましたが、これだけの審議をして、さまざまな精神医療の問題点を積み残してこういう議論をしているという中で、この三十三万人、精神病院に欧米の数倍という多くの患者の方を入院させてしまった、そのうち少なくとも七万人が社会的入院であった。やはりここで、今までの精神医療というものに対して、長期入院化している、社会的入院も多いということに対して、坂口大臣、一度その患者の方々に謝罪すべきではないかと私は思うんです。ハンセン病と同じことです。
 社会的入院をこんな七万二千もさせているということは、要は受け皿が不十分だからですよね。大臣も先日の答弁で、水島議員の質問に対して、日本の精神医療の反省すべき点は反省するということをおっしゃっています。これだけ多くの社会的入院を生み出してしまった、そのことについて、大臣、一言お願いします。
○坂口国務大臣 これは、現在までの長い日本の医療の歴史の中で起こってきたことであります。これは、病院の中の問題だけではなくて社会全体の中の問題点としても起こってきているわけでございますから、このことを直していくという決意こそ大事であって、過去のことに対して断るとか断らないとかということでは私はないというふうに思います。
 先ほど言われましたように、長い人は皆社会的入院という考え方は、それは少し違うのではないかという意味で私は申し上げたわけであります。長く入院しておみえになる皆さんの中には、なるほど、もう病気は治って、社会的な入院というふうに言われている人たちもお見えでありますし、それから、そうではなくて、本当に病気があって、そして長く退院できない人というのも中にはあるわけでありますから、そこは区別をしていかないといけないということを私は申し上げようとしていろいろなことを言ったわけでありますから、そこは理解をしていただかないといけないというふうに思います。
○山井委員 現場のメディカルの方やお医者さんたちは、本当に頑張っておられます。そしてその中で、非常に少ない人員配置基準の中でこういう現状になってしまった。そういう意味での政府の責任というのは非常に大きいと思います。やはり、それを根本的に立て直していくことが今回の法案の前提として必要であります。
 そして、今回の法案に対しては、金田議員からも指摘がありましたように、シミュレーションもない、データもない。私が一番恐れておりますのは、気がついたら長期入院化してしまった、社会復帰がなかなかできないということであります。欧米でもその傾向が出ているわけですね。当初の予想より長引いてしまっている。
 先ほども言ったように、専用病棟を出たらそれで終わりじゃないんです。専用病棟を出てから急に、人員配置が少ない、病院に戻ってきてしまう。そうしたら、またそのショックででも退院できないかもしれない。また、地域から遠くかけ離れた専用病棟に行って、そこからまた何の関係もない地域の病院に戻ってきて、医療の連携性もとれない。そういう中で、社会復帰というこの法案の目的と大いに反して、長期の隔離になってしまう危険性が非常にこの法案は強い。ライシャワー事件をきっかけに多くの精神病院をつくり過ぎたように、今回も池田小学校事件という直接精神障害者と関係のない事件でまた同じような安易な隔離、一回この列車は走り出したらとめられないんですね。
 ですから、私たちも、この問題、これからも真剣に考えていきたいと思いますが、絶対にこの問題、ここで採決するのではなくて、やはり継続して、全体でトータルに、どうすれば精神医療の底上げをしていけるかということを議論すべきであると思います。
 以上で私の質問を終わらせていただきます。
○山本委員長 午後一時十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。