心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その37)

前回(id:kokekokko:20060129)のつづき。
きのうにひきつづき、法務委員会における質疑です。
【平岡委員質問】

第155回衆議院 法務委員会会議録第15号(同)
○山本委員長 次に、平岡秀夫君。
○平岡委員 民主党平岡秀夫でございます。
 先ほどのお昼の理事会で、採決することが委員長の職権で決められたというふうに聞きましたけれども、きょうの午前中の金田委員の質問でも、全くこの法案がいいかげんな法案であるということはもうわかっているにもかかわらず、強引に採決をしようとするその姿勢に強く抗議したいというふうに思います。
 先日の私の質問の中でも、この法案が赤ずきんちゃんのオオカミ法案であって、随所に、重大な他害行為をしてしまった精神障害者の方々にどうしても刑罰にかわるべき処罰を与えたい、どうしても拘束をしたい、そういう気持ちが脈々と流れていることを私はこの場で皆さんとともに多分証明したんではないかと思っています。
 そして、きょうの午前中の金田議員の質問の中でも、この法律のもう一つの問題は、非常に中身があいまいである、この法律が施行されたら一体どんなふうに運用されていくのかということがほとんどわからない、本当にこの法律を悪用しようと思ったら、重大な他害行為をしてしまった精神障害者の方々はすべてこの法律で拘束されてしまう、そういうこともできる内容の法案になっていると言わざるを得ないと思います。
 私のせんだっての質問で、一つ宿題としてお出ししておりました。
 金田委員は、この法律が施行された場合には、強制入院であるとかあるいは強制通院であるとか、そういうような処遇に、平成十二年でいきますと四百十七人の対象者になるわけでありますけれども、そういう人たちがどのように振り分けられていくのか、これを示してほしいという議論がありましたけれども、きょうの午前中では全くそれが示されないままに終わっています。
 私のせんだっての質問は、精神障害が仮にあっても一般の精神医療で治療可能な場合にはこの法律による医療によらず一般の精神医療で対処することでいいですねという質問に対して、塩崎委員が、基本的にそういう一般の精神医療による処遇が行われるということで結構だと思いますという答弁がありまして、その後若干の補足答弁がありました。それに対して、私の方から、それでは、平成十二年の対象者四百十七人、この人たちが、この新法が施行されたらどれだけの人が措置入院になり、どれだけの人たちがこの法律に基づく強制入院になるのか、その振り分けをしてほしいという宿題を出しております。これについて、どういう検討結果が出たかをまず教えてください。
○塩崎委員 今お話がございましたように、先日の私の答弁の中で、今回の手厚い医療と一般医療との関係についてお話し申し上げましたが、今御指摘のとおり、私が申し上げた答弁の中では、対象者についてこの法律による医療までは特に必要がないと認められる場合でも一般の精神医療が必要な場合には、入院決定あるいは通院の決定は行われない、そして一般の精神医療が行われることになるということを述べたものでございまして、一般の精神医療で治療することができる者であれば、そのすべてが本制度の対象とならないという意味ではもちろんございません。
 この法律による医療は、国の責任において行われる、患者の精神障害の特性に応じてその円滑な社会復帰を促進するために必要な医療でございますので、したがって、このような手厚い専門的な精神医療を行うことは、一般に精神障害を有する者にとってその社会復帰の促進に資するものであると考えられることから、多くの精神障害者にこの法律による医療が必要であると認められると考えられますけれども、中には、この法律による医療までは特に必要ではないと認められる場合が全くないわけではないと考えられるわけであります。
 そこで、今回の修正案によって、入院等の要件の中に「この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」と明記をして、本制度による手厚い専門的な医療を行うことが入院等の決定の目的であり、そのような医療が必要な者が本制度の対象になるということを明確にしたわけでありますが、今、年間四百十七人の中で措置入院あるいは新法による入院がどういうふうに分けられるのかということになりますと、やはりそれはそれぞれ目の前にその障害者の方を見ながら合議体で決定していくことでございますので、今それを数字で何対何というような形で分けるということはなかなか難しいかなというふうに考えております。
○平岡委員 そういうふうに振り分けができないということは、基本的には、この法律でどのような人たちを強制入院させるかという基準がはっきりしていないということに尽きるわけですよね。
 一つ質問なんですけれども、せんだっての質問に対する答弁で、これは上田部長さんだったんですけれども、この法律による対象となる入院患者というのは措置入院患者よりは少し少なくなるでしょうという答弁もありました。きょうの坂口厚生大臣の答弁の中でも、この法律による強制入院をされる人は措置入院をされる人の範囲内であるという答弁がありました。これはそういうことでいいでしょうか、確認させてください。
○上田政府参考人 そのとおりでございます。
○坂口国務大臣 けさ答弁をさせていただいたとおりでございまして、そのとおりでございます。
○平岡委員 そうだとすると、法律上は、措置入院の要件というのは、「医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたとき」が措置入院ということですね。
 そうなりますと、今回のこの修正案ででき上がっている新しい規定というのは、本当はその前に、略して言いますけれども、自傷他害のおそれのある者のうちで、こうこう言って、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認めた者というふうに理解してよろしいですね。
○塩崎委員 今回の修正案の要件には、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合との要件が含まれているわけでありまして、この要件は、精神障害を改善するために医療を行う必要がある者のうちで、本制度の処遇の対象となるのは、同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するための配慮が必要な者に限られるということを明らかにしたものでございます。したがって、自傷他害のおそれも認められないような者についてはそのような社会復帰の観点からの配慮を要するとは認められませんので、この要件には該当しない、したがって、入院ないしは通院の決定は行われることはないこととなるわけでございます。
○平岡委員 一つだけ今要件がはっきりしました。つまり、自傷他害のおそれのない者は除かれる。つまり、自傷他害のおそれのある人ということが、まず一つの要件というんですか、基準になっている。その中で、さらに今回の修正案で限定をされたと皆さんが言っている要件が加わる。実際は、目的が書いてあるだけで、これは塩崎さんの答弁を見ても、入院の必要性がある者が入院の必要性が認められるんだというような答弁がちょっとありまして、私としては非常に納得のいかない答弁であったわけでありますけれども、そうはいっても、皆さん、要件だ、要件だと言っています。目的が加わった要件、これがさらに加わっているということになるわけですけれども、それじゃ、自傷他害のおそれのある者の中で、皆さん方が言っておられる要件、もっと具体的にお教えいただけないでしょうか。
 せんだっての質問では、精神障害がない人は入らない、精神障害のある人であるということは言いました。私は、では、どんな症状がある人がなるんですかというふうなことも含めて聞きました。それだけじゃなくて、精神障害の状況だけじゃなくて、もっといろいろな要件があるんだろうと思いますけれども、一体どのような具体的な基準というものがあるのか、これを明確に、宿題として出しておりましたので、お答えください。
○塩崎委員 入院等の要件につきましては申し上げたとおりでございまして、精神障害を改善するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合で、かつ、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合ということでございます。
 具体的には、最初の要件については、治療可能な精神障害を有する者について、これを改善するためにこの法律による手厚い専門的な医療を行うことが必要か否かを判断することでございます。また、二番目の要件につきましては、このような手厚い専門的な医療が、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するという意味からも必要か否かということを判断することでございます。
 裁判所は、このような判断を行うに当たりまして、精神科医による対象者の鑑定の結果を基礎とした上で、対象者の精神障害の類型あるいは病状、過去の病歴、治療状況、生活環境等のさまざまな要素を考慮するということになってございます。実際に、本制度の個々の対象者が有する精神障害にはもちろんいろいろなパターンがあるわけでございますので、さまざまな要素を考慮するということになります。
 そういうことになりまして、どのような精神障害が認められる場合に入院等の決定がされるかを一概に類型的に申し上げるというのはなかなか難しいわけでありますけれども、例えば、対象者が有する精神障害が治療可能性のないものであれば、先ほどの一の要件を満たさないで、入院も通院も決定は行われないということでございます。
 それから、対象行為の原因となった精神障害について、同様の症状が再発する可能性がないような場合には、その精神障害が社会復帰の妨げになるものとはなかなか認められないわけでありまして、そのため二の要件を満たさない、したがって、入院、通院の決定も行われない、こういうようなことではないかというふうに考えております。
○平岡委員 全く具体的基準が示されているという状況じゃないと思います。
 せんだって、三十七条の関係の鑑定のところでいろいろな議論がありましたけれども、三十七条は二項が全く改正されていないんですよね。三十七条の二項は、鑑定を行うに当たって考慮すべき事項というのが並べてあるわけですけれども、全く変わっていない。そういう状況の中で、皆さん方が改正案で入院の要件が変わってしまったんだと言うのは、非常に詭弁だと思いますね。やはり最終的には、皆さん方の修正案の中でも、再犯のおそれをどこかで暗黙のうちに推測をして、そしてその中で判断を行っている、そういう仕組みになっているとしか言いようがない、そういう法案になっていると私は思います。
 三十七条の二項に全く手をつけなかった、その理由を聞こうとは思いませんけれども、そこに、修正案が意図しているところが皆さん方が提案した修正案の中には必ずしも示されていないというふうに私は思っています。
 ついでに入院決定の要件について触れてみたいと思いますけれども、先ほど来から、三十七条の鑑定のところで、本当はもっともっと具体的な基準を皆さん方に示していただきたいんですけれども、今出ませんでしたから、そんなことでは本当にこの法律の運用が適切にできるのかどうか、全く私としては疑問に思っていますけれども、四十二条で、入院等の決定をするところで、対象者の生活環境を考慮しなさい、こう書いてあります。
 先ほど来、水島委員の方から、どっちかというと犯罪傾向につながるような、そんな生活環境にある場合の話が出ましたけれども、私は逆に、全く犯罪傾向につながらないような生活環境で暮らしている人、非常に裕福で、自分のうちで介護してくれる人がたくさんいて、そして自分のうちで生活していたって全くそんなおそれがない、社会復帰を促進するような必要がないと思われるような人が仮にいたとします。そうしたら、この人たちは、入院させられてレッテルを張られるようなことよりは、やはり自分たちのうちでちゃんと生活をしていく方がいいわけであります。
 そうすると、そういう裕福でちゃんと介護してくれる人がたくさんいるような、そういう人は、この四十二条の決定においては入院の決定が出されない、そういうことでいいんでしょうか。
○塩崎委員 言ってみれば先ほどの延長線になるわけでありますけれども、今のような御指摘の場合でありますけれども、仮にそのような、常に身近に十分な、先ほどお話がございました、看護の能力のある人がいる、そういう家族がおられるというような場合の話かと思うわけでありますけれども、そういった対象者の生活環境にかんがみますと、それは社会復帰の大きな妨げにならないという先ほどのお話でございますけれども、そういう場合には、少なくとも入院の決定は行われないというふうに考えるべきだと思います。
○平岡委員 それは逆に、今度は差別ですよね。生活環境が非常にいい人はこの法律の中では入院決定処分がなくて、生活環境が非常に厳しいあるいは貧しい、そういう生活環境にある人はこの法律によって入院決定がされてしまう。これは全く差別の法律じゃないですか。こんな法律、おかしいですよ。
 本当に治療の必要性がある者について入院を決定していくという措置入院の制度というのは私はある程度は納得できると思いますけれども、裕福だから入院しなくていい、貧しいから入院しなきゃいけないというような結果が出てくるようなこんな法律では、本当に差別の法律だと思いますよ。どうですか。
○塩崎委員 あくまでもこの法律の体系は、この法律で定めている手厚い医療が必要かどうかということが最大の大事な点でございまして、それをオーバーライドする形で、家庭環境で、看護能力がある人がいるとかいうことで通院にするというようなことは、多分この合議体ではあり得ない決定なんだろうというふうに思います。
 ですから、それは通院で、なおかつ、こういった条件が整っている場合には通院という判断をするかもわからないということを申し上げているわけであって、基本的には、この法律に定める手厚い医療が必要かどうかというところが判断の決めどころだというふうに思います。
○平岡委員 判断の決めどころといっても、四十二条には、ちゃんと「対象者の生活環境を考慮し、」と書いてあって、生活環境を入院決定するか否かという重要な判断要件の一つにしているわけですよね。それを今のような詭弁で、手厚い医療が必要かどうかだけで判断していますというような、そういう、法律とは違ったことを答弁されたんじゃ困りますよ。
 もう一つ。先ほど塩崎委員の答弁の中で、治療可能性がない人についてはこの法律に基づく強制入院の対象にはならないんだという答弁がありました。これはまたおかしいんですよね、本当は。
 例えば五十四条で、退院の申し立て、医療の終了の申し立てをするところにやはり同じようなくだりがあるんですよね。保護観察所の長は、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があると認めることができなくなった場合」には、「この法律による医療の終了の申立てをしなければならない。」こう書いてあるんですよね。
 例えば、指定入院医療機関に長期にわたって入院している人がいて、この人はなかなか治らない、もう改善の見込みがないというふうに至ったときは、この人は退院の申し立てによって退院ができるんですね。
 皆さん方から入院決定要件の具体的基準というのを挙げていただけなくて、法律に書いてある目的規定みたいなところの要件ばかり言われるので、今それを逆手にとって言っているんですけれども、塩崎委員は、この修正案における入院決定要件に照らしてみれば、治療可能性がない人についてはこの法律による入院決定というのは行われないんだ、こういうふうに言われました。
 それでは、この入院決定要件と同様の要件を備えている退院決定要件のところも、先ほど読み上げたように、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があると認めることができなくなった場合は、」「医療の終了の申立てをしなければならない。」と書いてある。つまり、何年も入院していて、この人はもう治る見込みはないね、改善の見込みがないねとなったときには、この人に対しては、退院の、この法律による医療の終了の申し立てをするということになるんですね。非常におかしいですね。どうですか。
○塩崎委員 先ほどの、保護観察所からこの医療をとめるというのは、不必要に医療の現場に閉じ込めるような形にするのはいけないがためにそういうことにしている仕組みでありますので、今の形での想定というのは余り考えられない。もともと、入るときに、今申し上げた精神障害が治療可能性のない者の場合にはこういうことにはならないということを言っているわけで、一たん入ってそういう形で出てくるということではないと思います。
○平岡委員 私は、ちょっと意地悪質問をしているので、それでいいと言っているわけじゃないんですけれども、それほどこの法律というのはあいまいな法律だ、いいかげんな法律だ、いいかげんな修正案になっているんだということを言いたいんですよ。十分に検討されていない。
 委員長、定足数不足。(発言する者あり)だめ。こんなんじゃ質問できない。中断。時間をとめて。時間をとめてください。
○山本委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕
○山本委員長 速記を起こしてください。
 平岡秀夫君。――速記をとめてください。
    〔速記中止〕
○山本委員長 速記を起こしてください。
 平岡秀夫君。
○平岡委員 この法律というのは、精神障害にかかった人たちにとってみれば、本当に死活にかかわる、人権にかかわる非常に重要な法案なんですよね。与党のこんな出席状況の中でこんな重要な法案をやらなきゃいけないというこの国会の寂しさというのを、ぜひ皆さん、感じ取ってほしいと思いますよ。真剣に議論したいと我々は思って一生懸命やっているんですから、ちゃんと皆さん出席するように。まだまだ本当に少ないですよ、辛うじて定足数に達しているかもしれませんけれども。(発言する者あり)
○山本委員長 御静粛にお願いします。御静粛にお願いします。
○平岡委員 今までの質問の中でも、本当にこの法律が施行されたらどんなふうにして運用されるか全くわからない。こんな法案になっているということを、ぜひ皆さん、よくわかってほしいと思うんですよね。
 ちょっと時間がありませんから、次の質問に移ってみたいと思います。
 三十四条の鑑定入院命令の関係なんですけれども。この三十四条の第一項には、処遇の申し立てを受けた裁判所の裁判官は、対象者について、鑑定その他医療的観察のため、その対象者を入院させ、決定があるまでの間在院させることを命じなければならないというふうに要約すれば書いてあるわけでありますけれども、三十三条の処遇の申し立てがあれば、明らかに要件に適合していない人を除けば、必ず鑑定入院させられるという仕組みになっているわけですね。
 この人たちというのは、ある人は裁判で無罪をかち取った人であったり、あるいはこれまで長い間捜査のたびに警察、検察で取り調べを受けたり、そういうようなことをしてきた人たちでありますけれども、その人たちに対して、この三十三条の申し立てがあったら必ず鑑定入院が命じられる、こんな仕組みは、これは人権侵害じゃないですか。なぜこんなことが許されるんですか。
○森山国務大臣 この制度による処遇は、本人の社会復帰のために必要な手厚い専門的な医療を行うものでございますから、本人にとって最も適切な処遇が選択される必要がございます。この制度による処遇の要否やその内容を決定するに当たりましては、特に慎重さが求められると思います。
 そこで、この制度による処遇の要否や内容の判断に当たりましては、本制度による処遇の必要がないと明らかに認められる場合を除きまして、対象者を病院に入院させた上、医師が対象者を直接診察し、あるいは必要な検査を行うなどの方法によりまして、医師としての専門的見地から本制度による処遇の必要性の有無に関する鑑定を行いまして、また、入院中の対象者の言動や病状等を医療的見地から観察するということにしたものでございます。
○平岡委員 ちょっと質問の観点を変えてみますと、仮に四十二条第一項三号の決定、つまり、入院しなくてもいい、通院もしなくていいという決定がなされたというときには、この対象者に対しては、鑑定入院等で拘束されたことについての補償は受けられる仕組みになっているんでしょうか。
○森山国務大臣 御指摘の補償は、刑事訴訟法上の手続における無罪の確定裁判を受けた者が拘禁等を受けた場合に国に対して請求する刑事補償など、不利益な処分を行うために行った公権力による国民の自由の拘束が根拠がないと明らかになった場合に行われる補償のことを指すと思われます。しかしながら、この制度の鑑定入院につきましては、まさに対象者についての適切な医療等を行うという観点からの鑑定等のために必要なものとして、そのために必要な期間行うものでございます。
 この制度は、この鑑定を基礎とするとともに、他の諸事情をも考慮いたしまして処遇の決定を行うことにより、適切な医療等を行い、もって本人の社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでございまして、刑罰にかわる制裁を科すことを目的とするものではございません。本人の利益となる面をも有するものでございますので、御指摘のような自由の拘束とは性質が異なるものだと考えます。
 したがいまして、この法律による医療を行わない旨の決定がなされた対象者が鑑定入院によって身柄を拘束されていたとしても、補償の対象になるとは考えておりません。
○平岡委員 今のも本当に、ある意味では、こういう人たちに対する差別ですよね。刑事被告人であっても無罪になったらちゃんと補償は受けられるんですよね。この人たちは、別に自分たちは鑑定入院させてもらいたいと思っているわけじゃない、自分たちは強制入院させていただきたいと思っているわけでもない。それなのに、強制入院をさせるための判断を仰ぐために無理やり鑑定入院をさせられているんですよね。
 その結果として、この人たちに対して強制入院をさせることができないとなったら、今までの手続は、結局、国が行っていた手続が間違っていたということじゃないですか。それにもかかわらず、何らの補償もされない。こんな仕組みというのはありませんよ。体を勝手に拘束しておいて、その間に生じた何らかの損失なり損害なりに対して何らの補てんもしない、こんな仕組みがありますか。
 もう一方、刑事訴訟法の中には、費用の補償というのもあります。今回、法律の第七十八条を見ましたら、裁判所は、対象者または保護者からさまざまな費用を徴収することができると書いてある。この対象者について、何も処分をすることができない、処分をする必要がないという判断をされる場合に、やはり費用を徴収するんですか。刑事訴訟法ですら、無罪だという人たちについては費用を補償するという仕組みがある。この対象者の人たちにはあるんですか。
○樋渡政府参考人 本法案では、刑事訴訟法第百八十八条の二の費用補償の規定に相当する規定を設けておらず、第四十二条一項三号の決定、これはこの法律による医療を行わない旨の決定でございますが、それがなされた場合、対象者は、審判等に要した費用の補償を受けることはできないことになります。
 刑事訴訟法第百八十八条の二の趣旨は、刑事事件により訴追され無罪の判決を受けた被告人が、種々の不利益を受けることから、無罪の判決が確定した場合の裁判に要した費用を補償することにございます。しかしながら、本制度は、適切な医療等を行い、もって本人の社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでありまして、刑罰にかわる制裁を科すことを目的とするものではございませんので、本人の利益となる面をも有することでありますから、このような規定を設けていないものでございます。
○平岡委員 本人の利益になるというのなら、本人が申し立てて、ぜひ私をこんないい病院に入院させてください、こんないい病院に通院させてくださいということで申し立ててやって、あなたは残念ながらその要件に当たりませんから勘弁してくださいというんだったらいいですよ。これは、検察官が申し立てて、この人たちは強制入院させる必要があるという可能性のある申し立てをして、鑑定入院で拘束して、そして審判手続の中でいろいろと費用をかけさせて、それに対して、入院する必要がないという決定が出ても何の補償もされない。こんないいかげんな法案はないじゃないですか。修正案の提案者、どうしてここを修正しないんですか。
○漆原委員 ただいま刑事局長から話がありましたように、今回は刑事手続ではないわけですから、その差によって私どもは修正をしなかったわけでございます。
○平岡委員 刑事手続でなかったら何もしなくてもいいというのは、やはりおかしいと思いますよ。例えば、七十七条に、この審判の中で、証人、鑑定人とか、翻訳人とか、こういう人たちに対しては、旅費も日当も宿泊料も皆支給されるんですよね。この人たちも、裁判所が来てくれと言って、裁判所から呼び立てて、強制的にと言ったらあれかもしれませんけれども、来てもらうわけですよね。この人たちにはちゃんとそういう日当を払っておきながら、これは裁判手続がないから補償する必要はない、そんな論理というのはないですよ。これは憲法違反ですよ、こんな法律。法務大臣、どうですか。
○森山国務大臣 先ほど私が申し上げましたとおり、また修正提案者からもお話がございましたように、これは刑事のあるいは制裁のためではございませんで、本人が社会復帰をするために必要な条件はどうかということを、綿密に、丁寧に調べるためのものでございますので、制裁ではございませんので、全く違う話だと思います。
○平岡委員 これは繰り返しになるんですけれども、修正案提案者も、この法律は社会復帰を促進するための法律であるというふうに、いろいろお化粧はされました。お化粧はされたけれども、本質は、これは赤ずきんちゃんのオオカミ法案であって、重大な他害行為をしてしまった精神障害者の方々が刑罰のかわりに何か処罰されるように、その人たちが拘束されるように、こういうふうにつくってあるということはこの前の審議の際にも十分言いましたですね。刑務所に行くとき、少年院に行くときにはこの法律の適用はなくなってしまう、そんな法律になっているわけですよ。まさにほとんど刑事的な手続みたいなものなんですよ。
 それにもかかわらず、強制的に鑑定のために入院させておいたり、あるいは強制的な審判手続の中でさまざまな費用がかかったときに何の処遇もできない、審判が下るときにそれに対する補償は全くされない、これはまさに、財産権の侵害に当たる憲法違反な法律と思いますよ。
 ちょっと、余り賛同が得られないんで、賛同していただけたらここでもうこの法律はやめましょうと言うんですけれども、賛同いただけませんでしょうか。
○山本委員長 どなたに質問ですか。
○平岡委員 厚生労働大臣法務大臣
○森山国務大臣 先ほどからお話し申し上げているとおり、先生のお話には賛同いたしかねます。
○平岡委員 時間が余りなくなったので、この法案の附則で改正されている精神保健福祉法の第二十五条についてちょっとお聞きしたいと思います。
 これは、新たに第二項が加わったといいますか、一項と二項に区分されましたけれども、二項で検察官が精神障害者の方々について「特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。」こう書いてあるんですけれども、これは何のために何を通報するんですか。
○上田政府参考人 本法案による改正後の精神保健福祉法第二十五条第二項による精神障害者等について検察官がどのような場合に都道府県知事に通報することとなるかにつきましては、個々のケースに応じてさまざまであると考えられますが、例えば、本制度による入院、通院決定のいずれも受けなかった者について検察官が速やかに適切な医療を確保する必要を認めるに至った場合などが考えられます。
○平岡委員 私の質問は、その前の質問なんですね。何のために何を通報するのかと。
○上田政府参考人 失礼いたしました。
 精神保健福祉法第二十五条に規定されている検察官の都道府県知事への通報義務は、精神の障害により医療の必要がある者に対して広くこれを受け入れる機会を与えるために課せられたものであります。したがいまして、検察官は、通報の対象となる者が精神障害者またはその疑いのある者である旨を都道府県知事に通報するものであります。
○平岡委員 これは、何を通報するのかが全くよくわからない、非常にずさんな法律であるとは思いますけれども、この中で、検察官は精神障害者について「特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。」こう書いてあるんですよ。これは、精神障害者の人たちについて言えば、検察官が目を見張っていて、いたらすぐに通報する、そういう役割を今回の二十五条二項は義務として負わせたんですか。
○上田政府参考人 私、先ほど、精神障害者について通報が義務づけられる、特に必要があると認めたとき、そういう状況について御説明をさせていただきました。
 そこで、説明の中で、例えば、本制度による入院、通院の決定のいずれも受けなかった者について検察官が速やかに適切な医療を確保する必要性、例えば自殺のおそれがあるとかそういう状況で、やはり適切な医療を確保する必要性がある、そういう状況の際にこのような通報の制度を設けたものでございます。
○平岡委員 法律はそのような場合に限定して書いていないでしょう。これは、一般的に精神障害者について特に必要があると認めたときは検察官は速やかに都道府県知事に通報しなければならない。検察官は、世の中、ずっと精神障害者の人たちに目をはわせて、見張って、これはどこか必要があるなと思ったら通報するような仕組みにこの法律でしたんですか。どういうことですか、これは。
○坂口国務大臣 もう少し一般的な言葉で言わせていただきますと、検察官が裁判所に申し立てをすることになっていますね。そのときに、申し立てをしている間に、すなわち鑑定入院をするまでの間にその人の病状が悪化をした、そのときに都道府県知事に対しまして、こういう状況だから何らかの措置をしてほしいということを検察官が知事の方に申し立てをする、こういうことだというふうに私は理解をいたしております。
 したがって、それをどうするか、措置入院にするのかどうするのかということについては、都道府県知事が判断をする、こういうことだと思います。
○平岡委員 大臣はちょっと私の質問の趣旨を理解されておられないので、刑事局長、答弁してください、ちゃんと正確に。
 この法律は、新たに検察官に、精神障害者一般の方々に対して監視する役割を担わせ、そして必要があると認めたときには都道府県知事に通報するという義務を課した法律ですか。
○上田政府参考人 検察官は職務上精神障害者を扱うことが多いことに対しまして通報義務を課したのでございます。ですから、先生が先ほどおっしゃられました常に監視という立場ではなく、今申し上げましたように、職務上精神障害者を扱うことが多い、こういうことでこのような通報義務を課したものでございます。
○平岡委員 職務上精神障害者の人に出くわしたときにだけ検察官にこういう義務がかかっているというのは、どうやって読むんですか。法律にそうやって書いてあるんですか。そんなこと、どこにも書いていないじゃないですか。
○樋渡政府参考人 この改正案にございます第二項は別に特別なことを新たに規定したものではございませんでして、改正前の二十五条が一つの本文でまとまっております。
 二十五条を一項と二項に分けましたのは、一項におきまして、要は、本法律案ができましたときに、心神喪失者等の対象者に対しましては本法案で社会復帰のための医療をしていただこうというわけでありますから除外しなければなりませんが、除外をいたしましても、先ほど部長がお答えいたしましたように、対象者に対してなおかつその通報をする必要があるという場合があるだろう、そういうことを想定いたしまして、二項でまとめて書いたものです。
 言いかえますと、改正前、現行の二十五条では「その他特に必要があると認めたとき」ということになっておりますところを二項でまとめたものでございまして、これは、先生がおっしゃっていますように、検察官、警察官等が終始見張っていろというのではありませんでして、先ほど部長から、この法律のつくられましたときの趣旨説明でありますように、警察官、検察官等は仕事柄こういう方に接する機会が多いだろうというところから特に義務を課したというものでございます。
○平岡委員 そうはおっしゃいますけれども、今回二項に分けたことによって、その矛盾点というか、おかしいところが際立って出てきたんですよね。この法律を見たら、精神障害者について、「特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。」検察官に対してそういう大きな義務がかかっちゃっている。本当は、これの意味するところは、被疑者とか被告人が精神障害者であったりその疑いがあったりしたような場合の法律だと私は思うんですよ。この法律はそうはなっていないんですよね。こんないいかげんな法律、通すわけにいかないですよ。検察官は、精神障害者一般に対して監視をして、必要があると認めたときは通報しなきゃいけないような、そういうことが書いてあるこんな法律なんか認められないですよね。(発言する者あり)書いてある。読んでみなさい。国語の問題だ。
○上田政府参考人 精神保健福祉法におきましては、法二十三条におきまして、「精神障害者又はその疑いのある者を知つた者は、だれでも、その者について申請することができる。」それから、二十四条は警察官の通報、二十五条は検察官の通報、二十五条の二で保護観察所の長の通報、このような制度になっているところでございまして、その一つとして検察官の通報があるわけでございます。
○平岡委員 全く納得がいかない。今の説明は、ただ単に条文をなぞられただけで、私の質問に対して全く答えていない。検察官は、精神障害者の人たちに対して一般的にこういう通報義務がかかるようなことになっているわけですから、ずっと監視しなきゃいけないということなんですね、この法律は。刑事局長。
○樋渡政府参考人 それでは、昭和二十五年四月五日、この福祉法の審議におきます立案担当者の答弁を引用させていただきますと、
 医療保護の必要が緊迫しておる精神障害者を保護するための、国民全体の協力態勢を作つたことでございますが、法案の二十三条から二十六条に亘りまして規定がありまするように、先ず国民は誰でも医療及び保護の必要が緊迫しておる精神障害者を発見したときは、知事に対して医療保護の申請を求めることができるということを大きな網にいたしまして、その中で警察官、検察官刑務所等の矯正保護施設の長のように職務上精神障害者を扱うことが多いものに対しましては、通報義務を課したのでございます。このことによつて、医療保護の必要があるにも拘わらず、受け得ない精神障害者のないように措置することを考えたのでございます。
ということでございまして、我々がふだん職業上接することの多いことから、我々には通報する義務を課して、治療を受け得ない機会をなくすようにされているものというふうに思っております。
○平岡委員 いずれにしても、きょうの審議の中で、この法律が本当に不十分な点がたくさんあるということを私としては指摘申し上げたわけです。
 こんな法律を採決に付すというようなことは到底考えられない。こんなずさんな法律はありませんよ。はっきり言って、こんな法律に賛成される方がおられたら、もうこれは国会議員としての職務を果たしていないと私は言わざるを得ない。
 以上、質問を終わります。