心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その38)

前回(id:kokekokko:20060130)のつづき。
きのうにひきつづき、法務委員会における質疑です。
【木島委員質問】

第155回衆議院 法務委員会会議録第15号(同)
○山本委員長 次に、木島日出夫君。
○木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
【略】
 そこで、法案に関して質問をいたします。
 私からも、本法案はまだ審議が尽くされていないと。特に、本政府提出法案、修正案が出ておりますけれども、我が国の大変貧困な精神医療、福祉、保健、この根本にかかわる法案であります。
 そして、不幸にして他害行為を行ってしまった心神喪失者等に対する処遇をどうするか。現行法では精神保健福祉法措置入院制度しかありません。全くない仕組みを導入するという法案であります。再三、答弁の中で刑事手続ではないとおっしゃっています。確かに刑事事件ではありません。審判という、これが裁判なのか行政処分なのか、非常にあいまいな分野でありますが、裁判官とお医者さんとがかかわって対象者を治療処分に付する。治療処分に付しますと身体が拘束されるわけであります。通院治療処分の場合は、通院が義務づけられ、日常監視される。まさに人権の根幹にかかわる法案であります。それだけに、私は、疑問が一点でも残るような状態のまま審議を終結させてはならぬと思うんです。
 修正案が、特にこの審判の基本的な要件、再犯のおそれという問題が厳しく指摘をされ、その言葉を削除しました。修正者は逃げたわけです。逃げて、その行政処分、審判の要件、一番根幹、キーワードの部分を、この法律による医療が必要な場合、そういう要件に切りかえていったわけですね。全く一般的な、抽象的な概念です。
 そして、その抽象的な概念の上に、私はきょうはもう繰り返すことをやめますが、修飾語をつけたわけでしょう。医療が必要だ、再び同じような重大な他害行為が起きないように、そして、対象者を早期に社会復帰させる、そういうためという目的をつくって、そういう非常に長い三つの目的のため、あなた方は二つと言っておりますが、この法律による治療が必要となった場合、それが要件なんですね、この重大な入院措置、入院処分、通院処分ができるというふうにつくりかえていったわけであります。
 私、もう先日やりましたから繰り返しませんが、本当に、読み方によって、限定されるのか、逆に拡大されてしまうのか、法の縛りがかかっているのか、外されたのか、全く説得ある答弁がなされないまま、きょうも同僚委員からの質疑が続いておりましたが、審議打ち切りというのは暴挙だということを厳しく指摘しておきたいと思っております。
 それだけではなくて、この法案を審議する土台が非常に大事だ。我が国の精神医療全体がどうなのか、我が国の措置入院制度がどうなのか、そういうところがほとんど審議が尽くされておりませんので、きょうは私は、質疑時間の許す限り、そういう大きな視野で我が国の全体の精神医療、福祉、保健について質問をしてみたいと思っております。
 重大な他害行為を行った精神障害者に対してどのように処遇するかについて意見が分裂しております。立場や見方によって違いがあることが、さきの通常国会以来、今臨時国会でも審議を通じて明らかになりました。しかし、我が国の共通した認識に到達してきていると私は思います。それは何かといいますと、我が国の精神医療は欧米に比べて非常に大きな立ちおくれがあること、そして、加害者となった精神障害者に対して万全の医療と社会復帰のための対策を講じて、同人による事件の再発を防ぐための対策が必要である。どういう対策が必要であるかについては立場によってさまざまな違いがあって、それが激しく激突していると思うんですが、いずれにしろそういう対策が必要だという大きなベースでは、私は認識が共通してきていると思うんです。
 そこで、私は、どういう処遇をすべきかについて意見が分裂するのはなぜかと突き詰めていきますと、その意見の違いの背景、要因の最大のものは、何といっても、繰り返しになってしまうんですが、現在の日本の精神医療の貧困にある。そこが貧困だから、そこになかなか手をつけようとしない、手をつけたように見られない、だからこそ、具体的な処遇についてのあり方について意見が分裂してくるんだろうと思うわけであります。
 ですから、まずこの点について、最初に坂口厚労大臣にお聞きしたいと思うんです。
 欧米と比較いたしまして、我が国の精神医療の最大の特徴は何かといったら、私は、入院中心医療になっているということではないかと思います。
 数字を挙げてみたいと思います。一九六〇年、七〇年、八〇年、九〇年、節目の年の人口一万人当たりの年次精神病床数の推移を見ても、これは明らかに浮き彫りになるんですね。もう御案内のとおりです。
 我が国はどうなっているか。六〇年を出発点にして七〇、八〇、九〇と言いますと、十・一、それが二十三・八になり、二十六・三になり、そして九〇年には二十九。増大の一途を続けております。
 これに対して、欧米先進国はどうか。
 アメリカは、六〇年が四十、七〇年が二十五・九、八〇年が九・四、九〇年が何と六・四。急速に、入院で閉じ込めるという医療から地域に戻して開放するという医療に見事に変わっています。
 イギリスはどうか。六〇年の資料がないんですが、七〇年が二十五・六、八〇年が十八・六、九〇年は十三・二。ずっと減ってきています。
 旧西ドイツはどうか。六〇年、九・六、これはちょっと変化があるんですが、七〇年には二十・四になりましたが、八〇年に十九・七、九〇年には十六・五。やはり地域開放医療の方向に向かって進んできているわけであります。
 こういう余りにも対照的な数字が出てきているというのはなぜか。私は、明らかに、国が入院中心の政策、そして地域精神医療、福祉、保健対策の後回し、地域ケアの後回し、そういう政策をとり続けてきた結果だと言わざるを得ないと思うんですが、このことを厚生労働大臣はお認めになりますか。
 そして、今まさにこの転換こそが求められていると思うんです。なぜ、日本では精神医療の中心が入院から地域医療へ、そういう根本的転換ができないのか、那辺にその根本的要因があるのか、これは篤と厚生労働大臣の御所見を賜りたいと思うんです。
○坂口国務大臣 今挙げていただきました数字は、これはもう御指摘のとおりでございます。
 日本の精神医療というものが入院医療というものに非常に重きを置いてきたということは事実でございます。この要因には幾つかあるだろうというふうに思いますけれども、やはり、今御指摘になりましたような、一つは、地域の受け皿がなかなかない、こういうことも一つの要因になっていたことは、私も率直に認めなければならないというふうに思っております。
 さて、そうしたことを認めた上で、今後、これをどうしていくかということになるわけでございますが、やはり徹底的に不足をしてまいりましたのは、これは人の問題だというふうに思います。人材の養成、そしてそのチームワークの不足、そうしたところに私はあるというふうに思っております。
 人材につきましては、特に精神科医師の不足ということも私はあると思います。全体の中で、人口割の医師の数はだんだんとふえてきておりますけれども、精神科の医師でありますとか小児科の医師というものは、人口割で見ますと決してふえているわけではありません。むしろ中には減ったというところもあるわけでございまして、やはりそうした精神科医療を行う医師をいかにして養成するかという問題がございますし、そしていわゆるコワーカー、コワーカーと言うと大変失礼でございますが、看護師さんを初めといたしまして、PSWの皆さん方もお見えでございましょう、そうした関連する医療従事者の養成というものが急がれているわけでございまして、今までそうした問題を主張いたしますと、それはすぐ病院内における治療の充実ということに主眼がなってしまいまして、地域におけるケアということに対しましてなかなか目が向いてこなかったということは事実でございます。
 これは何かのきっかけがなければなかなか進まないことでございますが、先日もお話を申し上げましたとおり、ハンセン病の問題が決着をしましたときにすぐ頭に浮かびましたのは、この精神科医療を早く決着をつけなければならないということでございました。そうしたことも含めて、障害者基本計画のプランを今作成しているところでございますが、そうしたことにも盛り込みながら、そして、前回から申し上げておりますように、この厚生労働省の中に私が中心になりました推進本部を設けまして、その中で各局一致協力をした今後の推進体制を組んでいきたい。そして、それにはある程度のプランニングをして、そして何年までにどうするかということを決めなければならないわけでございますから、そこは明確に我々も計画を明らかにしていきたいというふうに考えております。
 そうした中で、病院の中の改革も必要でございますが、あわせて地域におきます問題。社会的入院の問題が、きょうも午前中からいろいろ御議論がございましたけれども、社会的入院の方には年齢の方もございますし御家庭に帰れない皆さんもあるわけでございますから、その皆さんのことも含めて地域でどうこれを受け入れていくかといったこともつくり上げていかなければならないというふうに思っている次第でございます。
 あわせて、ハンセン病の場合も同じでございますけれども、国民全体における精神医療に対する考え方と申しますか、受け入れ方と申しますか、そうした問題もあることも事実でございまして、そうした全体をやはり考えていかなければならないと思っているところでございます。
○木島委員 精神科の医師が不足しておる、一つの大きな理由に挙げました。問題は、なぜ今日本のこの医療の世界で、いろいろな分野がある中でお医者さんになろうとする若い皆さんが精神科医師の道を歩もうとしないのか、その根源にメスを入れなければこれは打開できないと思うんですね。
 私は、多くの精神科医師の皆さんのいろいろな文章を読んでいます。本当に一生懸命頑張りたい、一人一人の障害者の皆さんと命がけの格闘をして、医師対患者という形で格闘して、何としてもその患者を精神の病から解放して、そして地域社会に戻って普通の生活をさせてあげたい。物すごいエネルギーが必要だ。自分だけじゃできない。医療チームのスタッフが必要だ。本当にやりたいし、やらなきゃならぬ。しかし、残念ながら今の日本の社会保険制度の体制、医療法の体制はそれができない仕組みがつくり上げられている。一つは、診療報酬の問題であります。
 精神科医療の診療報酬は、大臣御案内のとおりです。一般医療に比べて物すごい格差がつけられている。病院におきましても、人的配置基準は差がつけられている。そういう中にあって、精神病院の皆さんも精神科のお医者さんの皆さんも自分の経営は守らなきゃなりません。そういう格差をつけられた診療報酬や人的配置基準のもとで経営をやろうと思ったら、大勢の患者さんを一度に収容して閉じ込めておく、そういう医療をやらざるを得ない、やらざるを得なくさせられているんだ。
 私は野田正彰先生の大変有名な本を読んでいるわけです。恐らく厚労大臣も読んだんでしょう。私も二十年間命がけで精神医療をやってきた、しかし、この体制のもとではだめだと失望して精神科の医療を断念してやめたわけでしょう。評論家の道へ入っていったわけですね。やはり根幹は体制にある、人をつくるにも今の診療報酬制度や配置基準、そういうものを徹底的に変えなければ人は生まれやせぬと思うんですが、そういう認識はございませんか、厚労大臣。
○坂口国務大臣 人の問題は、どちらが先かということになりますけれども、現実問題として医師の数が少ないということは事実でございまして、したがいまして、どうしても無理な体制をつくらなければならないということにも結びついてきている。ここはやはりそこの一番の基本のところをどう改革していくかということをやらないと、私は改善が難しいというふうに思っております。
 したがいまして、これからの、基本計画をつくりそして推進本部をつくってその中でやっていきますところの一番最初の問題は、この人づくりをどう進めるかということを早く手がけないと、これは三月や半年でできる話ではないわけでございますから、早くここを手がけていくということが大事だというふうに思っている次第でございます。
○木島委員 先日、この委員会に参考人として出頭されて陳述をしましたPSWの方はどう言っているか。本気になって、地域に戻ってきた患者さんと立ち向かって頑張りたい、しかし、そこに行けないと言うんですね。多くのPSWの皆さんも行っていない。なぜか。そこへ行って相対でサポートしようとしても、診療報酬がそういうものになっていないとここで述べられましたよ。
 だから、その問題を避けたのなら地域医療なんかできない、厚労大臣、その認識に立たなければだめだ。どうなんですかね。この政府案にも修正案にも、全然そこはさわっていないですね。肝心なところだと思うんですが、どうでしょうか。
○坂口国務大臣 診療報酬の問題は、きょうの水島議員のところでございましたか、議論の中でも触れさせていただいたところでございまして、現在診療報酬の基本の見直しを行っております。
 この基本の見直しと申しますのは、いわゆる基準をどうつくっていくかということの見直しを行っているわけでございますが、診療報酬の基本にかかわります基準をつくりますときに、そこの基準の中に幾つかのことを私は入れなければならないというふうに思っております。それはコストの問題や重症度の問題もございましょう。しかし、もう一つ大事なことは、そこに時間軸というものが必要であるというふうに思っております。
 精神医療の場合には、一人の患者さんに対しまして時間をかけてじっくりと対話をし、そして、いろいろな話を聞いて診断をしていくということが避けて通れない、どうしてもそうしていただかざるを得ないところでございます。そうしたことに対する評価というものが少なかったというふうに私は思っております。
 したがって、診療報酬体系の中に時間軸を入れるということで、そうした皆さん方の御努力というものに対してもやはり報いていくんだということで今やっているところでございます。
○木島委員 修正案の提案者に聞きますが、修正案文の附則第三条第二項、これは一歩前進だとは思うんです。「精神医療等の水準の向上」「政府は、この法律による医療の対象とならない精神障害者に関しても、この法律による専門的な医療の水準を勘案し、個々の精神障害者の特性に応じ必要かつ適切な医療が行われるよう、精神病床の人員配置基準を見直し病床の機能分化等を図るとともに、急性期や重度の障害に対応した病床を整備することにより、精神医療全般の水準の向上を図るものとする。」
 政府案に比べますと、文言としては一歩前進だと思います。しかし、私この前質問しましたように、何らの実効性のある担保措置がない。
 きょうはその論議に入りません。しかし、この条文をよく読んでみますと、やはりお金の問題を避けているんですね。診療報酬のことを書いていないんですよ。精神病床の人員配置基準を見直す、中身を何にも具体化していないから、いいでしょう、こういうことを書けるでしょう。それなら、今坂口厚労大臣が言ったように、細かいことなんか書かなくていいですよ。書けるはずないし、書けとは言いませんよ。しかし、診療報酬制度の見直しという一項目を入れようと思ったら入れられるでしょう。それが入っていない。この肝心なところをやはり修正案も避けたんじゃないかと思わざるを得ないんですが、どうですか。
○塩崎委員 御指摘のように、明示的に診療報酬の対象にはなっていないわけでありますけれども、若干の、例えば精神科救急入院料とか、あるいは、児童・思春期精神科入院医療管理加算とか、そういうところでは要件としてPSWを置くということが条件にはなっているわけでありますが、この間の大塚参考人のお話を聞いてみると、雇用ということを考えてみると、やはりなかなか今の体系では難しいなということを改めて私も感じたわけであります。
 今、木島先生御指摘のように、附則でこのような必要性を私たちは入れましたが、これは今、厚生労働省でも進んでいる、そしてまた、私ども自由民主党の中でも持永委員会で、今後の精神保健、医療、福祉の新しいスキームをどうするんだという議論の中で、これを確実に実現していかなきゃいけないし、先ほど水島議員からも厳しく、塩崎、おまえ責任とれ、こういう話でありましたから、私もこれから先生と同じ思いで進めてまいりたい。
 それが、社会復帰、社会復帰といっても、受け皿がなければ、お手伝いする人がいなければ、コーディネートする人がいなければうまくいかないわけであって、今回の社会復帰調整官はその一つの前進だということで御評価をいただきたいと言っているわけでありますが、それはあくまでもこの法律の中の話であって、もっと広く一般の社会の中でこのPSWの役割、あるいは差別をなくす教育を含めてやっていかなきゃいけないという思いは、全くそのとおりだと思います。
○木島委員 全くおくれております我が国の地域精神医療の問題の中でも、私、今日本で一番急がれているのは、救急システムの確立ではないかと思うんです。地域におった患者さんが興奮して暴れていても、だれも助けに来てくれない、家族が何とか対処しても、引き受けてくれる病院がないというのが多くの現状であります。
 私は門外漢でありますが、東京ではひまわりネットワークが都庁につくられ、午後五時以降の緊急診療のための車が配置されるようになったようでありますが、収容できるのは、一千万東京で一晩わずかに四床、ベッドは四つしかない。あとはどうなるか。一時的に警察に留置してもらっているようであります。
 厚労省に聞きますが、こういう現状を把握しているでしょうか。全国で救急システムを急いでつくるというのが、本当に地域で受け皿をつくる、今一番待ったなしの課題だと思うんですが、対策はどうなっているんでしょうか。
○上田政府参考人 委員御指摘のように、精神障害者の方が地域の中で安心して生活できるためには、やはり、急に病状が悪化した、あるいはそういった医療を、夜間ですとか休日ですとか、そういった場合でも受けられる体制というのは非常に大事だというふうに思っております。
 それで、私どもといたしましては、精神科救急医療システムのいわば二十四時間体制を整備いたしております。また、あわせて、情報センターにおきまして、いわば休日、夜間の医療相談というような体制を整備しているところでございます。
 いずれにいたしましても、私ども、こういった精神科救急医療システム、あるいは、二十四時間、また休日、夜間のこういった救急医療体制というものをもっともっと整備していく必要があるというふうに考えておりますので、今後とも積極的に取り組んでいきたいというふうに考えております。
○木島委員 先ほどの話は、私は、精神科の現場のお医者さんから聞いた話であります。まさに貧困なんですね。本来、治療を受けるべき患者さんが、その体制がないから警察の留置場でお世話いただかざるを得ない。最悪の人権状況だと思うんですね。その問題だけ触れて、次に移ります。
 先ほど来、また、この委員会での審議を通じてさんざん言われた話でありますが、三十三万の精神病床、七万を超える社会的入院という状況があります。やはり根源は、地域精神医療、保健、福祉の貧困だと思うんですね。
 先日、参考人として出頭いただいた都立松沢病院の院長さんの言葉が大変印象深いです。対象者の精神医療が治療によって軽快し、軽くなって、退院させようとする際、解除措置の後のことを考えるとちゅうちょすると言うんですよ。重厚ないい入院医療をやって快方に向かった、地域に戻せる、しかし、この患者さんを地域に戻したときに、今の日本の社会、日本の医療の状況、地域ケアの体制を考えるとちゅうちょすると言うんですね。すさまじい言葉じゃないでしょうか。結局これは、どんなに重厚な入院加療をしても、地域ケアがなければ、精神障害者の皆さんの社会復帰は絵にかいたもちになるということをあらわしている言葉ではないでしょうか。
 全体の地域精神医療、保健、福祉の向上が、残念ながら、現下の日本の財政状況のもと、人的、物的、予算的制約のもと、また社会的制約のもと、すぐにできない。全体の精神医療の地域ケアができないというのであれば、私は、まずは重大な他害行為を行った精神障害者の皆さんに対する処遇として、再犯、再発のおそれ等を防止して、社会復帰を本当に促進するために、重厚な地域精神医療、保健、福祉の体制、ネットワークをつくるということは不可欠だと思うんです。全体を一遍に底上げできないのであれば、まずはそういうことも必要であろう。
 政府案には、そういう観点からと善意に解釈すれば、そういう立場から重厚な入院医療は書き込みました。しかし、地域での重厚な医療、福祉、保健は、何にもないんですね、法案を読んでも。修正案にもその方向が出てきていないんです。私は、最大の致命傷だと思います。
 なぜ、そういう方向を地域医療には出そうとしないんでしょうか、この法案の中に。不思議なんです。なぜですか。
○上田政府参考人 今回の修正案の附則第三条におきまして、「精神病床の人員配置基準を見直し病床の機能分化等を図るとともに、急性期や重度の障害に対応した病床を整備することにより、精神医療全般の水準の向上を図るものとする。」このようにうたわれているわけでございまして、私どもも、この条文をしっかり真摯に受けとめまして、やはりこの対策にしっかり取り組まなくちゃいけないというふうに考えております。
 先ほど大臣の方から、各局の参加のもとに、大臣を本部長とします対策本部をこれから設置し、省を挙げて取り組むわけでございまして、ただいま先生の御指摘の点などにつきましても、私ども、地域全体の精神保健福祉対策の推進についてこれからしっかり取り組んでいきたいというふうに考えております。
○木島委員 修正案提案者が答弁に立たないんならいいんですが、今、部長が述べたのは入院体制の強化なんですよね。修正案提案者が出した三条二項というのは、地域医療の強化なんて入らないんですよ。そこを私は質問したんです。まあ、次に移りましょう。
 精神保健福祉法措置入院の現状と問題点についてであります。
 今言った地域ケアがまことにお粗末、貧困という問題は、私は、精神保健福祉法のあり方にも端的にあらわれているんじゃないかと思います。精神保健福祉法には、措置入院医療保護入院という制度はしっかりつくってありますが、通院治療については、医療費の補助制度があるだけで、かぎ括弧つきでありますが、措置通院制度的なものは全く存在しておりません。なぜ精神保健福祉法にはこのような制度がつくられていなかったのか。厚生労働省、わかったら答弁してください。
○上田政府参考人 措置入院からの退院後のいわば法的手当てと申しましょうか、公的医療費の御指摘だと思いますが、退院後の継続した治療の確保を図るための方策については、やはりさまざまな意見があろうかと思います。
 したがいまして、やはりこの点については慎重な検討が必要であるというふうに認識しているところでございます。
○木島委員 質問に答えていないんですね。日本の精神保健福祉法の基本原則には、措置入院医療保護入院、入院する方は一生懸命条文があるけれども、帰ってきたときの手当てが法制化されていないのはなぜか。私は、ここに日本の精神障害者の皆さんへの対応が非常におくれている根本を見出さざるを得ないんです。
 きょうは時間がありません、歴史を語りませんが、昔は座敷牢が法制化されていたんですね。閉じ込める、そういう思想がずっと貫徹して、批判をされまして、精神保健福祉法も、条文の言葉ではいろいろ変わってきましたが、やはりそういう閉じ込めるという思想が貫かれているんじゃないか。
 もう一つは、私はお金の問題だと思うんです。治療の必要な精神障害者に対する措置としては、地域精神医療、保健、福祉を構築する方が入院させるよりもはるかに人的、施設的、予算的負担が大きいんじゃないかと思うんですね。これは私は論証はありません。しかし、そう思います。入院して閉じ込めた方が金もかからない、人もかからない、そこの一番の問題を避けて通ってきたというのが根源にあるんじゃなかろうかと思えてならないんですが、坂口厚生労働大臣、どうお考えになっているでしょうか。
○坂口国務大臣 これは、地域におけるそうした受け皿をつくって、そして、そこで皆さん方の病状と申しますか、健康状態というものをよく把握をし御相談に乗っていくという体制は、そこだけを見ると、私は非常にお金がかかるというふうに思います。しかし、そうすることによって入院をする人が減るという全体の枠で見ると、私は必ずしもそこにより多くのお金がかかるとは思っておりません。
 これは、精神病だけの問題ではございませんで、ほかの問題もそうでございます。その地方におきます、それぞれの地域におきます、そういう保健の体制というものをつくり上げていくということが今後大事になってまいりますし、今までの精神医療というのは、ほかの病気と同様に考えて、治療して治ったら、もうそれぞれの地域に帰って、それで健全にそのままでいける、健康か病気かという、そのどちらかという二つの対立した概念で片づけてきているところに非常に無理があるというふうに思っております。
 最近、いわゆる高齢者の方もふえまして、その中間的な方々もふえてまいりましたから、最近は若干変わってはまいりましたけれども、まだその考え方が残っているというふうに思います。精神科の患者さんに対しましても、そうした考え方で今までやってきた、そこに私は精神科の問題には無理がある。やはりその中間的な存在の人たちがいるということを理解していかなければならないというふうに思っております。
○木島委員 全体を考えたら必ずしも入院の方が安上がりになるとは考えないというのなら、なぜ本格的にそういう道に歩んでこなかったんでしょうか。私は、そうじゃないと思うんですね。物すごいエネルギーが地域精神医療、福祉、保健を充実するためには必要だ。これは、まさに国と地方自治体が総力を挙げて、まさに政府が総力を挙げてその道に突き進まなかったらできるものじゃないと思うんです。それを回避しようとしたのが安易な入院中心主義じゃないかなと思えてなりません。
 次の質問に移ります。犯罪を犯した精神障害者の処遇の現状の問題です。
 心神喪失により犯罪を犯した者の措置がどうなっているか。これは、衆議院の法務調査室の皆さんの調べた資料によりますと、犯罪白書を分析したようですが、平成八年から平成十二年の五年間の統計で、総数三千五百四十のうち、心神喪失心神耗弱で不起訴処分となった者の数は、心神喪失千九百十九件、心神耗弱千二百三十八件、合計三千百五十七件。全体数三千五百四十件の、何と八九・一八%、圧倒的多数が不起訴処分であります。これに対し、公訴提起はわずかに三百八十三件、一〇・八一%にすぎません。裁判にかけられた者のうち、心神喪失で無罪になったのはわずかに八件のみであります。
 なぜ検察はこんなに不起訴処分にしているのか。精神障害者の団体の皆さんからも、検察はもっときちんとした捜査ときちんとした精神鑑定、起訴前鑑定をやって、人権保障という観点のためにも、裁判を受ける権利を保障してくれと。普通、逆なんですがね。起訴してくれということになるんですが、裁判を受ける権利をきちんと保障してくれという意見まで出るぐらいの状況なんですが、なぜこんな状況なんでしょうか、法務省
○樋渡政府参考人 お尋ねの点につきましては、検察官としましては、被疑者が精神障害者である場合でも、その刑事責任能力を見きわめ、事案の内容や被害者、遺族の心情等を十分に考慮して起訴か不起訴かを適切に選択すべきものと考えますが、特に簡易鑑定のあり方につきましては、さまざまな御意見や御批判があることは十分に承知しております。
 検察当局におきましては、精神障害の疑いのある被疑者による事件の捜査処理に当たりまして精神鑑定を行う必要があると認められる場合には、事案の内容や被疑者の状況等に応じて、簡易鑑定によるか鑑定留置の上で本鑑定を行うかなど、精神鑑定の手段、方法を選択していると承知しております。
 当局で把握しているところでは、平成十二年には、全国の検察庁で合計二千百九十一人の被疑者につきまして精神鑑定が行われ、その内訳は、簡易鑑定が二千四十二人、本鑑定が百四十九人であったと承知しています。
 精神鑑定につきましては、特に簡易鑑定に対し、先ほど申しましたように、いろいろな批判があることは十分に承知しておりまして、法務当局といたしましても、一層その適正な運用を図り、不十分な鑑定に基づいて安易な処理が行われているとの批判を決して招くことがないようにする必要があると考えている次第でございます。
○木島委員 措置入院の人権状況も大変深刻な問題がありますが、今私が質問しているのはその以前の問題なんですね、起訴前の問題。今法務省刑事局長が答弁になったとおりであります。皆さんが出した資料のとおりであります。平成十二年の精神鑑定総数二千百九十一件のうち、何と簡易鑑定が九三・一九%、二千四十二件、本鑑定はわずかに六・八%、百四十九件にすぎません。
 なぜこんなに本鑑定が少ないんでしょうか。簡易鑑定の現状というのはどういうものでしょうか。極めて短時間、しかも精神科医が行うとは限らぬというんですね、お医者さんに聞くと。嘱託医によって行われている。こんなことで正しい鑑定ができるでしょうか。まことにずさんな、いいかげんな鑑定をして、それで本当に心身の状況もつかまないで不起訴にして、そして措置入院の通報という方向にいっているんじゃないでしょうか。
 簡易鑑定をするか本鑑定をするか、区分けのしっかりした基準というものを検察は持っているんですか。
○樋渡政府参考人 鑑定は個々の精神科医がその専門的知見に基づき行うものでございまして、その性質上、これを嘱託する立場にある検察当局において簡易鑑定の実施方法を一律に決め得るものではないというふうに考えておりますが、検察官におきましても、鑑定医に対する資料提供等を行う上で鑑定が適正になされるように配慮すべきことは当然でありまして、お尋ねの点につきましては、今後とも、精神科医を加えた研究会等での御議論を踏まえ、簡易鑑定のさらに適正な実施を図る上でどのような方策が有益かについて引き続き検討してまいりたいと思っております。
○木島委員 基準がないということですかね。これは大問題だと思うんです。
 鑑定がいかにずさんかというのを示す裏側からの話をします。
 検察で不起訴になった者は、現行法によりますと、精神保健福祉法によって、検察官通報により、措置入院の道へ入っていくわけですね。
 調査室の作成資料によりますと、平成十二年で、検察官通報による届け出件数は一千七十五件。その内訳を見ますと、そのうち、調査により診察の必要がないと認められた者が何と二百八十二件もある。診察を受けたが、法第二十九条、いわゆる措置入院条項ですが、法第二十九条措置入院該当症状のない者が何と二百三件もある。合わせ四百八十五件、何と四五%がこういう形になっている。半分近くは措置入院対象外。検察が簡易鑑定をやって、精神保健福祉法によって通報する、その半分近くがそんな症状ではない。数字が物語っているんじゃないでしょうか。起訴前鑑定のずさんさ、不起訴処分の安易さをあらわしているんではないでしょうか。今度の政府案は、そこには全く何も触れられていないんですね。
 精神障害者の皆さん、不幸にして重大な他害行為を行ってしまった心神喪失者等の皆さんの、この前段階での基本的な人権が守られなければ私はいかぬと思うんですが、今の刑事局長の答弁では、口約束だけであって実効性の担保がないんですね。もっときちっと本鑑定を重視する、簡易鑑定はもう基本的になくすという答弁は出ないんですか。何でこんなに簡易鑑定ばかり多いんですか。財政、予算の問題ですか。はっきり答えてください。
○樋渡政府参考人 先ほども申し上げましたように、鑑定はいろいろな事情を考慮して検察官が決めていくものでございますが、本鑑定によりますことは、やはり鑑定留置を伴うことが多いわけでございまして、それが必ずしも被疑者の利益になるというふうには考えないところでございますので、これは検察官が個々の事件に応じて適切に、簡易鑑定を選ぶか、本鑑定まで進んで選んでいくかということを考えていくべき問題だろうと思っております。
○木島委員 時間ですから終わりますが、もう本当にいろいろな分野でこの法案は審査されなきゃならぬ。ほとんどされていないですね。私も残念ですが、あと数十時間欲しいぐらいですよ。
 断じて採決は認められないということを重ねて訴えて、時間ですから、残念ですが、質疑を終わります。

【阿部委員質問】

第155回衆議院 法務委員会会議録第15号(同)
○山本委員長 次に、阿部知子君。
○阿部委員 社会民主党市民連合阿部知子です。
 本日の私の質問は、この場で質疑をさせていただくのは、連合審査も合わせて、きょうは法務委員会ですが、三度目になりますが、実は、どの委員会に出席いたしました折にも定員割れというのが生じて、質疑がとまるという事態が生じております。幾ら国会の形骸化が激しいとはいえ、一つの法案を審議するのに毎回の委員会が定員割れになるような事態は、大変申し上げにくいですが、委員長の御采配の問題もやはりあろうかと私は思います。
 本当に、ずっとそこにお座りで大変なのはよくよく存じておりますし、それからまた、来ないのはこっち側なのですから、それもまたそこに座って動けない委員長を責めるのは申しわけありませんが、しかしながら、私は、あちらの傍聴席にもたくさんの方々が見えていて、かたずをのんで見守っている中、こっちが空席や居眠りというのでは、余りにも国民の税金をいただいてやっている私どもの仕事が情けないと思います。かてて加えて、毎回の欠格委員会の末にきょう採決をなさるということは、本当に民主主義はそこまで堕落したかと思いますので、どうか私の質疑をまたお聞きいただく間にも委員長もお心を変えてくださいますようにお願い申し上げて、質問に入らせていただきます。
 冒頭、まず坂口厚生大臣にお願いがございます。お願いを先にしてしまわないと、後でいろいろ論議になりましたときに私も言いづらくなりますので、済みませんが、お願いの件があります。
 一つは、先ほどの木島委員の御質疑の冒頭にありましたが、在外被爆者問題で郭貴勲さん、原告でいらっしゃいます。現在日本に来ておられますし、ぜひとも一度坂口大臣にお会いしたいと。もちろん大臣も、会えば、やはり大臣の御性格ですから情が動いてしまうということもおありかと思いますが、被害の実態、当事者にきちんと向き合うというのが医療でも政治でも原則でございますから、まずこれに御面会いただきたい。
 そして、あわせてもう一点。きょうあそこで傍聴なさっている方の中にも、この法案にかかわる精神障害をお持ちで、この法案がもしかして自分たちの仲間や自分の未来を本当に変えてしまう、あるいは社会の未来を危ういものにすると思って、きょう大臣にもお目にかかりたい、ぜひとも直にお目にかかりたいという要望を持ってお申し出に伺っていると思います。
 大臣は、きょうこの委員会でとても会えるような状況ではなかったですし、それはよくよく承服しておりますが、ただし、この法案の審議が終わるまでにでございます。衆議院がもしかしてきょう採決なさるとやらおっしゃっていますが、それはなるべくなしにしていただきました上で、この法案の審議にかかわる当事者、当事者というのはもちろん、犯罪を犯した人のことかとお聞きになられるかもしれません、その方たちでも結構であります。また、同じ仲間の問題として非常に深刻に、身近に、我が事と感じておられる方たちにぜひともお目にかかっていただきたい。
 これはもう最低限、なぜこれだけ思いが入れ違うのかというところの最低限のところですので、冒頭、恐縮ですが、坂口大臣にお約束をお願いいたします。
○坂口国務大臣 先ほどの被爆者の問題につきましては、木島委員にも御答弁を申し上げたところでございますが、高裁の判決を重大と受けとめているわけでございます。内容をよく吟味させていただきまして、そして関係者とも早く協議をし、結論を早く出したいというふうに思っております。
 郭さんにつきましては、以前にも一度お会いをさせていただいたことがございますし、よく存じ上げております。
 それから、患者の皆さん方との話でございますが、これはもう、今こういう状態でございまして、なかなか日程的にとれない状況でございますが、いつかは必ずお会いをさせていただきたいと思っております。
○阿部委員 その大臣の思いを無にしないためにも、委員長には、絶対にきょうは採択をしないでいただきたいとお願い申し上げます。そして質問に入らせていただきます。
 まず、修正案提案者の塩崎議員に伺います。
 この間、毎回の質疑の都度同じものを聞いて大変に恐縮ではありますが、きょう、また改めまして、いわゆるこの法案と直接のものではございませんが、この法案と深くかかわることになるであろう現行の措置入院のさまざまな問題点の指摘がこれあり、その措置入院の現状については厚生省も法務省もみずからの実態調査を、残念ながら現時点で、例えばその方の社会復帰までも含めて、あるいは治療時のいろいろな問題までも含めて、現段階ではお持ちでないという御答弁を、きょう、金田委員の御質疑にいただきました。
 そうした現状にあって、実証的データのない中で塩崎議員はあえて提案者になっておられますが、そうした形の立法というのは、立法を構成する要件において、私は極めて手法的に問題がありと思います。
 これは何も塩崎議員の怠慢ではございません。厚生省と法務省おのおのに問題があると、私はこれまでも指摘してきました。そのことがきょう、なおさらに明らかになりました。措置入院をめぐってのデータすらない、その中でこの法案をお出しになろうとする議員としての見識を一つまず大前提で伺います。
○塩崎委員 現行の措置入院制度並びに措置が終わった後の社会復帰の体制の不備というものについては、恐らく、阿部議員と私どもとはほとんど変わらない認識を持っているんだろうと思うんであります。
 確かに、私も厚生労働省に、患者の皆さんは措置の後にどういう道を歩んでいるんだというのをもらったわけでありますけれども、六カ月から十八カ月の間で、百七十四人の方々のうちで退院等と書いてあるのが本当に十七人しかいないということでありますから、いかに社会復帰が大変難しいか。大半が、三分の一ぐらい、六十人が措置入院の継続でそれからあと別に、解除後にそのまま入院を継続する方が八十九人ということでありますから、なかなかこれは社会に戻っていただいていないなということがわかりました。
 しかし、こういうデータもそろっていないということを今御指摘になったんだろうと思うので、これもやっとこさ出てきた唯一の資料ぐらいのことでありますので、大変心配であることは間違いないわけであります。
 しかし、今回、何度も繰り返して申し上げますけれども、今の措置制度に欠けているのは、私も地元の精神科の先生方とお話をしてみて、最後に出るときに、解除するときに、一人のお医者さんが解除する、もう大丈夫だろう、だけれどもまた来てくださいねと言いながら、ついに来なくなってしまう、そして、いつの日かまた問題を起こされて帰ってくる、これを繰り返すのではもうたまらないというお話も随分聞きました。
 今回新しく、PSWあるいは看護師の方でもそういう知見を有する方であればいいわけでありますが、通院をしながら地域復帰へのコーディネーションをやるということを新たに加えていることが、この新しい法律の今までの措置とは全く違うところであって、本当は措置入院にもそのような形のものを用意するということが私はもっと大事だし、地域の、例えば各保健所にPSWの方がおられるかというと、恐らくそうなっていないんだろうと思うんです。私の地元の松山市は、保健婦さんでPSWという方がたまたまおられますけれども、地方に行けば行くほどそうなっていない。
 ですから、そういうことは十分わかっていますが、では、今そこで、そちらの方の進展だけを追いかけることで果たして今の問題を解決できるのかということを悩んだ末に、この一歩前進というものを図らせていただいて、しかし、附則をつけたということは、決して今の地域での保健や福祉や医療がこのままでいいということじゃないということを、法律で政府にノルマをかけるということをしている、こういうことでございます。
○阿部委員 現状の分析に当たって、きちんとしたデータがなければ、現状をどのような方向に変えるかの方策も出ないわけです。
 塩崎先生のように第三の道をつくるのがいいのか。私は思います。国の予算も限られております、そして大きく地域医療に転換していこうとするときに、この第三の道のような保安、強制的施設を施設としてつくることが正しいのか、それとも、本当の意味で犯罪の防止、そして精神を病む方たちの人権の確立に向けて、逆に、こうしたものをつくらないでやっていく道があるのかどうかを、つくらない方がいいのかもしれない、私はいいと思っておりますが、そういう意見も一方であるわけです。患者さんたちの皆さんもそう思っているわけです。であれば、そのことを分析するに足るデータをまず出してくれと。きょう出たのはたった一つです。
 それから、あえて申し上げますが、厚生労働省でやっている研究班がございます。「措置入院制度のあり方に関する研究」という一冊のよくまとまった本でもございます。しかしながら、この報告書の結果は、モニタリング体制、現状を知るためのモニタリング体制が必要であるということが報告の骨子でございます。逆に、それすら行われていない中でどっちがいいかこっちがいいか、そうだ、こういう形にやっていく審議自体がこの法案の極めてむなしい点であります。だから空席ができるんだと思います。
 私は、本当によかれかしと思って、みんなが事実を認め合う、その事実をきちんとデータとして出すのが法務省の責任であり、厚生省の責任であると思います。そして、質疑をぽろぽろすれば、部分的にはぽろりぽろりと出ます。例えば、なぜ日本の、精神障害を持って犯罪を犯された方たちは皆、措置入院に安易に流れ、裁判を受けることすらできない。さっき木島委員の指摘もありました。あるいは、地域医療といったって本当にお寒い現状で、かえって今は保健所の統廃合の中で、地域に一人も、その地域を回れるような看護婦さんも保健婦さんもソーシャルワーカーもいない地域がかえってふえております。これは、参考人として出席されたPSWの方がみずからおっしゃった言葉です。
 そうしたら、まずそこから、そういう事実を寄せ集めて優先順位をつけるべきです。どこから手を打つか。お金は限られています。そしてもう一方で、物事の哲学というものがあってしかるべきです。その双方を突き合わせて論議されるべき委員会が、事この三回の審議に至っても、いつも一に戻り、データのところで、ない、ない、ないを繰り返しながらここまでやってきております。
 そして、私は、きょうはもう一点塩崎議員にお尋ねいたしたいのですが、塩崎議員は、これは司法の名による強制的な施策であるということをこれまで繰り返しほかの方の御答弁で述べてこられました。強制的な治療であるからこそ人権の保護的な役割が必要であるとおっしゃいました。具体的には何が人権の保護でしょうか。具体的に塩崎議員がお考えの、人権の保護のためのこの法案にかかわる仕組みをお答えください。
○塩崎委員 今回のこの法律の中で人権に配慮をするということは、特にこの修正案を出させていただいてから立法の意図としても申し上げてきたところでございますけれども、今お話がございましたように、何らかの形で自由に対する制約あるいは干渉をするというのが避けられないわけでありまして、当然、人権の保障にも十分配慮しなければいけないということだと思います。
 一番大事なことは、今みんなが心配されているのは、やはり入院が不当に長くなってしまうんじゃないかということであって、そういう中で、まず第一に、六カ月ごとの入院の継続が必要かどうかということを確認するという仕組みもあり、それから、退院の許可の申し立てについては、今回、修正で、制限なしで、入院をした翌日から、正当であればそのまま申し立てが認められるということでございます。
 それから、医療機関の中での行動制限についても、九十二条に書いてございますように、例えば、弁護士あるいは行政の方との面会を制限してはならないとか、あるいは信書を発信してはならないとかいうような形の行動制限は、社会保障審議会で厚生労働大臣が定めるということになって、それによってやらなければならないということになっております。
 さらに、必要に応じて厚生労働大臣は処遇の改善というものを命令するという形になり、また、必要なときには調査もするということで、かなりいろいろな、何重にもそういう形で人権が守られるという仕組みを仕組んでいるわけでございます。
○阿部委員 もし提出者の認識がその程度のものであれば、恐縮ですが、日弁連、日本弁護士連合会の皆さんがこの法案に反対をしておられるさまざまな意見書が出ておりますので、ぜひともお読みいただきたい。
 どういうことか。例えば、弁護士が被拘束下にある方たちをいつでも訪問できるような仕組みが、日本では仕組み、システムとして整っておりません。辛うじて一部の弁護士会が有志的に行う仕組みのみでございます。あるいは、ヨーロッパにおける人権の監視機構である拷問の防止等の監視機構であるような仕組みも、ヨーロッパ評議会の中に保障されているような仕組みも我が国は持ちません。
 ぜひとも塩崎議員には、法体系におさめるんだから人権の擁護が大切なんだと思っていただけるんであれば、その具体的な仕組みづくりをもう一度きちんと勉強して、そして、技量がおありなんですから提案していただきたいと思います。
 このことを私は申し添えさせていただいて、ずうっと厚生労働省にはお待たせをいたしましたので、三回の質問でいつも塩崎議員とのやりとりで終わらせていて恐縮でしたので、厚生労働省関係の質疑に移らせていただきます。
 まず冒頭、坂口厚生大臣に伺いますが、私は先ほど、これをとり行うにあっては哲学が必要であると申しました。あえて言えば、この新たな仕組みをつくることが、本当に精神医療のための、本当の意味の人権の保護や前進に結びつくかというところで、ぜひとも大臣には幾つかの広い見識で物事を考えていただきたいと思っております。そして、大臣は極めて頑固一徹でいらっしゃいますから、きょう私が数分言っただけでお考えが変わるとも私は思えませんが、残念ながら、この間でずっと討議してきましたから。でも、やはり時代をよく見て、本当の人権、何が必要か。
 例えば、せんだっても来日されておりましたが、これはヨーロッパ評議会にかかわるティモシー・ハーディングという方で、司法精神医学と精神医学の双方を修めた方でございます。この方が、新たな保安的な施設、新たな強制的な施設をそこにつくるよりも、これをつくらずして現在の医療の中に普通に取り込んでやっていく方が、やはり隔離期間も短く、退院時間も早く来るのであると。これは、諸外国でこれまで保安処分施設、あるいは強制的施設、司法精神医学施設を設置したところのさまざまな問題を分析した結果の御意見でございます。
 坂口大臣にあっては、その部分はどのように検討され、また今回のこの審議に臨んでおられるか、お願いいたします。
○坂口国務大臣 この法案にかかわります問題につきましては、いろいろのさまざまな御意見があることはよく存じております。専門家の間でもさまざまな御意見がございます。外国に行きまして、外国で現在行っている皆さん方のお話を聞いた場合にも、今、外国の方のお話がございましたけれども、さまざまな御意見がございます。私もドイツに出かけまして、ベルリンにございます病院にお邪魔をし、そして現在専門におやりをいただいている医師の方、法律担当をしておみえになる方、そうした方の御意見も伺ってまいりまして、それなりの意見を聞いてきたわけでございます。
 ですから、意見はいろいろあるだろうというふうに思いますが、私は、精神病そのものに対する治療、それは当然のことでございますが、それにもう一つ、他害行為という非常に重い荷物をしょい込まれた皆さん方に対しましては、そのことに対する治療と申しますか、そのことに対する対策もあわせて行う必要があると考えているわけでございます。
 したがいまして、そうした他害行為を行われた皆さん方に対しましては、そのことをみずからよく認識をしていただく、そして認識をするだけではなくて、みずからの今後の自分の行動をコントロールしていただけるようにどうしたらいいかということを御理解いただく、そうしたことがやはり大事でありまして、そうした意味で私はこの法案に賛成をしたところでございます。
○阿部委員 大臣のこれまでのお話ですと、やはり私はもう一歩議論がかみ合っていないんだなと思います。
 だれとて、精神障害があり、なおかつ犯罪を犯したときに、その方にどうやって本当の意味で社会復帰していただくか、さまざまなケアや治療やあるいはサポートが必要であるということは考えます。その場合に、他の特別な施設に分離して行うことがよいのか、現状の精神病院の改革を行う中でそのことを取り入れて、特に地域精神医療、もう繰り返しませんが、日本にはシェルターもございません、二十四時間駆け込めるシェルターもほとんどなし、また、地域を管轄するイギリスのような訪問看護の仕組みもほとんどない。もう全部全部、入院病床数、病床、ベッドへと引っ張っていかれるような精神医療の現状の中で、ここの、また新たな特別な病院をつくることがその傾向を固定化し、助長するというところが論議でございます。
 ちなみに、イギリスのブロードモアという精神病院もそのような施設として成り立ちましたが、さまざまな問題が生じて、多様な角度から見直されて、そのように隔離しない方策の方がよかろうという報告も、また本も出ておりますので、これもまたお読みいただきたいと思います。
 そして、わけても、ではイギリスだ、ドイツだ、私はもう一個スイスと言いたいですけれども、そういうのじゃなくて、我が国はどうだろうと立ち返ったときに、ぜひ、大臣のおひざ元の厚生労働省で私は大きな問題があると思う点を指摘させていただきたいと思います。
 皆さんのお手元に資料が配付されましたでしょうか。四枚とじの資料で、日本精神病院協会の学会誌から私は引用してまいりました。実は、一昨日の御質疑で、自由党の石原委員の御質疑の中にもございましたが、いわゆる看護婦対患者の配置、どのようになっておるかということにおきまして、病院を二群に分けてございます。国立病院や総合病院やそれなりの規模の病院、そして一方は民間病院と言われるような個別の病院。そのことに関しまして、実は、四枚の資料となっておりますが、もしお手元にございましたら「措置入院患者受入状況」というのを見ていただきたい。私は、必ずしも措置入院が今回のとイコールであると思っておりませんが、今利用できるデータがこれですので。
 見ていただければわかるように、ほとんどの措置入院患者さんは、現在のところ、指定病院と言われる、多くは民間の病院に措置されております。二千八百二十名です。これは平成十二年六月のデータでございますが。そして、この指定病院というものは、その下に書いてございますが、国立病院や都道府県立病院に比べて圧倒的に看護婦配置が五対一、六対一のまま残されております。比率がその次に書いてございます。
 そして、このことをめぐって、実は私が当選した早々の平成十二年の十二月に医療法の改正がございました。その医療法の改正をめぐって、日本病院協会と、そして厚生労働省の上田部長の今おられるところですが、障害保健福祉部の部長であった今田さんの間で交わされている一連の論議がございます。細かな字の方のプリントですが、見ていただければと思います。
 ここでは、日本病院協会は、当面の間、六対一基準からなかなかはい上がれないから、五対一を暫定的に五年間、ないしは当分の間、五対一に押しとどめてくれと主張をいたしました。そして、その主張が通る形で、医療法改正においては、普通の国立病院や総合病院の精神科病床の方は特例の外す方向がきちんとなされましたが、こうした民間病院で多くの措置入院を受け入れている病院については、当分の間、五人に対して一人とすることになりました。このことを日本病院協会の方は、右側の中の段でございますが、十二月十四日の「勝利宣言に始まり、」という形で、勝利とは何か、基本的には看護婦増が無理なので現状のまま当面の間やってくれという要求にそのとおりになったという勝利の会を開き、そこに当時の今田障害保健福祉部長が御出席であります。
 私がこの場で伺いたいのは、現在の上田障害保健福祉部長は当時の今田福祉部長からどのように申し送られて、当分の間、病床の看護婦はふやせないからこれでやってくれという会合で、そうだ、よかった、それになった、しばらくこれでやれるという会合に出られた今田前福祉部長から、現在の上田障害保健福祉部長はどのように申し送りを受け、相手はなかなかふやせないと言っているんですね。今、きょう大臣は何度もおっしゃいました、スタッフだ、人員だ、局を挙げてと、こっちでむち打たれているわけですね。このことのはざまで、現在の担当部署の責任者は、どのように申し送りを受けられ、どのように今取り組んでおられますか。お願いいたします。
○上田政府参考人 私、直接今田前々部長から引き継いでいないものですから、その状況については伺っていないところでございます。
 しかしながら、いずれにしましても、この委員会あるいは連合審査で、病床の機能分化ですとか人員基準のあり方、いろいろと課題になったわけでございまして、私ども、たびたび申し上げておりますけれども、大臣を本部長としますまさにこの対策本部でこういった点についてもこれから検討し、まさに医療の充実、急性期医療などを含めまして、あるいは社会復帰対策なども含めまして、こういった問題についてこれからしっかり取り組んでいきたいというふうに考えております。
○阿部委員 そんなの空語なんですよ。片っ方に抵抗勢力がいるんですよ。そして、あなた自身、申し送りを受けていなければ仕事ができないでしょう。そんなお役所仕事ありますか。あなた、今申し送りを受けていないとおっしゃいましたよ、それでよく仕事ができますね。私はそんな答弁は聞き入れられませんよ。そして、そのことによってこの状態が温存されたまま言葉だけ幾ら審議を重ねても、いいですか、こんなの絵にかいたもちになりますよ。
 なぜ日本に病床がこれだけ多いのか、なぜ看護婦配置はふやされないのか。相手が勝利宣言をしているときにその場にいた今田さんが、あなたたちの系列の中でどんなふうに申し送られたんですか。相手はなかなか大変だ、ここを切り抜けよう、あるいは、今回だったらこういうふうに前進させていこう。私は、きちんとした答弁をいただけなければ、この質問はやめません。よろしくお願いします。
○上田政府参考人 今回の法案をめぐりまして、この対策とあわせて、我が国の精神医療の問題点、課題、あるいは今後の取り組みについて、先生方からいろいろ御指摘をいただいたところでございます。そして特に、七万二千のいわば社会的入院の解消、社会復帰等々の課題が大きく議論されたわけであります。
 そして、そういう中で、私どもはこれからの精神科医療について、先ほど申し上げましたように、病床機能分化ですとか人員基準のあり方、こういった点についてやはり省を挙げて真剣に取り組む決意を先ほど申し上げたところでございまして、我々としましては、こういった問題について早急に検討を進めていきたいというふうに考えております。
○阿部委員 申しわけありませんが、早急な検討といっても、もうこれは一昨年の十二月十二日のことで、既に二年たっているわけです。そして、決意、決意、決意といって何十年間ほったらかされたあげくが現在の精神医療です。
 私は、今の御答弁では納得いたしませんし、五対一看護に向けて、四対一看護に向けて具体的などんな取り組みを担当局がしてきたか、前任者からの申し送りも含めてきちんと出していただいた上で論議いたしますから、これを資料として要求いたします。委員長にはよろしくお取り計らいください。
 ありがとうございます。