心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その43)

前回(id:kokekokko:20060207)のつづき。
前回にひきつづき、法務委員会での質疑です。
【浜四津委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第10号(同)
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案を一括して議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
浜四津敏子君 公明党浜四津敏子でございます。よろしくお願いいたします。
 それでは、まず、本制度の趣旨及び目的についてお伺いいたします。
 我が国における触法精神障害者及び精神障害受刑者に対する処遇は、特に西欧先進諸国に比較いたしまして非常に後れていると、その後進性が長い間批判されてまいりました。
 例えば、一九八〇年八月の新宿バス放火事件、これは精神障害の男性がバスにガソリンをまいて炎上させ、乗客ら二十名を殺傷したという事件でございます。これは判決で心神耗弱とされまして、無期懲役が確定いたしました。そして、一般の刑務所に収容され、特別な治療を受けられないまま刑務所内で自殺したという件でございます。適切な治療を受けていれば自殺を防げたのではないか、また社会復帰も不可能ではなかったのではないかと批判されております。
 また、例えば一九八四年の横浜東高校生殺傷事件というのがありました。これは、統合失調症の男性が車をフルスピードで運転して下校途中の高校生四人をはねて、その直後に車から降りて今度は登山ナイフで次々刺したと、こういう事件でございます。これは不起訴処分で措置入院になりましたが、特に被害者側には大きな不信と不満が残った、被害者感情にほとんど配慮がなされなかったということが問題点として指摘された事件でございます。
 また、一九九〇年十月の元労働大臣刺殺事件というのがありました。これも統合失調症の男性に刃物で首を刺されて殺害されたという事件でございます。この男性は不起訴処分で措置入院となりまして、この件も被害者感情の鎮静化に問題を残したと言われております。
 そして、今回の議論の直接の契機となりました二〇〇一年六月八日の大阪・池田小児童殺傷事件、これは加害者が措置入院で入退院を繰り返している中で起こした事件でございます。措置入院制度の問題点を示した件と言われております。
 今回、本制度は、従来から指摘されておりましたこうした問題点を克服するために、適切な治療を受けられず、そのため社会復帰も困難なままに置かれていた触法精神障害者及び精神障害受刑者について、治療及び社会復帰を目的とした処遇の受皿を作ろうとするものと理解しております。
 そこで、法務大臣にお伺いいたします。
 本制度の対象者としては、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象としていることから、本制度は社会防衛を目的とするものではないかという批判がございますが、なぜ重大犯罪に限ったのか、その理由をお伺いいたします。
国務大臣森山眞弓君) この法律は、心神喪失又は心神耗弱の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対しまして、その適切な措置、処遇を決定するための手続等を定めることによりまして、継続的に適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察と指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もって本人の社会復帰を促進することを目的とするものでございまして、その者の危険性から社会を防衛するために行われるものとは異質のものでございます。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有していることに加えて重大な他害行為を犯したという、言わば二重のハンディキャップを背負っている者でございます。そして、このような者が有する精神障害は、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられ、また、仮にそのような精神障害が改善されないまま再びそのために同様の行為が行われることとなれば本人の社会復帰の重大な障害となるということからも、やはりこのような医療を確保することが必要不可欠であると考えられるわけでございます。
 そこで、このような者につきましては、国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い、また退院後の継続的な医療を確保するための仕組みを整備することなどによりましてその円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えられることから、このような者をこの法案における対象者とすることにしたものでございます。
浜四津敏子君 現行刑法は、責任なければ刑罰なしという責任主義に立っております。
 したがいまして、ある行為が犯罪構成要件に該当し違法性があったとしても、心神喪失責任能力がなければ無罪、刑罰なしということになります。その後は刑事手続から外れまして、措置入院という行政処分に移行するという刑罰一元制を取っております。
 そこで、確認させていただきますが、今回の制度は責任主義の例外的措置としての刑事治療処分とは異なると理解していいんでしょうか。すなわち、西欧諸国が刑罰と処分の二元制を取るのに対して、今回の制度は二元制を取るものではないと理解していいんでしょうか。法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 この法律によります新たな処遇制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者であって不起訴処分となり又は無罪等の裁判を受けた者に対し継続的かつ適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行うことによって本人の社会復帰を促進するための制度でございます。
 そして、この目的の下、刑事事件を審理する裁判所とは別の、精神科医もその構成員とする裁判所の合議体が刑事手続とは別個の、制度の目的に応じたより柔軟な審理手続により、刑事処分とは異なるものとして処遇の要否、内容を決定するものであり、また処遇を受けることとなった者は、厚生労働大臣が所管する病院へ入院又は通院することとしております。
 このように、本制度は、刑事事件の審理を行った裁判所が刑事訴訟手続によって刑事処分としてその要否、内容を決定することが想定されている刑事治療処分とは全く異なるものでございまして、御指摘のような二元主義を採用するものではございません。
浜四津敏子君 ところで、刑罰の目的及び本質につきましては、一般的に、一つには相対的応報、すなわち被害者感情の鎮静化、二つ目には本人の社会復帰、三つ目には再犯防止、この三つが調和されたものと理解されております。
 ところで、今回の制度は本人の治療及び社会復帰を目的としているという御説明ですが、被害者感情の鎮静化及び再犯防止については、本制度はどのような意味を持ってくるのでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 本法律案は、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った者の社会復帰を促進することを最終的に目的とするものでございますが、その目的のために、その者に対し継続的に適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察と指導を行うことによって、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図ろうとするものでございまして、その意味で、同様の不幸な事態の再発防止にも資するものであると考えております。
 また、本法律案の新たな処遇制度は、その性質上、対象者のプライバシーに深くかかわり、当該対象者の社会復帰に与える影響等をも考慮すると、このような事実が明らかにされることになる審判の傍聴や審判の経過、結果の第三者への通知は本来慎重でなければならないところでございますが、当該対象者による重大な他害行為によって被害を受けた者にとりましては、当該対象者の処遇がどのように決定され、また実際にどのように処遇されるのかに強い関心を持つことも理由のあることでございますから、本制度におきましては、重大な他害行為が行われた後、検察官の申立てにより行われる審判につきましては、裁判所が被害者等の申出によりその傍聴を許すことができることとするとともに、決定の内容等を被害者等に通知することとしております。
 このような本法律案における被害者への配慮と本法律案による対象者の社会復帰は、被害者感情を和らげることにもつながるものと考えております。
浜四津敏子君 それでは次に、審判手続についてお伺いいたします。
 本制度の最も大きな特色の一つは、我が国で初めて職業裁判官ではない医師が裁判官と同等の権限を持って裁判所の合議体の構成員となり、このような合議体が対象者の処遇の要否及び内容を決定することとしている点にあると考えます。
 従来、刑事責任能力の有無、程度の判断は、医師である鑑定人の意見を踏まえて最終的には裁判官が行っております。責任能力判断における裁判官と鑑定人の役割の分担については、いわゆる混合的方法が通説、判例によって承認されております。すなわち、精神医学的要素と規範的要素の存否、程度の確定という作業を通して判断が行われるべきとされております。
 今回の制度においても基本的にはほぼ同様の立場に、考えに立つものと思われますけれども、この審判手続において判断されるのは、行為時ではなく審判時の責任能力及び同様の行為を行うことなく社会復帰させるための医療の必要性の有無という二点でございます。
 そこで、処遇の要否及び内容の判断に当たり、医師による医療的判断が極めて重要であることは当然であり、医師が判断主体に加わることは当然と考えますけれども、裁判官もこれに加わることとした理由はどこにあるのか、法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) 本制度による処遇は、継続的かつ適切な医療等を行うことにより、本人の社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでありまして、このような処遇の要否の判断に当たりましては医学的知見が極めて重要であることは当然でございますが、自由に対する制約や干渉を伴うものでございますので、医学的な立場からの判断の合理性、妥当性を吟味することに加え、一つには、対象者の生活環境にかんがみ継続的な医療が確保されるか否か、一つには、同様の行為を行うことなく社会に復帰することができるような状況にあるか否かといった純粋な医療的判断を超える事柄をも考慮することが必要でございます。
 そこで、医師による医療的な判断に併せて裁判官による法的判断が行われ、また両者のいずれの判断にも偏ることがないようにすることにより、両者が共同して最も適切な処遇を決定することができる仕組みとするため、一人の裁判官と一人の医師の合議体により処遇の要否、内容を決定することとしたものでございます。
浜四津敏子君 本制度の処遇の対象からは精神病質犯罪者及び知的障害者というのは除外されると考えていいんでしょうか、法務省にお伺いします。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 新たな処遇制度は、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った者を対象とし、これらの者について対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合には入院又は通院の決定がなされることとなります。
 精神病質のみを有する者につきましては、我が国では一般に完全な責任能力を有すると解されており、そもそも心神喪失者とは認められていないため、本制度の対象者になることは想定されないものであると考えております。
 一方、知的障害のみを有する者につきましては、その障害の程度によって心神喪失者等と認められることがございます。もっとも、心神喪失者等と認められる場合でありましても、その精神障害につき治癒、治療の可能性がないと判断される場合には、精神障害を改善するため、この法律による医療を受けさせる必要があるとは認められませんから、本制度による処遇の対象とはならないと考えられております。
浜四津敏子君 本来は、精神障害犯罪者、それから精神病質犯罪者、知的障害を持っている人で犯罪を犯してしまった人、この三者についてはそれぞれに適切な処置が必要であると考えております。
 初めの精神障害犯罪者については、今回の治療と社会復帰のための処遇が必要でありますし、精神病質犯罪者については、例えばドイツで行われているような特別の社会治療処遇、これは特別重大な性犯罪を対象としているようですけれども、この処遇によって精神病質の犯罪者についても社会復帰の実効性が上がっていると言われております。この社会治療処遇は、いわゆるソーシャルトレーニングでありまして、生活克服技術を身に付けさせるというものでございます。
 今回のこの制度は第一歩で、今後の課題の一つがこの精神病質犯罪者の処遇体制の充実及び専門家の育成システムの構築にあると考えております。日本でも現場では既に実践しているところもあるわけでして、いわゆる九州モデルと言われている北九州医療刑務所、福岡県立太宰府病院、また国立肥前療養所、この三つの施設の間で緊密な連携の下に処遇が行われており、効果を上げていると報告されております。
 北九州医療刑務所は治療、社会治療モデルを実施しているところでございますし、福岡県立太宰府病院では措置入院、患者の治療が行われております。国立肥前療養所は、本制度が発足すれば、本制度の対象者に当たる患者さんを治療しているところでございます。この九州モデルの現場では司法精神医学も学べるということで専門家の研究、研修が行われているものと仄聞しておりますが、今後の課題としてこうした取組の充実を要望しておきます。
 また、知的障害者につきましては、今御説明があったように、責任能力ありという場合には一般刑務所、責任能力なしの場合には本制度の対象となる者とならない者が出てくると理解しておりますが、こうした処遇では恐らく不十分なんだろうという指摘があります。
 知的障害者の犯罪につきましては、本人が社会生活に適応できるよう社会が全体として守っていくという姿勢がむしろ必要で、そういう意味から、社会福祉的また社会復帰的な施設あるいは処遇が必要と言われております。これも今後の課題として指摘させていただきます。
 ところで、本法案では、処遇の要否、内容を決定するための手続について刑事訴訟手続とは異なる審判手続としております。このように刑事訴訟手続とは異なる手続で処遇の決定をすることについては批判的な意見もありますけれども、このような手続により処遇を決定することとした理由を法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) 本法律案によります処遇制度は刑罰に代わる制裁を科すことを目的とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者であって、不起訴処分となり、又は無罪等の裁判が確定した者に対し継続的かつ適切な医療を行い、また医療を確保するために必要な観察等を行うことにより、その者の社会復帰を促進するための制度でございます。
 また、一定の対象行為を行った者であることが要件とされているのも、広く医療が必要な者の中から本制度による医療を行うこととする者を限定するためであり、裁判所は、検察官の認定に疑問を抱いた場合に、本制度の対象者であることを確認するため、これに必要な限りで事実の取調べを行い、関係証拠によって対象行為の存否を確認することを想定しております。
 このような本制度の目的や、対象行為を行ったことを要件とした趣旨等にかんがみますと、本制度による処遇の要否、内容の決定手続は刑事訴訟手続と同様のものでなければならない理由はないのでございまして、むしろ裁判所が適切な処遇を迅速に決定し、医療が必要と判断される者に対しましてはできる限り速やかに本制度による手厚い専門的な医療を行うことが重要であって、刑事訴訟手続より柔軟で、かつ十分な資料に基づいて適切な処遇を決定することができる審判手続によることが最も適当であると考えられます。
 なお、本法律案による制度におきましても、対象者、保護者及び付添人に対し、審判における意見陳述権、資料提出権、決定に対する抗告権を認め、入院の決定を受けた後におきましても対象者に退院許可等の申立て権を認めるなど、対象者の適正な利益を保護するため様々な権利を保障しているところでございます。
浜四津敏子君 心神喪失等の状態で重大な犯罪、他害行為を行った者に対する処遇については、その病状に応じた適切な医療が行われることが極めて重要となってまいります。
 この問題に関する我が党のプロジェクトチームの報告書でも、処遇は、より確実な治療効果、病状の判断の下で入退院や通院の要否が決定されるべきであるとしております。本法案ではこの点についてはどのような配慮をしておられるんでしょうか、法務省に伺います。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 御指摘の報告書は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する処遇の在り方につきまして、より確実な治療効果、病状の判断の下で入退院や通院の要否が決定されるべきであるという視点から、精神科治療を受けさせる処分を科すものとする制度を提言されたものと承知しております。
 本法律案は、同報告書の貴重な御提言をも踏まえまして、心神喪失等の状態で殺人等の一定の行為を行った者にその対象者を限定し、これに対して継続的に適切な医療を行い、医療を確保をするために必要な観察と指導を行うことによって、その病状の改善と、これに伴う同様の行為の再発の防止を図り、本人の社会復帰を促進することを制度の目的とした上、対象者に対する処遇の要否、内容を決定するに当たりまして鑑定入院制度を設けて、鑑定のための十分な資料を収集して精神科医による適切な鑑定を行うこととし、裁判所においては精神科医をもその構成員とする合議体による審判を行い、必要に応じて精神障害者の保健及び福祉に関する専門家の意見も聞くことを可能とし、さらに対象者には付添人を付して多角的な角度からの検討を可能とするなど、対象者の病状を慎重かつ確実に判断し得る制度を設けて入通院の要否を判断することとしております。
 また、退院の可否の判断に当たりましても、同様に指定入院医療機関の医師による判断を経た上、精神科医をもその構成員とする合議体により慎重な検討を行うこととし、必要な場合には精神保健判定医等に鑑定を命じることができるなどの仕組みを設け、適切な入退院の判断を行い得るようにしているものでございます。
浜四津敏子君 本制度を実効性あるものにするために必要なことの一つとしては、人材育成が考えられると思います。司法精神医学などを医学教育や法学教育の中に組み入れる必要があるのではないかと考えております。例えば、ドイツでは司法精神医学の教育システムが確立しております。司法精神科医師、司法精神科ソーシャルワーカー、司法精神科看護師等の養成が行われております。日本でも今後こうした人材育成が必要となってくると考えておりますが、これは要望にとどめておきます。
 次に、修正案について、修正案の提案者に伺います。
 本法案については、衆議院において与党から修正案が提案されまして、これによる修正後の政府案が可決されております。修正案の提案者は、どのような動機、理由からこのような修正案を提案することとしたのか、お伺いいたします。
衆議院議員(漆原良夫君) いわゆる触法精神障害者の処遇をめぐる問題につきましては、過去にもいろんな経緯がありました。例えば、昭和四十九年の改正刑法草案に保安処分が規定されたことをきっかけにして、その導入の是非が激しく論議され、また最近でも、平成十一年の精神保健福祉法の一部改正法案の審議の際、国会においてこの問題について早急に検討を進めることが附帯決議で盛られております。それ以降、政党においても、あるいは政府においても議論、検討がなされてきております。
 また、日本の精神医療は諸外国に比べて随分と立ち後れており、医療の中でも言わば日が当たらない領域で、その実情が他の分野の医療関係者にも、医療関係者にすらよく理解されないという、そういう実情であります。中でも、触法精神障害者の処遇をめぐる問題が日本の精神医療における深刻かつ重大な問題となっておりまして、その早急な解決が問題となっているところであります。
 この問題は、精神障害者やその家族の方々、被害者、医療関係者、法律家等、多数の方々が関与しておりまして、その意見も様々でありますが、この問題を解決するとともに、我が国の精神医療、保健、福祉を充実強化することが緊急の課題であることに異論はないと思います。
 そこで、このような状況を進展させるためにもこの法律案を成立させることが必要であると考えておりますが、これまで衆議院等において政府案に対して行われてきた様々な批判、批判の中には十分な理由があるものもあって、与党としてはそのような批判は正面から受け止めて、問題点をできる限り明らかにしながら、これらを踏まえて、この制度を少しでも良い、より良いものとすることが大切だという思いで、修正するところは修正するという観点から今回の修正案をまとめたものでございます。
浜四津敏子君 修正案の最も重要な点の一つは、法案四十二条に定めております本制度による入院等の要件を、入院をさせて医療を行わなければ心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合から、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合に修正するという点でございますが、このように処遇の要件を修正することとした理由を提案者にお伺いいたします。
衆議院議員(漆原良夫君) 委員御指摘のとおり、今回の修正案の最も重要な点の一つは、政府案の心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合という要件を、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合に修正したということにあります。
 政府案のこの要件につきましては、衆議院における審議を通じて三点、問題点が指摘されました。
 第一点は、入院等の決定を受けた者に対して、言わば危険人物とのレッテルを張るような結果となって、そのためにかえって本人の円滑な社会復帰が妨げられることにならないか。第二点として、円滑な社会復帰を妨げることとなる現実的かつ具体的なおそれがあると認められる者だけではなくて、漠然としたそういう危険性のようなものが感じられるにすぎない者にまで本制度による処遇の対象となるのではないか。三番目、特定の具体的な犯罪行為や、それが行われる時期との、時期の予測といった不可能な予測を強いることになるんじゃないか。
 この三点、指摘されたところでありますが、そこで、このような批判を踏まえて修正案によって、本人の精神障害を改善するための医療の必要性が中心的な要件であることを明確にするとともに、このような医療の必要性の内容を限定し、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要と認められる者だけが本制度による処遇の対象となることを明確にすると。そうすることによって入院等の要件を明確化し、本制度の目的に即した限定的なものとするというためにこのような修正を行った次第でございます。
浜四津敏子君 それでは、修正前の入院等の要件と修正後の入院等の要件はどのように異なるのか、御説明ください。
衆議院議員(漆原良夫君) 修正前の政府案の要件は、先ほど申し述べたとおり、心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合というものでありまして、その中には医療の必要性とか対象者の社会復帰といった観点が明記されておりません。先ほどお答えしたような、様々な批判がなされたところであります。
 これに対して、修正案の要件は、本制度による処遇の対象となる者は、対象行為を行った際の精神障害を改善するためにこの法律による医療が必要と認められる者に限る。二番目に、このような医療の必要性が認められる者の中でも、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要な者だけが対象となることを明記する、明確にすることによりまして、本制度の目的に即した限定的なものとしたものであります。政府案に対する様々な批判を踏まえて、その問題を解消するため政府案の要件を修正したわけでございますが。
 したがって、例えば政府案に対しては、単に漠然とした危険性のようなものが感じられるにすぎない、そういう場合でも本制度による処遇の対象となるのではないかとの批判がありましたが、修正案では、このような場合であっても対象行為を行った際と同様の症状が再発する具体的、現実的な可能性もないような場合には、その精神障害のために再び同様の行為を行う可能性はないので、本制度による処遇は行われないということが明白となっているのであります。
浜四津敏子君 修正案によれば、合議体の裁判官と精神保健審判員は具体的にどのようにして処遇の要否及び内容を判断することになるのかをお伺いいたします。
衆議院議員(漆原良夫君) 合議体を構成する裁判官と医師である精神保健審判員は、共同して個々の対象者について対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められるか否かを判断することになるわけでございますけれども、具体的には、例えば対象者が有する精神障害が治療可能性のないものである場合や、あるいは対象行為を行った際と同様の症状が再発する具体的、現実的な可能性がない場合には、その精神障害を改善するためにこの法律による医療が必要であるわけでもなく、また、その精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要であるわけでもありませんので、入院や通院の決定は行われないということになります。
 このように、この法律による処遇の要否、内容の決定に当たっては、個々の対象者についてその精神障害の医療の可能性、必要性やその精神障害のために社会復帰の障害となる同様の行為を行う具体的、現実的な可能性の有無を判断する必要がありますことから、裁判官は主に対象行為の内容、当時の精神状態等を考慮しつつ、精神科医による鑑定結果の合理性、妥当性の有無を吟味するとともに、本人の症状はもとより、対象行為の内容や当時の精神状態、更にはその生活環境に照らし、治療の継続が確保されるかどうか、あるいは同様の行為を行うことなく社会に復帰することができるような状況にあるかどうかといった点を勘案した上、医師である精神保健審判員と十分に協議しながら処遇の要否、内容を判断することになります。
 また、精神保健審判員は、主に、例えば精神科医による鑑定結果の医学的合理性、妥当性の有無を吟味するとともに、自らも対象者の精神障害の類型、病状、生活環境等を踏まえてその精神障害者の病状の推移、対象行為を行った際と同様の病状が再発する可能性の有無等を考慮し、裁判官と十分に協議しながら処遇の要否、内容を判断することになります。
 このように、本制度におきましては裁判官と精神保健審判員がそれぞれにその専門性を生かしながら様々な事柄を考慮し、また相互に十分に協議することによりまして、最も適切な処遇を共同して決定するということとしているところでございます。
浜四津敏子君 ただいまのお答えでは、裁判官の判断に当たっては、主に、例えば精神科医による鑑定結果の合理性、妥当性の有無を吟味するとともに、本人の病状、またそれに加えてその生活環境に照らし治療の継続が確保されるか否か、また同様の行為を行うことなく社会に復帰することができるような状況にあるか否かといった事柄をも考慮するというお答えでしたが、少し具体的な例を挙げて御説明いただけないでしょうか。
衆議院議員(漆原良夫君) 二点についての具体例を示せという御質問でございますので、例えば身近に適当な看護者がおりまして、本人を病院に通院させたり、あるいは定期的に服薬をさせるということが見込まれるような場合には、これは治療の継続が確保されるであろうというふうに考えるところであります。
 また、もう一方の例は、例えば常に身近に十分な看護能力を有する家族がいらっしゃると。仮に、本人の病状が悪化して問題行動に及びそうになった場合に、直ちに適切に対処することが見込まれるような場合には、同様の行為を行うことなく社会に復帰することができるような状況にあるであろうというふうに考えております。
浜四津敏子君 それでは次に、指定医療機関における医療についてお伺いいたします。
 指定入院医療機関における具体的な治療の内容としては、厚生労働省はどのようなことを想定しておられるのでしょうか、お答えください。
○政府参考人(上田茂君) 本制度において国の責任の下、指定医療機関で行う医療につきましては、患者の精神障害の特性に応じ、その円滑な社会復帰を促進するために必要な医療であります。
 このため、指定入院医療機関におきましては、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医療関係者の配置を手厚くすることなどにより、医療施設や設備が十分整った病棟において、高度な技術を持つ多くのスタッフが頻繁な評価や治療を実施するものでありまして、また医療費につきましても、患者本人が負担することなく全額を国が負担することとされており、一般の医療機関に比べ手厚い精神医療を行うものであります。
 また、附則第三条第一項の修正案に示されていますように、本制度は最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものとすることとしておりますので、例えば欧米諸国の司法精神医療機関で広く実施されております精神療法を導入するなど、高度かつ専門的な精神医療を行うこととしております。
浜四津敏子君 指定入院医療機関においては、手厚い専門的な医療が確実に行われるということが大変重要になってまいります。そのために、例えばその人員配置基準についても、司法精神医学が進んでいる諸外国の例も参考にしながら決めていくことが必要であると考えておりますが、諸外国の同様の施設における人員の配置がどのようになっているのか、厚生労働省は把握しておられますでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) 指定入院医療機関における具体的な人員配置基準につきましては、現在、私ども検討を行っているところでございますが、ただいま委員から御指摘ございましたように、司法精神医学が確立し、手厚い医療を実施しております諸外国の例も参考としつつ、今後適切な配置基準を定めることとしております。
 そこで、外国の例として一つ御紹介申し上げますと、例えばイギリスの地域保安病棟リージョナル・セキュア・ユニット、ここにおきましては、このユニットに入院患者二十五名が定員でございまして、こういった患者さんに対し医師が四名、看護職員が日勤で八名、準夜勤で八名、深夜勤では六名、さらに精神保健福祉士二名、臨床心理技術者二名、作業療法士二名、このような専門職種が、スタッフが配置されているということを聞いております。
浜四津敏子君 それでは、指定通院医療機関についてはどういう考え方に基づいて指定を行うつもりなのか、厚生労働省にお伺いします。
○政府参考人(上田茂君) 本法案における通院医療につきましては、それぞれの対象者にとって社会復帰を図るにふさわしい居住地あるいは環境において医療が行われるということが適当であるというふうに考えられます。
 このため、指定通院医療機関の指定につきましては、一定の資質を有する医師が診療に当たっていることとするほか、居住地からの通院が可能となるよう民間の診療所等も含めて幅広く指定することを考えております。
浜四津敏子君 これは修正案の提案者にお伺いいたしますが、指定医療機関における医療については第八十一条の修正によりましてその性格がより明確に的確に示す表現ぶりになったと理解しておりますが、この八十一条の修正をすることとした趣旨をお伺いいたします。
衆議院議員(漆原良夫君) 政府案に対しましては、この法律による医療の内容が不明確だという批判がなされておりました。
 そこで、修正案におきましては、これらの批判をも踏まえて、本制度により厚生労働大臣が責任を持って行う医療が患者の精神障害の特性に応じたものであり、また本人の円滑な社会復帰を促進するために行われるものであることを明確にすることによりまして、本制度による医療が正に本法案の最終的な目的である本人の社会復帰の促進のために行われるものであることを法文上も明確にしたというところでございます。
浜四津敏子君 それでは次に、地域社会における処遇についてお伺いいたします。
 今回の制度を実効性あるものにするためには、通院患者の処遇に携わる保護観察所において十分な体制を整える必要があると思われますが、どのように体制整備を行うつもりなのか、法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(津田賛平君) お答え申し上げます。
 委員御指摘のように、新たな処遇制度が円滑に実施されますことが、円滑に実施されますような十分な体制が整備されることが必要でございます。
 そこで、平成十五年度の予算におきまして、精神保健福祉士の有資格者など精神保健及び精神障害者福祉等の専門的な知識を有する社会復帰調整官につきまして五十六名の新規配置が認められまして、全国の各保護観察所に配置することといたしております。
 それに加えまして、社会復帰調整官が地域社会におきまして処遇のコーディネーターとして指定通院医療機関や保健所、社会復帰施設等の関係機関と緊密な連携を確保するとともに、協力体制を整備いたしまして、通院患者等の円滑な社会復帰を図ることといたしております。
浜四津敏子君 平成十五年度予算において保護観察所の体制整備に要する経費の内容についてお伺いいたします。また、それで十分と考えておられるのかを法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(津田賛平君) 新たな処遇制度が円滑に実施されますよう、平成十五年度の予算におきましては、先ほど申し上げましたように、五十六名の社会復帰調整官の新規配置が認められておりますが、このほか、これらの職員に対します必要な研修でございますとか、事件処理体制の整備に関する経費が認められております。
 これら五十六名の社会復帰調整官の新規配置を含む平成十五年度予算の計上された経費等につきましては新たな処遇制度の立ち上げのために要する経費でございまして、本件本格施行に当たりましては、これに対応するために必要となる社会復帰調整官のほか、必要な経費の確保に努めてまいりたいと考えております。
浜四津敏子君 現在の保護観察制度は、その多くを地域や民間の篤志家の方々の協力や援助によって支えられております。
 今回、本制度によりまして、保護観察所が処遇にかかわるということになるわけですが、触法精神障害者の処遇を行うことによって保護観察対象者の更生に理解を示してきたこうした方々や団体が距離を置いたり、あるいは保護観察の一方の主体である保護司の確保も困難になるのではないかという危惧が指摘されておりますが、こうした更生・保護行政そのものがゆがめられていくおそれがあるのではないかという批判に対してはどのようにお考えでしょうか。
○政府参考人(津田賛平君) 保護司の方々につきましては、本制度において必要とされますような専門的知識でございますとかあるいは経験を有する方というのはほとんどおられないというのが実情でございまして、このような保護司の方々に対しましてこの制度におきますような処遇に直接関与していただくということは適当でないと、このように考えております。
 この制度におきます精神保健観察は、観察の内容からいたしましても、また地域の精神保健関係者等の協力を得て実施することが不可欠であるということからいたしましても、精神保健について知識を有する者がその調整に当たることが必要で、その知識を有する専門的な職種でございます、先ほど申しました社会復帰調整官を全国の保護観察所に配置することが必要であると、このように考えております。
浜四津敏子君 その社会復帰調整官ですが、どの程度の人員が必要と考えておられるんでしょうか。
○政府参考人(津田賛平君) 社会復帰調整官につきましては、平成十五年度予算におきまして、先ほど申しましたような五十六名の新規配置が認められております。
 これは、言わば組織の立ち上げとして必要な人員として認められたものでございまして、今後、平成十六年度以降におきましては本格的にこの制度が運用されていくことになりますので、それに応じた所要の人員を確保していきたいと、このように考えております。
浜四津敏子君 衆議院における修正後の法案第二十条第三項において、「社会復帰調整官は、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者」とされておりまして、具体的にそれを政令で定めるということになっております。
 どのような具体的職種又は経験を有する者を想定しているのかを法務省にお伺いいたします。
○政府参考人(津田賛平君) お答え申し上げます。
 保護観察所が担うこととなります事務を適切に処理いたしますためには、精神保健福祉士の資格を持っておられる方など、精神保健や精神障害者福祉に関する専門的な知識を持っておられる方がこれに当たることが必要でございます。
 具体的な職種、経験といたしましては、精神病院や精神障害者復帰施設などにおきまして精神障害者に対する相談でございますとか援助などの業務に従事した御経験を有しておられる方などをこれに充てたいというふうに想定しております。
浜四津敏子君 それでは最後に、一般の精神医療の保健福祉の向上についてお伺いいたします。
 まず、修正案の提案者にお伺いいたしますが、我が国の精神障害者施策の底上げを図る意味で、修正案によって附則第三条の特に第二項及び第三項が追加されたことの意義は大変大きいものと考えております。どういう意図からこの附則第三条を設けることとしたのかを提案者にお伺いいたします。
衆議院議員(漆原良夫君) これについて、我が国の精神保健医療福祉対策は、他の先進諸国に比べても、また我が国における他の障害者対策に比べても大変後れているという認識を持っております。
 この点は、与党のプロジェクトチームの中でも議論をされ指摘をされました。また、医療福祉関係者においても、本法案の対象者だけじゃなくて、これと併せて精神障害者一般に対する精神医療、福祉等の底上げを図るべきだという声も大変強いものがありました。
 そこで、この点を放置したまま心神喪失者の、心神喪失者等のみを対象とした本法案を成立させることは画竜点睛を欠くものではないかというふうに考えて、この点に関する政府の責務をこの法律に明記することとしたわけでございます。
浜四津敏子君 それでは、厚生労働省にお伺いいたしますが、今説明のありました附則第三条の実効性をどのように確保していかれる予定でしょうか。
○政府参考人(上田茂君) 衆議院における修正によりまして一般の精神保健医療福祉対策の底上げを図る旨が追加されました趣旨につきましては、国会からの要請としてこれを重く受け止めているところでございます。
 この実現のために具体的な取組といたしまして、第二項に挙げられました精神病床の機能分化等について検討するため、精神病床等に関する検討会を近々発足させるべく準備を進めているところでございます。
 また、第三項に挙げられました精神障害者社会復帰施設の確保につきましては、今年度からの新しい障害者プランに整備目標を盛り込むこと等を行っているところであります。
 また、精神保健医療福祉の改善に向けた取組を総合的かつ具体的に推進していくために、厚生労働大臣を本部長とする精神保健福祉対策本部において省を挙げて検討を進めているところでありまして、この結果を踏まえ、更に積極的な施策を実施していくことを考えているところでございます。
浜四津敏子君 それでは次に、社会的入院についてお伺いいたします。
 社会的入院者が約七万二千人とも言われております。その解消が急務でございますけれども、こうした社会的入院を生む原因というのはどこにあると考えておられるのか、また社会的入院者の解消に向けてどのように取り組むおつもりなのか。また、こうした社会的入院を十年間掛けて解消するということでございますけれども、最終的に精神病床の適正な配置のために全体の八割以上を占める民間精神病床をどう誘導していくのか、そのための財政的な裏付けはどうするのかについて厚生労働省にお伺いいたします。
○政府参考人(上田茂君) 社会的入院に至る背景は個々の患者によりまして様々でございますが、一般的に幾つか挙げられますが、退院して地域生活を行おうとする際に、住まいの確保ですとか、あるいは家事等の日常生活を送る上で困難があること、あるいは退院後に通院や服薬を中断し病状悪化を来すおそれがあること、あるいは家族等の協力が得られないこと、このように、退院後の生活を営む上での不安ですとか困難があることが指摘されております。また、諸外国に比べて精神病床数が多いこと、あるいは入院中に患者本人に対するリハビリテーションですとか、あるいは早期退院に向けた家族等への働き掛け、相談、指導等が十分に行われていないなど、医療機関における問題点もあること、あるいは退院後の住まい、また福祉サービスといった地域での受皿が不十分であること、こういった問題があると挙げられるところでございます。
 したがいまして、こういった点を改善し、今後十年のうちに約七万二千の退院、社会復帰を進めていくために、ホームヘルプサービスなど、在宅生活を支援する福祉サービスの充実、あるいはグループホームなどの確保、また社会復帰施設の整備ですとか、また地域住民の理解の促進、こういうことに取り組んでいくこととしております。
 また、こういうことを進めると同時に、今後、急性期医療の充実による入院期間の短縮ですとか、あるいは社会復帰施設の充実等による退院促進等々、こういう、取り組むことによりまして入院患者数の減少を促進し、ひいては精神病床数の減少を促したいというふうに考えているところでございます。
 一方、民間精神病院を始めとする精神病院にとりましては、精神病床を減少させることに伴いまして、そこに働いておられる医師ですとか看護師のスタッフを手厚い人員配置を必要とする急性期病棟ですとか専門病棟へ再配置するとか、あるいは地域ケアを行うスタッフとして活用することなどを通じて、より良い精神医療を実現することが可能になるものでございますので、このような病院の取組を促進する方策も必要というふうに考えているところでございます。
浜四津敏子君 それでは最後に、厚生労働副大臣にお伺いいたします。
 日本の精神医療の現実としまして、先進国では例を見ない我が国独特の特殊事情が幾つかあると言われております。例えば、日本の精神病院の八割以上が私立であって三十万人以上の入院患者を抱えているという現状、あるいは私立の精神病院は医師一人当たりの入院患者数が一般病院の十六人に対して三倍の四十八人まで許容されるという精神科特例の下で大量の患者さんを入院させることにより経営を成り立たせてきたという事実、また受入先がないという理由で入院させられている社会的入院の患者さんが七万人以上と言われている事実、こうした点はいずれも我が国の特殊事情と言われてまいりました。
 また、世界の精神医療は入院中心主義から地域精神医療へと大きく動いてきております。例えば、イタリアの北東部にあるトリエステという県では、一九七八年以降、入院治療を廃止いたしまして、地域精神医療の徹底のために行政、医療関係者、地域住民が協力し合うことといたしました。その結果、この地域における精神障害者の事件発生件数が、入院治療を廃止する前には一年間で十五人であったのが、最近の十年間では総数で四人と激減したことが明らかになっております。時として起こる不幸な事件、とりわけ初めての事件を防ぐには精神医療の改善、充実こそが重要であるということをこのトリエステの実践が証明していると言えると思います。
 我が国においても地域精神医療の充実にもっと取り組むべきと思いますが、厚生労働副大臣の御見解をお伺いいたします。
副大臣木村義雄君) 浜四津委員の御質問にお答えを申し上げさせていただきます。
 我が国の精神医療は、御指摘のように、まず精神病床数が非常に多いわけでございまして、三十五万床弱でございます。中には、ベッド一個一個じゃありませんで、畳の上にまくらを並べているというような現実もございます。それから、長期入院が多いということ。二十年以上の入院患者さんが一五%ございます。五年以上ということになりますと約四五%ぐらいがおいでになるわけでございまして、非常に長期入院が多い。御指摘ごもっともでございまして、入院中心であり、相談支援や地域での受皿の不足など、地域の精神保健医療の福祉体制が非常に不十分でございます。
 なかなかやっぱり、何というんですか、最近は都会でも大分出てきて、ビルの中に精神医療の診療所があって気楽に相談に行けるようなのも出てまいりましたけれども、まだまだ地方ではそういう場面が少なく、何か精神病院には行きにくいというような現状もあるようでございまして、そういうのをまず直していかなきゃいけないとか、それから病床機能が未分化と、こういうような問題点が指摘されているところでございます。
 そこで、昨年十二月に公表されました社会保障審議会障害者部会の報告書におきましても、このような指摘を踏まえまして、これまでの入院医療主体から地域における保健医療福祉を中心とした在り方に転換をすることを基本的な考え方として今後進めるための施策が提言をされたところでございます。
 つまり、先生がおっしゃったような、入院からやっぱり地域に持ってもらおうと。しかし、直ちにこれ、やはり戻すわけにもいきませんで、それは受皿がなきゃいけないわけでございますし、直ちに元の住んでいた家庭に入っていただく、戻っていただくということもなかなか不可能な、家庭の事情によって不可能なケースも多々あるわけでございます。
 そこで、そういうことも含めまして、こういうような施策を着実に推進していくために、厚生労働省におきまして坂口厚生労働大臣を本部長といたします精神保健福祉対策本部を設置いたしました。そして、省を挙げて検討を進めているところでございますが、そこでは、精神科プライマリーケアの充実、つまりもっともっと身近に精神科の先生方に接し、相談できるような、そういうことも重点を置いていこうとか、精神科救急医療体制の全国的整備、救急医療体制におきましても整備を着実に進めていこうとか、地域における精神医療体制の充実を図ることを主要な検討項目の一つの柱として今後しっかりと検討をさせていただき、身近な地域での適切な精神医療が受けられるよう体制の確立を図ってまいりたいと、このように思っているような次第でございます。
浜四津敏子君 ありがとうございました。
 以上で終わります。