心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その44)

前回(id:kokekokko:20060208)のつづき。
前回にひきつづき、法務委員会での質疑です。
【井上委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第10号(同)
井上哲士君 日本共産党井上哲士です。
 治療が中断をしたり適切な治療が受けられないというなどの事情で精神障害が悪化した場合に時として起こる不幸な事件というのは、本人にとっても被害者にとっても重大な問題であります。
 日本共産党は、昨年の五月にこの問題で見解と提案を発表をいたしました。日本の精神医療が先進諸国と比べて極端に後れていることにやはり根本問題がある、地域ケアを本格的に進めて他害行為を行った精神障害者の医療や社会復帰を推進をする、そういう司法精神医療を前進させていかなくてはならないという指摘をいたしました。
 その観点から、一つは、逮捕、捜査段階での精神鑑定と治療を充実させること。二つは、入院治療を含む処遇の決定というのは、裁判官や医師に加え、福祉関係者なども関与する審判によって行うこと。三つ目は、医療処分の内容とその要件を適切に判定できるようにすること。四つ目は、医療や生活支援、社会復帰促進のための地域ケアの体制を確立すること。五つ目、遅れている我が国の精神保健医療福祉を抜本的に拡充すると、こういう政策を発表いたしました。
 そこで、今日はまず、修正案の附則三条にも書き込まれました精神医療全体の底上げの問題から御質問をいたします。
 重大な他害行為を行った精神障害者について、そもそもの地域医療、そして鑑定、更には戻っていく場合の地域医療の向上と、言わば入口から出口までの全体が改善をされませんと、結局どこかが隘路になって社会復帰に向けて機能しないと思います。重厚な医療を受けて症状が改善をしたとしても、結局、地域に受皿がなければ入院を続けざるを得ないという事態も起きるでしょうし、本法案は圧倒的多数と言われる初犯を防ぐということの中身もないという問題があります。全体の課題を明らかにしながら、何をいつまでにやるのか、明確にする必要があります。
 そこで、昨年の衆議院の議論の中でも、社会的入院患者約七万二千人の退院、社会復帰を遅くとも十年以内に行うと、こういうことも繰り返し答弁をされました。その中で、それについては新しい障害者プランに盛り込むんだということも答弁をされております。
 この新障害者プランについて聞きますが、まず精神施策の充実の中で、保健・医療という項目があります。精神救急、精神科の救急医療システムを全都道府県に整備をする、またうつ病対策などが挙げられているわけですけれども、いわゆる肝心の、非常に要望も強い例えば訪問看護を始めとした在宅医療サービスなどの地域医療の拡充ということがこの中には示されていないわけでありますが、この点はどういうふうに考えておられるんでしょうか、厚生労働省、お願いします。
○政府参考人(上田茂君) 精神障害者が地域で安心して生活するためには、在宅福祉サービスや施設サービスのみならず、病状の急激な悪化に対し迅速に適切な医療を受けられるような精神科救急医療の体制整備ですとか、あるいは休日、夜間等いつでも救急相談に適切に対応できる相談体制の整備、こういう体制を整備することによりまして地域医療の充実を図ることが重要だというふうに考えております。
 昨年十二月に取りまとめられました社会保障審議会障害部会の精神障害分会報告におきましても、地域医療の確保や精神科救急システムの確立の重要性について指摘がなされているところでございます。そして、これを受けまして、新しい障害者プランにおきましても、精神科救急医療システムを全都道府県に整備することを目標としているところでございまして、そういう意味で、地域医療の充実の方向性を明確にしているところでございます。
 現在、先ほど来御説明申し上げておりますが、精神保健福祉本部におきましても、このような地域ケアの充実について検討を進めているところでございます。
井上哲士君 衆議院参考人質疑でも、例えば訪問看護の充実ということなどが強調もされているわけですが、そういうことは考えておられないんですか。
○政府参考人(上田茂君) ですから、最後に申し上げました、現在、精神保健福祉本部におきまして地域ケアの充実ということにつきまして検討し、様々な地域での生活支援ですとかあるいは医療的なケアですとか、ことを含めまして現在検討を行っているところでございます。
井上哲士君 その中の一つだと確認をしておきますが、しかし、いずれにしてもこれからということになってしまいます。
 もう一つ、それでは、福祉について五年後の数値目標がこの新障害者プランで挙げられておりますが、まず在宅サービスについて四項目挙げられております。それぞれについて、現在の到達と五年後の整備目標はどういうふうになっているでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) 新しい新障害者プランにおきましては、重点施策の一つとして精神障害者の施策の充実が掲げられております。
 ただいま議員御質問の点につきまして御説明申し上げますと、まず精神障害者地域生活支援センターにつきましては、これは十四年度末の整備状況、見込みの数でございますが、これを、プランは五か年の整備目標でございますから十九年度の整備目標数を申し上げますと、四百か所を四百七十か所に、また精神障害者ホームヘルパーにつきましては千五百人を三千三百人に、また精神障害者グループホームにつきましては約五千二百人分を約一万二千人分に、また障害者福祉ホームにつきましては約二千九百人分を四千人分に、また精神障害者生活訓練施設につきましては約五千四百人分を六千七百人分に、また精神障害者通所授産施設につきましては約五千百人分を七千二百人分に目標を掲げているところでございます。
井上哲士君 関係者からはこのプランについて失望の声が上がっております。共同作業所全国連絡会の最近のものを見ておりますと、期待を大きく裏切るものだ、最大の問題点は新プランの数値目標が余りにも低く、実態を好転させるにはほど遠いと、こういう批判をされております。例えば、今も挙げられました施設から地域への移行の具体的手はずとなるグループホームですが、五千二百を一万二千ということですけれども、社会的入院者七万二千から見て焼け石に水だと、こういう批判もされております。
 十年間で七万二千人の社会的入院を解消するといいますと、五年でいいますとおおむね半分ということになるわけですが、こうした数値目標でこの十年間で解消ということの半ばが達成されると、こういうふうにお考えでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) 約七万二千人のいわゆる社会的入院者の退院、社会復帰を図るためには、住まいの確保ですとかあるいは生活訓練の実施あるいは居宅生活支援など、様々のニーズに応じましたサービスを提供する、提供がされる必要があるというふうに考えております。
 したがいまして、新障害者プランの目標値につきましては、こうした様々な社会的入院のニーズに十分対応することによりまして、地域生活への移行を実現することを見込んで設定したものでございます。
井上哲士君 で、その結果、この十年間で七万二千人の半ばが達成できると、こういう数値だと、こういうことでお考えですか。
○政府参考人(上田茂君) 退院先といたしまして、地域にグループホームですとか生活訓練施設、先ほど申し上げましたが、それぞれ整備目標を掲げて地域に受皿として整備するわけでございますが、一つその退院先として今申し上げましたような各種の施設と同時に言わば退院先として持ち家のある方もいらっしゃるわけでございます。したがいまして、施設の病院の方からグループホームへの退院あるいは自宅ですとかあるいは民間のアパートですとか、そういうようないろいろな流れが、受皿があるというふうに考えております。
 また、グループホームあるいは生活訓練施設、福祉ホーム等につきましては、これまでも退所実績を踏まえて、退所後にその施設からまた自宅ですとかアパートですとか、退所されるわけでございます。そうしますと、退所後に新たな入所が可能と見込まれるところでもございます。したがいまして、こういった受皿、もちろんこういった施設と同時にホームヘルプですとか各種の福祉サービス、また在宅ケア等々を総合的に取り組むことによりまして社会復帰あるいは退院を進めていきたいというふうに考えております。
 また、今後の退院の状況ですとか、あるいは現在、精神障害者ニーズ調査を行っているところでございますが、こういった結果を踏まえ、必要なサービスの充実に今後とも努めてまいりたいというふうに考えております。
井上哲士君 目標に見合うかという御答弁はないわけですが、きょうされんの調査でも、一か所もグループホームが設置されていない市町村というのが依然として二千三百六十五自治体、七三%あると、ですから基準どおり、目標どおり整備をされていったとしても有効値からほど遠いというのが関係者の指摘なわけですね。
 一方、お聞きしますけれども、保健所の数というのはどういうふうなんでしょうか。平成七年、十四年、そして五年後、十九年、どうなるでしょうか。
○政府参考人(高原亮治君) 保健所の数でございますが、平成七年及び平成十四年におきます保健所数でございますが、平成七年が八百四十五か所、平成、失礼いたしました、平成七年が八百四十五か所、平成十四年が五百八十二か所ということで二百六十三か所減となっております。平成六年に施行されました地域保健法におきまして、保健所は地域保健の専門的、広域的、技術的拠点として位置付けられる一方、市町村は住民の身近な保健サービスを実施する主体として位置付けられたところでございます。
 こうした役割分担の下で、市町村保健センターの設置など体制整備を通じまして着実に地域保健対策の基盤整備が図られておりまして、例えば市町村保健センターは平成七年から平成十四年の八年間で四百十一か所増加しております。平成十九年におきます保健所数の推移につきましてでございますが、この保健所の設置につきましては設置主体である地方自治体の御判断ということになっておりまして、国の方で予測することは困難でございます。
 いずれにいたしましても、地域保健を充実させるために保健所及び市町村保健センター、そしてマンパワーを充実させるということが極めて重要なことでございまして、地方自治体の御理解をいただきましてなお一層の充実に努めてまいりたいと考えております。
井上哲士君 衆議院での例えば保護局長の答弁を見ておりますと、地域社会で精神障害者に対する援助業務を担っている保健所等の関係機関とも連携しつつと、この保健所の役割というのは非常に言われておりますし、先ほど来ありましたこの社会保障審議会の障害者部会の分会報告書の中でも名前を挙げてこの保健所のことも言われているわけです。今、広域化とかいろいろな分業化ということが言われましたけれども、やはり身近なところにこれがあるということは大変、とりわけ障害者の方にとっては大きいわけですね。
 ですから、障害者プランで五年後の整備の数値目標が出されておりますけれども、これは関係者から大変不十分だという批判が強い。そして、一方でこの地域保健医療の中で大きな役割を果たしてきた保健所は三割減らされてきている。結局、やはりこの計画ではこの十年後七万二千人の復帰ということの姿というのは見えてきません。結局、今の制度で、仮に新しく作られた制度で指定入院機関での医療効果が上がったとしても、結局、地域における現在も七万二千人の人が社会的入院をせざるを得ないというこの困難な状況というのが解決されない限り、そこでやっぱり隘路になってしまって入院が解除できない、閉じ込めになってしまうんじゃないかという多くの皆さんのこの懸念が払拭をされないわけです。この問題はやはり抜本的な改善を同時に進めるということが非常に必要だということであります。
 もう一点、社会復帰という点で重要なのが刑務所内での精神医療でありますが、現在の受刑者の中でいわゆる精神に障害があるという方は何人ということになっていますでしょうか。
○政府参考人(横田尤孝君) お答えいたします。
 精神障害を有する受刑者、これは収容分類でM級というふうに言っておりますけれども、そのM級の受刑者の中で医療を主として行う施設に収容する必要がある者、言わば入院患者というふうに考えてよろしいかと思いますが、そういう収容分類に基づいて収容されている者は、平成十四年十二月末日現在の数字でございますけれども、合計四百二十二名ございます。で、同じ日の受刑者総数は五万六千九百五十九名でございますので、これに占める今申し上げた意味でのM級受刑者の割合は〇・七%に当たります。
 以上です。
井上哲士君 そういう精神障害などを持たれた受刑者が出所後再び入所してくる、こういう割合はどういうふうになっているでしょうか。
○政府参考人(横田尤孝君) お答え申し上げます。
 法務省が発行しております矯正統計年報というものがございますが、これによりますと平成九年に出所した、先ほど申し上げたM級受刑者の百八十人ですね、出所した百八十人のうち平成十三年までの五年の間、出所してから五年たつ間に再び行刑施設に入所した者は百一人で、その比率は再入率という言葉を使いますと約五六%になっております。これは今、出てから五年の間に再入所した者の比率でございますけれども、同様に四年、出てから四年の統計を見ますと、この者の比率が平成十三年までのが五八%、それから次は三年で見たものが三八%、二年で見たものが三八%、それから一年で見たもの、これが一三%になっております。
 以上です。
井上哲士君 五年で六割近い方が再入所という数であります。一年目は措置入院されている方もいらっしゃるかと思うんですが、やはりこの数字から見えますのは、地域に帰りますと本当にいろんな困難がある、仕事の場合、問題、住まいの問題、医療の問題、こういう中で不幸にもまた事件を犯して入所されるという方のその姿が、非常に困難な姿が見えてくるわけですね。重大な他害行為を行った精神障害者で、責任能力ありということで刑務所に入りますとまともな今精神医療というのが受けられないわけですね。受けられないどころか、この間、刑務所問題で明らかになっていますように、逆に保護房に収容をされたり虐待を受けるという中で、むしろ病状が悪化をするという場合が様々浮かび上がっております。精神科の治療を受けている受刑者を保護房に収容する際は診察を受けるということになっておりますが、それでも保護房に収容されて死亡したというあの府中の事件もあるわけです。
 ですから、同じような重大な他害行為を行っても、責任能力ありと、こうなった人たちにはおよそまともな精神医療が行われない、ないと判断をされた場合には手厚い医療を施すということは、一体どうなんだろうかと。医療関係者からは、ほとんど受刑している意味のない、刑罰の意味すら理解していない人も刑務所、医療刑務所にいると、こういうような発言も行われております。
 今回の修正で、社会に復帰できるよう配慮することが必要な人に医療を、手厚い医療を施すんだということが言われたことからいいますと、それは、やっぱり社会復帰への配慮という点でいいますと、刑務所に入っていらっしゃる精神障害を持っていらっしゃる人々の医療ということも同じようにされるべきだと思うんですね。こういう差が付けられる、刑務所内のやはり精神医療の抜本的向上というものを併せて出すべきだと思うんですが、その点、大臣、いかがでしょうか。
国務大臣森山眞弓君) 刑務所におきましては刑の執行機関という枠組みがございますので、その中で受刑者の健康を回復させ、心身ともに健全な状態での社会復帰を図るということを目的といたしまして、医療体制を整え、近隣の医療機関等の御協力を得ながら、できる限りその充実に努めるということが重要であると考えております。そのようなことから、医療刑務所などを中心に精神科医を配置いたしまして、精神疾患者に対する適切な医療の実施に努めているところでございますが、刑務所の医療体制の充実につきましては、医師の確保を始めとして難しい問題が多うございます。
 先生御指摘のようにいろんな問題がございますので、行刑改革会議の御論議等を踏まえまして、これまでにも増して精神科医療を向上させることによりまして精神障害を有する受刑者の社会復帰につなげるよう鋭意努めてまいりたいと考えております。
井上哲士君 本当に重大な問題ですので、早急にこの向上を図っていくことを改めて強く要望をいたします。
 最後に、審判の在り方と合議体について修正案提案者にお聞きをいたし──あっ、その前に法務省にお聞きをします。
 合議体で意見の一致を見なかったという場合は一致した範囲で裁判をするということでありますが、この衆議院の答弁でも、また調査室の参考資料でも、いわゆる入院決定の際の例が出されております。片方が入院決定、片方が例えば通院であれば通院に合わすんだと、こういうことなんですが、この退院とか医療終了の申立ての決定の場合は一致した方に合わすというのは、一致した中身でやるというのは、要するに現状維持になるんではないか、こういう懸念が出されているわけですが、退院の許可、医療の申立ての決定の場合、一致を見なかった場合にはどういう動き方をするんでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 裁判官と精神保健審判員の意見の一致したところによるということは、合議体としての意思決定は裁判官と精神保健審判員との一致した意見に従ってなされるという意味でございまして、仮に意見が一致しない場合には意見の一致する範囲で裁判をすることということになります。
 したがいまして、例えば退院の許可の申立てがなされた場合におきまして、最終的に一人が入院継続の意見、もう一人がこの法律による医療を終了させるのが相当であるとの意見となった場合には、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があることについての意見が一致せず、第五十一条第一項第三号の「前二号の場合に当たらない」ということになりますので、この法律による医療を終了する旨の決定をすることとなります。
 また、この法律による医療の終了の申立てがなされた場合におきまして、最終的に一人が通院継続の意見、もう一人がこの法律による医療を終了させるのが相当であるとの意見となった場合にも、この法律による医療を受けさせる必要があることについての意見が一致せず、第五十六条第一項第二号の「前号の場合に当たらない」ということになりますので、この法律による医療を終了する旨の決定をするということになります。
井上哲士君 はい、分かりました。
 次に、修正案提案者にお聞きをいたしますが、衆議院での答弁では、この対象にならない場合として自傷他害のおそれもないような場合というのを挙げまして、さらに政府案として狭まったとして、対象者の精神障害の治療可能性がない場合、それからこの法律による手厚い医療まで特に必要としない場合、漠然とした危険性、再犯のおそれにすぎない場合、対象者に十分な看護者がいるなど、その生活環境にかんがみて社会復帰の妨げとならないと認められる場合と、大体この四つのことを挙げられておりますが、ちょっと午前中との議論の関係ですが、自傷他害のおそれということは、がない場合は対象にならないということは、自傷他害のおそれがあるということは言わば判断、その前提になると、こういうことになるわけですね。合議体はこれを判断をするということですね、自傷他害のおそれを。
衆議院議員塩崎恭久君) この法律に基づいて自傷他害のおそれがある、ないという話は、判断はいたしません。
井上哲士君 そうすると、自傷他害のおそれもないような場合は対象にならないという答弁が衆議院でありましたが、このないという判断はどこでだれがするんですか。
衆議院議員塩崎恭久君) そもそもこの修正案の要件は、今朝から繰り返し申し上げておりますけれども、対象行為を行った際の精神障害を改善するためにこの法律による医療が必要と認められるものに限ること、そして二つ目に、このような医療の必要性が認められるものの中でも精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要なものだけが対象になることを明確にすることによって、本制度の目的に即した限定的なものとしたわけでございます。
 したがって、修正案では、御指摘のように、例えば治療可能性のないもの、先ほどお話ありましたが、衆議院でも答弁したとおり、単に漠然とした危険性のようなものが感じられるにすぎないような場合であっても対象行為を行った際と同様の症状が再発する具体的、現実的な可能性のないようなものには本制度による処遇は行われないこととなると。しかしながら、御指摘の事例は、のような修正案の要件に該当しないものを例示的に四つ向こうで挙げたわけでありまして、入院等の決定は処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が個々の事件に応じて判断するわけであります。
 修正案の要件に該当しないものを具体的かつ網羅的に挙げることは非常に困難でありますが、先ほどお尋ねの自傷他害のおそれのあるものという範疇の中に当然、今回のこの法律の医療を、手厚い医療を施す必要が社会復帰を促すためにあるという人たちがその中には入っている。しかし、それは、重なり方はかなり違うというふうに考えるべきだと思います。
井上哲士君 その自傷他害のおそれがある、ないような人は、しかしこの医療を受ける必要がないという判断をどこかで、だからこの対象者が自傷他害のおそれがあるんだという判断はどこかでしなければそもそも審判の対象にならないんじゃないですか。
衆議院議員塩崎恭久君) 先ほど申し上げたように、元々今回の修正をするに当たって一番問題になったのが、再び対象行為を行うおそれがあるかどうかということを判断をするというところが最大の争点になって、いわゆる再犯のおそれというように疑いを掛けられたというところでございまして、そこのところを先ほど申し上げたような要件に変えたということであって、その要件を判断をするということで自傷他害のおそれがあるかないかということを判断するというのはこの法律の枠組みでの要件には当たらないというふうに思います。
○委員長(魚住裕一郎君) 時間が超過しておりますから。
井上哲士君 時間が来ましたので。大変、疑問がかえって膨らみました。この問題は次にまた質問をしたいと思います。
 以上です。

【平野委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第10号(同)
平野貞夫君 私は自由党という政党に所属しておりますが、衆議院で政府案を修正議決して参議院に送ってくる際に私の所属している自由党というのは賛成をしております。しかし、今朝から各委員の皆さんのお話を聞いていますと、これでよかったのかなという非常に深刻な思いをしております。
 ただ、私は全く素人でございまして、こういった専門的なことについて先生方のように突っ込んだ質問をする能力を持っておりません。素朴で極めて素人の質問をいたしますので、軽蔑しないようにひとつ答弁をしていただきたいと思います。
 まず、ということでございますので、法務省の方たちはもう去年から何回も答弁していると思いますが、この政府案の提案の目的、それからこれでどういう効果を期待しようとしているのか、これを素人に分かりやすく説明していただきたいと思いますが。
国務大臣森山眞弓君) 私も素人でございますので、できるだけ分かりやすく御説明したいと思います。
 心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生じるだけではなくて、精神障害を有する者がその病状のために加害者となるという点でも極めて不幸な事態でございます。また、このような者は精神障害を有していることに加えて、重大な他害行為を犯したという言わば二重のハンディキャップを背負っているということになるわけでございまして、このような者が有する精神障害は、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられるわけでございます。また、仮にそのような精神障害が改善されないまま再び同じような行為が行われることになりますと本人の社会復帰の重大な障害となることからも、やはり医療を確保することが必要不可欠であるというふうに考えられます。
 そこで、このような者に対して継続的かつ適切な医療の実施を確保するとともに、そのために必要な観察及び指導を行うことによりまして、その病状の改善と、これに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もって本人の社会復帰を促進することを目的としてこの法律案を提案させていただいたわけでございます。この法律案の成立によりまして対象者の社会復帰が一層促進されるものと期待しているわけでございます。
平野貞夫君 そうすると、この法律の目的というところをそのまま要約すれば、病状の改善と、それから同様の行為の再発の防止と、それから社会復帰の促進ということで法務省厚労省の共管ということだと思いますが、同様の行為の再発の防止というより、法務省だったら初めからこういう行為を防止することを目的とすべきだと思いますが、それはまあちょっとおきます。
 非常に私たち素人にとって悩ましいのは、有識者、しかも立派な人たちが、この法案に対しての評価は、真っ向から対立されているわけなんですね。そういうところが私たちも非常に判断をしにくいところなんでございますが、この法案を作る、それから提案する動機というものは何であったか、どういうところが、何が動機であるか。江田先生も議論なさっていましたが、例の池田小学校の事件ですか、あれがやはり動機になっているんですか。その辺、ざっくばらんな答弁をいただけないですかね。
国務大臣森山眞弓君) 江田先生にも御説明申し上げたかと思いますけれども、もう何年か前から、このような問題を何とか解決しなければいけないということは法務省の人々も、また関係の厚生労働省の方も意識しておりまして、しかしなかなか難しい問題だということでなかなか手が付かないままにしばらく経過いたしましたが、やはりいつまでもほってはおけないということで、例の事件が、池田小学校事件の起こる半年か一年ぐらい前から両省の関係者が集まりまして、問題の整理をしたり、どうすればいいかといういろんな方法の議論をしたりしておりました。それで、問題を整理してある程度分かってきたらそれをどのように政策に反映していくか、場合によっては法律を新しく作るとか改正をするとかいろんなことが必要であろうということを頭に置きながら勉強を少しずつしていたわけでございます。
 それをしばらくやっておりました後、一昨年の六月でしたか、池田小学校の事件が起こりまして、世間が非常にこのような問題について関心をお持ちになってきて、それが一つの大きなきっかけになって背中を押されるというような格好で、今まで、それまでやっていました勉強が、少し進めなきゃいけないという気持ちになってだんだんと形になってきたというのがこの法律案でございます。
平野貞夫君 法務省の公式な見解としては、池田小学校事件があったからこの法律を作ったのではないんだ、以前から勉強をしていたと、それが促進した材料にはなったと、こういうふうに理解してよろしゅうございますね。
 そこで、これ、政府参考人で結構なんですが、それじゃ池田小学校事件をめぐって、法務省あるいは検察側として、あの事件を通して反省をしているとか反省すべき問題があったんではないかという点についてはどうでございますか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 要は、大臣がお答えになっておりますように、その前からこういう心神喪失等で無罪になる、あるいは心神喪失で不起訴になった場合のその人たちに対する治療の問題というのは大事なことだということで検討を進めておったわけでございまして、池田小事件の場合には、当時、新聞ではいろいろと、起こった当時はいろいろ書かれておりますけれども、決して精神障害者による犯行というわけではありませんで、過去にそういう装ったことがあるという者の事件でございますから、そういう世の中でいろいろと、何といいますか、先生のお言葉をかりれば、後押しをするようなことになったことはあるでしょうけれども、このことでこの法案を作成、提案しようとしたわけではないということであります。
平野貞夫君 非常に大事な問題でして、私が判断してとやかく言うものではないと思いますが、例えばこの法律を高く評価しています東京医科歯科大学山上皓教授の読売新聞の論文によりますと、「大阪児童殺傷事件は、犯人が過去に事件を起こして不起訴、措置入院とされながら治療の功なく重大事件に至ったもので、我が国の触法精神障害者処遇制度の欠陥を露呈させる典型例となった。」、だからこの法案を成立させなきゃ駄目だ、成立すれば画期的な効果があるんだと、こういう論文を書いているんですが、こういう批判に対しては、これは私がする批判じゃないですよ、山上教授がする批判に対しては法務省としてはどういう御見解ですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) いろいろな立派な学者の先生方、有識者の方々がいろんな角度からいろんな御意見をされていることは承知しておりますけれども、とにかく、先ほど申しましたように、こういうような事態になった場合に本人の社会復帰の面と、それと被害に遭った方々がどういう感覚をお持ちなのかというような点も含めまして、こういう法律によってそこをカバーしていくといいますか、そういうことは大事だということで、法務省が提案した、厚労省と一緒になって提案をさせていただいたわけでございまして、それ、人それぞれの御評論、御批判に対して、私の方で何かとやかく言うことのものはないだろうと思っております。
平野貞夫君 いろいろ言いたいんですけれどもね、また改めて次の機会にいたします。総論的な物の考え方は分かったんですが、この問題また後日取り上げたいと思いますが。
 私は昭和三十年代の初期に法学部を出ているんですけれども、刑法の時間は一時間しか出ていませんので、ほとんど刑法を知りませんので、ちょっと刑法の解説をお願いしたいんですが、この法律の対象になっていますのは心神喪失とそれから心神耗弱ですか、と判断された者が対象者になっているわけですが、この心神喪失心神耗弱の語義といいますか、定義について教えてくれませんか。
○政府参考人(樋渡利秋君) この法律案に用いられております心神喪失心神耗弱といいますのは、刑法第三十九条第一項、第二項におけるそれらと同義でございまして、心神喪失といいますのは、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力がなく、又はこの弁識に従って行動する能力がない状態をいうとされております。また、心神耗弱とは、精神の障害によりこれらの能力が著しく減退した状態をいうというふうにされております。
平野貞夫君 そうしますと、この心神喪失心神耗弱というのは精神の障害というのが、精神障害者と言われる者が前提になっているわけですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) おっしゃるとおりでございます。
平野貞夫君 健常者が突然、心神喪失とか耗弱になる状況は理論的にはあるんじゃないですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 例えば、極端な酩酊とかそういうことをお指しになっているのかと思いますが、一過性の精神障害に陥るということはあるというふうに思っております。
平野貞夫君 そうすると、健常者が精神障害を一過性でも起こして精神喪失になると、こんな理解の仕方でよろしゅうございますか、その場合には。
○政府参考人(樋渡利秋君) そういうことでございまして、したがいましてこの法律の用語で言えば対象行為が行われたときにそういう一過性の精神障害に陥って心神喪失となった、なっていたということで無罪となりましても、それが終わればその病状はなくなっているわけでありますから、この医療行為は、この法律による医療行為は必要ないという判断になるだろうというふうに思います。
平野貞夫君 そうすると、やはり精神障害者があくまでも対象だということでございますね。
○政府参考人(樋渡利秋君) そのとおりでございます。
平野貞夫君 そもそも今、刑事局長が説明されたその心神喪失等の解釈というのは、これいつごろ解釈されたんですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 私、三十何年前に検事になったんでございますが、そのころから同じふうに教わっております。
平野貞夫君 調査室の資料によりますと、私が調べたわけじゃないんですが、この解釈は昭和六年十二月三日の大審院判例に基づくということなんですが、これ間違いないと思うんですが、となると、今の刑事局長の解釈というのは昭和六年の時代背景に基づく解釈じゃないかと思うんですよね。随分世の中が社会状況が変化しているんですが、いかがでございましょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 委員御指摘のように、昭和六年の大審院判例で、今先ほど私が説明申し上げたふうに、心神喪失心神耗弱とは言われておりますが、その大審院判例がそのときに出たと。そのときに問題にされて、そういう判断を示されたということでありまして、そのときに急に変わったわけではございませんでして、心神喪失心神耗弱という考え方は、恐らくその前から変わっていないだろうというふうに思います。
平野貞夫君 精神医学、専門家じゃないからそんなこと言っちゃいけませんが、それから特に心理学、そのベースになっている、心理学というのは物すごい変化をしておりまして、当然、私は、やっぱり二十一世紀現在のそういう心理学に基づく病状といいますか、状況の解釈というのは新しい見直しを私は必要だという意見を持っているんですが、この心神喪失心神耗弱かを決めるのは裁判所ですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 起訴をされておりますれば裁判所が判断することになりますし、いまだ起訴前の段階であれば、検察官が判断をいたしまして不起訴処分とすることもあります。
平野貞夫君 そうですね。起訴前にはそういう検察官があるわけですが、検察官は独自に判断するんですか。例えば、お医者さんの鑑定とか専門家の鑑定とかというのは、要件というのは必至なんですか、あるいは必至でないんですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 判断をしますのは、起訴前であれば検察官でありまして、起訴をされていれば裁判所でございますが、午前中来いろいろと御質問を受けておりますように、法律家にそれだけの一種の能力があるのかどうかということは別といたしましても、そういう判断をするためには、その別に要件じゃございませんが、お医者さんの意見は聞いて十分に尊重させていただいております。
平野貞夫君 あと一つ二つ、言葉の定義をお聞きしたいんですが、これは法律用語じゃないと思うんですが、私も去年からこの法律の触法、触法ということは一体何のことだろうと思って、実は最初は思っていたんですよ。最近は触法精神障害者なんていう言葉があるという。これは弁護士さんなんかは専門用語でしょうし、マスコミも使われておりますが、触法というのはどういう意味なんですかね。これは法律論じゃなくて常識論として。
○政府参考人(樋渡利秋君) おっしゃられるとおり、触法精神障害者というのは法令上の用語ではございません。
 触法といいますのは、これは例えば少年法の第三条第一項第二号に、「十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年」というのが審判の対象になるものとして掲げられております。要は、十四歳未満でありますから、犯罪責任能力がないということに刑法でなっております。したがいまして、犯罪を犯したことにはならないのでありますが、刑罰法令に触れる行為をすることはあるわけでございます。そういう刑罰法令に触れる行為をした少年というのを講学上、触法少年というふうに言っております。
 その伝で、恐らく一般的に刑罰法令に触れる行為をした精神障害者のことを指しているんだろうというふうに思われます。
平野貞夫君 私は、精神障害者という言葉も問題があると思うんですけれども、触法精神障害者という言葉、失礼だと思うんですよね。それは違法というなら別ですけれどもね。そんなことを言うなら、触法国会議員なんという言葉だってある、作ったっていいぐらいですよ、最近の様子を見れば。これは何か弁護士の先生方、弁護士会でも触法精神障害者という言葉、やめてもらいたいと思いますね。
 ところで、精神障害者という言葉は、これは法律用語ですわね。これは厚労省の専門家に答えてもらった方がいいと思いますが。
○政府参考人(上田茂君) 精神保健福祉法で第五条で定義がございまして、「この法律で「精神障害者」とは、精神分裂病、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」ということで、このように定義されております。
平野貞夫君 そうすると、精神障害者という言葉、これは病気という、いわゆる病状というか病気を持っている人という、そういう解釈していいですか。
○政府参考人(上田茂君) はい。精神分裂病ですとか、このような疾患、病気を持っている方ということでございます。
平野貞夫君 分かりました。
 ノーマライゼーションという言葉があります。たしか民主党の対案の朝日議員の提案理由の中に使われていると思いますが、このノーマライゼーションという言葉の意味は厚労省としてはどういうふうに定義していますか。
○政府参考人(上田茂君) 障害者基本計画でも、ノーマライゼーションという表現といいますか、よく使われておりますが、ノーマライゼーションの定義について申し上げますと、定義と申しますか内容について申し上げますと、障害者を特別視するものではなくて、障害を有していない方々と同様に一般の社会の中で普通の生活が送れるようなそういった条件を整えて、ともに生きる社会、そういう社会というものを、社会であるという考えで取り組むことをノーマライゼーションというふうに言われております。
平野貞夫君 となりますと、民主党の対案は、はっきりノーマライゼーションの理念をこの制度の中に入れたいということを明確にしているんですが、政府案は、社会復帰というのが目的ですので、ノーマライゼーションの理念はないと、こう理解してよろしいですね。
○政府参考人(上田茂君) ですから、社会復帰と申しますのは、そういった施設で、例えば施設での入院というんじゃなくて、やはり地域で一般の方と同じように社会生活を送るということですから、そういう意味で広い意味でのノーマライゼーションというふうなことだというふうに考えております。
平野貞夫君 政府案はノーマライゼーションの理念に基づいていると、こういうお答えですね。確認しますが。
○政府参考人(上田茂君) 先ほどノーマライゼーションと申し上げますのは、障害者の方も地域の中で生活できる、そういう条件を整備するというんですけれども、そういった支援というか支えということもノーマライゼーションの考え方だと思います。
 したがいまして、こういった障害者が地域へ社会復帰、退院していく、そしてそういう方たちが生活ができるような、先ほどから申し上げております地域ケアですとかいろんな生活支援ですとか、そういうことを進めていきながら社会復帰を図るということですので、そういう意味でノーマライゼーションという考え方に基づきながら取り組んでいるということでございます。
平野貞夫君 考え方に基づきながらという、なかなかうまい答弁をしたんですけれどもね。
 ノーマライゼーションというのは、障害者が健常者のいる社会で一緒に共生して生きていくということなんですよね。これ実は、国会で最初取り上げたのは、消費税導入するときの竹下総理の答弁にノーマライゼーションをこれからやるという、その理念を生かすということが、もう大分前の話なんですが。しかし、これはあれでしょう、病人に入院させて病気を改善させて健常者にして社会復帰させるというわけですから、厳密に言えば僕はノーマライゼーションの理念じゃないと思っていますが、これ以上の議論はしません。
 そこで、あと時間少ないですから基本的な質問をしたいと思いますが、私はそもそも精神病とか精神障害者という言葉が、もう変えるべきだと、おかしいと思うんですよ、これは明治時代に作った言葉ですがね。世間一般に精神障害者と言われている人たちの中で、立派な人、大変たくさんいますしね。それから、私は、どっちかというと、健常の人たちが見えないものを、理解できないものを理解する能力を持っている人たちが多いと思うんですよ。
 例えば、森田療法で有名な森田正馬博士は、これ、私、高知県の生まれで特に関心があるんですけれども、この方はやっぱり障害者だったんですよ。犬神つきといいまして、高知にはキツネつき、犬神つきと、まあ結局、俗に精神病と言われているのは物すごく歴史と伝統と環境と差別と、まあ神経系統の神経細胞が悪いとか脳細胞が病状があるというのは別にしまして、多くはそういう社会的に、あるいは歴史的に作られているんですよ。物すごい難しい問題があると思うんです。
 ここはもう質問じゃなくてもう予定時間までしゃべらせてもらいますが、例えばユング、彼はやっぱりうつ病でしたよね。それから、心理学者、有名な世界的な心理学者はほとんどそうですよ。それから、こういう天才に多いんですよね。ゲーテなんかもそうでしょう。
 だから、厚生大臣に言っておいてくださいよ。精神病という、あるいは精神障害者という言葉を変えなきゃ駄目だ。こういうものがあるから人権で差別したり妙なものができてくると思うんですよね。何かいい、いい言葉を使ってほしいと思うんですよ、この現代においては。
 そこで、私、最近読んでいる本に「「日本型うつ病社会」の構造」という本があるんです。ちょうどこの法案を審議するころ偶然見付けて読んでいるんですが、その中に、大臣も聞いていてくださいね、質問じゃありませんから。このプロローグに、「今日では病といえば、肉体的なことよりも心理的なことのほうが重大な問題と考えていいのではないだろうか。たとえば、大学で病気が原因で休学する学生の八割あるいは九割ちかくが精神衛生領域の疾患であるといわれる。つまり、ここでは病といえば肉体的なものよりも心理的なもののほうが数としては圧倒的に多い。」ということで、この加藤諦三さんという人は、現在の日本を分析を、心の病にかかっている日本人として、これを治さなきゃ不況は直らぬという本なんですが。
 そういう意味で、この法案と根っこに僕は関係があると思いますから申し上げるわけですが、精神障害者、あるいは精神病という、まずその定義の仕方、我々の日本社会での位置付け、もうちょっと現代化といいますか、新しい心理学を入れて、もうほとんどの人がそうなんですよ。私だって、小泉さんとかに予算委員会で質問するときには人格変わるんですから、一種の障害者になるわけですからね。
 そういう意味で、もうちょっとやっぱり根本的にこの精神障害という概念というものを変えてもらいたいということを要望して、今日は終わります。

【福島委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第10号(同)
福島瑞穂君 社民党福島瑞穂です。私も素朴にお聞きをしたいと思います。
 今日の答弁の中で、池田小学校事件が出てきました。それまで作業を続けていたが、池田小学校事件を重大なきっかけとして、促進材料になった旨の答弁がありました。これは全くもってひどいというふうに考えます。
 御存じのとおり、皆さんも答えられたとおり、池田小学校事件は精神障害者の事件ではありません。責任能力ありと認められ起訴されて、公判が現在行われております。とすると、重大なきっかけとなり、促進されたということであれば、むしろ今までこの法案の準備をしていて、池田小学校事件を奇貨として、国民の子供たちが亡くなったということに対する怒りや悲しみを利用して、この法案を違う方向で作っているのではないか。多くの人たちは池田小学校事件に本当に傷付いて、やはりこういう法案が準備されているのではないかと誤解をしているのではないでしょうか。
国務大臣森山眞弓君) いわゆる大阪の池田小学校事件につきましては、精神障害に起因する犯行ではないと考えられますけれども、法務省厚生労働省におきましては、この事件が起こる前から、先ほど申し上げましたように、精神障害により重大な他害行為を起こした者に対して適切な医療を確保するための方策やその処遇の在り方等について検討を行っていたわけでございます。
 この事件をきっかけとして、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について、精神医療界を含む国民各層から適切な施策が必要であるという御意見が高まったことや、与党プロジェクトチームでの調査検討結果等をも踏まえまして、今回、このような者の適切な処遇を確保するために、この法律案により新たな処遇制度を創設することにしたものでございます。
 また、御指摘のとおり、殺人等の重大な他害行為を行った者に限って本制度の対象とすることとしておりますが、これは、これらの行為がいずれも個人の生命、財産等に重大な被害を及ぼす行為でございまして、このような行為に及んだ者については特に継続的かつ適切な医療の確保を図ることが肝要でありまして、これにより、その病状の改善と、これに伴う同様の行為の再発の防止を図ることによって、その社会復帰を促進することが重要であると考えられるからでございます。
 もとより、一般の精神医療をより一層充実させるということはこの法案とともに極めて重要なものでございまして、この点については、衆議院における修正により、一般の精神医療等についてもその水準の向上等を図るべき政府の責務が明記されまして、また厚生労働省からもこれらに努めていくという御決意を伺っているところでございまして、この法案の成立とともにこのような施策の充実を図ることが、精神障害者がその精神障害のゆえに不幸な事態を引き起こすことを未然に防止することにもつながると考えたわけでございます。
福島瑞穂君 池田小学校事件がこの法律を促進する材料に全くならないにもかかわらず、重大なきっかけとなり、促進材料になったということを言っている点を問題にしているわけです。
 それから、この池田小学校事件の報道や様々な点から、いわゆる精神障害者の人たちに対する差別が非常に起きました。人権擁護を任務とする法務省においては、池田小学校事件はいわゆる精神障害者の問題ではないのだという、そういう啓発をこそ行うべきではなかったのでしょうか。
国務大臣森山眞弓君) ただいま私が申し上げましたように、この事件、池田小学校事件は精神障害に起因する犯行ではないと考えておりますけれども、報道、様々な報道が行われまして、それらを見聞きされました一般の方々が大変に大きな盛り上がりがありまして、何とか、精神障害と、あるいは犯罪を犯すとの結び付きということがもしあるとすれば、それらを何とかしなければいけないというような声が多くなりまして、そのようなことが、その前から研究しておりました勉強をもう少し早くまとめなければいけないということになったということを申し上げたわけでございます。
福島瑞穂君 精神障害者の人に対する偏見が強まるようなことがあれば、人権擁護を任務とする法務省は、むしろ誤解を解いて問題が生じないようにすべきであるにもかかわらず、むしろそのことはほとんど私はされていないと思いますが、で、この法案の成立の方に傾いたことは問題ではないでしょうか。
 ところで、この法案の第一条は、「目的」のところで、最後の方だけ読みますが、「その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする。」とされています。社会復帰が目的であるということになっているわけです。社会復帰のためには、他害行為を行った患者も含めて、どんな重症な精神病患者さんにも十分な医療を提供できる体制を整備することこそ必要であって、この法案は一部のみをピックアップし強制入院をさせるわけですから、なぜこの法案のみが出てきたのか、あるいはなぜこの法案のみ強制入院のところだけ特化して出てきたのか、大変疑問です。いかがでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 精神保健福祉法によります措置入院制度は精神障害者一般を対象としておりまして、本制度の対象者についても同法による一般の精神医療の対象としてきたところであります。しかし、このような心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、都道府県知事の判断にゆだねることなく、特に国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えられ、精神保健福祉法における措置入院制度等とは異なり、裁判官と医師が共同して入院治療の要否、退院の可否等を判断する仕組みや、退院後の継続的な医療を確保するための仕組み等を整備することが必要であると考えられることから、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する新たな処遇制度の整備が不可欠なものと判断し、今回この法律案を提案することとしたものであります。
 もとより、一般の精神医療をより一層充実させることは本法案とともに極めて重要なものでございまして、この点につきましては、衆議院における修正により、一般の精神医療等についてもその水準の向上等を図るべき政府の責務が明記され、また厚生労働省からもこれらに努めていくとの御決意を伺っているところでございまして、このような施策の充実が図られていくものと承知しております。
福島瑞穂君 社会復帰といいながら、目的の直前に再発の防止というのがあると。社会復帰について異論がある人はないと思いますが、なぜそれが、他害行為を行った精神障害者だけをなぜ他の者と区別して特別な施設に収容するということにされたのでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行いました者は、精神障害を有していることに加えまして重大な他害行為を犯したという、言わば二重のハンディキャップを背負っている者でございます。そして、このような者が有する精神障害は一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられ、また、仮にそのような精神障害が改善されないまま再びそのために同様の行為が行われることとなりますれば、本人の社会復帰の重大な障害となることからも、やはりこのような医療を確保することが必要不可欠であると考えられます。
 そこで、このような者につきましては国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い、また退院後の継続的な医療を確保するための仕組みを整備すること等によりましてその円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えられましたことから、このようなものを本法案における対象者とすることとしたものでございます。
福島瑞穂君 やっぱりよく分からないというか、修正がされてもむしろ矛盾が深まったのではないでしょうか。つまり、治療を目的としているのか、今の答弁にもありましたとおり、同様な犯罪が行われれば本人にとっても被害者にとっても不幸なことになるという、そちらのいわゆる社会防衛的なところに、あるいは被害者を出さないというところに主眼があるのか、それが全然分からないと。もし社会復帰ということを考えるのであれば、いわゆる精神障害者の差別禁止法なり、きちっと作るべきですし、そこがこの法案が何を目指しているのか非常に分かりにくいと。むしろ、「再発の防止を図り、」というところに主眼があるのではないかというふうに非常に危惧がされます。
 ところで、なぜ重大な他害行為を行った患者に対して強制入院をさせることは可能なのでしょうか。なぜ強制入院を正当化することができるのでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになるわけでございますが、そのような方たち、そのような精神障害を有する方たちは一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いと考えられまして、仮にそのような精神障害が改善されないまま再びそのために同様の行為が行われることになりますれば本人の社会復帰の重大な障害となりますことからも、やはりこのような医療、このような医療の本法案における医療の中には、入院の医療も含まれておりますし、通院医療も含まれておりますが、そのような医療を確保することが必要不可欠であると考えられるからであります。
福島瑞穂君 強制入院に関して非常に危惧を感じます。ここの衆参合わせて法務委員会では、刑務所の中の処遇、虐待あるいは医療の不備、緩慢に保護房に入れることで拘禁反応のある人たちがあっという間に亡くなってしまう、そのようなことが明らかになりました。隔離されている施設の中で人権侵害が極めて起きやすい。もちろん、精神病院と刑務所は全然違う施設ですが、隔離をされている施設の中で人権侵害が極めて起きやすい。刑務所の場合は刑期が、受刑者の場合は刑期がありますが、精神障害者の人の場合はいつ出られるかということが全くありません。
 入院期間の上限の定めが全く条文の中にありませんが、これはなぜでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 本制度におきましては対象者の入院期間の上限を定めないこととしておりますが、これは、対象者の社会復帰を促進するとの本制度の目的に照らしますと、対象者について本制度による医療の必要があると認められる限り入院を継続させ、手厚い専門的な治療を行うことによりその社会復帰を促進する必要があると考えられますところ、このような必要が認められるか否かは当該対象者の病状やこれに対する治療の状況等により左右されるので、あらかじめ入院期間の上限を定めることは適当でないと考えるためであります。
 また、本制度におきましては、入院期間が不当に長期にわたることがないようにするため、原則として六か月ごとに裁判所が入院継続の要否を確認することとしており、また入院患者の医療を現に担当している指定入院医療機関の管理者がその時点の病状等を考慮して常にこれを判断し、入院継続の必要があると認めることができなくなった場合には直ちに裁判所に対し退院の許可の申立てをしなければならないとしておる上に、入院患者側からも裁判所に対し退院の許可の申立てをすることができることとしているところでございます。
福島瑞穂君 この法律がなくても、現在、社会的入院と言われているものも多く、かつ今日の委員会の中でも出てきていますが、長期に精神病院に入っている人も非常に多いわけです。ですから、条文には「社会復帰」となっていますが、強制入院をさせるわけですから、社会からの隔離に、長期間における社会からの隔離になってしまうのではないかと思いますが、いかがですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 先ほど来御説明申し上げておりますように、要は、治療のために入院をする必要があるという判断がなされた場合に入院治療が行われるわけでございまして、その後、六か月ごとにその入院継続の必要があるかどうかも確認をし続けることになるわけでありますから、そのような御懸念は当たらないだろうと思っております。
福島瑞穂君 いわゆる精神障害者の人たちに対する手厚い専門的な治療ということであれば、それは入院、それから通院、それからグループホームや地域の中での医療という法律をきちっと作るべきであると。にもかかわらず、手厚い専門的な治療といいながら、強制入院のみしかこれは規定を主にしておりません。そのために裁判所をかませるという、そういう制度です。
 これは、どうして手厚い専門的な治療といいつつ、強制入院のところだけ特化しているのか。やはり、この法律は社会復帰といいながら強制入院の方に主眼がある、これは結局は隔離を正当化する長期的な隔離になるのではないですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) これも繰り返しの答弁で申し訳ないんでありますけれども、このような心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、現在の精神保健福祉法による措置入院制度の都道府県知事の判断にゆだねることなく、特に国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行う必要があると考えられ、精神保健福祉法における措置入院制度等とは異なって、裁判官と医師が共同して入院治療の要否、退院の可否等を判断する仕組み等、先ほど申し上げましたような新しい制度が必要であるというふうに考えたものでありまして、もとより、先ほども申し上げましたが、一般の精神医療をより充実させることは本法案とともに極めて重要なものでございまして、このことにつきましても政府としては努めていくという決意をしているところでございますので、このような施策の充実が図られていくものと承知しておるところでございます。
福島瑞穂君 原案では、再犯可能性の診断に対する医療となっております。修正案下の治療法は原案と別の治療法が考えられているのでしょうか。強制入院させた人については特別な治療があるのか、それとも通常の治療と一緒なのでしょうか。
衆議院議員塩崎恭久君) 医療の質という面においては、原案と修正後とでは特に変わっているということではございません。手厚いこの法律に基づく治療によって社会復帰を促進するという観点は何も変わっていないということでございます。
福島瑞穂君 私は、やはり治療のためにこの制度を設けたのか、それとも再発防止のために強制入院という隔離政策を取ったのか、ごちゃごちゃとなっていて本心は後者ではないかというふうに実は思っているんですね。
 衆議院の法務委員会の中で参考人の伊藤さんが、「政府の答弁によりますと、」「対象者に対して認知療法、行動療法などを通して感情のコントロールや行動修正をするという技法を採用し、社会復帰を図るとのことです。しかし、それらの技法は心神喪失と判定された重度の精神病患者さんには効果がないと言われています。一方、人格障害には使用条件によっては効果があると言われていますが、人格障害の多くは通常責任能力があるとされるので、この法案の対象にならないはずです。」と。「さらに、この法案の欠点は、対象者の治療を特定の閉鎖回路の中に完結させようとしています。」と。ちょっと飛ばしますが、「できるだけ自由な環境の中で信頼関係を築き、退院後も看護師や精神保健福祉士が支援し続けるようにしています。」というふうに言っています。
 つまり、治療ということであれば、その本人に応じて通院とそれから入院と、それから入院の中でもかなり開放病棟で治療を受けるとか、治療に専念するのであれば様々な治療があり得るわけです。しかし、再発防止ということであれば、再発防止という別のファクターが入ってくるわけで、これは一体どっちなんでしょうか。
衆議院議員塩崎恭久君) 今回、修正を行ったのは、そもそも、先ほど来、福島議員が御指摘の懸念項目が、やはり一番の我々のきっかけであったと思います。そもそも、何度も今日は出ていますけれども、精神科医療の底上げをやらない限りうまくいかないだろうということと、社会での受入れ体制というものができない限りはすべては完結しないと、こういうことで、我々もそのような方向で議論をしてまいりました。
 しかしながら、残念ながら医療の中においても精神科の理解というのが、実は他の科のお医者さんから見ても極めて低い認知度でございまして、そういう意味での我々の努力というのはまだまだこれからやらなきゃいけないなと思っている中で、今回こういう形で政府案としていったん我々の考えを中心にまとめ、そしてさらに、先ほど来出てきたいろいろな問題をより明確化して、今御指摘の、やはり社会復帰が目的なんだというところを、特にこの法律に基づく手厚い医療によって社会復帰ができるようにすることを明確にするために、要件を、入院等の要件を明確化し、そしてまた社会復帰のための制度であるということも明確化し、さらに、今お話があったように、結局、拘禁じゃないかというようなことがないように、五年後の見直しの中で、そういうような社会的な、社会防衛的なものになっていないかとか、あるいは人権が無視されていないかとかいうことをチェックしながら、本当にこれが今、福島議員がおっしゃっているような形で、社会復帰のためのものであるということを我々はもう一回確認をしようということを、あの修正案の中で附則として入れていると。そして、もちろん一般的な精神科医療についても底上げをするということを、我々も立法府の意思としてコミットしようじゃないかと。
 こういうことでこの修正案を出しているわけでありますので、今お話のございました御懸念については、我々としては、やはりあくまでも社会復帰が目的であり、先ほど来ノーマライゼーションの話もありましたけれども、社会全体が、共産党の井上議員からも、やはりどこかが詰まっちゃったらうまくいかないわけですから、それを、全体を責任を持ってやっていくというのが我々立法府のひとしく負っている責務ではないかなというように思います。
福島瑞穂君 日本は社会的入院あるいは入院している人の数が人口比に比べて他国よりも極めて高いわけです。ですから、他害行為を行った患者さんだけを受け入れる特別な病棟を作るということそのものに、治療という面からいっても、そんな病棟を作ってしまったら逆に本当に治療としても極めて不適切ではないかというふうに私は思います。
 条文も、せっかく修正をしても、私は、基本的に木に竹を接ぐか、本質的なところは変わっていないと思っています。それは、例えば四十二条が、裁判所が入院等の決定をするときに、「同様の行為を行うことなく、」という言葉が入っているわけです。「同様の行為を行うことなく、」というのは、再犯を行わないということと、言葉は違いますが、同じではないですか。
衆議院議員塩崎恭久君) 元々の「再び対象行為を行うおそれ」というのが最大の問題になって今のような御懸念があったわけでありますけれども、あくまでも、先ほど来申し上げているように、どうやって社会復帰をしてもらうんだろうか、それも治療を受けてということであって、それはやっぱり、同じような行為を行わないで社会復帰ができるように治療をしましょうというのが今回の要件の明確化のポイントだと思います。
福島瑞穂君 いや、しかし、「同様の行為を行うことなく、」というのは、私は精神医療に対する専門家では全くないですからちょっと素朴なんですが、精神障害が何らかの形である場合、治療をすると。その場合は、治療ということであって、医者と患者の信頼関係の中で治療するわけです。そのときに同様の行為を行うか行わないかということは分からないわけですし、そういう観点から治療するのではなくて、その人の病気を治すために治療するわけですね。
 ところが、入院等の決定に当たっては、「同様の行為を行うことなく、」というのが入っている。つまり、社会復帰をするための条件は、病気が治ること、あるいは治療が進むことではないんですよね。同様の行為を行わないということがない限りは入院をしなくちゃいけないんですよ。これは正しくちょっと言葉を換えただけで、結局は再犯のおそれ、それを上品に言ったら「同様の行為を行うことなく、」ということではないですか。
衆議院議員塩崎恭久君) 繰り返しになりますけれども、仮にこの今の「これに伴って同様の行為を行うことなく、」という要件を取ってしまうと、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者については精神障害を有する限り、そのすべてが本制度による処遇の対象となりかねないということになってしまうわけであって、精神障害を有するというだけで常にその意思にかかわらず強制的に入院をされてしまうというようなことも起こり得るわけであって、本制度による処遇の対象となる者をむしろ逆に広げてしまうんじゃないかという懸念もあって、このような判断をしたということでございます。
福島瑞穂君 今の答弁は極めて問題だと思います。つまり、「同様の行為を行うことなく、」という立証がなければ、精神障害者であるということだけで入院し続けるということじゃないですか。
 つまり、精神障害者である限り入院をしなくちゃいけないということが問題ではないかというふうに思っていて、「同様の行為を行うことなく、」というのが狭めるんだという今の答弁ですよね。──ごめんなさい。つまり、入院するときの要件として同様の行為、ですから、大本に戻って、こういう法律が問題なんですよ、同様の行為を行わないという立証がない限り出さないわけだから。入院をさせるわけでしょう。だから、精神障害者を基本的に入院させる、しかしその人が同様の行為を行わないんだったら出してやるという法律だから問題なんですよ。入院を前提に考えるからおかしくなるわけであって、入院と通院を含めて精神障害者の人権問題をどう解決するかというふうに問題を立てればいいと。しかし、基本的に入院をさせるのだと、同様の行為を行わないときのみ出すんだという発想だからそういう答弁になるのではないですか。
衆議院議員塩崎恭久君) あくまでもこの制度に基づく治療を受けて、手厚い治療を受けて精神障害を克服すると。治療するということが一番大事なことであるわけであって、今御懸念の点は必ずしも我々の意図するところではないというふうに思います。
福島瑞穂君 しかし、保安処分でもなく社会防衛でもなくということは、強制隔離政策ではないということであれば、単純に治療あるいは精神障害者の人たちの処遇の問題、差別撤廃の問題と単純に問題を立てればいいのであって、入院の要件として同様の行為を行うことがあるかないかということをすること自身が問題だというふうに思います。どうですか。
衆議院議員塩崎恭久君) 何度も申し上げますけれども、この治療を、この制度に基づく治療を受けて社会復帰をしていただくということが我々の最大の目的であって、それは第一条に書いてあるとおりでございます。
福島瑞穂君 入院のみの、強制入院を主眼とする法律になっている点が問題であるという点の私の疑問は残念ながら払拭されないんですが、裁判所が関与することについてというふうな問題については、結局、再犯のおそれは削除したにもかかわらず裁判所の関与を入れていると、それが非常に問題ではないかと。参考人、これも衆議院参考人が、七月九日、前田参考人ですが、言っているのは、お医者さんの側ではどうしても患者の視点でいかに治療するかというところだけでいく、もちろん、この法律は保安的なものを直接目指したものではございませんけれども、法律家の視点が入るということは、被害に遭った国民から見たらどう見えるかということも入っているというふうに参考人が言っています。
 ですから、治療ということではなく、裁判官が関与することで、やはりそれは国民の視点、被害者の視点、出すか出さないか、再犯の、同様の行為を行うかどうかという、そういうことが、社会防衛的なものが入ってくる懸念があるのではないか。あるいは裁判所が果たしてこういう判断することが妥当かどうかについては、ちょっと時間が来ましたので、これ以降また、大変疑問のあるところですので質問したいと思います。
 今日はこれで終わります。
○委員長(魚住裕一郎君) 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。