心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その47)

前回(id:kokekokko:20060211)のつづき。
前回にひきつづき、法務委員会での質疑です。
【荒井委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第12号(平成15年5月15日)
○委員長(魚住裕一郎君) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案を一括して議題とし、質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
荒井正吾君 自由民主党荒井正吾でございます。質問をさせていただきます。
 私は、心神喪失等の状態で重要な他害行為を行った人に継続的かつ適切な医療と観察を行い、病状の改善、同様の行為の再発防止や行為者の社会復帰を促進することは重要な国家の課題あるいは責務と考えますので、本法案には賛成でございます。
 一方、本法案による制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人に対する処遇の決定、医療の実施、地域社会における処遇というのを三つを大きな柱にしておりますが、私は、本制度が人々の懸念や不安を払拭して積極的な評価を受けるには、とりわけ処遇の決定についての客観性、明瞭性、説明能力、言わばアカウンタビリティーの確保が極めて重要と考えますので、本日はその点について質問をさせていただきます。
 私は、地元の奈良で、手をつなぐ親の会という名称の会の人々と親しくさせていただいておりますが、この会は、身体障害者精神障害者の子を持つ人たちの会でございます。お互いの情報交換や励まし、支え合うのを目的としております。その中で伺うわけですが、身体障害よりも精神障害の方が見えないという点で一般の理解を得るのに大変な困難があるということをよく聞きます。
 この法案も目に見えない障害を持った人たちの扱いでございますので、ある面、大変な困難がある制度であろうかと思います。
 本法では、法第三十三条第一項で、検察官が、対象行為を行った際の精神障害が改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合を除き、入院等の決定の申立てをする、あるいは法第三十七条第一項では、同様の医療を受けさせる必要があるか否かについて裁判所は医師の鑑定を命じる、さらに法第四十二条第一項では、裁判所は同様の医療を受けさせる必要があると認める場合、入院の決定をすることとされております。
 検察官、裁判官又は御担当の医師は、これらの判断は具体的にどのようなメルクマールでされるのでしょうか。普通の症状と違って、熱が高い、湿疹が出た、レントゲンの影があるといった客観性のある基準は存在しないように思いますが、これらの三つの判断については、強制入院であるとか隔離政策であるとか、入院積極、退院消極であるとか、非難が惹起される可能性のある決定でございますので、それを払拭するに足る説明力のものになっているかどうかについてお伺いしたいと思います。
○政府参考人(上田茂君) この法律による医療を受けさせる必要があるか否かの判定に際しましては裁判所が個々の対象者を病院に鑑定入院させることになりますが、裁判所から鑑定を命じられた医師は、症状や行動を注意深く観察し、必要な身体及び心理検査を行い、また対象行為を行った当時の精神症状と対象行為の関係、またその際の心理的、社会的状況、あるいは病歴と過去の他害行為の有無等を調査いたしまして、また諸外国の司法精神医療機関で用いられています評価尺度等も参考にしながら、さらに入院中の種々の治療に対する反応性も考慮することによりまして、この法律による医療を受けさせる必要があるか否かを、今申し上げましたような診察、調査等を行い、総合的に判断していくこととなります。
 鑑定を行う医師は、最終的な処遇の決定を行う合議体の裁判官及び医師であります精神保健審判員に対し、対象者にこの法律による医療を受けさせる必要があるか否かについて、特に医療の専門家でない裁判官にも理解できるような鑑定結果を提供する責任を有しております。
 また、合議体の医師である精神保健審判員は、その専門的な知見に基づき鑑定結果が妥当性や客観性を持つかどうかについて改めて検証できること、合議体がその鑑定結果の妥当性や客観性に問題があると判断した場合には再鑑定を命ずることが可能であること、こういうことから、医師による鑑定は十分に客観的であり、説得力のあるものになるというふうに考えております。
荒井正吾君 何度かその点、事前にお聞きもしたんですけれども、やはり難しい分野じゃないかなというふうに思います。ガンマGTPであるとか血糖値であるとか、そういうメルクマールがないということは分かるんですが、じゃ、どうして客観的に説明するのかというのはやはり難しいように思いますが、しかし医学が進歩してできるだけ最良の検査方法がこの分野でも開発されて、客観性に十分堪え得るような判断がなされることを期待したいと思います。
 しかし、一方、どのような場合でも、間違った判断がされるんじゃないかという不安がやはり存在する分野でもあろうかと思います。医療の進歩を判断に反映していただくということを期待する一方、しかし判断の正確性が十分確保されないという懸念もあるわけでございますが、それをカバーするための手続というようなものも用意されているのでしょうかどうか、伺いたいと思います。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 本制度におきましては、対象者に対する処遇の要否、内容を決定するに当たり、例えば鑑定入院制度を設け、鑑定のための十分な資料を収集して精神科医による適切な鑑定を行うこととし、裁判所におきましては精神科医をもその構成員とする合議体による審判を行い、必要に応じて精神障害者の保健及び福祉に関する専門家であります精神保健参与員の意見も聞くことを可能とし、さらに対象者には弁護士である付添人を付して多角的な角度からの検討を可能とするなど、対象者の病状を慎重かつ確実に判断し得る制度を設けて入通院の要否を判断することとしております。
 すなわち、鑑定入院におきましては、精神保健判定医等の専門的な学識経験を有する医師が対象者を直接診察し、あるいは必要な検査を行うなどの方法により医師としての専門的見地から処遇の要否に関する鑑定を行うとともに、入院中の対象者の言動や病状等を医療的見地から観察することにより、個々の対象者の病状等に応じた正確な判断が行われるような仕組みとしており、またこのような鑑定結果を受けた裁判所におきましても、裁判官と鑑定医とは別の精神科医である精神保健審判員が付添人等から提出された資料をも踏まえ、それぞれ専門的知見を十分に生かして、鑑定結果の合理性、妥当性を十分に吟味するなどの方法により、個々の対象者の病状等に応じた最も適切な処遇を的確に決定することができる仕組みとしております。
荒井正吾君 先日、参考人の浦田先生から聞いたところでも、なかなか判断の難しいところであるというふうにおっしゃられました。
 しかし、現在の最良の判断をしていただきたいと思いますが、一方、その判断の進歩があろうかと思います。この法案で予定されております指定入院医療機関は、我が国の司法精神医療を実践する場所であるとともに、司法精神医学という独自のフィールドを確立してその向上を図る重要な場所であると思います。
 指定入院医療機関は、今後、司法精神医療及び医学のメッカとなるような専門性、人員の配置等の体制の確保が期待されると思いますが、一方、そのような専門性のある先生というのは大変市場の価値も高くて、待遇というのは一般には大変高いものであると思いますが、そのような人に対する専門性の確保あるいは待遇の確保というのは十分であるんでしょうか。
○政府参考人(上田茂君) お尋ねの指定入院医療機関におきましては、国の責任の下、患者の精神障害の特性に応じ、その円滑な社会復帰を促進するために必要な医療を行うこととされております。
 具体的には、この指定入院医療機関におきましては、法第十六条第一項に基づく厚生労働省令において医療関係者の配置を手厚くすること等を定めることとしておりまして、またこれにより十分なスペースを取り設備が十分に整った病棟において、高度な技術を持つ多くのスタッフが頻繁な評価ですとかあるいは治療を実施することを求めるとともに、医療費についても患者本人が負担することなく全額を国が負担することとされておりまして、一般の医療機関に比べ、国による全面的な支援の下、手厚い精神医療を行うものであります。
 また、修正により盛り込まれました附則第三条第一項に示されていますとおり、本制度は最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものとすることが求められているところでありまして、例えば欧米諸国の司法精神医療機関で広く実施されております精神療法を導入するなど、高度かつ専門的な精神医療を行うことも考えているところでございます。
荒井正吾君 大変期待をさせていただきたいと思います。
 一方、先日、府中刑務所を視察させていただきましたが、刑務所の医療にもそのような最先端の医学の向上の成果を取り入れられたらいいなというふうに思うわけでございますが、例えばその医師を交流させるとか、定期的な情報交換の場を持つとか、いろんな仕組みでその刑務所の医療、精神医療というのを向上させるような取組をしていただけるんでしょうか。
○政府参考人(横田尤孝君) お答えいたします。
 刑務所における精神医療は、刑の執行機関という枠組みの中で精神障害を有する受刑者の治療を行い、医療を行い、心身ともに健全な状態での社会復帰を図ることを目的として実施されるものでございます。
 当局といたしましては、できる限りその充実に努めることが重要であると考えております。そのため、医療刑務所等を中心に精神科医等を配置して医療体制を整備し、近隣の医療機関等の御協力を得ているわけでございますが、本制度が施行された場合には、指定医療機関における実践で得られた司法精神医学の成果も取り入れつつ、精神障害者に対する適切な医療の実施に努めたいと考えております。
 なお、矯正施設の医療には医師や医療スタッフの確保を始めとして難しい問題が多うございますし、また、ただいま委員から御指摘のようなこともございましたので、矯正局内に発足させた矯正医療問題対策プロジェクトチームによる検討や行刑改革会議の御議論等を踏まえまして、種々の御意見を考慮しながら、刑務所における精神医療をなお一層向上させてまいりたいと考えております。
荒井正吾君 よろしくお願いいたします。
 今述べていただきましたが、医療機関や刑務所における医療とともに、実際の社会の場におけるアフターケアなども患者様にとっては大事かと考えます。本制度では保護観察所の社会復帰調整官がコーディネーター役となり、退院後のアフターケアのネットワーク作りを行われるというふうになっております。大変いい制度だと思いますが、実効性が確保されるのか、大変また地域にとって新しい面があろうと思いますので、具体的に実効性が確保されるような仕組みになっているかどうかを伺いたいと思います。
○政府参考人(津田賛平君) ただいま御指摘のございましたように、対象者の社会復帰を促進いたしますためには、退院後のアフターケアの充実が必須であろうと思います。
 そこで、保護観察所の社会復帰調整官は、言わば地域社会におきます処遇のコーディネーターといたしまして、指定通院医療機関を始め保健所等の都道府県、市町村等の機関と協議いたしまして、地域社会における処遇の実施計画というものを定めまして、この実施計画に基づきまして各機関が行います医療、援助等の処遇が適正かつ円滑に実施されますよう関係機関の間で緊密な連携の確保に努めることとしております。
 また、医療機関や保健所等の関係機関と十分な連絡を取り合いながら精神保健観察を実施することとしておりまして、具体的に申し上げますと、対象者の通院状況でございますとか生活状況を見守りながら、対象者御本人や家族からの相談に応じて、通院とか服薬を継続するように働き掛けていくことといたしております。
 以上、申し上げましたとおり、社会復帰調整官はこのような処遇等を実施することを通じまして、対象者の継続的な医療を確保して、その社会復帰の促進に努めることといたしております。
荒井正吾君 もう終わりますが、大変時間が限られて、はしょった説明で大変、質問で失礼いたしましたが、最後にお願いを一つ申し上げておきたいと思いますが、本制度は司法と医療の両面にまたがるために、法務省厚生労働省の両省が関係しておられます。両省にお願いしたいのは、共通、共同の課題として取り組んでいただきたい。これは犯罪人だから法務省、これは病人だから厚生労働省、そういう気配がちょっと感じられないわけでもない場面もあったものでございますので、共通の課題として両省、今後大変発展が期待される分野でございますので、取り組んでいただきたいというお願いを申し上げて、質問を終わらせていただきたいと思います。

【江田委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第12号(同)
江田五月君 森山法務大臣、歴代法務大臣として最長不倒距離をクリアされたということでございまして、誠におめでとうございます。
 私どもは、法務省を取り巻くいろんなことがあって、もう森山さん御自身の進退をお考えになった方がいいんじゃないかなどと今でも思っておりますが、今日はそういうおめでたいときですから、そういう苦口はたたかないことにしておきますが。
 法務省の所掌の行政範囲は非常に広い。この際、法の厳正な執行、とりわけ刑法、これについても覚悟を新たに取り組んでいただきたいと。いつもお優しい法務大臣でございますが、法の持つ厳しい面というものはやはり法務大臣が先頭に立ってそれを体現していただかなきゃならぬと思っております。
 お答えありますか。
国務大臣森山眞弓君) 江田先生から激励のお言葉をいただきまして、誠にありがとうございます。
 今仰せのとおり、この仕事を預かっております以上は忠実に、また誠実に一生懸命に仕事に邁進していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
江田五月君 とりわけ刑事法というのは、時にはもう自分の感情を殺してでも執行していかなきゃならぬという厳しい面があるわけで、そこは情に流されることなく、たとえ身内であっても厳しく悪をたたいていくという姿勢を忘れてもらっちゃ困ります。国民のためによろしくお願いをいたします。
 木村副大臣お見えですので、いささか伺っておきたいと思いますが、昨日の衆議院厚生労働委員会で木村副大臣の問題が集中審議をされたそうですね。その中で、柔道整復師のことや何かがいろいろ議題になっていたようですが、併せて心神喪失者等医療観察法の、これも触れられたということなんですが、日本精神科病院協会、これは一体どういう団体だと御認識ですか。簡単にお答えください。
副大臣木村義雄君) 精神科の病院の方々がお集まりになっていただいている団体でございます、だと思います。
江田五月君 社団法人ですよね。これはどこが監督をしているものですか。
副大臣木村義雄君) 厚生労働省でございます。
江田五月君 この日精協という社団法人、政治団体も持っているようですが、その政治団体はどういうふうになっていますか。
副大臣木村義雄君) お持ちになっていると思います。
江田五月君 どういう名前ですかね。
副大臣木村義雄君) 日本精神病院協会政治連盟でございます。
江田五月君 昨年、木村副大臣はその日本精神科病院協会政治連盟か、から十一月と十二月、五十万と三十万、計八十万の政治献金を受けていたと。これは副大臣御自身が答弁されたようにちょっと伺ったんですが、もう一遍確認をいたします。
副大臣木村義雄君) 日本精神病院協会政治連盟から毎年、献金をいただいております。
江田五月君 昨年のことを伺います。
副大臣木村義雄君) 先生御指摘のとおりでございます。
江田五月君 その前の年、あるいはその前々年はどういうことか、今、御記憶はありますか。
副大臣木村義雄君) いただいておることは間違いないと思います。
江田五月君 金額は。
副大臣木村義雄君) 政治資金規正法に公表されている金額は恐らく三十万とか、そういう金額じゃなかったかと思うんですが。
江田五月君 これは、私もまだ十分調べられていないんですが、日本精神病院協会政治連盟の陣中見舞いという一覧表がここにはあるんですが、平成十二年度、平成十二年六月十五日、自民党香川県第二選挙区支部。確認しておきましょうか、木村副大臣は政党支部の代表、これは会長と言ったり支部長と言ったりいろんな名前があるようですが、これは何かされていますか。
副大臣木村義雄君) 失礼しました。これですね。
 十二年で、平成、二〇〇〇年、西暦二〇〇〇年でございますけれども、日本精神病院協会政治連盟から合計百三十万円で、パーティー券を含めまして合計百三十万円でございます。日本精神病院協会政治連盟ですね。それから、二〇〇一年に日本精神病院協会政治連盟、同じ政治連盟から六十万円いただいております。
江田五月君 私が今尋ねたのは、それは前の質問のお答えを補充されたんだと思いますが、今質問をしたのは、政党の支部なり総支部なりの役員を木村副大臣されていますかという質問。
副大臣木村義雄君) 私ども自由民主党第二選挙区支部支部長を仰せ付かっております。
江田五月君 そうですね。今の百三十万とか何十万とかというのは、これは大臣個人ですか、政党ですか。
副大臣木村義雄君) 個人の資金管理団体に二〇〇〇年の場合が三十万円でございまして、選挙区支部で百万円になっております。それから、二〇〇一年の方は個人の資金管理団体に六十万円でございます。
江田五月君 昨年十一月と十二月、今の百三十万円とか六十万円とかという金額からすると、金額自体は特別跳び跳ねてというわけではないのかもしれないけれども、二か月連続にわたって五十万、三十万、これはちょっと過去のものと同じでございますというわけにはいかないんじゃないかと思いますが、いかがですか。
副大臣木村義雄君) 今申し上げましたように、二〇〇〇年が合計で百三十万円でございますし、二〇〇一年は六十万円でございますので、今の数字、先生の八十万円というのはちょうどその中間に位置するのではないかと、このように思います。
江田五月君 二か月連続というようなことが今まであったかどうかなどいろいろあるんですが、それは分かりました、それで。
 日本精神病院政治連盟が、昨年の十一月、十二月あるいは十月、この当時は衆議院の法務委員会あるいは厚生労働委員会とかで今議題になっているこの法案を審議をしている真っ最中だったわけですよね。その真っ最中に木村副大臣だけでなくてその他の大勢の皆さんに政治献金をされている、あるいはパーティー券を購入しておると、そういうことがささやかれておるんですが、これは、日本精神科病院協会というのは厚生労働省監督、所管の社団法人ですから、そして副大臣は今日ここへおる中では厚生労働省の最高幹部ですから、ひとつこの団体及びその関連の政治連盟などが行った昨年のそのころの、あるいは昨年一年の献金、これを調べて出していただくことをお約束いただきたいと思いますが、いかがですか。
副大臣木村義雄君) 平成十四年の、先生、意味でございますか。
江田五月君 そうです。
副大臣木村義雄君) 恐らく、平成十四年は今、先生がおっしゃったような金額じゃないかと思うんですが。
江田五月君 リストを出していただけますか。
副大臣木村義雄君) それは連盟の話ですから、それは私は何とも言い難いわけでございます。
江田五月君 社団法人日本精神科病院協会というのは厚生労働省の所管の公益法人で、そしてそれの関連の政治連盟もあるわけですよ。
 ですから、その政治連盟のことですから知りませんと言われるなら、そう言われればいいですが、要するに、その協会やその政治連盟が行った政治献金及びパーティー券のリストを出してくださいと言っている。
副大臣木村義雄君) 協会の方は確かに先生がおっしゃっているとおり我が省所管でございますけれども、政治連盟の方の所管は、省が、これは任意団体ですか、いや恐らく、これはもし政治団体だとしたら自治省の、総務省ですか、総務省の所管だと、こう思うんですね。
 それから、その団体がリストを出すか出さないかというのは、これは私個人の問題ではございませんから、それはその団体の方がどう考えるかということであろうと、このように思えてならない次第でございます。
江田五月君 調べて出すことはその団体に聞いてみなきゃ分からぬという話ですが、委員長、資料要求を厚生労働省に対していたしますが、これはちょっとここで、この委員会として厚生労働省に今の日本精神科病院協会及びその関連の団体の政治献金についてのリスト、昨年分、これを出すように要求をいたしますが、取り扱っていただけますか。
○委員長(魚住裕一郎君) 後刻、理事会で検討いたします。
江田五月君 これ、後刻検討だけでは、実はちょっとここから先なかなか質問しにくいんですが、ちょっと取りあえずおいておきます。
 次、木村副大臣にもうちょっとお尋ねをしておきますが、今ここで答弁をされますよね。前回の質問のときにも私、木村副大臣に質問をして、この心神喪失医療観察法の問題について答弁をしていただきましたね。これらのこの国会での副大臣としての答弁は、これは副大臣の公務員としての職務行為であると、こういう認識はありますね。
副大臣木村義雄君) 厚生労働省副大臣としてお答えをさせていただいております。
江田五月君 厚生労働省副大臣というのは公務員であると、この認識はありますね。
副大臣木村義雄君) 厚生労働省副大臣でございます。
江田五月君 公務員であるかどうかの認識はありますかと。
副大臣木村義雄君) そのとおりでございます。
江田五月君 当たり前ですよね、それくらいのことはね。
 そして、副大臣は、昨年十一月六日、社団法人日本精神科病院協会全国集会というのがございまして、そこに来賓としてお出掛けになった。そして、いろいろ述べられているんですが、今のこの法案、今、私ども全力を挙げてこの法案の成立に懸命に努力をしている最中でございます、しかし残念ながら云々とあって、何とか頑張ってこの法案をできるだけ早く通したいなと思っているような次第でございます、とにかくこの法案が通らないことには、また皆様方からよく言われておりますいわゆる一般対策、これが見込みが立たないと言っても過言ではないわけでございまして、こういうことからも、できるだけこの法案の早期成立に一生懸命に頑張ってまいりたいと、省を挙げて取り組んでまいりたいと、こういう気持ちで一杯でございますと。
 これはこの雑誌の編集者が書いたことではありますが、こういう趣旨のことをお話しになったことは事実でしょうか。
副大臣木村義雄君) この法案は、御承知のように、司法精神医療の充実を図る観点から政府が提出をし、その成立に向けて取り組んでいる法案でございます。私といたしましても、そうした立場から法案成立を取り組むことを申し上げたものでございます。
 この法案は、言うまでもなく、特定の団体どうだこうだというものではなくて、我が国の精神保健対策の充実という観点から提出されたものでございまして、正に省を挙げて、これは省を挙げてというのは、私どもで厚生省の中で本部を作りまして、本部を立ち上げまして、精神障害部だけではなくて、全省挙げて取り組むという決意を表明させていただいたところでございます。
江田五月君 今いろんなことをおっしゃいましたが、こういう趣旨のことをおっしゃいましたか。イエスとかノーとかで答えてください。
副大臣木村義雄君) ですから、今申し上げたような趣旨で、この法案の大切さ、必要性、そういうことをはっきりと申し上げさせていただいたので、これは政府の提出した法案でございます。
江田五月君 ここで書いてある、これは言われたんだろうと思いますが、また皆様方からよく言われております、何を言われたんですか。
副大臣木村義雄君) 皆様方から、精神保健対策の充実というものを言われているわけでございまして、これは当然のことだろうと思います。
江田五月君 その中にはこの法案の成立も入っているんですね。
副大臣木村義雄君) この法案が成立しないと精神保健の充実ができないと。先ほど申しましたように、司法精神医療の充実を図るわけでございますから、この法案によって司法精神医療の充実を是非図らせていただきたいと、そういう趣旨で申し上げたわけでございます。
江田五月君 いろいろと何か気になることがあるなというお気持ちが心にあって答弁されているような感じはするんですが、まあ、ちょっとおいておいて。
 刑事局長、刑法のことをちょっと教えてほしいんですけれども、最近、刑法、平仮名で口語体になって、私もよく分からぬのですけれども、百九十七条ですね、公務員がその職務に関し賄賂を収受したときは五年以下の懲役に処すると。これはあれですか、公務員が別にだれかに頼まれたわけでもなく、その職務を曲げたわけでもなく、正しい職務をきっちり行った、それでもそれに関係して賄賂、賄賂というのはいろんなことが賄賂ですが、お金は賄賂じゃないと言うのはなかなか難しいと思いますけれども、お金をその職務に関連して受け取ったら、これは五年以下の懲役になるんだと、こういう趣旨なんですかね。
○政府参考人(樋渡利秋君) 委員十分御承知のとおりに、刑法の構成要件は書いてございますが、具体的に犯罪が成立するかどうか、犯罪の要件に該当するかどうかというのは収集された証拠に基づいて司法の場において判断される事柄でございまして、一般論でお聞きだと思うのでありますけれども、その解釈にもいろいろございますが、とにかく委員がおっしゃいますように、請託を受ければ受託収賄という罪がございますし、曲げれば枉法収賄ということもございます。
 この百九十七条の構成要件は、公務員がその職務に関して賄賂を収受、要求あるいは約束したときに成立するものでありまして、その収受された利益が職務に対する不法な報酬であって、それを認識、認容していたことが必要であるというふうに承知しております。
江田五月君 いや、だから平仮名になってよく分からぬようになっていると言ったんですが、まあ片仮名のときもいろいろ分からぬことは一杯ありましたがですね。
 もう一つ、法務省法務大臣が最高責任者として所管している行政の中には犯罪の捜査と、そして公訴の提起と、あるいは法の執行と、こういうことをつかさどる検察庁の行政というものも入っている。検察官に対する指揮監督のやり方というのはこれは検察庁法でいろいろありますが、全体として入っていることは間違いない。
 犯罪の捜査には何かの端緒がなければ捜査に着手ということにはならないんですが、国会のこういう質疑の中で、正に国民の皆さんの見ている前で、我々がいろんなやり取りをするその中で、その折に触れて犯罪行為にかかわるような質疑も行いますが、国会のこういう委員会での質疑で現れたことという、そこからどうもこれはやはり法の厳正な執行のためには捜査をしなきゃならぬという、そういうきっかけをつかむ、要するに端緒となる、こういうことはあり得る話、法務大臣、お気の毒ですから、刑事局長、あり得る話ですよね。
○政府参考人(樋渡利秋君) 少し説明させていただければと思うのでありますが、捜査の端緒といいますのは、捜査機関が犯罪の嫌疑を抱いて捜査を開始するに至った原因となる事由をいうと解されております。
 刑事訴訟法には捜査の端緒といたしまして、現行犯、告訴、告発、請求、自首などが規定されておりますが、捜査の端緒となり得るものはこれらに限定されるわけではございませんでして、捜査機関は新聞記事、投書、風評など、広く社会の諸事象からその端緒を得ることが許されるものと承知しております。したがいまして、委員御指摘のような委員会あるいは国会での質疑の中で捜査機関が端緒を得るということも許されているものと思います。
 しかしながら、若干これに敷衍させていただきますれば、捜査機関においてこれらの諸事象を把握し、これに犯罪の嫌疑を抱いて捜査を開始するに至った場合に、初めてこの事象が捜査の端緒となったと言えるものでありまして、捜査の端緒となり得ることと捜査の端緒となるということはまた別問題だろうと思います。
江田五月君 なり得る話ですから、しかも今、私は、犯罪になるのではないかとどうも考えられるようなそういう事案について実は聞いているんです。これは私も、だから申し訳ないけれども、ここでの答えが下手をしたら、もちろん黙秘権の告知もしておりませんし、権限のある人間が調書を取って読み聞かせをやっているわけでもないから、それはダイレクトにじゃないけれども、それでもここでの供述が一定の刑事訴訟法上の効果を持つ場合があるので、私自身もはらはらしながら聞いているんです。そうやってやっているときですから、ここはやはり法務大臣も、厳正な法の執行はお誓われたわけですし、やはり刑事局長もこれからのやり取りをやはりよく聞いておいていただきたい。捜査の端緒になり得ると。
 そこで、もう少し聞きたいんですけれども、先ほどの話なんですよ。日精協が去年の正に法案審査の真っ最中に献金をしておると、たくさんのところですよ。ちなみに、ほかの皆さんに献金を受けましたか、その当時と聞きたいところですが、まあやめておきましょうね。聞きたいところですが、これはやっぱりちょっと出していただかなきゃいかぬ。
 私は、木村副大臣、これ申し訳ないけれども、やっぱりあなたは法務省の最高幹部の一人として……(「厚生省」と呼ぶ者あり)厚生省の、厚生労働省の最高幹部の一人として、衆議院での委員会審議の最中にも出てきて答弁をされているし、ここでもまた答弁をされているわけで、そしてその同じ時期に金銭の授受があったわけですよね。しかも、ここでおっしゃっているのは、また皆様方からよく言われておりますという、請託じゃないですか、これ。そういうことがあって、そして、しかも例の柔道整復師のときには渡した方が要請を実現してもらうために渡したと言っているわけですよね。そういうことがあって、これは私は非常にやばいところだと思うんですよ。
 この法案の審査が、この法案の審査の舞台そのものが犯罪行為の場であった、その結果として法案が生まれた、そんなことになったら、我々国会議員というのは、これは何のかんばせあって選挙区へ帰れるかということになるわけですよね。
 ですから、これはやっぱり是非今の献金リストについては、さっきのような答えではなくて、ちゃんと出してもらうという約束していただいてその結果を見なければここの審議はできないんですよ。委員長、いかがです。
○委員長(魚住裕一郎君) 後刻、理事会で協議します。
江田五月君 そのことを一つおいておきます。
 もう一つ。法務大臣、そういうような経過ですから、これは、去年の十月、十一月、十二月、そして今日まで木村副大臣の職務の行為と、そして関係する団体からの献金とその間の関連についてきっちりと調べていただかなければ、今のこの質疑自体が、ここで質問していること自体が犯罪につながるということをやったら、それは我々たまったものじゃない。そうではないんだ、これは私ども晴れて国民にも、いや自分たちは犯罪とかそういうものに関係なく本当にこの精神医療のためにこの法案を審議していると胸を張って言えるかどうか、そこのところが問われているわけですから、これは今の木村副大臣献金のことについて、法務大臣として調査をしてこの委員会に報告をしていただきたい。いかがですか。
国務大臣森山眞弓君) 今お尋ねになったことは捜査機関の活動にかかわることでございますので、法務当局といたしましてはお答えいたしかねるわけでございます。
 あくまで一般論として申し上げれば、捜査機関は刑事事件として取り上げるべきものがあれば常に厳正、公平に所要の捜査を行って、適宜適切に処理するものと承知しております。
江田五月君 そう刑事事件にかかわるというけれども、まだ端緒になり得るとしか答えていないんで、この事件、これ、ここのやり取りが端緒になりましたというふうにお答えになるなら、それは我々もそれはちょっと困りますよね。捜査やっている最中だからとなるけれども、捜査なんか始まっていることはないんですよ、まだ。あるいはあれですか、これはもう捜査始まりそうだから私たちは木村副大臣に何も聞いちゃいけないということになりますか。それだったらそれで、またこれ質問できないですよ。そうじゃないんで、調査をしてくれと。捜査と調査と、ソとチョの違いがあるんです。どうですか、調査をして、ここはちゃんと木村副大臣を相手に我々が質疑をしても大丈夫だという、そういうあかしを出してくれなきゃ審議ができないじゃないですか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 大臣がお答えになりましたことは、正しく検察の具体的な活動にかかわることでありますから法務当局としてはお答えいたしかねるというふうに申し上げたものでございまして、実際にそういうことが捜査の端緒となるか否かというのは正しく検察の具体的な捜査活動でございまして、それを法務当局が憶測したり、あるいはそういうことを言える立場にはないということでございます。
江田五月君 法務当局の中には捜査を担当している部分もあるんですが、私は今捜査をしてくれと言っているんじゃないんで、法務省としてこの法案を提出されているわけでしょう、この場に。しかも、国会の審議があって、そこで皆さん答弁したり、私は前回の質疑のときに、もうそういうことは全然知らなかったものですから、塩崎さんと、与党と野党とが立場は違ってもいろいろと本当に協議をしながら一定の修正までやってきて、それについて我々は意見違うから反対ではあるけれども、しかし国会という場が本当に鳩首協議、知恵を集めて一つの法案を作るという努力をしてきた、そのことはそのこととしてこれは一定の評価をしたいというようなことまで言って、実はそのことが全部賄賂に汚れていたということになったら、これは本当にもう、我々だって立つ瀬がない。
 どうでしょう、委員長、今の問題についてしっかりした、これは法案を提出している行政の責任者としての調査を求めていただきたいと思いますが、いかがですか。
○委員長(魚住裕一郎君) 森山法務大臣、御答弁はございますか。求められている調査というお話ですが。
国務大臣森山眞弓君) 先ほど申し上げたとおりでございますけれども、法案の審議過程に問題があるかどうかということでございましたら、それは委員会が調査されるべきことではないかと思います。
江田五月君 審議過程に問題じゃなくて、法案を出している政府ですよ。いいですか。厚生労働省は、もちろん法務省の提出の法案ではあるけれども、厚生労働省もこの法案、立案をし、そして国会に提出し、そしてこの審議を進めるときに答弁もずっとしているわけですよ。法案審議の過程で何か、委員会に何か変なことが起きたんじゃないんですよ。政府です。閣法です。これを調査をしていただきたいというんですが、これは委員長、私も今、丸々二十四年そろそろ国会議員やっているんですが、いまだ今まで大臣の責任を追及して大臣辞めていただいたこともあります。しかし、国会の審議というのは何より大切だというので、ぎりぎりまでいっても審議を止めたりしたことはないんですが、これは皆さん、このままで時間がずるずる行って、はい、時間が来ました、法案採決ですと言われてもたまらない。
 これはちょっと理事さん、そのことについては委員長の方からちゃんと求めていただきたい。それが答えがなければこれ質問することできない。
○委員長(魚住裕一郎君) 江田委員に申し上げます。
 立法過程における、立案過程における不正行為云々というその調査につきまして委員会として調査するか否か、また、どのようにするかを含めて、これ後刻、理事会で協議するほかないと考えますが。
江田五月君 私は法案の中身についてまだまだ一杯聞きたいことあるんですが、法案の中身に入って時間をずっと費やしていって、はい、それでおしまいですと言われたんじゃ我々たまったもんじゃない。犯罪の成立に手をかすようなことになったら大変なので、ここで今の点だけは明確にして、我々は安んじてここで法案の審議ができるという場を確保していただきたい。その確認をしていただきたい。そのために、これは今そういうことを求めていただきたい。それが求められないんだったらそれ以上審議ができないということを言っている。
○委員長(魚住裕一郎君) 速記を止めてください。
   〔午後一時四十九分速記中止〕
   〔午後二時四十二分速記開始〕
○委員長(魚住裕一郎君) 速記を起こしてください。
 木村厚生労働副大臣に申し上げます。
 先ほど、江田委員からの質問の中で、日精協政治連盟政治献金リストが話題となったところでありますが、リスト提出につきまして努力をしていただけますかどうか、御答弁をお願いいたします。
副大臣木村義雄君) 副大臣としては、なかなか権限が、直接の権限がこれはございません。そのことは十分に御理解をいただきたいのと、このように思うようにならない次第でございますが。(発言する者あり)
○委員長(魚住裕一郎君) 委員長からの今の発言は、努力をしていただけますかどうかという質問でございます。
副大臣木村義雄君) 厚生労働副大臣として権限がございません。権限がございませんもんですから、お約束なかなかいたしかねるんでございますけれども。(発言する者あり)
○委員長(魚住裕一郎君) 速記を止めてください。
   〔午後二時四十三分速記中止〕
   〔午後二時五十四分速記開始〕
○委員長(魚住裕一郎君) 速記を起こしてください。
 木村副大臣にお尋ねいたします。
 先ほど委員長から、リスト提出について御努力いただけますかという趣旨で御答弁を求めましたわけでございますが、再度御答弁をお願いをいたします。木村副大臣
副大臣木村義雄君) 努力いたします。
○委員長(魚住裕一郎君) 質疑を続けてください。江田委員。
江田五月君 いや、あきれましたね、本当に。それだけの答えをいただくためにこんなにみんなの時間を無駄にしたわけで、これ以上、私、ここでいろいろ申し上げていたら、それがまた時間の無駄になりますから次へ行きますが、木村副大臣に今努力いただくわけですが、協会には監督権限はあっても政治連盟には何もないからなんという、そんな逃げの手を打っちゃいけないですよ。そんなの分かっているわけですからね。しかも、この平成十二年、先ほど木村副大臣、百万と何十万でしたか、言われていましたが、百万というのは陣中見舞いだろうと思いますが、その年にはこの協会政治連盟は六千四百二十万と。これは、手元だけでも、それだけのお金をばらまいて言わば法案を買おうとしているんじゃないかなどということになると大変なことなんで、これは私は、次のこの委員会の審議の日までに今の献金リストについては出していただきたいということを申し上げておきます。そうでなければ、この答えにのっとって次の質問を考えますので、その次の質問はできません。
 そこで、次にもう一つ、法務大臣の方に先ほどお願いをしている調査ですが、これはこの法案の立案から、さらに法務委員会、衆議院の方にかかって、そしていろんな各党の議論があって、最終的に修正されてここまで来ている、その経過の中での木村副大臣の行動ですから、私はこの法案成立過程で内閣としてかかわっていることがお金に汚れているんではないかということを聞いているわけですよ。
 法務省ですから厚生労働省のことについては何もできませんと言ったって、内閣ですから、やはりこれは、法案提出している、その衝に当たっている法務大臣として、その調査は、この法案の審議の過程で木村副大臣がこの日本精神科病院協会の皆さんあるいは政治連盟の皆さんとどういう接触があったか、どういう要請があったか、それに対して例えば集会でどういう答えをしたか、その間、金はどういうふうに動いたか、そういうことについての調査をお願いをしますが、いかがですか。
国務大臣森山眞弓君) 法案の提出者といたしまして、経緯につき関心を持って十分に受け止めさせていただきます。
江田五月君 このことは、その後また、その今の関心、調査、その結果をお伺いすることとして、以後の私の質問については、そうしたことを踏まえなければ質問できませんので、残りの時間は留保します。

【浜四津委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第12号(同)
浜四津敏子君 公明党の浜四津でございます。
 それでは、まず法務大臣にお伺いいたします。
 この法案で設けようとしている今回の制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇に関するものでございます。ところで、最近における心神喪失者等による他害行為の動向についてお答え願います。
国務大臣森山眞弓君) 平成九年から平成十三年までの五年間におきまして、殺人、放火、強盗、強姦・強制わいせつ、これは未遂も含むんですけれども、及び傷害、傷害致死に当たる行為を行った心神喪失者等の数は年間四百人程度で推移しておりまして、この数に特に大きな変動は認められません。
 この五年間の検察庁の受理人員中、心神喪失者等の割合は約〇・二%でございますが、そのうち、殺人では約七・〇%、放火では約八・〇%、傷害致死では約三・〇%、強盗では約〇・五%、強姦・強制わいせつでは約〇・三%、傷害では約〇・三%を心神喪失者等が占めております。
 心神喪失者及び心神耗弱者による近時の重大な他害行為の事案といたしましては、網羅的に把握しているわけではございませんが、例えば平成十年一月、堺市におきまして、偶然通り掛かった幼稚園児を包丁で突き刺すなどして一名を殺害し、二人に重傷を負わせるなどした殺人事件がございました。また、平成十年九月、奈良県内において、かねて自分に嫌がらせをするなどしていると邪推していた被害者らの頭部を木製バットで殴打し、一名を殺害し、一名に重傷を負わせた殺人事件もございました。それから、平成十一年八月、大阪市内において、通り掛かりの書店店内に入りまして、同店の店主を所携のペティナイフで突き刺して殺害するなどした殺人等事件。また、平成十二年六月ごろから八月ころまでの間、大阪府泉南市内の民家で、家族五人に対し、自宅に閉じこもる生活を余儀なくさせ、飢餓等により死亡させた殺人事件。また、平成十四年三月に、長崎県内で、隣家の被害者を包丁で突き刺して殺害した殺人事件等がございます。
 これらは最近の例でございますが、幾つかそういう例が今も見られているということでございます。
浜四津敏子君 本法案第三十三条一項によれば、「検察官は、被疑者が対象行為を行ったこと及び心神喪失者若しくは心神耗弱者であることを認めて公訴を提起しない処分をしたとき、又は第二条第三項第二号に規定する確定裁判」、これは無罪若しくは刑の減軽ということになりますが、「確定裁判があったときは、当該処分をされ、又は当該確定裁判を受けた対象者について、継続的な医療を行わなくても心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれが明らかにないと認める場合を除き、地方裁判所に対し、第四十二条第一項の決定をすることを申し立てなければならない。」。その後にまたただし書が続いております。
 すなわち、本制度において、検察官は、不起訴処分をしたとき、あるいは確定裁判、無罪、刑の減軽の確定裁判があったときは、原則として処遇の要否、内容を決定することを裁判所に申し立てなければならないということとされておりますが、必要的に申し立てなければならないとした理由はどこにあるのか、また例外的に、一定の場合に申立てを義務としていないこととしておりますけれども、その理由がどこにあるのかをお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 新たな処遇制度は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対しまして継続的に適切な医療を行うとともに、これを確保するために必要な観察等を行うことによりまして、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もって本人の社会復帰を促進することを目的とするものでございますので、このような者について広く本制度による処遇を受ける機会を与えるため、検察官は対象者につきまして、委員御指摘のような場合に、裁判所に対し、原則として本制度による申立てをしなければならないこととしたものであります。
 ただし、本制度による処遇を行う必要がないことが明らかである者についてまで検察官に申立て義務を課すまでの必要はないことから、検察官において、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様な行為を行うことなく社会に復帰することを促進するために、この法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合には、検察官に申立て義務はないこととしたものでございます。
 また、殺人や放火等と異なり、傷害につきましては比較的軽微なものもあり得るところ、そのような場合についてはあえて本制度の対象とするまでの必要はないと考えられますことから、傷害のみを行い、他の重大な他害行為を行わなかった対象者につきましては、傷害が軽い場合に限り、当該対象者が行った行為の内容、当該対象者の病状、生活環境等を考慮して、当該対象者に対し本制度による処遇を行うまでの必要性がないと判断される場合には、検察官は本制度による申立てをしないことができるということとしたものでございます。
浜四津敏子君 本制度の手続は、刑事訴訟手続ではなく審判となっております。その手続は少年審判に似ている部分もあると思われますが、少年審判と異なりまして、家庭裁判所ではなく地方裁判所がこの審判を行うこととしております。地方裁判所がこの審判を行うこととした理由がどこにあるのかをお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 現在の家庭裁判所は、それまで司法省の一行政機関でありました少年審判所が行っていた少年問題に関する審判を行うこととともに、少年問題と家庭問題は密接な関係があり、同一の機関が総合的に取り扱うことが適当であると考えられましたことから、地方裁判所支部として置かれていた家事審判所の審判機能等を吸収し、少年の健全な育成と家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を目的とする裁判所として設置されているものでございます。すなわち、現在の家庭裁判所は、少年審判と家事調停審判とを専門的に取り扱う裁判所として設置されたものでございます。
 他方、現在の地方裁判所は、裁判所の権限に属するものとされている事項の中で他の裁判所の権限に属さないすべての事項について権限を有するものとされておりまして、現行法上、原則的な第一審裁判所とされております。
 このように、家庭裁判所は少年問題と家庭問題を専門的に取り扱うため特に設置された裁判所であるのに対し、地方裁判所は原則的な第一審裁判所でありますことから、少年問題とも家庭問題とも異なる本制度による処遇の要否、内容の判断につきましては、家庭裁判所において行うこととするのではなく、原則的な第一審裁判所である地方裁判所において行うこととすることが最も適当であると考えられるからでございます。
浜四津敏子君 この審判手続におきまして、本法案四十七条では被害者等の傍聴を認めておりますが、第三十一条三項によれば、「審判期日における審判は、公開しない。」と定めてありまして、原則非公開とされております。この審判手続を原則非公開とした理由についてお伺いいたします。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 本制度の審判におきましては、対象者について、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があるか否かについての審理が行われ、その結果に基づいて処遇の要否、内容が決定されることとなります。そのため、この審判におきましては、当該対象者の精神障害の類型や過去の病歴、現在及び重大な他害行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予想される将来の症状といった事実も明らかにされることとなりますところ、このような人の精神の状態等にかかわる事実は、事柄の性質上、プライバシーに深くかかわるものでありまして、みだりに他に知らせるべき事柄ではないと考えられ、また、これを明らかにすることは今後の対象者の治療や円滑な社会復帰にも支障を来すおそれがあるものと考えられます。
 したがいまして、このような事実が明らかにされる審判につきましては、本来、他人の傍聴を認めるべきではないと考えられますことから、本制度の審判については原則として公開しないこととしたものでございます。
浜四津敏子君 本制度の審判手続は、医師及び職業裁判官が同等の立場で決定にかかわることになっております。しかし、地方裁判所の決定に対して不服がある場合には高等裁判所に抗告することができるということになっておりますが、この抗告審においては職業裁判官のみで構成されることとなっておりまして、医師を構成員に加えないということになっております。その理由について御説明願います。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 新たな処遇制度におきまして、地方裁判所の合議体を一人の裁判官と一人の精神保健審判員で構成する趣旨は、処遇の要否、内容の決定に当たって、医師による医療的判断に併せて裁判官による法的判断が行われ、両者のいずれの判断にも偏ることがないようにすることにより、両者が共同して最も適切な処遇を決定することができる仕組みとするところにあります。
 しかし、本抗告審は、自ら積極的に調査を行って対象者の処遇の内容を決定するものではなく、地方裁判所の決定を前提といたしまして、決定に影響を及ぼす法令の違反の有無を判断するほか、事実認定や処分の当否については、原決定が著しく合理性、妥当性を欠くものではないかとの観点から判断し、原決定を維持できない場合にはこれを取り消して、再度、地方裁判所に差戻し又は移送する役割を担うものでございまして、その判断内容は裁判官による判断になじむものであると考えられますことから、抗告裁判所は裁判所法の規定どおり裁判官三名で構成することとしたものでございます。
浜四津敏子君 本法には第四章以降に地域社会における処遇についての規定がございます。精神障害者の社会復帰の促進を図るためには地域住民の皆様の理解と協力が必要不可欠と考えられます。しかし、現状におきましては、まだまだ偏見、差別が強いのが実情でございます。
 今回、この新たな処遇制度を創設するに当たりまして、この制度が実効性あるものになるためには精神障害者に対する差別、偏見の解消が不可欠と考えられますが、それに向けてどのように取り組もうとしておられるのか、お伺いいたします。
○政府参考人(津田賛平君) 御指摘のとおり、地域社会におきまして対象者の円滑な社会復帰を促進いたすためには地域住民の方々の精神障害者に対する差別や偏見を取り除くことが必要であると考えております。そのためにも精神障害者の社会復帰を支援しておられます個人や民間団体の協力を得ることが重要であると思います。本法案百九条におきましても、保護観察所の長は、本制度の対象者に対する民間の支援活動を促進するとともに、民間の方々らと連携して、対象者の円滑な社会復帰に対する地域住民の理解と協力を得るよう努めなければならないとしているところでございます。
 具体的な取組といたしましては、例えば精神障害者の社会復帰を支援するボランティア団体等の協力を得まして、本制度の対象者の社会復帰について理解と協力を得るための啓発活動を実施し、あるいは地域の実情に即して対象者やその家族と地域住民との交流の機会を設けるなど、地道に息の長い活動を続けていくことが考えられます。
 また、本件の新たな処遇制度を実施する過程で対象者が円滑に社会復帰する実績を積み重ねていくことが、長期的に見ますれば精神障害者に対する差別や偏見の解消につながっていくものと考えております。
浜四津敏子君 社会復帰調整官につきましては必要な専門性を有する者を新規に採用するということでございますけれども、十三日に行われました参考人質疑において浦田参考人からも御意見が述べられましたように、本制度の地域社会における処遇の枠組みはこれまでにない新規なものでございます。
 そうしたところから、社会復帰調整官採用後に十分な研修が必要と考えられますが、これについてはどのように取り組まれるお考えでしょうか。
○政府参考人(津田賛平君) お答え申し上げます。
 保護観察所に新たに置かれることになります社会復帰調整官は、精神保健福祉士の有資格者など精神保健や精神障害者福祉等に関する専門的な知識を有する職員を採用することといたしておりますが、本制度により新たに創設される精神保健観察等の事務を適切に行うためには、一般の精神保健等に関する知識や経験のみではなお不十分であると考えております。
 そこで、採用後におきましては、本制度の趣旨や各種手続の要件等を始めといたしまして、司法精神医学など本制度における処遇に必要とされる知識でございますとか精神保健観察等の実務に即した技術を習得させるため、採用者に対しまして相当期間の研修を実施することとしております。
浜四津敏子君 精神保健福祉法第二十五条の検察官通報でございますが、従来、この二十五条通報というのは安易に行われている傾向がある、本来、処罰されるべき者が医療に送られている、医療の現場に過大な責任が押し付けられているという声が精神医療の現場にはありますが、この点についてはどうお考えでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 精神保健福祉法第二十五条は、検察官に対しまして精神障害者又はその疑いのある被疑者について不起訴処分をしたとき等はその旨を都道府県知事に通報することを義務付けておりますが、この検察官の通報義務は、精神の障害により医療及び保護の必要がある者に対しまして広く医療等を受ける機会を与えるために課せられたものであり、その者の責任能力の有無、程度はもとより、措置入院の要否にもかかわりがないものでございます。
 検察官はこのような法の趣旨に従って通報義務を果たしているものと承知しており、仮に検察官による通報後の手続におきまして措置入院の必要がないとされ、あるいは精神障害者ではないと判断された場合でありましても、検察官が安易に通報しているとの批判は当たらないというふうに考えております。
浜四津敏子君 先日の参考人質疑の中でも出てまいりましたが、医療刑務所における精神科治療についてもかなり不十分な点があるのが現状のようでございますが、一般刑務所の中の受刑者につきましても、少なからぬ人が本来、精神病治療の対象となるべき精神障害者であったり、あるいは適切な処遇が必要とされるいわゆる精神病質、人格障害者という受刑者がかなりいて、そういう人たちが治療やあるいは処遇の対象から外れているというのが現状だと言われております。
 こうした受刑者に対しても必要に応じて適切な精神医療あるいは処遇が行われることが大事だと考えておりますが、刑務所の精神医療の向上を図るためにどのような取組を考えておられるのか、お伺いいたします。
○政府参考人(横田尤孝君) お答え申し上げます。
 精神科治療を優先すべき受刑者につきましては、医療刑務所等に収容しまして精神療法、作業療法薬物療法等の治療を行い、病状の改善が認められた場合には一般の刑務所に移すこととしております。
 一方、精神障害を有するものの医療刑務所等に収容するまでもない軽度の者につきましては、一般の刑務所におきまして、近隣の医療機関等の御協力を得ながら必要に応じて投薬等の治療を行いつつ刑務作業を行う矯正処遇を行うこととしております。
 しかしながら、刑務所における精神医療につきましては、ただいま委員から御指摘がございましたことも含めまして、また医師や医療スタッフの確保を始めといたしまして難しい問題が多いというのが現状でございます。そこで、矯正当局といたしましては、先般、発足させました矯正医療問題対策プロジェクトチームによる検討や行刑改革会議の御議論等踏まえまして、種々の御意見を考慮しながら、刑務所における精神医療をなお一層向上させますよう努力してまいりたいと考えております。
 以上です。
浜四津敏子君 本制度の必要性について議論の直接のきっかけになったのが二〇〇一年六月八日に発生いたしました大阪・池田小児童殺傷事件でございました。この事件の加害者につきましては、精神病質の中でもいわゆるサイコパスと言われる特質を持っているのではないかと言う専門家の方もおられました。
 このサイコパスというのは、アメリFBIで研究が続けられてきたものでございまして、ヒトラーサイコパスと言われております。あるいはオウム真理教麻原彰晃サイコパスの可能性が高いと指摘する専門家もおります。
 このサイコパスの特徴としては、普通ならためらう行為を何ら良心の呵責や罪悪感なく行う、また自己中心的、傲慢、他人との共感能力が欠如している、またせつな的で自分の行動をコントロールできないなどの特徴を持っていると言われております。
 アメリカでの研究によりますと、このサイコパスは人口の二・八%にも上っておりまして、社会的階層はすべての分野にわたっていて、知的レベルの高い医者や弁護士の中にも少なからずいるということでございます。このアメリカの比率がそのまま日本に当てはまるかどうかは疑問だと言う専門家もおりますけれども、最近の異常な犯罪の増加傾向を見るにつけ、大変心配しているところでございます。
 アメリカのFBIでは、近年、殺害状況などから犯人像を特定するプロファイリングの技術を取り入れているということでございます。いわゆる異常犯罪を犯した服役囚に直接インタビューをして、彼らの行動パターンあるいは思考様式などを研究してプロファイリング技術に生かすといった努力も続けられていると伝えられております。
 このサイコパスが広く国民に知られるようになりましたのは、日本でもヒットしたアメリカの映画「羊たちの沈黙」やその続編の「ハンニバル」で登場人物の一人の性格を表現する用語として使われてからでございます。
 こうした理解し難いような異常な犯罪というのは最近の傾向なのか、あるいは昔からあったことなのかにつきましては不明でございますが、ともかくサイコパスはいわゆる精神病ではございませんので、基本的に本制度の対象外、原則的に対象外となってまいります。しかし、いずれの国でもこれらの処遇は大変関心の高い課題で、日本でも、これも繰り返しになりますが、今後の重要な取り組むべき課題の一つだと考えております。
 アメリカやドイツ、イギリス、オランダ等々の国々で真剣にこうしたサイコパスを始めとする精神病質、また人格障害と言われる人たちの社会治療処遇についての研究実施が行われておりますが、日本でもこうした国々に倣って早急に真剣な取組をされることを要望いたしまして、質問を終わらせていただきます。