中間法人

前回(id:kokekokko:20060212)のつづき。

続・航海日誌さまから言及をいただきました。
http://www.seri.sakura.ne.jp/~branch/diary0602.shtml#0212

すなわち、従来は「基金の募集に関する文書」は申込用紙や募集広告とは別個のものという概念整理であったけれども、申込用紙や募集広告も「基金の募集に関する文書」に内包されるものと整理すべき、という判断があったのではないかと思料いたします。(処罰範囲は変更されないという結論に変わりはないものの、ただの表記の変更ではなく、概念整理の変更があった、との理解です。)

おかげさまで、私が思っていたことがある程度ハッキリとしてきました。申込証と募集広告とが旧法では別個扱いであったが、それが新法では統合された、という点は私も同意です。
まず、中間法人法が参照した商法等の規定では、その対象は以下のようになっています。

商法明治32年法律第48号)(改正前)
第490条第1項 第486条第1項ニ掲グル者、外国会社ノ代表者又ハ株式、新株予約権若ハ社債ノ募集ノ委託ヲ受ケタル者株式、新株予約権又ハ社債ノ募集ニ当リ株式申込証、新株予約権申込証、社債申込証若ハ新株予約権社債申込証ノ用紙、目論見書、株式、新株予約権若ハ社債ノ募集ノ広告其ノ他株式、新株予約権若ハ社債ノ募集ニ関スル文書ニシテ重要ナル事項ニ付不実ノ記載アルモノヲ行使シ又ハ此等ノ書類ノ作成ニ代ヘテ電磁的記録ノ作成ガ為サレタル場合ニ於ケル其ノ電磁的記録ニシテ重要ナル事項ニ付不実ノ記録アルモノヲ其ノ募集ノ事務ノ用ニ供シタルトキハ五年以下ノ懲役又ハ五百万円以下ノ罰金ニ処ス

<対象>重要な事項について不実の記載がある以下A〜C(「株式、新株予約権社債(そして新株予約権社債)」をまとめて「株式など」と表すことにします。以下同じ)
 A 株式などの申込証の用紙
 B 目論見書
 C 株式などの募集の広告その他株式などの募集に関する文書
 
Aの申込証の用紙と、Cの募集に関する文書とは別個扱いにされています。実際は、株式申込証は性質上として「株式の募集に関する文書」なのですが。

株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(昭和49年法律第22号)(廃止前)
(虚偽文書行使罪)第29条の4 第29条の2第1項に掲げる者が、株式、新株予約権又は社債の募集に当たり、株式申込証、新株予約権申込証、社債申込証若しくは新株予約権社債申込証の用紙、目論見書、株式、新株予約権若しくは社債の募集の広告その他株式、新株予約権若しくは社債の募集に関する文書であつて重要な事項について虚偽の記載のあるものを行使し、又はこれらの書類の作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録であつて重要な事項について虚偽の記録のあるものをその募集の事務の用に供したときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

<対象>重要な事項について虚偽の記載のある以下A〜C
 A 株式などの申込証の用紙
 B 目論見書
 C 株式などの募集の広告その他株式などの募集に関する文書
 
商法の場合と同様です。

会社法(平成17年法律第86号)
(虚偽文書行使等の罪)第964条 次に掲げる者が、株式、新株予約権社債又は新株予約権社債を引き受ける者の募集をするに当たり、会社の事業その他の事項に関する説明を記載した資料若しくは当該募集の広告その他の当該募集に関する文書であって重要な事項について虚偽の記載のあるものを行使し、又はこれらの書類の作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録であって重要な事項について虚偽の記録のあるものをその募集の事務の用に供したときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

<対象>重要な事項について虚偽の記載のある以下AB
 A 会社の事業その他の事項に関する説明を記載した資料
 B 当該募集の広告その他の当該募集に関する文書
 
こうみると、会社法の規定ぶりはかなりすっきりしています(なお、有限会社法では虚偽文書行使罪の規定はありません)。この改正で「其ノ他文書」(商法)・「その他文書」(特例法)が「その他の文書」(会社法)に変更されている点も、中間法人法と似ています。
しかしここでは、「申込証の用紙」が「募集に関する文書」に含まれる形で消えていますが、広告は依然として例示されています。
 
それでは、中間法人法での対象をみてみます。

重要な事項について虚偽の記載のある第14条第2項若しくは第74条第2項に規定する申込用紙又は基金の募集の広告その他基金の募集に関する文書

<対象(旧法)>重要な事項について虚偽の記載のある以下AB
 A 第14条第2項若しくは第74条第2項に規定する申込用紙
 B 基金の募集の広告その他基金の募集に関する文書
 

重要な事項について虚偽の記載のある第14条第2項又は第74条第2項に規定する申込用紙、基金の募集の広告その他の基金の募集に関する文書

<対象(新法)>重要な事項について虚偽の記載のある以下A〜Cの基金の募集に関する文書
 A 第14条第2項又は第74条第2項に規定する申込用紙
 B 基金の募集の広告
 C AB以外
 
というわけでここまでを整理すると、商法を参照したはずの中間法人法(旧法)は、商法と異なり改正後も申込用紙を例示しています。
私は、会社法でのAB間と、中間法人法でのABC間との関係ですっきりしなかったのです。
ともかく、branchさまの説示で、この改正が「処罰範囲の変更」でも「表記の明確化」でもないことがはっきりしました。刑法188条の改正(「その他」が「その他の」に変わった平成7年改正)のようなものなのでしょう*1

*1:そうなると、昨日書いた「表記の変更にとどまることになります。」というのは正しくなくて、「申込用紙」が「募集に関する文書」であることになるという概念変更がされたことになります。