条文記憶・民法総則

民法総則条文記憶メモ

このメモは数学・物理の公式集みたいなものである。ゆえに、
・厳密な正確さにこだわるより、おおまかに割り切る記述を心がけた。
・学問としての新規性は全くない。オリジナルの解釈や新しい資料は含まれていない。また、学説や判例を網羅しているものでもない。
・このメモは、目を通して理解を深める性質のものではない。公式集であるから、「わかっている」を(ある程度の)前提として、「覚える」を目指すものである。

1 代理

1 代理行為

(代理行為の要件及び効果)
第99条1項 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。

代理とは、法律行為における行為主体と効果帰属主体とを分離させる法制度である。AB間で法律行為(たとえば土地売買契約)を行うときに、Aが直接Bと契約を交わすのではなく、不動産売買の専門家CがAにかわってBと契約するという方法が用意されている。このとき、Aを本人、Bを相手方、Cを代理人と呼ぶ。契約行為は、代理人と相手方とで行う。契約の効果(各種の権利義務)は、本人と相手方が負う。代理人が持つ権利を、代理権という。
第99条では、要件として(1)代理人が(2)その権限内において(3)本人のためにすることを示してした(4)意思表示、という点を定め、効果として(1)本人に対して(2)直接に、という点を定めている。
本来民法は、自己のした意思表示にのみ拘束されるという原則であるが、現実の取引の不便を解消すべく、代理制度が認められている。その理由は、私的自治の拡張・補充である。つまり、全ての契約を自己で行うことは困難であり、また専門家を通して行うほうが有益であることも多く(拡張)、さらには制限行為能力者が権利義務を現実に行使できるように代理人を置く必要がある(補充)からである。
代理は、いくつかの区別方法により、分類される。
・任意代理と法定代理 代理権の発生原因が、本人の意思に基づくかどうか

任意代理 本人の信任を受けての代理  任意代理権が発生する
法定代理 本人の信任によらない法令による代理  法定代理権(親権者、成年後見人などがもつ代理権)が発生する

・能動代理と受動代理

能動代理 代理人が意思表示する
受動代理 代理人が、相手方の意思表示を受ける

・本代理と復代理

復代理 代理人が、自己の意思表示で(自己名義で)さらに代理人を選任して、本人を代理させること
本代理 復代理のもとの代理
(例)土地の売り手(本人)が選任した不動産業者(代理人)が、さらに弁護士(復代理人)を選任する場合。

・有権代理と無権代理

有権代理 代理権限のある代理
無権代理 代理権限のない代理

 
(注)代理と使者の区別 使者とは、本人の意思を表示する者、あるいは本人の意思表示を伝達する者である。使者は、効果意思を決定するのが本人であるという点で、代理とは異なる。代理は、代理人が意思決定する。
以後のイメージとして、任意代理では土地の売買契約を、法定代理では親権を想定するとよい。
  □  □  
代理では、本人Aと相手方Bと代理人Cという3者がいる。これにより、相互関係も3種類ある。
・本人Aと代理人Cの関係 ――代理関係
 代理権の範囲は、法定代理人の場合は法律上定められた範囲(例えば親権者につき民814条以下)であり、任意代理人の場合は授権した本人の意思による範囲となる。
・相手方Bと代理人Cの関係 ――行為関係
 法律行為を行うのは、相手方と代理人である。
・本人Aと相手方Bの関係 ――効果帰属関係
 代理人の意思表示により、法律効果は本人と相手方との間に発生する。
 
(例)土地売買で、売り手Aが買い手Bと直接に契約を交わすのではなく、不動産売買の専門家CがAにかわってBと契約する。
このとき、AはCに土地売却の代理権を与えているので、Cは任意代理人となる(代理権を発生させる契約には、委任のほかに雇用、請負などがある)。売買行為を行うのはBとCであり売却の意思表示はBが行うが、契約の内容は「Aを売主とする売買」である。
  □  □  
99条1項により代理行為が成立するための要件は、(1)代理人が(2)その権限内において(3)本人のためにすることを示してした(4)意思表示、であった。ここでは、(3)について検討する。
代理は、本人のためにすることを示してすることを要する。これを顕名主義という。効果の帰属を明らかにして法律行為を行うということである。

(本人のためにすることを示さない意思表示)
第100条本文 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。

99条での要件の一つである「本人のためにすることを示す」を満たさない場合に、第100条本文では「自己のためにしたものとみなす」という効果を定めている。つまり、99条の(3)を満たさないと代理は発生しない。
「本人のためにする」というのは、代理人(行為を行う者)ではなく本人に効果を直接帰属させる意思である。土地売却では、代理人は、自分Cが土地を売るのではなく他人Aの土地を売っているということを示さないといけない。ただし、本人に効果を帰属させる意思であればよく、本人の利益を図る意思までは必要ではない。つまり、代理人が、自己(あるいは当事者以外の者)のために行う代理行為も、代理として有効である(93条但書の類推により、本人に効果が帰属しない場合はありうる)。
「本人のためにすることを示す」方法としては、契約書に「A代理人B」と明示することが典型例であるが、明示がなくても諸事情により誰が本人か明らかになっていればそれでよい。相手方が、本人のためにすることを知っていた場合や、知ることができた場合には、代理行為が成立し、その効果は本人と相手方の間で生ずる。さらには、本人の名義で行った法律行為も、代理として有効な場合がある。親権者が意思能力のない子どもの名義で行った取引につき、判例は、「代理人に代理意思があると認められる限り、代理行為が有効である」とした。
受動代理のときは、相手方が、本人のためにすることを示す必要がある。
 
2 無権代理

無権代理
第113条1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。

99条の(2)の要件を満たさないとき、つまり代理権がないのに代理意思をもって代理行為がなされることを、無権代理という。
無権代理では、代理意思をもって代理行為がなされているので、代理人に対して効果は帰属せず、また、代理権がないので本人に効果が帰属することもない。つまり、無効である。土地の売買契約では、代理人Cが代理権なく勝手に売却する契約をしたときには、無権代理となり、売却の効果は本人Aにも代理人Cにも帰属せずに無効となる。これが原則である。
ただ、そうなると代理人を信頼して取引した相手方が保護されないので、一定の場合には、取引を保護する制度がある。民法第113条1項では、代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、「本人がその追認をしなければ」、本人に対してその効力を生じないとする。ここでは、本人が追認して法律行為の効果を発生させるという選択肢を、民法は設定している。無権代理では、代理人と相手方の2者は納得して法律行為を行っている以上は、あとは本人さえ納得すれば、意思が欠けるところがないのである。
無権代理は、絶対無効ではなく不確定無効である。本人が追認すれば、契約の時点にさかのぼって有効となり、本人が拒絶すれば、無効が確定する。
  □  □  
無権代理では、本人がとることができる選択肢は、追認、追認の拒絶、なにもしない(追認または拒絶のいずれかをしなければいけないという義務はない。本人の知らない間に無権代理行為が行われているからである)という3つである。
追認は単独行為であり、その意思表示は、相手方または無権代理人に対してする。相手方に対してしない追認は、相手方がそれを知ったときでなければ、対抗できない。追認は黙示でもよい。契約の存在を認めるような行為(履行の請求など)を本人が行えば、黙示の追認とされる。追認すれば契約の時にさかのぼって効力を生じるが、別段の意思表示があればそれに従う。
本人が追認しても、無権代理人の代理行為は違法であるので、不法行為により損害賠償を請求できる。
追認拒絶は、追認しないという意思表示である。意思表示の相手については、追認と同様である。
  □  □  
無権代理では、相手方がとることができる選択肢は、催告、取消、無権代理人の責任追及、表見代理の主張の4つである。
相手方は、本人に対して、相当の期間を定めて、追認するかどうかを答える旨を催告することができる。本人の催告があればそれに従って無権代理行為の効果が確定し、本人の催告がなければ、追認は拒絶されたとみなされる。
また、相手方は、取消の意思表示によって、無権代理行為の無効を確定することができる。取消の意思表示は、本人に対しても無権代理人に対してもできる。
相手方の取消は、本人が追認をする以前になされなければならない。また、契約の時に代理人に代理権がなかったということを知っていた相手方は、取消を行うことができない。この場合でも、相手方は催告はできる。
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無権代理契約が無効として確定すると、無権代理人は、相手方の選択に従い契約の履行又は損害賠償の責任を負う(117条)。この責任は、無過失責任である。
要件は、(1)無権代理人が自己の代理権を証明することができないこと(2)本人が追認しないこと(3)無権代理人が代理権を有しないことについての相手方の善意無過失(4)無権代理人が行為能力者であること(5)相手方が取消をしていないこと、である。(1)〜(4)は条文の規定であり、(5)は、相手方が取り消せば契約ははじめからなかったものとして扱われるから117条での責任を追及できないからである(不法行為による損害賠償請求はできる)。
責任の内容は、契約の履行又は損害賠償である。契約の履行は、代替的給付の場合にのみ認められ、本人が負担したであろうものと同一の債務を履行することになる。たとえば売買契約では、買い手Bは売り手側の無権代理人Cに対して、同一種類物の売却を請求できる。損害賠償では、履行利益(契約が有効であったら相手方が得ていたであろう利益。果実など)を含めて請求できる。
 
3 表見代理

(代理権授与の表示による表見代理
第109条本文 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。

無権代理で相手方がとりうる選択肢の一つが、表見代理という制度である。取引保護のために、本人と無権代理人との間に、代理権の存在を信じさせる外観を有する事情があるときには、民法表見代理によって相手方を保護する。表見代理は相手方の選択肢の一つであるから、成立する場合であっても相手方がこれを選択せずに、契約を取消したり117条で無権代理人の責任を追及したりしてもよい。
本人AがCに名前貸しをしていた場合、CがAの代理人であると信じて契約した相手方Bは、表見代理によって保護されうる。
民法が規定する表見代理の種類は、(1)代理権授与の表示(2)代理権限外の行為(3)代理権消滅後の行為であり、109条は(1)の場合についての規定である。本人が相手方に、代理権の存在を示したような場合には、その代理権が実際には存在しなかったときでも、本人は代理行為の責任を負い、代理行為が有効であるときと同じく契約履行の責任を負う。
表見代理の効果は、契約の有効である。本人と相手方との関係では、代理権があったものとして扱われる。一方、本人が受けた損害は、無権代理人の不法行為として賠償される。表見代理の要件は、それぞれの種類ごとに定められている。
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代理権授与の表示の成立要件は、(1)本人が第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示し、(2)無権代理人がその代理権の範囲内において代理行為を行い、(3)相手方が善意・無過失であること、である。
(1)について、保護の対象は、授権の表示を直接受けた相手方に限られる。授権の表示は、不特定人に対してのものでもよく、また、口頭でも文書でもよい。授権表示を撤回しても、授権の外形が残る場合には、善意の第三者に対して効力が残る。代理権授与の表示が必要であるため、法定代理には109条は適用されない。
また、授与表示の内容には、代理人・代理権という言葉が使われていなくてもよい。他人が自己の代理人であると称して代理行為のような行為を行っているのを、本人が黙認している場合には、代理権授与の表示があったとされる(判例)。
(2)について、代理権の範囲を超えた場合には、後述の代理権限外行為の規定を重畳的に適用して表見代理を認める(判例・通説)。
(3)について、取引保護のために外観を優先する民法規定の一般例に従い、相手方の善意・無過失が要求される。なお109条での善意・無過失の立証責任は、本人にある(判例)。
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代理権限外の行為による表見代理は、何らかの代理権(これを基本代理権という)を有する代理人が、その代理権を超えて代理行為を行った場合に認められる表見代理である(110条)。成立要件は、(1)代理人がその権限外の行為をし、(2)相手方が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき、である。
(1)について、基本代理権があることが要件である。基本代理権は法定代理権でもよいとされる(判例)が、法定代理権の範囲は法定されているので、権限外の行為について後述の「信ずべき正当な理由」があることは考えられにくい。基本代理権は私法上の行為に限られる(判例)が、登記申請行為のような公法上の行為であっても、特定の私法上の行為の一環としてなされる場合には、基本代理権となりうる(判例)。基本代理権は法律行為に関する代理権に限られ、事実行為の代行権限は含まれない(判例)。権限外の行為につき、基本代理権での代理行為と現にされた行為とは同種同質のものである必要はない(判例)が、この両者が異種異質のものであるときは、後述の「信ずべき正当な理由」の範囲は狭くなる。
(2)について、相手方の善意・無過失が要求される。110条の適用が認められる例として、実印・委任状等を預かった者が権限外使用する事例がある。代理人が本人の実印等を所持するときは、正当な理由(相手方の無過失)が認められやすいが、代理人が本人の親族である場合(実印の入手が容易である)や不動産取引・連帯保証の代理を行う場合(取引金額が比較的高額)には、相手方の正当な理由は認められにくい。
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代理権消滅後の行為は、代理権を有していた代理人が、その代理権が消滅した後もなお代理行為を行った場合である(112条)。成立要件は、(1)以前に存在していた代理権が消滅していること、(2)相手方の善意・無過失、である。
代理権は、本人の死亡、代理人の死亡又は代理人の破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたことにより、消滅する。また、任意代理は内部関係の終了(たとえば委任の終了)により消滅し、法定代理はそれぞれの規定に定める原因(たとえば親権につき、子が成年に達するとき)により消滅する。
(1)について、代理権が存在していたことが要件である。代理権は存在していれば足り、実際に代理人と相手方とで契約がされていたことは必要ではない(相手方の善意・無過失を判断する資料となる)。代理権は、法定代理権でもよい(判例)。
(2)について、相手方の善意・無過失の立証責任は、本人にある(判例)。112条の適用が認められる例として、被雇用者である代理人が、雇用終了ののちも引き続き相手方と契約を行った事例がある。被雇用者であった時に代理人として行っていた取引の内容が、相手方の善意・無過失の判断資料となる。
表見代理の種類は今までに挙げた3種類であるが、これらが複合しているときには、重畳的に表見代理が認められる。代理権消滅後に、過去に有していた代理権の範囲を超えて代理行為を行った場合には、112条と110条が重畳的に適用される。ただし判例は、これらの種類の表見代理を個々に認定するわけではなく、両条文の法意より推論して認定する。つまり、表見代理の要件が複合しているときには、無権代理人の背信性が大きくなっているわけであるから、相手方の無過失が認められる基準が厳しくなる。