条文記憶・民法総則

前回(id:kokekokko:20080609)のつづき。このノートの概要はid:kokekokko:20080610:p1参照。

3 権利主体

1 権利能力・意思能力・行為能力

(未成年者の法律行為)
第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

民法総則では、行為者(主体)にどのような権利・義務が与えられることができるか(能力)という、主体の能力について規定されている。この主体の能力に該当するものは、権利能力、意思能力、行為能力の3種類である。
権利能力は、権利・義務の主体となることができるという地位・資格である。権利能力が認められているのは自然人と法人であり、自然人については、出生から死亡までの期間について権利能力が認められる。胎児については原則として権利能力はないが、不法行為に基づく損害賠償請求権と相続・遺贈の場合については、例外的に権利能力が認められる。
意思能力は、行為の結果を判断できる精神上の能力をいう。民法に直接の条文はないが、幼い子供や精神病者などの意思表示には、権利義務を発生させる法的拘束力を認めることはできない。意思無能力者のした行為は、無効である。ただし、どのような行為が無効になるかは、総合判断が必要である。たとえば、同じ10歳の子供でも、小額商品の売買を行う場合と不動産への抵当権設定を行う場合とでは、意思能力の有無の判断は異なる。
行為能力は、権利・義務を得るための行為を単独で行う能力をいう。意思能力の判断が困難であるために取引の保護が必要であるから、民法では行為能力についていくつかの規定を定めている。そこでは一定の基準を定めて、それに達しない者(制限行為能力者)の行為を、取り消すことができるとする。これにより、弱者を保護しつつ取引の安全を保証しているのである。民法5条では、制限行為能力者の一例として未成年者(20歳未満の者)をあげ、(1)未成年者の(2)法律行為のうち(3)単に権利を得、又は義務を逃れる行為を除く行為は(4)法定代理人の同意が必要であり、(5)同意なき行為は取り消すことができる、とする。制限行為能力者の行為は、意思能力を有していたかどうか(これは無効要件である)にかかわらず、取り消すことができる。
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(1)成年時期については、20歳をもって成年とする。婚姻すれば、成年に達したものとみなされる。
(3)単に権利を得、又は義務を逃れる行為は、未成年者の利益を害さないので、単独ですることができる。負担のない受贈などがこれに該当する。これに該当せず同意が必要な行為の例は、売買、賃貸借、債務の弁済を受けること、相続の承認・放棄などである。弁済を受ける行為は、債権の消滅などの原因となるので、5条但書に該当しない。また、法定代理人により処分を許された財産の処分は、包括的な同意があると考えられるので、単独ですることができる。一定範囲の財産に限定されている処分は、これに該当する。たとえば、学費や小遣いの処分などである。さらに、法定代理人により許されたその営業に関する行為も、単独ですることができる。営利を目的とする継続的事業は商業に限らずこれに該当し、また法定代理人による営業の許可は、明示でも黙示でもよい。
(4)法定代理人は、親権者、成年後見人である。親族編で詳しく学ぶ。
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未成年者以外の制限行為能力者として、成年被後見人被保佐人および被補助人の制度がある。いずれも、精神上の障害による行為能力の制限である。
成年被後見人は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた者である。審判は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官が、家庭裁判所に請求することができる。成年被後見人の法律行為については、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて、取り消すことができる。成年被後見人法定代理人は、成年後見人である。
後見開始の審判の原因が消滅したときは、家庭裁判所は、後見開始の審判を取り消さなければならない。取消しを請求できるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)、検察官である。この取消しは、効力がさかのぼることはなく、将来に向かってのみ効力を生じる。
保佐は、成年後見に至らない程度の精神障害における制度である。保佐の制度によって取り消しうるとされる行為は、民法13条1項に規定された行為(例えば借財又は保証をすること、不動産などに関する権利の得喪を目的とする行為をすること)であり、被保佐人がこれらの行為を行うときには、保佐人の同意を得なければならない。
補助は、保佐に至らない程度の精神障害における制度である。補助の制度によって取り消しうるとされる行為は、民法13条に規定された行為のうちあらかじめ審判(17条1項)によって定めていた特定のものである。被補助人がこの行為を行うときには、補助人の同意を得なければならない。
なお、婚姻や縁組などの身分行為については、制限行為能力者でも単独で有効にすることができる。詳細は家族法で学ぶが、たとえば、未成年者の婚姻では父母の同意が必要であるが(737条)、未成年者が親権者の同意なく行った婚姻は取り消しうる行為とはならない(婚姻届不受理となる)。
 
行為能力の制限をまとめると、次のようになる。

保護者 同意・代理が必要な行為
未成年者 親権者・未成年後見 すべての法律行為(単に権利を得または義務を逃れる行為、法定代理人により処分を許された財産の処分などを除く)
成年被後見人 成年後見 すべての法律行為(日用品の購入その他日常生活に関する行為)
被保佐人 保佐人 13条1項各号の行為
被補助人 補助人 13条1項各号のうちの特定の行為

未成年者の行為は法定代理人の同意があれば有効であるが、成年被後見人の行為は後見人が代理しないと取り消しうる行為となる。被保佐人・被補助人の行為は保佐人または補助人が同意すれば有効である。
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保佐・補助について、もう少し詳しくみてみる。
被保佐人は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者で、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者である。審判は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官が、家庭裁判所に請求することができる。被保佐人民法13条に規定された行為(例えば借財又は保証をすること、不動産などに関する権利の得喪を目的とする行為をすること)を行うときには、保佐人の同意を得なければならない。同意を得ずにした行為は、取り消すことができる。また、保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる(第13条3項)。被保佐人法定代理人は、保佐人である。
保佐開始の審判の原因が消滅したときは、家庭裁判所は、保佐開始の審判を取り消さなければならない。取消しを請求できるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、検察官である。この取消しは、効力がさかのぼることはなく、将来に向かってのみ効力を生じる。
被補助人は、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者で、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者である。審判は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官が、家庭裁判所に請求することができる。本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意が必要である。補助開始の審判は、それ自体だけでは本人の行為能力を制限せず、「特定の法律行為について補助人の同意を得なければならない旨の審判」(17条第1項)または「特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判」(876条の9第1項)により本人の行為能力を制限できる。補助開始の審判は、これらの審判とともにしなければならない。被補助人が民法13条に規定された行為の一部を行うときに、補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。同意を得ずにした行為は、取り消すことができる。また、補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる(第17条3項)。被補助人の法定代理人は、補助人である。
補助開始の審判の原因が消滅したときは、家庭裁判所は、補助開始の審判を取り消さなければならない。取消しを請求できるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助人、補助監督人、検察官である。この取消しは、効力がさかのぼることはなく、将来に向かってのみ効力を生じる。
保佐・補助では、特定の法律行為について代理権付与の審判がなされることがある。また、成年後見・保佐・補助のそれぞれの審判を受けている本人が、判断能力の変化により別の審判事由の要件に該当する程度に至ったときには、その開始審判の際に家庭裁判所は、本人にかかる審判を取り消さなければならない。たとえば成年被後見人が、保佐を要する程度にまで判断能力が回復したときには、保佐開始の審判のときに、家庭裁判所は後見開始の審判を取り消さなければならない。
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制限行為能力者のした行為のうち一定の要件に該当する行為は、行為者の側で取り消すことができる。このとき、有効か無効かを確定するのは行為者の側なので、相手方は不安定な状態となる。そのために、相手方を保護する制度がある。制限行為能力者の行為が取り消しうるとき、相手方がとることのできる選択肢は、(1)催告(2)詐術による取消権否定の主張(3)法定追認の主張(4)取消権の消滅時効の主張、である。(3)は法律行為の項を参照、(4)は時効の項で述べる。

制限行為能力者の相手方の催告権)
第20条1項 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、1箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

催告権は、確答のない場合に一定の意思表示があったものとみなすことができる権利である。20条では、行為者が行為後に行為能力者となった場合に、相手方に、確答のない場合に追認したとみなす催告権を認めている。相手方は、1か月以上の期間を定め、行為者に対して行為を追認するか確答せよと催告することができる。確答がなければ、行為が追認されたものとみなされる。
この規定以外の催告も含めると、催告ができる場合とは、相手が、取消し・追認ができる者(たとえば行為者の代理人)(120条)であり、なおかつ意思表示の受領能力がある者(たとえば成年者)(98条の2)であるときである。催告の確答の時点は、発信主義を採る。催告を受けた者が単独で追認しうる状態であれば、確答のないときに追認とみなされ、単独で追認しえない状態であれば、確答のない時に取消しとみなされる。
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詐術による取消権否定は、行為無能力者が詐術を用いて行為能力者であると偽り、相手方がそれを信用した場合には、行為者が取消権を失う規定である。要件は、行為能力者であることを信じさせる目的をもって(判例)詐術を用いて、相手方が行為能力者であると信じ、または同意権者の同意があると信じたことである。ここでの詐術とは、制限行為能力者であることを単に黙秘していた場合は詐術に該当せず(判例)、また、他の言動とともに相手方の誤信を強めさせた場合は該当する。なお、制限行為能力者自身が詐術を用いるか、制限行為能力者が他人に詐術をさせることが必要であるとされる。

4 時効

1 取得時効と消滅時効

(債権等の消滅時効
第167条 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。

時効とは、ある事実が継続する場合に、その事実が権利関係として認められるという制度である。例えば金銭を借りた者がこれを返し、20年ほど経過した後に突然貸主から当時の借用証書を突き付けられて「返せ」と主張されたらどうであろうか。裁判官に「既に返した」と言いたいとしても領収書を永遠に保管するとは限らないであろう。このときに、借金を返済して返済義務は消滅しているという法的権利(証明が困難)のかわりに、長きにわたる時間の経過という事実状態(証明は容易)を証拠として裁判所に提出するという制度を、民法は用意しているのである。この考え方のほかに、時効制度が存在する理由としては、事実状態の尊重による取引安全の保護や、権利の上に眠る者の不保護という考え方があり、さまざまな時効制度の場面で複合的に考慮される。
時効は、取得時効と消滅時効とに分けることができ、取得時効は主に物権について成立し、消滅時効は主に債権について成立する。
消滅時効の規定として、167条では、10年間行使しないことを要件として、権利の消滅という効果を定めている。権利行使について法律上の障害があるときには時効は進行しない。消滅時効の期間は、以下のように定められている。
・債権: 10年
・債権又は所有権以外の財産権: 20年
・定期金債権: 第1回の弁済期から20年、または最後の弁済期から10年
・定期給付債権: 5年
・医師の診療に係る債権等: 3年
・弁護士の職務に係る債権等: 2年
・飲食店の飲食料に係る債権等: 1年
・判決で確定した権利: 10年
3年〜1年で消滅する債権にかかる時効を、短期消滅時効とよぶ。短期消滅時効は、通常の債権となるか、あるいは判決で確定すると、消滅時効の期間は10年となる。たとえば飲食料にかかる債権(食事代のツケ)の時効は1年であるが、これを金銭債権にすると時効は10年になる。
消滅時効の起算点は、権利行使について法律上の障害がなくなったときである。例えば、確定期限のある債権(返済期日のある金銭貸借など)はその期限が到来した時点から時効が開始し、不法行為に基づく損害賠償請求権は被害者側が損害および加害者を知った時点から時効が開始する。
時効の効力は、起算日にさかのぼる。消滅時効について、時効によって債務を逃れた者は、時効の期間中の利息や損害金を支払う必要はない。
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時効の中断とは、時効期間が進行を開始した後、一定の事情があれば進行を中断してそれまでの期間を無効にする制度である。例えば、金銭債務支払いの催促を受け続けた者が、これを10年間無視し続けると時効が完成することになる。これを避けるために、一定の事由があれば時効は中断され、ふりだしに戻される。
時効中断の事由は、(1)請求(2)差押え、仮差押えまたは仮処分(3)承認であり(民147条)、これらを法定中断とよぶ。法定中断の効力は、当事者間にだけ生じる(物権で例外がある)。中断事由が終了すると、改めて時効が開始する。
(1)請求は、時効で利益を得る者に対して、裁判上又は裁判外で、自己の権利を主張する行為である。この請求には、裁判上の請求(訴えの提起)、催告等がある。裁判上の請求では、訴えが却下され、または取り下げられたときには時効中断の効力は生じない。催告は、債権者が、債務の履行を要求する意思を通知することである。それ自体が独立して中断事由となるのではなく、その後6か月以内の裁判上の請求などの手続きによって、催告に中断の効果が生じる。
(2)差押え等は、裁判上の請求に準じて、自己の権利を公にする行為である。
(3)承認は、時効で権利を得る側が、権利を失う側に対して、権利の存在を表示することである。債務の一部弁済や、利息の支払いをしたり、猶予を求めたりすることなどが、承認に該当する。承認をするには行為能力や権限があることを要しない(民156条)ので、被保佐人が保佐人の同意を受けないでした承認にも、時効中断の効力がある。承認は、「すでに得た権利の放棄」でも「新たな義務の負担」でもないからである。なお、承認も財産管理のひとつであるので、承認を有効に行うには管理能力が必要であるとされ、たとえば未成年者・成年被後見人は承認することができないとされる。
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時効の停止とは、時効の完成の間際に一定の事情があれば、時効の完成が猶予される制度である。天災などがあった場合には時効がしばらく停止する。時効の停止は時効の中断と異なり、時効期間がふりだしに戻ることはなく、停止事由が消滅するとそれまでの時効も有効になる。
時効停止の事由は、権利者が未成年者・成年被後見人の場合や、天災などの外部的障害がある場合などである。時効で権利を失う側が未成年者である場合、時効の完成直前の6か月以内に法定代理人が欠けることがあると、未成年者は単独で中断手続きをとることができないので、かかる権利は時効消滅してしまう。これを避けるためにこの場合には、権利を失う者が行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6か月間は、時効が完成しない。
時効利益の放棄とは、時効が完成することによる利益を受ける側が、その利益を放棄することである。時効が完成する前には時効利益を放棄することができないが、時効が完成してから時効利益を放棄して、弁済などをするのは自由である。時効完成前に、完成を困難にする特約(中断事由の拡大など)を結んでも無効である。
時効完成後に、時効の利益を受ける者が、時効の完成を知って、債務の存在を前提とする行為(承認にあたる行為などであり、自認行為とよぶ)を行ったときには、時効利益の放棄とみなすこととなり、その者が当該時効を援用することは認められなくなる。問題は、ここで、時効の完成を知らずに自認行為を行った場合である。自認行為により、時効を援用しないという期待を相手方が抱くのであるから、自認行為をした者が時効消滅を主張することは、信義則に照らすと認められない、と判例はする。また、時効完成後に利益を放棄して、その後さらに新たに時効完成に必要な期間が経過すると、新たな時効が完成する。承認と異なり、時効利益の放棄には、処分についての行為能力・権限が必要である。時効利益の放棄は、権利の放棄の一種だからである。よって、被保佐人(時効完成前の承認は単独でできる)が時効完成後に債務を単独で自認しても、時効の利益の放棄にはならない。
時効の援用とは、時効の利益を受けるという意思表示である。当時者が主張しなければ、時効が完成していても裁判所はこれによって裁判をすることができない。これは、時効を援用することを潔しとしないとする者の自由を認める趣旨である。ここでの当事者(援用権者)とは、時効によって直接利益を受ける者であり(判例)、具体的には、債務者の保証人・連帯保証人、連帯債務者などがこれにあたる。