条文記憶・会社法

前回(id:kokekokko:20080610)(民法)のつづき。このノートの概要はid:kokekokko:20080610:p1参照。

1 株式会社

1 設立

(株式会社の設立)
第25条1項 株式会社は、次に掲げるいずれかの方法により設立することができる。
1 次節から第8節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式をいう。以下同じ。)の全部を引き受ける方法
2 次節、第3節、第39条及び第6節から第9節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法

株式会社が設立される際には、資本金が形成される。株式会社が株式を発行し、その株式を引き受けた者は株式と引き換えに財産を出資し、その出資が資本金を形成する。設立に際して発行する株式を設立時発行株式とよぶ。株式会社の設立には、発起人が1名以上必要である。発起人は、設立時に定款に署名することで就くことになり、設立時発行株式を1株以上引き受けなければならない。
株式会社の設立には、2種類の方法がある。その一つは、25条1項1号で規定された、設立時発行株式の全部を発起人が引き受ける方法であり、これを発起設立とよぶ。もう一つは、同2号で規定された、設立時発行株式の一部を発起人が引き受け、残りの設立時発行株式を引き受ける者を募集する方法であり、これを募集設立とよぶ。
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株式会社の組織・運営などを定める規則を、定款とよぶ。株式会社を設立するには、発起人が定款を作成して、発起人の全員がこれに署名または記名押印しなければならない。定款は電磁的記録で作成することができるが、この場合は法務省令で定める電子署名をしなければならない。
定款の記載事項のうち、必ず定款に定められなければならず、もし定めないとその定款自体が無効になる事項を、絶対的記載事項とよぶ。これに該当する事項は、(1)目的、(2)商号、(3)本店の所在地、(4)設立に際して出資される財産の価額又はその最低額、(5)発起人の氏名又は名称及び住所、の5つである(27条)。このうち(2)商号については、登記事項であり、「株式会社」の文字を用いなければならず、他の種類の会社と誤認されるおそれのある文字を入れてはならない。また、不正の目的で、他の会社と誤認されるおそれのある名称・商号を使用することはできない。さらに、同一の営業所または本店の所在地で、他人が既に登記した商号と同一の称号は、登記することができない。(3)本店の所在地は、本店が所在する独立の最小行政区画(市町村及び東京都区)をいう。(4)出資価額又はその最低額:では、額に下限の定めはない。27条に規定されたこれら5つの事項のほかに、会社が発行することができる株式の数(発行可能株式総数)も、定款に定めがないときには株式会社成立の時までに定めなければならない。公開会社の場合は、発行可能株式総数は、設立時発行株式の4倍を超えることができない。
定款の記載事項のうち、定款に定めなければその事項が無効になる事項を、相対的記載事項とよぶ。例えば、現物出資(金銭以外の財産の出資)をする者の氏名や財産の価額、その者に対して割り当てる設立時発行株式の数である。現物出資の評価は適正に行う必要があるので、これを定款に定める必要があり、もし定款に定めがなく現物出資をしたときには、その出資が無効となる。相対的記載事項のうち、28条で定められている事項を、変態設立事項とよぶ。変態設立事項は、主に発起人間での不公平を防止するために規定される。
定款の記載事項のうち、定款に定めなくても定款や事項の効力に影響がないものを、任意的記載事項とよぶ。任意的記載事項は、定款に定められると、定款を変更しない限りその内容を変更することはできない。
定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない。認証は、設立しようとする会社の本店の所在地を管轄する法務局(地方法務局)に所属する公証人による。認証は、定款の内容が適正であることを証明するのではなく、定款作成行為が真正に行われたことを証明するものである。認証を受けた定款は、株式会社成立前には原則として変更することができない。発行可能株式総数を新たに規定したり変更したりする場合(37条1項)などでは、発起人全員の同意により、会社成立前に定款を変更することができる。また、募集設立の方法においては、創立総会の決議で定款を変更することができる。これらの場合には、改めて公証人の認証を受ける必要はない。なお、株式会社成立後には、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。
株式会社成立前では、発起人は定款を備え置かなければならず、発起人及び設立時募集株式の引受人は、発起人が定めた時間内にはいつでも、定款の閲覧等を請求することができる。株式会社成立後では、会社は定款を本店及び支店に備え置かなければならず、株主及び会社債権者は、営業時間内はいつでも、定款の閲覧等を請求することができる。
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出資に際して、設立時発行株式の数などを発起人が定めようとするときには、発起人全員の同意を得なければならない。設立時発行株式の数は、必ずしも定款に定めなければいけないわけではないが、出資までにその数を定めておかないと、設立時の資本金の額を定めることができない。そこで、定款に定めがないときには、発起人全員の同意を得てこれを定める必要がある。ここでの「決定すべき事項」は、下の3種類である。
・発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
・上の設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
・成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項
このうち、最後の事項についてみてみる。設立に際しては、株式を引き受けた者が出資した財産の額が、株式会社の設立時の資本金となる。しかし、出資額の全てが資本金となるわけではなく、資本金として計上しない出資額(全出資額の2分の1以下)を払込剰余金として、資本準備金にすることができる。この資本準備金の額についても、設立の際に発起人の全員の同意が必要となる。
 
また、発起人は、定款に変態設立事項がある場合は、公証人の認証の後、遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対し検査役の選任の申し立てをしなければならない。検査役は、必要な調査を行い、その結果を裁判所に報告しなければならず、この報告をしたときには、検査役は発起人に対して、裁判所への報告の際に提出した書面の写し等を交付しなければならない。ここで裁判所は、検査役の報告を受けて、変態設立事項を不当と認めたときには、これを変更する命令をしなければならず、この変更があったとき発起人は、かかる決定の確定後1週間以内に限り、設立時発行株式の引受けに関する意思表示を取り消すことができる。また、発起人全員の同意により、かかる決定の確定後1週間以内に限り、その決定により変更された事項についての定めを廃止する定款変更をすることができる。
また、現物出資及び財産引受け(現物出資財産等とよぶ)に関して、次の場合には検査役の調査は不要である。
・現物出資財産等について定款に記載・記録された価額の総額が五百万円を超えない場合: 現物出資財産等についての事項すべてについて調査は不要。
・現物出資財産等のうち、市場価格のある有価証券について定款に記載・記録された価額が当該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合: 当該有価証券についての事項すべてについて調査は不要。
・現物出資財産等について定款に記載・記録された価額が相当であることについて、弁護士、弁護士法人公認会計士(外国公認会計士を含む)、監査法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出資財産等が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合: その証明を受けた財産にかかわる事項すべてについて調査は不要。ただし、その弁護士などが発起人や財産譲渡人である場合などは除く。
 
発起人は、設立時発行株式の引受け後、遅滞なく、その株式につき、出資に係る金銭の全額を払い込み、または財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意がある場合には、登記などを株式会社成立後にすることができる。この払込みは、発起人が定めた銀行などの場所でしなければならない。払込み・給付をすることにより設立時発行株式の株主となる権利の譲渡は、成立後の株式会社に対抗することができない。
発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該発起人に対して、期日を定めて、その期日までに履行すべき旨の通知をしなければならない。この通知は、期日の2週間前までにしなければならない。通知を受けた発起人は、期日までに出資をしないときは、設立時発行株式の株主となる権利を失う。
発行可能株式総数を定款で定めていない場合には、株式会社成立の時までに、発起人全員の同意によって定めなければならない。また、この総数を定款で定めている場合でも、会社成立までならば、発起人全員の同意によって、発行可能株式総数についての定款を変更することができる。
2 株式

(株主の責任)
第104条 株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。

株式会社の社員(社団の構成員)は、株式会社に出資をした株主である。株式は、株主の法律上の地位であり、細分化された単位という形式をとっている。また株式は、株主の株式会社に対する権利・義務の総称である。つまり、株式会社は、その実体を株式という形にして分割し、そしてその株式を購入(引受)した株主が、会社の所有者(の一部)となるのである。株式の譲渡には会社の承認が必要となるという制限がつけられることがあり、発行する株式の全てに譲渡の制限がある株式会社を譲渡制限会社、それ以外の株式会社、つまり譲渡制限がない株式を1株でも発行している株式会社を公開会社とよぶ。
株主の責任は、有限責任であり、その上限は株式の引受価額である(104条)。会社の負債が会社財産を超えて大きくなっても、株主の会社債権者に対する責任は、株式の限度にとどまる。会社が破産しても、社員は自分が引き受けた株を負担すればそれでよく、株の価値がゼロになるという損害を超える負担を株主が会社にする必要はない。これを株主有限責任の原則とよぶ。
また、株式は会社に対する均等な割合的持ち分であるため、同一種類の株式は同一の権利を有する。よって、株主は、所有する株式の数や種類に応じて平等に取り扱われなければならない。これを株主平等の原則という。
株主の権利として105条で挙げられているものは、(1)剰余金の配当を受ける権利(2)残余財産の分配を受ける権利(3)株主総会における議決権、の3つである。このうち、(1)(2)の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。また、株式が2名以上の共有に属するときには、共有者は、権利を行使する者を1人定めて会社にその氏名を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、権利行使について会社が同意したときは、この限りではない。
株主平等の原則にかかわらず、会社(公開会社を除く)は、105条での株主の権利について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨を定款で定めることができる。例えば、剰余金の配当・残余財産の分配を持株数に応ずるのではなく全株主に同額の配当をする扱いや、株主総会における議決権を1株につき1個ではなく1人につき1個とする扱いなどが、これにあたる。これを規定する定款を変更する(廃止する場合を除く)ときには、株主総会で総株主の半数以上(定款でこれを上回る割合を定めている場合にはその割合以上)であり総株主の議決権の4分の3以上(定款でこれを上回る割合を定めている場合にはその割合以上)の多数をもって行わなければならない。
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株券とは、株式をあらわす(表象する)有価証券である。株券は、発行されないのが原則であり、定款で株券を発行する定めがある会社(株券発行会社という)のみが株券を発行する。株券発行会社は、株式を発行した日以後遅滞なく、当該株式に係る株券を発行しなければならない。株券発行会社は、株式の併合・分割をしたときは、併合・分割の効力が生じた日以後遅滞なく、併合・分割した株式に係る株券を発行しなければならない。ただし、譲渡制限会社は、これらの場合でも株主から請求がある時までは株券を発行しないことができる。また、株券発行会社の株主は、会社に対して株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる。この申出は、かかる株式の数を明らかにしてしなければならず、当該株券が発行されているときは、当該株主はかかる株券を会社に提出しなければならない。不所持の申出を受けた会社は、遅滞なく、かかる株券を発行しない旨を株主名簿に記載・記録しなければならない。
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株式会社は、株式の取得について、特別の定めをすることができる。107条1項では、(1)譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること(2)当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること(3)当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること、の3種類の事項が定められている。
(1)の株式は、譲渡制限株式とよばれ、会社にとって好ましくない者が株主となることを防ぐための規定である。この株式を発行するには、譲渡によって取得することについて会社の承認を要する旨、および一定の場合に譲渡の承認とみなすときはその旨について、定款で定めなければならない。一定の場合の例としては、子への譲渡や株主間の譲渡などがある。
(2)の株式は、取得請求権付株式とよばれ、株主から請求があれば会社が当該株式を取得し、その対価として会社は当該株主に社債等を交付するという規定である。この株式を発行するには、取得の請求ができる旨、対価の内容、およびその請求ができる期間について、定款で定めなければならない。
(3)の株式は、取得条項付株式とよばれ、一定の事由が生じた場合に株主の意思にかかわらず株式会社が当該株式を取得できるという規定である。対価として会社が当該株主等に社債等を交付するという点は、(2)と同様である。この株式を発行するには、事由があれば会社が株式を取得できる旨とその事由、対価の内容などについて、定款で定めなければならない。
 
また株式会社は、株式の権利内容について、特別の定めをすることができる。内容の異なる種類の株式を、種類株式と呼び、2種類以上の株式を発行する会社を種類株式発行会社と呼ぶ。他の種類株式よりも有利な取扱いを受ける株式を優先株式と呼び、不利な取扱いを受ける株式を劣後株式と呼び、それらの標準となる株式を普通株式と呼ぶ。
種類株式の内容となる事項として、108条1項では、(1)剰余金の配当・残余財産の分配に関する優先株式・劣後株式(2)議決権制限株式(3)譲渡制限株式(4)取得請求権付株式(5)取得条項付株式(6)選解任種類株式(取締役・監査役についての選任権・解任権についての制限がある株式)などが規定されている。