法律効力(1)

法律の改正や廃止は、法律によって行われます。また逆にいえば、法律によって改正・廃止することができる対象は、基本的には法律であるということになります。これは当然でして、政令や省令が法律よりも下位の法規範であるとしても、国会以外が制定・公布するものですから、法律はその形式的内容を変更することができないわけです。
ところが、それにも例外があり、法律としての効力を認められた命令は、法律によって改正することができます。その例として、いわゆるポツダム命令と緊急勅令、そして公文式の頃よりも前に制定された法令があります。
ポツダム命令は、ポツダム宣言により「命令(勅令・政令・省令)に法律としての効力を与える」としたものです*1。これにより「出入国管理令」は法律効力をもつ政令、つまり本来は法律の形式で制定すべき内容をもつ政令として公布されました。これの改正は以後、法律で行われており、名称も「出入国管理及び難民認定法」と変更されました。「〜法」と名がついていますが、政令です。
ただ、ポツダム命令が現在も無条件に法律効力をもつかというとそうではなく、出入国管理令は、措置法によって規定されていることを根拠としています。

ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律第126号)
出入国管理令の一部改正)
第1条 出入国管理令(昭和26年政令第319号)の一部を次のように改正する。
【略】
 
(将来存続すべき命令)
第4条 第1条及び前条に規定する命令は、この法律施行後も法律としての効力を有するものとする
 
(命令の廃止)
第5条 左の命令は、廃止する。
1 朝鮮人中華民国人、本島人及本籍を北緯三十度以南(口之島を含む)の鹿児島県又は沖縄県に有する者登録令(昭和21年厚生省令、内務省令、司法省令第1号)
【略】

この措置法の第4条を根拠として、出入国管理及び難民認定法は、現在でも法律効力を認められているわけです。
この措置法では、同時に第5条で、省令が廃止されています。ポツダム命令としての省令は法律で廃止することができる、という例です。
一方、緊急勅令は、旧憲法で認められた形式で、国会閉会中に法律としての効力をもつ勅令を制定できるとしたものです。

第8条 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス

これにより、たとえば食糧緊急措置令(昭和21年勅令第86号)は法律としての効力を持ち、これの改廃は法律によってなされることになりました(平成6年法律第113号によって廃止)。
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さて、今回取り上げたいのが、そのほかの場合、つまり法律という形式が定まるよりも前に公布された法令の改廃です。
これについて、法制執務コラム集では、次のように説明されています

それでは、明治憲法下で制定されたポツダム命令以外の命令であって、法律をもって規定すべき事項を規定していたものは、日本国憲法施行の際にどうなったのでしょうか。そういった命令は、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」(昭和22年法律第72号)において、昭和22年12月31日までは暫定的に法律と同一の効力を有するものとされるなどしましたが、その間に法律に改められるなどして現在ではそのような命令は存在しません。これに対し、明治憲法前の法令には、例えば「爆発物取締罰則」(明治17年太政官布告第32号)のように、法律としての効力を有するものがあります。

これによれば、
1.明治憲法下で制定された命令: 昭和22年法律第72号による
2.明治憲法前の法令: 法律としての効力を有する
という区分があるということになります。昭和22年法律第72号では、以下のように規定されています。

第1条 日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定で、法律を以て規定すべき事項を規定するものは、昭和22年12月31日まで、法律と同一の効力を有するものとする。
 
第1条の3 行政官庁に関する従来の命令の規定で、法律を以て規定すべき事項を規定するものは、昭和23年国家行政組織に関する法律が制定施行される日の前日まで、法律と同一の効力を有するものとする。
 
第1条の4 左に掲げる法令は、国会の議決により法律に改められたものとする。
 墓地及埋葬取締規則(明治17年太政官布達第25号)
【以下略】
2 前項に掲げる法令の効力は、暫定的なものとし、昭和23年7月15日までに必要な改廃の措置をとらなければならない。
3 第1項に掲げる法令は、昭和23年7月15日までに法律として制定され、又は廃止されない限り、同月16日以後その効力を失う。

つまり、「明治憲法下で制定された命令」については、昭和22年限りでその効力を認め(1条)、そのうち一部のものについては、昭和23年7月15日まで効力が認められている(1条の4)というわけです。墓地及埋葬取締規則は参議院法制局コラムにいう「明治憲法下で制定された命令」には該当しませんが(明治憲法以前の制定)、法律で規定すべき内容が含まれている命令とされています。
では、「明治憲法前の法令」についてはどうかといえば、これはまず、旧憲法

第76条 法律規則命令又ハ何等ノ名称ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス

としてその効力を認められ、そして法律効力を認められているものは法律として、命令効力を認められているものは命令として扱われます。たとえば爆発物取締罰則は、法律効力を認められたために、旧憲法のもとでも現行憲法のもとでも、法律によって改正されています。一方、褒章条例明治14年太政官布告第63号)は、政令としての効力を有するとされ、現在では政令によって改正されています。
なお、この褒章条例について、変な法律(http://www.ceres.dti.ne.jp/~chu/law/hori_402.htm)では、

褒章って、明治時代の法律で規定されていたんだね。

改正されたってことは、今でも有効ってコトなんだね。
だけど、なんで改正するときに名前も「褒章法」ってしなかったのかな?

とされています。しかし政令として扱われているものに「〜法」とつけることは通常ないわけで、「(現在の定義での)条例じゃないのに条例と名前が付いている、ムカシはいいかげんだったんだ」としておきながら、書いている側もけっこういいかげんなのかな、という気もします。
本題に戻って、旧憲法以前に制定されたものについては、その内容によって法律効力か政令効力などをもつとされ、それぞれの扱いを受ける、ということになります。

*1:この形式は、昭和20年勅令542号によって定められています。