著作権法の検討・いわゆるCCCDと技術的保護手段の回避(1)

このあたりのことは早く論文に書きたいのですが、先に例の3部作を紀要に書かなければいけないので、いつになることやらです。

さて、いわゆるCCCD、コピーコントロールCDといわれる技術群を避けてCDをコピーすることが、著作権法30条1項2号の「技術的保護手段の回避」にあたるか、という問題の検討です。例によって、基本的な用語なんかはスキップ。
結論的には、かかる回避行為を行っても本条文には該当しない、というのが多数説ですが、その構成についてはいろいろ説があります。

問題は大きく分けて、
(1)CCCDが技術的保護手段にあたるか
(2)避けてコピーすることが回避にあたるか
の2点あって、たとえば田島氏の見解は、「(1)技術的保護手段にはあたるけれど(2)回避にはあたらない」とされています。

ではまず、(1)の保護手段の該当性について検討してみます。

ZDNet:不十分だったために何も意図せずできてしまうということですか……。それは,コピーコントロール機能と言えないのでないでしょうか?

田島氏:一般の方からみるとそうかもしれませんが,エイベックスとしては,(コピーコントロールを)かけているつもりだと思います。ただ,回避措置を“意図的”にとらなくても,できてしまう,ちょっとひどい言い方ですが,その程度の保護手段だったということです。ですが,何かをかけているのは間違いありません。一応,技術的な保護手段といえるでしょう。

どうやら田島氏は、「何かをかけているのは間違いありません」、という点から、「一応」との限定つきで「保護手段にあたる」としています。

ZDNet:では,技術的保護手段の定義とは,どういったものだと思えばよいのでしょうか?

田島氏:法は,もっと“高度”な技術的保護手段を想定しているはずです。例えば,先ほど説明したように,コピーするためには,専用のハードウェアやソフトウェアが必要になるなどの“特別なもの”を使用しなければできないようなものです。

ZDNet:というと。DVD-Videoなどのようなコピーコントロールを考慮して規格化が行われたものということになりますね。DVD-Videoなら通常CSSというコピープロテクトが入っていますし,それを外さないとコピーできませんから。

技術的保護手段については、2条1項20号に定義があります。

2条1項20号
技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識できない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第17条1項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第89号6項に規定する著作隣接権(以下この号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第30条第1項第2号において同じ。)をする手段(著作権等を有するものの意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方法によるものをいう。

条文から見てとれる技術的保護手段の定義は以下です。
 (1)電磁的方法による。
 (2)著作権等を侵害する行為の防止または抑止のための手段である。
 (3)機器が特定の反応をする信号を記録する。
 (4)音若しくは影像とともに記録媒体に記録する方法による。
これに該当しないと、「何らかの保護」をかけたとしても、本条でいうところの保護にはあたらないのです。

CCCDを検討すれば、
 (1)CCCDはPC用CDピックアップで読み込めなくして、よって再生を不可能にするものであるから、複製行為そのものを不可能にするものではありません。「視聴の制限を手段として複製を制限するような技術」は、本条には該当しません。たとえば有料放送へのスクランブル信号は、アクセスコントロールつまり視聴そのものへの制限であり、複製行為への制限ではないので、上記(2)に該当せず、ゆえに本条には該当しません。
 (3)一般的なCCCDはフェイクTOC(CDの時間情報が書き込まれている領域に偽の情報を書くこと)を使用しています。また、トラック1の始まりが「-1」になっている場合もあります。これを「機器が特定の反応をする信号」と解すれば、「著作物等とともに記録」されているものであると解することも可能です。しかし苦しいです。TOC自体は信号ですが、その情報を偽るということは信号とはいえません。もしいうならば、偽って書かれた信号が、本条で示すところの信号である、とすべきです。しかし、偽って書かれたとしてもそれはコピー制御信号のたぐいではなく、TOCTOCにかわりありません。単に「TOCと音楽信号が相違している」という状態にすぎないのです。このTOCが「機器が特定の反応をする信号」といえるかどうかは微妙でしょう(いえるかもしれませんが)。

というわけで、私見では(1)の根拠をもとに、「CCCDは、条文解釈上、技術的保護手段にあたるとみることができない」と考えます。

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また、田島氏は、以下のようにも書いています

ZDNet:つまり,ドライブ側がこうすると技術的保護手段を回避できると知って対応するということは……

田島氏:今回のコピーコントロールCDは,レッドブック規格外のようですが,例え規格外とはいえ,それをリッピングできたりコピーできるように対応することは,技術的保護手段回避を行うことを専らその機能とする装置を公衆に譲渡したものとして著作権法第120条の2第1号による処罰の対象になる可能性が高いということになります。

レッドブックに準拠していない(ですからCCCDはCDではありません)ことが技術的保護手段の該当性を左右しない、という点は私も同意です*1。つまり、もしCCCDが技術的保護手段に該当すれば、回避(信号の除去又は改変:30条1項2号)の該当性が問われるわけです。

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ところで、保護手段にあたらないとしても回避にあたらないとしても、結論は変わらないのに、なぜここで、技術的保護手段にあたるかどうかの検討が必要なのでしょうか。それは、技術的保護手段にあたるとしてしまえば、それを回避させるソフト(たとえば音楽CDについてTOC領域を読みこまず直接音楽データを読むソフトや、正しいTOCをその都度組みなおすソフト、物理アドレスを直接指定してリッピングするソフト)を頒布したり使用したりすれば、それが違法になる余地がでるからです。さらには、「『技術的保護手段の回避を助長することを専らの目的とする情報』を公衆に提供する行為」が不法となる可能性もあり(技術的保護手段の回避等に係る違法対象行為の見直しについて)、保護手段にあたるかどうかの検討はそれなりに重要だと考えるからです。

*1:つまり、査察報告書さま藝夢日報さまが「現在コピーコントロールCDが採用している方式はRed Bookに準拠していないことから、技術的にはCDプレーヤーやCD-ROMドライブがどのように動作するかは不定であって技術的保護手段には当たらないとする見解があります。」(査察報告書さま)とするのはヘンなのであり、条文上、あるいは著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ報告書 のうえでも、レッドブックに依拠していない規格だから技術的保護手段に該当しない、とはいえないわけです。