著作権法の検討・いわゆるCCCDと技術的保護手段の回避(2)

今日は月曜日にひきつづいて「回避」について書こうかと思ったのですが、ネットを巡回していたら藝夢日報さまが先日の私の日記に言及されていましたので、ご返事と書こうと思います。
いわゆるCCCDと技術的保護手段の回避については、こんどでる本の中で私の知人が検討しているのですが、ゲラを見た限り、紙数の問題と編集方針の問題などがあって、あまり深くこの問題にふれられていませんでした。「専門知識をも駆使してこの点を詳しく正確に説明している」のを私はちょっと期待していたのですが、どうもそうではなかったので、私は教科書指定には少し躊躇します。というわけで、そのかわりというと何ですが、私が月曜日に書いてみたわけです。

それはともかく、藝夢日報さまから疑問点が出されているので、書いてみます。

(質問1)「レッドブックに準拠していないこと」とは、どのような状態を想定しているかについて教えてください。

レッドブックでは「TOCに本来の情報ではない情報を記載する」「音楽データの部分にそれ以外の信号を混入させる」という方法は認められておらず、ゆえに、いわゆるCCCDはCDではありません。

(質問2)技術的保護手段の該当性とは、記事における4項目「(1)電磁的方法による。(2)著作権等を侵害する行為の防止または抑止のための手段である。(3)機器が特定の反応をする信号を記録する。(4)音若しくは影像とともに記録媒体に記録する方法による。」を満たしていること、と想定していると考えてよろしいでしょうか?

現行法の条文から見て取れる主な要件は、この4項目でしょう。とくに刑事罰を考慮する場合には、この要件は犯罪構成要件になりますので、これを満たさなければ技術的保護手段には該当しません。

  ***

(質問3)「レッドブックに準拠していないことが技術的保護手段の該当性を左右しない」と考える理由を教えてください。

さて、市販のCDプレイヤーやCDドライブは、このレッドブックを基にして作られています。ですから、レッドブックに準拠していないディスクは市販のものでは作動しないことになります。ただ、確かにレッドブックでの規格とのズレがあまりに大きすぎるディスクだと全く作動しませんが、そうではなく本質的なズレが少ないものは、作動することもあります。実際は、PCのCDドライブのうち半分ほどは作動するようです。
さて、この「機器によっては作動したりしなかったりする」という部分が、法2条1項20号にある「これに用いられる機器が特定の反応をする信号」にあたらないので、CCCDは技術的保護手段には該当しない、という理屈も不可能ではありません。

そうなれば、機器によっては作動したりしなかったりするのは、CCCDがプレイヤーの本来予定されている規格ではないからだ、ということになります。レッドブックに準拠していないプロテクト信号はプレイヤーが特定の反応をするとは限らない、だからレッドブックへの準拠が技術的保護手段の該当性を左右する、と。

ネット上の意見ではたいてい、CCCDレッドブック等の規格(デファクト規格を含む)に準拠していない点を重視しています。
しかし、日本の現行著作権法上、読み取りが義務づけられている複写制御信号はなく、そして、著作権法で複写制御信号を列挙するという方式は採用されていないのです。ですから、「レッドブック等の規格にない信号であるからそれは技術的保護手段には該当しない」という見解は採用できないわけです。規格外の信号であっても「機器が特定の反応をする信号」に該当するのならばそれは著作権法上の技術的保護手段に該当しうるわけです。
それが「条文上の根拠」です。

(質問4)著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ報告書を示していることから、その中に理由が含まれているのかもしれませんが、どこを指しているのかわかりませんでした。報告書の該当する部分をお示しください。

「ワーキング・グループ報告書」をなぜ参照するのかといえば、これが文化庁長官官房著作権課が制作したものであり、解釈に大きく関係するからです。もちろん、このたぐいの見解は、法律そのものではありません。ですから、法規条文のように絶対的に裁判官を拘束したりはしません。しかし、たとえば医療・金融など特定の分野にかかる条文で、その文言の解釈だけでは明確な判断ができない場合には、これらの省庁の見解を参照することは大きな意味があります。
「第4節 回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段」では、次の文言があります。

2.著作物等の種類等との関係

 技術的保護手段が施されている著作物等の種類には,音楽の著作物,映画の著作物,プログラムの著作物,実演,レコード等,多岐にわたっており,またアナログ方式とデジタル方式の双方にも施されており,更にCD−ROMのようなパッケージ,コンピュータ・ネットワーク,デジタル放送等様々な伝達方法に用いられているところであるが,技術的保護手段の趣旨から考えると,このような著作物等の種類等の違いによって規制の対象とするか否かを区別する必要はないと考えられる。但し,これらの違いにより用いられる技術的保護手段も異なる場合があるので,このような技術的多様性を考慮した上で回避に係る規制を検討する必要がある。

この報告書では「レッドブック」という文字は出ていません。しかし、信号方式が規格(日本工業規格や国際規格、あるいは業界内規格やデファクト規格まで)に準じているかどうかは技術的保護手段かどうかの基準にはならない、と報告書からは読めます。
では、規制対象となる技術的保護手段はどのようなものなのでしょうか。この報告書では、「技術的保護手段は,著作物等の複製物等に複製等の利用をコントロールする特定の信号を組み込むことにより,利用者が無断で複製等の利用を行おうとしても技術的にそれを不可能にするというような手段である。」として、相当広く(少なくとも条文の文言よりも広く)技術的保護手段を定義し、そしてその後に規制対象とすべき技術的保護手段を定義しています。規制対象とすべき技術的保護手段については、以下の記述があります。

4.回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段の内容

 以上のような考え方を踏まえると,回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段とは,現行の著作権法に規定された著作権者等の権利を侵害する行為を防止するために,著作権者等やそれらの者から技術的保護手段を施す承諾を与えられた者が施した効果的な技術的保護手段ということになると考えられる。このような技術的保護手段は複製だけに限らず著作物等の利用全体に係るものであるが,上述した複製に係る技術的保護手段の類型でいえば,複製不能型及び複製作業妨害型の技術的保護手段が該当すると考えられる。なおこのうち,シリアルナンバー等入力の方式については,その本来の趣旨がソフトの所有者のみに複製を可能とするものであり,ソフトを使用可能にすることが主目的であること,シリアルナンバーさえわかれば簡単に回避できるため必ずしも効果的とはいえないこと等を考慮すると,あえて規制の対象とする必要性は乏しいと考えられる。
 従って,現段階で対象となる具体的な技術的保護手段としては,上述した技術的保護手段の実態に照らせば,著作物等の利用のうち複製を制限する,SCMS,CGMS,擬似シンクパルス方式が該当することになると考えられる。

つまり「複製不能型及び複製作業妨害型」が該当するとしており、これを読む限りでは「使用不能型」は該当しません。

  ***

ただし、最終的な「CCCDは報告書に例示されていないので技術的保護手段にあたらない」という結論は私も同じなのです。ただ、その理由は、CCCDレッドブック準拠ではないから「機器が特定の反応をする信号」に該当しない、というものではなく、CCCDは視聴を制限するものであり複写を制限するものではないから、著作権等を侵害する行為を防止する信号には該当しない、というものなのです。それが、先日の日記に書いた内容です。

査察報告書さまの記述

技術的保護手段を回避して私的複製を行うことは著作権法で禁止されているわけですが、現在コピーコントロールCDが採用している方式はRed Bookに準拠していないことから、技術的にはCDプレーヤーやCD-ROMドライブがどのように動作するかは不定であって技術的保護手段には当たらないとする見解があります。

に対して、「私も技術的保護手段には当たらないとするけれども、その理由はレッドブックに準拠していないからとか動作が一定でないからとかではなく、複写制限ではないからです」と言ったつもりです。

  ***

なお、「機器が特定の反応をする信号」に関して、「一部のCD-Rでは読めるし、読めないにしてもその動作状態がドライブごとに異なる、だからCCCDは「機器が特定の反応をする信号」ではないのではないか」という見解もありえます。しかしそれだと、ある信号について、いわゆる無反応機器が存在すれば、その無反応機器の存在によってこの信号が「特定の反応をする信号」にあたらなくなり、それによってその信号が技術的保護手段とされない、となってしまいます。つまり、すべての機器に「特定の反応」をさせる必要はないわけです。
ここで、ほとんどの機器が反応しないような独自の信号である場合には、そのようなものは技術的保護手段には明らかに該当しません。ですから、CCCDが「ほとんどの機器が反応しないような独自の信号」を使っているのであれば、「機器が特定の反応をする信号」には該当しないのですね。ここは、程度の問題です。

また、「CDプレイヤーのメーカーが動作保証をしていないから「機器が特定の反応をする信号」ではないといえるではないか」という疑問もでるでしょう。確かにCDプレイヤーが動作保証をしていないのはCCCDがCDでない、つまり規格外だからです。
ただ、たとえばある種のCCCDCDS-200.0.4という「規格」に収まっています。レッドブックソニー・フィリップス規格ならCDSはミッドバーテック規格です。つまり、CCCDとCDとは異種規格ですね。その点が、いわゆるコピーガードキャンセラのたぐいとは異なる点です。
そして、異種規格の製品について相互の製品のメーカーが動作保証しないのは当然であり、たとえばDVDビデオとDVDオーディオとの関係と同様です。現状ではすべてのDVDオーディオプレイヤーはDVDビデオソフトにも対応しています。逆は必ずしも対応していません。そして両者は異種規格です。
この場合に、非対応のDVDビデオプレイヤーが動作保証していないからといって、DVDオーディオのプロテクトが「機器が特定の反応をする信号に該当しないので技術的保護手段に該当しない」とはいえないわけです。

法的な問題とは別に、私は、CCCDを出したメーカーはCCCDプレイヤーも作るべきだと思います。いわば、ファミコンソフトとよく似ているけれども任天堂の決めた規格に準じていないカセットを作って、そしてそれをユーザーがファミコンで使うことを期待しているソフトメーカー、みたいなものですから、それは批判されるべきだろうと思います。

  ***

追記ですが、この日記を書く際には、「レッドブックに準拠していないから」とか「反応・動作が特定されていないから」といった記述をしているサイトさんをいくつかみつけました。そのうち、他の部分の記述がおかしくて到底引用できない、とか、書き方が意味不明でこちら側の説明を要する、とかそういうサイトさんを除いて、その結果参照したのが藝夢日報さんです。他意はないです。

さらに追記ですが、私はこの問題の解決方法は、SACD>>CD>>CCCDだと考えています。