托卵の紹介。

托卵というのは、ひさうちみちおの長編コミック作品です。私が好きなフィクション作品は、だいたいこの系統のものです。

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私がこの作品を知ったのは予備校時代です。TVの深夜放送で流れていたのを見たのがきっかけです。といっても、アニメ化されていたとかいう話ではなくて、単に、コマをそのままカメラで追うだけという、すごく手抜きっぽい番組でした。しかしその放送中の数時間は、非常に楽しめました。ただ、登場人物がけっこう多くてその関係も複雑で、ストーリーもけっこう入り組んでいるため、一回見ただけではしっかりと筋を理解できませんでした。
それで、ちゃんと読んでみたいと思ったのですが、書店を探しても見当たらないまま年月が経過しました。次に見たのは、家庭教師先でふらりと入った古本屋でした。もう8年くらい経過してたのです。単行本になっていること、すでに絶版になっていたことをそのとき初めて知りました。
とりあえず購入し、読んでみました。やっぱり面白かったです。ちなみに、ひさうちのほかの作品も買ってみましたが、それらは私は好きになれませんでした。
托卵のような長編ストーリーコミックは、ひさうちは他にはあまり描いていないようです。

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中世西洋風の世界を舞台に、おのおのの登場人物が織りなす物語。そこには絶対的な善人も、絶対的な悪人もいません。みんな、それぞれの思惑で行動しています。
「托卵」というタイトルは、カッコーという鳥の習性からついています。カッコーは、子どもを自分では育てず、卵を他の鳥の巣に産み、その鳥に自分の子どもを育てさせます。
この物語の主題である流浪民族は、カッコーの名で呼ばれています。中世のジプシーとユダヤとを足したような民族で、差別の対象になっています。
そして、王国、領主、教会、カッコーたちが複雑に絡み合って、ストーリーは進行します。あとは読んでのお楽しみ。

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めでたいことに、托卵は2001年に復刊されています。ISBN:4883790940