著作権法の検討・いわゆるCCCDと技術的保護手段の回避(3)

先日(11/1711/20)の続きです。
技術的保護手段の該当性について、藝夢日報さまのご検討がありましたので、私も再度検討したいと思います。

とりあえず整理して考えてみたいのですが、まず、技術的保護手段かどうかについては、列挙する方式が採られていないことから、実質で判断するという点ではおそらく議論はなかろうかと思います。「何が技術的保護手段にあたるか」は裁判によって判断される、わけです。

確かにそのとおりです。
付記すれば、最終的に判決というものがどう転ぶのかは予測不明なのですが、それでも一定の方針はあって、著作権法の領域でも「立法者意思」はそれなりに重視されます。技術的保護手段の分野以外で(なにせこの分野では判例が確立されていないので)一例を挙げてみると、中古ゲームショップの販売と頒布権が争われた事案で、東京高裁は以下のように述べています。

・・・、立法者は,このような劇場用映画に特有な流通形態である配給制度の存在と,1本1本のプリント・フィルムの高い経済的価値に着目し,配給制度を実効あらしめるための権利として,フィルムの頒布先,頒布場所,頒布期間等を規制する,他の著作物にはない極めて強力な権利として,頒布権を認めたものであり,頒布権を劇場用映画の配給権と同義であると理解していたことが認められる。

ゲームソフトが映画の著作物に該当するか、という点について、法2条3項の文言の解釈に立法者意思をも考慮しています。
ともかく、文言にCCCDの文字が出ていない以上は、いろいろな判断材料を引っ張り出してトータルで検討することが必要になってきます。

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藝夢日報さまの検討を続けます。

次に、ある方式が技術的保護手段にあたるかについては、前の記事の4項目から判断されると思われるわけですが、争いになりそうな部分は「(3)機器が特定の反応をする信号を記録する。」という点かと思います。
この「機器が特定の反応をする」というのをどのように解釈するかについて、「ワーキング・グループ報告書」の類型に準じると、複製だけでなく使用(再生)自体も制限する「使用不能型」に該当するので、技術的保護手段にあたらない、とするのがkokekokkoさんの解釈だと思われます。

ここも同意です。この「(3)機器が特定の反応をする信号を記録する。」という点についてまともに検討している文献はほとんど見当たりません。2条1項20号におけるほかの要件、たとえば(1)電磁的方法かどうかとか、(2)複写制限か視聴制限かとか、の要件は比較的明確ですが、どういう信号が「機器が特定の反応をする信号」なのかについては、ちょっと争いになりそうです。
またも付記すれば、私は、「使用不能型」が技術的保護手段にあたらないというのは、(3)よりもむしろ(2)の「著作権等を侵害する行為の防止または抑止のための手段」にあたらないからである、と考えます。

ちなみに、アメリカではDMCAによって、§1201(k)で、家庭用アナログビデオ機器の製造者に対し、Macrovision方式のコピ ー・コントロール技術を入れることが義務づけられている。となっているので、明確に技術的保護手段なわけですね。

アメリカで一部のプロテクト技術の搭載が義務付けられていることは、私は「回避」要件の検討でさらに重要になってくるのではないかと考えています。具体的にいえば無反応機器の使用です。
ここでは簡単に書いておくにとどめますが、普及している機器がすべて反応機器であるならば、(もちろん故意に使用した場合に限りますが)無反応機器の使用自体がユーザーの側の能動的動作を意味し、「回避」に該当する、というわけです。日本では、無反応機器を使用したというだけでは、たとえ故意があったとしても、そこにユーザーの能動的な可罰的行為が存在していたとはいいにくい場合があるのです。

また、特定の反応の形態として誤動作が含まれるかどうかですが、もし擬似シンクパルス方式が「誤作動」にあたるというのであれば、この方式が現行法上の技術的保護手段であると解されている現状では、論理上、技術的保護手段には「誤作動」を含むということになる、と考えます*1

ちなみにCDSという技術を開発したイスラエルのMidbar社はマクロビジョンに買収されたはず。その後の報道で、米マクロビジョン、音楽CDコピー防止技術の日本特許取得(知財情報局)の中で、コピー防止技術の内容が特許3405980に記載されていることが分かりました。

日本で特許取得が認められたことは私は知りませんでした。
ちなみに、アメリカのように複製防止技術の実装が義務付けられた場合に、その技術に特許権が設定されていれば、結局メーカーはその特許技術の使用が義務付けられ、ひいてはライセンス料の支払いを義務付けられることになるのではないか、という問題が従来からあります。

さて、CD−ROMドライブで音楽ソフトをどう読むべきかについては特に規定がないので(なので、ドライブやソフトごとに読み方がまちまちです。音楽データの処理はレッドブックに準じます。)、「機器が特定の反応をする」というのがどういう反応なのかについてさらに立ち入って考える必要があります。

ところで、無反応機器の存在が技術的保護手段の該当性を左右しないというのは以前に書いたとおりです(回避の該当性を左右することはありえます)。以前私が書いたとおり、

なお、「機器が特定の反応をする信号」に関して、「一部のCD-Rでは読めるし、読めないにしてもその動作状態がドライブごとに異なる、だからCCCDは「機器が特定の反応をする信号」ではないのではないか」という見解もありえます。しかしそれだと、ある信号について、いわゆる無反応機器が存在すれば、その無反応機器の存在によってこの信号が「特定の反応をする信号」にあたらなくなり、それによってその信号が技術的保護手段とされない、となってしまいます。

となります。つまり、「機器が特定の反応をする」かどうかの判断(つまり技術的保護手段の該当性の判断)については、その特定の反応をしない機器が存在する、という事実を考慮することはできない、ということです。
ワーキング・グループ報告書でも、

なお,ある特定の規格の利用機器において識別,反応する信号により技術的保護手段が用いられている場合に,他の規格の利用機器では当該信号を識別,反応しないため,結果的に技術的保護手段が無効化されることも考えられる。このような場合についても規制の対象とすべきという意見もあるが,このような規制は特定の規格を利用機器において義務付けることと実態としては同じになると言え,今後の技術の進展等を考慮すると適当ではないと考えられる。

のくだりは、「回避行為に対する対応」の部分で検討されています。

そうなると、フェイクTOCに反応しないCD−ROMドライブがあったとしても、特定の反応をするかどうかは左右されず、よって技術的保護手段の該当性は左右されない、と考えます。

もちろん、ある信号に対してほとんどの機器が無反応機器になるような、オリジナル性の高い信号である場合は問題外です。ここで、これを「回避に該当しない」のだとしてしまうと、無反応機器を使用することではなく信号をきちんと認識してそれを除去・改変する装置を使用することが回避に該当する可能性があります。この結論を避けるために、私は、技術的保護手段には該当しないとします。
どの程度のオリジナル性で結論が分かれるかは、以前書いた通り、程度の問題です。その信号規格の普及の度合いが判断基準になるでしょう。ですから、「CCCDなんてちっとも普及していない、だから技術的保護手段には該当しないのだ」という結論(あるいは、回避には該当しないのだという結論)は、論理上は、ありえます。ですが、「一部のドライブでは読めるから・・・」という結論に対しては、「それだけでは技術的保護手段の該当性は左右できない」と反論できますし、「CCCDはレッドブック準拠ではないので・・・」という結論に対しては「CCCDも異種規格なのだから」と反論できます。いずれにせよ、「それだけでは技術的保護手段の該当性を決定できない」と私は考えるわけです。

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さらに、藝夢日報さまの検討を続けます。

で、話題とはずれますが、技術的保護手段の回避が「信号の除去および改変」なので、再生の際には無視するとか、そのまま読みとってそのまま書き出す場合はどうなるのか、気になるところです。

たいていは再生側と複写側との間に回避装置をはさみますから、通常は、再生の段階では複写制御信号も読み取っているんですよね。しかし最初から再生側で読み取らない場合というのは、確かに問題点になりそうです。
個人的には、回避の問題としてはdeCSS(コンテンツ信号そのものを暗号化するCSSに対して、その暗号を解読して複合するもの)が気になります。松本直樹さま(2003年3月24日)も指摘されているのですが、deCSSが違法であると断定する見解はすごく多いです。

ずれついでですが、「レッドブックソニー・フィ リップス規格ならCDSはミッドバーテック規格です。つまり、CCCDとCDとは異種規格ですね。」という場合、ワーキング・グループ報告書にあるように

なお,ある特定の規格の利用機器において識別,反応する信号により技術的保護手段が用いられている場合に,他の規格の利用機器では当該信号を識別,反応しないため,結果的に技術的保護手段が無効化されることも考えられる。このような場合についても規制の対象とすべきという意見もあるが,このような規制は特定の規格を利用機器において義務付けることと実態としては同じになると言え,今後の技術の進展等を考慮すると適当ではないと考えられる。

ということからすると、CCCDが普通に読めるCD-ROM装置は、規格が違うのだから規制の対象とならない、という言い方もできるように思います。規格が異なるという考え方をする場合、CCCDは「保護手段に該当しないとは言えない」かもしれませんが、異なる規格の機器に対して「特定の反応をするように強制する」効力はあるのでしょうか?つまり、ある規格(規格A)が存在して、「似ているけども違う規格(規格B)」を提案した場合に、「この方式(規格B)は技術的保護手段を含んでいるので、この規格に従わず結果として技術的保護手段の回避となる装置を新たに作ることは違法となる」と主張した場合、それが認められれば規格Aを実質的に奪い取ることができることになりませんか? 音楽CDについてTOC領域を読みこまず直接音楽データを読むソフトなどが不法になる恐れを指摘していますが、この中の「TOC領域を読み込まずに」という動作自体は、既存のオーディオプレーヤーの動作ですから、新たに作られたソフトが規格Aと同じ動作をするのに不法になるとすれば、規格Bを強制するのと同じことになってしまうようにも思うのですが。ひょっとしてこのあたりは続きで書こうとしていたことでしょうか?

確かにそうなると思います。それゆえに、条文なり通産省通達なりによって列挙方式で「技術的保護手段」を限定しているわけです。なんらかの技術を用いて保護っぽい手段を用いても、法での「技術的保護手段」には該当しない、というわけです。設例における規格Aの装置はいわゆる無反応機器として扱われることになる、と考えます。

山地克郎「著作権保護のための技術的措置(コピープロテクション等)と法制度」(L&T20号9ページ)では、

たとえば、音楽CDについて、現時点で新たな受動的複製防止技術を特定し、当該技術を実装した機器/媒体の出荷が開始されたとしても、世界中にすでに存在する、数億台を超えるであろうCDプレイヤー(日本での現時点での世帯普及率は70%)や、すでに世の中に出回っている、多分、数十億枚を超えるであろう媒体(2002年4月現在で、世界中にCD−Rだけでも48億枚が出回っている)については、当該技術は適用されていないのである。

としています。ここでは、条文や通達などの何らかの方法で「技術」を特定し強制する必要があるとして、そして、その技術が特定される以前に普及した機器については、対応できない(無反応機器になる)という結論をとっています。

私も、新しい規格が指定される以前に出回っている機器についてはいわゆる無反応機器として、「回避」が問題になる、と考えます。
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藝夢日報さまには突然話を振った形になってしまって恐縮なのですが、 しかしおかげさまで非常にいい検討ができていると思います。ここを読んでいるみなさまもビシバシ参加してください。

*1:「誤作動」の理解にかかわると思います。複製装置は複製しようとしているのに、複製装置がカラーバースト信号を読んでしまって複製が妨害される、と考えれば誤作動でしょうし、複製装置はその仕様上カラーバースト信号を読んで不完全な複製作業をする(あるいは複製しない)、と考えれば誤作動ではなく本来の動作でしょう。