戦前判決文における濁点仮名

雑記さまの記事が気になったので、私も少し調べてみました。
法令については、大正時代以前の法律については濁点なしのカタカナ、昭和以後の法律については濁点ありのカタカナになるのが基本です。

治安維持法(大正14年法律第46号)第7条
  本法ハ何人ヲ問ハス本法施行区域外ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ亦之ヲ適用ス
治安維持法(昭和16年法律第54号)第16条
  本章ノ規定ハ何人ヲ問ハズ本法施行地外ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ亦之ヲ適用ス

さて、戦前の判決文については、ざっと見たところ、昭和のものであっても濁点がない判決がたくさんあります。混在しているのです。
では、それらの判決文中で法律の条文を引用するときにはどうなるのでしょうか。これも私は全てを見たわけではないのですが、ほとんどの場合、濁点があるはずの条文であっても引用中では濁点がないのです。

大審院判決昭和19年10月12日では

・・・而シテ証拠ノ説明ニ関シ戦時刑事特別法第二十六条ニ於テ「証拠ノ標目ヲ掲クルヲ以テ足ル」トアルモ・・・

とありますし*1大審院判決昭和19年6月16日では

・・・事件ノ適用法規ハ繊維製品配給消費統制規則テアル右規則ニハ「指定繊維製品ノ販売其他売渡ヲ業トスル者ハ別表乙号丙号又ハ丁号ニ掲クル者ニ譲渡スル場合及別表乙号丙号丁号ニ掲クル者ノ指示ニ従ヒ譲渡スル場合ヲ除クノ外其ノ指定繊維製品ヲ譲渡スルコトヲ得ス」ト記載セラレテ居ル・・・

とあります。
なお、繊維製品配給消費統制規則は法律じゃないから例外だとも考えられますし、戦時刑事特別法26条の文言は「証拠ノ標目ヲ掲グルヲ以テ足ル」ではなく「証拠ノ標目及法令ヲ掲グルヲ以テ足ル」ですから、この判決文では法律の文言を引用しているわけではないのだ、とも考えられます。
ただ、大審院刑事判決録には「参照」として条文が記載されているのですが、そこではもう条文の濁点がないのです。ですからおそらく、判決文では、法令の濁点はないものとしていたようです。

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ところで、これに関する私が見た中で唯一の例外は、大審院判決昭和19年3月13日です。そこでは、

・・・ソノ附記第三項ニヨレハ決定事項ノ適用区域ニ付「借地法借家法及借地借家調停法ノ施行区域ヲ速ニ拡大スヘシ」トシ・・・

として「中央物価委員会第四部会ノ決定ニ係ル地代家賃対策規制条項」(昭和14年7月18日)を濁点なしのカタカナで引用しつつ、

・・・而シテ地代及家賃ノ統制ニ関スル勅令案要綱第一ニハ「本要綱に於て借地又は借家とは借地法又は借家法に於ける借地又は借家をいふこと」トソノ対策ヲ明白ニ限定・・・

として勅令案をひらがなで引用しています。

*1:漢字は改めました。でないと文字化けします。ほかも同じ