場思考

ある会社に、A、B、C、Dという4人の男がいる。そして4人が取り組んでいる仕事は2種類であり、仕事Xと仕事Yである。
A君は仕事Xも仕事Yも全くできない。B君は仕事Xは少しできるが仕事Yは全くできない。
C君は仕事Xも仕事Yもできる。D君も、両方の仕事ができる。
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仕事ができるC君は、「Aくんは仕事ができないな」とボヤく。D君は「A君を追い出そうか?」とC君に提案する。
それを聞いたB君はどう考えるか。
A君が追放されたら、自分がこんど最も仕事が出来ない人間になる。追放されるのは自分だ。悪口を集中して受けるのは自分だ。そこでB君は、「Aは悪い男ではない。使えない男ではない」とその場では擁護する。
しかし別のときには、自分からすすんで「Aは仕事ができないよね」という話題を振る。それは、仕事ができないことへの悪口を自分に向けられることを恐れるからである。
そしてB君は、仕事Yの話をしない。B君はA君と同じく仕事Yができないので、もし仕事Yの話をすれば、自分がAと同じように悪口を言われるからだ。だから、仕事の話が出たら、うまく仕事Xの話にすりかえる。それが無理でどうしても仕事Yの話題になるときは、A君をほめる。なぜなら、A君の悪口を言うと、自分も同じく悪口を言われるからだ。
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こうしてB君は、A君を時にはほめて、時にはけなして、日々を過ごしていた。
それにC君が気づいた。C君はどうするか。
A君とB君の2人が抜けると、仕事Xのダメージがある。そして、A君とB君とが団結して「仕事が出来なくて何が悪い」と開き直られても困る。いっぽうA君の1人だけが孤立しても問題ない。だからC君は、B君の方針に乗って、A君の陰口を叩く。
しかしある時、C君はふっと思う。「B君だってあんまり仕事ができないじゃないか。彼はAくんの悪口を言っている場合ではないだろう」と。そこでC君は、A君の悪口を言いつつもやんわりB君にも矢を向ける。「A君って、B君よりも仕事が出来ないよね。A君にも困ったものだよね。」と。
しかしBくんは、自分が少し出来る仕事Xの大切さをますます主張するばかりで、どうもC君の意図が読めていないようだ。
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そこへ会社のOBであるE氏が登場する。E氏はB君と仲が良く、かつて2人でA君の仕事の出来の悪さに頭を抱えていた。そしてC君はE氏には逆らえない。でもC君から見ればE氏は、せっかく自分がB君に仕事の出来の悪さを理解してもらおうと考えていたのに、話の流れをA君への悪口に代えてしまうから厄介である。
C君は考えた。E氏に話を合わせるといつまでもE氏はB君といっしょになってA君の悪口が続いてしまう。そして、E氏はおそらく、「C君だって、A君の仕事の出来の悪さにはうんざりしているに違いない」と考えているのだろう、だからいつまでたってもA君への悪口が終わらないのだ、と。そのように考えたC君は、思いきってA君を誉めることにした。そうしないと、事態は進まないからだ。
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ところで、実は、もともとこの会社のするべき仕事はYだけであった。仕事Xは、仕事Yが出来ないBくんが勝手に打ち出してもっともらしく言い出している仕事なのである。
それがわかれば、彼らの対応も違っていたであろう。見抜ける力がなかったC君。会社全体を見通せなかったD君。そして、自分の地位の安定しか考えなかったB君。
滑稽だよね。バカバカしいよね。