甲府地判平成16年5月6日

甲府地方裁判所です。

完全責任能力と責任無能力とに鑑定の見解の分かれた事案において,心神耗弱による限定責任能力を認めた判決

この事案で、裁判所は殺意を認定しています。

さらに,弁護人は,犯行当時,被告人は「軽く」突き刺す程度との認識で,横手小刀を突き刺しており,被告人には殺意は認められない旨主張するので,以下この点につき判断する。
この点,前記1・に認定した,凶器の形状,負傷部位や負傷程度等の客観的状況からすれば,本件犯行当時被告人に殺意があったことは優に認定することができる。また,既に説示したとおり,犯行当時の意識状態にも問題はないから,被告人が心神耗弱状態にあったからといって, 上記殺意の認定に影響を及ぼすものでもない。殺意を否定するかのような被告人の公判供述は,妄想的追想と病状悪化によって記憶の変容が生じた後のもの と見ることができるから,上記認定を左右するものではない 。
したがって,被告人には殺意が認められるから,弁護人の主張は採用できない。

心神耗弱であっても客観的状況から殺意が認定されている点に注意して読むべき判決です。
 
いっぽう、心神耗弱であることの認定は、相変わらず消去法っぽさがありますね。
「被告人が本件犯行に及ぶについては,Hはイギリスから借りている車であるとの妄想が相当程度影響していたことは否定できない。」しかし「その心理過程は,全く荒唐無稽なものではなく,ある程度のまとまりをもっており,それなりに了解可能なものと評価することができる。」そのうえ「そこには理性の働きをうかがい知ることができる」から「そうすると,被告人は,妄想に動機づけられ,妄想に影響されて犯行に及んだところがあったにせよ,妄想による支配は完全なものではなく,理性による行動抑制の能力がある程度は残されていたものと認められる 。」というわけです。
この事案では、(骨子しか読んでいませんが)本鑑定が制御無能力としています。しかしこれについては、従来の鑑定実務と比しても少し無理がみられるので、本鑑定を採用せずに完全責任能力が認められた可能性が低くなかった事案だといえます。結果が重大であるし、あるいは控訴したのかもしれません。