刑法と取締法規の対話

狭い対話ですみません。
爆発物取締罰則1条では「人の身体財産などを害する目的で爆発物を使用した者」に対しての処罰を規定しています。一方、刑法117条(激発物破裂罪)では「火薬、ボイラーその他の激発すべき物を破裂させて家屋等を損壊させた者」は放火として扱うとしています。法定刑は爆発物取締罰則1条のほうが重いです。この場合、両者の関係はどうなるのでしょうか。
 
(1)「爆発物」と「激発すべき物」との関係(手段物)
これについては判決があります。大阪高判昭和52年6月28日刑月9巻5=6号334ページでは、爆発物は激発すべき物に含まれる、とされています。そうすると、爆発物を破裂させて家屋等を損壊させれば両方の罪が成立することになります。学説もおおむねこれに従っています。
爆発物取締罰則には「爆発物」の定義規定はなく(そのわりに告知義務を課しているのですが)、また爆発物が「激発すべき物」であることは一般的に疑いがないところです。
さらにその逆、激発すべき物が爆発物にあたるかについても、さしたる議論はないようです。ですが、爆発物については告知義務があるところ、もし激発すべき物が爆発物に該当するのであれば、火薬やボイラーなどについてその発見者が告知義務をいちいち負うというのも奇妙な話です。前田・各論2版370ページでは「法的刑が重いこと、単に使用しただけで既遂に達することからして、爆発物は爆発作用そのものによって多数の国民の生命、身体、財産に重大な危険のあるものに限るべきである」としています。それらの理由により、おそらく、爆発物は激発物に含まれるという解釈が妥当でしょう。
 
(2)「使用する」と「破裂させて家屋等を損壊させる」との関係(行為)
まず、刑法117条は、放火として扱われるため社会的法益に対する罪と考えられます。一方、爆発物取締罰則1条の保護法益は明らかでありません。
激発物破裂罪では「破裂」「家屋等の損壊」という結果の発生が要求されています。一方、爆発物取締罰則1条では「使用する」すれば既遂に達するのであり、この「使用」とは必ずしも爆発する必要がないと解されています。判決でも、法的意味における爆発危険性を引き起こせば「使用」にあたるとしています(最判昭和50年3月16日刑集30巻2号146ページ)。そうすれば、激発物破裂罪では未遂にあたるような行為が、爆発物取締罰則では既遂とされます。
なお、爆発物取締罰則では、2条に未遂処罰規定があるのですが、その文言は、刑法典の未遂規定と異なっています。「爆発物を使用せんとするの際発覚したる者は」となっています。爆発の危険性がある状態になれば既遂になるので、2条では「爆発の危険性がない状態」でも処罰されることになります。爆発物の製造・所持は第3条で処罰されるので、2条に該当する行為とはどういうものになるのでしょうか。そして、「使用せんとするの際」とありますが、では実行行為の発覚が「使用の際」ではなく事後だったら処罰されないのでしょうか。刑法で「〜の際」という文言は、消火妨害罪で「消火の際に」という文言で存在します。この場合に、消火が終わってから消火用の物を隠しても消火妨害罪には該当しません。これと並行に考えれば、爆発物取締罰則では、事後に発覚した場合には2条には該当しないはずです。
さらに、激発物破裂罪の未遂・予備が処罰されるか、という問題もあります。団藤・各論3版207ページでは未遂・予備は処罰されないとしています。その理由は激発物破裂罪自体に未遂・予備処罰規定がないからです。ですが、「放火の例による」とされているその放火については未遂・予備が処罰されていること、および公衆の平穏・安全という保護法益から考えて放火罪と区別する必要がないということから、未遂・予備も処罰されると考えるのが多数説です。なお、大谷・各論4版補訂版では、「刑法3条1項は本罪の未遂罪を予定している」としていますが、3条1項は「放火規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪」について日本国外の日本国民に適用すると規定しているだけで、未遂罪を規定しているわけではなく、未遂罪が存在しない場合はそれを適用するしないの以前に犯罪が存在しない、と考えるべきです。つまり、刑法44条の「未遂を罰する場合は、各本条で定める」の「各本条」に3条1項は含まれない、と考えるべきです(基本法コンメンタール85ページ(板倉執筆)では、「未遂は、各本条において「この章の罪の未遂は、罰する」とか「第○○条の罪の未遂は、罰する」というように定められていた場合だけ処罰されるのである。」としています)。刑法117条(激発物破裂罪)の文言も、「損壊させた者は、放火の例による」としていますから、損壊させていない者は放火の例によることができないと考えるのが自然でしょう。
話を戻して、両者の既遂時期につき、重い罪のほうが既遂到達時期が早いという点に注意すべきです。
 
(3)罪数
これが本題なのですが、これについては次回。
なお判例は、観念的競合説と一罪成立説とに分かれています。
また、教唆・共謀・犯人蔵匿・自首の各規定で、爆発物取締罰則は刑法典とは異なる扱いをしますので、このあたりも問題になります。