ペイチェック

記憶系、時間系のSFです。しかも原作はフィリップ・K・ディック。すごく期待してビデオを借りました。
しかしやっぱり、アクションシーンが過剰なのが気になりました。銃撃戦とかカーチェイスとか、最後には大爆発とか。かなり派手なシーンが多いです。でも私がこの作品に期待したのは、もっと心理的緊迫がにじみ出たシナリオでした。記憶を消した男が過去の自分自身の所為を知るべく痕跡の断片をかき集める、という要素にも焦点をあててほしかったところです。
 
まず、序盤は、あっさりしていて好感が持てました。このたぐいのSFというのは伏線を張りやすいので、下手をすればコテコテに謎かけめいた雑な序盤になりがちなのです。その点、この作品では、時系列にそってちゃんと落ち着いて観せてくれます。というわけですんなり物語に入り込めました。
ですが、その物語的落ち着きがラストまで続いてしまうので、せっかくの時間系SFのミステリアスさが足りなかったと感じました。正確に言えば「未来を知った男の話」であり「破滅的未来を回避しようとする物語」なのですが、アイテム使用法の楽しさにかき消されたこともあって、時間系の要素は薄められたかもしれません。
 
一方でこの作品は、記憶系SFの要素のほうはかなり強いです。記憶を失っている時間についての謎を探るという話が中核になっています。
ただですね、主人公が製作したマシンについての情報はかなり手に入るのですが、ヒロインと過ごした時間についての情報は結局ほとんど手に入らないのです。恋人同士のうち一方だけが記憶が消える、というストーリーは、もっと深く描けば、何とも言えない後味に圧倒されるような魅力(まさに記憶系SFの魅力)を生み出すはずです。そのあたりが中途半端だった気がします。正直言って、この作品は話の筋が比較的単純なのですから、そういう人間関係を描いても良かったかな、と思います。
 
あと一点だけ。記憶が消えた後、主人公の男はヒロインのことを全く知らないといいます。ですが彼は、記憶消去のスタート地点(マーカー地点)の直前に、パーティーで彼女と会っているのです。全く知らない、というのは違和感があるかもしれません。