ラストサムライ

不自然な時代劇を観ているようでした。合戦のシーンは、明治初期の日本のはずなのに場所がなぜかロード・オブ・ザ・リングの平原っぽかったですし(どちらも撮影場所がニュージーランドなんです)、反乱の理由はイマイチわからないですし。
しかしこの手の作品は、主人公さえ輝いていればそれでいいのだと思います。いろいろ腑に落ちない部分もありますが、そんな細かい問題が気にならないくらいに、登場人物に魅力があります。そういう点ではこの作品は、座頭市とちょっと似ていますよね。ただただ主人公がカッコよければそれで満足であり、主人公のバックグラウンドとか時代設定とかは見えなくてもいい、というあたりが。
いっぽう、ラストサムライ座頭市との間の見逃せない差異は、主人公がただ単純に強くてカッコいいだけじゃなくて、滅びゆく者の悲哀みたいな感じも出ている点です。
 
渡辺謙は本当によく演じていました。そのまなざしのなかに、強さと美しさと、そして自らの運命を悟っている男の達観とが、うまく表現できています。そして真田広之もすごく魅力的でした。彼は時代ものにはやっぱり慣れてますよね。主人公の脇をこういう渋い役者で固めているあたりも、座頭市と異なるところだと思います。
いっぽうトム・クルーズは、がんばっているのですが小雪とのキスシーンは微妙だったと思います。だってこの作品では、「なぜ俺はここにいるんだ」とトムが問い詰めて、でもってそれに対して渡辺が「わからない。それは縁だろう」と返すというくらいに、「日本人が持っていた奥ゆかしさと矜持」のようなものを表現しようとしているのです。ああいうあまりにわかりやすい男女関係は、ひょっとしたらこの作品には似合わないのかもしれません。
 
敵軍の兵士たちが、連射砲で撃たれた勝元に向かって頭を下げる場面が印象的でした。死んでも信念を曲げなかった人間の、悲しいくらいの誇り高さが、すごく強く伝わってきました。