水道損壊等罪

きのうの補足。
 
西田典之「刑法各論(第二版)」314ページでは、浄水汚染罪などを列挙した後に「水道損壊罪は、これらと性格を異にする水道利用妨害罪であるが、同じ水道に関する罪であるために本章に規定されたものと思われる。」としています。ですが、とくにその根拠を示してはいません。
いっぽう、水道損壊等罪を公衆の健康に対する罪ととらえている見解は大塚、齊藤(信)などがあります。その見解の理由としては、「これは、水道による飲料水の供給を妨害することを処罰するものであり、罪質としては、公衆の健康に対する抽象的危険犯としての側面を有している。」(日高義博執筆「新・判例コンメンタール刑法(4)」311ページ)とあるように、水を汚す行為(浄水汚染罪)と水を止める行為(水道損壊罪)とでは、結局、飲料水を使えなくするという点では同質であるという点が挙げられています。
やや詳しい記述としては、古江頼隆執筆「大コンメンタール刑法第二版 第七巻」147ページで「飲料水の供給の妨害が、公衆の生命・健康に危険を生じさせるがゆえに犯罪とされるもので」、「本罪は、水道による飲料水の公衆による飲用を阻害するという意味において、罪質的には、水道汚染罪(143条)に近く、その法定刑も類似している」*1、「水道に要求される二要素(必要なときに必要な量を得られるという「豊富性」、安心して飲めるという「清浄性」)のうち、清浄性に対する侵害よりも、豊富性に対するそれのほうがより公衆の生命・健康に対する危険の程度が高いことによるものというべきであろう」などとしています。
結局、条文の位置、および刑の重さ、そして、もし単なる利用妨害であるならば水利妨害罪との差異を説明できないという点を考えれば、公共危険罪であると解すべきでしょう。
 
なお、理由書では、飲料水に関する罪を区別なく一括して「本章の罪は危険が重大なので刑を重くした」*2とし、さらに「148条(成立現行法では147条)も前条(水道毒物等混入罪)と同一の目的を有する」*3とはっきりと説明しています。
また、改正刑法準備草案の理由書でも水道損壊等罪(221条)につき「現行法第百四十七条と全く同旨の規定である」としています。

*1:この文章はこの直後に「したがって、水利妨害罪に似た面を有する」としています。しかし水道汚染罪は公共危険罪ですが水利妨害罪は公共危険罪ではないので、態様はともかく罪質は類似しているとはいえません。

*2:「本章ノ罪ハ其結果タル危険頗ル重大ナルヲ以テ現行法ニ比シ一般ニ刑ヲ重クシタリ」

*3:「第百四十八条モ亦前条ト同一ノ目的ヲ有シ本条ハ飲用ニ供スル浄水ノ水道ノ損壊又ハ壅塞ノ場合ノ規定ナリ」