現行刑法制定までの責任能力概念

資料は来週からアップさせます。今回は責任能力についての規定・学説を概観してみます。
日本における責任能力規定は、唐律に由来する部分と大陸法由来の部分とがあります。
7世紀ごろの唐律(名例律)には以下のような規定があります。

諸年七十以上、十五以下、及はいしつ【廃疾】犯流罪以下、収贖。八十以上、十歳以下、及篤疾、犯反逆殺人、応死者上請。盗及傷人者亦収贖。余皆勿論。九十以上、七歳以下、雖死罪不加刑。

精神障害心神喪失・耗弱)と刑事未成年とが同列に論じられていることがわかると思います。
仮刑律(明治1年)での責任能力規定は、ほぼこの唐律に従っていました。いっぽう、新律綱領(明治3年)になると多少様子が異なりますが、一定の年齢の者の行為や精神障害者の行為につき刑罰を減免するという考えに変化はありません。
 
「仏国ノ刑法ヲ以テ基礎ト為シ」という起草の大意をもとに、ボアソナード案をもとにした刑法(明治13年)が公布・施行されました。明治8年草案(帝国刑法初案)においては現行法の「犯罪の不成立及び刑の減免」の章の原型となった「犯罪不論」「宥恕減軽」の章が設けられ、年齢・精神障害に起因する減免についてはそれらの章に規定されました。これらの章では、現在の違法性阻却事由・責任阻却事由にあたる減免が規定されましたが、現在のように違法論や責任論が確立されていたわけではなく、また、違法性と責任との区別も厳密ではありませんでした。
明治9年草案(第一稿)でははじめて、年齢による減免と精神障害による減免とが区別されました。また、老齢規定の廃止や「精神ヲ喪失」の文言の使用など、フランス刑法(そして現行日本法)との類似性が強くなりました。鶴田文書には以下のようなボアソナードの発言があります。

老者ニテ精神ノ弱キ者ハ即チ精神錯乱ノ内ニ入テ論スヘキナレトモ只ニ其年齢ノ老ヒタル而巳ニテハ弁別ノ有無ヲ以テ「エキスキース」ヲ与フル内ニハ入テ論スルヲ得サルナリ

 
さて、明治13年刑法(条文については7/1付参照/id:kokekokko:20040701#p1)の解釈については、いくつかの学説があります。80条についてここで少し検討してみます。
宮城浩蔵は、刑事未成年のうち「12歳以上16歳未満の行為者については是非弁別を審案する」(80条)という規定に対して、犯罪の成否を決定する以前に「智識」(是非弁別)の有無を決定するという「二段ノ判決」を必要とする、としています。
また、小疇伝は、12歳以上16歳未満の行為者に対して、是非弁別の智能が保護法益によって異なること、そしてドイツでは識別能力があれば足り現実の識別は必要ではないと解されていることを指摘しています。
 
長くなったので今回はここまで。