精神医療に関する条文・審議(その9)

前回(id:kokekokko:20041122)のつづき。初回は10/28(id:kokekokko:20041028)。
法令については「にわとりショコラ」にアップしました。
東佐誉子事件についての審議です。
日本女子大学教授が20年間会っていなかった弟の同意で強制入院させられたという事件で、法の規定に問題があるのではないかという議論がされました。
結局このときは法改正されなかったのですが、措置入院などの不同意入院における医師の権限についての問題が取りざたされた事件でした。
2〜3回に分けて引用してみます。
【分量が多いので、一部をにわとりショコラに移転させました(2005/1/19)】

法務委員会会議録第40号(22衆昭和30年7月25日)
○世耕委員長 次に人権擁護に関する件を議題とし、調査を進めます。
 なお本件について、警視庁養老防犯部長を参考人とするに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○世耕委員長 御異議なければ、さように決定いたします。
 それでは質疑は通告に従って許可いたします。猪俣浩三君。

○猪俣委員 警視庁からどなたがお見えになっていますか。

○世耕委員長 猪俣君にお答えいたします。防犯部長のほか、中川刑事部長、石井警察庁長官、そのほか花村法務大臣、井本刑事局長、戸田人権擁護局長も出席しておられますから御了承願います。

○猪俣委員 わかりました。
 それでは警視庁の養老防犯部長にお願いします。問題は、先般当法務委員会で私が質問いたしました日本女子大学教授東佐誉子氏に関しますることであります。東佐誉子氏は日本女子大学の料理の教授を数十年やっておった人でありますが、ある日突然暴漢三名に自動車に連れ込まれ運ばれた先が脳病院だった。そこに二ヵ月足らず監禁されており、そうして監禁せられておる間に日本女子大学内の一室にいろいろの研究の原稿材料があったのをすっかりどこかになくされてしまって、部屋の明け渡しを断行せられておる、このような事案に対しまして私は質問いたしたのであります。一体とにもかくにも女子大学の教授、しかもこれは文部省の派遣留学生としてフランスに長く留学してこられましたわが国の料理法の大家であります。その人を突然精神錯乱者なりとして脳病院にぶち込むというがごときことは、実にこれ以上人権じゅうりんはないと考える。聞くところによれば、日本女子大学におきましては、学長の派としからざる派とあって、いろいろ争っておるということであります。その争いの一つの波紋が東教授に及んだかと存じます。かようなことに対しまして、警視庁におかれては十分捜査せられたと思うのでありますが、その捜査の内容についてお聞かせ願いたいと思うのであります。

○養老参考人 日本女子大の東佐誉子さんの件につきましては、先般本委員会におきまして御指摘のあったことを警察庁から聞いたのであります。それから一部の婦人雑誌あるいは週刊紙等にこうした手記並びに事実につきまして報道されたのでございまして、この点についてきわめて異例な事実ではないかということにつきまして、さっそくに警視庁におきまして捜査に入ったわけであります。ただ関係者全部にわたりまして、一々調査する方のところまで参っておらないのでございますが、現在まで調査ないし捜査いたしました結果からいたしますと、この東佐誉子さんは一種の精神障害があるのではないかというふうな疑いから、入院をさせられたというふうなことになっておるのであります。従いましてこれは精神衛生法の規定によりまして、そうした入院等の手続がとられておるのでございますが、何分にもそうした病気、特に精神病のことでございますので、単純にわれわれ捜査官の事実の認定のみでは簡単にこれを容疑等を立てることもできないのでございまして、何分にも精神衛生法の規定そのものの解釈の問題、特に東さん御本人の精神上の障害があるかないか、精神的な病気があるかないかという医学上の診断の問題が出て参るわけであります。従いましてもし当人が精神的に何ら異常がないということになりますれば、御指摘のあったような事実につきましては、われわれとしても十分これを放置し得ない問題があると思うのでございますけれども、何分そうした診断の結果等につきましては、確定ある判定を得ておらないのでございます。現在専門と思われます医師につきまして鑑定をお願いいたしておりますけれども、最終的な結果を得ておりません。それから精神衛生法に関します患者といいますか、病人を入院をさせます際の手続等につきましても、実際行われたと思われますようなやり方が、果して何らの違法性といいますか、不適当さがないかどうかということにつきましても、主務官庁たる当局に照会いたしております。これにつきましても最終的な解釈をまだ得ておりません。従いましてその後時日は相当いっておりますけれども、われわれといたしまして、これを犯罪の容疑ありというところまで断定する段階に至っておらないのでございます。

○猪俣委員 はなはだ僕は不満でありますが、私がこの質問をしてから相当の時日が経過している、こんな重大問題に対して何という態度であるか。その精神衛生法の何条であるかちょっと呼んで下さい。

○養老参考人 東さんは当初実弟である方の……。

○猪俣委員 その精神衛生法の何条であるか条文を読んで下さい。

○養老参考人 第三十三条「精神病院の長は、診察の結果精神障害者であると診断した者につき、医療及び保護のため入院の必要があると認める場合において保護義務者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。」もう一つ二十九条「都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、且つ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、本人及び関係者の同意がなくても、その者を国若しくは都道府県の設置した精神病院(精神病院以外の病院に設けられている精神病室を含む。以下同じ。)又は指定病院に入院させることができる。」それだけであります。

○猪俣委員 そういうふうに精神衛生法第二十九条に明らかになっている。その条件を踏んだかどうかということはすぐにわかる。院長が診察して、これは入院をさせなければならぬと判定した際の話である。本件においては東女史は一ぺんも診察も受けずに突如として自動車に乗っけられて運ばれた。それをあなたが今までかかって調べられないというのはどういうわけだ。その精神衛生法第二十九条に当てはまった行動はしておらない。しかしその近親者として同意した弟は、今警視庁だかどこのあれか知らないが官庁のやり方に対して非常に憤慨している。だましたのだそうだ。二十年も本人に会っておらないその弟を呼び出して、全然本人が知らないうちに同意書か何か取ってしまって大へん欺瞞したそうです。今弟が非常に憤慨して上申書を出している。さようなことをやって入院させておる。精神異常者であるかないか私はわかりません。おそらく東女史は天才的な人物で、こういう著書をたくさん出している。この「世界人はいかに食べつつあるか」の著書は有名なものです。これは昨年の十二月に出しております。ところが本人が精神異常者とされたのはことしの初めだ。こういうりっぱな本をたくさん出して――本日も東女史に教えを受けた女子大の生徒がたくさん来て、実に驚き入った話である――私は東女史を退席せしめて、何か人に不思議と思われる節はありませんでしたかと聞いても、ちっともない、非常に教授に熱心だ、それこそ神様につかれたかと思うくらい熱心な態度だった。天才と狂者というものは紙一重である。世の中に活動している者の中には精神病の専門家が見たらそれぞれ何かの病気を持っているかもしれぬ。われわれ政治家なども相当みんな何かの病気を持っておる。私など確かに何か病気を持っておる。しかし問題はそれじゃない。精神科医が見て何々病という名をつけたことじゃないのだ。それが入院させて監禁して、二月も入院させなければならぬ症状であったかどうかということが問題なんだ。それにはよく審査して、診察した結果でなければならぬ。一ぺんも本人を見もせずして、いきなり暴漢によって脳病院へ運び込むというやり方がどこに書いてあるか。それをあなた方が調査しないでいる道理がないはずだ。今日まで一カ月も調査しないで何を一体調査したのか、そこが問題です。精神病であるかないかの問題じゃないのだ。一体収容して治療しなければならぬ程度のものであるかどうか。しかもこの精神衛生法の二十九条に従った順序を正当に行なったかどうか。一ぺんも診察せず、いきなりさらって行くようなことをやってぶち込んでしまった。二十年も会わなかった弟を呼び出して、それをおどかしたりだましたりして、そうして同意書に印を押さしておる。今弟がみんな暴露しておる。さようなことをさして入院さしておる。そんなことはあなた方が調べたらすぐわかるはずなんだ。それを今日までそんな答弁をしておる。そんな答弁をやっておるのじゃ、これ以上あなたに聞く必要はないから石井警察庁長官にお尋ねします。あなたはこれを調べられたかどうか。
【以下略=にわとりショコラに移転させました(2005/1/19)】

法務委員会会議録第45号(22衆昭和30年7月30日)
○世耕委員長 次に人権擁護に関する件及び裁判所の司法行政に関する件について調査を進めます。
 質疑は通告順によってこれを許します。猪俣浩三君。

○猪俣委員 厚生省の方にちょっと精神衛生法について伺いたいと思います。事案は、日本女子大学の古い教授でありました東女史を武蔵野精神病院に突如として収容したという事案でありまして、これは精神衛生法の法規にのっとって合法的にやったと学校側は言っているようでありますが、私どもには幾多の疑問がそこにある。もしこの精神衛生法を乱用いたされますと容易ならぬ人権侵害を引き起すおそれがありますので、その点についてお尋ねをしたいと思う。この精神衛生法をざっと見ますと大体手続が書いてあるようでありますが、精神異常者があるということを発見した場合に、それを病院へ収容するにはどういう手続を経て収容されることになるのであるか、それを一通り御説明していただきたいと思うのです。

○小沢説明員 私、公衆衛生局の庶務課長でございますが、お尋ねの、現在の精神衛生法における入院手続の規定について概略御説明をいたします。
 まず精神障害者の発見というような場合には、法律の定めによりまして、精神障害者の疑いのあるような方を知った人は何人もこれを通報するという規定になっております。従ってどなたかがおかしいという場合にはだれでもそれを通報することができるようになっております。この通報を受けました者を都道府県知事がいろいろと調べまして、特に鑑定医を派遣する必要があるという場合には鑑定医を派遣しまして、この鑑定医が二名以上、大体精神障害がはっきりするということで、自身を傷つけるおそれがあるか、あるいはまた他を害するおそれがあるかというような精神鑑定をいたしまして、それが一致いたしますと、二十九条に基いて強制入院の手続をとり得るわけでございます。ところがそれに至らないような者でございましても、精神衛生法の中に、保護義務者の同意による入院という制度がございます。これは三十三条に、精神病院の長が診察の結果精神障害者であると診断いたしまして医療及び保護のために本人を入院させる必要があるというふうに認めました者は、保護義務者の同意がありますときには本人の同意がなくとも入院さすことができるという同意入院の規定がございます。この両方によりまして入院をさすことになるわけでございます。なおこの同意入院の規定は若干の拘束権、あるいはまた本人をある程度いろいろとだましたりすかしたりしまして病院に連れてくるということも今までの解釈上大体認められておるのでございます。
【以下略=にわとりショコラに移転させました(2005/1/19)】

法務委員会会議録第19号(24衆昭和31年3月23日)
○椎名(隆)委員長代理 法務行政及び人権擁護に関しまして調査を進めます。
【以下略=にわとりショコラに移転させました(2005/1/19)】