精神医療に関する条文・審議(その8)

きのう(id:kokekokko:20041122)のつづき。初回は10/28(id:kokekokko:20041028)。
昭和29年の「精神衛生法の一部を改正する法律」をみてみます。覚せい剤中毒者の扱いについて変更がなされています。ちょうどこのころ、覚せい剤取締法も改正されていて、覚せい剤対策が厳しくなっているという流れがあることがわかります。

精神衛生法の一部を改正する法律案(衆法第49号)
精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
 目次中「第六条」を「第六条―第六条の二」に、「第二十条―第五十条」を「第二十条―第五十一条」に、「第五十条(刑又は保護処分の執行との関係)」を

 第五十条 (刑又は保護処分の執行との関係)
 第五十一条 (覚せい剤等の慢性中毒者に対する措置)

に改める。
 
第一条中「精神障害者」を「精神障害者等」に改める。
 
第二条中「精神障害者が」を「精神障害者等が」に、「精神障害者の発生」を「その発生」に改める。
 
第六条の次に次の一条を加える。
第六条の二 国は、営利を目的としない法人が設置する精神病院及び精神病院以外の病院に設ける精神病室の設置及び運営に要する経費に対して、政令の定めるところにより、その二分の一以内を補助することができる。
 
第五章中第五十条の次に次の一条を加える。
覚せい剤等の慢性中毒者に対する措置)
第五十一条 第十八条第二項及び第三項並びに第十九条から前条までの規定は、覚せい剤、麻薬若しくはあへんの慢性中毒者(精神障害者を除く。)又はその疑のある者につき準用する。この場合において、これらの規定中「精神障害」とあるのは「慢性中毒」と、「精神障害者」とあるのは「慢性中毒者」と読み替えるものとする。
 
附則
この法律は、公布の日から施行する。

厚生委員会会議録第53号(19衆昭和29年5月29日)
○山口(シ)委員 ただいま議題となりました精神衛生法の一部を改正する法律案につきまして、提案の理由を御説明申し上げます。
 御承知の通り、戦後覚醒剤、麻薬または阿片の濫用による慢性中毒者が多数発生し、その中毒のために心身を害し、ひいては精神障害者になりつつありますことは、国民の保健衛生上まことに重大な問題であると存ずるのであります。
 なかんずく覚醒剤の恐るべきことは、いまさら申すまでもないと存ずるのでありますが、その濫用により精神的変調、すなわちはなはだしい刺激性の高進、易怒の傾向、学習勤労意欲の減退、浪費癖、良心や道徳感の麻痺等を引起すとともに、進んでは精神分裂病に見るごとき被害的妄想、幻覚、錯覚等の精神障害が起るようになるのであります。同時に身体的にも食欲不振による衰弱、肝臓障害等、極度の疲弊を生じさせ遂には治療不可能の障害を残すに至るのであります。しかしてこのような精神的身体的症状によつて起る嗜癖者の非行、反社会的行動の増加が、今日放置することができない問題となつているのであります。
 この様な覚醒剤等の慢性中毒者の瀰慢の状況にかんがみ、その者に適正な医療を施す等の保護を加え、これらの者が精神障害者に陥ることなく正常な生活にもどらしめようとするのが本案提出の理由であります。
 本法案の内容を申し上げますれば、まず、第一に、慢性中毒者を収容し治療するには、中毒者の症状とその特殊な事情により精神病院に入院し治療せしむることが不可欠であり、一方国及び都道府県立精神病院が現状において非常に少く、これらの病院のみに対する設置措置だけでは需要をまかなえない事情にかんがみ、非営利法人立の精神病院に対しても設置費及び運営費の一部を補助することができることとしたことであります。
 第二は、覚醒剤、麻薬及び阿片の慢性中毒者またはその疑いのある者について、精神障害者に関する保護義務者、保護の申請及び通報、精神衛生鑑定医の診察、知事による入院措置、保護義務者の同意入院、入院者の行動制限、退院手続、訪問指導及び保護拘束等に関する規定を準用することによつて、慢性中毒者を入院せしめて医療及び保護を行わなければならない場合、知事が入院措置をとることができることとし、また保護義務者による同意入院の道を開き、さらに退院後は訪問指導を行う等、中毒者の医療及び保護等に関する措置を講じたことがあります。
 何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことを切望する次第であります。

○小島委員長 以上で説明は終りました。
 それでは本案の質疑に入ります。

○滝井委員 精神衛生法の一部を改正する法律案の六条の二に、「国は、営利を目的としない法人が設置する精神病院及び精神病院以外の病院に設ける精神病室の設置及び運営に要する経費に対して、政令の定めるところにより、その二分の一以内を補助することができる。」ということになつておるわけです。六条の一項においては都道府県の設置するものについては、国はその設置及び運営に要する費用の二分の一を見るのですが、そこで問題は市町村の設置する精神病室に関するものでございます。営利を目的としない法人に二分の一の補助があるわけなんですから、当然市町村の精神病室にもあつてしかるべきが筋だと考えられるのです。私も提案者の一人になつておるわけですが、初めはそういうことで了解をいたしておつたのですけれども、いろいろ提案者の内部的な連絡の問題でそういうことができなかつたと思うのですが、これは営利を目的としない法人よりか市町村の精神病室に補助することが先だと思うのです。そこで、この点を提案の一番原動力であつた岡さんの方から将来そういうものは修正をしてやれる情勢にあつてのこういうことであつたのかどうか、それをひとつ明白にしておいていただきたいと思うのです。

○岡委員 滝井さんの御趣旨はまことにその通りでありまして、私ども原案作成者の一人といたしましては、市町村を含めて国が二分の一の補助を交付するという建前に立つておつたのであります。御存じのように、参議院の方では、覚せい剤取締法を通じて、覚醒剤そのものと、それに即した製造、またその売買、あるいは不正の保持等について処罰の規定の強化を中心とするヒロポンへの挑戦が法律として出て参つたのであります。私どもの方では人間を対象として、現在の中毒患者を対象としてこれに何らか適当な措置を講じたい、こういうふうな考え方からいたしまして、全国においても、市町村が経営する、あるいは国保等の病院に対して十分に国が補助をして、覚醒剤の患者を分散収容しながら、適当にその治療、保護、また覚醒剤中毒患者の特有性をもかんがみての人格の矯正、また環境の矯正等にも当らしめるというところに持つて行きたい、こういう考え方から、原案は市町村を入れておつたのであります。ところが、何しろ参議院衆議院両者並行で、一つは物に、一つは人に重点を置いて、両両相まつて覚醒剤中毒患者についての適正な対策を講じたい、また中毒の現状に対する適当な抑制を試みたいという関係上、なるべく本会期中にこれを急ぎたいというところから、市町村を入れたのであります。ところが財政上実施面において困難が生じ、この提案が九分通り進んでおりまして、さらにまたここに新しく検討を加えるということになりますと、相当な時日を必要とするのではなかろうか。またこの委員会のみをもつてこれが成立をはかり得ないといううらみもあるいはあるのではなかろうかということも問題として起つて参るわけです。いま一つの問題は、少くとも現在われわれが議決いたしました予算におきましては、精神病院の病床の補助費というものはきわめて低額でありまして、現状をもつてしては覚醒剤等にこれが適用されて、どんどん収容というようなことが行われました場合に、とうていそれを満たすことはできないのでありますけれども、現状を多少ふやすといたしましても、この補助金交付の優先順位ということから見まして、事実上の問題といたしまして、市町村また営利を目的としない法人営というような精神病院に対しての補助そのものは期待できないのではなかろうか、そういうようなことも事実上の問題として考慮いたしまして、われわれ原案作成者の一人といたしましては、昨日涙をのんで一応市町村は落すというとりはからいになつたわけでありまして、その間の事情は十分御了承をいただきたいと同時に、この手続の点について滝井さん等に御連絡申し上げなかつた点は、まことに遣憾に存じているわけであります。そういうわけでありますが、参議院におきましては各党共同のまた決議等を持つておるようでありますので、何とか将来には市町村立の病院についても精神病の病床がこれらの患者を重点として設けられるというような改正が必要であるならば、その改正もいたして、そうして交付され得る道を開くという取扱いについて、参議院の方にも私ども党といたしましては努力をいたしたい、こういうように考えて、この点あとでまた皆様にも御了解を得たいと思つておつたわけでありますので、以上経過について率直に御報告申し上げたのであります。まことに遺憾でありましたが、御了承くださつて御賛同いただきたいと思います。

○小島委員長 他に御質疑はございませんか。――なければ、質疑は終了したものと認めるに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○小島委員長 御異議もないようですから、さよう決します。
 お諮りいたします。本案はすでに委員会、理事会等におきまして十分討議を尽した問題でありますので、討論を省略し、ただちに採決したいと存じますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○小島委員長 御異議なしと認めます。よつて本案の討論は省略し、ただちに採決いたします。
 本案を原案の通り決するに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○小島委員長 御異議なしと認めます。よつて本案は原案の通り可決いたされました。【略】

本会議会議録第59号(19衆昭和29年5月31日)
○議長(堤康次郎君) 日程第三、精神衛生法の一部を改正する法律案、日程第四、覚せい剤取締法の一部を改正する法律案、右両案を一括して議題といたします。委員長の報告を求めます。厚生委員会理事古屋菊男君。
〔古屋菊男君登壇〕

○古屋菊男君 ただいま議題となりました精神衛生法の一部を改正する法律案及び覚せい剤取締法の一部を改正する法律案につきまして、厚生委員会における審査の経過並びに結果の大要を御報告申し上げます。
 まず、精神衛生法の一部を改正する法律案につきまして申し上げます。
 御承知の通り、戦後覚醒剤、麻薬または阿片の濫用による慢性中毒者が多数発生し、その中毒のために心身を害し、ひいては精神障害者になりつつありますことは、国民の保健衛生上まことに重大な問題であると存ずるのであります。このような覚醒剤等の慢性中毒者の瀰漫の状況にかんがみ、その者に適正な医療を施す等の保護を加え、これらの者が精神障害者に陥ることなく、正常な生活にもどらしめようとするのが本案提出の理由であります。
 本法案の内容を申し上げますれば、まず第一に、慢性中毒者については、その症状とその特殊な事情により、精神病院に入院し治療せしむることが不可欠でありますが、国及び都道府県立精神病院が現状において非常に少い実情にかんがみ、非営利法人立の精神病院に対しても設置費及び運営費の一部を補助することができることとしたことであります。
 第二は、覚醒剤、麻薬及び阿片の慢性中毒者、またはその疑いのある者について、精神障害者に関する保護義務者、保護の申請及び通報、精神衛生鑑定医の診察、知事による入院措置、保護義務者の同意入院、入院者の行動制限、退院手続、訪問指導及び保護拘束等に関する規定を準用することによつて、慢性中毒者を入院せしめて医療及び保護を行わなければならない場合、知事が入院措置をとることができることとし、また保護義務者による同意入院の道を開き、さらに退院後は訪問指導を行う等、中毒者の医療及び保護等に関する措置を講じたことであります。
 覚醒剤の問題に関しては、本委員会においてきわめて熱心なる研究が行われて参つたのでありますが、その結果、各派共同による本法案の提出となつた次第であります。
 本法案は五月二十九日本委員会に付託せられ、同日提出者山口シヅエ君より提案理由の説明を聴取した後、ただちに審査に入り、質疑終了の後、討論を省略して採決に入りましたところ、本法案は全会一致可決すべきものと議決した次第であります。
【略】
 以上御報告申し上げます。(拍手)

○議長(堤康次郎君) 両案を一括して採決いたします。両案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○議長(堤康次郎君) 御異議なしと認めます。よつて両案は委員長報告の通り可決いたしました。

【20050715:参議院審議は、にわとりショコラへ移転しました。】

精神衛生法の一部を改正する法律(昭和29年6月14日法律第179号)
精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
 目次中「第六条」を「第六条―第六条の二」に、「第二十条―第五十条」を「第二十条―第五十一条」に、「第五十条(刑又は保護処分の執行との関係)」を

 第五十条 (刑又は保護処分の執行との関係)
 第五十一条 (覚せい剤等の慢性中毒者に対する措置)

に改める。
 
第一条中「精神障害者」を「精神障害者等」に改める。
 
第二条中「精神障害者が」を「精神障害者等が」に、「精神障害者の発生」を「その発生」に改める。
 
第六条の次に次の一条を加える。
第六条の二 国は、営利を目的としない法人が設置する精神病院及び精神病院以外の病院に設ける精神病室の設置及び運営に要する経費に対して、政令の定めるところにより、その二分の一以内を補助することができる。
 
第五章中第五十条の次に次の一条を加える。
覚せい剤等の慢性中毒者に対する措置)
第五十一条 第十八条第二項及び第三項並びに第十九条から前条までの規定は、覚せい剤、麻薬若しくはあへんの慢性中毒者(精神障害者を除く。)又はその疑のある者につき準用する。この場合において、これらの規定中「精神障害」とあるのは「慢性中毒」と、「精神障害者」とあるのは「慢性中毒者」と読み替えるものとする。
 
附則
この法律は、公布の日から施行する。

 内閣総理大臣 吉田茂
 法務大臣 加藤鐐五郎
 大蔵大臣 小笠原三九郎
 厚生大臣 草葉 隆円