精神医療に関する条文・審議(その17)

前回(id:kokekokko:20050113)のつづき。初回は10/28(id:kokekokko:20041028)。
昭和36年法律第66号での精神衛生法改正をみてみます。措置入院での費用負担について、各種社会保険との調整をはかった改正です。
これについては、社会保障制度全般との関連からあるいは精神医療の現状という観点から、詳細な審議がなされていますが、分量が多いので、審議の詳細はにわとりショコラのほうにおきました。ここでは法規の条文と直接に関連する部分のみを採りあげます。

精神衛生法の一部を改正する法律案
 精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
 目次中「第二十九条(知事による入院措置)」を

第二十九条(知事による入院措置)
第二十九条の二(入院措置の場合の診療方針及び医療に要する費用の額)
第二十九条の三(社会保険診療報酬支払基金への事務の委託)

に、「第三十条(費用の負担及び補助)」を「第三十条(費用の支弁及び負担)」に改める。
 
第二十九条の次に次の二条を加える。
 (入院措置の場合の診療方針及び医療に要する費用の額)
第二十九条の二 前条の規定により入院する者について国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院が行なう医療に関する診療方針及びその医療に要する費用の額の算定方法は、健康保険の診療方針及び療養に要する費用の額の算定方法の例による。
2 前項に規定する診療方針及び療養に要する費用の額の算定方法の例によることができないとき、及びこれによることを適当としないときの診療方針及び医療に要する費用の額の算定方法は、厚生大臣が精神衛生審議会の意見を聞いて定めるところによる。
 (社会保険診療報酬支払基金への事務の委託)
第二十九条の三 都道府県は、第二十九条の規定により入院する者について国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院が行なつた医療が前条に規定する診療方針に適合するかどうかについての審査及びその医療に要する費用の額の算定並びに国又は指定病院の設置者に対する診療報酬の支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金に委託することができる。
 
第三十条に見出しとして「(費用の支弁及び負担)」を加え、同条第一項中「前条」を「第二十九条」に改め、「政令の定めるところにより、」を削り、「負担」を「支弁」に改め、同条第二項中「支出する」を「支弁した」に、「二分の一を補助する」を「十分の八を負担する」に改める。
 
 附則
 (施行期日)
1 この法律は、昭和三十六年十月一日から施行する。
 (経過規定)
2 第二十九条の規定により入院する者の入院に要する費用でこの法律の施行前の期間に係るものに関する国の補助については、なお従前の例による。
 (社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
3 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の一部を次のように改正する。
 第十三条第二項中「委託されたときにおいても、」を「委託されたとき、並びに精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)第二十九条の三の規定により、同条に規定する審査、額の算定又は診療報酬の支払に関する事務を委託されたときにおいても、」に改める。
 
理由
 精神衛生対策の推進を図るため、精神障害者の入院措置に要する費用についての国の負担率を引き上げる等、その実施を円滑にする措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

社会労働委員会会議録第7号(38衆昭和36年2月22日)
○山本委員長 去る十六日付託になりました予防接種法の一部を改正する法律案並びに去る二十日付託になりました医療金融公庫法の一部を改正する法律案、精神衛生法の一部を改正する法律案及び結核予防法の一部を改正する法律案、以上四案を一括して議題とし、審査を進めます。

○山本委員長 提案理由の説明を聴取いたします。古井厚生大臣

○古井国務大臣 【略】
 次に精神衛生法の一部を改正する法律案について、その提案の理由を御説明申し上げます。
 精神障害者の医療及び保護につきましては、従来からその対策の推進をはかっているところでありますが、精神障害者の治療には、長期に入院して高額な医療費を必要とするものが多いため、十分な入院治療が行なわれず、また、患者世帯が貧困階層へ転落していくことが多い実情であります。また精神障害者は自身を傷つけ、または他に害を及ぼすおそれがあり、社会不安の一因ともなっているのでありまして、精神障害者の医療費負担の軽減をはかるとともに、社会不安を除去する見地から、その医療及び保護の徹底を期すべく、今回精神衛生法に定める都道府県知事の行なう措置の制度を強力に推進する方途を講ずることといたしたのであります。
 すなわち、第一に措置患者の入院に要する費用については、従来の二分の一の国庫補助率を十分の八の国庫負担率に引き上げ、都道府県における必要な予算化を容易ならしめ、入院措置制度の円滑化をはかることといたしました。
 次に、措置患者の医療に関する診療方針及び費用について、その規定を整備するとともに、医療費の支払い事務等を円滑に処理するため、これを社会保険診療報酬支払基金に委託し得ることといたしました。
 なお、本改正は本年十月一日から実施するものであります。
 以上がこの法律案の提案理由でありますが、何とぞ御審議の上すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
【略】

○山本委員長 なお、ただいまの各案についての質疑につきましては後日に譲ることといたします。
【略】

社会労働委員会会議録第20号(38衆昭和36年3月29日)
○島本委員 今上程されております結核予防法の一部を改正する法律案、精神衛生法の一部を改正する法律案、これに関連いたしまして、順次質疑を試みたいと思います。
 まず、結核及び精神衛生対策として、昭和三十六年十月から結核命令入所及び精神措置入院患者の医療費を原則として全額公費で負担する、こういうようなことに今回の提案ではっきりなったわけでございますけれども、この国庫補助率を八割に今度引き上げる、だれしも上げることについては、物価の値上げは悪いけれども、補助率の引き上げはまことに心から敬意を表するところである。こういうような場合に、大がい期限は法律通過の日から実施する建前になっておりますが、今回は、十月から実施するようになっております。どうしてこれは法律通過の日から実施しないのであるか、その理由についてはっきり説明願いたい。

○尾村政府委員 主たる理由といたしましては、今度の切りかえでは非常な準備が要るわけでございます。ただし、その準備がきっちり半年というわけではございませんけれども、相当長期の準備を要するというわけで、ちょうどこの十月一日まで能率的にこれを開始すれば、うまくこの制度に切りかえてやっていけるようにということを見越しまして十月一日にした、これが主たる理由でございます。

○島本委員 主たる理由がそうだといたしますと、おそらくは六月から実施した場合と、十月から、実施した場合とで、相当予算的に違いが出るのじゃないかと思います。あくまでも十月から実施するとしたのは、これは準備がどうしてもできないからそうしたのか、それとも予算は出すけれども、補助を削減する一つの手段としてこうせざるを得なかったのか。おそらくはすぐやった方が、皆さんとしてはいいに相違ないのですが、この辺、何かありましたら発表願いたい。

○尾村政府委員 これはもちろん財政的な負担が、四月からですと、増額分の倍かかるわけでございますから、全然財政的の問題も考慮しないで、準備だけと言い切れることではございませんけれども、私ども、私ども三十四年度から全国の対象の都市は四分の一に、命令入所のことをある程度改善いたしまして、それから三十五年度にさらに全国の半分にやったという実際の経験の実績を持っておるわけでございまして、それらから見ますと、やはりこの受け入れ態勢を、保健所の実際の登録を初め、今度の改正の一環になっておりますいろいろな条件があるわけでございますが、これを改正して準備をして初めてできるということで、主たる理由は準備態勢ということでございます。ただし、それがしからば十月でなくて九月まではどうか、少しでも早くという問題がございますけれども、そこのところは一応半年、翌年からそういうふうな軌道に乗った場合には、むろん通年は最小限度それだけはいく、こういうような気持でいたしたわけでございます。

○島本委員 この対象になる結核命令入所者の数、これは何人を見込んでおるのか、精神措置入院者数を何人と見込んでおるのか、この見込み数の発表を願います。

○尾村政府委員 これは結核につきましても精神につきましても、対象の人数というとちょっと的をはずれるのでございますけれども、従来のやり方では、実数何人分、その一人の平均の入院日数七カ月とか、こういうような形で組んでおりましたが、今度はさらに内容を改善いたしまして、一年間を通じて何ベッドという形をとりました。従ってそのベッドの予算を持っておるならば、軽くて三月ごとに出入りすれば、実数は一ベッドの予算で四人入れる、こういうふうな非常にワクをふやした形に改正をいたしました。そういうような建前で、結核につきましては五万四千ベッド、それから精神につきましては三万七千ベッド、こういうことをこの十月一日からとった、こういうことでございます。従いまして、ただいま申し上げましたようなことが三十七年度に平年化しますと、今のように実数はその回転率によりましてふえるわけでございます。

社会労働委員会会議録第23号(38衆昭和36年4月5日)
○山本委員長 引き続き本案を討論に付すのでありますが、申し出もないようでございますから、直ちに採決いたしたいと思いますが、御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○山本委員長 御異議なしと認め、そのように決しました。
 これより精神衛生法の一部を改正する法律案について採決いたします。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  〔賛成者起立〕

○山本委員長 起立総員。よって本案は原案の通り可決すべきものと決しました。
【略】

本会議会議録第27号(38衆昭和36年4月7日)
○議長(清瀬一郎君) 日程第二、精神衛生法の一部を改正する法律案を議題といたします。

○議長(清瀬一郎君) 委員長の報告を求めます。社会労働委員会理事永山忠則君。

○永山忠則君 ただいま議題となりました精神衛生法の一部を改正する法律案について、社会労働委員会における審査の経過並びに結果について御報告申し上げます。
 精神障害者の治療には、一般に、長期に入院して高額の医療費を必要とするため、十分な入院治療が行なわれず、また、患者世帯が貧困階層へ転落していく場合が多い実情であります。また、精神障害者は、自身を傷つけ、または他人に害を及ぼすおそれがあり、社会不安の一因ともなっているのであります。今回、精神障害者の医療費負担の軽減をはかるとともに、社会不安を除去する見地から、精神衛生法に定める都道府県知事の行なう措置入院の制度を強力に推進して、精神障害者の医療及び保護の徹底をはかろうとするのが、本改正法律案の目的であります。
 そのおもなる内容について申し上げますれば、第一は、措置患者の入院に要する費用についての従来の二分の一の国庫補助率を十分の八の国庫負担率に引き上げることであり、第二は、措置患者の医療に関する診療方針及び費用について、その規定を整備するとともに、医療費の支払い事務等を円滑に処理するため、これを社会保険診療報酬支払基金に委託し得ることとすることであります。
 本法案は、去る二月二十日付託となりましたが、四月五日の委員会において質疑を終了し、次いで採決いたしましたところ、本案は全会一致をもって原案の通り可決すべきものと議決した次第であります。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)

○議長(清瀬一郎君) 採決いたします。
 本案は委員長報告の通り決するに御異議ありませんか。
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○議長(清瀬一郎君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告の通り可決いたしました。

【20050715:参議院審議は、にわとりショコラへ移転しました。】

精神衛生法の一部を改正する法律(昭和36年4月18日法律第66号)
 精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
 目次中「第二十九条(知事による入院措置)」を

第二十九条(知事による入院措置)
第二十九条の二(入院措置の場合の診療方針及び医療に要する費用の額)
第二十九条の三(社会保険診療報酬支払基金への事務の委託)

に、「第三十条(費用の負担及び補助)」を「第三十条(費用の支弁及び負担)」に改める。
 
第二十九条の次に次の二条を加える。
 (入院措置の場合の診療方針及び医療に要する費用の額)
第二十九条の二 前条の規定により入院する者について国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院が行なう医療に関する診療方針及びその医療に要する費用の額の算定方法は、健康保険の診療方針及び療養に要する費用の額の算定方法の例による。
2 前項に規定する診療方針及び療養に要する費用の額の算定方法の例によることができないとき、及びこれによることを適当としないときの診療方針及び医療に要する費用の額の算定方法は、厚生大臣が精神衛生審議会の意見を聞いて定めるところによる。
 (社会保険診療報酬支払基金への事務の委託)
第二十九条の三 都道府県は、第二十九条の規定により入院する者について国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院が行なつた医療が前条に規定する診療方針に適合するかどうかについての審査及びその医療に要する費用の額の算定並びに国又は指定病院の設置者に対する診療報酬の支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金に委託することができる。
 
第三十条に見出しとして「(費用の支弁及び負担)」を加え、同条第一項中「前条」を「第二十九条」に改め、「政令の定めるところにより、」を削り、「負担」を「支弁」に改め、同条第二項中「支出する」を「支弁した」に、「二分の一を補助する」を「十分の八を負担する」に改める。
 
 附則
 (施行期日)
1 この法律は、昭和三十六年十月一日から施行する。
 (経過規定)
2 第二十九条の規定により入院する者の入院に要する費用でこの法律の施行前の期間に係るものに関する国の補助については、なお従前の例による。
 (社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
3 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の一部を次のように改正する。
 第十三条第二項中「委託されたときにおいても、」を「委託されたとき、並びに精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)第二十九条の三の規定により、同条に規定する審査、額の算定又は診療報酬の支払に関する事務を委託されたときにおいても、」に改める。
 
 大蔵大臣 水田三喜男
 厚生大臣 古井喜実
 内閣総理大臣 池田勇人