（資料）治安維持法関係の文書（その1）

予防拘禁に関連する通達類です。1/14（id:kokekokko:20050114）のつづきのようなものです。

予防拘禁制度活用ニ関スル件依命通牒（昭和16年9月16日刑事第18855号　検事正宛刑事局長通牒）
　過般実施ヲ見タル予防拘禁制度ニ付テハ之ガ制定ノ趣旨ニ鑑ミ且常ニ治安状況トノ関係ヲ考慮シツツ法律ノ許ス限リ其ノ活用ヲ図ルベキコト勿論ナルモ国際情勢ノ頓ニ緊迫シ何時非常緊急事態ノ発生ヲ見ルヤ予測ヲ許サザル現時臨戦的国情下ニ於テ治安ヲ確保スル為詭激思想ニ基ク反法行為ヲ防遏【あつ】スルノ要愈々緊切ナルモノアルノ秋ニ際リテハ同制度ヲ最大限ニ活用スルコトニ依リ法律ニ定メラレタル者ノ更ニ罪ヲ犯スノ危険ヲ防止スルコトヲ以テ最モ緊急ノ要務ト被存候条概ネ左記事項ニ留意ノ上万遺憾ナキヲ期セラレ候様致度候
　記
一　予防拘禁制度ハ所謂保安処分タルノ性質上常ニ治安トノ関連ニ於テ運用セラルベキモノニシテ具体的ナル客観情勢ニ対応シテ其ノ活用ヲ図ルノ要アルヲ以テ予防拘禁ニ付セラルベキ者モ独リ所謂非転向者ニ限局セラルベキモノニ非ズ殊ニ非常緊急事態切迫シ人心ノ動揺著ルシキ事態ヲ生ゼシカ転向ノ過程ニ在ル者ト雖モ所謂逆転向ヲ為ス虞アルノミナラズ所謂準転向者中ニハ潜在スル詭激思想ニ基キ反戦反軍的行動其ノ他治安ニ有害ナル行動ニ出ヅル虞顕著ナルモノ尠カラザルベキヲ以テ現時局下ニ於テハ単ニ非転向者ニ限ラズ所謂準転向者モ亦予防拘禁ノ対象トナリ得ベキコト
二　思想状態ノ検討ニ関シテハ従来動モスレバ対象者ノ皮相的主張ニ捉ハレ其ノ自供スル思想ノミヲ判断ノ主タル対象ト為シタル嫌アルモ思想犯罪ノ特質ニ鑑ミ就中思想ト行動トヲ統一シタル見地ヨリ其ノ思想状態ノ判断ヲ為スベキモノニシテ左記事項ニ留意シ擬装転向又ハ日和見転向ヲ真ノ転向卜峻別スルコト
（イ）　対象者ノ行動自体ヲ深ク吟味シ政治乃至社会運動ニ進出セントスル者又ハ国家的要請ニ対シ冷淡ナル態度ヲ採ル者等ニ付テハ其ノ行動ヨリ推シテ更ニ厳重其ノ思想状態ヲ検討スルコト
（ロ）　国体ノ本義ヲ認識シテ転向ヲ遂ゲタリト自供スル者ニ付テモ其ノ抱懐シタル階級的世界観等ニ対シ如何ナル解決ヲ為シ居ルカヲ検討スルコト
（ハ）　特ニ転向ノ動機ヲ検討スルコト
　1　信仰ニ因ルモノハ其ノ抱懐シタル階級観等ニ対スル理論的批判ヲ完了シタルモノ尠キヲ以テ現実生活ニ於テ社会ノ諸矛盾ニ直面シタル場合唯物史観的見地ヨリ之ヲ解決セントスル虞アリ
　2　近親愛ニ因ルモノハ理論的ニ過去ノ思想ヲ是トシナガラ感情的ニ実践ヲ躊躇スルニ止マルヲ通例トスルヲ以テ其ノ世界観ハ依然トシテ階級的世界観ヲ脱却シ居ラザル虞アリ
　3　共産主義理論ノ清算ニ因ルモノハ
　　（一）意識高度ナルトキハ新ニ健全ナル世界観ヲ樹立スルコト極メテ困難ニシテ根柢【てい】ニ於テ唯物史観ニ近キ見地ヲ保持スルコト多ク理論ニ対スル批判モ亦部分的ニ止マルコト尠カラズ
　　（二）意識低キトキハ理論ニ対スル批判幼稚ナル為左翼的啓蒙ニ因リ直ニ逆転向スル虞アリ
　4　国民的自覚ニ因ルモノハ単ニ観念的自覚ノ域ニ止マリ国体観念ヲ体得スルコト比較的乏シク且擬装転向ノ大部分ハ之ニ属スルノミナラズ私有財産制度ニ対スル見解ノ清算不完全ナル虞アリ
　5　性格、健康等身上関係ニ因ルモノハ之等ノ事由ニ因リ単ニ実践ヨリ離脱セントスルニ止マリ基本的ニハ過去ノ思想ヲ是認シ之ヲ抛棄セザルモノ多カルベシ
　6　拘禁ニ因ル後悔ニ因ルモノ亦同様ニシテ5ノモノニ比シ更ニ一時的ナル虞アリ
（ニ）交友関係、社会生活ノ内容、読書関係、文筆活動、言動等ノ行動面ヲ検討スルコト
（ホ）転向ガ突発的ナリヤ如何ナル程度ノ苦悩ヲ伴ヒタリヤ等転向ヲ表明スルニ至リタル過程ヲモ検討スルコト
三　予防拘禁ノ対象トナルベキ者ヲ左ノ如ク分類シ別紙二ノ様式ニ従ヒ表ヲ作成シ速ニ本省ニ報告スルコト
　甲号　現時ニ於テ予防拘禁ヲ必要トスル者
　（原則トシテ別紙一ノ転向分類（一）ノ1乃至3及5二該当スルモノ、但シ情状ニ因リ右分類（一）ノ4並ニ（二）ノ1ニ該当スルモノヲ含ム）
　乙号　非常緊急事態切迫シタル場合予防拘禁ヲ必要トスベキ者
　（原則トシテ右転向分類（一）ノ4並ニ（二）ノ1及2ニ該当スルモノ）
四　甲号該当ノ者ニ対シテハ急速ニ予防拘禁ノ処置ヲ執ルコト
五　至急刑務所長及保護観察所長ト連絡スルト共ニ司法警察官ヲ督励シ鋭意予防拘禁対象者ノ発見ニ努ムルコト
尚他管内ニ現在スル思想犯保護観察対象者ノ観察ニ付テハ其ノ庁ノ検事正ヲ通ジテ其ノ管下ノ司法警察官ヲ督励シ又ハ検事正自ラ若ハ部下思想係検事ヲシテ他管内ニ出張ノ上其ノ庁ノ検事正若ハ思想係検事ト連絡スル等適宜ノ処置ヲ講ズルコト
六　思想犯前科者ニシテ予防拘禁ノ必要アリト認メラルルモノニ付
　（イ）思想犯保護観察対象者ナルトキハ至急刑事記録、保護観察記録、行刑成績表及司法警察官ノ視察報告書等ヲ準備シ之ガ検討ヲ為スコト
　（ロ）思想犯保護観察対象者ニ非ザルトキハ至急保護観察ニ付スベキ手続ヲ促スコト
七　未ダ予防拘禁委員会ヲ召集セザル庁ニ於テハ速ニ之ヲ召集シテ各委員ニ該制度ノ運用方針殊ニ改正治安維持法第三十九条ノ立法精神ヲ指示シ併セテ其ノ意見ヲ徴シ其ノ他諸般ノ協議ヲ為シ何時ニテモ予防拘禁委員会ノ手続ヲ開始シ得ル様準備スルコト
　
別紙　一
　転向分類
思想犯前歴者ヲ左ノ如ク分類ス
（一）非転向
　1　思想及言動ニ於テ何等反省ナキモノ
　2　客観情勢ニ対シ日和見的態度ヲ持シ実践行動ニ出デザルモ過去ノ思想ヲ抛棄セザルモノ
　3　家庭ノ事情其ノ他一身上ノ事由ニ依リ実践行動ニ出デザルモ過去ノ思想ヲ抛棄セザルモノ
　4　病気其ノ他ノ事由ニ因リ実践行動困難ナルモ過去ノ思想ヲ抛棄セサルモノ
　5　過去ノ思想ニ動揺ヲ来シ又ハ自ラ過去ノ思想ヲ抛棄シタリト表明スルモ根柢【てい】ニ於テハ依然トシテ階級意識（唯物史観）ヲ堅持スルモノ
（二）準転向
　1　過去ノ思想ニ懐疑的又ハ無関心トナリ思想的低徊ノ状態ニ在ルモノ
　2　過去ノ思想ヲ抛棄シタリト表明スルモ其ノ日常ノ言動・思考、態度ノ上ニ過去ノ思想ノ残滓ヲ留ムルモノ
　3　過去ノ思想ノ残滓ヲ留ムルモ之ガ清算ヘ積極的努力ヲ為シ居ルモノ
（三）転向
過去ノ思想ヲ清算シ日常生活裡ニ臣民道ヲ躬行シ居ルモノ
　
別紙　二
【省略】

治安維持法違反収容者ノ転向分類ニ関スル件通牒（昭和16年11月13日行甲第1823号　拘置所長、刑務所長、少年刑務所長、予防拘禁所長宛行刑局長通牒）
治安維持法違反収容者ノ転向分類ニ付テハ先般当局ト刑事、保護両局ト合議ノ上別紙（一）分類ヲ採用致スコトニ相成候条爾今該分類ニ従ヒ処理相成度従ツテ昭和八年行甲第一七三一号及同年行甲第一七五一号通牒ニ基ク改悛状態分類ハ自然廃止ト相成候モ同上転向動機分類ノ略号（1）（2）（3）………（7）ハ之ヲ（い）（ろ）（は）………（と）ト改正致シ昭和九年八月行秘甲第二〇六号及昭和十年六月行甲第八六四号通牒ニ基ク治安維持法違反受刑者累進処遇級別報告（第四表様式）同転向動機報告（第五表様式）ノ様式ヲ別紙（二）（三）ノ通リ改正致候間御了知相成度候
　尚此際貴所収容中ノ治安維持法違反受刑者ニ付至急別紙（四）様式ニ従ヒ新略号ニ依ル思想状況報告相成度候
　
別紙　（一）
転向ノ分類
（一）非転向
　1　思想及言動ニ於テ何等反省ナキモノ
　2　客観情勢ニ対シ日和見的態度ヲ持シ実践行動ニ出デザルモ過去ノ思想ヲ抛棄セザルモノ
　3　家庭ノ事情其ノ他一身上ノ事由ニ依リ実践行動ニ出デザルモ過去ノ思想ヲ抛棄セザルモノ
　4　病気其ノ他ノ事由ニ因リ実践行動困難ナルモ過去ノ思想ヲ抛棄セサルモノ
　5　過去ノ思想ニ動揺ヲ来シ又ハ自ラ過去ノ思想ヲ抛棄シタリト表明スルモ根柢【てい】ニ於テハ依然トシテ階級意識（唯物史観）ヲ堅持スルモノ
（二）準転向
　1　過去ノ思想ニ懐疑的又ハ無関心トナリ思想的低徊ノ状態ニ在ルモノ
　2　過去ノ思想ヲ抛棄シタリト表明スルモ其ノ日常ノ言動・思考、態度ノ上ニ過去ノ思想ノ残滓ヲ留ムルモノ
　3　過去ノ思想ノ残滓ヲ留ムルモ之ガ清算ヘ積極的努力ヲ為シ居ルモノ
（三）転向
過去ノ思想ヲ清算シ日常生活裡ニ臣民道ヲ躬行シ居ルモノ
【別紙（二）から（四）まで省略】