未遂・結果的加重犯・そして故意 〜航空機強取と人質強要の対話〜

前回(id:kokekokko:20050128#p2)のつづきです。
上記の図式化は、航空機強取罪と人質強要罪との関係についてもあてはまります。人質3条は強取1条1項を含み、強取2条が結果的加重犯であり、そして強取2条は人質3条よりも重いです。
 
今回はさらに続きを書きます。まずは条文からです。前回あげた条文とあわせて参照してください。

航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律(昭和49年法律第87号)
第1条(航空の危険を生じさせる罪)
飛行場の設備若しくは航空保安施設を損壊し、又はその他の方法で航空の危険を生じさせた者は、三年以上の有期懲役に処する。
 
第2条(航行中の航空機を墜落させる等の罪)
1 航行中の航空機(そのすべての乗降口が乗機の後に閉ざされた時からこれらの乗降口のうちいずれかが降機のため開かれる時までの間の航空機をいう。以下同じ。)を墜落させ、転覆させ、若しくは覆没させ、又は破壊した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 前条の罪を犯し、よって航行中の航空機を墜落させ、転覆させ、若しくは覆没させ、又は破壊した者についても、前項と同様とする。
3 前二項の罪を犯し、よって人を死亡させた者は、死刑又は無期若しくは七年以上の懲役に処する。
 
第3条(業務中の航空機の破壊等の罪)
1 業務中の航空機(民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約第二条(b)に規定する業務中の航空機をいう。以下同じ。)の航行の機能を失わせ、又は業務中の航空機(航行中の航空機を除く。)を破壊した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の罪を犯し、よって人を死亡させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
 
第5条(未遂罪)
第一条、第二条第一項、第三条第一項及び前条の未遂罪は、これを罰する。

■ 航空危険罪と他罪との関係
航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律(以下「航空危険」)は、いくつかの犯罪と関連があります。まず「航空危険」は刑法典の往来妨害罪の特別法であると考えられるので、航空危険1条・2条と放火の罪との関係が問題になります。これについては別途述べました。
ここで一点目としては次の問題があります。刑法の往来への罪と比較して、刑法127条のような「往来危険による汽車転覆を汽車転覆罪として扱う」という規定が「航空危険」にも存在します。ところが、刑法127条には結果的加重犯を含むかという論点が存在します。
127条は、125条の罪によって汽車が転覆した場合に、「126条の例による」とするものです。ですが126条は人の現住を要求するので、転覆させて人を死なせる場合に126条3項に該当するためには、列車内に人がいる必要がありますし、その認識が行為者に要求されることにもなります。ところが127条によって126条3項が適用されると解すると、直接転覆させるのではなく標識を損壊させるなどによって人が死ぬ場合には列車内に人がいる必要がなくその認識も(そして転覆などの認識も)行為者には要求されないことになって、均衡を欠くことになります。このため、刑法127条は126条3項を含まないとする見解が存在するのです(曽根・各論3版補訂版235ページ、山中・各論II525ページ)。列車を転覆・破壊させずに人を死亡させる場合との対比もこの説の根拠となっています(判例は反対に、126条3項を含ませます。最判昭和30年6月22日刑集9巻8号1189ページ=三鷹事件=。学説の多数は、人が中にいる汽車の場合に限り126条3項を適用させる、として3項適用を否定しません。前田・各論2版381ページ、中森・各論218ページ、山口・各論405ページ)。ところが、航空危険2条3項においては、往来危険(1条)の結果的加重犯(2条2項)を、致死罪の対象として明確に含んでいます。これは、刑法127条は126条3項を含まないとする見解からは、不当といえるでしょう。つまり、直接航空機を転覆・破壊させる場合には航行中という認識が必要になるのですが、設備損壊の場合には航行中という認識は(そして破壊などの認識も)不要になってしまうのです。
二点目の問題として、刑法の往来への罪と比較して、往来危険については汽車への往来危険罪よりも航空の危険を生じさせる罪のほうが重いのですが、転覆致死罪になると汽車転覆致死罪のほうが航空機転覆致死罪よりも重くなっています。これは、「死刑又は無期懲役に処する」という法定刑が重過ぎるから近時の立法では採用されないことによるのですが、それならば列車転覆致死罪の法定刑も引き下げるべきです。改正刑法草案では列車転覆致死罪(197条2項)の法定刑は引き下げられていて、かつ航空機と列車とを等しく扱っています。こちらのほうが合理的でしょう。
 
次に、「航空危険」は、航空機の安全に対する罪であるから、「強取」とも関連があります。強取1条は、航行中の航空機を強取した場合の規定なのですが、この場合には航空の危険が発生しているといえますから、航空危険1条も成立します。ここで、強取1条のほうが罪が重いのでこれのみが成立するという見解も考えられますし、両者が観念的競合の関係にあると考える見解もありえます。
いっぽう、「強取」には運行阻害罪も存在し(4条)、その刑は「1年以上10年以下の有期懲役」です。運行阻害罪は航空危険1条よりも軽いのです。しかし運行を阻害すれば当然に航空の危険は発生します。ですからこの両者の関係が問題となります。具体的には、強取4条が航空危険1条の「その他の方法」に該当するかどうかです。

航空機の強取等の処罰に関する法律(昭和45年法律第68号)【前回のつづき】
第4条(航空機の運行阻害)
偽計又は威力を用いて、航行中の航空機の針路を変更させ、その他その正常な運航を阻害した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。

ここで注意すべき点は、強取4条には致死罪の規定がないことです。ですから、強取4条が航空危険1条に該当しないと考えるならば、強取4条の結果として航空機が破壊されても航空危険2条2項に該当せず、また人を死なせた場合にも航空危険2条3項に該当しないことになります。逆に、強取4条が航空危険1条に該当すると考えるならば、重い航空危険1条が常に成立することになり、強取4条の意味がないことになります。ですから、強取4条は、航空機の危険が発生しない場合に用いられる処罰規定であると考えることになります。そうなれば、そのようなものをなぜ「強取」で規定したのかが不明になります。航空危険1条の罪は未遂も処罰される(5条)ので、それにも該当しないような行為を処罰するのであれば、わざわざ「強取」に規定を置かなくても業務妨害罪で処罰すれば足りるはずです。
 
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疲れたので、今日はここまで。