精神医療に関する条文・審議(その40)

前回(id:kokekokko:20050602)のつづき。初回は2004/10/28。
精神衛生法の改正についての国会審議。今回は昭和62年法律第98号での改正をみてみます。
この改正は、昭和40年改正につづく大きな改正でした。改正にいたる背景として、昭和59年に起こった宇都宮病院事件があげられます。病院内で入院患者が職員の暴行によって死亡する、という事件があり、事件を契機として精神病院の実態が明らかになると、これに対して国際的な批判を浴びました。
これを受けて、精神障害者社会復帰施設が設置され、さらに任意入院や応急入院などの制度も制定され、退院手続などについて精神病院の閉鎖性が改善されました。
また、法律名が「精神衛生法」から「精神保健法」に改められました。

精神衛生法等の一部を改正する法律案
 (精神衛生法の一部改正)
第一条 精神衛生法(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
題名を次のように改める。
  精神保健法
 
目次中「地方精神衛生審議会及び精神衛生診査協議会(第十三条―第十七条)」を「地方精神保健審議会及び精神医療審査会(第十三条―第十七条の五)」に、「精神衛生鑑定医(第十八条・第十九条)」を「精神保健指定医(第十八条―第十九条の五)」に、「第五章 医療及び保護(第二十条―第五十一条)」を

第五章 医療及び保護(第二十条―第五十一条)
第六章 罰則(第五十二条―第五十七条)

に改める。
 
第一条中「且つ、」を「その社会復帰を促進し、並びに」に改め、「予防」の下に「その他国民の精神的健康の保持及び増進」を加え、「国民の精神的健康の保持及び」を「精神障害者等の福祉の増進及び国民の精神保健の」に改める。
 
第二条中「教育施設その他福祉施設」を「社会復帰施設その他の福祉施設及び教育施設」に、「精神衛生に関する」を「精神保健に関する調査研究の推進及び」に、「その発生を予防する」を「精神障害者等の発生の予防その他国民の精神保健の向上のための」に改め、同条の次に次の一条を加える。
 (国民の義務)
第二条の二 国民は,精神的健康の保持及び増進に努めるとともに、精神障害者等に対する理解を深め、及び精神障害者等がその障害を克服し、社会復帰をしようとする努力に対し、協力するように努めなければならない。
 
第七条の見出しを「(精神保健センター)」に改め、同条第一項中「精神衛生」を「精神保健」に、「精神衛生センター」を「精神保健センター」に改め、同条第二項中「精神衛生センター」を「精神保健センター」に、「精神衛生」を「精神保健」に、「行ない」を「行い」に、「行なう」を「行う」に改める。
 
第九条及び第十条を次のように改める。
 (精神障害者社会復帰施設の設置)
第九条 都道府県は、精神障害者(精神薄弱者を除く。次項及び次条において同じ。)の社会復帰の促進を図るため、精神障害者社会復帰施設を設置することができる。
2 市町村、社会福祉法人その他の者は、精神障害者の社会復帰の促進を図るため、社会福祉事業法(昭和二十六年法律第四十五号)の定めるところにより、精神障害者社会復帰施設を設置することができる。
 (精神障害者社会復帰施設の種類)
第十条 精神障害者社会復帰施設の種類は、次のとおりとする。
 一 精神障害者生活訓練施設
 二 精神障害者授産施設
2 精神障害者生活訓練施設は、精神障害のため家庭において日常生活を営むのに支障がある精神障害者が日常生活に適応することができるように、低額な料金で、居室その他の設備を利用させ、必要な訓練及び指導を行うことにより、その者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設とする。
3 精神障害者授産施設は、雇用されることが困難な精神障害者が自活することができるように、低額な料金で、必要な訓練を行い、及び職業を与えることにより、その者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設とする。
 
第十条の次に次の一条を加える。
 (国又は都道府県の補助)
第十条の二 都道府県は、精神障害者社会復帰施設の設置者に対し、その設置及び運営に要する費用の一部を補助することができる。
2 国は、予算の範囲内において、都道府県に対し、その設置する精神障害者社会復帰施設の設置及び運営に要する費用並びに前項の規定による補助に要した費用の一部を補助することができる。
  
第十一条後段を削り、同条に次の一項を加える。
2 都道府県知事は、前項の規定によりその指定を取り消そうとするときは、あらかじめ、指定病院の設置者にその取消しの理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えるとともに、地方精神保健審議会の意見を聴かなければならない。
 
第十二条中「の外」を「のほか」に、「精神衛生センター」を「精神保健センター」に改める。
 
「第三章 地方精神衛生審議会及び精神衛生診査協議会」を「第三章 地方精神保健審議会及び精神医療審査会」に改める。
 
十三条の見出しを「(地方精神保健審議会)」に改め、同条第一項及び第二項中「精神衛生」を「精神保健」に、「地方精神衛生審議会」を「地方精神保健審議会」に改め、同条第三項を次のように改める。
3 地方精神保健審議会は、前二項に定めるもののほか、都道府県知事の諮問に応じ、第三十二条第三項の申請に関する必要な事項を審議するものとする。
 
第十四条第一項中「地方精神衛生審議会」を「地方精神保健審議会」に、「十人」を「十五人」に改め、同条第二項中「地方精神衛生審議会」を「地方精神保健審議会」に改め、同条第三項中「精神衛生」を「精神保健」に改め、「ある者」の下に「及び精神障害者の医療に関する事業に従事する者」を加える。
 
第十五条及び第十六条を次のように改める。
第十五条及び第十六条 削除
 
第十七条中「地方精神衛生審議会及び精神衛生診査協議会」を「地方精神保健審議会」に改め、第三章中同条の次に次の四条を加える。
 (精神医療審査会)
第十七条の二 第三十八条の三第二項及び第三十八条の五第二項の規定による審査を行わせるため、都道府県に、精神医療審査会を置く。
 (委員)
第十七条の三 精神医療審査会の委員は、五人以上十五人以内とする。
2 委員は、精神障害者の医療に関し学識経験を有する者(第十八条第一項に規定する精神保健指定医である者に限る。)、法律に関し学識経験を有する者及びその他の学識経験を有する者のうちから、都道府県知事が任命する。
3 委員の任期は、二年とする。
 (審査の案件の取扱い)
第十七条の四 精神医療審査会は、精神障害者の医療に関し学識経験を有する者のうちから任命された委員三人、法律に関し学識経験を有する者のうちから任命された委員一人及びその他の学識経験を有する者のうちから任命された委員一人をもつて構成する合議体で、審査の案件を取り扱う。
2 合議体を構成する委員は、精神医療審査会がこれを定める。
 (政令への委任)
第十七条の五 この法律で定めるもののほか、精神医療審査会に関し必要な事項は、政令で定める。
 
「第四章 精神衛生鑑定医」を「第四章 精神保健指定医」に改める。
 
第十八条及び第十九条を次のように改める。
 (精神保健指定医
第十八条 厚生大臣は、その申請に基づき、次に該当する医師のうち第十九条の四に規定する職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を、精神保健指定医(以下「指定医」という。)に指定する。
 一 五年以上診断又は治療に従事した経験を有すること。
 二 三年以上精神障害者の診断又は治療に従事した経験を有すること。
 三 厚生大臣が定める精神障害につき厚生大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること。
 四 厚生大臣又はその指定する者が厚生省令で定めるところにより行う研修(申請前一年以内に行われたものに限る。)の課程を修了していること。
2 厚生大臣は、前項の規定にかかわらず、第十九条の二第一項又は第二項の規定により指定医の指定を取り消された後五年を経過していない者その他指定医として著しく不適当と認められる者については、前項の指定をしないことができる。
3 厚生大臣は、第一項第三号に規定する精神障害及びその診断又は治療に従事した経験の程度を定めようとするとき、同項の規定により指定医の指定をしようとするとき又は前項の規定により指定医の指定をしないものとするときは、あらかじめ、公衆衛生審議会の意見を聴かなければならない。
 (指定後の研修)
第十九条 指定医は、五年ごとに、厚生大臣又はその指定する者が厚生省令で定めるところにより行う研修を受けなければならない。
 
第四章中第十九条の次に次の四条を加える。
 (指定の取消し)
第十九条の二 指定医がその医師免許を取り消され、又は期間を定めて医業の停止を命ぜられたときは、厚生大臣は、その指定を取り消さなければならない。
2 指定医がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき又はその職務に関し著しく不当な行為を行つたときその他指定医として著しく不適当と認められるときは、厚生大臣は、その指定を取り消すことができる。
3 厚生大臣は、前項の規定による処分をしようとするときは、あらかじめ、その相手方にその処分の理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えるとともに、公衆衛生審議会の意見を聴かなければならない。
 (手数料)
第十九条の三 第十八条第一項第四号又は第十九条の研修(厚生大臣が行うものに限る。)を受けようとする者は、実費を勘案して政令で定める金額の手数料を納付しなければならない。
 (職務)
第十九条の四 指定医は、第二十二条の三第三項及び第二十九条の五の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定、第三十三条第一項及び第三十三条の四第一項の規定による入院を必要とするかどうかの判定、第三十四条の規定により精神障害者の疑いがあるかどうか及びその診断に相当の時日を要するかどうかの判定、第三十六条第三項に規定する行動の制限を必要とするかどうかの判定、第三十八条の二第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)に規定する報告事項に係る入院中の者の診察並びに第四十条の規定により一時退院させて経過を見ることが適当かどうかの判定の職務を行う。
2 指定医は、前項に規定する職務のほか、公務員として、次に掲げる職務のうち都道府県知事(第三号及び第四号に掲げる職務にあつては、厚生大臣又は都道府県知事)が指定したものを行う。
 一 第二十九条第一項及び第二十九条の二第一項の規定による入院を必要とするかどうかの判定
 二 第二十九条の四第二項の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定
 三 第三十八条の六第一項の規定による立入検査、質問及び診察
 四 第三十八条の七第二項の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定
 (政令及び省令への委任)
第十九条の五 この法律に規定するもののほか、指定医の指定の申請に関して必要な事項は政令で、第十八条第一項第四号及び第十九条の規定による研修に関して必要な事項は厚生省令で定める。
 
第二十二条の次に次の二条を加える。
 (任意入院)
第二十二条の二 精神病院(精神病院以外の病院で精神病室が設けられているものを含む。以下同じ。)の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。
第二十二条の三 精神障害者が自ら入院する場合においては、精神病院の管理者は、その入院に際し、当該精神障害者に対して第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生省令で定める事項を書面で知らせ、当該精神障害者から自ら入院する旨を記載した書面を受けなければならない。
2 精神病院の管理者は、自ら入院した精神障害者(以下この条において「任意入院者」という。)から退院の申出があつた場合においては、その者を退院させなければならない。
3 前項に規定する場合において、精神病院の管理者は、指定医による診察の結果、当該任意入院者の医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときは、同項の規定にかかわらず、七十二時間を限り、その者を退院させないことができる。この場合において、当該指定医は、遅滞なく、厚生省令で定める事項を診療録に記載しなければならない。
4 精神病院の管理者は、前項の規定による措置を採る場合においては、当該任意入院者に対し、当該措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
 
第二十三条第一項中「その疑」を「その疑い」に、「精神衛生鑑定医」を「指定医」に改め、同条第三項を削る。
 
第二十六条の二中「(精神病院以外の病院で精神病室が設けられているものを含む。以下同じ。)」を削り、「もより」を「最寄り」に改める。
 
第二十七条の見出しを「(申請等に基づき行われる指定医の診察等)」に改め、同条第一項及び第二項中「前六条」を「第二十三条から前条まで」に、「精神衛生鑑定医」を「その指定する指定医」に改め、同条第三項中「吏員」を「職員」に、「立ち合わせ」を「立ち会わせ」に改め、同条第四項中「精神衛生鑑定医」を「指定医」に、「吏員」を「職員」に、「当つて」を「当たつて」に改め、同条第五項中「精神衛生鑑定医」を「指定医」に、「吏員」を「職員」に、「呈示しなければ」を「提示しなければ」に改め、同条第六項を次のように改める。
6 第四項の立入りの権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
 
第二十八条の次に次の一条を加える。
 (判定の基準)
第二十八条の二 第二十七条第一項又は第二項の規定により診察をした指定医は、厚生大臣の定める基準に従い、当該診察をした者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判定を行わなければならない。
2 厚生大臣は、前項の基準を定めようとするときは、あらかじめ、公衆衛生審議会の意見を聴かなければならない。
 
第二十九条の見出し中「知事」を「都道府県知事」に改め、同条第二項中「入院させるには、」の下に「その指定する」を加え、「精神衛生鑑定医」を「指定医」に、「且つ」を「かつ」に改め、同条第四項を同条第五項とし、同条第三項中「かかる」を「係る」に、「すでに」を「既に」に、「の外」を「のほか」に、「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第四項とし、同条第二項の次に次の一項を加える。
3 都道府県知事は、第一項の規定による措置を採る場合においては、当該精神障害者に対し、当該入院措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
 
第二十九条の二第一項中「前三条」を「第二十七条、第二十八条及び前条」に、「とる」を「採る」に、「精神衛生鑑定医」を「その指定する指定医」に改め、同条第三項中「四十八時間」を「七十二時間」に、「こえる」を「超える」に改め、同条第四項中「第六項まで」の下に「及び第二十八条の二」を加え、「規定により」を「規定による措置を採る場合について、同条第四項の規定は第一項の規定により」に改める。
 
第二十九条の四に次の一項を加える。
2 前項の場合において都道府県知事がその者を退院させるには、その者が入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められることについて、その指定する指定医による診察の結果又は次条の規定による診察の結果に基づく場合でなければならない。
 
第二十九条の五第一項中「管理者は」の下に「、指定医による診察の結果」を加え、「その旨を」を「その旨、その者の症状その他厚生省令で定める事項を最寄りの保健所長を経て」に改め、同条第二項及び第三項を削る。
 
第三十二条第四項中「精神衛生診査協議会」を「地方精神保健審議会」に、「聞かなければ」を「聴かなければ」に改める。
 
第三十三条の見出しを「(医療保護入院)」に改め、同条中「診察の結果」を「指定医による診察の結果、」に、「であると診断した者につき」を「であり、かつ」に、「認める場合において」を「認めた者につき、」に改め、同条に次の三項を加える。
2 精神病院の管理者は、前項に規定する者の保護義務者について第二十条第二項第四号の規定による家庭裁判所の選任を要し、かつ、当該選任がされていない場合において、その者の扶養義務者の同意があるときは、本人の同意がなくても、当該選任がされるまでの間、四週間を限り、その者を入院させることができる。
3 前項の規定による入院が行われている間は、同項の同意をした扶養義務者は、第二十条第二項第四号に掲げる者に該当するものとみなし、第一項の規定を適用する場合を除き、同条に規定する保護義務者とみなす。
4 精神病院の管理者は、第一項又は第二項の規定による措置を採つたときは、十日以内に、その者の症状その他厚生省令で定める事項を当該入院について同意をした者の同意書を添え、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。
 
第三十三条の次に次の四条を加える。
第三十三条の二 精神病院の管理者は、前条第一項の規定により入院した者(以下「医療保護入院者」という。)を退院させたときは、十日以内に、その旨及び厚生省令で定める事項を最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。
第三十三条の三 精神病院の管理者は、第三十三条第一項又は第二項の規定による措置を採る場合においては、当該精神障害者に対し、当該入院措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生省令で定める事項を書面で知らせなければならない。ただし、当該精神障害者の症状に照らし、その者の医療及び保護を図る上で支障があると認められる間においては、この限りでない。この場合において、精神病院の管理者は、遅滞なく、厚生省令で定める事項を診療録に記載しなければならない。
 (応急入院)
第三十三条の四 厚生大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神病院の管理者は、医療及び保護の依頼があつた者について、急速を要し、保護義務者(第三十三条第二項に規定する場合にあつては、その者の扶養義務者)の同意を得ることができない場合において、指定医の診察の結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障があると認めたときは、本人の同意がなくても、七十二時間を限り、その者を入院させることができる。
2 前項に規定する精神病院の管理者は、同項の規定による措置を採つたときは、直ちに、当該措置を採つた理由その他厚生省令で定める事項を最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。
3 都道府県知事は、第一項の指定を受けた精神病院が同項の基準に適合しなくなつたと認めたときは、その指定を取り消すことができる。
第三十三条の五 第十一条第二項の規定は前条第三項の規定による処分をする場合について、第二十九条第三項の規定は精神病院の管理者が前条第一項の規定による措置を採る場合について準用する。
 
第三十四条中「診察の結果」を「指定医による診察の結果、」に、「疑が」を「疑いが」に、「、親権を行う者その他の」を「又は親権を行う者その他その」に改め、同条の次に次の一条を加える。
第三十四条の二 第二十九条第三項の規定は精神病院の管理者が前条の規定による措置を採る場合について、第三十三条第四項の規定は精神病院の管理者が前条の規定による措置を採つた場合について準用する。
 
第三十五条中「前二条の同意者」を「第三十三条第一項又は第三十四条の同意者」に、「前二条の同意」を「その同意を」に改める。
 
第三十六条から第三十八条までを次のように改める。
 (処遇)
第三十六条 精神病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
2 精神病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であつて、厚生大臣があらかじめ公衆衛生審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。
3 第一項の規定による行動の制限のうち、厚生大臣があらかじめ公衆衛生審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動の制限は、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。この場合において、当該指定医は、遅滞なく、厚生省令で定める事項を診療録に記載しなければならない。
第三十七条 厚生大臣は、前条に定めるもののほか、精神病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。
2 前項の基準が定められたときは、精神病院の管理者は、その基準を遵守しなければならない。
3 厚生大臣は、第一項の基準を定めようとするときは、あらかじめ、公衆衛生審議会の意見を聴かなければならない。
 (相談、援助等)
第三十八条 精神病院の管理者は、入院中の者の社会復帰の促進を図るため、その者の相談に応じ、その者に必要な援助を行い、及びその保護義務者等との連絡調整を行うように努めなければならない。
 
第三十八条の次に次の六条を加える。
 (定期の報告)
第三十八条の二 措置入院者を収容している精神病院又は指定病院の管理者は、措置入院者の症状その他厚生省令で定める事項(以下この項において「報告事項」という。)を、厚生省令で定めるところにより、定期に、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に報告しなければならない。この場合においては、報告事項のうち厚生省令で定める事項については、指定医による診察の結果に基づくものでなければならない。
2 前項の規定は、医療保護入院者を入院させている精神病院の管理者について準用する。この場合において、同項中「措置入院者」とあるのは、「医療保護入院者」と読み替えるものとする。
 (定期の報告等による審査)
第三十八条の三 都道府県知事は、前条の規定による報告又は第三十三条第四項の規定による届出(同条第一項の規定による措置に係るものに限る。)があつたときは、当該報告又は届出に係る入院中の者の症状その他厚生省令で定める事項を精神医療審査会に通知し、当該入院中の者についてその入院の必要があるかどうかに関し審査を求めなければならない。
2 精神医療審査会は、前項の規定により審査を求められたときは、当該審査に係る入院中の者についてその入院の必要があるかどうかに関し審査を行い、その結果を都道府県知事に通知しなければならない。
3 精神医療審査会は、前項の審査をするに当たつて必要があると認めるときは、当該審査に係る入院中の者、その者が入院している精神病院の管理者その他関係者の意見を聴くことができる。
4 都道府県知事は、第二項の規定により通知された精神医療審査会の審査の結果に基づき、その入院が必要でないと認められた者を退院させ、又は精神病院の管理者に対しその者を退院させることを命じなければならない。
 (退院等の請求)
第三十八条の四 精神病院に入院中の者又はその保護義務者(第三十四条の規定により入院した者にあつては、その後見人、配偶者又は親権を行う者その他その扶養義務者)は、厚生省令で定めるところにより、都道府県知事に対し、当該入院中の者を退院させ、又は精神病院の管理者に対し、その者を退院させることを命じ、若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じることを求めることができる。
 (退院等の請求による審査)
第三十八条の五 都道府県知事は、前条の規定による請求を受けたときは、当該請求の内容を精神医療審査会に通知し、当該請求に係る入院中の者について、その入院の必要があるかどうか、又はその処遇が適当であるかどうかに関し審査を求めなければならない。
2 精神医療審査会は、前項の規定により審査を求められたときは、当該審査に係る者について、その入院の必要があるかどうか、又はその処遇が適当であるかどうかに関し審査を行い、その結果を都道府県知事に通知しなければならない。
3 精神医療審査会は、前項の審査をするに当たつては、当該審査に係る前条の規定による請求をした者及び当該審査に係る入院中の者が入院している精神病院の管理者の意見を聴かなければならない。ただし、精神医療審査会がこれらの者の意見を聴く必要がないと特に認めたときは、この限りでない。
4 精神医療審査会は、前項に定めるもののほか、第二項の審査をするに当たつて必要があると認めるときは、関係者の意見を聴くことができる。
5 都道府県知事は、第二項の規定により通知された精神医療審査会の審査の結果に基づき、その入院が必要でないと認められた者を退院させ、又は当該精神病院の管理者に対しその者を退院させることを命じ若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じなければならない。
6 都道府県知事は、前条の規定による請求をした者に対し、当該請求に係る精神医療審査会の審査の結果及びこれに基づき採つた措置を通知しなければならない。
 (報告徴収等)
第三十八条の六 厚生大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、精神病院の管理者に対し、当該精神病院に入院中の者の症状若しくは処遇に関し、報告を求め、若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、当該職員若しくはその指定する指定医に、精神病院に立ち入り、これらの事項に関し、診療録その他の帳簿書類を検査させ、若しくは当該精神病院に入院中の者その他の関係者に質問させ、又はその指定する指定医に、精神病院に立ち入り、当該精神病院に入院中の者を診察させることができる。
2 厚生大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、精神病院の管理者、精神病院に入院中の者又は第三十三条第一項若しくは第二項若しくは第三十四条の規定による入院について同意をした者に対し、この法律による入院に必要な手続に関し、報告を求め、又は帳簿書類の提出若しくは提示を命じることができる。
3 第二十七条第五項及び第六項の規定は、第一項の規定による立入検査、質問又は診察について準用する。
 (改善命令等)
第三十八条の七 厚生大臣又は都道府県知事は、精神病院に入院中の者の処遇が第三十六条の規定に違反していると認めるとき又は第三十七条第一項の基準に適合していないと認めるときその他精神病院に入院中の者の処遇が著しく適当でないと認めるときは、当該精神病院の管理者に対し、その処遇の改善のために必要な措置を採ることを命ずることができる。
2 厚生大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、第二十二条の三第三項の規定により入院している者又は第三十三条第一項若しくは第二項、第三十三条の四第一項若しくは第三十四条の規定により入院した者について、その指定する二人以上の指定医に診察させ、各指定医の診察の結果がその入院を継続する必要があることに一致しない場合又はこれらの者の入院がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反して行われた場合には、これらの者が入院している精神病院の管理者に対し、その者を退院させることを命ずることができる。
 
第四十条中「管理者は」の下に「、指定医による診察の結果」を加え、「照し」を「照らし」に、「六箇月」を「六月」に改める。
 
第四十一条中「第二十九条の四」を「第二十九条の四第一項」に、「且つ」を「かつ」に、「当つては」を「当たつては」に改める。
 
第四十二条の見出し中「精神衛生」を「精神保健」に改め、同条第一項中「精神衛生」を「精神保健」に、「行なう」を「行う」に改め、同条第二項中「精神衛生」を「精神保健」に改める。
 
第四十三条中「第二十九条の三又は第二十九条の四」を「、第二十九条の三又は第二十九条の四第一項」に、「精神衛生」を「精神保健」に改める。
 
第四十八条中「又は」の下に「この法律若しくは」を加える。
 
第五十条の二を削る。
 
第五十一条中「第十八条第二項及び第三項並びに第十九条」を「第十九条の四」に、「覚せい剤」を「覚せい剤」に、「疑のある者につき」を「疑いのある者について」に改める。
 
第五章の次に次の一章を加える。
  第六章 罰則
第五十二条 次の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 一 第三十八条の三第四項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による命令に違反した者
 二 第三十八条の五第五項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による退院の命令に違反した者
 三 第三十八条の七第二項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による命令に違反した者
第五十三条 精神病院の管理者、指定医、地方精神保健審議会の委員若しくは臨時委員、精神医療審査会の委員若しくは第四十三条(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により都道府県知事若しくは保健所を設置する市の長が指定した医師又はこれらの職にあつた者が、この法律の規定に基づく職務の執行に関して知り得た人の秘密を正当な理由がなく漏らしたときは、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 精神病院の職員又はその職にあつた者が、この法律の規定に基づく精神病院の管理者の職務の執行を補助するに際して知り得た人の秘密を正当な理由がなく漏らしたときも、前項と同様とする。
第五十四条 虚偽の事実を記載して第二十三条第一項(第五十一条において準用する場合を含む。)の申請をした者は、六月以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
第五十五条 次の各号の一に該当する者は、十万円以下の罰金に処する。
 一 第二十七条第一項又は第二項(これらの規定を第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による診察を拒み、妨げ、若しくは忌避した者又は第二十七条第四項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による立入りを拒み、若しくは妨げた者
 二 第二十九条の二第一項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による診察を拒み、妨げ、若しくは忌避した者又は第二十九条の二第四項(第五十一条において準用する場合を含む。)において準用する第二十七条第四項の規定による立入りを拒み、若しくは妨げた者
 三 第三十八条の六第一項(第五十一条において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定による報告若しくは提出若しくは提示をせず、若しくは虚偽の報告をし、同項の規定による検査若しくは診察を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して、正当な理由がなく答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者
 四 第三十八条の六第二項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による報告若しくは提出若しくは提示をせず、又は虚偽の報告をした精神病院の管理者
第五十六条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して第五十二条又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても各本条の罰金刑を科する。
第五十七条 次の各号の一に該当する者は、十万円以下の過料に処する。
 一 第二十二条の三第三項後段又は第四項(これらの規定を第五十一条において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
 二 第三十三条第四項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
 三 第三十三条の四第二項(第五十一条において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
 四 第三十四条の二(第五十一条において準用する場合を含む。)において準用する第三十三条第四項の規定に違反した者
 五 第三十八条の二第一項(第五十一条において準用する場合を含む。)又は第三十八条の二第二項(第五十一条において準用する場合を含む。)において準用する第三十八条の二第一項の規定に違反した者
 
社会福祉事業法の一部改正)
第二条 社会福祉事業法(昭和二十六年法律第四十五号)の一部を次のように改正する。
  第二条第三項第三号の二の次に次の一号を加える。
  三の三 精神保健法(昭和二十五年法律第百二十三号)にいう精神障害者社会復帰施設を経営する事業
 
(医療法の一部改正)
第三条 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)の一部を次のように改正する。
  第四十二条中第四号を第五号とし、第三号の次に次の一号を加える。
  四 精神保健法(昭和二十五年法律第百二十三号)第十条に規定する精神障害者社会復帰施設の設置
 
(公衆浴場法の一部改正)
第四条 公衆浴場法(昭和二十三年法律第百三十九号)の一部を次のように改正する。
  第四条中「認められ、又は他の入浴者の入浴に支障を与える虞のある精神病者と」を削る。
 
附則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次条の規定は、公布の日から施行する。
 
(施行前の準備)
第二条 第一条の規定による改正後の精神保健法(以下「新法」という。)第十八条第一項第三号の精神障害及びその診断又は治療に従事した経験の程度、新法第二十八条の二第一項(新法第五十一条において準用する場合を含む。)及び新法第二十九条の二第四項(新法第五十一条において準用する場合を含む。)において準用する新法第二十八条の二第一項の基準、新法第三十六条第二項及び第三項(これらの規定を新法第五十一条において準用する場合を含む。)の行動の制限並びに新法第三十七条第一項(新法第五十一条において準用する場合を含む。)の基準の設定については、厚生大臣は、この法律の施行前においても公衆衛生審議会の意見を聴くことができる。
 
(経過措置)
第三条 この法律の施行の際現に第一条の規定による改正前の精神衛生法(以下「旧法」という。)第十八条第一項の規定による指定を受けている者は、この法律の施行の日から(以下「施行日」という。)において、新法第十八条第一項の規定により指定を受けたものとみなす。
 
第四条 この法律の施行の際現に、旧法第二十九条第一項、第二十九条の二第一項、第三十三条若しくは第三十四条(これらの規定を旧法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により精神病院(精神病院以外の病院で精神病室が設けられているものを含む。)に入院し、又は旧法第四十条(旧法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により仮に退院している者は、それぞれ、新法第二十九条第一項、第二十九条の二第一項、第三十三条第一項若しくは第三十四条第一項(これらの規定を新法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により入院し、又は新法第四十条(新法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により仮に退院したものとみなす。
 
第五条 前条の規定により新法第二十九条の二第一項(新法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により入院したものとみなされた者についての新法第二十九条の二第三項(新法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定の適用については、同項中「七十二時間」とあるのは、「四十八時間」とする。
 
第六条 附則第四条の規定により新法第三十三条第一項又は第三十四条第一項(これらの規定を新法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により入院したものとみなされた者については、新法第三十三条第四項及び新法第三十四条の二において準用する新法第三十三条第四項(これらの規定を新法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定を適用せず、旧法第三十六条第一項(旧法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定は、なおその効力を有する。
 
第七条 この法律の施行前にした行為及び前条の規定によりなおその効力を有することとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
 
第八条 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置は、政令で定める。
 
(検討)
第九条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、新法の規定の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、新法の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
 
児童福祉法の一部改正)
第十条 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)の一部を次のように改正する。
  第十五条の二第一項第二号中「精神衛生」を「精神保健」に、「行なう」を「行う」に改める。
  第十六条の二第二項第一号及び第二十五条の二第一号中「精神衛生」を「精神保健」に改める。
 
地方財政法の一部改正)
第十一条 地方財政法(昭和二十三年法律第百九号)の一部を次のように改正する。
  第十条第六号中「精神衛生」を「精神保健」に改める。
 
社会保険診療報酬支払基金法等の一部改正)
第十二条 次に掲げる法律の規定中「精神衛生法」を「精神保健法」に改める。
 一 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)第十三条第二項
 二 優生保護法(昭和二十三年法律第百五十六号)第十二条及び第十四条第三項
 三 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第七十二条の十四第一項及び第七十二条の十七第一項
 四 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第五条第一項第二号
 五 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第二十六条第二項第三号
 六 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号)第三十一条第一項
 七 沖縄振興開発特別措置法(昭和四十六年法律第百三十一号)別表
 
(麻薬取締法の一部改正)
十三条 麻薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)の一部を次のように改正する。
 第二十七条第三項中「処方せん」を「処方せん」に、「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「行なう」を「行う」に改める。
 
第五十八条の六第一項中「精神衛生鑑定医」を「その指定する精神保健指定医」に改め、同条第二項中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「行なわれる」を「行われる」に、「こえない」を「超えない」に改め、同条第三項中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「行なう」を「行う」に、「行なおう」を「行おう」に改め、同条第五項及び第七項中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「行なう」を「行う」に改める。
 
第五十八条の七の見出しを「(精神保健指定医の職務)」に改め、同条第一項中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「精神衛生法」を「精神保健法」に、「第十八条第二項」を「第十九条の四」に、「行なうほか」を「行うほか、公務員として」に、「の監督のもとに、」を「が指定した」に、「行なう」を「行う」に改め、同条第二項を削る。
 
第五十八条の八第一項中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「行なう」を「行う」に改め、同条第二項中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「こえて」を「超えて」に改め、同条第四項中「すみやかに」を「速やかに」に、「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に改め、同条第七項中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に改める。
 
第五十八条の十八中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に改める。
 
第五十九条第二号中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に、「行なわせる」を「行わせる」に改める。
 
第七十三条の二第一号中「精神衛生鑑定医」を「精神保健指定医」に改める。
 
(麻薬取締法の一部改正に伴う経過措置)
第十四条 この法律の施行前に精神衛生鑑定医が前条の規定による改正前の麻薬取締法第五十八条の六第一項の規定により行つた診察、同条第二項の規定により行つた診断又は同項の規定により定めた期間については、それぞれ、精神保健指定医が前条の規定による改正後の麻薬取締法第五十八条の六第一項の規定により行つた診察、同条第二項の規定により行つた診断又は同項の規定により定めた期間とみなす。
 
(義務教育諸学校等の女子教育職員及び医療施設、社会福祉施設等の看護婦、保母等の育児休業に関する法律の一部改正)
第十五条 義務教育諸学校等の女子教育職員及び医療施設、社会福祉施設等の看護婦、保母等の育児休業に関する法律(昭和五十年法律第六十二号)の一部を次のように改正する。
  第二条第二項中「及び売春防止法」を「、売春防止法」に改め、「婦人保護施設」の下に「及び精神保健法(昭和二十五年法律第百二十三号)に規定する精神障害者社会復帰施設」を加える。
 
(厚生省設置法の一部改正)
第十六条 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
  第五条第十四号中「精神衛生」を「精神保健」に改める。
  
第六条第十二号を次のように改める。
 十二 精神保健法(昭和二十五年法律第百二十三号)に基づき、精神保健指定医を指定し、又はその指定を取り消すこと。

本会議会議録第4号(109衆昭和62年7月16日)
○議長(原健三郎君) この際、第百八回国会、内閣提出、精神衛生法等の一部を改正する法律案について、趣旨の説明を求めます。厚生大臣斎藤十朗君。
    〔国務大臣斎藤十朗君登壇〕
国務大臣斎藤十朗君) 精神衛生法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 近時の精神医療、精神保健をめぐる状況には種々の変化が見られるところであり、精神医学の進歩等に伴い入院中心の治療体制からできるだけ地域中心の体制を整備していくとともに、多様化し、複雑化する現代社会において、広く国民の精神保健の向上を図ることが重要な課題となってきております。こうした諸状況の変化を踏まえ、国民の精神保健の向上を図るとともに、精神障害者の人権に配意しつつ適正な精神医療を確保し、かつ、その社会復帰の促進を図るため、今般、精神衛生法その他の関係法律を見直すこととし、この法律案を提出した次第であります。
 以下、この法律案の主な内容につきまして御説明申し上げます。
 第一に、精神保健の向上に関する事項についてでありますが、精神衛生法の題名を精神保健法に改めるとともに、その目的や国及び地方公共団体並びに国民の義務として、精神的健康の保持及び増進その他の精神保健の向上に関する事項を盛り込むこととしております。
 第二は、精神障害者の人権の擁護並びにその適正な医療及び保護の実施のための措置に関する事項についてであります。
 まず、精神保健指定医についてであります。
 従来の精神衛生鑑定医制度を見直して精神保健指定医制度を導入することとし、精神医療についての一定の実務経験のほか、厚生大臣等が行う研修の修了を新たにその指定の要件として加えるとともに、五年ごとに研修を受けることとする等の措置を講ずることとしております。
 次に、入院患者の処遇に関する事項についてであります。
 本人の同意に基づく入院を推進する見地から、これを任意入院として新たに法律上規定するとともに、保護義務者の同意によるいわゆる同意入院については医療保護入院として位置づけ、入院に当たって精神保健指定医の診察を要件とする等、その適正な実施を確保するための措置を講ずることとしております。また、措置入院の解除につき精神保健指定医の診察を要件とする措置を講ずることとしているほか、精神科救急に対応するため応急入院を新設する等、入院制度に関して必要な整備を図ることとしております。
 次に、入院手続等についてであります。
 入院の際には必要な事項を患者本人に告知することとするとともに、都道府県に新たに精神医療審査会を設け、入院患者の病状に関する定期の報告等に基づき、その入院の要否等に関する審査を行うこととしております。また、入院患者に対する行動制限のうち特に人権上重要なものについては、これを行うことができないこととするとともに、精神保健指定医の認める場合でなければ著しい行動制限は行うことができないこととする等の措置を講ずることとしております。
 第三は、精神障害者の社会復帰の促進に関する事項についてであります。
 法律の目的等において、精神障害者の社会復帰の促進に関する事項を盛り込むとともに、日常生活に適応するために必要な訓練及び指導を行う生活訓練施設並びに自活のために必要な訓練と職業を与えるための授産施設精神障害者社会復帰施設として法律上規定し、都道府県、市町村、社会福祉法人その他の者がこれを設置することができることとしております。また、その設置の促進を図るため、国及び都道府県は施設の設置及び運営に要する費用を補助することができることとしております。あわせて、社会福祉法人、医療法人等が精神障害者社会復帰施設を設置することができるよう社会福祉事業法及び医療法の改正も行うこととしております。
 以上のほか、精神病者に係る公衆浴場の利用規制を見直すこととし、公衆浴場法の改正もあわせて行うこととしております。
 なお、この法律の施行期日は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日からとしておりますが、公衆衛生審議会への
諮問に関する事項は公布の日からとしております。
 以上が精神衛生法等の一部を改正する法律案の趣旨でございます。(拍手)
○議長(原健三郎君) ただいまの趣旨の説明に対して質疑の通告があります。順次これを許します。河野正君。
    〔河野正君登壇〕
○河野正君 私は、日本社会党・護憲共同を代表いたしまして、ただいま提案されました精神衛生法等の一部を改正する法律案に対しまして、中曽根総理、そして関係閣僚それぞれに質問を申し上げ、かつお答えをいただきたいと思うところであります。
 冒頭あらかじめ申し上げておきたいと思います点は、本法案が精神障害者の人権の確保あるいは精神障害者の社会復帰の促進のための方策といった、従来の法律案と比べて極めて異例の法改正であるからであります。したがって、私は、そのお答えも、そういった点を十分尊重しながらお答えをいただきたいというのが冒頭におけるお願いであります。
 私ども日本社会党は、結党以来一貫して日本の民主主義と国際平和を守る唯一の政党として闘ってまいりました。そしてそのために、平和憲法を守るため、あらゆる面で努力してきたところでもあります。また、いかなる場合においても、社会的に弱い立場の人々に対する差別と不公平をなくすため、人々の人権を守るために闘い、努力してまいったところでもあります。これが私どもの今日までの足跡であり、また歴史でもあったのであります。
 御承知のように、我が国の憲法は、国民に対する基本的人権擁護を一つの大きな柱としておりまして、またみずから批准をした国際条約であり、それを遵守することは当然の義務であり、責任でもあります。今ここに、私ども精神衛生法の審議に当たるわけでありますが、私どもは以上申し述べた立場から審議を進むべきは当然であり、以下、見解を申し添えながら政府の御見解をただしてまいりたいと思います。
 御承知のように、我が国の精神保健運動は、一九〇二年呉秀三博士らによって創設された精神病者救治会を源流とした、世界で最も古い障害者擁護運動の一つであります。しかし、八十年に及ぶ長い歴史にかかわらず、その成果は必ずしも満足すべきものではなかったのであります。かてて加えて、昭和四十年、一九六五年前後から日本の社会保障制度は逐次拡充され、ある意味においては精神障害者医療も広く恩恵を受けるに至りました。そして同時に、民間医療施設も急速に増加するという結果に至ったのであります。しかし、そのことが結果的に今日多くの問題を露呈し、我が国の精神保健体制は国の内外より批判が集中し、早急な根本的改革を迫られるに立ち至ったものでもあります。すなわち、新しい理念に基づく精神保健法が制定されなければならぬ、こういう事情が訪れてまいったわけであります。
 昨年三月入院患者虐待が明るみに出たいわゆる宇都宮病院事件を初めとして、幾つかの精神病院で入院患者の人権無視、営利主義に走った事実のあったことはまことに遺憾であります。その結果として、精神医療に対する国民の不信感が高まり、国民の偏見と差別の意識を助長する、そういう結果というものが生じたこと、これもまた遺憾ながら事実であります。しかし、マスコミも認めておりますように、暗いイメージとは反対に、良識的な、むしろ一般病院にもまさるとも劣らないようなそういう病院も、決して我々は少ないと思うわけではありません。だが、いずれにしても、国民の世論にこたえるため、精神医療関係者あるいは行政が国民の信頼を回復するため努力しなければならぬことも大きな責任でございます。
 しかしながら、我々が注意しなければならぬ点は、時に起こる精神障害者の不祥事件が、マスメディアの発達により瞬く間に日本全土に針小棒大に伝わり、その結果としてかつて法務大臣のいわゆる保安処分発言があったことは、皆さん方御承知のとおりであります。我々は、法改正はどこまでも精神障害者の人権の確保、精神障害者の社会復帰の促進という目的が損なわれてはならぬと考えるものであります。
 日本における精神障害者の入院患者数はおおむね三十三万人であります。そして、そのほかに二百万人の障害者、心痛める人々、そしてその家族、親戚など数百万人に及ぶ人々の人道問題になっておるわけであります。こういった見解に立ち、以下数点に対して具体的に質問をし、適切な御見解を承りたいと思うのであります。
 私が今、改正に当たりましてまず第一に不可思議に感じますることは、公衆衛生審議会の答申にあるように、精神障害者とは何ぞやというその定義が明らかにされていないという点であります。しかも答申では、定義は今後残された問題として政府は引き続き検討を加えることを要望する、こういうふうに明記されているわけであります。すなわち、この大事な問題を避けて、そしてこの問題を先送りしておるというのが今日の実情であります。
 今、改正というものをいかに迅速にやらなければならぬかということに対して、私どもも国連の事情その他からわからぬわけではないわけですが、ただ精神障害者とは何ぞやという定義も明らかにできないまま改正を実施することには非常に大きな矛盾があって、我々は、そのことは極めてナンセンスではないか、こういうふうに指摘せざるを得ないのであります。精神障害の定義をおろそかにして法改正を実施しようとしたことは、例えば人間の背骨を抜いた議論と思うが、第一に所管の厚生大臣の御見解を承りたいと思います。
 総理、私が総理にお伺いをしたい点は、もちろん本改正案の趣旨が患者の人権、社会復帰の促進を中心に立案されたことはそのとおりでありますが、同時にこの改正が、基本問題として精神障害者の福祉にもつながる問題であることは当然であります。しかしながら、日本の今日の精神障害者の福祉は、例えば身体障害者の福祉、精神薄弱者の福祉と比較して大きく立ちおくれておるのであります。今回の法改正に当たり、このことは、私は決して軽視できぬ問題であろうと確信をいたします。したがって、私は、さらに進んで、精神衛生法とは別個に、精神障害者の福祉増進のために行われるいわゆる福祉法制定、こういうところに大きく踏み込むべき責務があるのではなかろうかと考えるわけでございますが、総理いかがか、御見解を承りたいと思います。
 私は、さらに、せっかく法の画期的な改革を実行されようとするわけですから、この際、精神障害者の処遇に関する国策としても、ぜひ総理大臣に直属する強力な中央精神保健審議会といったようなものを設置する必要があるのではなかろうかということを考えるわけでございますが、この点、総理いかがか、御見解を承りたいと思います。
 患者の処遇については必要な基準を定めることができると、この法案ではなっておるわけでございますが、精神障害者の処遇改善方策の前提として、精神障害者の全国的な疫学調査が必要ではないかという議論もあります。しかし、このことは、さきにも私どもは非常に苦い経験を持っておるわけでございます。プライバシーその他を通じてそういう経験を持っております。したがって、この問題は極めて慎重を期するべきだと考えておるわけでございますが、厚生大臣よりこの点はお答えをいただきたいと思います。
 次いで、法改正そのものについて逐次質問をしてまいりたいと思います。
 御承知のように、今回の法改正は極めて画期的なものであります。現在の精神医療に関して言えば、革命的なものと言っても過言ではないと思います。したがって、法改正後はこれを忠実に実行しなければなりません。その責任を痛感すべきであります。そのためには、一つの大きな条件として、精神保健関係予算の問題があると確信をいたします。例えば自由入院を柱とすれば、病院、病舎の構造も当然改造されなければなりません。また、それと並行して職員の充実の問題もあります。書類、診療録の整備など事務量山積の問題もございます。また、別の立場から言えば、診療費の問題も大きな課題であります。
 今ここで簡単に実例を挙げて説明をいたしますと、精神科医療は一人一カ月おおむね二十万円余であります。しかるに一般他科は三十五万から四十万円と大きく伸びております。特別養護老人ホームにいたしましても二十四万円であります。こういった実情から見てまいりまして、精神医療というものが極めて劣悪であるということは、これはもう論をまたない事実であろうと思います。今やレセプト一枚三千万円という先端医療の時代に突入しておる今日、このまま放置していい問題であるのかどうか、私どもは非常に大きな危惧を持つわけでございます。したがって、その予算の確保は、今申し上げた事実よりいたしましても当然だと思うのでありますが、率直に申し上げまして、財政上の裏づけなき法改正はまさしく絵にかいたもちだと指摘せざるを得ないのであります。この点につきましては、厚生大臣、さらにあえて大蔵大臣にも、その見解を承って、善処をいただきたいと思うわけであります。
 また、この精神衛生法において精神障害者の人権確保を強調することは当然でありますが、しかし一方、社会の安全確保も当然であります。そのいずれもがタブー視されてはならぬのであります。社会にも人権があることを忘れては真の改正の実を上げることはできないと思うのであります。この点、厚生大臣の御見解を承ってまいりたいと思います。
 今私は、いわゆる人権というもののあり方について指摘をいたしました。しかし、今回の大改革でありますから、その過渡期においてはいろいろの問題が予測されるわけであります。もちろん不祥事件の防止に努めなければならぬ、そのことは極めて当然であります。これらの点について厚生大臣の見解等も承って、今後の指導方針等もここで申し述べていただきたいと考えております。
 かく考えてまいりますと、人権の尊重は民主的社会の基本となるものであります。したがって、すべての精神障害者は、御承知のように世界人権宣言に基づいて人としての尊厳と自由が重んじられ、いわゆる我が国憲法に定められた基本的人権が保障されなければならないのであります。法改正の中にあるように、精神障害者の中の差別をなくすために、例えば現行の福祉、雇用等に対しましても法体系というものを検討する必要があるのではないか、すべての障害者に対しまして総合的なリハビリテーション法等も急ぐべきではないか、こういった点につきまして、厚生大臣いかがお考えなのか、この際御見解をお伺いしたいと思います。
 また、今回の改正も、精神障害者の社会復帰を促進することが求められているのでありますが、もちろん精神障害者の自立を図ることが重要であります。その一環として、民間ボランティア組織あるいは小規模共同作業所、共同ホーム、いずれにいたしましても、国及び地方自治の援助の拡充強化が行われなければならぬことは当然であります。そういった意味で、障害者の社会復帰が促進されるかどうか、これは一に国の熱意いかんにかかっておると申し上げましても、私は過言ではないと思います。厚生大臣、この点についていかが御見解を持っておられるのか、この際承っておきたいと思います。
 私は、以上、私の見解を加えながら何点かについてお尋ねをいたしました。いずれにいたしましても、精神保健の問題は、財政的には国、地方公共団体あるいは国民全体で取り組むべき問題であります。国民みずからが精神的健康の保持増進に努めるとともに、精神障害者に対する理解を深め、精神障害者の社会復帰の援助協力に努力しなければならぬ問題だと思っております。その意味で今回の法改正は極めて重要な意義を持つものであります。同時に、そのために私が指摘いたしました以上の諸点は、極めて重大な問題点であろうと思います。そして、それぞれの要望、意見について誠実に対応していただくことが、法改正の実を上げる唯一の道だと私は確信をいたします。
 改めて総理ほか関係閣僚に対しまして、私の要望、意見に必ず応じていただくことを強く期待をして、私の質問を終わりたいと思います。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
内閣総理大臣中曽根康弘君) 河野議員にお答えをいたします。
 まず、精神障害者福祉法についてでございますが、人権の尊重等精神障害者の福祉については、社会復帰対策が極めて重要なものであるとの認識に立って、従来より医療との連携のもとにその促進に努めてきたところでございます。今回の精神衛生法改正においては、精神障害者社会復帰施設を新たに法律上の制度として位置づけ、今後その充実を図っていく等の措置を講じたところでありまして、精神障害者の福祉の向上に大いに資するものと考えております。御指摘の精神障害者の福祉法制定については、慎重に検討してまいる所存であります。
 審議会の問題でございますが、精神障害者の処遇に係る問題に関しては、関連分野の学識経験者から成る公衆衛生審議会において、人権に配慮された精神医療のあり方、社会復帰の促進方等について御審議いただいてきているところであり、今後とも同審議会において御審議をお願いしていく所存でございます。
 残余の答弁は関係大臣がいたします。(拍手)
    〔国務大臣斎藤十朗君登壇〕
国務大臣斎藤十朗君) お答えをいたします。
 まず、精神障害者の定義についてでございますが、現行精神衛生法において定められております精神障害者の定義につきましては、その全面的な改正を求める意見もあるほか、その範囲及び規定の仕方など種々の議論を要する点が多く、また、関係審議会からも引き続き検討を行っていく必要がある旨の意見が示されたこと等、諸般の状況を判断いたしまして、今回の改正においては見直しに至らなかったものでございます。しかしながら、御指摘のように、法の対象とする精神障害者の問題については、制度の基本となる重要な問題と考えておりますので、政府といたしましても引き続き検討に努めてまいる所存でございます。
 疫学調査の問題でありますが、厚生省といたしましても、精神障害者の実態につきましては、精神障害者の方々が置かれている状況等について必要に応じて実態調査を行うなど、可能な手段を講ずることによりその把握に努めてまいったところでありますが、今後とも本問題につきましては、プライバシーの保護等十分考慮し、適切かつ慎重に対応してまいりたいと思います。
 次に、精神保健関係予算につきましては、これまでもその確保に努めてまいったところでありますが、また、今回の法改正にあわせて今年度予算におきましても、新たに福祉ホーム、適所授産施設に対する補助を行い、また小規模作業所に対する助成措置の創設など、精神障害者社会復帰関係予算の充実を図るとともに、精神衛生センターや保健所における地域精神保健対策関係予算の充実を図る等、必要な予算措置を講じているところでございます。今後とも今回の改正の趣旨を実現すべく、精神障害者対策の一層の充実に向けて努めてまいる所存でございます。
 人権確保につきましてでございますが、精神障害者にかかわる痛ましい事件は、社会にとっても、また精神障害者やその家族にとっても極めて不幸なことであり、ぜひとも回避されるべきものと考えております。このような事件が生ずる背景には、不十分な医療、特に医療中断が多く見られることから、これまでも医療中断者等に対する訪問指導を実施するなど、地域精神保健対策の充実に努めてまいったところであります。
 また、今回の改正案におきまして、法律に措置基準の根拠を置き、また措置解除に精神保健指定医の判断を必要とすること等により、措置入院の適正な運用を図るとともに、応急入院制度を新設する等、精神障害者の適切な医療を確保する観点から入院制度の整備を図ることとしているところであり、今後ともそのような事態が生じないよう努めてまいる所存でございます。
 また、精神障害者の福祉の問題につきましては、今般の改正法案において、精神障害者社会復帰施設を新たに法律上の制度として位置づけることを行う等の措置を講ずることとしており、さらに別の福祉立法を要するか否かについては慎重に検討する必要があると考えております。また、雇用の問題につきましても、障害者雇用促進法を中心に適切に取り組まれるものと考えております。
 次に、すべての障害者を対象とした総合的リハビリテーション法の問題につきましては、身体障害者及び精神薄弱者については既にそれぞれの特性に配慮して、身体障害者福祉法及び精神薄弱者福祉法に基づき、リハビリテーションに関連した必要な施策を講じているところであり、また、精神障害者につきましても、今般の改正法案においてその社会復帰施設を法律上位置づけているところでありまして、それぞれの法体系によるリハビリテーションを適切に行っていくことが適当であると考えております。
 また、精神障害者の社会復帰につきましては、御指摘のとおり、国としても促進すべき重要な施策であると強く認識しているところでございまして、今後とも社会復帰施設、小規模作業所に対する助成や通院患者リハビリテーション事業等関連施策の一層の充実に努めてまいりたいと考えております。
 以上であります。(拍手)
    〔国務大臣宮澤喜一君登壇〕
国務大臣宮澤喜一君) ただいま厚生大臣がお答えになられましたように、六十二年度予算におきまして、精神障害者社会復帰施設に対する補助として、新たに福祉ホーム、適所授産施設を加えることといたしました。また、適所の小規模作業所に対する助成を開始することといたしますなど、精神障害者社会復帰関係予算の充実を図っておるところでございます。また、精神衛生センターや保健所における精神保健対策関係予算も充実をいたしました。
 今後とも、厚生大臣のお考えを十分承りながら適切な予算編成をいたしてまいることにいたしたいと存じます。(拍手)
○議長(原健三郎君) 吉井光照君。
    〔吉井光照君登壇〕
○吉井光照君 私は、公明党国民会議を代表して、精神衛生法等の一部を改正する法律案について、総理並びに関係大臣に質問をいたします。
 激動の現代社会においては、増大するストレス等により、健全な精神の維持と向上に非常な困難性を伴いつつあると言われております。したがって、どうしても個人の力だけでは限度があり、社会防衛上、組織的に対応せざるを得なくなってきております。ここに公衆衛生としての精神保健の意義があり、一層の福祉水準の向上と充実のための法改正が求められたことは当然のことであります。
 昭和二十五年の法制定後、昭和四十年の通院医療費公費負担制度の導入を初め、保健所業務の拡大、都道府県への精神衛生センターの配置等、それまでの入院中心の精神医療から地域精神医療へと大きく転換したものの、その後の施設整備の不足、患者の長期入院化による医師、看護士(看護婦)等の医療従事者の不足や、昭和五十九年に発生した報徳会宇都宮病院における看護人による患者リンチ死亡事件に象徴される、我が国の精神医療制度の患者に対する人権の配慮不足があらわとなったこと等が、このたびの法改正への端緒となったと理解するものであります。
 そこで、総理にお伺いいたします。
 現在、障害者対策の施策は十分とは言いがたく、法体制の不備も指摘されているわけですが、今回の法改正が、精神障害者の回復と円滑な社会参加、そして障害者の人権の確立のための出発点となり得る法改正であることを期待し、これからも不断の検討と改善の努力を積み重ねていくべきであると思いますが、精神障害者対策への御決意をお示しいただきたいのであります。
 第二の質問は、精神障害に対する国民の理解を深めるための施策についてであります。
 今回の法改正で最も期待されることは、精神病院が他の一般病院と同様に開放的かつ自由往来が可能となるよう変革してほしいということであります。すなわち、我が国における精神衛生に関する施策の歴史が隔離主義、閉鎖主義をもって出発をし、かつ長期にわたったため、国民一般の意識の中に、精神病院といえば、強制的に入れられてしまう、一度入ったら二度と出してもらえないといった恐怖の存在としての印象が、今なお根強く残っているのであります。
 この印象を払拭し、精神病に対する正しい理解と認識を広めていくには、国並びに地方公共団体はもとより、国民一人一人の、また地域社会の理解と協力が不可欠であります。本改正案もこの点は明記されておりますが、この問題はただ単に法文化すれば事足りるというものではなく、これがたとえ医療関係者の意識改革あるいは国民の精神障害に対する誤解や偏見を薄めるきっかけとなり得ても、それですべてが解決されるものではありません。本年一月に京都で開催された精神衛生法改正フォーラムでも、法改正について欠かせない五原則を示し、これを強く日本政府に要請をしておりますが、この中でも精神障害者への差別禁止をうたっておりますが、国際的に厳しい批判を浴びての法改正であるだけに、この際、我が国の精神医療の後進性を打破して、世界に通用する法体系と施策の整備を図り、名誉挽回を期すべきであります。
 また、精神衛生法を実効あらしめるためには、行政サイドからの積極的な啓発を図るための教育活動等も当然推進すべきであると思うのでありますが、あわせて御見解をお示しいただきたいのであります。次に、労働大臣に対し、精神障害者の雇用対策についてお尋ねをいたします。近年、精神障害者の社会復帰が関係者の最大の関心事となっておりますが、現実の雇用の場では大変に厳しい状況にあり、特に長期入院を経た人の場合に顕著であります。実効性のある社会復帰を考えるならば、まず精神障害者の雇用対策の早急な確立を図るべきであります。さきの国会で成立した障害者の雇用の促進等に関する法律では、精神薄弱者の職業的自立を促し、社会参加を保障していくことは、国や地方公共団体の当然の責務であり、社会的な連帯により解決すべき国民的な課題であるとの考えに立って、精神薄弱者を雇用する事業主への経済的助成等が行われることとなりました。同法の障害者には精神障害者も当然含まれるのでありますから、精薄者の場合と同じく、障害者を雇用する企業に対し助成措置を講ずべきでありますが、精神障害者の就職の保障のための施策とあわせ、労働大臣の御見解を承りたいのであります。
 次に、厚生大臣に対し、六点にわたってお尋ねをいたします。
 初めに、法の目的についてでありますが、法案には「精神障害者等の医療及び保護を行い、その社会復帰を促進し、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、」云々とあります。これは現在と比較した場合確かに大きな前進であり、特に社会復帰の促進を加えたことは、任意入院の導入、指定医療制度の導入とあわせ高く評価するものでありますが、巷間、法律の題名を、現行精神衛生法から精神保健法に変更する案について、題名変更は全面改正の際に行うべきものであって、今回のように部分改正の域を出ないものは現状のままでよいという意見がありますが、いかなる理由で題名変更を行おうとするのか、御説明をいただきたいのであります。
 次に、精神障害者の定義について伺います。
 国際疾病分類によりますと、その範囲の中に、現在の精神病者、精神薄弱者及び精神病質者のほか神経症等も含めるべきであると言っております。すなわち、精神衛生法は本来精神障害者への幅広い対応を行うものでありますから、さまざまな状態に柔軟に対応するため、対象範囲の拡大が望まれているのであります。特に、我が国の精神障害者対策が国際的に見て著しくおくれていることがかねてから指摘されているのであれ、ますから、精神障害の範囲、規定の拡大が必要であると思うのであります。第四十八国会の衆議院社会労働委員会における附帯決議におきまして、精神障害者の定義について結論を出すことと明記されておりますが、これは障害者福祉増進のために重要な課題であると思います。この点について提出法案ではどのように検討されたのか、御答弁を願います。
 第三に、国公立病院のあり方についてであります。
 精神病院を開設者別に見ますと、総数千六百十施設の約八割の千三百十三施設が私立病院であります。そのためか世論の一部に、国公立病院は今よりさらに本来の設置目的に立ち返って精神医療を担当し、地域医療に貢献すべきであるとの批判があります。すなわち、人的にも施設面においても整備が不十分な私的病院に重篤措置入院患者が比較的多いため、報徳会宇都宮病院のような不祥事が発生するのだという声であります。措置入院対象の患者こそ、大学病院も含め国公立病院が積極的に受け入れるべきであると思いますが、国公立病院の役割分担についてどのように考えておられるのか、御答弁いただきたいのであります。
 第四に、社会復帰のためのいわゆる中間施設についてであります。
 患者の人権擁護という観点から、本人の意思に基づく入院を推進するため任意入院を規定しておりますが、従来から言われていたみずからの意思のない多数の患者の入院、いわゆる同意入院が非常に多いというのは、関係者の間に、患者の幸福、福祉というよりも、精神障害者を社会秩序や家庭生活を乱すものであるとして隔離、排除しようとする姿勢が潜んでいたからではないかという指摘もあります。その意味では、改正案に示された任意入院の規定は、現状よりは一歩前進の措置であると考えるものであります。
 他方、改正のもう一つの大きな柱である精神障害者の社会復帰の措置を講じたことは評価される点でありますが、その中で、社会復帰施設を地方公共団体などが「設置することができる。」とやや後退した表現となったことについては、先進国に迫る精神医療の確立を本気で考えるのであるならば、地域の医療と福祉の充実を国と地方公共団体の責任としてさらに強く打ち出すべきであると主張しますが、この点についての御所見をお聞かせいただきたいと思います。(拍手)
 また、必要以上の長期入院を解消するため、精神病院から家庭へスムーズに移行させることがぜひとも必要であります。そのためには保健、医療、福祉などのサービス行政が集約された中間施設の整備が極めて重要であると考えるのでありますが、中間施設の形態をどのように考えておられるのか、お示しをいただきたいのであります。
 第五に、医療ソーシャルワーカーマンパワーの養成と、いわゆる身分法の確立問題についてであります。
 精神障害者が円滑に社会復帰し、地域に融和していくためには、障害者に対する地域社会の誤解や偏見を是正し、保健医療のサービスや福祉サービスをニーズに従って円滑に提供し、また、作業訓練施設、居住施設等の整備等を推進していくことは不可欠の要件でありますが、とともに、さらに重要なのは、障害者の自立、社会参加の促進を手助けするマンパワーの養成、確保であります。
 昨年七月の公衆衛生審議会の意見にも「精神科医療施設におけるマンパワーの充実」があり、また、さきの百八国会におきましても、社会福祉士及び介護福祉士法が制定されているのであります。精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理士等の養成や身分法の早期整備についてどのような方針でおられるのか、御見解を承りたいのであります。
 最後に、保護義務者制度の見直しについてお尋ねをいたします。
 法定の保護義務者にかかわる問題については、特に、その保護義務の内容が、精神障害者に受療させるとともに、いわゆる自傷他害を防止するための監督と、精神障害者の財産上の利益まで保護しなければならないと、厳しい規定になっておりますが、これの保護義務者に与える影響と負担は極めて大きいと言わざるを得ません。
 仮に自傷他害の事態発生の場合は、罰則規定がないとはいうものの、その反射的効果として、少なくともその責任の一端は担わなければならない状況に追い込まれることにならざるを得ないと思います。任意入院の導入も行われるのであれば、自傷他害の発生の際の責任の所在についての見直しがぜひとも必要と思うのであります。また、患者と直接関係性のない地方公共団体の首長が保護者として同意を与えるという点についても、その適否をあわせて検討すべきであると思いますが、御見解を承りたいのであります。
 以上、九点についてお尋ねをいたしました。総理初め両大臣の誠意ある御答弁を期待をいたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣中曽根康弘君登壇〕
内閣総理大臣中曽根康弘君) 吉井議員の御質問にお答えいたします。
 まず、施策への見識、政策実行の問題でございますが、精神障害者対策については、精神障害者の人権の擁護に配慮しつつ、その適正な医療及び保護を確保するとともに、その社会復帰を促進することにより精神障害者の福祉の増進を図ることが大切と考えているところであり、今後とも施策の充実に努めてまいる所存であります。
 教育活動等の推進についてでございますが、精神病に対する正しい理解と認識を広めていくには、国、地方公共団体はもとより、国民一人一人の協力が不可欠などの御意見は、御指摘のとおりであります。改正法案には、新たに精神障害者に対する国民の理解に関する規定を設けているところでもあり、今後とも関係機関等を中心として、普及啓発活動を行うべく、努力してまいりたいと思います。
 残余の問題は関係大臣が答弁いたします。(拍手)
    〔国務大臣平井卓志君登壇〕
国務大臣(平井卓志君) お答えいたします。
 精神障害者につきましては、精神薄弱者と異なりまして、手帳制度が確立されていないなどの問題がございます。また、プライバシーを侵害するような事態を招いた場合には、かえってその職業的自立にもマイナスとなることなどの問題もございますので、現状におきましては、各種助成金の支給対象とすることは不適当であると考えております。
 しかしながら、精神障害者については、これまでも公共職業安定所におきましてきめ細かな職業相談、職業紹介を行ってきたところでございまして、昭和六十一年度からは、精神分裂病躁うつ病にかかっている者も、職場適応訓練の対象に加えたところであります。また、先般の身体障害者雇用促進法の改正におきまして、精神障害者に対しましても職業リハビリテーションを推進するとともに、その雇用の促進のために必要な調査研究に努めることといたしたところであります。
 精神障害者につきましては、職場における医学的管理の方法が確立されておらないなどの問題がございます。今後の解決にまつべき問題も少なくございませんので、今後とも調査研究を進め、その雇用対策のあり方について検討を重ねたい、かように考えております。
 以上であります。(拍手)
    〔国務大臣斎藤十朗君登壇〕
国務大臣斎藤十朗君) お答えをいたします。
 まず、法律の題名についてでございますが、ストレス問題、アルコール関連問題、児童、思春期の心の問題、お年寄りの心の問題等が今日的課題として比重を高め、精神的健康の保持向上についての国民の認識の変化やニーズの多様化が見られる中で、公衆衛生としての精神保健に対する国民の期待は大きいと認識いたしております。このような状況を踏まえ、今回の改正においては、積極的な心の健康づくりを促進する観点から、法律の目的に、広く国民の精神的健康の保持及び増進を図ることを加え、これにふさわしい法律の題名として、精神保健法といたしたところでございます。
 次に、精神障害の範囲についてでありますが、今回の改正につきましては、公衆衛生審議会精神衛生部会において、関係各団体からいただいた意見を踏まえて慎重に審議が行われ、昨年十二月、精神衛生法改正の基本的方向(中間メモ)が取りまとめられたところでございますが、この中間メモにおきまして、定義規定の見直しについては、種々議論を要する点が多いことから、引き続き検討を行っていくことが必要との取り扱いとなったところでございまして、これを受けて、今回の法改正におきましても、精神障害者の範囲及び規定の仕方については、その改正を見送ることといたしたところでございます。
 なお、この問題につきましては、引き続き検討に努めてまいります。
 次に、措置入院患者の受け入れにつきましては、その医療、保護の確保等の見地から、できる限り国公立の医療機関で受け入れを行うことが望ましいと考えております。従来より、国公立病院において積極的に受け入れを図るよう指導してきたところでありますが、今後とも受け入れ体制の整備が図られますよう努めてまいる所存でございます。
 次に、精神障害者の地域精神医療や社会復帰対策につきましては、これまで主として都道府県を中心として行われてきているところでありますが、今般の改正法案におきましては、社会復帰関係の諸規定を新たに盛り込むとともに、その設置主体につきましても、都道府県のみならず、市町村、社会福祉法人等についても、地域のニーズに応じて設置することができるよう規定の整備を図ったところでございまして、御理解を賜りたいと考えております。
【次回へつづく】